----- レジェンド・メイカーズ!! -----
第4章『過去に囚われた想い』
作:メンチカツ

その3

 シャルルを乗せた車は4時間ほど走り続けた。次第に辺りの景色は家が少なくなり、ついには一軒も見当たらなくなってしまった。
 あたりはすでに日が落ち始めていて、空が茜色に染まっている。景色はあたり一面の草原へと移っていて、茜色に染まる草原はとても美しい光景ではあった。
 やがて車は道を外れて草原へと入り、しばらくして止まった。草原のど真ん中で。
 シャルルたちが車を降りてすぐに、もう一台の車がやってきた。その車から降りてきたのはもちろん、シーナたちシャルルの友人である。
 運転席から降りてきたのは、角刈りにした短い銀髪の、やはり黒いスーツを身にまとった男だった。
「さ、こちらへどうぞ」
 男に誘導されて、シーナたちが近づいて来る。
「シャルル!」
「シャルルちゃん!」
「シャルル〜!」
 シーナ、ショーン、マリアの3人が、シャルルを見て安心したかのように走り寄ってきた。
「あ、みんな。ヤッホ〜☆」
 対するシャルルは、走り寄る3人をあっさりと出迎えた。
「やっほ〜じゃなよぉ!心配したんだからぁ!」
 マリアがシャルルに飛びつく。シャルルの友人達の中でもマリアは人一倍心配性なのだ。特にマリアはシャルルに心酔していて、そこへFBIを名乗る人間が現れてシャルルの付き添いを願いたいと言いだしたのだ。ここに着くまでマリアの心中は不安で一杯だっただろう。
「ちょ……なんなのよマリア?」
 ただ、やっぱりシャルルはシャルルというか……何の疑問も感じていないシャルルにしてみれば、マリアが何故自分の心配をしているのかさえ分からないのだ。
 そんな二人の再会を中断したのは稚叉であった。
「よぉ、嬢ちゃんたち!感動の再会のところワリィがあんまり時間ないんでね!さっさとこのヘリに乗ってくんねぇか!?」
 その声に振り向けば、そこには大きめのヘリコプターが止まっていた。機体は黒を下地として真ん中に白い線が入っていて、機体下部に『FBI』の文字が白抜きで書かれている。
 稚叉は、そのヘリコプターのドアを開けて待っていた。
「へぇ〜、あたしヘリコプター乗るの初めてなのよね〜」
 シャルルはのん気にそういいながらヘリコプターへと乗り込んだ。それをみて溜息をつきながらシーナが続き、空いている席にショーン、マリアが乗り込む。
 そして最後に稚叉とdaikiが残った席に座り、銀髪の男が操縦席へと乗り込んだ。
「全員乗ったな。『K』、行ってくれ」
「……了解」
 <K>と呼ばれた男は短く返答し、そしてヘリコプターのプロペラが回り始めた。
「安全運転で頼むぜぇ〜」
 茶化すように言ったのはもちろん稚叉だ。
 そしてヘリコプターは茜色の空に溶け込むようにして飛び立って行った。

「シャルルちゃんは部活とかやってんのかい?」
「やってないよ。興味ある部活なかったし」
「へぇ〜、んじゃ学校終わった後何してんだ?」
「別に?シーナたちと遊んでる。カラオケ行ったりぃ、ゲーセン行ったりぃ、シーナの家で古いアニメ見たり」
「アニメ?しかも古い?……ってーとあれか?あの絵が動くような奴か?」
「そうそう!なに!?もしかして『ちまちま』もアニマニ!?」
「おいおい、なんだよそのちまちまってのは」
 ヘリコプターの機内は、こんな調子でずっとシャルルと稚叉が会話を続けていた。daikiは二人の話を聞いてるだけで、会話には参加していない。マリアはどこか不安げな表情のままで、ショーンとシーナは「何故こうも打ち溶けられるの!?」といわんばかりに呆然としていた。
 通常と比べて大型であるこのヘリコプターの機内はかなり広く、なぜか真ん中にテーブルまで設置されていた。
 テーブルの上にはソフトドリンクと人数分のプラスティックのコップが置かれ、さらに簡単なつまみも用意されていた。
 ちなみにコップに中身が注ぎ足されるのは稚叉とシャルルだけで、ショーンたちは一口も口をつけていない。daikiでさえちびちびと飲む程度で、まだおかわりをしていなかった。
 ヘリコプターが飛び立ってからまだ3時間ほどしか立っていないが、床を見てみればすでに空になったペットボトルが4本ほど転がっていた。
 それと、アニマニとはこの時代でのアニメマニアの略称らしい。
『……そろそろ到着する』
 スピーカーを通して<K>の声が流れてくる。どうやら目的地が近いらしい。
 それを聞いたシャルルたちが窓越しに外の景色を眺めた。
「……何にもないじゃん」
 呟いたのはシャルルだった。
 窓越しに見えた景色。それはただただ真っ暗な闇だけだった。日はすでに完全に落ちていて、時刻は夜の8時を過ぎたころ。辺りが暗いのは当然といえば当然だろう。
 シャルルが期待していたのは上空から見た景色……まるで宝石をちりばめたかのような、イルミネーションで彩られた美しい夜景であった。
 だが、実際に目に映ったものは闇。時折思い出したかのように遠くで赤い光が点滅している程度である。
「ここは無人島らしいからな、ほとんど何も見えないだろう?」
 daikiがシャルルの心を見透かしたように言った。
「なぁんだ、つまんないのぉ」
 シャルルががっかりしたように座席に戻る。
 そのタイミングを見計らったように、操縦席から<K>の声が聞こえてきた。
『……着陸する』

 やがてヘリコプターは目的地に着陸した。辺りは広いスペースがあったが、車以外の移動用の乗り物はない。
 ヘリコプターから降り立ったみんなを出迎えたのは、2人の男だった。
 一人は短めの髪に前髪を立たせた青年実業家然とした若い男。もう一人は伸ばし放題になっているぼさぼさの白髪の老人。二人とも白衣を着用していた。
「ようこそ皆さん。私はこの『超常力研究所』の所長、『フリー・バード』と言う者です」
 白衣よりも仕立てのいいスーツのほうが似合いそうな若い男が名乗る。
「そして、この研究所の副所長兼研究主任である『マドック』です」
「ヒェッヒェッヒェ、よろしく頼みますぞ」
 マドックと紹介された白髪の老人は、軽く頭をたれて挨拶をした。
「こっちこそはじめまして。よろしく〜♪」
 シャルルがいつものように明るく挨拶を返す。やはりというかなんというか、微塵も警戒していないようだ。
 所長達はシャルルのことを知っているらしく、自己紹介はしなくてすんだ。
「さて、長旅で疲れたでしょう。今日はゆっくりと休んでください。FBIの3人も休んで行くといいでしょう」
 所長であるフリー・バードに促され、皆で研究所へと入って行った。自動扉が開くと1本の通路があり、左右にドアが並んでいる。天井に埋め込み型の照明が取り付けてあるおかげで、辺りは明るく清潔な雰囲気がある。
 これから向かう宿舎は研究所と隣接していて、2階の連絡通路のみで繋がっており、宿舎へ行くには必然的に研究所の中を通ることになる。
 シャルルたちだけではなくFBIの3人までも見学気分でキョロキョロしていた。
 左右に並ぶ銀色のドアは、研究所だけあって『関係者以外立ち入り禁止』とかかれたものがあったが、中でも目を惹いたのは右側の4つ目のドアで、『使用禁止』と書かれて鎖で厳重に封鎖されていた赤いドアだった。
「……あれってなんなの?」
 幾分低いトーンでシャルルが質問した。
 シャルルの声が低くなったのには原因があった。この研究所の中に入った瞬間から、どこか心細い感じがしていたのだ。
 シャルル自身それに気付いていないようだが……。
「ヒェッヒェッヒェ、あそこは昔メインの研究室だったんじゃがのう……研究員達が幽霊が出ると騒ぐもんでな。あまりうるさいもんで使用禁止にしたんじゃよ」
「へぇ〜……そりゃ怖いわねぇ」
 シャルルはそんなことを言った。
 幽霊うんぬんは信じるかどうか問題が残るが、シャルルたちはそれ以上聞くのも怖くてそのまま話を流したのだった。FBIの面々はあることに気付いたようだったが……。
 それはそうと通りがかりにあった研究員達の態度はとてもよく、好感の持てるものだった。
 突き当りを右に曲がると階段があり、シャルルたちはそれを昇って行った。2階も同じような造りで、1本の通路と左右に並ぶ『関係者以外立ち入り禁止』のドア。ただ1階よりも通路が長く、それが宿舎との連絡通路になっているようだった。
 連絡通路には大きな窓が取り付けられていた。
「や〜っぱ真っ暗。つまんないなぁ」
「はっはっは、なにぶん無人島の研究所ですからね。辺りの景観には寂しいものがありますが、勘弁してください」
 シャルルのぼやきにフリー・バードが返答する。
 連絡通路を抜けると、生活感の漂ういくつもの部屋が並んでいた。ドアには3桁の番号が並んでいて、カギはカードキーのようだ。
「貴方方に2つの部屋を用意しました。一部屋はシャルルさんたちに、もう一部屋はFBIの3人に。各部屋は一部屋18畳の3LDKで、完全防音となっています」
 ずいぶんと広い部屋だが、それには文句を言わずにみんなは部屋に通された。シャルルたちは『209』号室、稚叉やdaikiは『210』号室に案内された。
「それでは、何か用がありましたら入り口の……このインターホンにて連絡してください。部屋の番号を押せばその部屋に電話をかけることも出来ます」
 そういってフリー・バードとマドックは去って行った。

 ドアを開けるとそこは大きなダイニングだった。ドアのすぐ右横にキッチンがあり、左側にはトイレとお風呂が合った。ダイニングの奥には左と真ん中と右に一つずつドアがあり、3つの部屋の入り口になっていた。
「ちょっとみてよシャルル!ほらこれぇ!」
 シャルルが早速部屋の中をうろうろしていると、右側の部屋でシーナが大声でシャルルを呼んだ。
「な、なによシーナ。どうしたの?」
 耳をふさぎながらシャルルが声のしたほうへと近づいていく。
 部屋に入るとシャルルは立ち止まってしまった。全ての壁を隙間なく埋め尽くす棚。問題なのはその中身だった。
「ほら!『小公女聖羅(セーラ)』に始まり『北斗の件』、果ては『部琉瀬屡区(ベルセルク)』まで!しかもアニメの廃止で放映されなかったと言う幻の作品『絵婆17』もあるわよ!」
 シーナは各種揃えられた名作アニメに狂喜乱舞である。すでに警戒心など宇宙の彼方だ。
「キャーーーー!なんでなんでどうしてぇ!?すっごーーーい!」
 もともと警戒心ゼロなシャルルはシーナ以上にはしゃぎだした。
「うおおおおおお!!」
 部屋に取り付けられた大型のスクリーンで、アニメを早速上映しようとしているシャルルたちの後ろ……209号室の左の部屋でショーンの声が響いた。
「おいおいおいみろよこれぇ!!かつて栄華を誇ったと言う幻のプロレス『WWE』のホロディスクだぜ!しかも『レイ・ミステリオ』グッズがこんなに!燃えるぜ!!」
 そう、ショーンは大のプロレスファンなのだ。しかも今行われている科学の粋を集めたプロレス――この時代のプロレスは耐火服を着た炎熱バトルやブースターを使ったハイスピードバトルが主流で、いずれも安全装置がついている――よりも人間の力のみで闘っていた昔のプロレスが好きなのだった。
 そしてショーンが見た部屋には、WWEのプロレスラーのなかでもショーンが愛してやまない、多種多様な空中殺法で数々の敵を倒した小柄なプロレスラーレイ・ミステリオのグッズがその大多数を占めていたのだった。
 WWEのプロレスは完全なショーであったが、彼いわく「かっこよければそれでよし!」だそうだ。
「いやーーーーん!」
 今度はマリアの叫び声である。中央の部屋の中では、マリアが大きな人形に抱きついていた。
「かわゆいわぁかわゆいわぁ♪なんてかわゆいのこのお人形さんたちわぁ〜♪」
 そう、マリアが入った部屋には、動物、キャラクター物、野菜物、デフォルト物などの各種の人形が、大小問わず所狭しと置かれていたのだ。
 ベッドなどは巨大な熊の人形で出来ている。
 この日、彼らの部屋から奇声が途切れることはなかった……。

 一方こちらは稚叉、daiki、<K>のFBI組の部屋。部屋の造りは一緒だが、シャルルたちの部屋とは違っていたってシンプルな内装だった。3つの部屋にはクローゼットのほかに、それぞれホログラム上映装置――現在で言うテレビ――とテーブル、そしてベッドが置かれているだけだった。
 3人は今ダイニングに集まり、クリスタルのテーブルに設置された椅子に座って話し合っていた。テーブルには3人分の紅茶が淹れられている。
「お前達は気付いたか?」
 daikiが短く質問を投げかけた。
「あ?何がだ?」
 稚叉がそう言ってから一口紅茶をすすった。
「あの赤いドアやこの宿舎のことさ」
 daikiは瀟洒な模様の施されたカップの中に注がれた、バラの香りの漂う紅茶に目を向けながら答える。
「……あぁ、それね。変なとこが多いよなぁ」
「そうだ。……まずはあの赤いドア。あのマドックって奴は今は使ってないと言っていたが、明らかに使用している形跡がある」
「たーしかに。あの鎖の掛け方を視れば一発で分かるぜ、そんくらいな」
「一見厳重に封鎖しているように見えるが、鎖自体に鍵はついてないし、簡単に外れるようになっていた」
「この宿舎だって生活感があるように見せかけちゃいるが……使い始めたのはここ数日ってとこか?」
 紅茶を飲み終えた稚叉が椅子に体を預けながら<K>に紅茶のお代わりを要求する。
「……自分で淹れろ」
 <K>は稚叉に取り合わずに呟き、自分の分の紅茶をすすった。
「チ、つれないねぇ〜」
 そういいながらも稚叉は自分で紅茶を淹れた。
「とにかく、何か隠してるのは間違いない。俺達の本当の任務はこれからだ」
 そう言ってdaikiは少しぬるくなった紅茶を一息に飲み干した。
「そうだな、あいつらが何の研究をしてんのか……じっくり調べさせてもらおうぜ」
 新たに淹れられた紅茶の香りを楽しみながら、いつになく真剣な表情で稚叉がいった。
「……俺はもう寝る」
 話は終わったとでも言うように<K>が立ち上がる。
「そうだな、もう寝よう。明日からが大変だからな」
 続いてdaikiもさっさとあらかじめ決めた部屋へと入って行った。
「おいおい、マジで寝ちまったよ。あいつらいつからそんないい子ちゃんになったんだ?」
 一人取り残された稚叉は、ぼんやりと天井を見上げた。
 白い天井に配置された3つの蛍光灯が、ダイニングを照らしている。
 静寂。
 2人が寝ているであろう部屋からは、寝息すら聞こえてこない。完全防音というだけあって、外からは一切の音が入ってこなかった。
 稚叉は静寂に飽きたのか、
「ま、たしかにこいつは大きい問題になりそうだ。早めに寝ときますかね」
 そう言って冷め切った紅茶を飲み下し、部屋へと入って行った。




続く






あとがき

祝、フリバさん出演♪
ようやっと書きあがりましたレジェンド・メイカーズ第4章その3。
通称過去編ですが、意外と長くなってしまってやばげです(汗
本当だったらここでもう終わってるはず何だけどなぁ(笑
ようやく始まったばっかりだよ。

FBIをなのる3人に連れられてきたのはどこにあるかもわからない無人島の研究所。
そこでであった研究所所長のフリー・バードと副所長マドック。
FBIの3人が受けた本当の任務は研究所の研究内容だと言う。
一体ここで何を研究しているのか?
シャルルたちは一体どうなるのか!?
次回レジェンドメイカーズ第4章その四!意外な展開が皆を襲う!?
お楽しみに!!



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