『昼下がりの猫』
作:刃 仙人



・・・のどかだよなぁ

何とはなしにそう呟いた。

4月とは思えないほど陽気な休日、
俺は公園のベンチに腰掛けていた。

待ち合わせの時間まで、まだ30分以上あった。
珍しく早く来てしまったようだ。

特にやることもないので
公園の中の景色を、ただぼーっと眺めていた。

もうすっかり暖かくなり、
春の喧噪があちこちから聞こえてきていた。

と、不意にあるものが視界に映った。

猫、か・・・

まだ生まれたばかりであろう小さな猫が、所狭しと駆け回っていた。
よく見ると、近くに親猫と思われる姿もあった。

つがいをつくる猫が増えているのだろう。
最近、やたらと子猫を見かける。

5〜6匹はいるだろうか。
その様は、まるで元気の固まりのようだ。

春だからな、猫も心が浮かれるんだろうな

子猫たちは俺の視線に気づいていない様子で、お互いじゃれあったり、
親猫のしっぽで遊んだりしていた。

・・・・・・

何となくで、俺は立ち上がった。
少し近づいていって、一匹ずつ見てみた。

全身真っ黒なやつ、手だけ白いやつ、しっぽが曲がってるやつ・・・・
右目の周りが黒い、ぶちのやつは・・・・・・いないか

ふと、猫を観察している自分に気がついて、苦笑する。

俺にこんな趣味があったとはなぁ
あいつの影響か?
いつも猫を拾ってきては、
自分の拾い猫コレクションに加えていたからなぁ
こんなことあいつの前で言ったら

『そんなのコレクションなんていわないよ』

なんて言うんだろうな

・・・・・・・・

不意に、俺は猫たちから視線を逸らした。

・・・昔は、子猫が遊んでいるのを見ると、なぜか憂鬱になった。
やがて大きな悲しみに包まれることなど考えもせず、
ただ無邪気に遊んでいた頃を思い出して。

あいつが子猫を拾ってくる度に、胸の奥が、ちくりと痛んだ。
捨てられた子猫が、子どもの頃の自分にダブって見えた。

永遠なんてないんだと知った、あの時。
失ってはいけないものを失った瞬間。

『こんなに悲しいのなら
 あの幸せだった日々に、ずっと留まっていたい』

子どもだった俺は、強く、そう願った。

そして、本当に大切なものを手に入れたとき、
それは確かに起きた。

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・でも、俺はもう永遠は望まない

再び猫たちに視線を戻す。
あの時に感じた痛みは、もうない。

俺は現実を生きようと決めた
“彼女”ではなく、“あいつ”のいるこの世界を選んだ
俺が求めた絆が、ここにはあった
ただ一人、俺のことを憶えていてくれた女の子

どんなに時が過ぎても、今この時の気持ちは決して変わらない

そう教えてくれたあいつの為に
一緒に生きる為に
俺はこの場所に戻ってきたんだ


やがて、たったったっという足音とともに、
誰かがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

やれやれ、やっと来たか
いつもは俺のほうが遅れるのになぁ
でもいいか、たまにはこういうのも

ひとつ、大きく伸びをする。

ふと気付くと、猫たちの姿はもうなかった。
また違う場所で遊んでいるのだろう。

俺は前を向き、一歩踏み出す。
あの猫たちのように、元気に遊んでいた頃の記憶を。
永遠を望んだ時の気持ちを。
よき思い出として、心に刻んで。

平凡な日常。
退屈で、でもかけがえのないその時の中で、
俺は歩き続けるだろう。
大切な人と、どこまでも一緒に。

そして、今日という日を進めるために、
俺はお決まりの台詞を口にする。

「よう、遅刻だぞ」


Fin




--あとがき-------------
こんにちは、刃仙人です。
さて、読んでくれた皆さん、「俺」が誰か分かりましたか?(笑
分かる方には分かると思いますが、ONE〜輝く季節へ〜の主人公、折原浩平です。
これは元々は、なぜか子猫とよく遭遇するのでその時のことをSSにしよう、と思って
書いたものでしたが、書き始めるうちに彼の視点からの話にしてもおもしろいのでは
ないかと思い、急膀変更したものです。
いかがだったでしょうか。
俺にとって今回が初のSSということで、未熟な文章かもしれませんが、ご指摘など
ありましたらお願いいたします。
それでは、この辺で。
ごきげんよう(笑)



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