夢に堕ちるとき
作:ゼロ



「・・・ここは、どこだ・・・」

 

商店街

しかし人の気配はまるで無い

墓石のように並ぶ建物

 

大粒の雨

硬いアスファルトヘ叩きつける

その飛沫は霧となって立ち込める

 

薄暗い空

低い雲が一面を覆い尽くし

青空の色さえ忘れさせる

 

「・・・ここは・・・」

 

灰色の空

灰色の地面

灰色の雨

総てが灰色の世界

色の無い白黒の世界

そんな世界に

白っぽい服の人が倒れている

 

「・・知っている・・・ここは・・・この人は・・」

 

流れ出す黒い液体が

叩きつける雨ににじんでいる

そしてその傍らには

唯一純白の輝きを放つ傘

 

オレノセイダ

 

「!!」

 

ふいに背後で誰かがつぶやく

少しだけ幼い自分の声

恐る恐る振り返ると

やはり少しだけ幼い自分がいた

全身ずぶ濡れで

がくがくと体を震わせ

恐怖のあまり視点も定まっていない

それはまるで

雷を恐れる子犬のようだった

 

「お前は・・・俺か・・」

 

オレガ・・・

 

次の瞬間

その顔があの男に変わる

 

オマエガコロシタ!

 

「うああああ!!!」

 

 

 

 

「!!!・・・・・・ここは?」

 

気がつくと、目の前には誰もいなかった

激しい雨が滝のように打ち付けていた

 

「そうか・・・」

 

そう

ここはあのときの場所

始まりの場所

 

「ここで俺は・・・・・・!?」

 

誰かが泣いている

硬いアスハァルトを打つ激しい雨音

その隙間から漏れる嗚咽

切り裂かれる様な悲しみ

心臓を握り潰される様な苦しみ

深い闇に沈んでいく絶望

俺の心になだれ込む

あのときの泣き声

 

膝が、肩が、顎が

体中に震えが走る

振り返りたくない

振り返りたくない

それなのに

何かの力が俺を操る

世界が崩れていく

空も地面も消え去り

暗黒の世界に閉じ込められる

そこにいたのは、知っている男

白く光る傘を抱いて泣き叫ぶ男

そして・・・その男が・・・

今・・・ゆっくりと・・・顔を・・

 

「ううぅ!!!うあああああああ!!!!」

 

 

 

 

「おい!・・・おーい!」

「!!!!」

聞き慣れた声で目が覚める

ここは学校の屋上

「おい、次体育だぞ起きろ」

まだ体の震えは続いていた

気付かれるわけにはいかない

「起きてる・・」

声の震えを必死に隠した

「どうした、寒いのか」

「いや」

確かに寒気が全身に染み渡っていた

しかしそれは・・・

「お前ほんとに大丈夫か」

「・・ああ」

仕方なく

視線を前に向けたまま顔を上げた

今、俺の横にあいつがいると思うと

目を合わせるのが怖かった

「保健室行ったほうがいい」

「いいって」

「ほんとに顔色悪いぞ」

「大丈夫だ」

やめろ

もうやめてくれ

「連れてってやるから」

「いい加減にしろ!」

「・・・信?」

「何でだよ!俺は親切なんかいらない!!」

「どうした、信」

「くそっ!!俺はどうすれば!!」

 

「・・・諦めろ」

 

「!?」

 

「お前に出来ることなんて無い」

 

「なにを!?・・」

 

「自己満足だって気付いてるんだろ?」

 

「と・・もや・・・お・・おれは・・・」

 

「お前。何で生きてんだよ!」

 

「う・・ああ・・・うああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

「うぅ!!!!!」

机の上で目が覚める

体中を冷たい汗が伝う

ここは

暗い、俺の部屋

窓から薄い光が差している

俺は立ち上がると、机の上のある物を取り

ふらふらと窓のそばに歩み寄った

 

おぼろ月

星の見えない空に輝く

暗黒の世界にただひとつ輝く純白

それはまるで・・・

 

「これも、夢・・かな・・・」

手に持っている物を掲げてみる

月の光を受けて鈍く輝く

その輝きは、絶望と言う名の・・・希望?

それを手首に押し当てる

 

「夢なら、覚めてしまえばいい」

 

 

時は、ゆっくりと流れる

 

 

わかっている

ここは現実

残酷な世界に帰って来た

決して覚めることの無い悪夢の中に

本当に

全てが夢だったらいいのに

そんな無意味な願いを繰り返す自分が

情けなくて、惨めで、悔しくて

月が余計にかすんで見える

 

ごめんなさい

ごめんなさい

俺はまだ死ねない

俺はあいつから逃げる訳には行かない

だから

だから

もう少しだけ待ってください

もう少しだけ

必ず謝りに行きますから

必ず

 

柔らかな光に照らされて

俺は声を殺して泣き続けていた

 

再び夢に堕ちるまで




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