紅き力と白銀の心 プロローグ
作:木村征人



 

 黒き染まる森の中。
 闇が切り裂かれる。
 闇を振り払いながら逃げる。
 身体の中に潜む闇に怯える。
 そして、襲いかかるいくつもの影から逃げ惑う。
 逃げているのは女性。二十歳を半ば過ぎたばかりだろうか……
 右肩から流れる血が腕を伝い指先から流れ落ちる。まるで自ら目印を作るように地面に紅い雫を残していく。右肩の感覚がなくなるのを感じるが手当てしている暇はなかった。
 元々、清楚な衣服を着こんでいたが、生い茂っている木々の間をくぐり抜けている間に、枝によって衣服を切り裂かれていた。
 更に、枝に皮膚を切り裂かれ、薄く細か傷を加えつづける。
 もはや申し訳程度にしか女性の衣服が残っていないとき、不意に女性が立ち止まる。振り返るが人の気配は感じられない。
 警戒を解かず、ゆっくりと息を整える。
 やっと振りきることが出来たと安堵した時……
 女性の背中から胸元へ『ドン!』と重い衝撃が生じる。
「…………! ゲホッケホッ」
 痛みもなくただ強い衝撃を感じ取った後、喉に溜まる血を吐き出しながらせき込む。
 自分の身体から細い棒が伸びているのが見える。
 それを見た時、自分が真上から木製の細いやりが貫通したことを初めて知る。
 だが、追撃の手は休まることはない。
 ドシュドシュといくつものやりが女性に降り注ぐ。
 女性は倒れない。貫通したやりが身体を支えているのだ。
「ぁ……」
 女性の腕が虚空をつかむ。必死になにかに手を伸ばそうとする。
「し、しょ――」
 誰かの名前だろうか? その名を最後まで発することもなく、そのまま腕が崩れ落ちる。
 それを確認した後、女性を囲む様に影が着地する。その影は三つ。
 いや、既に影の存在を解いた、三人の男であった。
 その男たちは女性の遺体を囲んだまま、戦闘体制を構える。そう、男達にとってはこれからが本当の戦いであった。
 やや経って女性に変化が見られる。いや、女性は死んだままであった。
 しかし、シュウシュウと女性の身体から黒い煙のようなものが立ち上る。それがどんどん形作る。
 それは人ではなく、獣でもない。あえて言うなら……化け物……
 そう闇の――闇に生まれた化け物であった。
 三人がその姿に恐れていると、不意に男の一人が、奇妙に首をかしげる。
 その姿に気付き、リーダー格らしき男が近づこうとした瞬間、ドサッと崩れ落ちる。その時始めて男の首が折られていた事に気付いた。
 ドゴッドゴッドゴッとまるで太鼓を叩くような音が背後で鳴り響く。
 見ると残りの男の足に闇がまとわりつくような感じで、おそらく化け物の手にあたる部分だろう。それが左右に振られ、何度も、幾度となく男が地面に叩きつけられる。
 うめき声を上げていることから、辛うじて意識がある事は分かる。化け物は子供のがモノにあたるように、わがままに見えるほど男を叩きつける。
「きっ、きさまぁぁぁぁぁぁぁ」
 やっと我に返った男が、化け物に向かって刀を抜き、斬りつける。だが、闇が軽く揺れただけですぐに元に戻る。実体を持たない脅威なる闇。それが化け物の正体であった。
 そのおもちゃにも飽きたのか、最後に男を大きく叩きつける。
 ゴギリと鈍く響く。頭蓋骨が砕けたのだろう。しかし化け物はそんな事に気付かず、無造作に、なんの躊躇もなく首を引き千切った。
 頭を失った首は噴水の様に血を吹き出す。
「ゲッゲッゲッ……」
 それを見て、化け物が頭の奥に響くような不気味な笑い声を上げる。
 なぜそんなことが起こるのか闇は分かっていない。分かる必要がない。
 ただ、本能のみで人を殺している。それだけしか持たないのだ。それだけが、この闇の化け物が唯一、生物らしいところといえるだろう。
 そして化け物は、最後の男の一人に手(のようなもの)を伸ばした。男は立ちすくんでいたままだったが、始めて自分にもその危機が近づいたことに気付いたが、もはや遅かった。
 実体を持たない化け物はそのまま胸を通りぬけ、心臓をゆっくりと握り締めた。男はその腕を引き抜こうとするが、スルリと化け物の腕を素通りするだけだった。
「ひぐっ……!」
 男はこの化け物が何をしようとしているのかに気付いた。
 遊んでいるのだ。どれだけ苦しむのか。他の二人をあっさり殺してしまい、そのつまらなさを埋めるかのように。
 男は後悔していた。まさかこんな化け物とは思わなかった。物心つく時から、いつも三人は共に生きて来た。三人がいたからこそ、辛いことも耐え、喜びすらも共に分かち合い。
 もうすぐ祝言を迎えようとする自分を、二人は心から、自分のことのように祝ってくれた。幸せになれよと、涙まで流してくれた。それを無駄死にさせてしまった。あまりにもあっけなく。無残に死なせてしまった。最後に三人ででかいことをやろうと、人々を脅かす化け物を退治しようと自分さえ言わなければ、こんなこ――――――――――――
 男はそのまま崩れ落ちた。化け物は心臓から手を放し、そのまま男の五体を粉砕した。
 さて、これからどうしようか? 化け物はそんなのんびりと考えていた。自分には足りない何か……思うままに遊んだがそれもつまらない……これからなにをするか分からない。足りない何かがあるのだろう。
 そんな事を考えていると、突風が吹いた。いや、突風ではなく、時空のひずみと言うか、ブラックホールと言うか、そんなものが化け物を吸い込む。闇が徐々に崩れていく。いや、欠けていく。まるでジグゾーパズルのピースを引きぬくがごとく。徐々に、だが確実に、闇が欠けていく。
「ゴ・ア・ア・ァァァァァァァ」
 闇の化け物が消えた後、ただ四つの死体がひっそりと飾り付けられていた。
 翌朝、その男の婚約者が無残な男の姿を直視し、半狂乱に泣き叫び自ら命を経ったと言う。
 そして、十五年の月日が流れた。




あとがき
はっはっは、これがメモリーズオフのSSと言っても誰も信じないだろうね。
でも、実際俺にとっては珍しいことではなかったりして。ゲームに出ない主人公で物語を進めるとどうなるのかな? みたいな。
基本的に久遠の誓いACT2です。前回は技術うんぬんはともかく話しの作りとしては気に入ってます。それを越える事が出来るか? みたいな感じです。



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