バトル・オブ・ライフ
by freebird

vol.6 例えば伝説の教会で


 私立はばたいた学園の校舎から、その校舎の近くにある教会への道。その道を、一人の少女が息を切らしながら走っていた。少女の名は明。『あきら』でも『めい』でもなく、『みん』である。間違えないようにしていただきたい。歳は17。今日は卒業式。既にその道の両脇には幾多もの桜の木々が立ち並ぶ季節である。彼女は卒業生であるから当然、高校3年である。それなのに、この季節に未だ17歳という辺りが『永遠の17歳』という異名を持つだけはあるといえる。
 ……話が逸れてきたので元に戻そう。まだ先は長い。
 とにかく彼女は走っていた。教会――この学園に伝わる、伝説の教会へと続く道を。かつて美しき姫が、愛する王子の帰りを待ち、祈り続けたという伝説の教会。そしてここで告白したカップルは永遠に結ばれるという、伝説の教会。彼女はその教会へと向かい、走っていた。
 その右手には、一枚の手紙が握られていた。放課後、机の中に入っていた、一枚の手紙。差出人は無かった。ただ一言、『伝説の教会で待ってます』とだけ……。
 告白を受けること自体、彼女にとっては珍しいことでも何でもなかった。彼女は実質、この学園で一、二を争う人気を誇る、アイドル的存在だった。しかし、そこに書かれていた舞台は伝説の教会――それは、その差出人がいかに本気で、彼女に対して想いをぶつけようとしているのかが伺えた。
 その手紙を握り締め、教会へと向かう彼女の胸中は、果たしていかがなものだったのか。その答えを見つけ出すより前に、彼女はついにその場所へと辿り着いた。
「……コス……モス君……」
 教会の前で立ち止まり、息を整えながら、彼女は目の前の男性の名を呼ぶ。ちなみに本名である。あしからず。
「明……手紙、読んでくれたんだね……」
 コスモスと呼ばれた男性は、その整った顔に優しげな笑顔を作った。しかしピンク色の長い髪に包まれたその表情には、隠そうとしても隠し切れないほどの緊張を映し出していた。
「うん……」
 さすがの明も、差出人の招待について少なからず動揺していた。というのも、コスモスといえば、明同様、学園でかなりの人気を誇る男子生徒である。その美しい顔と優しい笑顔を間近で向けられ、明の胸は思わず高鳴ってしまう。
「えっと……何の、用かな?」
 走ってきたこととは別の理由で乱れる心拍数を抑えながら、明は恐る恐る訊ねる。
「何の用、か……そんなこと、解ってるよね?」
 数多の乙女を惑わす笑顔を残したまま、コスモスは答える。そんな彼を、明は何も言えず見つめる。勿論彼女だって解っていた。彼が自分をここに呼んだ理由。信じられなくはあったが、それは間違いなく真実であるということ。彼女はただ黙り込み、彼を見つめ、その彼の口元から紡がれるであろう言葉を待った。
「明……私は……」
 コスモスがそこまで言いかけたとき、
「――待て!!」
 突然、明の背後――学園へと続く道の方から声が聞こえた。
 二人は同時にその方向へと視線を向けた。そこには、短い金髪の男子生徒が立っていた。長身のコスモスよりやや小柄なその男性は、ここまで全力疾走で来たのだろう、両膝に両手を置き、肩で息をしながら、視線だけをこちらに――コスモスの方へと向けていた。その瞳には、怒り、憎しみ、悲しみ――様々な感情が映し出されていた。
「メンチ……カツ君?」
 明はコスモスに背を向けた形で、口元を両手で覆いながら、その青年の名を呟いた。勿論本名である。
「メンチカツ……」
 そしてコスモスもまた、複雑な感情を映し出した双眸で、そのメンチカツと呼ばれた青年を見つめた。
「コスモス……お前……オイラを、裏切ったのか?」
 ゆっくりと二人の元へと歩き出しながら、メンチカツはコスモスを睨み付ける。
「ど、どういうこと?」
 明は、説明を求めるようにコスモスへと視線を向ける。その視線に対し、コスモスはただ苦しげな表情のみを浮かべた。
「つまり、オイラも君のことが好きだってことだ」
 代わりに、明の近くまでやってきたメンチカツが答える。
「え……?」
 意外な答えに、明はメンチカツを見つめながら絶句する。
「オイラもコスモスも、君の事が好きだった……。だからオイラたちは、他に誰か好きな人ができるまで、君への告白はしないと約束していたんだ。……なのに――」
「――私は、自分の気持ちに嘘はつきたくなかった」
 メンチカツの言葉を遮るように、コスモスは苦しげに唸った。
 その言葉に、メンチカツはカッと目を見開き、コスモスの襟を思い切り掴んだ。
「メ、メンチカツ君!?」
「見損なったぞ、コスモス」
 自分よりも身長も体重も勝るはずのコスモスの体を両手で掴み上げ、苦しげに歪んだ彼の顔に言葉を叩きつける。
「自分の気持ちに嘘はつきたくなかった――そんなのはオイラだって一緒だ。……オイラたちは友達だろ? なんで相談してくれなかったんだよ!!」
 怒りの言葉は最後には、信じていた友に裏切られたことへの悲しみに代わり、悲痛な響きを伴っていた。
 だがそんなメンチカツに対し、コスモスはただ複雑な表情で見下ろし、呟いた。
「相談したところで……お前は私を後押ししてくれたか?」
「…………!!」
 猜疑心の篭った彼の瞳を向けられて、メンチカツは愕然とする。その襟首を掴む両腕に、一層の力が込められた。
「私は……お前との友情より、明への想いをとったんだよ。……それだけだ」
 伝説の教会に、鈍い音が響き渡った。
「――!!」
 突然、メンチカツの右腕がコスモスの左頬を思い切り殴り飛ばしたのだ。口元から血を吐き出しながら、コスモスの長身は土の上へと叩きつけられる。その光景を目の当たりにし、明は絶句した。何かを叫ぼうとした。だが何を叫べばいいというのだろうか? どちらの名前を叫べばいいというのだろうか?
 口元を両手で押さえたまま何も言えずにいる明を横目に、メンチカツは痛む右腕を気にしながら、目の前の土の上に横たわるコスモスの姿を見下ろした。
 自分の行動が信じられなかった。しかし、同時に必然のことにも思えた。荒い息を立てながらコスモスを見下ろす自分の瞳は、果たしてどんな色を帯びているのだろうか?
「く……メンチ、カツ……」
 殴られた左頬を押さえながら、ゆっくりとコスモスは立ち上がる。その口元からは赤い線が引かれている。
「よくも……やったな……」
 そういいながら、コスモスはどこからともなく――本当にどこからともなく、一振りの剣を取り出した。太陽の光を反射し、まぶしいほどに輝くそれは、間違いなく真剣である。ヤバすぎである。
「許さんぞ……」
 そう呟き、憎しみの篭った双眸でメンチカツをにらみつけ、彼は両手で剣を構える。
「うおおおおおおおーーーー!!!!」
 咆哮。同時に地を蹴りつける。一気に間合いを詰め、両手で握り締めた真剣をメンチカツに向けて振りかざす。
「くっ!」
 メンチカツは咄嗟に後方に跳ぶ。その眼前を、今まさしく斬りつけんとばかりに剣が閃く。逃げ遅れた前髪の数本が、春の風に舞って黄金色に輝く。メンチカツの代わりに大地を切り裂いたその切っ先は、あたり一面に砂埃を生みつつも再び振り上げられ、またもメンチカツを狙って襲いかかる。鋼が風を切る音が、2度3度響く。その度にメンチカツは、その悪魔の如き切っ先を避けるため何度もバックステップを繰り返す。
「おおおおおおおお!!!!」
 兇器を振りかざすコスモスの叫びには、既に無数の狂気が含まれていた。唯一の理性とも言える怒りを込めた双眸で、獲物であるメンチカツを睨みつける。
「ちぃっ!!」
 防戦一方ではいけない。そう思ったメンチカツは、すさかずどこからともなく――そう、あくまでもどこからともなく、一振りの武器を取り出す。
 太陽の光を反射し、真っ白に輝くそれは――ハリセンだった。
「おおおおっっっっ!!!!」
 一際大きな咆哮を伴い、コスモスはその剣を唐竹割りに振り下ろす。それを受け止めるべく、メンチカツはハリセンを眼前に差し出す。
 ――スパァン!!
 冗談のように軽い音を響かせながら、その汚れ一つ無いハリセンはまるで紙の様に――いや、間違いなく紙なのだが――切り裂かれる。
 ――ズシャァッ!!
 そして今度はマジな響きが打ち出された。まるで何の抵抗もなかったかのようにハリセンをスルーした鋼の剣は、そのままメンチカツの右肩を襲った。メンチカツのその右肩は、半分近くまで抉られ、大量の鮮血を吹き出す。ハリセンを意図も簡単に破壊され呆然としていたメンチカツも、さすがにその表情を激痛に歪める。
 噴水の如く吹き出した鮮血を浴び、思わず怯むコスモス。その隙に、メンチカツは鮮血が吹き出す右肩を左手で抑えつつ、後方に跳躍する。そしてその場に蹲り、抗えぬ激痛にその身を固くする。
「……ふん。いいざまだな」
 そんなメンチカツを見下ろして、コスモスは呟く。
「貴様の血は、まるで極上のワインのようだ……私の中の貴様への憎しみを、思う存分高めてくれる……ククク」
 その身をメンチカツの鮮血で染め上げたコスモスの姿は、かつて共にいくつもの激戦を駆け抜け、時に助け合い、時にその優しい笑顔を向けてくれた友の顔とは思えなかった。
「コス……ちん……」
 幼い頃から呼んでいたコスモスの愛称。その響きが、遥か懐かしく感じる。
「終わりだ」
 赫く染まった剣を掴んだ右腕が、春の空へとかざされる。
 そして、その剣が――
「マスタァァーーーー!!!!」
 その叫びと共に、コスモスとメンチカツの間の空間がぐにゃりと歪んだ。そしてそれがコスモスに触れた瞬間、激しい轟音を伴って爆発を引き起こした。
「ぐあぁぁっっ……あぁ……」
 コスモスの悲鳴は、轟音と砂埃に飲み込まれ、消えていった。
「…………」
 その光景を呆然と眺めつつ、メンチカツは背後をゆっくりと振り返った。
「……大丈夫ですか? マスター……」
 そこには、一人の少女がいた。全身を黄金の光で包んだ、小柄で長髪の少女。その背中からこれもまた黄金に輝く翼を広げ、今まさにゆっくりと大地に降り立とうとしている所だった。
「リア、か……」
 メンチカツはその少女を見つめ、呟いた。既にそこには、先ほどまでの学生然とした響きは含まれていなかった。そこにいるのは、高速宇宙戦闘艦《PHOSPHOROS》の艦長であり、その艦のAI《リア》のマスター・メンチカツの姿であった。
 ちなみにリアについては名前だけしか資料が無いため、その他のデータについては本作の作者の妄想というか趣味である。あしからず。そして宇宙船の名前も、作者が勝手につけた名前(意味はルシファー)である。そして先ほどコスモスを襲った一撃は、空間を歪曲し、それが元に戻ろうとする反動の力を利用したもので、実際に『リア』という存在がそのような技を使えるかどうかも完全に不明である。ついでに言うと本当は超小型惑星破壊砲を出したかったのだがさすがにヤバすぎるとのことで没になった。裏話である。
 それはともかく、見事にマスターの命を救ったAIの少女《リア》は、すぐさまメンチカツの傍らに跪き、その深く傷ついた右肩の治療に取り掛かる。
「すまない、な……」
 未だ晴れぬ苦痛に顔を歪めながらも、メンチカツは忠実なAIに向けて感謝の言葉を贈る。それに対し、《リア》はただ優しく微笑み返した。その表情を見て、メンチカツもその口元に、自然に笑みを作った。
「キ……サマ……ら……」
「――――!!」
 その禍々しいほどの憎しみを込めた呟きを耳にし、メンチカツと《リア》は一斉に視線を向ける。
 その視線の先――砂埃が舞うその場所に、全身ズタボロとなったコスモスの姿があった。
「よくも……やってくれたな……」
 学生服は無残に切り裂かれ、その奥から真っ赤に染まった生々しい傷痕が覗いていた。その整った顔にもいくつもの傷が生まれ、激痛とそれに勝る深い憎しみによって歪められている。
「そんな……あの攻撃を生身で受けて立っていられるなんて……!」
《リア》が悲痛に叫ぶ。いくら局所的なものとはいえ、空間歪曲能力を生身で直撃した場合、立っていられるどころか四肢を砕かれてもおかしくない。そう考えれば、今のこのコスモスの状況など、もはや無傷に近い。
「……く……あの男をなめていたな……」
 メンチカツが悔しげに唸る。かつて彼の戦友であり、そして軍からは《煉獄に咲く真紅の秋桜》として名を馳せた男――コスモス。その名は伊達ではなく、かつて地球へと飛来した小惑星をも押し返したほどの力を持つ男だ。
 奇跡的に無事だった――この場合、本当に奇跡的だったのかは定かではないが――剣を右手で握り、コスモスはゆっくりとメンチカツと《リア》のもとへと向かう。
「こ……この!!」
《リア》は必死になって空間を歪曲していく。しかし、その歪んだ空間は突如として元通りになる。爆発のエネルギーを生まずに。
「なっ……!!」
 あまりの力に《リア》は絶句する。自分が歪曲した空間を、コスモスがさらに歪曲させ元通りにしたのだ。しかも爆発エネルギーを生まないほどの正確さで。
「今度こそ、終わらせてやろう……我が友よ」
 そう呟き、右手の剣を天に振りかざした。そして、それが真っ直ぐにメンチカツへと振り下ろされる。
 そして――
 ――その切っ先は、メンチカツへと襲い掛かることは無かった。
 メンチカツを庇うようにして身を乗り出した《リア》の眼前を、虚しく通り過ぎる。
「な……!」
 メンチカツを仕留め損ねたその剣を目の前に引き戻し、コスモスは愕然とする。
 その切っ先が根元から砕かれていたのだ。
「神聖なる伝説の教会の前で、物騒なことだな」
 突如、そんな声が響いた。
 呆然としていた3人は、その声の聞こえた方向へと視線を向けた。そこには、一人の学生が立っていた。背はコスモスとメンチカツの中間くらいだろうか。黒い学生服に身を包み、その整った顔に、黒のミラーシェードを着けている。そしてその顔を覆う短めの髪は、深い深い漆黒を携えていた。そしてその体の前方に構えられた漆黒の拳銃。その銃口から、硝煙が昇っている。
 その男のいた反対側の土の上に、鋼の剣の破片が落ちる音が響いた。
「貴様は……暇人!!」
 コスモスはその学生の名を叫ぶ。その表情には、突然の乱入者の出現によるものだけではない、驚きの色が映し出されていた。
 暇人――《GUNCRAZY》の名を持つ、学園一の銃使いである。くどいようだが本名である。
「邪魔を……する気か?」
 コスモスは暇人をにらみつけ、低く唸る。
「どうだろうな」
 そのコスモスにの問いに、暇人は曖昧な答えを返す。
「まあ言ってしまえば、俺も混ぜてくれといったところかな?」
 口の端を吊り上げ、《GUNCRAZY》はそう答えた。
「うおおおおおおおお!!!!」
 咆哮。同時にコスモスは大地を蹴りつけ、無我夢中で暇人へと飛び込んだ。彼は知っていた。この学園で《GUNCRAZY》に宣戦布告を受けた学生は、全て無残な最期を遂げたことを。
 折れた剣など捨て、コスモスはその全身から不可視のエネルギーを打ち出していく。それは空間を歪曲しつつ、暇人の元へと向かう。それに対し暇人は、右腕の拳銃から次々と鉛の銃弾を打ち出していく。その全てが歪曲した空間にぶつけられ、轟音と共に巨大な爆発を生み出す。歪曲された空間はある固体にぶつかることによって、その反作用からある一定の範囲に破壊のエネルギーを生み出す。そしてその歪曲空間に固体ではなく破壊のエネルギー――この場合、打ち出され弾丸――がぶつけられた時、通常の反作用爆発の数倍に匹敵するエネルギーが膨張し、破裂する。そんないわば空間爆発の地雷原に飛び込む形となったコスモスの体は、いくらかつて《煉獄に咲く真紅の秋桜》の異名を持っていた者とはいえ、無事ではすむはずが無い。
 あたり一面の風景すら変化させてしまうとも思えるほどの爆発のエネルギー。《リア》が咄嗟にフィールドを張っていなければ、メンチカツも無事ではすまなかっただろう。
 だが安心している場合ではない。メンチカツはコスモスの亡骸を確かめる暇も無く、振り返る。そこには、先ほどまで地雷原の真っ只中にいたはずの暇人の姿があった。
「《空渡り》か……もうそこまで成長していたとはな……」
 深く傷ついた右肩を《リア》に治療してもらいながら、メンチカツは苦しげに唸る。
 二つの地点の間の空間を縮め、一瞬にして移動する《空渡り》。あの爆発の中で暇人が全くの無傷である理由が、それである。
「メンチさんか……懐かしいな」
 久しい友の再会を喜ぶかのような響きを伴った声とは裏腹に、暇人はその禍々しい銃口をメンチカツへと向ける。
「……私に銃を向けるとは……あれほど私を慕っていたお前がな……」
 呟きながら、メンチカツはゆっくりと立ち上がる。
「マスター!! 動かないで――」
「リア」
《リア》の悲痛な叫びを遮り、メンチカツは重々しく呟く。その視線は真っ直ぐと暇人だけを捕らえている。
「あれを、出してくれ……」
 静かだが、そこに込められた響きに、《リア》は思わずその身を震わす。
「あ、あれって……まさかマスター! あれを!? そんな、無茶です!! そんな腕で、あれを使うなんて――」
「いいから出すんだ!!」
 メンチカツが叫んだ。今度こそ《リア》は全身を震わせ、何もいえなくなった。代わりに、無言でメンチカツの左側の空間を歪曲させる。そこから、一振りの武器が現れ、メンチカツはそれを掴み、思い切り引っ張った。
 それは、ハリセンだった。
 しかし唯のハリセンではない。周りに無数の釘を取り付けた、《釘ハリセン》である。これならば思い切り振って叩きつけることで、かなりの殺傷能力を生み出すことが出来る。しかしそれは、あくまでも両手で振ったときの話であり、片手――それも利き腕ではない左腕一本で叩きつけた所で、大した威力は生み出せないということは明白である。先ほどリアが言っていたのはそういうことである。
 だが当然、メンチカツは至って真面目な表情でその《釘ハリセン》を構え、暇人を睨み付ける。
「これが何か……解っているよな?」
 メンチカツは、問う。
「《釘ハリセン》ですか……かつてブラックホールを一つ消滅させた伝説の武器……お目にかかれるとは、光栄だ」
 暇人は、答えた。
 今、両者の間は、何一つ近寄ることのできないほどの緊迫感に包まれていた。メンチカツを捉える銃口。それを迎え撃つ《釘ハリセン》……。爆風によって散った無数の桜の花びらが、その世界をピンクに染めていた。それはまるで、亡きコスモスの怨念が二人を飲み込もうとしているかのように――。
 そして――。
 その世界に、銃声と《釘ハリセン》が風を切る音が、響いた。



「明」
 背後からかけられた声に、明は振り返った。そこには、学生服に身を包み、藍色の美しい長髪を春風になびかせる、一人の女子生徒が立っていた。
「薫……」
 明はその美しい女子生徒の名を呼んだ。薫――この学園で、明と並んで高い人気を誇る女子生徒である。
「こんなところにいたんだ……探してたのよ?」
 薫は、明に笑顔を向ける。そして明もまた、薫に笑顔を返す。
「ついさっきここらへんで凄い爆発があって……もう、かなり心配したのよ?」
 そう言って薫は辺りを見渡す。大地を抉る巨大なクレーターと、その空間を舞う大量の砂埃と無数の桜の花びら。それは、この学園ではそれほど珍しい光景というわけでもなかったが、それでも尋常ではない何かが起こったということをはっきりと示していた。
「うん、ごめんね。でも私はちゃんとフィールド張ってたから、全然大丈夫だったよ?」
 そう言って、明は自分の足元を指差す。明の言葉どおり、彼女を中心にして半径10m近くの円形の地面だけは、完全に爆発の影響から外れていた。
「そうみたいね。ホント、良かった」
 心から安心したように、薫は胸を撫で下ろす。
「でも……丁度よかったかもね」
 唐突な薫の呟きに、明は小首を傾げる。薫の視線は、爆発の影響で半分近く削られた伝説の教会へと向けられていた。
「私も、貴女をここに連れてくるつもりだったから」
 視線を明に戻し、薫はそう告げた。
「え……それってどういう……」
 困惑する明の両肩に、薫の両手がそっと置かれた。
「明……」
 そして優しさを込めた瞳で、明を見つめる。
「か、薫……」
 その瞳に見つめられ、明の心臓は激しく揺れる。
 そして薫の顔が、明の顔へとゆっくりと近づいていく。
 明は自分の心臓がどんどん高鳴っていくのを感じていた。
 そして今まさにその唇と唇が重なろうとする、その直前――薫は動きを止めた。
「薫?」
 目を瞑ってその時を待っていた明は、その瞳を開ける。そこには、悪戯っぽい笑みを浮かべた薫の顔があった。
「明が、して」
 囁くように、呟く。
「明が、私の気持ちを受け入れてくれるなら――お願い。そうでないのなら、突き飛ばすなりビンタするなり、好きなようにして」
 薫の魅力的な唇が動き、言葉を紡いでいく。その言葉の意味を理解した明は一瞬躊躇ったが……
「……そんなの」
 恥ずかしそうにそう呟き、
「……決まってるよ」
 そう口にすると共に、その唇を薫の唇と重ねた。
 ようするに、そういうEDもあるということだ。

 その明の右手には、かつてある人物から譲り受けた『携帯銀河収縮砲』が握られていたが、薫はそんなこと知る由も無かった。
 だが薫の右手にも、これもまたある人物から譲り受けた『波佐美ちゃん特製ドキドキ魔狩りカッター』が握られていたことを、明は知らない……。

 <完>



あとがき

※この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは一切の関係はありません♪

どうも、freebirdです。
この度はくだらないSS企画「バトルオブライフ」に参加させていただいたわけですが(一方的に/爆)、いかがでしたでしょうか? ……って、訊くまでも無く、もう完全に滅茶苦茶ですね(滝汗 完全に悪ノリだし、そもそも「くだらない」の方向性が間違っているような……バトルはあってもライフじゃないし(汗
でもまあ、こういう内容の作品はBFだからこそできるもので、どうせBFのコメディ企画ならこれくらいはやりたいなー……なんて(汗 そういうわけで、失笑して許してください(汗 ……もう少し笑える作品創りたかったなぁ(汗
とにかく、出演者の方々には心からの謝罪をさせていただきます(汗 本当に申し訳ございませんでした(汗
でわでわ、freebirdでした。



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