Innosent dreams 〜遠い世界の歌〜
作:marin

第零章 〜少女の夢〜

私は生きてはいけない人間。
痛いほどそれは解っていたつもりだった。
何もかも中途半端な人間は扱われないのである。努力した成果がそうなのであらば。
いくら何を頑張っても、思うようにはなれなかった。好きだった人に思いっきり振られたし、心の底まで語り合える友人なんて1人も私には居ない。親?彼らはただ、私を非難するだけだ。
どうして、あの娘、変わっちゃったのかしら。
自分では、痛いほど分かっている。それが何故なのか。昔は私は、何かも完璧と言えるべき少女だった。それなのに、クラスメートの些細な嫉妬のせいで。
一方的に罵られて。傷つくのが恐くて。
一時期は、いろんな事を諦めた。
でも、あのクラスメートが居なくなったから、私は、努力を、ずっとしてきた。
はずだった結果で、中途半端な自分を持つとは。
好きな人に、振られるという結末を持ってしまうとは。
理不尽だ。
いや、世界を憎むのではいけない。
憎むのなら、自分の存在意義を憎んだ方が、辛くない。
何故、私は此処に居て、こんなに辛い経験ばかりしなければいけないのか。
幸せの兆しなど、ちっとも見えないこの世界に居るのは・・・・・理不尽だ。
結論。
『死ねばいい』
そう思った。
だからこそ私は、この踏み切りの前に来ても、躊躇する事が無いのだろう。
唇をずっと噛み締めて、足を一歩一歩踏み出す。その歩調は自分でも他人でも解るほどとてもゆっくりしていたが、戻ろうという気配は全くない。
本当にこの世界から、旅立つつもりなのだから。
ふと、とても耳障りな警報機の音が聞こえる。そろそろ列車が来るのか、そう思うと、気が軽くなる。
私の好きだったあの人も、クラスメイトも、親も、何もかも、さよなら。
足を踏み出すと、線路の上。
丁度列車が私に向かって走ってきて、ただ、物凄く鈍い音がしながら、私にぶつかった。
体が宙に浮き、視界がぼやけ、非常に強い衝撃を感じながら、
――――――――――――――その日二〇〇一年、十一月九日に、私は死んだ。



ここは、何処なのだろう。
辺りは真っ白で、何もない所謂『無』の空間だ。多分夢の中の世界なのだろうか、それとも何なのか。朦朧とした意識は、私の記憶までもをあやふやにさせているのかもしれない。
そこから抜けだそうと、立ち上がった。そのまま足を踏み出そうとするが、何故か水中を歩くような重ったるい感覚が自分を邪魔している。もしかしたらこれ、本当に夢なのかもしれない。
はぁ、とため息をつく。しょうがない。でも歩く事はとりあえず出来るのだから、しつこくでもやってみようと思う。
進んだ所で、色々な声が聞こえて来る。
どうしてあなたは変わったの?
お前は何故、何も話さないんだ?
あいつなんて、所詮腰抜けに過ぎないさ。
あんなのなんて、私達のチームには要らないもの。
この4つはどうでもいい。
だが、最後の1つが頭の中に纏わり付いて来て離れない。
―――――――――何を見てるんだ?お前、俺が駄目だと言ったんじゃないか、何の未練が有ってずっとこっちを見てるんだよ?解ったなら付きまとうな
初恋の人の言葉。
馬鹿馬鹿しい。いくら私が気に入らないといって、その態度は何なのかと、聞いてみたかった。
というか、あんなの初恋の人じゃない。
あれは全然知らない赤の他人だ。
初恋の人という肩書きだけで、何も自分に齎してはくれなかった。
あの人なんて、居なくなっても、当然だ。
絶対、いつかは復讐してやりたい。
しかし、心の何処かではそれを拒否している。
まぁでも結局自分は死んだのだし、何もやれる事は無いから、さっさと諦めて死者の集う場所に行けば。
ひたすら歩いて、ふと気になって地面に貼り付けていた視線を上に上げてみる。
と。
一つの女の子の姿が見えた。中学生くらいである。自分と同じ顔、髪、腕、手、頭、足・・・・・・結局はもう一つの私なのだろう。
が、その有り様は本人よりも数段酷かった。
まず、服がずたぼろだ。本来ならばセンスの良いはずの服が、ボロボロに引き裂かれている。そして、素肌がちらちらと見え隠れしていた。
しかも。
上半身、下半身共々様々な傷があった。切り傷、火傷、さらには得体の知れぬ痣。そして、何よりも印象的なのは。
左目から血が溢れていた。一瞬、吐き気を覚える。が、その様子がどうにも印象的で目を逸らせない。もっと良く見てみる事にした。
もう一人の『私』は、左目から血が溢れているせいか、瞳孔までも赤色に染まっている。右目もそれは同様だった。額には良く分からない紋章の様なマークがあり、右頬には大きな傷痕。
最後に。
彼女は自分に対しての嘲りの笑みを浮かべていた。
私の姿に気付いた彼女は、一瞬躊躇したが、やがて元の自嘲の表情に戻り、何処かを指差した。
――――――――――あっちに行けって?
私は、聞いてみる。
もう一人の『私』は、こくりと頷くと、早く行けと言わんばかりの表情を浮かべている。
しょうがないので、そこに行く事にした。
重い足を引き摺りながら、彼女の指差した方向に向かうと―――――――――
次の瞬間、私は何処かに消えた。



「気がついたか?」
それが私と彼との出会いであり、
そして私が転生してまた新しい『堕天使』としての人生を歩む事になった事の始まりであった。





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