R.O.D−Fly high−
第五章 炎舞(えんぶ)
作:木村征人



 龍哉、恭也、美由希が無機質な六つの人形相手に身構える。

「ほう、ノエルやのうてお前らが相手か、面白い。イレインの試運転にはもってこいやな」

 下品な笑みを浮かべた安次郎の言葉に呼応するかのように、一体を残して五体のイレインが駆け上がる。

 そして安次郎が最後の一体の機動にかかる。

「安次郎。オプションはともかくそのイレインの機動はやめなさい。ノエルを壊す代わりにあなたも死ぬわよ」

「……!」

 忍の言葉に怪訝な顔をするがすぐに鼻で笑う。

「そんなわけの分からんことでわしがびびるとでも思っとるんか」

「安次郎!!」

 忍の制止を聞かずに機動に取り掛かる。安次郎は真顔になる。安次郎の素顔に。

「わしには何にもない。お前みたいに機械なり、お前の親父みたいな経営なりの天才でなければ。夜の一族の力のくせに何の能力もない。

 金がなければわしはほんまもんのくずや、これは賭けやわしの命をかけたな。

 イレイン!!」

 安次郎の言葉にイレインが起動する。そして――

 ドシュッ!

 と、鈍い音が響く。イレインのブレードが安次郎の胸元を貫いていた。

「なっ!」

 その場にいたイレインを除いた全員が目を見開く。安次郎は何が起こったかわからず呆然としていたが、そのまま倒れ落ちた。

「あははははは、馬鹿じゃないの。あんたあれほど言われたのにさ」

 イレインは歓喜に震える。

「そこのお嬢ちゃんは私のことを知っているみたいね」

「『束縛されず、従属せず、人間として生きるために作られた自動人形』起動者殺しの『最終機体』だったわね」

「あはははは。ご名答。さて、目撃者は消さないとね」

 イレインが龍哉達のほうを向く。

「忍さん、あの五体は何ですか? オプションとか言ってましたけど」

「ええ。半自律型分業機、武器はブレードだけで自我はないけど、イレインからの命令で動くの。あれを使ったコンビーネーション戦闘がイレインの最強を足らしめる理由なの」

「なるほどね。恭也さんは三体、いや、四体ぐらい相手できます?」

「御神流は多対一もやれる」

 恭也は両手に紙の剣をたずさえ、構えを取る。

「僕と美由希さんで一体と」

 少々不服そうだったが、美由希はとりあえずうなずいた。

「そんなおもちゃで何が出来るって言う――」

 恭也の視界がいきなり揺らぐ。既にイレインの言葉など耳に入らなかった。

 風景が背景になる。

 小太刀二刀・御神流、奥義の歩法。

「神速」

 極度の集中によって自らの性能の限界を突破し、数倍の速度で動く技。

 恭也の紙の小太刀がオプションの一体の胸元を貫き、残った一刀でもう一体の胴を横なぎに寸断する。

 コンマ五秒のまさに神業であった。

 一瞬にして、二機のオプションが破壊された。

 今度は恭也以外の全員が目を見開く。美由希すらも初見だったらしく、恭也のすごさを改めて実感した。

「げっ!」

 場の雰囲気に流されないオプションが、ブレードで龍哉を狙う。

 龍哉はとっさに懐に手を入れる。

 ガギギギギ!

 と鈍い音が鳴る。

 筒状に丸めた新聞紙でブレードを受け止めていた。オプションがはじめて驚きの表情を表した(ように見えた)。

 オプションは止まることなくブレードを振り落とし続ける。新聞紙でブレードを受け止めることが出来ないと言う常識を覆され、エラーを起こしていた。

 ガンガンと何度もブレードを振り下ろし続ける。丸めた新聞紙は徐々に削り取られていくが、龍哉は耐え続けるしかなかった。恭也ほど出なくてもブレードを振り下ろす速度と力は常人を超えている。ほとんどブレード押さえつけられているようなものであった。

 高速のブレードがなおも続く。そしてピリッと小さな音を立てて真っ二つにされる。ブレードで紙を切ったという行動によりオプションはエラーから抜け出した。龍哉めがけてブレードが振り下ろされる。

 ガギギギギ!

と再び鈍い音がなる。

「大丈夫?」

 美由希がブレードを紙の小太刀で受け止めていた。

「ナイスです! 美由希さん」

 龍哉は再び懐に手を入れ、今度は紙のハリセンを取り出す。もちろんただのハリセンではない。特殊用紙で作られたハリセンだ。乗用車なら一撃で破砕できる。

 スッパァァァァァァァァァン!!

やたらと景気のいい音を立てて、オプションが地面を削りながら吹き飛ぶ。あちこちショートしながらも何とか立ち上がった。

『紙紙紙紙紙紙、脆弱なもの、すぐ破れるもの』

 オプションのプログラムではそう組み立てられていた。オプションの瞳に最後に映ったのは、紙を振りかざす龍哉の姿であった。

「残り二体か。まだ半分以上時間が余っているな。五分も要らなかったな」

 一方、ノエルとイレインは熾烈を極めていた。イレインのムチ――静かなる蛇を間一髪避ける。ムチが地面に触れた途端、バチリと黒い線を作る。

「電撃ムチ……」

 ノエルが静かにつぶやく。

 イレインは両腕のブレードに静かなるムチ。対して、ノエルは片腕のブレードのみ。圧倒的に不利かと思われたが、ノエルは拳をまっすぐ向け。

「ファイエル!!」

 ノエルの拳がいきなりイレイン目掛けて飛んできた。

 虚を突かれたイレインは吹き飛んだ。

 宙を舞った拳はワイヤーで元ある場所へと帰る。

「ふっざけたモンつけてるどゃない! むかつくわね」

 イレインが激高する。

 

「ロ、ロケットパンチ……」

 龍哉がその光景を見て呆れる。

「とにかく美由希さん。残りは恭也さんに任せてノエルさんの加勢に行きますよ」

 龍哉と美由希がノエルの元へと行こうとした時、

 ブアアアアアア!!

 とうなり声を上げながら炎が行く手を阻んだ。倒れていた安次郎が炎に飲まれて一瞬のうちに消え去る。超高度の熱を持った炎であった。

「面白そうなことをやっているじゃない」

 炎の中から一人の女性が現れた。

「私がもっと盛り上げてあげる。紅く、激しくもっともっと楽しくしないとねぇ!」

 燃えるような紅い髪、つりあがった瞳、炎を模した刺青そして巨大なマッチ棒が両腰に三本ずつまるで剣のように差していた。

 まるで炎から生まれたように。

「能力者!?」

 龍哉が叫ぶ。

「私は炎製造会社(ファイヤーインク)。あなたと同じ特殊能力者。だけどね!

 私の能力は炎! 紙のあなたじゃ絶対に私に勝てない」

 インクが巨大マッチに火をつけ、龍哉に向ける。

「美由希さん。ノエルさんの所へ行ってください。僕はインクさんを相手します」

 美由希のほうを向かず龍哉は紙を束ねて立ち向かう。

「殺(燃や)してあげるわ。身も心もね」

 巨大マッチに火をつけ、龍哉を突く。間一髪、それを紙で防ぐ。

「あちゃちゃちゃ」

 当然のように紙は燃え、龍哉は燃えた紙を投げ捨てる。

 恭也と美由希がとてつもなく不安な顔をする。

「ふふふふふ、プレゼントをあげるわ」

 インクは懐から空の小瓶をとりだし、蓋を空け宙に投げた。

 龍哉は何かに気づいたように、コートを脱ぎ小瓶に投げつけた。

「みんな逃げてください」

 龍哉の言葉に恭也と美由希は手すりを飛び越え、海に飛び込んだ。龍哉は数十枚の紙をつなぎ合わせた。まるで大きなマントになった紙で忍とノエルを引き寄せ覆いかぶさった。

 その直後、目もくらむような赤い光と叩き付けるような轟音。巨大な爆発が起こった。

 炎が舞をやめ、この場から消え去る。地面には小さなクレーターができ、噴煙が辺りを包む。まるでこの世が消え去ったような光景。実際その場にはだれも姿が見えなかった。

 少しして、恭也と美由希が手すりにつかまって上ってきた。龍哉は黒焦げになった紙を払いのけて立ち上がった。その後に続くように、忍とノエルも立ち上がる。

「な、何だったの……今の?」

 美由希はびしょぬれの額をぬぐいながらつぶやいた。海に飛び込んだせいで分からないが、冷や汗も混じっていた。

「酸素爆弾ですよ……」

 龍哉は静かに言った。

「酸素爆弾?」

「炎は酸素を燃焼して燃えますよね。

それを利用して高密度の酸素が炎に触れさせ、凶悪なまでに炎を増発させたんですよ。人為的に起こすバックドラフトと思ってくれればいいです」

「しかしよく気づいたな」

 ぬれた髪を気にせず、そのまま構えをとる。まだ、戦いが終わっていないという意思表示であった。それは龍哉も分かっている。いや、これからが本当の戦いが始まるのであった。

「昔読んだ本に載っていました。それで炎の特殊能力者でもしかしたらと思って。確信はありませんでしたけど。

 ですけど想像以上の威力でした。僕のコート、防弾防火防水の特殊用紙で出来ているんですけど跡形もなく消し飛んでしまいましたね。そのおかげでわずかですけど威力を落とすことは出来たが」

 龍哉の手持ちの紙があっという間になくなってしまった。トランクに詰まっていた紙も炎に飲み込まれていたし、コートに詰めた紙ももちろん燃えた。既に数える程度しか紙がなかった。

「ほんとにね。私もここまで過激になるとは思っていなかったわ。いくら私でもあれだけの炎は対処できないわ」

 オプションを二対抱えたインクが立っていた。オプションはもはや機能は停止していた。オプションを盾代わりに使ったのだろう。

「ちっ、あの木偶(でく)をぶっ潰した後、あんたも殺してやる」

 炎から避けるために潜っていたのだろう地面からはいでたイレインがはき捨てるようにインクに言い放った。

「でも、オプションは全滅しましたのは好都合です。恭也さんと美由希さんはノエルさんの援護に向かってください」

「だが、お前一人で……」

「大丈夫です。同じ特殊能力者です。ここは僕に任せてください」

「……わかった」

 少し沈黙した後、恭也はうなずいた。

 龍哉は考えていた。今、手持ちの紙は少ない。だが、道路に置きっぱなしのかばんの中には本が大量に詰まっている。戦いには十分すぎるほどの紙がだ。

 だが、戦いに使えばもちろん本は燃える。新刊、旧刊買い込んだ本が。今度本が買えるのは次の給料日なのだが、手持ちの金はほとんどない。数日前のエジプトの稀覯(きこう)本奪還の特別報酬もここに帰り際に使い切ってしまった。

 特に筆村先生の本はすぐに廃刊になってしまう。古本屋にもめったに出回らない。再び手に入るには奇跡に近い。

 手持ちの紙で意地でも倒して、READ(読むか)、本を取りに行って倒した後、DIE(死ぬほど後悔するか)であった。

 龍哉の思考がぐるぐる回る。

 READ OR DIE。READ OR DIE。READ OR DIE。READ OR DIE。

 そして、龍哉はREAD(読む)を選んだ。

「絶対に倒してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!」

 龍哉は叫んだ。

「今日の龍哉、気合入っているな」

「なんか邪(よこしま)な気合の入り方をしてる気がするけど」

 感心する恭也だったが、美由希は龍哉の気合の入り方になんとなく気づいていた。

 とにかく恭也、美由希とノエルに対してイレインただ一人。三対一という有利な展開かと思われたが。

 イレインがノエルの方を向きながら背後にいる恭也へと『静かなる蛇』を振るう。間一髪、ムチを避けると、今度は円を描きながら美由希の方へ向かう。

 そのムチの動きに美由希の反応が一瞬遅れる。

「あっ……」

 避ける体勢が間に合わず思わず美由希は声を上げる。ずるっと地面にすべり仰向けに倒れる。目の前をムチが通過する。

 両手のブレードに一瞬で感電死する『静かなる蛇』。とくに『静かなる蛇』は変幻自在。イレインは背後からの攻撃を読み取って、死角からムチが飛んでくる。

 イレインは恭也とノエルに注目していた。恭也の神速、ノエルのロケットパンチ。油断すればダメージを受ける。美由希は取るに足らない存在とされていた。

 それは美由希も分かっていた。美由希と恭也はアイコンタクトする。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 美由希が剣を構えて突進する。

「目障りだよ。あんた」

 『静かなるムチ』が美由希を襲う。『フッ』と小さく息を吐いて身を低くしてスライディングしてムチを避ける。イレインの眼前まで来ると、真下から剣を斬り上げる。イレインは右腕のブレードで受け止める。今度はイレインが左腕のブレードで斬りつけるが、美由希はもう一本の剣で受け止める。

 美由希もイレインも両腕を防がれた形であった。しかしこれで『静かなるムチ』の脅威はなくなった。

「なめるな!」

 イレインの足からブレードが生える。人間には出来ない奇妙な足のひねりで美由希の後頭部にブレードを突き刺そうとする。

「恭ちゃん!」

 美由希の言葉に呼応するかのように、恭也が神速とはいかないまでも高速で突っ込む。

神速は限界以上の力を引き出すため、身体を痛めつける。特に恭也は片膝に古傷を負っており神速を使い続ければ片膝は間違いなく砕け散る。

恭也の剣がイレインの足を切断する。

「馬鹿な!」

 イレインのバランスを崩したところを美由希が右腕を切断する。イレインは片足に片腕の状態となった。いや――

「ファィネル!」

 その瞬間、ノエルのロケットパンチが飛ぶ。

「貴様ら、貴様ら、貴様らぁ」

 残った左腕でロケットパンチを迎撃しようとするが。

 バヂッ!

「!」

 イレインの残った左腕でが、電気が流れ『ボゥゥゥン』とイレインの残った左腕が爆発する。恭也は既に片足のみならず、既に左腕にも斬りつけていた。

 ノエルのロケットパンチはイレインの胸座(むなぐら)をつかみ、ワイヤーで巻き戻す。拳とともにイレインが引き寄せられる。

「終わり……です……」

 ノエルがブレードを突き出す。ブワンッとブレードがイレインを薙いだ。

 

 イレインとの決着は着いたが、龍哉とインクの戦いは続いていた。いや、正確にはインクに弄(もてあそ)ばれていた。

 手持ちの紙はほとんど使い果たしてしまった。巨大マッチ棒でインクが突く。龍哉は紙で受け止めるが吹き飛ばされる。

 倒れこむ龍哉にの顔の真横にマッチが突き刺さる。インクは顔を龍哉の目と鼻の先まで近づけた。

「どうしたの! もっと抵抗しなさいよ。私の炎で身も心もすべて愛して上げるわ」

 最後の一枚か……

「インクさん。悪いけど僕には前から心に決めた人がいるんで、あなたの告白は受け取れませんよ」

 龍哉は紙を指に挟み斬りつける。インクは身体を逸らし避ける。さらに龍哉の最後の紙もついでに燃やす。

「フフフフ、妬(焼)けちゃうわね。ホント、燃やしたいぐらいにね」

 インクが炎をかき集める。

 紙はもうない。紙がなければ龍哉は運動神経のない貧相な男でしかなかった。

「龍哉ぁ! これを使え」

 恭也が紙の剣を投げつけ、龍哉の足元に突き刺さる。よく考えれば間抜けな話であった。大量の紙があったのだ。イレインとの勝負がついた今、紙の剣は必要ない。紙はまだあったのだ。恭也と美由希の手の中に。そして今自分の足元に。

 龍哉は剣を拾い上げ、インクに向かって投げつけた。

 紙が炎に包まれる。剣の表面の紙が燃える。さらにその下にあった表面の紙が。表面の紙がその下の紙を守るために犠牲となる。

 そう、すべては一枚の紙のために。

 半分燃えた紙がインクに突き刺さろうとする。

「私の炎を突き抜けた!?」

 紙が確実にインクの心の臓に突き刺さろうとしていた。それを見た龍哉がわずかに目を曇らせる。

 インクは必死に身体のひねる。

紙はインクの衣服わずかに切り裂きそのまま燃え尽きた。

「あっ……」

「はずした!?」

 言葉を失った龍哉の代わりに美由希が答える。

 恭也がもう一本の剣を投げようとするが、

「なっ!」

 恭也と、そして美由希の持っていた紙の剣がばらばらになる。

 時間切れであった。考えてみれば五分はとっくに過ぎていた。ここまで持ったのは龍哉のザ・ペーパーの能力が自分より思った以上にあったからであろう。

「さすがに一瞬、あせったわ。でも、最後は私に勝てない。紙は炎に勝てないのと同じようにね。これでお別れよ、私の最大の愛をあげるわ。骨すらも残らないようにね」

 巨大マッチに炎をが宿り天に掲げる。それはまさしく彼女の全てであった。

 その時、龍哉の紙が切り裂いた衣服の隙間から、ひびの入ったビンが零れ落ちる。

「あっ……」

 龍哉にはそのビンの正体が分かったていた。高密度の酸素が入ったビンだ。インクを助けようと思わず手を伸ばし近づく。

「ファイエル!」

 同じく落下するビンに気づいていたノエルがロケットパンチで龍哉の襟首をつかみその場から引き離す。

 そしてひびの入ったビンは、音もなく割れる。酸素と炎が交わり巨大な赤い龍を生む。

 ギオォォォォォ

 まるで獣のような咆哮を上げながら赤い龍は――炎は天を駆け巡る。

 声もなくインクはその身を焼き尽くされる。最後に笑みを浮かべたように見えたのは幻だろうか。炎から現れし者は、炎によって姿を消していった。

「大丈夫か?」

 その光景を見つめていた龍哉の肩にポンと恭也は手を置いた。

「あ、え。はい。大丈夫です」

「お前はなぜ……」

「え?」

「いや、なんでもない」

 お前はなぜインクの心臓を貫けたはずなのになぜわざとはずした。恭也はそう言いかけてやめた。

 

「ただいまー」

 きっちり買い込んだ本をかかえながら、龍哉たちは家路に突いた。

「おかえりー。わっ、どうしたのその格好」

 出迎えてくれたフィアッセが手に口を当てながら驚く。

 フィアッセが驚くのも無理なかった。龍哉はすすだらけ、恭也と美由希はずぶぬれになった後、どたばたと暴れていたため砂が付着したまま取れなかった。

「一体、何してきたの?」

「火遊び」

 フィアッセの問いに、龍哉はそう端的に答えた。なんとなく意味深な言葉に聞こえるのは気のせいだろうか?

 美由希が先に風呂に入り、続けて恭也、龍哉と戦いの汚れを落とした。龍哉の風呂から出るころには、既に晶とレンが夕食をテーブルに並べていた。

「それではいただきまーす」

 まだ店での仕事している桃子を除く全員が手を合わせる。

「あ、おいしい」

 一口食べた忍が思わず声を漏らす。

「いっぱいありますから、どんどん食べてください」

 晶が自分の作ったものを進める。

 龍哉もいつも以上にはしが進んでいたが、そのはしがぴたりと止む。恭也と美由希も同様であった。

「な、なんでお前がここにいるんだぁぁぁぁぁ!!!」

 三人が同時に叫ぶ。

「なんだ、今頃気づいたの」

 忍があっけらかんと言う。

「不覚だ。あまりにもこの光景になじんでて分からなかった」

 恭也が頭をおさえる。

「家に帰ったら、その家がなかったのよ。多分安次郎がやったんでしょうね。まぁ、新しい家が建つまでここにご厄介になることにしたの」

「したのって……桃子さんの了解がないと駄目だと思うんですけど」

 龍哉がおずおずという。

「大丈夫よ。桃子さんに話したら『オッケーよ。家族がまた増えるなんてうれしいわ』って『一秒で了承』してくれたわ」

『一秒で了承』どこかの誰かを思い出させる。

 とにかく宿主の了承が出ては、反対する理由はない。龍哉と恭也と美由希はそれぞれ顔を見合わせ、小さくため息を吐いた。

 そして龍哉の頭の中では、何故インクが現れたのかという疑問は既に忘れ去られていた。




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