----- レジェンド・メイカーズ!! -----
第4章『過去に囚われた想い』
作:メンチカツ

その4


 ――キャストは揃った……。
 暗く深く、果てがないような闇の中。その底辺に『それ』はいた。
 そこは完全に封鎖された世界。いや、底に潜む何かが自らを隠すために作り出した……いわば檻の様な空間だった。
 その檻を境に眩いばかりの光と闇が隔てられている。
 そしてその檻の鍵は、闇に潜む、檻を創ったそれ自身が持っていた。
 ――さて、後は下ごしらえを済ませるだけだ……。
 闇を震わせるように呟いたそれは、己自身とも言えるその闇を、少しずつ吐き出していった……。

 一夜明けた朝9時、シャルルたちはともすれば閉じてしまいそうなその瞼をこすりながら朝食を取っていた。
「ふあ〜……ちょっち遅くまでアニメ見すぎちゃったね〜」
「シャルルが『あともう一話、あともう一話』って、結局5時まで見てたからでしょ〜?」
「なに?シーナだって一緒に見てたじゃん」
「シャルル達もか?オレもプロレスにはまっちゃってさぁ、実は寝たの2時間前!」
『自慢すんな!!』
「なぁにぃ?みんなちゃんと寝なきゃ駄目じゃない。私はお人形さんたちに囲まれながらゆっくり幸せに寝たよ〜♪」
 彼らの話からすると、シャルルとシーナは4時間、ショーンにおいては2時間しか寝ていない事になる。彼らを襲っている睡魔はレベルが高いだろう。唯一十分な睡眠をとっていたマリアは、のほほんとホットミルクを飲んでいる。
 やがて朝食が終わり、雑談を交わしていると、マドックがやってきて、こういった。
「さて、お嬢ちゃんたち、今日からわしらの研究に協力してもらうわけじゃが、早速着いてきてもらおうかの」
 こうして、研究に協力する日々が始まった。
 研究の内容は思っていたよりも難しいものではなかった。血液検査に始まりα波などの各種波形検査、身体能力検査など、少し大きな病院でも行えそうな簡単な検査だった。
 研究に関係する人たちは優しく、当初不安を抱いていたシーナたちも次第に打ち解けていった。
 特にメインで連れてこられたシャルルをフリー・バード所長は目にかけ、今まで出会った事の無いタイプであったフリー・バード所長に、シャルルの気持ちは次第に惹かれていった。

 少し時間は戻り、一夜明けたFBIチームの部屋。
 さすがというかなんと言うか、彼らは全員きっかり6時に起きて朝食を済ませ、朝のティータイムを楽しんでいた。
「防音だけあって静かで寝やすかったな」
「ああ、久々にぐっすりと寝ちまったな」
「だが、何故防音なんだろうな?」
「そりゃ研究所だからだろ?」
「……本気で言ってないよな?」
「は!あったりめぇだろ。研究所の通路を通ったときも結構静かだったし、この宿舎は研究所と離れてて部屋に入ったら音なんて聞こえないはずだ。その上で防音にする訳がわからねぇ」
「ま、そこらも含めて調べるのが俺達の役目なんだが……稚叉、どうだ?『視』えるか?」
「ああ、ばっちりだ。daikiこそ大丈夫なんだろうな?体調悪くて『力』が出ませんなんて落ち許さねぇぞ?」
「心配するな。そのために紅茶やら食事やらまで自前で持ってきてるんだろうが」
 二人がそうやって話している間、<K>は一人静かに紅茶を飲んでいた。
 稚叉たちの会話でも少し出たが、FBIの中には特殊な力を持った人間の集まる部隊がある。
 その名は『特殊戦技能力部隊』。FBIの中でも疎まれていて、通称『特選部隊』などと呼ばれている。まぁ、大半は特殊な能力を持っていない隊員達の妬みや嫉みであるが。
 彼らには能力に関した名前が入っていて、稚叉視菟壬の能力は『視る』力である。彼はその能力により、目を瞑っていても周囲を見る事が出来て、壁の向こう側などを透視する事も可能なのだ。
 daikiはダイキ・マックスフォード。彼の能力は『マックスパワー』で、人間では持ち得ないほどの力を持っている。最大の力を引き出したときは、鉄の壁すら素手でぶち破るほどだ。
 そしていまだ自己紹介をしないせいで名前が分からない<K>。彼はその類稀なるセンスであらゆる乗り物や銃器などを操る事に特化していて、誰かに教えられずとも見ただけで完璧に使いこなす事が出来る。
 ちなみに余談ではあるが、稚叉は見えなくていいものまで視てしまってたまに困るそうな。
「そういやいつの間にか名前で呼んでるが、いいのか?」
「いいんじゃね?シャルルちゃんにも名前言っちゃってるし。いまさらだろ?」
「まぁ、そうだな。なら<K>も紹介しといたほうがいいか?」
「そうだな。……つーかdaiki、お前もコードネームで呼んでるじゃねーか」
「悪い、なんとなく流れでな」
「おい、そういうことだから後でシャルルちゃんたちに自己紹介しとけよ?規村」
 そう、FBI3人組の一人、<K>の名前は『規村磨智(きむらまさと)』。『智』を統べる能力を持つ。彼を含めたFBIの面々は、この先に待ち受ける悪夢を知る由もなく、研究内容の調査に取り掛かるのだった。

 一週間ほどたった頃。シャルルたちは相変わらず同じような検査を繰り返していたが、稚叉たちはフリー・バード所長のアポをとり、いろいろな話をしていた。通された部屋はフリー・バード所長の部屋で、以外にも机と大きめな本棚、そして二つのソファしかない簡素な部屋だった。
「まず最初に気になった事をお聞きしますが、研究所の赤い扉の部屋は本当に使われていないのですか?」
 どうやらdaikiとフリー・バード所長が主軸で話を進めるようだ。
「赤い扉の部屋?……ああ、あそこですか。使ってますよ、毎日ね」
 以外にもあっさりと使用している事を認めるフリー・バード所長。だが、daikiたちにもそれほど驚きは見られなかった。
「昨日は使用していないと聞いたように記憶していますが?」
「この研究所は、実はかつて軍が兵器開発を行っていた場所でしてね。あの赤い扉の部屋は特に危険な細菌兵器の開発を行っていたのです。細菌はもう残っていないはずですが、念には念を入れて、こうして正式に詳しくお話しするまでは御遠慮いただこうと思ったわけです。話をするまでは全ての責任は私にありますからね」
「そうでしたか。……念には念を入れてとの事でしたが、それでは細菌に感染する可能性などは?」
「もちろんありません。研究員も皆私服の上から白衣という、至ってラフな服装で作業してますしね。まぁ、当時の名残であの扉を開けるとさらに3重の扉があったり、地下まで研究所が続いてたりしますけどね」
 ここまでの話はたんなる探りだ。ここでdaikiが話の核心に迫る。
「それでは率直にお聞きしますが、ここでは一体どんな研究をしているのですか?」
 今までほとんど聞き流していた稚叉たちも次の言葉に耳を集中し、部屋に緊張が張り詰めた。
 そして一瞬の沈黙の後、フリー・バード所長は一言で簡潔に答えた。
「魔力です」
 さすがのdaikiもこれには驚いた。小説やアニメなどではいまだに現役で活躍しているが、現実には科学が支配している世の中である。誰も使えるようになるなどと思っていないし、あったらいいな程度の夢物語であり、空想の域を出ていないのだ。確かに稚叉たちのように特殊な能力を持った人間もいるが、それは魔力とは別物である。
「まぁ、こういったところでなかなか信じてもらえないでしょうね。……実は私も子供の頃は大のアニメファンだったんですよ。かっこいいじゃないですか?やっぱり。それでですね、あるとき一つの言葉を知ったんです。『人間が想像できることは、実現できることである』でしたか?ただその言葉を胸に、私は研究を続けてきたのです」
 あまりに単純で、簡単な理由である。だがいつの時代もそれは単純だったのかもしれない。かつて空に憧れた人間はやがて飛行機を作り出した。宇宙を夢見た人間は、スペースシャトルを創り出した。始まりはいつも単純な空想。周りが馬鹿にするような夢。だがそれを信じ、信じ続けた者が夢を実現にするのだ。フリー・バード所長もそういった人間の一人なのだろう。
「それで、研究の成果のほうは出てるんですか?」
 平静を取り戻したdaikiが、改めて質問する。それに対し、フリー・バード所長は驚くべき返答をした。
「ええ、魔力が存在する事はすでに検証済みで、誰がどのくらいの魔力を有しているかの測量法も分かっています」
 すでに、魔力が存在している事は確認されていると言うのである。だが、それならば一体何の研究をしているのか?
「ということは、シャルル・メッシーニたちを連れて着た理由は……やはり、その魔力を多く持っているからですか?それと、魔力の存在が確認できているというのなら一体今は何の研究を?」
「ええ、いままでも魔力の大きい何人かの人に協力してもらっていたのですが、シャルルちゃんは比較にならないほどの魔力です。私達の作り出した、常人の50倍まで測れる魔力検測機がいとも簡単に過負荷に陥りましたからね。それと今研究している内容は、魔力の使用方法です。存在する事がわかっても、それを使用できなければ意味がないですから」
「そうですか……。そろそろ時間ですね、今日は貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました」
 そう言って、daikiたちは部屋へと戻っていった。

 それからさらに1ヶ月が経過し、daikiたちは調査を続けた。
 調査は主に稚叉の能力で行われた。稚叉の『視る』能力は透視と遠視の2種類があり、今回のような屋内の調査の場合、遠視は使わない。なぜなら、人間は黒目の部分で見る対象を設定し、それに意識を集中する事で正確な視覚情報を得るのだが、稚叉の遠視は人間の白目の部分、つまり視界に入ってしまう見ようとしているもの以外の、周りの物を見ているような感覚だからだ。だがその分遠視はその範囲が非常に広く、最高で自分の周囲半径2キロ以内のものを、上空から見下ろしたような位置から視る事が出来るのだ。
 それに対して透視の能力は自分の前方50メートル程しか視る事は出来ないが、何か特別な状況でない限りその間にある全ての障害物を無効化する事が出来る。その能力を使い、あの赤い扉の研究室やフリー・バード所長の話から得た地下などを中心に、どんな研究をしているのか、法に触れているような事はないかなどを調査していた。
 そんな中シャルルたちは運動測定や感情測定等の研究内容が追加されたが、基本的には今までと変わらない生活をしていた。
 だが、変化はそのころから徐々に起き始めていた。
 研究所に夜の帳が下り、宿舎の人間が眠りに着いた頃。1センチ先も見えないような闇の中を、複数の人間が研究所のある部屋を目指していた。
「後少し……後少しで準備が整う……」
 この研究所で行われている夜の作業を知るものは、少なくともシャルルやFBIの面々の中にはいない……。

 稚叉達は結局何の収穫もないまま、さらに1週間が過ぎた。
 明日には規村がフリー・バード所長を、彼らを指揮している『エイプス』に会わせる事になっている。だが、収穫はないが問題が出てきてしまった。稚叉の透視能力に異常が現れたのである。通常であれば、昼でも夜でも明かりがなくても関係なしにはっきり『視る』事が出来るのだが、少し前から視た映像が暗くなってきたのだ。暗いというより、黒い霧のようなものが視え辛くしているのだ。
 だがこんなことは初めてで、治し方も分からない。結局このまま調査を続ける事になった。
 そして夜が明け、規村はフリー・バード所長と共に本国のアメリカへと戻って行った。
 規村がヘリコプターで帰った後、稚叉たちはいつもどおりの調査を続けた。シャルルたちもいつもどおりの検査を受けていた。
 その日の夜の事だ。検査を終えて部屋に戻ったシャルルたち。だが、いつまで経ってもシーナが帰って来ない。ここでの生活に慣れていたシャルルたちは、明日にでもマドックに聞けばいいだろうと、その日は寝る事にした。
 あくる日の朝、マドックに聞くと、「親が心配する頃じゃからの、いったん家に帰したのじゃ」とのことだった。マドックが言うには、ショーンもマリアも近々帰省させると言う。その言葉どおり、その日の夜はショーンが、そしてその次の日はマリアが帰ってこなかった。
 さらに次の日の夜。シャルルは今日は自分が帰れると思っていたのだが、当ては外れて帰る事は出来なかった。

 マリアがいなくなった次の日。つまりはシャルルが帰れず、ちょっと落ち込んでた日の事だ。
 稚叉の能力はあれからどんどんと調子が悪くなり、この日などはほとんど何も視る事が出来なかった。視ようとしても、濃厚な黒い霧が全てを遮断してしまうのだ。そしてその黒霧は、まるで生きているように蠢き、意志を持っているかのように見えた。
 やがて夜になり、能力の低下で思うように調査が出来なくなった稚叉たちは、ここに来て初の夜の調査に踏み切った。

「どこからやる?」
 宿舎から研究所へと続く連絡通路を歩きながら、daikiが抑えめの声で聞く。
「そうだなぁ……結局あの赤い扉の部屋もこれといって怪しいところはなかったしな。とりあえず適当に調べてきゃいいんじゃねぇの?そのうち向こうから反応あるかもしんねぇしな」
 能力の低下を気にしていないのか、それともそれを隠しているだけなのか……稚叉はいつもどおりに答えた。
「……ふ、まぁそうだな。虱潰しに探して行くしか……稚叉」
「わかってる……どっかに隠れるぞ」
 複数の人の気配を感じたdaikiたちは、手近な部屋に隠れようとしたが、こんな夜中に研究室の扉が開くはずもない。仕方がないので、二人は大胆な行動に出た。気配を完全に断つと人はそれを知覚出来ないと言うが、それを利用して廊下の壁に張り付いたのだ。
 daikiと稚叉の目の前を通り過ぎて行く。幸い気付かれなかったようだが、通った人間を見たdaikiたちは驚いて気配を出しそうになってしまった。
「おい、見たか?ありゃぁ……」
「……ああ、マドックと……シャルルだ」
 マドックたちの後を尾行すると、とある部屋へと入って行った。
「くそ、鍵を掛けられたか……どうする?」
「しょうがねぇ、駄目もとで『視』てみるか」
 稚叉が集中し、透視を行う。
「……ん?なんだこりゃ?」
「どうした?」
「全然駄目だ。今までみてぇな黒い霧どころか、まったく視えやしねぇ。真っ暗だぜ」
「……やっぱりだめか。何かつかめるかと思ったんだがな」
 daikiが嘆息し、稚叉が能力を解除しようとしたときだ。
(シュウウウウゥゥゥゥゥ……)
 ただの暗闇だと思っていたが、何かが動いた。
「……ちょっと待て。……なにか、何かがいやがる」
「なんだ?なにがいる?」
 稚叉の謎の多い言葉にdaikiが聞き返すが、返答はない。
「おい、稚叉?」
 稚叉の脳に、直接言葉が響く。
(誰だ、お前は?……私の計画を邪魔するものは許さん)
「なんだこりゃぁ……やめろ……やめろ!来るなぁ!!」
 daikiに答えるどころか、抜け出して調査している事も忘れて叫びだす稚叉。しかも、その体は小刻みに震えている。
「稚叉!どうした!?もういい、能力を解除するんだ!!」
「ちくしょう!来るなああああああああ!!!」
 ブシュウウゥゥゥ。
 daikiの顔に生暖かい液体が飛んできた。
「ぐああああああああああ!!!」
 稚叉の両の目から、とめどなく血が流れ出る。
「稚叉!ここはいったん退くぞ!」
 daikiはそう言い、半ば引きずるようにして稚叉を部屋まで連れ戻した。
 稚叉の両目は、完全に失明していた。

続く





あとがき

えー、物凄く遅れましたが、なんとかレジェンド・メイカーズ第4章その四をここにお届けする事が出来ました。
なんかいろいろスランプっちゃってかけなくなってたりw
ですがなんとかいけそうなので、次はもっと早く送れると想います。
さて、今回の話ですが、次で過去編終了の予定なので、かなり強引に進んでると想います。
ここら辺自分の力不足というか設定の甘さが露見していると想います。
これからもっと精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

あけましておめでとうございます!今年もどうかレジェンド・メイカーズをよろしく!

さて次回レジェンド・メイカーズ第4章その5!過去編のクライマックス!
マドックとシャルルは夜の研究所で一体何をするのか?
稚叉たちはいったいどうするのか?
黒い霧の正体は?
稚叉の眼を潰したのはいったい?
寒風摩擦でもしながら待て!!Σ( ̄□ ̄;)!? 



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