「金色の海が起こした奇跡」 |
作:h-yama |
俺は自分の部屋で何もかもする気力をなくしていた。 3年前、彩花が俺のせいで事故に遇ってこの世を去り、それが原因でみなもは今も病弱になっている。 それを知った今、みなもにどんな顔で会えばいい?唯笑は全てを知ってたみたいだが、俺にはどうすることもできない。 もしかしたらと思い、わずかな可能性にかけて検査を受けたが一致せず。 俺が彩花を事故で死なせたせいでみなもまでも…。 そんなことを考えていた時にインターホンが鳴る。しかし、俺は少しも動かなかった。 おそらく唯笑だろう。今は放っておいてほしかった。 それでも、呼び出し音は何度も鳴り続ける。 ―――うるさいぞ、唯笑。 そう思いながら重い体を動かし、玄関に向かった。 そして、扉を開けて一言言おうとしたが、外に立っていたのはみなもだった。 「み、みなも…どうして…」 立ってるのもやっとの状態で、しかも驚くほどやせ衰えて…。 「どうしてじゃないよ!少し前から智也さん、全然来てくれないから…」 「だ、だって…俺が彩花を死なせたせいで、みなもは…」 「知ってるよぉ。知ってて智也さんの傍にいたんだよ!私も彩花ちゃんも智也さんを恨んでない!彩花ちゃんはそんなことをする人じゃなかったもん!それに私は智也さんと過ごした数日間が凄く幸せだったんだから!」 みなもは大粒の涙を流しながら懸命に言った。 「海へ連れてってくれるって約束したじゃない!あれは嘘だったの!?」 この一言で忘れかけていた何かを思い出したような気がした。 「いや、今から行こう!それでいいだろ?」 「はい…」 俺はみなもを背負い、何かに導かれるようにして海に向かって走り出した。 そして、数分後…。 二人で海に着き、砂浜に座った。時間にして午前4時頃。辺りは真っ暗。 冬が近づいてるということもあり、かなり寒い。俺はみなもを寒さから守るように後ろから抱いていた。 やがて、東の空は少しづつ明るくなり、太陽が頭を見せた時、海の色が変わった。 『あ!』 二人同時に声を出す。 それは以前、みなもが話していた金色の海そのものだった。 「本当にあったんだ…」 「私も、話に聞いただけなので…実際に見ると凄いです。智也さん、ありがとう…」 みなもは目を閉じ、何度もありがとうと呟いていた。 俺はみなもの髪を撫でると、お姫様抱っこで抱えて元来た道を歩き出そうとした。 するとそこには一人の女性が車の傍で立っていた。 「三上智也さんですね?」 ―――どうして俺の名を!? 俺は驚きのあまりに声が出なかった。 「みなもの母です。色々ありがとうございました」 「そんな…俺にはこんなことしかできませんから…」 俺はみなもの母と名乗る女性と目が合わせられなかった。 「みなもは?」 「眠っています。病院へ連れて行ったほうがいいでしょう」 「はい。では車に乗ってください」 俺はそのとおりにした。車の中にはみなもの父親もいて、母親と同じように俺に礼を言った。 父親は運転手。母親は助手席に座り、俺は後ろの座席でみなもを抱いていた。 本当は両親も一緒にいたいだろうに…それなのに恨まれてもおかしくないのに、それどころか礼を言われるなんて…。 そんなことを考えているうちに病院に着き、俺はみなもを背負って中に入った。 「三上君、実はドナーが見つかったんだよ」 俺とみなもの両親は、俺達の姿を見つけて駆け寄ってきた担当医のこの一言に驚いた。 「え!?じゃぁ早くしましょう!手遅れにならないうちに早く!」 俺達は手術室の前までこのままの状態で行き、みなもを医師たちに預けて手術室の前で3人で待った。 数時間後、一人の医師が出てきて言った。 「手術は奇跡的に成功しました。あとは目を覚ますのを待つだけです」 俺は嬉しさのあまりにはしゃぎたいのを我慢して医師に礼を言った。 ベッドの上で眠るみなもは安らかな寝顔だった。 病室に行き、俺とみなもの両親と担当医はみなもが目を覚ますのを待った。 日の光が差し込んでみなもを照らし、少ししてみなもは眩しそうに目を腕で覆いながら目を覚ました。 「う…うん、ここ、は?…智也…さん」 「みなも。よかったな。あの後ドナーが見つかって…手術は成功したんだ」 「え!?」 みなもは目を大きく開く。やがて涙を流した。 「じゃぁ、これからも一緒にいられるんですね?」 「あぁ、それに両親とも一緒にいられるんだ…あれ?」 さっきまでいたはずの両親が部屋のどこにもいなかった。いるとすれば、担当医だ。 「さっき帰ったよ。三上君に伊吹さんのことをお願いするように言い残してね」 「そうですか。本当に…よ、か、った」 安心した俺は突然視界が揺らぎ、やがて真っ暗になった。 「智也さん!」 「三上君!」 気がつくと、俺は一人で濃い霧の中にいた。 「智也」 懐かしい声がしたので振り向くと…。 「彩花…」 その背中には天使のものともいえる純白の翼があった。 「よかったね。みなものこと、これからも頼むね」 「わかってる。俺にはこれぐらいしかできないから」 「傍にいてあげてね。あの娘、本当はすごく寂しがりやだから」 「まかせとけよ。もう二度と離さないから」 俺がしっかりした返事をすると、彩花は微笑んだ。 「智也…私はいつも見てるからね。だから、ゆっくりでいいから前を向いて生きて」 彩花は言い終わると、俺の唇を自分のそれで塞いだ。 10秒して唇が離れ、彩花は瞳を潤ませながら言った。 「それじゃぁ、もう行くから」 言い終わると同時に彩花は翼を広げて飛び立とうとしたが、俺は彩花の肩を掴んで引き止めた。 「泣くなよ。これで最後ってわけじゃないだろ?それに、お前は俺の中で生きてるから」 「うん。ありがとう。私、智也と過ごした期間は短かったけど、凄く幸せだった。私にそうしてくれたように、みなものことも幸せにしてあげてね」 俺は頷くと彩花の肩を掴んでいた手を離した。 彩花は翼を羽ばたかせてどこかへ飛んでいった。俺の足元に、一枚の羽を残して…。 俺はそれを手に取って思った。 ―――そうさ…お前とはずっと一緒だ。俺も幸せだったよ。いつかそっちへ行ったら、今度は4人で遊ぼうぜ。だから、それまでの間…さようなら…。 気がつくと、俺は病院のベッドの上だった。その横には、すっかり元気になったみなもが微笑んでいた。 聞いた話によれば、俺は3日間も眠っており、そうなった原因をみなもは知って安心したそうだ。 数日後、みなもは元気に退院し、唯笑たちは祝福した。 そして、退院祝いだとか言って信たちが公園でドンチャン騒ぎを始めた。そこはかつて、3人でオチバミをやった場所だった。 「みなもちゃんの全快祝いと同時にバカップル誕生の祝福会の始まり始まり〜」 ゴキ! 俺は一人ではしゃぐ信の額にストレートを食らわせた。 「ってぇ!なにしやがる!」 信は額を押さえながら怒鳴った。 「自分に彼女ができないからってそんなことするもんじゃねぇ!」 「う…」 俺が信を撃沈させるなんてのは珍しいことではなかった。 ちなみにみなもは唯笑の傍でぶっ壊れていた。 こんなやり取りの後、しばらくはしゃいだりしているうちに時間はあっという間に過ぎていった。 夜になり、俺はみなもに連れられて海に来た。 ここは数日前にみなもと二人で金色の海を見たところだ。 「智也さん…」 「ん?どうし、た!?」 みなもに呼ばれて振り向くと、みなもはツインテールのリボンを取った状態になっていた。つまり、ストレートロングの状態である。 髪を下ろしたみなもの姿は彩花とうり二つだった。 「ふふ。やっぱり驚いた」 「当然だろ。髪の色が違うところを除けば、彩花を鏡に映したかのように似てるんだから」 さすが従姉妹だと思った。 「ふふ♪…智也さん…」 みなもは潤んだ表情だった。 「ん?どうした?」 「目を閉じてくれますか?」 俺はちょっと疑問に思ったが、みなもの言うとおりに目を閉じた。 「…!」 唇に暖かいものを感じて目を開けると、俺の唇はみなものそれで塞がれていた。 しばらくしてみなもは唇を離す。 「…私…すごく幸せです」 「俺もだよ。会えてよかった」 今度は俺のほうからみなもの唇を塞いだ。 この後はお互いの存在を確かめ合うかのように抱き合っていた。 きっと、金色の海が奇跡を起こしてくれたんだな。あの日、来てよかった。 みなもはこうして俺の傍にいる。みなもが傍にいてくれれば、他に何もいらない。 俺は本気でそう思っていた。 |
<あとがき> みなものEDのあと、どうなったかを自分なりに書いてみました。 本編に沿った形でグッドで終わらせたかったですし。 もしかしたらズレがあるかもしれませんが、それでも読んでいただければ幸いです。 短文ですが、以上です。 |
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