俺は出会った、赤い翼を広げる天使に・・・
悪夢の中で、出会った。
いつからだろう?
いつからこんな狂った夢をみているのだろう、俺は。
ああ・・・
あの日だ。
全てはあの哀しい日に始まったんだ。


空は暗く、昼というのが嘘のようだったあの日。
細かな霧の粒子がしっとりと漂い、それを吸い込むたびに、胸が押しつぶされそうになる
ほど俺は哀しさを感じていた。
何故こんなに哀しいのだろう?
俺にはわからなかった。
そう、始まりの時が来るまでは・・・



Memories Off Nightmare
プロローグ「紅の翼」
 Produced By コスモス




降り積もる雪を踏みしめて一人の少年が歩く。
足を止め、立ち止まる少年。
その場所は、その少年の始まりの場所。
その少年を狂った悪夢の中へといざなった場所。
雪、それは全てを覆い尽くし、全てがまるで嘘だったかのようにすら思わせる。
この純白の世界を見て、少年は何を思うのだろうか?
この純白の世界に、何を感じているのだろうか?
この場所で散った、少女の純白の傘を想っているのかもしれない。
あるいは舞い降りてくる雪を、少女の翼に、その純白の翼から零れ落ちる哀しくも美しい
羽に重ね合わせているのかもしれない。
だが、雪が覆ってくれるのはほんの表面だけ・・・
少年が少し足を動かせば、そこには硬く黒いアスファルトの大地が広がっている。
そして、それこそが事実であり、残酷な現実である。
もう少女がこの世界に還ってくることはない。
よって、その時から始まった悪夢から、少年が目覚めることもまたかなわぬことのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
少年は無言でその場に立ち尽くしていた。
ただ雪だけが変わることなく降り続ける中、少年はただ、立ち尽くしていた。

そして、少年が立ち去った後には、降りしきる雪に埋もれてゆく、
一束の花束だけが残されていた・・・



最後の別れの儀式は粛々と進められていく。
誰もが夢にも思わなかっただろう。こんなことになるなんて。
いや、彼女だけは考えたことがあるかもしれない。
俺の視線の先の少女、今坂唯笑。
彼女だけは今日の光景を想像したことがあるのかもしれない。
決して起こってはならないし、起こるはずもない悪夢としてならば、ではあるが・・・

次々と弔問客が訪れ、焼香を済ませていく。その中には、見知らぬ者もいれば見知った
クラスメート達もいる。
女子生徒の中には感極まって泣いている娘もいるようだ。
そして、周りの友人達がそんな少女を慰め励ましていたりする。
俺が思っていたよりもずいぶんたくさんの人間が集まっているようだ。
普段は身近にいたため、あまり意識しなかったが、
改めてあいつの人望を実感させられる風景だ。
あいつは否定するかもしれないが、あいつは本当にいい奴だったからな。
でも、もうあいつが否定することは無いな。
いや、「否定できない」か。
そう、あいつにはもう否定することも肯定もすることもできない、永遠に。
なぜなら、あいつは・・・もう・・・・・

俺は改めて彼女、今坂唯笑に視線を移す。
彼女は今何を考えているのだろう。
あいつとの数え切れない程の想い出を、思い返しているのだろうか?
あいつの最後を思い出しているのだろうか?
それとも、今の現実を受け入れられずに我を失っているのだろうか?
あいつの親族と共に、遺影と棺のおかれる座敷に座る彼女の表情から
その答えを窺い知ることはできなかった。
彼女は無表情だった、その顔には何の表情も映し出されてはいなかった。
だが、それは彼女が何も感じていないからではない。
悲しみ、苦悶し、絶望し、流す涙も枯れ果てて、
いきついた先がこの無表情だったというわけだ。
彼女は、立ち直れるのだろうか?
いや、彼女には無理だろう。
彼女には?  
彼女でも、だな。
彼女にはもう翼は無いのだから。
もう、彼女の翼は二枚ともむしりとられてしまったのだから。
だから、俺が支えてやらなくてはならない。
俺にできることはそれぐらいだし、何より、それが俺の・・・


悲痛に叫ぶ天使。
だが、届かない。
俺は走り、そして叫ぶ。
だが、それも遅すぎた。
時が止まり、世界が凍る。
沈黙の世界の中で、彼女は悪夢の世界へといざなわれる。
そして、生まれ落ちたもう一人の天使。
その背には、紅の翼。
真っ赤な、紅の翼を、ゆっくりと広げていく。
まるで、その使い心地を試すかのように。


グッ!!!!
あのことを思い出してしまった瞬間、心臓を鷲掴みにでもされたかのようになる。
動悸が早まり、眩暈に襲われでもしたかのように頭の中がグルグルと回転し始める。
思わず、家に逃げ帰ってベッドにもぐりこんで全てを忘れたくなった。
しかし、そんなことができるはずはないし、許されるはずもない。
俺は苦労して肺の中に空気を無理やりに詰め込み、呼吸を何とか整える。
そして、周囲の人間に気づかれないように小さく頭を振って冷静さを取り戻す。
そうだ。
こんなところで、早々とリタイアするわけにはいかない。
俺にはしなければならないことがあるのだから。
そう、それが俺にできる唯一のこと。
それが俺の、「償い」なのだから。



そうだろ?・・・・なぁ、智也?

>>一章へ





---あとがき----
どうでしょうか、このメモオフナイトメアは?
暗すぎる〜、重すぎる〜、というご批判が目に浮かぶようです。
何よりまだプロローグだけですし、そもそも主人公は誰なんだ〜、という方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、最後のキーワードで、大半の方はお気づきでしょう、そうです!
このナイトメアの主人公は、本当はいい奴なのに、最初から最後まで報われず、
それにも懲りずにしつこくセカンドにまで登場して、結局報われない「S」君なのです!
ところでこのSSは、某HPに掲載して頂いていたのですが、諸事情によりこのHPに掲載して頂くことになりました。
その際、改めて客観的に見直してみたところ、かなり恥ずかしい部分が多々あることに気づき、
リニューアルを決意いたしました。自分としては、それなりによくなったと思っているのですが、
感想の方をぜひお聞かせくださいm(_ _)m
それでは今日はこの辺で(^o^/~~~~~

Produced by コスモス  deepautumn@hotmail.com



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