バトル・オブ・ライフ |
by 暇人 |
ここは阪急梅田駅のホーム。いつも通り雑多な構内を駆けながら、俺はちらりと左手の時計に視線を走らせた。俺はバイト先に向かって急いでいた。ヤバい時間がない。遅れるわけには行かないのだ。 しかしその時、正面から改札を挟んだ向こう側に太ったオバサンが走って来るのに気づく。どうやらもう発車前の音楽がなっている特急河原町行きに乗り込もうとしているらしく、猛然とラストスパートを切っている。 バストよりその三段腹の揺れの方が気になるぞオバサン、とか思うわけだが、なんとそのオバサン、いきなり額の辺りにキュピーンと稲妻を走らせると、俺が通ろうと目をつけている改札に視線を走らせ、進路を変更したではないか。他の改札は混んでいる。ヤバい、ここを譲れば俺は負ける。バイトに遅れる。残業でおしぼり80個巻き直し+在庫切れの酒の補充が待っている。いやだ、それはいやだ。 その稲妻の意図を受けて、俺もスパートを切る。同時にオバサンが気づいた。あちらも速度を上げた。バカな、その腹で通常の三倍の速度だと!? だがしかし俺も負けていられない。その瞬間、なんとなく頭の奥のほうでマカダミアナッツみたいなのが弾け、極彩色の宇宙が脳裏に広がった気がする。心持ち速度が速い。目はさっきから必死だった。 しかし間に合わない。オバサンの方が早い。やはり伊達に赤い服着ているわけじゃないようだ。向こうは改札まであと二メートル。こちらは三メートルちょい空いている。 くっ、ここまでか……そう俺が思った瞬間。なんと、オバサンはカードを取り出せないようだった。切符買わずにスルっとKANSAIカード使うあたりよほど焦っていたようだが、上手い具合に定期入れが見つからないようだ。速度が僅かに落ちる。 チャンス!俺はもう乗り越し精算済みの切符を手に握り締めていた。手を伸ばす。心持ち切符を縦に折る事で、スムーズにあの狭い挿入口に切符を付きこむことが出来る。狙いさえ外さなければ、一撃で挿入できる姿勢。思わず成功を神に祈る。 こちらに気づいたオバサンが、まるでビームサーベルでも抜き放つかのように、手探りしていたカバンから手を引き抜いた。その右手には照明を照り返して鈍く輝くスルっとKANSAIカード。絵柄は箕面の滝だった。 くっ、手ごわい。しかもあの絵柄、なかなかいい趣味してやがる。心の中で毒づく俺。 そして両者はほぼ同時に改札機へ取り付いた。互いにその手へ握った切符とカードを――改札機へ突きこむ。 ――届け、俺の切符ぅ〜〜!! 切に祈る。永遠にも思える時間が流れた。恐る恐る目を開く。右手を見る。そしてそこには―― 改札機の挿入口から飛び出た歯止めのせいで通過できなかった、俺の切符があった。 ま、負けたのか……。 愕然と肩を落とし、他の改札口へ回ろうとする俺の横を、オバサンが通り過ぎざまに、 「ヌルいわっ!」 と言って過ぎていった。だがしかしその直後、特急河原町行きのドアが閉まったのが見えた。後ろのほうでなにやら「な〜ぜ〜だ〜〜っ!?」とかって悪役っぽい悲鳴を上げているオバサン。俺はわざわざ引き返していって、 「坊やだからさ」 と告げると、ダッシュでその場を去った。結局バイトの定刻には間に合わず、夜十一時までおしぼりを巻き続けた俺だった。その胸中には、どこか物悲しくやるせない、だがどこか満足げで入り組んだもやもやが立ち込めていた。 |
あとがき 執筆時間およそ10分という暴挙です。まぁそんだけ短いのですが……これだけパロっててもBFには通じるだろうって思って書いたわけですが、そう思うと恐ろしいですなBF(笑)。あまり真面目に技術とかを突っ込んで感想返されると困るかもしれません(笑)。そもそもの発端が、メンチさんの「くだらない」スレでしたからね〜(^^;また気が向いたら、日常にあった下らないことをSSにしてやろうと思います。だから「バトル・オブ・ライフ」なわけですが(^^; ではでは〜。次は早めに「遥か彼方、天空の地にて…」の五話でお会いできると嬉しいです(^0^) |
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