SNOW
freebird presents


 “ハァ……お前もアイツも…………つくづく馬鹿な奴らだな……”



   1

「寒ぃ〜〜〜……寒すぎだっつぅの〜〜〜……」
 1月中旬の冷たい風が、オレの頬を撫でる。
「うるさい。ちゃっちゃと歩く」
 呟くオレの背後から、北風に勝るとも劣らぬ冷たい言葉を投げかける少女。
「いや、だってさ〜〜〜……地獄だよ?ホント。寒すぎだって……」
「ったく……男のくせにだらしない……」
「オレより男っぽいお前に言われたくねぇよ……」
「カッチーーン。それが乙女に対する言い草ぁ?」
「……誰が乙女だよ」
 学校へと続く道。道路の水溜りすら凍りついてしまいそうなほど寒い朝。
「ってゆうかホント、死にそうだよ……この寒さ。こんな寒さの中、学校へ行けなんて拷問だね。まったく」
「まあ、それは確かに同感だけどさ……」
 足元に溜まった落ち葉を踏みながら、オレたちは歩く。
 一定のリズムで流れていた背後の足音が、突然早くなる。
 そう思った次の瞬間、背後の少女が、俺の隣に立つ。
「だったらさ……」
「ん?」
 隣に立った彼女の方を振り向くと、まるでイタズラっ子のような表情を作っていた。
「ほい」
 そして彼女は、オレが左手を入れているオレのポケットに右手が差し入れてきた。
「な、何を……!」
「こうすれば暖かいでしょ?」
 あまりにも突然の事に、思わず赤面して驚く。そんなオレに対して、笑いながら彼女は言った。
「……いや、あまり意味が無い気がします……」
 確かに左手は温かいが、それで体全体を襲う寒さから逃れられるわけでは無い。
 だが、まあ、悪くない。
 右手と共に預けてきた、触れ合う肩の暖かさを感じながら、オレはそう思った。
 オレたちはそのまま、肩を並べて学校へと向かう。
 枯葉が舞い散る、真冬の道を。
 二人で歩く、幸せな道を。
 恋人同士でいられた、ある冬の一日。

   2

「――引越し!?」

 両親の、そのあまりにも唐突な告白に、オレは我が耳を疑った。
「ごめんね……今までどうしても言いづらくて……」
 申し訳無さそうに呟く母。
「東京の、本社の方に異動になってしまってな……」
「……何時?」
 目を合わせづらそうにしている父に、オレは尋ねた。
「この春からだが……少し早めに向こうに行かなくてはならない…………少なくとも一週間以内に」
「…………!」
 一週間……そんな……
 オレは愕然とした。まさかこんなことになるとは、夢にも思っていなかった。それだけに、未だに信じられない。先程母が紡いだその言葉を。
「なんで……そんな……」
「すまない……」
 最初はあまりにも突然なことに驚愕し、呆然としていたが、次第に胸の奥から怒りが湧き上がってきた。
「ふざけんなよ……」
 そりゃ、仕方ない事だって解ってる……。両親も、親しい近所の人たちと別れることが辛い事だっていうのは、頭ではしっかり解ってる……。解ってるけど……彼らは何も悪くない事は解ってるけど……。
 行き場の無い怒りが、獲物を求めて両親の姿を捕らえる。
「いきなりすぎんだよ……何なんだよ……クソ親父!クソ婆!」
 理性が自分の口から出た言葉に怒りを覚える。心にもないことを口走った後、オレは堪らなくなり踵を返した。そしてそのまま自分の部屋へと逃げ込む。
 オレのあまりにも辛辣な言葉にも、両親は怒りを覚えず、悲痛な表情をしていた。あくまでも自分達の責任なんだというように……。その表情に、オレは耐えられなかった……。
 そして自分の部屋に戻るや否や、オレはベットの中に体を預けた。
 その夜、オレは夢を見た。
 ものごころついた頃からずっと傍にいた、がさつで高慢で男勝りな、一人の少女の夢を。
 満面の笑みを浮かべる、優しく面倒見がよく親しみやすい、かけがえのない少女の夢を。

   3

「どうしたの?」
 唐突に声をかけられて、思わず顔をあげる。
「元気無いみたいだけど……なにかあったのか?」
 そこには彼女が立っていた。心配そうな口調とは裏腹に、その口元はやけにニヤニヤとしていた。
「下なんか向いて油断してると……大変な目に合っちゃうよ?」
「何する気だよ……」
 なんとかぎこちなく笑みを作って応える。彼女が笑みを広げる。
「本当に……」
 彼女がゆっくりとこちらに向かってくる。朝の通学路。今日も相変わらずな寒さである。
「何かあったの?」
 オレの顔を覗き込むように訊いて来る彼女。
「いや、別になんでもないよ」
 何でもなくは無い。無いけど、教えるわけにはいかない。いや、教えなければいけないのだろう、本当は。でも、教えたくなかった。あと1週間以内に、この街を去ることになるなんて。
「ほんとに〜〜〜?」
 怪訝そうな顔で、首を捻る彼女。
「ほんとだって」
 オレはさっさと先へ進む。
「あっ!ちょっ、待てい!」
 慌てて追いかけてくる彼女。
 前を歩くオレと、その後ろについてくる彼女。オレたちが歩く時はいつもこうである。なにしろ彼女は、意外にも背が低く、歩幅もオレと比べると随分小さいのだ。普通こういう場合、男は女性の歩幅に合わせてやるべきであろうが、コイツにとってはその必要は無い。むしろそんなことしたら逆に怒られる。情けをかけるなーって。コイツはそういうヤツなんだ。
「あーあ……。雪、降らないかなぁ……」
 唐突に呟く彼女。少し振り返ると、歩きながら空を見つめていた。オレも少し空を見てみる。曇り空。鉛色の空に、この寒さ。別に今降ってもおかしくはないんだけどなぁ……。
「今年は暖冬みたいだしな」
「毎年言ってない?それ」
「オレに言うなよ……」
 不満げに口を尖らせて抗議する彼女。今年は未だに積もる雪が降っていない。雪自体は12月に結構降っていたが、結局積もることは一度もなかった。そして1月に入ってからは、降ること自体なくなっていた。
「今年こそ大きな雪だるま、作りたかったのになぁ……」
「は?雪だるま?」
「そ。雪だるま。こぉ〜〜〜のくらい大きな、雪だるま」
 そういいながら、彼女は両手を空にかざす。限界まで両手を伸ばしてる。
子供ガキかよ」
「そりゃ子供ガキだよ。まだまだ14だからね」
「…………」
 目をキラキラ輝かせながら、巨大雪だるま製作の野望を語る彼女。いつものあのガサツな彼女とはまるで別人だ。だけど……
「でさ、工夫しようよ。工夫。頭の形とかさ。もお、札幌雪祭りにでれるくらいの!」
 そんな彼女も、オレの好きな彼女だ。そんな彼女も、オレのかけがえのない人だ。
 だから……
「そうだね〜〜、何がいいかねぇ〜〜、頭。ほら、アンタも考え…………ん?どしたの?」
「……え?あ、ああ……」
 また、考えてしまった……
「また……悲しそうな顔をしてたよ?ホントに大丈夫?」
 本気で心配顔になってきた彼女。オレはそんな彼女に対して、ぎこちない笑みを返す事しかできない。
 ヤバイ……なんか……
 色々思い出してきた……
 コイツの顔見てると……
「ほ、ほら、早く行こうぜ、学校。そろそろ急がないと、マジで遅刻するぜ?」
「……そ、そうだね……」
 できるだけ彼女を見ないようにして学校への道を走る。彼女も後を追う。
 それからオレたちは一言も喋らないまま学校へと着いた。

   4

 朝起きて、カーテンの隙間から漏れる朝の光の眩しさに目を細めて、のっそりと起き上がって、カーテンをシャッと開けて……
 目の前に広がったのは白い世界。夢のような、幻のような……一面の銀世界が今オレの眼前に広がっていた。
 雪、降ったのか……
 ぼんやりとその結論にたどり着いたのは、10秒近く経過してからだった。
 雪が降った。……だからどうした。
 別に毎年のコトだし、特に驚くわけでも特別なことをするわけでもない。いつものようにのっそりとベッドから降りて、いまだ寝ぼけ気味のふらふらとした足取りで部屋を出ようとする。
 そのとき、机の上に置いていたオレの携帯が鳴った。
 誰かと思えば、彼女だった。
「ふぁい……こんにゃ朝早くからなんのよぉ〜?」
 冗談半分、マジ半分の口調で電話に出る。そして向こう側から、こっちのローテンションとはまったくもって正反対の、ハイテンションな声が響いた。
『起きたぁ!?外見たぁ!?雪雪雪ぃぃぃーーー!?見た見た見たぁぁぁーーー!?』
 切ろうかと思った。
 が、向こうはマジみたいなので思いとどまった。
「ああ、見たよ。……で?」
『で?……じゃないっつぅの!雪だよ!雪ぃ!!』
「ああ、雪だな」
『白いよ!白い!!』
「ああ、白いな」
『だるまだよ、だるまぁ!!』
「ああ、だるま……だるまぁ!?」
 ドサクサにまぎれてワケのわかんねぇコト言ってんじゃねぇよ!
『だからぁ、雪降ったら一緒に大きな雪だるま作ろうって言ったじゃん』
「ああ、そういうことか……って、一緒にってなんだよ。お前一人で作る野望じゃねぇのかよ」
『は?違うにきまってんじゃん。アンタも一緒に作るの。これ、決定事項。ってゆうか世界の常識宇宙の基本』
「ふざけんなよ、かったりいなぁ……」
『大体アンタ、か弱い美少女に冷たい冷たぁ〜い雪だるまを作れっての?サイテーだね』
「じゃあ、作らなきゃいいじゃん」
『それはダメ!野望だから!』
 理由になっとらん。
「大体なぁ……そんなに作りたいんだったら、一人で作ったほうがいいぜ?達成感とかあるしさ」
『いや、私はアンタと作りたい。ってゆうかむしろ、野望はそっちだね』
「は?」
『だからぁ、私はアンタと一緒に大きな雪だるま作りたいの!』
 う……恥ずかしげも無くそんなことを……。そんなこと言われたら断れねーじゃん……。
「わかったわかった。今から用意するから……」
『早めにしてね。もお私、そっちに向かってるんだから』
「……は?マジかよ?」
『大マジ。そうゆうことで、じゃねー♪』
 そう言って彼女は電話を切る。その瞬間から、オレは急いで仕度を始める。
 雪だるま……か。
 それがもしかしたら最後の想い出になるかもしれない……なんて嫌な思いを振り切って、オレは急ぐ。
 とにかく今は、彼女と大きな雪だるまを作る!それ以外のことなんて考えてられない!とにかく今は、それだけを……

   *

「遅すぎ」
「早すぎ」
 不機嫌そうに言い放った彼女に、オレは即座に反撃する。ってゆうかオレに電話する前に仕度を済ませてるなんて、いくらなんでもヒキョーだろう。
「まあいいや。ホラ行くよ」
 そう言って彼女は先を行く。
「ん?お前、こんな寒いのに手袋してこなかったのかよ?」
「……は?何アンタ、してきたの?」
「当たり前だろ。こんな寒いのに……」
「こんな寒いからだよ。ほら、手袋脱げ」
「はぁ?何でだよ……」
「いいからいいから」
 仕方なくオレは手袋を脱ぐ。……ったく、何なんだよ。寒いから手袋しないって……それならいつするってゆうんだよ……。
「じゃあ、はい」
 手袋を脱いで、裸になった手をポケットに入れようとした時、突然彼女の左手がオレの右手を握った。
「素肌の方が、いいでしょ」
「な……」
 ホントにこいつは…………なんていうか、積極的だよなぁ……
 オレは少し恥ずかしくなったものの、拒否はしなかった。確かに手袋をしていては、このぬくもりは味わえない。
「さあ、行くぜぇーー!」
 掛け声とともにオレの腕を引っ張って走り出す彼女。
「お、おい、待てよ。あんまり走るところ、ぶっ!?」
 突然足がすべり、視界が反転する。そしてそのまま、雪が積もった道路に顔面からもぐりこんでしまった。
「あーあ……。何やってんの?馬鹿じゃない?……まったく……雪が無かったらかなり痛かったよ?」
「…………」
 こういう事を平気で口走る輩は、ほおっておくべきである。

   *

「さあて、作りますかー」
「…………」
「作りますかー?」
「…………眠ぃ……」
「つ・く・り・ますかー?」
「…………寒ぃ……」
「…………」
「……おー……」
 突然無言になったかと思うと、凄まじい殺気を放出してきた彼女。オレは仕方なく、小さく返事をした。
「大体よぉ……雪だるま作って何しようっていうんだよ」
「は?……別に何かしようってわけじゃ……」
「じゃあ、何で作るんだ?」
 オレの質問に、彼女は一瞬怪訝な顔をするが、すぐにニヤリと微笑を作った。
「だからぁ……『作ってどうするか』でも、『何を作るか』でもないんだって」
 そう言って彼女は笑った。
「『誰と作るか』だよ」

   *

 そしてオレと彼女は雪だるまを作り始めた。手袋をしてたものの、やはり雪は冷たい。それにマンガとかとは違って、簡単には雪玉が大きくならない。ごろごろ転がしても、すぐに崩れたりしてしまうのだ。少しずつ、何度も根気強く固めていかなければならない。両手は冷たいのに、額からは汗がダラダラと垂れてくる。
 開始20分ほどで、オレは早くも音を上げた。
 ――そろそろ休憩しようぜ。
 そう言おうとして彼女の方に視線を向ける。だが……
「…………」
 彼女は無言で、真剣そのものな顔で、ひたすら雪玉を大きくし続けていた。
「…………」
 そうだった。
 オレは思い出した。
 幼い頃、オレたちはよく、雪だるまを作っていた。凄く小さくて、すぐ壊れてしまうような、ショボイ雪だるま。だけどオレたちは、その雪だるまに自画自賛し、得意になっていた。
 だからその雪だるまが溶けたとき、オレたちは約束したんだ。

 ――次の冬も、その次の冬も、その次の次の冬も……
   一緒に、雪だるま作ろう……

 そう約束したオレと彼女……
 だが、いつの頃からだっただろうか……
 オレたちは約束を忘れ、冬になっても雪だるまなど作らなくなっていた。

「私は、ね」
 一心不乱に雪だるまを作っていた彼女が、唐突に声をかけてきた。
「忘れてなかったんだ」
「え?」
「雪だるま、作る約束」
「…………」
「忘れちゃった?」
「今、思い出してた……」
「何それ」
 クスクスと笑い出す彼女。つられてオレも笑い出す。
「私は忘れてなかった……だけど、毎年誘ってきてたアンタが、突然誘わなくなった。私はアンタが誘ってくれるのをずっと待ってた。……馬鹿だよね、私。私から誘えば、何の問題も無いのに……」
「……きっと、めんどくさかったんだろうなぁ……」
「今もそうだから?」
「正解」
「……ったく」
 笑いながら呆れる彼女。
「でも今度こそ、毎年作り続けるよ」
 そして満面の笑顔でそう言った。
「……え?」
「え?じゃないでしょ。約束は約束。例え死んでも作り続けるよ」
「あ、ああ……」
 ――「わかった」。そう言おうとした。だけど気付いた。
 オレは来年、この街にいない、と。
 その次の冬も。その次の次の冬も。
 オレはこの街に、いない。
 この街はもう、お別れになる。
「ん?どうした?腕が止まってるぞ。さっさと作れ。日が沈むぞ?」
 そう急かしてくる彼女。だけど……
「なぁ……」
「ん?」
 唐突に声をかけたオレの方に、視線を向けてくる彼女。そして彼女の視界に、俯いたままのオレの姿が映る。
「オレ、さ……」
「んー?」
「オレ……」
 言い出せない。言いたくない。
 だけど……
 だけど言わなくちゃいけない……
「オレ……」
「…………」
 彼女は今、どんな顔をしているだろうか。訝しげな顔?心配そうな顔?ちょっとキレ気味の顔?全くもって興味の無い顔?
「オレ……」
 オレはゆっくりと顔を上げて、彼女を見る。
 彼女の顔は……
 にやけてた。
 ニヤニヤとしてた。
「…………な……」
「『オレ……』……何なんだ?早く言えよ」
「…………」
「まさか今更、愛の告白か?」
 そう言って、笑みを広げる彼女。
 ……まったく……
「ああ」
 オレはそう答えた。
「は?」
「そうだよ。愛の告白だよ」
「……何言ってんの?アンタ……」
「好きだよ。大好きだよ」
 オレの告白に、彼女にしてはめずらしく頬を染める。
「な、何今更的な事言ってるんだよ……。別にそんなに面と向かって言われても……」
 人の事言えるのか?
 自分だってあんなに積極的なくせに……
「大体、それがどうしたんだよ……」
 未だに動揺を隠せない様子の彼女。
「だから、オレはお前が好きなんだよ」
「だ、だから……何なん――」

「だからオレは、離れたくない。お前と」

「……は?」
 突然の言葉に、硬直する彼女。
「離れるって……」



「東京になんか……行きたくない」





「――え?」



   5

 その日が、最後の日だった。
 この街にいられる、最後の日。
 オレは今日で、この街を去るのだ。
「ったく……そう決まったんならさっさと言えよな……」
「悪ぃ……言いづらくてさ」
 クラスメイトや、近所の人たち……多くの知り合いが、小さな駅まで見送りに来てくれた。改めて、親の人望の厚さを伺えた。
「いや、わかるけどさ…………オレたち、トモダチだろ?水臭いっつうの」
「すまん……ありがとう……」
 最後まで優しい声をかけてくれる友人達。
「また、戻ってくるんだろ?」
「ああ…………毎年は無理だろうけど」
 周りを見渡してみると、あれほど積もっていた雪も薄くなってきた。あれほど冷たかった風も、次第に気にならなくなってきた。向こうに行けば、もう完全に春に近くなっているのだろうか……
「じゃあ、お前……アイツに挨拶してこいよ……」
 クラスメイトは、そう言って一人の少女に視線を投げかける。
 彼女だ。
 オレたちの塊から少し離れた所で俯いている。オレのほうを向こうともしない。
「いや……無理だよ」
「何でだよ」
 はあ?という感じでオレを睨み付けるクラスメイト。
「だって、さ……」
 彼女の方を見つめながら、ハァ……とため息をつく。
 『あの日』からずっとこうだ。
 彼女はもう、オレに話しかけてこなかった。目を合わせることも、当然、前みたいに積極的な行動をすることも。
 オレが嫌いになったから、また、飽きたからではないことは当然判っている。
 唯……離れるのがツライから……
 これ以上の想い出を作るのが怖いから……

 オレも同じだ……

 もう、あの雪だるまは残ってないだろうな……
 作りかけの、雪だるま。
 いや、少し大きい雪玉二つ、か……

「ハァ……お前もアイツも…………つくづく馬鹿な奴らだな……」
「は?」
 突然あきれたように呟くクラスメイト。
 そして……
「な……!なんなんだよ……!」
「いーからいーから」
 突然オレの右腕を引っ張るクラスメイト。オレはそのまま友人知人の輪の中を突っ切っていく。そして周りで見ていたほかの奴らも、コイツの思惑に気付いたのか、コイツの手助けをしやがる。
 そしてオレも、コイツの陰謀に気付く。
「な……」
「北村ぁ!」
 彼女の名前を叫ぶクラスメイト。そして彼女も気付きこっちを振り返る。そして彼女が近づいてくる。いや、正確にはオレのほうが近づいていってるんだが……。そしてどんどん近づいて、近づいて、近づいて……
「うわぁ!」
「きゃっ!」
 クラッシュ。
 オレの右腕を引っ張っていたクラスメイトが突然、オレを乱暴に彼女にぶつけやがった。
「っ痛……」
 薄くなった雪のじゅうたんに、二人して転倒する。オレがゆっくりと瞼を開くと……
「あ」
「あ」
 目の前に彼女の顔。真っ赤に紅潮した彼女の顔が、目の前にある。
「……だ、大丈夫か……?」
「う……うん……?」
 どれくらい懐かしいだろうか?
 二人、こんなに顔を近づけたのは……
 甦る、キスの味……
 甦る、肩の温もり……
「おいおい、いつまでくっついてるつもりだ?」
 背後からの声に、オレは咄嗟に跳ね起きる。
 振り返ると、そこにはニヤニヤとした表情を作っているクラスメイトが立っていた。
「もう暫く、逢えなくなるんだぜ?しっかりとお別れの挨拶をしておけよ」
 そう言って、笑う。
「一時的な、お別れのな」
「…………」
「…………」
「それに、ホラ」
 オレはゆっくりと立ち上がる。彼女の手をとって、彼女も起き上がらせる。
「今の時代、携帯とかあるし、さ」
「ああ……」
 コイツが言いたい事は解った。
「この程度の別れがナンボのもんじゃい、ってこと」
「ああ、わかってる」
 別れ……か……
 これが……か……?
 そんな風に疑問を持ってしまうほど、オレたちの別れなんて深刻なものじゃない。
 当然オレは、この街から離れる。
 たくさんの想い出が詰まった、この街から。
 当然オレは、彼女から離れる。
 長い間、共にいた彼女から。
 でも、いつでもまた逢える。
 いつでも連絡する事はできる。
「遠距離恋愛か……金かかっちゃうな……」
 彼女が、呟いた。
 久々に聴いた声。でもその声は、明るかった。
「ま、頑張れよ。……男なんだからお前からかけろよ」
 オレの肩を叩きながらそう言い放つクラスメイト。
「なんだよ、『男だから』って……」
 オレも微笑を返す。
「おい!直樹!そろそろ時間だぞ!」
 駅の方から、父が声をかける。
「……みたいだ。じゃあ、オレ、そろそろ行くわ」
「ああ……」
「うん……」
 オレはそのまま、駅に向かって歩く。
 彼女や、他の友人達もついてくる。



「雪……」



 クラスメイトの中の女子の誰かが、そう呟いた。



「あ……」



 そして皆が、空を見上げる。



「ホントだ……」



 また、誰かが呟く。



 ――春。別れと出会いの季節。
 オレはこの街を発つ。
 想い出の詰まったこの街を。
 オレはこの街を発つ。
 想い出を、両手いっぱいに持って……



 降り積もる雪は、世界を白く染め上げる。
 そして出発の時を祝福する。





 ――さようなら。

 その言葉と共に、彼女の唇がオレの唇を塞ぐ。

 ――向こうに着いたら、すぐ連絡してよね。

 ――ああ、判ってるって。





 天使が唄う 雪降る街の 小さな恋の詩



Fin
   あとがき

 久しぶりのSSでした……。前のSS書いたのが確か11月ごろだったから……5ヶ月ぶり?w お待たせいたしました〜〜〜……別に待って無かったよ、という突っ込みは受け付けません(マテ
 まあ、今回の作品ですが……はっきり言って、全然納得のいく作品じゃなかったです……。なんか、表現とかもうまくできなかったし、まだまだ技術不足なんだなって思い知りました。さらに全体のシナリオ。これもあまりまとまりなく、いい作品とは程遠い……。でもまあ、完成させるだけで精一杯だったので(核爆 これから作ろうと計画してる長編版は、納得のいく作品を目指しますので。
 さて、同時に投稿したポエム。「SNOW」と「The love is like a dream」ですが、前者はこの作品のイメージをポエムにしたのですが…………はい、全然違いますね(汗 まあ、気にしないで下さい(何 そして後者は、当初企画していた長編恋愛ノベルのイメージポエムで、先行して製作したのですが、そのノベルアイデアが没になりまして……。結局このポエムだけが残る事に……。ノベルのほうの舞台が秋なので、このポエムをこの時期に投稿するのはあまりよろしくないですが……まあ、完成したモンはしょうがない、と(爆
 本当は今月中に卒業をテーマにしたSSも作りたかったのですが、さすがに間に合わない……。っていうことで許してください(汗

 でわでわ、freebirdでした〜〜♪



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