紅き力と白銀の心 
第三話 
作:木村征人




 闇が町を包む。あちこちで点いていた生活のともし火も消えるような深夜。

 今宵は新月だろう。月明かりはまったくない。月すらも闇を歓迎する。世界のすべてが闇に包まれた様でもあった。

その闇に紛れる三人の男たちがいた。

 男たちは軽く合図を送ると、闇を切り裂くように足音も立てずに突き進んでいく。

 ここにいるべきでないもの、人々に恐怖をもたらすもの、滅びを生み出すもの、それを殺すために集まったものたち。それが正しき道なのかを確かめないまま…………

 男の周りの空気が変わる。重く、激しい、三人の心臓をわし掴むような空気が辺りを包む。この空気は明らかな敵意……いや、それよりももっと違った…………

「ぐあ!」

 三人の男のうち一人が、吹き飛ぶ。

 そこには闇を切り裂く二つの赤い光。赤い瞳の少年――翔がいた。赤い瞳は血のごとく淀んでおり、人を焼き尽くす豪華の炎を思わせるような瞳であった。

「なるほどね、奇妙な気配を感じると思ったら……」

おどけた口調で翔がぼやく。まるで世間話をするような口ぶりであった。

 すっと三人が翔を取り囲む。翔は微動だにしない。三人のうち一人が動く。拳を突き出してくるが、一歩下がって翔が避ける。次に横から来る男を蹴り飛ばす。

 そのまま距離をとって最後の一人にこうげ――



 ジャッ!



 後方から鈍い風切り音を聞いてあわてて、しゃがむ。一瞬後れて翔の頭上を横殴りに剣が舞う。

「四人目? なるほどそういうことか……」

 あやかしの術、この戦法はそういわれている。三人で行動し、ほかの人間がつかず離れず行動する。そして敵に出会った後、気配を消し、戦いが乱戦になるに乗じて攻撃する。人間は常に視覚に頼る。つまり相手は目で確認した人数しかいないと思い込む。だが、いないはずの方向から攻撃が加わる。それにより相手が混乱する。混乱した人間は判断を誤り苦もなく殺すことが出来る。

 単純だが効果的な作戦である。

しかし、翔には効かなかったが。

「なるほどいい作戦だ」

翔の前に男が攻撃を加える。それを避けるために横へ飛び退くが、背中が塀にあたる。その隙に二人が左右同時に攻撃を加える。

 翔は塀を蹴り、スライディングのように飛び、仰向けに倒れる。

「あと一人! 上か!」

 上空から気配を感じ取る。真上からいきなり現れて奇襲つもりだったのだろう。翔は逆立ちの要領で、腕だけの力で上空に飛ぶ。それに乗じて三人も飛ぶ。結果的に四人とも姿を現すことになった。翔はこれを誘っていた。

 一人目の繰り出す拳を、受け止める。次に二人目の攻撃をかわす。そして三人目の拳をはじくと、四人目の男の腕をつかむ。

「死ぬなよ…………」

 つぶやくと同時に男の後頭部に足を乗せる。頭と腕を固定されて体勢を変えることが出来ない為、そのまま顔面から墜落する。地面に激突する瞬間、乗せていた足を離す。



 ゴッ!



 鈍い音ともに男が昏倒する。本来なら激突する瞬間、乗せていた足で頭蓋骨を破壊する技であったが、翔はそれをやめた。ともかくこれで元の三人になった。一人が着地する瞬間を狙って、足払いをかける。転倒した男を無視して、背後にいる男に向かう。

 男の攻撃を後ろに倒れるようにして避けると、体ごと回転させて相手の側頭部に蹴りを放つ。その勢いをそのまま体を反転させて、足払いをかけて倒れた男が起き上がろうしていた所を再び足払いで転倒させる。

 そして最後の一人をみぞおちに拳を放ち、倒れている男の上にめがけて投げ飛ばす。翔はそのまま飛び上がり、折り重なっている二人の上に着地する。

 鈍い音と悲鳴が、闇に吸い込まれるとともに戦いは終了する。

「ふー、四人だったから何とかなったが…………妙だな。この術は最低二人は潜んでいるものだが……」

 すでに翔の瞳には微塵も淀みはなく、暖かな紅い光を放っていた。



 いつの時代でも、争いと言うものは耐えることはない。わずかな食料を人は奪い合う。それは智也も例外ではなく、自ら混乱の中へと身を投じる。

 自らの命を留めるため、ひいては午後の授業を乗り切る為、男女関係なく購買のパンを奪い合う。

 まあそれはさておき、平凡な日常。昨日と何も代わりはしない現実。ただ男四人が深夜、病院の前で倒れていた以外は。

 晶と詩音はその争いに入るまでもなく弁当持参である。

「荷物持ち?」

 晶がはしをくわえながら聞き返す。

「はい、そうです。買いたい本がありますので」

 晶と真向かいの詩音の弁当はまったく同じ、鏡を映したような錯覚を覚える。

「なんだお前ら弁当か……」

 ぼろぼろになりながらも購買から帰って来た智也が自分と唯笑の分、二人分のパンを抱えながら、二人の弁当を見比べる。

「なになに? 愛妻弁当?」

 智也からパンを受け取りながら同じ中身に気付いた唯笑が無邪気に笑い、晶のほうを向く。

 ちなみに唯笑は智也にお弁当を作って来ようとしたが思いっきり否定された。多少のことなら我慢できるだろうが、唯笑の料理だけは死んでも食べたくないらしい。

 智也が言うには『味だけならまだ良いが、台所を破壊される恐れがある』ということらしい。

「んー、愛妻じゃなくて愛夫(あいふ)かな?」

「はあ?」

 晶の聴き慣れない言葉に変な顔をする。というか、実際そういう言葉があるのかかなり怪しいものだが。

 この弁当は詩音でもなければ親戚が作ったものではない。晶が作ったのだ。先日、趣味兼特技は料理と言っていたが、その腕はかなりのものであった。前とあまり変わらない材料費なのだが、かなり上等な食事になっている。詩音の母から教えてもらった料理を詩音に出したところ、母を思い出したのか泣かれてしまい晶をあわてさせたなどと言うこともあった。

 晶によって詩音とその親戚の台所事情はかなり優雅なものであった。

 晶いわく、いつでもお婿にいけるらしい。

「それより荷物持ちって?」

「ええ、桜峰の知り合いに頼んでいた本が届いたそうなので」

「ぶっ!」

 詩音の言葉に晶は思わず噴出す。晶は少しの間だが、昔住んでいたのでそれなりにこのあたりの地理は知っている。ここの学園はさすがに縁がなく場所を知らなかったが、町の名前程度ならすぐに思いつく。

澄空から桜峰から電車を乗り継いでいかなければならない。とてもではないが本を買いにいくような距離ではない。さすがに晶もあきれた。

 詩音の本好きは晶ももちろん知っている。紅茶といい、読書といい。そういうことに関しては見境がない。晶もよく荷物持ちに使わされたことを思い出していた。

 晶は深くため息をつくと、

「分かった。行くよ。せっかくのデートのおさ――いや、なんでもないです……」

 さすがに晶も武器(はし)を持った詩音をからかう気はないらしい。晶は平謝りする。

 なんだかんだ言って、荷物持ちでも晶はうれしいようだ。

「相変わらず、漫才だな……」

「そうだよねー」

 智也と唯笑が二人のやり取りを見ながらぼやく。智也と唯笑がやっていることも十分に漫才なのだが、自分たちの事はぜんぜん分からないらしい。

 えらそうに俺達はまじめだとふんぞり返っているのを信がジト目で見つめているのに気付いてはいなかった。



 学校が終わった後、学校からすぐ近くの繁華街にあるバーガーワックの前には、少し小さな広場になっており、中央には時計台が備え付けられており、周りにはベンチが囲むように鎮座されている。澄空の数少ない待ち合わせのメッカになっている。詩音はベンチに座って本を開こうとしている。晶はどうせ大荷物になるからと、晶は自分と詩音の学生鞄を親戚の家に置きに行っている。詩音はどうせ本を読んでいる限りは待っていても退屈しないだろうからと、待ち合わせ場所を決めた後、詩音は先に来ていた。

 ちなみにこの方がデートっぽいと言うのは晶の意見である。ただ詩音がナンパされないかはかなり心配だったが、詩音の戦闘力を思い出すとなんか心配した自分が馬鹿みたいに感じていた。

「おい、花桜梨(かおり)ー。待てよ。何怒っているんだよ……」

 その言葉に詩音が反応すると、年は二十歳前後であろうか……詩音よりも背が高く、短く綺麗にきられた髪、整った顔立ちなのだが、何かいやなことでもあったのか口を尖らせてそっぽ向いている女性が歩いていた。

 その後ろを、純朴と言うか、素朴と言うか、どこか地味な顔立ちなのだが、どことなく野武士を思わせる少年がトコトコついていく。右腕には鎖を巻きつけ、余った部分の鎖の先端にソフトボールぐらいの大きさの鉄球が付けられている。何かのアクセサリなのだろうか? だとしたらかなり出来の悪いものだろう。

「お詫びにいつもの場所でコーヒーおごるから機嫌直してくれよー」

 少年がそう言うと、女性がいきなり振り返り笑顔を見せた。おそらくわざと怒ったフリをしていたのだろう。しかし少年は心底ほっとしたように安堵の息をついた。

 その光景を、クスクスと少し笑いながら詩音は眺めていた。

 二人の姿が見えなくなると、再び本に視線を落とした。

 そして――

 詩音はフーっと感嘆な息をついて、静かに本を閉じた。

「面白かった?」

「ええ、なかなか独創的な終わり方で――えぇ! 晶さんいつからそこに?」

 詩音の真横に片肘を付きながら詩音を見つめている晶がいた。家に帰るついでに着替えてきたのだろう。すでに私服に着替えていた。

 晶が真後ろにある時計台を無言で指差す。時計の時刻を見て詩音は愕然とした。詩音が待ってからゆうに一時間以上が過ぎていた。

 親戚の家から往復でも十五分はかからないだろう。もし、時間通りに晶が来たとしたら……

「相変わらず詩音は本を読み出すと、時間を忘れるな。まあ、そのほうが長い時間を共有できるからその方がいいけどね」

 晶はそう言って無邪気な笑みを浮かべる。

 詩音は晶が昔からこう言う人間なのだと思い出した。二人の他に待っている人間がいる場合は別だが、晶はいつも出来る限り詩音の都合に合わせている。

 先ほども、詩音が読む終わるのを晶はずっと待っていた。

 晶はそれをも楽しんでいるフシがある為、詩音も気をかけないですむ。そういう所が詩音にとってうれしかった。

「あ、そうそう。これをあらかじめ渡しておくよ」

 晶がポケットからペンダントを取り出す。虹色に輝く板版のペンダント。奇妙な歪曲の形どっている。バームクーヘンを四分の一に切ったらもしかしたらこういう形になるかもしれない。

「これを私にですか?」

 詩音は頭をかしげる。どう見ても詩音には似合わないし、制服に合うはずがなかった。

「ああ。ただし、絶対はずすなよ。風呂に入る時もだ。ペンダント自体は服の下に入れていても良いからな」

「はぁ……」

 晶の真剣な言葉と瞳にしぶしぶ頷いた。

 詩音がペンダントを着けて、服の中に入れたのを確認すると、晶は笑みを浮かべた。少し哀しそうな笑みだったが。

「あれ。詩音さん。どうしたんですか?」

 二人が立ち上がろうとすると、背後から、右肩から画材道具を抱え、ぴょこんとツインテールにゆえられたリボンがひらひらと揺れている、伊吹みなもであった。肌が色白く弱々しそうなのは長い闘病生活のせいであろう。智也たちの後輩にあたり、澄空学園の一年生である。特に唯笑と詩音とは仲がよく、三人一緒にいることが多い。

 本来ならみなもは未だに病院のベッドで寝ているはずなのだが、誰にも知られていない逸話がある。



 みなもは本当なら移植手術を受けるはずなのだが、ドナーが不慮の事故で亡くなってしまった。その為、治る見込みはほぼないとされていたのだが、みなもに奇跡が起こっていた。

 いや、みなもだけでなく、そこに入院していた病を持つ患者のほとんど全員であった。例えば、脳腫瘍が摂取不可能な場所に存在していたのが、摂取可能な場所に移動していたり、末期癌で数日の命のもの、果ては盲腸。無節操に治っていた。

 一晩の間に何が起こったのか、治る見込みのない患者たちがほとんど完治していた。

 しかし、移植手術が必要なものは限られているらしく三人しか治るものはいなかった。その三人の中に幸運にもみなもは含まれていた。

 そしてみなもは、その奇跡を起こした人間に意識は朦朧としていながらも会っていた。少しずつ自分の体が温かく包まれていく感じ、体の膿が溶けて消える感じを受けながら、朦朧とした意識の中みなもは必死で自分の意識を揺り起こしながら『誰?』と聞いた。

 その人物は『ミン』とだけ答えてその姿を消した。それが本名なのか、男なのか女なのか分からないが、みなもを含める病院の患者が助けた人物なのは確かであった。

 みなもはその事を主治医に話すと誰にも口外しないようにと口止めされていた。どこの誰とも分からない人物に助けられたとあっては、病院の名折れだし、そもそもそんなことが広がればその人物を求めて世界中から人が来るかもしれない。そんな奇跡をこの病院に望まれても、その人物が再び現れるとは限らないからである。

 ただ、二年前意識不能の女子高生が医者すらもさじをなくした状態に奇跡を起こし、回復の兆しを作り出した状況と酷似していた。

 そしてみなもは智也たちはおろか両親にもその事を話していない。

 ただ、不幸なのはその病院は入院患者がほとんどいなくなってとてつもなく経済状態が傾きまくっているらしい。

 それはさておき、通院とやや病弱な体は否めないが、ほとんど普通の女の子として学生生活を謳歌していた。



 みなもは晶の存在に気付くと、ポンと手包みを打ち、

「あ、ごめんなさい。デートの途中だったんですね」

 と、自分に言い聞かせるようにうんうんとうなずいて見せた。その様子を見て、晶は『知り合い?』と詩音に聞く。詩音は晶とみなもを紹介すると、お互い頭を下げた。晶はみなもの絵を見せてもらうと感銘を受けた。十五歳の女の子の、目の前の年よりもずっと幼く見える女の子の描く絵には見えなかった。技術はさるものながら、その絵には何かを訴えるような、自分の存在をアピールしているような感じを受ける絵であった。

「えっと、今度俺と詩音の絵を描いてくれないか?」

 晶は一瞬にしてこのみなものファンになってしまった。いや、魅了された。

「はい、もちろんです! それじゃあ約束ですよ」

 そう言ってみなもはいそいそと駆け足で去っていった。最後のページに書きかけの絵があった。おそらくそこに向かったのだろう。

 その後、詩音は駅に着くや否や、いきなり回数券を晶に差し出してきた。電車の回数券はもちろん期限付きのものだったが、詩音にとっては関係ないらしい。

 発行日から一週間と経たずして、すでに半分以上使われている。週二三回は行っているのだろう。そんなに毎回行って何か変わるのだろうかと、それほど読書に興味ない晶には分からなかった。

 電車を乗り継ぎ、桜峰駅から、海岸沿いを歩いていくと、質素な住宅街に辿り着いた。詩音は民家と区別がつかないような本屋の中へと入っていった。どうやら、一階は本屋、二階は住居になっているらしい。

「あら、詩音いらっしゃい」

 詩音を出迎えたのは、詩音のと同じ年齢の女の子であった。少しきつめな――詩音を出迎えたのは笑顔だったが、続いて晶が入ったときには睨みつけられた――目が釣りあがっており、後ろ髪をポニーテールでまとめているが癖毛なのか、二股に分かれている。女の子にしては身長が高いかもしれない。

 ついでに言うなら大の男嫌いであった。

「思ったよりは遅かったわね。詩音のことだからもっと早く来ると思ったけど」

 晶を無視して女の子は詩音の方へと顔を向ける。晶はさすがにいじけたくなったが、必死でこらえていた。

「ええ、まあ……」

 詩音は言葉を濁した。さすがに本を読んでいて遅れたというのは恥ずかしいのだろう。

「ふーん、そう……」

 それをどう取ったのか、晶を一瞥してそのままそっぽを向いた。晶のせいで遅れたのとでも、思ったのだろうか。

 それを気にもとめず、詩音はスタスタと本棚のほうへと向かった。晶は座敷になっているレジの横に腰掛けた。すぐ隣には本屋の店員である女の子がいた。

「俺は滝川晶。君は?」

「寿々奈鷹乃(すずなたかの)……」

 鷹乃はぶっきらぼうにそれだけ端的に答えた。晶は少し考え込んでおずおずと口を開いた。

「…………君は詩音の友達なのか?」

「そういうあなたは?」

 質問を質問で返される。ぽりぽりと晶は困ったように頭をかいた。

「えーと、俺は詩音の元か――」

 スコン!

と文庫本の背表紙の角がピンポイントに晶のこめかみに突き刺さった。

「余計なことを言わないでください!」

 詩音は立ち読みしながら叫んでいた。いつ、どうやって投げたのかは、晶はおろか鷹乃ですら分からなかった。

「あい……」

 晶はぶっ倒れながらもそれだけ答えた。

「あつつつつ、くそ、詩音のやつどんどん技がパワーアップしてやがる」

 そこから何とか立ち直った晶が涙目に起き上がる。こめかみについた痣があまりにも痛々しい。

 さすがに詩音の行動に鷹乃は驚いている。

「なんか詩音のイメージ狂いそうね」

 詩音の姿が見えなくなった時、ポツリと晶が言う。

「詩音のイメージ? あいつは外見と違って中身はホントに脆いよ……君と同じで……」

「なっ!」

 ガタンとその言葉を聞いて鷹乃は立ち上がった。晶という少年にすべてを見透かされたような印象を受けた。その何気ない言葉は鷹乃の心の中に土足で入るような行為なのだ。

 鷹乃はこの少年に怒りを覚えた。人の触れてほしくない部分を平気で掴んでくる晶のやり方に。なぜ詩音はこんな男と一緒にいるのか、疑問に思っていた。

 しかし、鷹乃はあることに気付いた。憎めないのだ。晶の行為に怒りを覚えていても、晶自身を憎むことが出来ない。なぜそうなのか自分でも理解できない。

 この晶という少年の人柄なのだろうか? いや、会って間もない少年にそれは感じるはずがない。

「これからも、詩音と良い友達になってくれよな」

 そういって晶は立ち上がった。詩音がたくさんの本を抱えてよろよろしているのを手助けした。

「い、一万六千三百円……」

 頼んでいたものも含まれているとは言え、晶はおろか鷹乃もその量と値段に驚いた。晶という荷物持ちがいたとしても買いすぎである。

「少々、買いすぎたようですね……」

「つーか、カバンもなしで持って帰れないと思うが……」

 晶はうんざりしたようにつぶやいた。こと本に関しては本当に見境がない。

 鷹乃は紙袋を用意してその中に本を詰め込んだ。二つある紙袋を両方とも晶に持たせると、

「それではごきげんよう」

「じ、じゃあな」

 詩音と晶はそう言って本屋を出た。鷹乃は晶がよろよろと歩いていく背中を眺めながら…………

「詩音があんな風に人を使うなんてね…………」

 そんな二人の様を見て、わずかに口元が緩んでいた。



「や、やめて下さい」

 晶と詩音が桜峰の駅に向かっていると、気弱そうなメガネかけた女の子が、決して柄が良いとはいえない二人の男に絡まれていた。

「香奈(かな)さん!」

 その詩音の言葉に気がついたのか、女の子――詩音は香奈と呼んでいた――が助けを求めるような瞳で詩音を見つめる。

「あ、鷹乃先輩の彼女さん」

「彼女?」

 晶が詩音を見つめながら怪訝な顔をする。鷹乃先輩というのは先ほど本屋にいた人物のことだろう。どう見ても女の子に見えるのだが…………

 晶は突然、はっと何か気付いたように声を上げ、そのまま『よよよ』とふらふらしながら、口に手を当てた。

「そ、そんな! 詩音が日本にいる間にそっちの世界の人になっていたなんて……」

 どっちの世界かは分からないが、とにかく晶にとってはかなりショックだったらしい。

「なにを壮大な勘違いをしているんですか! とにかく助けてあげてください」

 詩音が晶の背中を押す。

「助けろといわれれば助けるけど。詩音はそっちの趣味はな――」

「しつこいですよ!」

 晶の言葉をさえぎって否定する。

「ま、その話はじっくり後で聞くとして。それじゃあこれをお願い」

 晶は本の詰まった二つの紙袋を詩音に手渡した。

 詩音はうなり声を上げながら、二つの紙袋を持ち上げた。

 晶は香奈の腕を引いて、詩音の側に引き寄せ、

「先に帰ってて」

 そう言って、詩音が香奈を連れて逃げて行くのを確認した後、晶は二人の男を見つめる。

 晶は静かな――緩やかな水流ごとく静かな笑みを浮かべていた。



あとがき

つーわけで、2ndキャラパート1パート2です。ちなみにパート3とパート4も登場する予定です。

さて、今回登場したオリジナルキャラクターは物語に絡んでくる予定はないです。予定は未定なんで分からないですが。



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