AYUTAROSU
                             作:ユキノブ


夕暮れ時の商店街は、それなりに賑わっていた。
そんな中でなにもせずに人を待っているというのは、結構居心地が悪い。
「ていうか、なんで待ってなきゃいけないんだ?」
祐一は呟いた。一緒に買い物に来たのなら、荷物持ちくらいの役には立てるはずだ。
その方がどちらにとっても都合がいいのに、なぜか「名雪が一人で行く」ということで納得してしまっている。

それは、二人の邂逅を導く、見えざる手の采配だったのかもしれない。

「どいて、どいて!」
向こうから近づいてくる野太い声。
野太い声?

地響きとともにやってきたのは、隆々と盛り上がった青い筋肉によろわれた、
仮面の大男だった。
男は祐一に向かって突進してきていた。

「げっ!」祐一はかろうじて軸移動でかわした。

大男は、れんがで舗装された歩道に顔からダイブした。
地響きが鼓膜を打った。
男が止まった後には、剥き出しの地面が数十メートル程続いていた。

「うぐう、痛い」

大男は鼻と思わしい場所をさすって起きあがった。
生命の危機からとりあえず逃れた祐一は、遅れて湧いてきた怒りに身を焦がした。

「てめえ!いったいどういうつもりだ!」
「うぐう、追われているんだよ」

祐一は男のやってきた方に顔を向けた。
通行人は近づこうとしないばかりか、目を合わせようともしない。

「誰もいないじゃないか」と、突っ込もうとして、思いとどまる。
こんな奴にまともな答えを期待しても無駄だ。

自分で確かめなくては。

「うぐ?」

何かを言おうとして止めた祐一を不思議に思ってか、
大男は可愛らしく首をかしげた。

(注 この作品にはグロテスクなシーンが含まれています)

仮にこれが出来の悪いSSだったとして、なぜこんな大男とあのキャラがつながるのか。
男を観察していた祐一は、男の背中に不釣合いな飾りをみつけた。

「・・・もしかして、その背中の羽か?」
「はね?」

男は自分の背中を見ようとしたが、その巨体ではムリがあった。

「はね〜」

すると、なにを思ったか、男はどこかに持っていた巨大な斧を水平に構え、
こまのようにまわりだした。
しかもなぜか祐一を追ってくる。

「うぎゃー!」

叫びながらリング上を駆け回り、今度も命をとりとめた。

「はねがあったよ〜」
目的を果たした男は嬉しそうだ。


「はあ、はあ、リ、リングって、なんだ?」

荒い息を整えていた祐一は、奇妙な視線を感じた。
冷たい視線ならさっきから嫌と言うほど感じていたが、
この熱い視線は・・・・

ちらっ

案の定、である。

おとなしくなった大男が自分を見つめている。


「もしかして、祐一くん?」

もちろん、祐一はこんなのに名前を知られるようなヘマはしてない。

「なぜ俺の名前を・・・?」

「だって、変な男の子だったし」

「まてコラ」

「ホントに祐一くんなんだね・・・」

嫌な予感がした。

「逢いたかったよ、祐一く〜ん!」

男は感極まって、逞しい胸を突き出して、祐一に飛び掛ってきた。

「ボクだよ、(2P)ア○タロスだよ!」

その技は相手の攻撃をはじくインパクト属性と、体力の三分の一を奪う威力を持っていた。

(殺られる!)

祐一は死を確信したが、そのとき彼の中に眠っていた、
小宇宙か太陽のかけらかマ神かあるいはマトリックスか、
とにかくなんか覚醒した。

彼の体はかつてない速さで軸移動を行っていた。

「うぐう〜〜〜〜・・・・」

ア○タロスと名乗った男は、いつの間にか現れた、リング外の奈落へと消えていった。

祐一は底の見えない奈落をのぞきこんだ。
なぜ商店街に奈落があるのか、どうやって帰ればいいのかは問題ではなかった。

「た、助かった」

あの男がはいあがってこれない、それだけで全て許せた。

ラウンド2!

どこからか不吉な声がした。「は?」

ファイッ!

「祐一くん!ひどいよ!」

恐る恐る振り返ると、なにごともなかったように奴がいた。

「七年ぶりの再会で奈落に落ちたの、ボクくらいだよ!」

「知るかーッ!!!!」





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