----- レジェンド・メイカーズ!! ----- |
第4章『過去に囚われた想い』 |
作:メンチカツ |
旧地球のアメリカ国ニューハーレム州。こざっぱりとした町並みで犯罪率は低く、過ごしやすい地域であった。 そしてここで、悲劇は生まれた。 ピピピ……チュンチュン……チチチチチ……。 朝の気持ちのいい陽光が降り注ぎ、小鳥達のさえずりが聞こえてくる。 辺りには似たような造りの家が立ち並び、それぞれが朝を迎える準備を始めていた。 その中の一軒――メッシーニ家もその例に漏れず、朝を迎え入れるところだった。 ピーッピーッピーッピーッピー…… 2階の一つの部屋から目覚ましの音が鳴り響く。 「……ん〜……ふぁ」 ベッドに寝ていたのは少女だった。 彼女は目覚ましを止め、あくびをかみ殺しながらパジャマを脱ぎ、着替え始めた。ベージュのベストにブラウンのロングスカート、それに紺のジャケット。これで校章でも入っていれば、制服として通用しそうな服装だった。 着替えが終わり、階下へと降りて行く。 洗面所に着くと顔を洗い、肩口で切りそろえた髪を櫛で梳かした。 さっぱりと目が覚め、親と朝の挨拶を交わす。 「おはよー。お父さん、お母さん」 「あら、おはよう、シャルル」 台所で朝ごはんの用意をしていた母親が挨拶を返した。 「おはよう、シャルル。今日もいい天気だな」 新聞から目を離し、父親も笑顔で挨拶を返す。 彼女の名前はシャルル。このメッシーニ家の一人娘である。 「さぁ、ご飯の用意が出来たわよ」 「よし、じゃぁ食べようか」 「はーい♪それじゃぁ……」 『いただきます』 ごくありふれた家庭のワンシーン。 ごく普通の家の、ごく普通の幸せ。 ただ、この親子には確かな愛が感じられた。 やがて朝食が終わり、父親が出勤し、シャルルは新聞紙を手に取った。 日付は2843年5月18日木曜日。 やがて新聞を読み終えたシャルルが元気な声を響かせて家を出て行った。 「いってきまーーーす♪」 こうして今日も、いつも通りの一日がはじまる……はずだった。 『聖・アフラウネ州立高等学校』。 男子生徒923名、女子生徒923名、総生徒数1846名の普通の学校である。 アメリカの大抵の学校と同じように私服での登校が認められていて、近くに住むものは皆ここへと入学していた。 他の学校と比べると教室や廊下のスペースにゆとりを持っていて、その廊下を一人の少女が駆けていた。 2−C。そう書かれたプレートの教室の前でペースを落とした彼女は、歩いて教室へと入って行った。 「みんな、おっはよ〜!」 「あ、シャルルおはよー!」 「よ、シャルルちゃん。今日も可愛いねぇ〜♪」 「あんたはあっち行ってなさいよぉ」 『そーだそーだぁ♪』 シャルルの挨拶に次々と友人が集まり、馬鹿騒ぎが始まる。 シャルルはクラスの人気者である。誰とでも分け隔てなく付き合い、明るく活発で、何よりもその朗らかな笑顔が周りの者を魅了するのだ。 このクラスにもやはり不良と呼ばれる生徒は存在していたが、シャルルの自分を飾らず外見で人を判断しない性格の所為か、彼らとも良く打ち解けていた。 成績は普通で、運動能力も普通。部活動には入らず、放課後は気の合う友人達と青春を謳歌している。 シャルルは良く言えば運がよかった。 大抵これだけ人気があって好感度の高い者は、その反面嫉妬や妬みの対象となり、いじめに会うこともある。たとえシャルル本人がいじめられなくとも、他の誰か――無口、無愛想、雰囲気の暗いものなど――がその対象となりえるものだ。 だが、シャルルの持つ不思議な魅力はクラス中を包み、先に述べたような不良たちもそれらしい悪さは行わなかったのだ。 それは一つの不幸でもあった。人の負の感情、汚い部分を経験してこなかった。それゆえシャルルは純粋すぎたのだ。 確かにその純粋さが人気の一つではあったが、それが人生最大の不幸になることを今の彼女が知るはずもなかった……。 キーンコーンカーンコーン……。 少し離れた学校から、昼休みを告げるチャイムが聞こえてきた。 「こちら『モンキー・エイト』、『エイプス』応答せよ」 学校の正門から延びる大通りに、一台のワゴン車が止まっていた。車内は薄暗く声の正体は分からないが、男だろう。 助手席に座った黒スーツを着た男が、無線を手にして何事かをしゃべっている。 『……こちらエイプス。報告しろ』 無線からノイズの混じった耳障りな声が聞こえる。 「定時報告。ターゲットの通う学校が昼休みに入った。通行者ゼロ。異常なし」 『了解。見張りを続けろ』 「了解。報告を終了する」 助手席の男は無線を切り、小さく溜息をついた。 「あと2時間か……」 平日の昼。学校の正面のせいかまったく人通りがない。監視に都合がいいといえばいいのだが、いかんせん変化がないと言うのはつまらないものだ。 だが、この男達はつまらないなどと言ってはいられない。彼らの参加しているこの計画は、アメリカ国のトップ・シークレットなのだから。 「シャルル・メッシーニ。身長167センチで体重55キロ。アメリカ国籍でニューハーレム州生まれ。結構かわいいなぁ。」 同じく黒いスーツを着た運転席の男が、振り返りざまに微笑むシャルルの写真を見ながら呟いた。 「おいおい、いい年して色気づくなよ。それに恋人なんて、俺たちには一番縁遠いものだろ?」 「はっはっは、違いない」 二人の男はくだらない話を交わしていた。不意に車の時計が、一瞬小さな音を鳴らした。 「もうこんな時間か。……じゃぁ、『確認』にいってくる」 助手席に座っていた男が黒いアタッシュケースを持った。 「あぁ、せいぜい気をつけてな、『D』」 <D>と呼ばれた男が車のドアを開け、外へ足を出しながら運転席の男に返答した。 「あぁ、慎重に行ってくるよ、『T』」 そして<D>は正面にそびえる高校へと向かって行った。 <D>は1時間ほどで戻ってきた。 「時間掛かったじゃねぇか、<D>」 「慎重に行ったからな、結構ひやひやしたよ。案外授業中でも生徒やら先生やらうろうろしてるもんなんだな」 彼らはその後しばらく、くだらない雑談を再開した。 キーンコーンカーンコーン……。 この日何度目かのチャイムが聞こえた。放課後のチャイムである。しばらくすると、昇降口からちらほらと人が出てきた。 「そろそろ始めるか……こちらモンキー・エイト。エイプス応答せよ」 『こちらエイプス。状況は?』 「全て予定通り。目標が動き出す時間です」 『よろしい。後は任せたぞ』 「了解」 最後の定時報告は終わった。作戦開始の時間が来たのである。 「のんびり行こうぜ〜」 <T>はそういうと車のエンジンをかけ、のろのろと走り出した。 正門から一人の少女が数人の友人に囲まれて出てきたのだ。 シャルルである。 「ターゲット補足。尾行を開始する」 そして男たちを乗せた車はシャルルたちと一定の距離を保って尾行を開始したのだった。 「そうだシャルル、今日あたしん家来ない?」 「OK♪なにするの?」 自分達が尾行されているなどと気付きもせずに、シャルルたちは会話に花を咲かせていた。 話を進めているのは女友達のシーナ・マディソンだった。先端が外へ跳ねているセミロングのブロンドが青を基調としたスーツに良く映えている。まるでキャリアウーマンのようだが、れっきとした高校生である。 当面の話題は本日の午後をどのようにして楽しむかということである。 「実はねぇ……ジャパンのふっる〜〜いアニメをゲットしたのよ!」 「うそ!ほんと!?見たい見たい!」 「しかもDVDよDVD!8〜9世紀くらい前のものね!」 シーナは大のアニメ好きで、特に外国の古いアニメを見つけたときはこうしてシャルルたちを誘って上映会をしているのだ。 この時代、アニメは上下左右から見ることの出来る、立体型ホログラムによって放映されていた。むしろDVD機器などをもっているシーナのほうが珍しいといえた。 「うっそぉ!絶対見るぅ!」 シャルルとシーナは二人で盛り上がっていた。 そしてそんな二人をうらやましそうに見つめる二人の視線があった。 「いーないーなぁ、私達も見たいなぁ。ねぇ、ショーン?」 ショートカットにピンクのワンピースを着た小柄な少女が呟く。 「いーよなぁ、僕らだって無類のアニメマニアの端くれなのになぁ、マリア?」 短めの髪を後ろでまとめた茶筅髪(ちゃせんがみ)のショーンと呼ばれた少年が、ゆったりとした紺色のセーターで両手を広げながら、おおげさに嘆く。 その場でヨヨヨッと抱きしめあうショーンとマリア。それを冷めた目でシーナが眺めていた。 「ちょっと、勝手にあたしを悪者にしないでよ。あんた達を誘わないわけないでしょ?」 半分あきれ気味に言う少女。だが…… 「プッ!」 『あはははははははは!!』 シャルルが笑いをこらえ切れないといった表情でおなかを抱える。そして4人は、弾けるように笑いあった。 これが彼らのいつものスタイルであった。 ふと十字路に差し掛かり、皆が動きを止めた。帰宅方向が違うのだ。 「それじゃ、またあとでね〜!」 「うん、着替えたらすぐ行く!」 『バイバ〜イ!』 こうして、シャルルと他の3人は別れたのだった。 ブロロロロ……キィ! 3人と別れてすぐ、シャルルの目の前に白いワゴン車が止まった。<T>と<D>の乗る車である。 立ち止まるシャルルの前に、車から降りた二人の男が立ち止まった。 「はじめまして、シャルル・メッシーニさん。ワタシは稚叉視菟壬(ちまたみうみ)……通称<T>というものです。お好きなほうでお呼びください」 長身の細身の男がシャルルに自己紹介をする。肩ほどまで伸びた髪を茶色に染め、オールバックにして後ろで一つにまとめていた。 名前――本名かどうか分からないが(HNだけどね!)――からして日本人だろうか?その目は全て見通すように鋭かった。 「あぁ、はい、はじめまして。じゃぁ、稚叉さんと呼ばせてもらうね」 シャルルは少し驚いたものの、何も疑いもせずに挨拶を交わした。 それに驚いたのは<T>のほうである。いきなり逃げ出されるとは思っていなかったが、警戒されるであろうとは予想していたのだ。それがこうも素直に挨拶されるとは。口調は軽い感じだが、まったく警戒していないことがそのそぶりから見て取れる。 「クックック、堅苦しいしゃべり方はやめだ!あんた気に入ったよ」 急に砕けた口調になった稚叉に気に入ったなどといわれて、何がなんだか分からずシャルルの頭の中はハテナで一杯だった。 「おい、<D>。お前も挨拶しとけよ」 「お前に言われなくてもわかってるよ」 そう言ったのはウェーブの掛かった黒のボブヘアーのいかつい男だった。体は太ってはいないが痩せてもいない。だが、無駄な脂肪を取り除いた締まった体だった。 「俺の名前はダイキ・マックスフォードだ。通称<D>。daikiと呼んでくれ」 こっちはアメリカ人風の名前――やはり本名かどうか分からないが(HNだけどね!!!)――のようだ。 「ところで、なんであたしの名前知ってんの?」 シャルルが疑問を口にする。 それはそうだろう。初めて会ったばかりの、しかも自分とは何の接点もなさそうな年上の男が自分の名前を知っていたのだから。 対する男の答えに、シャルルは初めて驚くことになったのだった。 「そういやまだ言ってなかったな」 「我々は『FBI』の者だ」 FBI。正式名称は『Federal・Bureau・of・Investigation』。アメリカの警察機構の一種だ。テレビでしか見たことのないそのFBIの人間がシャルルの目の前にいる。シャルルが驚いたのは、本物に出会った、ただそれだけのことだった。 「うっそぉ!マジで!?本物!?」 「あぁ、ほら、バッジだ」 daikiが身分証明証を見せる。 「超かっこいい!……でもワタシに何のようなの?」 そう、一体FBIの人間が、高校に通う普通の女の子にいったい何の用なのか? 「さぁ?俺たちはあんたを連れてくるように言われただけなんでね」 稚叉が肩をすくめながら答えた。 「もしかして使いっぱ?」 シャルルが茶化すように返す。稚叉は、それを笑いながら「違いない」と肯定した。 「それはそれとして……そういうことだから一緒に来てもらえるかな?」 daikiのその言葉にシャルルは一瞬考えたが、シーナにショーン、マリアも他のFBIメンバーが呼んでいると聞いてうなずいた。 そして、シャルルを乗せた白いワゴン車が動き出した……。 |
あとがき
レジェンド・メイカーズ第4章その2をここにお届けします。 今回は過去編ですね。 出演要請のあったちまたみうみさん、daikiさん、フリバさんの相方であるシャルルちゃんに出演してもらいました。 特別出演、アリガトウございます♪ それでは…… 旧地球の2843年5月18日。 普通に暮らしていたシャルルの目の前に現れたFBIの人間「D」と「T」。 だが彼らはシャルルたちを連れてくるように言われただけという。 彼らに指示しているのは何者なのか? シャルルを乗せた車はどこへ向かうのか? シーナやショーン、マリアは無事なのか!? 次回レジェンド・メイカーズ第4章その3。 驚愕の過去が暴かれる!(かもしんないΣ( ̄□ ̄;)!? ) 今回は盛り上がりがなかったかなぁ?(ドキドキ) |
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