※七割の実話と三割の妄想で構成されてます。



バトル・オブ・ライフ 
終焉の鮪

Vol.16 『たとえばKセレ2開場前の会場で』


―――― 2004年5月2日。都立産業貿易センター浜松町館・3階。
 その日、局地的に人生を変える出来事が行われようとしていた。

 『KID SELECTION 2nd』通称『Kセレ2』

 去年第一回を開催し、大好評のうちに幕を閉じた伝説のKID作品オンリーイベント『KID SELECTION』
 『【Blue Forest】大名行列事件』にはじまる数々の伝説は語り部の間では神格化しており、今回のイベントにおいても新たな伝説の誕生に緊張を隠せないものも多い。
 ましてや今回の規模は前回の約2倍。期待するなという方が無理というものだ。

 
 そんな緊張感と期待感に包まれたセンター内の会場。
 開場一時間前に自らの機動要塞スペースの設営を終えた『終焉の鮪』は頃合を見計らう様にじっと一点を見つめていた。
「……本気ですか?」
 眼鏡のズレを優雅に人差し指で押し上げる。
 彼の者、名を『獅子流』氏と言う。
 何の因果か『似たようなサークル名だし同じInfinity系スペースだしね♪(by主催@若干脚色アリ)』という理由で哀れ、鮪の様な厄介者をお隣さんに抱えてしまったのだ。
 彼は考察系の技術スキルを得意とし、その研ぎ澄まされた内容から『比類無き夢幻の獅子グレネード・ディル・ファナティクス』の称号を持つ上級の闘士だ。
「こう言っては失礼に当たりますが正直、貴方が明さんに【愛刹】を掛けるのは難しいと思いますよ」

 『愛刹』―― それは、こうしたイベントにおいて必須ともいうべき『戦略』の一つである。
 開場前に予め任意の相手に『刺入さしいれ』などによる物理的影響を与える事によって、開場後またはその場において自らが欲する販促物を入手あるいは強烈な印象を与える ―― 言わば『名売り』である。
 これをする/しないでそのイベントにおける居心地や緊張感・売り切れに対する恐怖などが軽減される、戦略の基本術である。
 しかしこれが毎回上手く行くかと言えばそうでは無い。
 大手などになると開場前準備が慌しいのに『愛刹』に来る人数が多く、中々構いきれない。
 更に開場後となると一般参加者が列を作り、販促と『愛刹』の防止、この両方をこなさなければならず、その労苦は想像を絶するものだ。
 それに備えた貴重な体力を浪費しないが為に開場前の『愛刹T』は高確率で『阻止』される事が多い。
 だが逆に言えば一般参加者がおらず個々人の印象を強く植え付けられるこの開場前の『愛刹』は後々における効果も大きいのだ。

「他のサークルさんならまだしも、よりによって明さんの【Blue Forest】に狙いを定めるとは……」
「苦労なら分かっています。極限まで追い詰められる事も承知の上ですよ」
 鮪は苦笑とも微笑ともつかぬ曖昧な表情で返す。
「ですがこの好機チャンス、見逃す気も全くありません」
 傍に仕える相方・新柿から愛刀『泰平鷹たいへいよう』を受け取り、水を一口含むと一歩、進み出た。


 今回明さんの元に集った従属者サーヴァントは3人。

 その行動展開ネタ振りは千差万別にして予測不能。余りに豊富な展開ネタの多さに、彼はこの世に遍在しているのではないか、とも言われている。
 畏敬の念を込め、人は彼をこう呼ぶ。
『無名の王ノーネームキング』NONAME。

 ネタの為なら世界の果てまで足を伸ばし、確実な成果を上げていく。
 その正確無比な狩猟能力を、人は大空の王・コンドルに擬え彼を称える。
『空の支配者エアー・マスター』はやと。

 そして【Blue Forest】No.1の物書きにして明さん第一配下。
 恐らく彼に敵う者は宇宙を捜しても片手で数えるほどしか存在しないとも言われている。
『宇宙最強の揚げ物フライ・トゥ・ジ・アルティメッツ・オブ・ギャラクシアン』メンチカツ。


 誰も彼も【Blue Forest】常連者にして間違い無く最強の部類に入る技術スキルの持ち主ばかりだ。
 片や鮪といえば中途半端な技術スキルと愛刀が一振り、そして`c1,000円にも満たない赤身があるのみで、正直かなり心もとない。
 だが鮪にも欠片ばかりの自尊心と自信は確かに存在する。
 それにちっぽけな勇気を加算すれば、何とか立ち向かう位の気力は確保できた。
「……大丈夫さ」
 この日、これからの時の為に半年を掛けて計画を練り上げた。その為に必要な技術スキルも鍛えた。
今、こうして目標を目の前にした以上。
 諦める訳にはいかないのだ。



 足音が、妙に大きく聞こえる。
 異常な緊張感は同時に、驚異的な集中力をも与えてくれるのか。
 あるいは単に幻聴が響いているだけなのか。
 どちらにしろもう後戻りは出来ないのだから。

 一歩、強烈に踏み込んだ。

 滑るように、大地と平行して走る。極限まで姿勢を低くし一撃必中の機会を作り上げる為に。
 明さんまで後7Mの地点。
 NONAME氏が振り向いた。
「それでしてやったつもりかい? 気配はバレバレなんだよぉっ!!」
 右の義手が、開く。
 光が収縮していき、そして。

『逝け無明の世界へ!エグザイル・ストリーム』

 圧縮された破壊光線が対象の全身を飲みこむ。
 そしてなお勢い衰えずに会場の壁をえぐり貫き、青空へと拡散していった。
「……少々やり過ぎでは無いですか?」
「いえ、あれくらいしなくちゃ懲りませんからね。明さんは何も心配しなくて良」

 真っ黒になり倒れ伏せたのは。
 鮪では無く、その相方の新柿であった。

「お覚悟ぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 飛翔。
 鮪の体は明さんの斜め上4Mの空間に移動していた。

 NONAME氏の光線が直撃する刹那。
 鮪は後方に連れ添ってきた新柿の頭を踏みつけ光線を回避。
 そのまま現地点まで移動したのだ。
 結果、哀れ新柿は黒焦げで召されてしまったのだがそれは置いといて。

 圧倒的な技術スキルの差を埋めるにはこの手段を用いるしか無かった。
『初発の攻撃の裏をかき、動揺した隙に【愛刹】を済ませる』
 そしてその賭けは成功したかに見えた。
 が。
 【空】は ―――。
 深海を生きてきた鮪には非情とも言える結末を用意していた。

 「その程度で、私達の裏をかいたつもりかね?」

 背筋に、冷たいものが走る。
 鮪が視線をずらすと。

 鮪よりずっと高く。
 鮪よりずっと安定した形で。
 鮪よりずっと余裕を持った笑みを湛えて。
【空の支配者エアー・マスター】はやと氏が佇んでいた。

 「そんな、まさか ―――」
 『あの一瞬で助走をつけて全力で飛び上がった自分よりも、高く飛び上がったというのか?』
 決して予想してなかった訳では無い。
 しかしこうして。
 残酷とも思える現実を前にして。
 鮪の体は一瞬完全停止した。

 その一瞬が見逃される筈は無かった。

『叩き潰せ真空の鎚エアー・プレッシャー』
 両の手を握り合わせたはやと氏の拳が。
 空気の塊とともに鮪を地に叩き落した。

「がっ……ふぁ……っ!!」
 骨の砕ける不快な音がした。背中から直に押し潰されたのだ。最悪脊髄を傷つけた可能性がある。
 だが不心得者への制裁はまだ終わってはいなかった。
 黒い影。
 それが人 ――― メンチカツ氏のものと気づくまで数秒を要した。
 理解するまでに時間がかかりすぎた。
 だから頭で分かっていてもその一撃を自力で避ける事は叶わなかった。
 「君の蛮勇は湛えようしかし……さよならだ」
 メンチ氏の拳が熱気で揺らぐ。そしてそのまま ―――
 大気の水分を一瞬で消し飛ばす程の熱気が肌を焦がした。

「究極の揚げ物理想形!!外はサクサク中はホクホク!!」



 歌声が聞こえる。
 緩やかに、優しい歌声が鼓膜を揺らしていた。
『ここが、天国かな?』
 思ってすぐに過ちに気づく。
 自分は天国にいけるような人間じゃあ無いな、と。
 瞼を起こす気力はあったのでそっと開けてみる。

 誰かに抱え上げられてる事に気づいた。

「まさか……メンチさんの究極奥義アルティメット・スキルを防いだだと?」
 NONAME氏の機械眼サーチアイが鮪を支える人物に向けられる。
 す、と明さんが前に一歩進み出て。
 一礼。
 顔を上げて微笑んだ。
「お久し振りです……いしだて師匠レーラァ」

「なっ……!」
「成る程……貴方がいしだてさん、ですか……」
「それなら、私の一撃を防ぎきったのにも納得がいく」
従属者サーヴァントの声を遠くに聞きながら、鮪の視線は自分を支えている ―― いしだてさんに釘付けになっていた。
 いしだて。
 超大型機動要塞『貧困貧』の操主にして、今回のイベントの一角を担う強大な影響力を持つ人物。
 そして明さんをして『師』と仰がれる、最上級の展開ネタの持ち主である。

「いし……だてさん……」
「いやはや驚いたよ。何せ会場入りしたら早速ドンパチやらかしているじゃないか。楽しいイベントを前に死人を出したら興ざめだからね、思わず助けに入ってしまったよ」
 いしだてさんは日本晴れもかくやと言わんばかりの爽やかスマイルを向けると、すっくと立ち上がり、
「どうやら、彼は【愛刹】をしに来たみたいだね……オイラもそれをしようと思ってたんだが……」
「えぇ、構いませんよ」
 皆まで言うな、とばかりに明さんがこれまた爽やかスマイルをいしだてさんに返す。
 その表情には『この人も一緒で良いかな?』という略された言葉の肯定も含まれていた。
「……だそうだ。立てるかい?」
「……お陰様で」
 差し出された手を、鮪はがっちりと掴んだ。

「君は、運が良いね」
「そうですね……個人的には失敗しましたがこうして傷も比較的少なく【愛刹】に望めますし……」
「それもだが、明さんの奥義スキルを受けなかった事もだね」
「????」
「明さんの奥義スキルは空間ごと……」
 言いかけて、はやと氏の口が止まる。
 つられてその視線の先を見る。
 明さんと、いしだてさんの間。
 2人の手にはいつの間にか菓子折りの箱。

「刺入……いつの間に……」
「俺の機械眼サーチアイにもまるで反応が無かった!!……どうなってやがる……」
「明ちゃん、ちょっと失礼……」
 メンチ氏が明さんの箱を取り上げる。その表面には刀で付けられた鋭角的な傷が
『御神不破流・秘伝後継者 鏡丸太』
 と踊っていた。

「……明さん、いしだてさん……確かに【愛刹】させていただきました……」
 不意に。
 鼓膜を振るわせる男性的な声。皆の視線がほぼ同時に一点に集中する。
 そこには。
 上下黒一色の隠密服。
 二刀差しされた小太刀。
 そして端正な表情を浮かべる一人の男性が立っていた。
「……丸太……兄者、なのですか……?」
「……弟よ。君にはまた後で会おう。今は……これが目的だったからな」
 床を強烈に踏み砕く音。
 次の瞬間には丸太の姿は何処にも存在していなかった。

「……一体、どうやって……私達は決して警護の気を緩めてはいなかったのに……」
「【神速】……まさかこの場で見られるとは思ってもいませんでした」
「……獅子流さん」
 気づけば、柔和そうな表情を浮かべた獅子流さんがゆっくりと歩み寄ってきていた。
「【神速】……ですか。それは一体?」
「簡単に説明するなら、超集中による高速移動ですね。詳しく聞きたいのでしたら、専門的な用語も交えてじっくりお話しますよ、明さん?」
「あ、あぁいえ、今は結構です」
「そうですか、少し残念です」
 と言いながらさり気なく明さんといしだてさんに【刺入】を行う獅子流さん。中々の曲者である。
「そうやら今回のイベントは、内外ともに油断出来そうに無いですね。余計な世話かもしれませんが、お気をつけて」
 言い残し、相方tomoさんのいる機動要塞自スペースに戻る獅子流さん。

「……明さんの御身の安全は、俺達が守りきる」
「ですね。その為の我々なんですから」
「明ちゃんは安心して笑顔を振りまいていてくれ」
「頼みにしてますよ、皆さん♪」
 強襲により更に使命感に燃える従属者サーヴァント3名とマスター・明さん。

「ああ言っておきながら、本気を出せば守りを必要としない位強い人なんだがね、明さんは」
「ですね……さて、お約束のお米、後で【刺入】ますから」
「飯盒用意して待ってるよ」
 軽く拳を打ち合ってそれぞれの機動要塞スペースに戻るいしだてさんと鮪。


 こうして幕を開けた『KID SELECTION 2nd』―――。
 その激闘の記録とその後の新たなる戦いに関しては、また別のお話である。

 ちなみに新柿は何事も無く売り子に徹していたというが、それもまた別のお話である。




 あとがきなんだー、と思ってほしいもの。

 色々と痛いお話ですね(爆)
 こうしてEver17以外の創作SSを書くのって初めてなので結構難しかったです……。
 突っ込み所、未熟で至らない部分が多々あると思われますが、此度はこの辺でご容赦を〜(汗)
 ではではω

 口ずさみソング 『Trust You're Truth 〜明日を守る約束〜』(KOTOKO)



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