バトル・オブ・ライフ
by 千石 狩耶



Vol.15  例えば僕は札幌で






 僕が何故この蒼い森に居座り、そこに息づく仲間達と共にこうして楽しい毎日を
送っているのか、何故僕も皆と同じように創作の世界をひた走っているのか、その理
由を立証してくれる人は誰一人として存在しない。とはいえ、僕が例え札幌という日
本の中でも島流しに近い遠く離れた場所でも関係無く仲間と交流を深められるという
事に、感謝している僕が今、そこにいる。何故僕が明女史の理想に応えるべく創作を
嗜んでいるのか捜し求める為に外に出た訳だ。


 僕とて、別に好きでこんな肌寒い冬まっしぐらの公園でゆっくりしている訳では無
かった。確かに僕は一年以上ここで毎日を過ごしたので常連客のランクに成り上がっ
ている。しかしこの僅かながら感じる居心地の悪さの正体は一体何なんだ?僕には取
り柄というものが見当たらない。強いて言えば平凡以下の失敗作で、心の奥底から
ギャルゲー等を好きになる事が出来ず、萌えの極意を味わう事の出来ない出来損な
い。それなのに掲示板やチャットで楽しく過ごしていけるのかが、今の僕には皆目見
当がつかない。
「戦国さん、隣いいかな?」
 ベンチでそんな事を黙考している時に耳に入った青年の声。その割には僕の事を戦
国さんと呼んでいる。いや、何故この呼び名を知っているのだろうか?僕の記憶が正
しければ、こんな呼び方をするのはあの人しかいない。
「月守さん……なのか?」
「やはり戦国さんだ。ところで貴方はこんな冬時に公園で何を?」
 遠慮も躊躇いも無しに戦国さんと呼んでいる。本当なら腹の立つ所だが相手が相手
だけにそれは無駄に終わりそうだ。僕と同じ札幌出身でありながら掴み所の無い人だ
と思った。
「自分探しと言ったら格好つけ過ぎかな。そういうツッキーは何でここに?」
「私は買い出しの帰りだね。自宅に帰る時は公園を通らないんだけど、途中突然戦国
波が脳裏に届いたんでね、もしかしたらと思って向かってみれば貴方がいた訳さ。と
いうか私のニックネーム知ってたんだね」
 自慢では無いが僕は結構いろんなBFメンバーに渾名をつけられた事が多い。最初に
千ちゃんから始まり、カリやん、カイヤさんと派生し、最近は千石産という特産物の
生産地じみた妙な渾名をつけられた。月守さんが使ってる戦国さんもその内の一つ
だ。
「気にしないでくれ、HP見て知っただけだ」
「クールだ、流石だよ戦国さん。折角だから面白い話でもしよう」
「…………は、はい?」
 これには僕も頭に?マークを浮かべずにはいられない。何の脈絡も無しに面白い話
をしようと切り出したのだ。やはりこの人の掴み所の無さを軽んじるべきでは無かっ
たと改めて思うが、全ては後の祭。本人がそう言ってるからとことん乗ってやろうと
いうのが、今の僕の心境だ。ネタを探すべく必死に考えた末に、今まで思ってた事を
素直に口に出す事にする。
「時に月守さん……寒くない?」
 そう、僕が素直に出した疑問とは、僕もそうだが月守さんは手に買った物がドッサ
リと詰め込まれたビニール袋以外にコートは一切着用していないのだ。普段着だけで
寒くないのだろうかと思う。
「作者がコート着せてくれないんでね」
 下らない話をしている暇が無いからか、言い出しっぺの月守さんがネタを振ってき
た。お題は『最近の自分』だ。
「バスに置いてかれそうになった」
「マヂでか!?」
 これには驚きを隠せなかったようだ。普通バスに置いていかれる事は停留場に着く
のが間に合わない限り有り得ない。一体何でこうなったのかというと……。



 話は試験二日目の日に遡る。僕は意気揚々と、とは言っても一夜漬け勉強しかして
いないという不安な状況の中で家を出た。僅かに残る眠気に負けじと、僕は寒空の中
を駆け抜ける。
 やがて停留場に差し掛かるが、信じられない事に新札幌駅行きのバスは、物凄い勢
いでノンブレーキで停留場を過ぎ去っていった。
 何たる事だ!これに乗り遅れては遅刻確定だ。負けてたまるか!!
 氷が歩道一杯に張られている小学校前をローファー一本筋で全速力でダッシュ。信
号が赤になろうが黄色になろうが関係無しに横断歩道へダイビング。
 お前ホントに客乗っけて運ぶ気あんのかよ!と言わんばかりのスピードで走るバス
に必死で追い着こうとする自分がいる。絶望的だと分かっていながら体力の限り走り
続ける自分がいる。と、その時主の助けは降臨した!信号が赤だ。車の通りはナシ!
この好機に甘んじて横断歩道を横切り、次の停留場をインから攻め抜き、その場で急
停止してガッツポーズ一丁上がりッ!
 そんな馬鹿げたパフォーマンスが効いたかは知らないけど、運ちゃんはバッチシ停
留場で止まってくれた。かくして僕は遅刻せずに済んだのであった。



「そんな無茶な事を…冬道なのに」
「僕は自分の身が危ければ出来るだけの悪あがきをやらかす性分でして」
「他には?」
「研修旅行中ルームメイトを起こさなかった事かな」



 ホテル生活ではルームメイトが何時も朝に目覚ましを止めて僕を起こすパターンが
何度も続いていた。
 最終日のその日、彼はやはり何時も通り起きたが僕を試すつもりなのか、目覚まし
を敢えて止めておいて寝たふりをした。それから五分後僕は起きた。
 まずは洗面所へと向かい、洗顔及び歯磨きを済ます。次にパジャマから私服に着替
え、最後に荷物をチェックする。その時時間に余裕があったから本を読んでリラック
スした。しかしそれから一分も経たない内に、それは起きた。



「コノヤロー!!俺を起こさねぇのかぁーーー!?」

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」



 どうやら当時の僕は状況を軽んじ、奴の手前を図り損ねたらしい。




「戦国さん……ひどい事するなあ。それで彼がどれだけ傷ついたんだろうか」
「僕だって研修旅行中に嫌がらせされ続けてきたんですからこれくらいの報復はされ
てしかるべきです」
「最終日でしょ?本当に寝ていたら彼はアメリカに残されたのかもしれない」
「僕はそんなヘマはしませんよ。そういう月守さんはどうなんです?」
「私は……そうだ、銀歯を入れてきたんだった」
 言うと月守さんは銀歯を入れてきた部分を見せた。確かに銀歯が埋め込まれてい
る。
「聞く所によれば月守さんは運転免許を取得したそうですが、その時の感想は?」
 僕の質問に彼は暫しの間黙考する。そして一言だけ。
「思い出したくない。忘れたくても忘れられない」
 大変重たい声。
「だけど合格が確定したからこれはこれで助かっている」
「僕の学校も自動車運転免許云々についてプリントで配られたけど、規律に厳しい所
為か冬休み中は取らせてくれないんだよね。生徒の自主性を向上させるとか言ってる
そばから半ば監禁状態じゃないかこれじゃあ」
「ふむふむ、君の高校は監禁制度が敷かれていると」
 話半分しか聞いていないからか突拍子も無い事を言い出した。僕は一瞬眉間に皺を
寄せたが、言い方が悪かっただろうし、校風がそうさせているから否定は敢えてしな
かった。
「あと僕の部活の旧部長はいい奴だよ。だけど二年生のタチの悪い女子に絡まれっぱ
なしだけど」
「タチの悪い女子、そりゃまた一体どういう事だ?」
「クラスから出た瞬間に腕を羽交い締めして逃げられないようにするような魔女」
「……………」
 月守さんは黙り込む。蒼ざめた顔をしながら。
 クラスから購買や職員室、図書室に行こうとする矢先に羽交い締めされるのを想像
しただけで身の毛がよだつ程恐ろしい光景が見えてくるのは確かだ。
「何だか私も君も似た者同士なんだな」
「お互い大変な日常を送っている意味ではね」
 ここで僕は気付く。こうして雑談している時の心の和み、この安心感は何処から来
る物だろうか。クラスの面々と打ち解けるのに慣れてきたとしても居心地の悪い思い
を常日頃感じているのに。この時だけは心が妙に弾み、身の上話をした自分がいる。
これも明女史の求めていた理想の賜物だろうか。
 初めの内は僕は萌えを感じながらここで過ごしてきた。だが時が経つ内にそれは憧
れへと変化していった。そして僕も創作活動を行って彼女の理想に応えようとしてい
る。
「何だか話していると自分の意義や信念はどうでも良くなってきた。僕がこうして創
作を行う理由も少しだけだがハッキリしてきたし」
 遥か昔、人間が自分の感じてきた心の中を物語として編み上げ、一つの話として組
み上げるのに膨大な量の知識と人間性とモラルを必要とし、その割には惨めな位時の
流れが遅かった時代が点在していた。今となっては小説は常に年代を問わずに手軽に
手に入り、誰にでも楽しめるようにはなってきたが、話の本質を考えるのに莫大な知
性を要する事には何ら変わりない。
「何だか知らないけど、理由がようやく掴めたんだな。私からも協力を惜しまないと
言っておくよ」
 この白き大地では自分の夢や未来等の話題は聞こえてこない。



「そうそう戦国さん、流れ者流の未来の見方を教えてやろう」



 何だかんだ言ってもやはり僕の事を戦国さんと言い続けるのは一種のポリシーなの
だろうか?それが本当なら僕の癪に障る所だが、今回ばかりは勘弁してあげよう。
 因みに以前札幌出身者のみでのオフ会の話が浮上したのだが、それはまた別の話
だ。





一言だけ


くだらないを主題とした割にほのぼの&少々シリアスと、観点ズレまくりですが
楽しんでくれると僕は嬉しいぞえ。



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