----- レジェンド・メイカーズ!! -----
第3章『真実・仲間・試練』その6
作:メンチカツ



「別れの挨拶はもう済みましたかな?」
 ブレアムが不敵に笑いながら言う。
「なによ、待っててって言ったら待っててくれるの?」
「ふむ、これは一本取られましたな。でははじめましょうか?」
 なんとか痛みをこらえ、呪文を唱える私。フェレットも呪文を唱えている。
「大気を漂う水たちよ!氷となりて全てを貫け!−氷の矢−『イエロ・フレチャ』!!」
 私の放った氷の矢がブレアムに向かって突き進む。
「……この程度の魔法が通じると思っているのですかな?」
 ブレアムは氷の矢を片手でなぎ払った。
「全てを燃やす炎たちよ!矢となり力となりて打ち砕け!−火の矢−『フエゴ・フレチャ』!」
 フェレットの放った火の矢はブレアムに向かって……進まない!?
「どこを狙っている?」
 火の矢はブレアムとはまったく関係ないほう……上方へと飛んで行った。
 だいたいブレアムは火の精霊。火炎系魔法は通じないのに……。
 ゴウン!
 火の矢は天井にぶつかり、燃え上がる。その光はあたりを照らした。
「……これでこのホールの全景が見えるわね」
 そうか!フェレットは暗闇に隠れた向こう半分を炎で照らし、封印に関するものを見つけようとしたのね!
 だが、照らし出された残り半分の空間にもそれらしきものはない。ただただ岩肌がそこにはあった。
「なるほど、そういうことでしたか」
 ブレアムが呟く。
「フェリス・レットアートの封印を探しているのなら……無駄ですよ」
「!?」
 一体……どういうこと?ブレアムがここを支配していることから封印のことを知っているのは分かる。
 だけど……
「ふん!」
 ブレアムは腕を振るい、後ろの壁を壊した。
「あれは!」
 そこに現れたのは大きな水晶に閉ざされた一人の女性の姿だった。亜麻色の長いストレートの髪、白を基調とした洗練された鎧。さらには短めのマントに長い剣を帯刀している。
 だが、一目見て美しいと思われるその顔の双眸は閉じられたままだ。
「私の……体……」
 フェレットが呟く。
 三千年ものあいだ封印され続けてきて、ついに本来の体を解き放てるときがきた。その思いはどんなものなのか……。
「確かにあの女の体はここに封印されている。だが……」
「……なによ」
「封印を解くにはこの私を倒さねばならぬのですよ」
 ずいぶん自信たっぷりじゃない。
「余裕たっぷりな言い方ね。後悔しても知らないわよ!……フェレット、コスモス、暇人、いくわよ!」
「やってやりますか!」
「了解っす、師匠!」
「私の体……取り戻してみせる!」
 なんにせよあいつを倒せばいいってこと!
 やるべきことが一つに搾られたみんなは、俄然気合が入る。
「さくさくいくぜ!」
 暇人が魔法銃の引き金を引く。さっきよりも弾の威力、スピード、大きさが違う。
 それに乗じてコスモスが走る。
「無駄だ!」
 魔法銃の弾がかき消される。
「風よ!渡りて汝の姿を彼の者に!−風の姿−『アイレ・フィグラ』!」
 フェレットの魔法で、コスモスの姿が消えた。
「く!小賢しい!」
 ブレアムが火を放ち、大地を燃え上がらせる。これでは近づけないだろう。
 だが、そうはさせない!
「……−凍れる大地−『エラル・ティエラ』!」
 私が指定した範囲の大地は急速に冷やされ、凍て付き、ブレアムの放った火すら凍結、粉砕し、消滅する。
「何!?」
 さらに駄目押しにフェイントとして暇人が魔法銃を放つ。
「……く!」
 判断に迷ったブレアムは対応が遅れ、魔力の弾が命中する。
「ぐぉはぁ!?」
 よろめくブレアム。だが、まだ攻撃は終わらない。
「葵流迅剣術・『鋼劉斬』!」
 上空に姿を現したコスモスが、青く輝く刀身にその全体重を乗せた鋭い一撃を浴びせる。
「ぐあああああ!!」
 右肩から腰辺りまでを切り裂かれたブレアムが、苦痛に叫んだ。
「……ぐぅ、貴様ら、よくもやってくれたな!」
 ブレアムはそう言いながらゆらりと立ち上がり、そして……消えた!?
 遅れてブレアムのいた場所から私のほうへと地面を火が走る。
「……!?」
 声も出なかった。
 避けようとした私の横腹に強烈な衝撃が走る。ブレアムが後ろに接近し、蹴りを放ったのだ。
 そのまま私はフェレットの体が封印された水晶の、左側の壁に叩きつけられた。
「……かふ」
 軽く口の中が切れて血を吐いた。
 私が叩きつけられた衝撃でさらに壁が崩れる。
 そこには……

「ぐあ!」
 ブレアムの攻撃にコスモスが吹き飛ばされる。
「このやろ!すばしっこいやつめ!」
 暇人が魔法銃を構える。……が、
「いない!?」
 そして後ろに生まれる気配。
「……くそ!」
 すばやく振り向く暇人だが、そこにもブレアムはいなかった。
「あまり調子には乗らないことだな」
 暇人はすぐ側でブレアムの言葉を聞き……一瞬遅れて衝撃を感じていた。
「ぐあぁ!」
 そのまま崩れ落ちた。
「さて、この者たちは後で処分するとして……まずは芽を摘んでおきますかねぇ」
「く、−氷の矢−イエロ……ふみゅ!?」
 ブレアムがフェレットの喉を掴む。
「くっくっく、無駄なあがきですねぇ。……死ぬがいい!」
 ブレアムがフェレットを掴む手に力を入れようとする。
 コスモスも暇人も動けない。
「そうはさせないわ!」
「何?」
 ブレアムがこっちに気を取られた。
「光よ輝け!−光−『ルス』!!」
 私が唱え、生みだした魔力の光は……ブレアムの目の前に現れ、弾けた。
「ぐぁ!?」
 フェレットを手からこぼすブレアム。その隙にフェレットは距離をとった。
「……下らんことを!」
「それはどうかしら?」
「なに?……どういうことだ?」
 私のその言葉にブレアムの表情が曇る。
「あんたのおかげで見つけることが出来たわ」
「……何を言っている!?」
 はっきりと答えを言わない私に煮えきらず、怒鳴るブレアム。だが、これで完全にブレアムの意識はこっちに向いた。
「教えてあげるわ。よく見てなさい!」
 そして私は……封印を解く呪文を唱え始めた。……そう、私が叩きつけられ、崩れた壁には呪文が書いてあったのだ。私は壁に向き直り、それを唱えた。
「思い馳せるは春の夢、人の心を包むもの!
 思い出すは夏の夢、人の心を守るもの!
 思い耽るは秋の夢、人の心を深めるもの!
 思い沁みるは冬の夢、人の心を癒すもの!
 全ての思いはひとつとなりて、四季は過去と未来を紡ぐ!
 四季の夢よ、四気となりて過去に忘れ去られし者を覚醒せよ!
 歴史の裏に沈みし者よ、愛と勇気と夢と心を手にして立ち上がれ!
 我が呼びかけに答え、繋がりし歴史の架け橋を亘れ!」
 だが私は気付いていなかった。このときブレアムが……笑っていたことを。
「今こそ長き眠りから覚めよ!勇者ウドフィーよ!」
 そして呪文を唱え終わった。
 静まり返る洞窟最深部のホール。
 何も起こる気配がなく、私は不安になった。
「ルルルルォォオオオオオオオオオオ!!」
 突如ブレアムが吠えた。
 ドクン!
 ひときわ大きな鼓動があたりに響く。
「い、一体何がおきてるの!?」
 何とか立ち上がったコスモスや暇人も、動けずにその成り行きを見守っている。
「ふはーっはっはっはっはっは!……安心するがいい、娘よ。光の戦士の封印は解けている」
「……どういうこと?」
 荒い息をつきながらもブレアムは私の質問に答えた。
「……くふぅ……気付かないのかね?なぜ光の戦士の封印があるのかということに」
 ブレアムは一体何が言いたいのか?何を知っているのか?
 私達は、その後のブレアムの答えに愕然としたのだった……。

「まる!ミスティ!」
 薄暗い広々とした部屋の中、細かい模様の施された玉座に座る者がいた。声はその者が発した物だった。
『我らはここに』
 二つの闇が現れ、人の形をとる。
「マスター、お呼びでしょうか?」
「予期せぬことが起きた。直ちに明たちのもとへ行くぞ!」
 そう、そこにいたのは明たちも会った事のあるまるとミスティ、そして彼ら闇の一族の王にして闇に属する全ての精霊たちを従える闇の神王メンチカツだった。
「何かあったのですか?」
 まるの問いに、しかしメンチカツは答えなかった。
「今は時間が惜しい。説明は後だ!行くぞ!」
『ハ!』
 まず、まるとミスティの姿が消えた。
「小物と思っていたが、まさかあのような秘密があったとは……急がねば」
 メンチカツは立ち上がると一言呟き、そこに謎を残して消えた。

 なぜブレアムが勇者の封印のことを知っているのか?そしてなぜ封印が解けていることが分かるのか?
 その答えは、ブレアム自身の口から語られ、私達は驚きを通り越して愕然とすることになった。
「貴方達はおそらく、かつての戦いで光の戦士は魔王を封印し、その後死んだと伝えられているのではないですかな?」
 確かに、世の人たちは知らない話だが私達はそう聞いていた。
「だが、違うのですよ。光の戦士は死んだのではない。その命をもって我らが三イビルが一人、ルシャナ様を封印したのだ」
 なるほど、そういうことか。ということは……勇者の封印は解いてはいけなかった!?
「……ぐ!ふぅ……その様子を見ると貴方は理解されたようですねぇ。今、貴方達が置かれている状況を」
「どういうことなの?」
 フェレットが近づき、聞いてきた。コスモスと暇人も側に来た。
「勇者ウドフィーは命の封印をルシャナに施した。そして今、勇者の封印を解いた」
「それって……まさか!」
 コスモスの顔色が青くなる。
「そうよ。……ルシャナの封印も解けたって事」
『!?』
 みんな声も出せない。そう、旧地球をたったの2時間ほどで滅ぼし、手の一振りでこの洞窟を作ってしまうような、恐ろしい敵が復活したのだ。
「そしておそらく、ルシャナはブレアムに封印されていた。だから、勇者の封印が解けたかどうかが分かった」
 皆の視線がブレアムに移る。詳しいことを知らない暇人も、魔王の復活と聞いて事の重大さを理解しているのだろう。
「くあぁぁ!?……くっくっく、もうすぐルシャナ様は復活する。安心してください?フェリスレット・アートよ。ルシャナ様の復活で私は滅びる。貴方の封印も解ける。光の戦士もこの世界のどこかにいるだろう」
「……く!」
 フェレットがブレアムを睨みつける。
「もっともルシャナ様が復活され、貴方達がどれだけ生きていられるかは存じませんがね。……クックック、ハーッハッハッハッハッハッハ!」
 ブレアムが高らかに笑う。そして……フェレットの体が封印されている水晶が輝きだす。
 そして……
「ぐおおおおああああぁぁぁぁあ!!」
 叫び声を上げ、ブレアムが倒れる。それと同時にフェレットの姿が消えた。
 そこに二つの闇が現れ、遅れてもう一つの闇が現れる。
 それは形を変え、瞬時に人の形をとった。
 そして、まるとミスティではない、見知らぬ男が叫ぶ。
「今すぐに逃げるぞ!」
「ち、ちょっと待ってよ!貴方は誰なの!?」
 私の質問に、ミスティが答える。
「我らがマスター、闇の神王メンチカツ様よ」
『!?』
 みんなの間に衝撃が走った。無理もないだろう、精霊はめったに姿を現さず、普通の人が下級の精霊に出会える確率も一生に一度あるかどうかなのだ。
 だけどこの旅をはじめてから妙に出会うことが多い。しかも上位の精霊に。
 だがメンチカツは、私達に驚く暇も与えてはくれなかった。
「いそげ!ルシャナが復活するぞ!」
「待って!フェレットがまだ……」
 そういいながら振り返ると、水晶の中にフェレットはいなかった。
「あれ?」
「おまたせ、明」
 そういったのは、フェレット……いや、聖女フェリス・レットアートだった。
「全員そろったようだな。まる!ミスティ!脱出するぞ!」
『ハ!』
 返事を返したまるとミスティは、まるが暇人とコスモスを、ミスティが私とフェリス・レットアートを掴み、闇を作り出した。
 みればメンチカツは巨大な闇の珠を作り出している。
「マスター!」
「行け!私もすぐに行く!」
「ハ!」
 そして私達の視界は一瞬消え、気付けばハッピーレインボウが視界に入る上空にいた。

 私達と少し遅れて、メンチカツも現れた。
「闇の結界を作ってきた。被害をどれだけ抑えられるか……」
 そして……あの洞窟があった辺りに変化が現れ始めた。
 なにかたまに光っている。爆発だろうか?
 だがそれもやがて収まり……黒い点が見えた。
「あれは……?」
 私がそういったときだった。
 ズドドドドドドドドドドドドドドド……
 大きな音が連続して響いてくる。
「ルシャナが私の結界を壊そうとしているのだ」
 音が止んだ。
 辺りを静寂が包み込む。
「もしかして結界に封じ込めれたとか?」
 暇人がそう言う。
「それならば、いいのだがな」
 メンチカツは一点を見つめたままそういい……、
「だが、そうも行かないようだ」
 そんなことを言った。
 なんのことだろう?
 私達がそう思ったときだった。
 ドゴォン!!
 物凄い音が響き……そして悲劇が訪れた。
 ズドドドドォォォォォォオオオオオオオ!!
 巨大な、あまりに巨大な黒き光が噴き出した。
 そして、私達が見守る中で……ハッピーレインボウは、地図上からその姿を消したのだった。




続く



あとがき
なんか物凄い展開になっちゃいました。
いいのかなぁ?作者が一番心配です。
ついに封印が解けたフェレット。
そして偶然見つけた勇者の封印。
そして蘇る……ルシャナ。
そこに現れたメンチカツ。
勇者は一体どこにいるのか?
復活したルシャナの行動は!?

次回レジェンド・メイカーズ第4章その1!!
お楽しみに!

レジェ魔法語録(やっぱ綴りはいいや)
イエロ=氷
フレチャ=矢
アイレ=風
フィグラ=姿
エラル=凍る
ティエラ=大地
ルス=光
まぁ、もうその魔法名そのまんまです。
綴りなかったらこのコーナーいらないかも?
それでは次回あいましょう!



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