----- レジェンド・メイカーズ!! -----
第4章『過去に囚われた想い』
作:メンチカツ

その1

 目の前で天を貫くかのように噴き出していた黒い光が収束していく。
 そしてそこにはハッピー・レインボウの大地は跡形もなく、ただ深遠なる海が顔を除かせていた。
 その光景に圧倒されていると、まるとミスティがメンチカツの後ろへと回り込んだ。
 ズドォン!
 私達が振り向くよりも早く爆音が轟く。
「!?」
 振り向いた先にあったのは防御壁を展開しているまるとミスティの姿だった。どうやら何者かが攻撃をし、それに気づいたまるとミスティがそれからメンチカツを護ったのだろう。
 そして、その二人の視線の先には……
「やっぱり防がれちゃったか……」
 攻撃を仕掛けたと思われる、一人の女性の姿があった。
 私達は驚愕した。その姿に。
 整った顔立ち、すらりと伸びた肢体。そのスタイルは完全を保っていて、言葉に表すならばまさに絶世の美女と言えるだろう。
 妖しく濡れた唇がそのスタイルとあいまって、男はおろか女性の心さえも……いや、全ての生物を虜にする美貌だった。
 だけど……その切れ長の瞳は恨みと殺意でどこまでも冷め切っていて、その美貌を打ち消してただただ恐怖を振りまいている。
 長く……その身長よりも長く伸ばした髪が風になびく。
「貴様が……」
 不意にメンチカツが呟いた。
「一応お礼を言っとく。ありがと、封印を解いてくれて」
 見た目とは裏腹にきゃぴきゃぴした声がその唇から紡がれた。
 しかし、今の台詞からすると……
「まさか、あなたが……?」
 思わず私は聞き返してしまった。どうしようもない違和感を感じて。
 だが、その返答は予想通りのものだった。
「そうよ。私が三イビルが一人――ルシャナよ」
 だけど、その言葉を聞いても私が感じた違和感は消えなかった。そう、今もそれはそこに在った。
「なぜなの?」
 だから私は聞いた。
「…………?」
 ルシャナは分かっていないらしい。
「なんで?どうして……本当にあのルシャナなの!?」
 伝説から、『深遠なる闇の瞳』により得た真実からは想像もしなかった違和感。
「……あんた一体何なの?ちょームカつくんだけど」
 ルシャナがイラついたように問い返す。
 だから私は、はっきりと言った。その違和感を。
「何でそんな格好なのよ!?」
 ……そう、なぜかルシャナは白のタンクトップにジーンズという、非常にラフな格好だったのだ!
「ハァ?別にいいじゃん。あんたには関係ないでしょ?私は旧地球でのこのファッションが好きだったのよ」
 まさか悪意の権化といわれる三イビルがファッションに好みがあるとは。
「そんなことはいいじゃない、あんた達はもう死ぬんだし?」
 その言葉に一瞬にして辺りに緊張が張り詰める。
「まる!ミスティ!」
『は!』
 メンチカツの指示をすぐに遂行できるよう二人の大精霊が身構えたときだった。
 彼らの組する闇の一族の王、メンチカツから意外な命令が下された。
「手を出すな」
『!?』
 手を出すなとは一体どういうことなんだろう?あの闇と光の神王や精霊神たちが集まった勇者ウドフィーでも封印するので精一杯だった相手だ。いくら復活したばかりで力が低いと予想できても、ひとりで戦って勝てるとは到底思えないけど……。
「マスター、どういうことですか!?」
「マスターのお考えを聞かせてください!」
 まるとミスティが問いただす。
 だが、ルシャナにはこっちの事情なんて関係ない。
「なんか取り込んでるとこ悪いけどさぁ、さっさと死んでもらうわよ」
 そういってルシャナは両手にこぶし大の黒い光を生みだした。
「……って、ほとんど力は残ってないかぁ。やっぱ続きはまた今度ね〜」
 ルシャナはそんなことを呟き、両手の黒い光を放った。
「!?」
 相手の態度が態度なだけに対応が遅れた!
 暇人はマントで庇うようにし、コスモスは咄嗟に両手を交差させる。
 私もそれに備えようとしたとき、フェレットが飛び出した。
「ハァーーーーッ!!」
 裂帛の気合と共に剣を上段から真下へと振り下ろす。
 高速で振り下ろされた剣からは三日月形の光が放たれ、ルシャナの放った二つの黒い光を易々と切り裂いた。
 フェレットの放った衝撃光によって四つに切り裂かれた黒い光は、その軌道を変えて運良く海面に激突して爆発し、激しい水しぶきを上げた。
 そしてルシャナは……すでに姿を消していた。

「マスター、御説明をお願いします」
「なぜ、ルシャナと戦ってはいけないのですか?」
 ルシャナが姿を消した後、私達は闇の一族の住まう居城、『ミルディアム』へと転移していた。その中の一室、神王の間についてすぐに、まるとミスティがメンチカツを問いただしたのだ。
 だけど、まるとミスティの問いにもメンチカツは黙したまま。辺りは重過ぎる沈黙に支配されていた。
 そのままどのくらいの時間がたったのだろうか?考えがまとまったのか、メンチカツはゆっくりと語りだした。
「ルシャナと戦ってはならない理由……それは唯一つ」
「それは?」
「それは一体なんなのですか?」
 幾分落ち着いた様子でまるとミスティが再度問う。私達は言葉を挟まず、ただ聞いていた。
「勝てぬからだ」
『!?』
 それはあまりにも簡単な理由だった。勝てないから戦わない。ただそれだけ。だけど、その答えではまるとミスティは納得しなかった。
「勝てないかどうかなんて戦ってみなければ分かりません!」
 まるが興奮してまるで挑むかのように叫んだ。しかし、それにもメンチカツは動じずに答えた。
「それでは駄目なのだ。確実に勝てる保証がなくては」
「なぜです!?」
「私は護らなくてはならないからだ。……私に仕えてくれる、仲間を。我ら闇に属する仲間達を!」
『!!』
 まるとミスティは言葉を失った。メンチカツの、いや、闇の神王の重い叫びに。
「ルシャナは人間を憎んでいる。手を出さなければ我ら精霊まで滅ぼすことはないだろう」
「ではなぜ明達を助けたのですか!?」
「あのときはまだルシャナも復活してはいなかった。復活しないのならそれに越したことはない。それに無駄に死なせることもないだろう。私とて、人間が嫌いなのでは無いからな。いや、むしろ護ってやりたいとさえ思っている」
「では!」
「駄目なのだ!」
 メンチカツの一喝に、まるとミスティがびくりと震える。
「私は誓ったのだ!闇の一族を護って見せると!」
 私達には何のことだかわからない。その言葉に込められた思いはどれほどのものなのか?私達にはそれを知ることは出来ないだろう。きっと、想像することさえも。
「オレには……オレには納得できません」
「私もです。……失礼します」
 まるとミスティはそういい残して出て行った。
 そしてまたもや辺りに沈黙が下りた。
 なんかいや〜な雰囲気。私はこういうのが苦手……っていうか、嫌い!
 私はこの際だから、いろいろ質問することにした。
「闇の神王メンチカツ様にお聞きしたいことがいくつかあります。お答え願えますか?」
「明ちゃん……メンちゃんって呼んでくれないのぉ?」
「……ふみゃ!?」
 私は思わず間の抜けた声を出してしまった。何か聞き違えたのかな?
「げふんげふん!ンッンッ!……私のことはメンチカツでよい。それと堅苦しいのはあまり好まぬ。普通に話してくれ」
「分かりました」
 とりあえずさっきのは無視して、私は話を戻すことにした。
「んじゃぁメンチカツ、光の神王や他の精霊神はどこにいるの?……いや、どうなっているの?」
「無論、存在している。だが、勇者ウドフィーはもはや光の神王の生まれ変わりではない。光の神王は新たに生まれ、光の眷属の住まう『ウィストラル』にて一族を統治している」
「地水火風の四大精霊神は?」
「四大属性の精霊神は二人ずつ存在していて、各属性一人ずつ闇と光の居城に存在している」
 それなら話は早い。この城にいるのならすぐに会いに行けるだろう。
「ってことはこの城にいるのね。精霊神たちの力を借りようと思うんだけど……OK?」
「お前達のレベルアップに力を貸すのはいいが、戦いに参加させることは出来んぞ」
 うみゅぅ、やっぱりそうきたかぁ。まぁ、それはさっきの話から予想できたし、力を貸してくれるだけよしとしなきゃ。
「それじゃぁ次だけど……イビルって極端な話、神王から生まれたのよね?なぜ倒すことが出来ないの?」
 これは結構気になってたりした。確かに生み出されたほうは生んだほうより絶対弱いなんて事はないし、弟子が師匠を超える話なんかもごまんとある。だけど、それにしてもメンチカツのあの発言は弱気すぎると思うんだけど……。
「それは……はっきりいえば神王は弱くなっていくからだ」
「……弱くなっていく?」
 これは想像もしてなかった。でもどういうことだろう?
「我らは『生まれ変わる』という言い方をしているが、実際に死んだ神王と同じ力を持った神王が生まれるわけではない。残ったものの中で一番力が強い者が神王になるのだ」
 なるほど、そうやって『生まれ変わる』たびに、徐々に弱くなっていく……ってことは?
「確か『深遠なる闇の瞳』では闇の神王のほうが生まれ変わった回数が多かったと思うんだけど……」
「そうだ。私よりも光の神王、『レイシア』のほうが力は強い。だがすでに和解しているから、頼もしい味方であり仲間だ」
「そうなんだ……」
 いざとなったら光の神王に協力を頼む方法もあるわね。……ウィストラルがどこにあるか知らないけど。
 さて……次は今一番気になってることを聞いてみようかな。
「それじゃぁ最後の質問なんだけど……」
 さっきのメンチカツとまる達の会話を聞いてからずっと気になっていたこと。
 そう、それは……
「ルシャナはなぜ人間を憎んでいるの?」
 確かにメンチカツは言っていた。ルシャナは人間を憎んでいる。だから、手を出さなければ何もされない。
 だけど本当にそれだけの理由で手を出さないのだろうか?私はなんか無差別に攻撃してきそうな印象があったけど……。
 なんにしろ、メンチカツの話を聞けば分かるのだろう。
 それに、なぜルシャナが人間を恨んでいるのかが分かれば……何かのヒントになるかもしれない。
「それは……」
「それは?」
 メンチカツが間を作る。辺りはシンと静まり、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る。
 ちょっとした沈黙。
 それを破って語られた答えは、予想をはるかに超えたものだった。
「……ルシャナが人間だったからだ」


続く





あとがき

長らくお待たせしてすみません!
いやー、ほんとウイルスに感染されたり雷落ちたりと散々でした。
まぁ、とりあえずここにレジェンド・メイカーズ第4章をお届けすることが出来てほっと一安心です♪
(これを書いているとき、いまだネットが出来ない状況……)

さて、急な展開を見せていたレジェンド・メイカーズ。
闇の神王メンチカツの想いの秘密は?
まるとミスティはいったいどうするのか?
ルシャナに隠された過去とは?
明たちはいったいこれからどうするのか!?
次回レジェンド・メイカーズ第4章その2でお会いしましょう!
アディオース!

ちなみに今回出てきた名前とかには別に意味は無いです。
造語です。(ウィストラルとかレイシアとか。なにかからぱくったわけでももじったわけでもないのであしからず)



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