占いの行方
作:メンチカツ




『やぁ!みんな!俺の名前は三上智也!澄空学園に通う、人類史上最高にモテモテな高校生さ!』
「ってバカーーーーー!」
 はぁはぁ、変な夢を見てしまった……。
 大体今の俺は社会人だってのに、何であんな夢を見たんだろう?
「とりあえずシャワーでも浴びてくるか……」
 目を覚ますのと寝癖だらけの髪を整えるため、俺はシャワーを浴びた。
 今は夏なので冷たいシャワーが心地いい……。
 シャーーーーー……
「……ふぅ、シャワーが身に沁みるぜ……」
 胸元にキラリと光るシルバーペンダント……はないが、とりあえず当初の目的は果たせたからいいだろう。
 シャワーも浴びてさっぱりとした俺は、いつでも出かけられるようにパリッと糊のきいたスーツを……着たりしないが、カジュアルな服を着た。
 実は今日は唯笑と出かける約束があったりする。
 時間はまだ1時間あるからまだまだ余裕……
 ピンポーン……
「一体誰だ?これから大切な用事があるってのに……」
 とかいいつつ誰かは分かっている。
 ガチャッ……バン!
「と〜〜もちゃ〜〜〜〜〜ん♪」
 俺が鍵を開けるとほぼ同時にドアを開けて入ってきたのはもちろん唯笑だった。
 いつものように黄色いカチュ−シャをつけ、外へ広がり気味のボブヘアーがふわりと風に舞う。
 まるで元気そのもので出来ているかのように唯笑は俺の胸に飛び込んで来た。
「おいおい唯笑、まだ約束の時間まで1時間もあるぞ?」
「だってぇ〜、早く会いたかったんだもん。えへ♪」
 ちくしょう!可愛いぜ!唯笑!
「そーだ!ねぇねぇともちゃん、唯笑ねぇ占いの本持ってきたんだぁ♪」
「占いの本?」
 というか唯笑さん、今日は二人で出かける約束では?……まぁ、1時間くらい余裕あるからいいか。
「今一番はやってるやつでね〜、本一冊まるまる占い本なの!」
 ……普通そうだろ。
「唯笑、占いの本なんだからまるまる占い本なのは当たり前だろ?」
「そうじゃなくってぇ〜、ここだ!って開いた場所に運勢が書かれてるんだよぉ〜」
「……なに!?ちょっと貸してくれ!」
「うん、唯笑まだやってないけど、智ちゃんならいっか♪」
 唯笑から占いの本を受け取り、閉じたまま集中する。
「……うー、ここだ!」
 本の綴じ目に指を入れ、開く。
『思うままに行動しなさい』
 …………。
「なんだなんだ?中身は結構普通だな」
「え〜?そうなのぉ〜?」
「ちょいまち、もっかいやって見る」
「占いは一回だけなんだよ〜?」
「いいからいいから」
 唯笑をなだめ、もう一度集中して……
「どうだ!?」
『欲張りは破滅を導きます』
「……む、当たってんのか?」
「なんて書いてあったのぉ?」
「秘密だ!」
「じゃぁ今度は唯笑の番だね」
 何気に浮かれてる唯笑に本を返す。
「じゃぁいくよぉ〜!」
 そして……
「ここ!」
 ……悲劇は始まった。

『悪夢の扉が開きました』

「きゃ!」
 唯笑は本を落っことした。
「なにやってんだよ唯笑、ほら」
 本を拾い上げて唯笑に渡す。
「う、うん、ごめん智ちゃん……」
「どうしたんだ?」
「よくないことが書いてあって……」
「そういう時は俺みたいにもう一回やるんだよ。外したらもう一回。いい結果が出るまでやるんだ」
「……それは反則だと思うけど……やってみる」
 再び唯笑は集中し……
「ここ!」
『もう逃げられない』
「……ここ!」
『もう逃げられない』
「ここは!?」
『もう逃げられない』
「じゃぁ次は……!?」
「どうしたんだよ唯笑!」
 急に取り乱した唯笑……というより青ざめた表情が気になり、その手から占いの本を奪い取った。
「ともちゃん……その本見て……」
「は?」
「いいから……ページを開いてみて!」
「……わ、わかったよ」
 言われて俺は適当にその本を開いた。
『もう逃げられない』
「なんだこれ?」
 ペラペラペラ……
「……なんだよこれ……」
 どのページを開いても、『もう逃げられない』しか書かれていない。
 それどころか、さっき見たはずの『思うままに行動しなさい』などの結果すらどのページにもなかった。
 その時だった。
 ビュゴォォオォウ!
 開きっぱなしにしていた窓から物凄い突風が吹き込み、本を落としてしまった。
「うお!?」
「きゃぁ!」
 やがて風が吹き止む。
「凄い風だったな……」
「う、うん……」
 唯笑はまださっきの恐怖が残っていたのか、返事に元気がない。
 パラパラパラ……
 物音にふと床を見ると……風の名残に本がめくられていく。
 そして……
 パラッ
『今日一日、麺から逃れることは出来ない』
「…………」
「…………」
 俺と唯笑はさっきまでの雰囲気もどこ吹く風であんぐりと口を開けていた……。

 そして1時間後。
 最初のうちは気にしていたものの結局何事もなく、次第に俺と唯笑はあの占いの本のことを忘れていった。
「唯笑、そろそろ腹減らないか?」
「そうだねぇ、お昼ご飯にしよっか♪」
「適当な店探して済ませよう」
「うん、美味しいお店だといいねぇ♪」
 しばらく繁華街をうろつき、すっかり占いのことを忘れていた俺たちは一軒のラーメン屋へと入った。
 そしてそこで、俺たちはあの占いの意味を知ることになったのだった。
 ガラガラガラッ
「よくのこのこと顔出しやがったなぁ!」
 いきなり店員に怒鳴られる。
「え!?い、いや、あのちょっと……」
「ともちゃ〜ん、こわいよぉ!」
「おら!さっさとあの席に座れや!」
 俺達の席をあごで示される。
「いや、あの……え?」
「なんだぁ!?俺が決めた席に文句でもあんのか!?」
「いや、別に……ないです」
「ともちゃんともちゃんと〜も〜ちゃ〜〜ん!」
 ほぼ半泣きの唯笑をなだめながら指定された席へと着席した。
 辺りを見回してみると内装は普通なのだが、客は俺たち以外もちろん誰もいなかった。
「なぁにキョロキョロしてやがる!さっさとメニュー決めやがれ!」
「アワワワワ(爆弾に近づいたボ○バーマン風に)、じゃぁチャーシュー麺と……唯笑は?」
「何でもいいよぉ!」
「じゃじゃじゃじゃぁ、チャーシュー麺2つ!」
「ああ!?生意気なガキが。親方ぁ!チャーシュー麺2つだとよぉ!」
 店員の報告に、奥の厨房から声が帰ってきた。
「あ?チャーシュー麺だとぉ?めんどくせぇもん頼みやがってぇ!!」
 ……なぜだ……一体何故こんなことに……
 唯笑と二人ショボーンとしてるうちに時間がたっていたのだろう。唐突に怒声が響いた。
「おらぁ!チャーシュー麺2つぅ!作ってやったぞぉ!」
 やはり料理人としてのプライドが許さないのか、親方らしき人は意外に丁寧にラーメンの器を置いた。
 そしてそれを店員が運んでくる。
 ドン!
「おら、親方が精魂込めて作ってくださったチャーシュー麺だ。有難く食いやがれぇ!」
(あんただあんた!あんたが台無しにしてんだよ!)
 目の前でつゆを大胆にこぼされた俺は、心の中で愚痴をこぼした。
 店員は入り口の椅子に座り込み、「ゲハハハハハ!」と悪魔のような声で笑いながらテレビを見ていた。
 テレビの内容はフジテレブの「笑っていいとこ!」というそれほど笑える場面はない番組だ。
 クイクイ星から中継しているとか、タモルのワンマン番組であるとか、店員の途切れることのない笑い声に一体何がそこまで面白いのかと考えていると、
「……(ともちゃん、早く食べて出ちゃおうよ!)」
 と、唯笑が小声でせかしてきた。
「ゆっくり食べてもいいだろ?」
 俺は普通に唯笑に答える。すると……
「てめぇ!なにくっちゃべってやがる!さっさと喰いやがれ!!」
 怒鳴られた。
「(ほらともちゃん、はやくたべたほうがいいよぉ!)」
「(確かに、そうだな)」
 唯笑に同意した俺は、5秒で流し込み、席を立った。

「お勘定お願いします」
 結構ムカついていたが、一応丁寧にお願いしてみる。もしかしたら、ということもある。
「チッ!ようやく喰い終わりやがったか……おら、1200万円だ。さっさと金だしな!」
「はい、1200円」
「……おいおいおい、俺は1200『万円』つったろーが?聞こえなかったのか!?ああん!?」
 ……ブチきれた。
「おらぁ!これでも食らえやぁ!!」
 ズドガゴォン!!
 俺の黄金の右が唸る。店員は壁をブチ抜いて吹っ飛んでいった。
「釣りはいらねぇ、とっときな」

 ……なんてことにはならないよなぁ。
 結構ムカついているせいで物騒な想像をしてしまった。
 とりあえず受付で精算をする。
 受付には金髪の派手な女の人が立っていた。そのすぐ側で、あの店員が悪魔の笑い声を上げていた。
「お勘定お願いします」
「はいよ、何食べたんだい?」
「チャーシュー麺2つです」
「えーっと……1500円だけど……1000円でいいよ」
 ニコリと笑いながらそんなことを言う。
「え?いや、悪いですよ……」
「そうだよぉ、唯笑たち、こういうことはしっかりしておきたいんです」
 いつのまにかすっかりいつものペースに戻った唯笑は、財布から1500円を出そうとした。
「いいんだよ、気にしなくて。ほら、うちら態度悪いだろ?だからさ、その分割引してるんだよ」
 まぁ、態度が悪いとかそれ以前の問題のようにも思うが、そういうことなら甘えてもいいかもしれない。
「はい、それじゃぁお言葉に甘えさせてもらいます。ご馳走様でした」
「うん、すっごく美味しかったですぅ!ご馳走様でしたぁ♪」
「いままで二度来た客はいないけど……出来たらまたきておくれよ」
 受付の女性は、その姿に似合わない寂しそうな笑顔でそういった。

「唯笑、またあの店行こうな」
「うん、行こうね、ともちゃん♪」
 意外かもしれないが、チャーシュー麺の味は確かに美味しかった。今まで食べたどの店よりも美味しいと思った。
 確かにあんな対応は2度も受けたくない。次回行こうと思わない他の客の気持ちもよく分かる。
 だが、だがしかし。
(……出来たらまた来ておくれよ)
 あの受付の女性の声が頭にリフレインする。
 あの受付の女性の寂しそうな笑顔がフラッシュ・バックする。
 確かにあの対応には嫌気がさすが、あの味をもう一度味わえるならいいかもしれない。あの店員さんが笑ってくれるのならいいかもしれない。
 なぜか、そう思えた。
(へ、占いの結果も考え次第で変わるもんだな)
 占いによれば最悪の結果になるはずだった今日。
 だが、俺たちにとって、新しい出会いをくれたいい一日だった。
 そう、全てはそれを受け止める心次第。
 世界のあり方は、心で変わるのだ……



あとがき

久々のメモオフSSいかがでしたでしょうか?
ストーリー自体は本編と何も関係ないですが、笑っていただければ幸いです。
おいらの言いたいことは伝わったかなぁ?
伝わったら嬉しいねぇ。
言葉で表せるものじゃないけどね。
次はレジェンド・メイカーズ第3章その5でお会いしましょう。
ではでは。
あ、ここがあの女性店員へのシナリオの分岐点だったりするかもしれませんが、興味ある人、シナリオ書いてみて!Σ( ̄□ ̄;)!? 




感想BBS



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送