パンドラの筺・・・
 
開けてはならぬもの・・・
 
神の与え給うたもの・・・
 
人の心に潜むもの・・・
 
何が入っているのか・・・
 
幸いをもたらすものなのか・・・
 
それとも、災いをもたらすものなのか・・・
 
開けねば分からぬ・・・
 
・・・そう、開けねば・・・
 
知りたいか、人間よ・・・
 
さすれば、開けるが良い・・・
 
己が手で開かれた筺の中身は、己が身に降りかかる・・・
 
何があるかは、我にも分からぬ・・・
 
そこに残るのは、何であるかも・・・


Memories Off 2nd  Append Scenario (The end of “Hope”)
『Pandora’s box』
 Prologue  “New daily life”
作:NK



 太陽光線が燦々と降り注ぎ、僕は貪り続けていた惰眠からようやく目を覚ました。
かなり太陽の位置が高く、昼近くなっていることが分かる。
(今、何時だ・・・?)
まだ頭が半分寝ているような状態で、枕元に置いてあった時計に手を伸ばす。
七月三十一日11時02分。
時計はそう告げていた。
(!!)
思わず、布団をはねのけて立ち上がる。
しまった。今日は希望とデートの約束をしていたんだった。
待ち合わせは・・・11時ジャスト。
今からどうあがいたところで遅刻になるのは目に見えている・・・
というより既に遅刻だ。
僕は急いで出かけるための支度をすませ、大急ぎで部屋を後にした。
 

待ち合わせ場所である澄空駅に向かう間に、希望に連絡を取る。
彼女の携帯に電話を掛けると、数回のコール音の後、「・・・もしもし」という声が聞こえた。
その声からはもう既にかなりご機嫌ナナメであることが伺える。
僕は、とっさに謝る言葉を探した。
「ごめん!つい、寝坊しちゃってさ・・・」
「この間もそれだったでしょ?もう少しまともな言い訳思いつかないの?」
「そんなこと言われても・・・実際にそうなんだからさ・・・」
受話器越しに、大げさにため息をつくのが聞こえる。
「・・・私、もう一人でいっちゃおうかな〜」
「ちょ、ちょっとまってよ!後十分もしたら、そっちにつくから。ね?」
希望はもう一度大きくため息をつく
「・・・わかった。後、十分しか待たないからね」
そういい残して希望は電話を切った。
(やっちゃったなあ・・・)
僕は後悔の念を噛みしめつつ、電車が来るのを一人待っていた。
 

電車が浜咲駅のホームに滑り込むのと、僕の携帯が着信音を発したのはほぼ同時だった。
僕はホームを駆け抜けながら、その電話に出た。
「はい、もしもし」
「・・・十分」
「へっ?」
「・・・十分、経った」
「の、希望!今着いたから!すぐに行くから!!」
ホームから改札口へと続く階段を駆け下り、券売機の近くに佇んでいる一人の少女に駆け寄る。
「ご、ごめん・・・待たせちゃって・・・」
彼女が僕の方に振り向く。
短くショートレイヤーに切りそろえられた髪がサラリと音を立てるように爽やかに後ろに流れる。
しかし・・・
彼女の顔からはいいようのない怒りがこみ上げている。
どこかまだあどけなさを残した顔立ち。
少しタレ気味な目が彼女の幼さと可愛さとを引き立てている。
その可愛らしいはずの目が、今は鋭いまなざしで僕を睨んでいる。
その様子といったら・・・
例えようもなく、怖い。
(普段怒らない子が怒ると怖いってよく言うけど、それにはこういう意味も含まれてるのかなあ・・・)
とりあえず、謝っておかないと。
「・・・ホントに、ごめん」
「もう、良いよ・・・ほかならぬ健だもん。許してあげる」
「ホ、ホントに?」
「ええ」
そういって希望はにっこりと微笑んだ。
どこか蠱惑的な、小悪魔のような微笑み。
僕の背筋にぞくりと悪寒が走る。
「・・・その変わりといってはなんだけど・・・今日のデートのお金、全部健のおごりでいいよね?」
補足しておくと、最後の『いいよね?』は勧誘でも確認でもなく、命令である。
・・・仕方がない。自業自得と思ってあきらめよう。
「・・・いいよ・・・」
僕が力無く返事すると、希望はより一層微笑んだ。
「やった〜!実は今日、夏物の新しい洋服と水着買おうと思ってたんだよね〜」
がくり。
月末まで赤貧生活決定の宣告だった。
 

ひととおり店を見て回り、空腹を覚えた僕と希望は、近くにあったファミレスに立ち寄った。
もちろん、ここの会計も僕持ちである。
「さーて、食べるぞ〜」
満面の笑みで、目の前に広がる食べ物の数々に手をつける希望。
「・・・無理しなくてもいいんだよ」
これは明らかにいつもより量が多い。
「無理なんかしてないよ〜ほら、健も食べようよ〜」
そういう希望の隣には、先程買ったばかりのコーデュロイジーンズ等々がはいった紙袋が所狭しと並べられている。
「いや・・・僕はいいよ・・・」
「もったいないなあ・・・あ!このスープおいしい!」
(確信犯だ・・・)
僕は、もう帰ってこないお金を思っては、大きく嘆息したのだった。
 

それから数時間が過ぎた。
辺りは既にうっすらと暗くなってきている。
あの後、二人で映画を見に行った。
たしか、恋人を失った男の子が、幼なじみの女の子の力によって自分を取り戻していくという話だったような気がする。
・・・『というような気』がするというのは、実は、半分以上寝てしまってロクに覚えていないからだ。
「健、良い映画だったよね〜!」
「ん、ああ、そうだね・・・」
「じゃあ、健はどこが良かった?」
「えっ?・・・ああ、それはもう、全体的に・・・」
「ウソ」
希望は咎めるような目つきで僕を見る。
「健、途中からずっと舟漕いでたじゃないの」
「い、いや、あのその・・・」
希望はすねたような顔になる。
「私が気がつかないとでも思った?いつも健のこと見てるのに」
「ごめん・・・」
希望は大きくため息をつくと、
「もういいよ。ほら、いきましょ?」
そういって先に歩き始めた。
あわてて僕もその後を追う。
 

歩きながら、彼女のことを考えた。
彼女−相摩 希望−とは、バイト先で知り合った。
彼女の彼氏と別れ話がごちゃついており、その相談に乗ったのが始まりだった。
それが元で、僕まで彼女に誤解され、彼女に別れを告げられたのだ。
まあ、結局僕と希望がくっついたんだから、そうなったのも無理はないけど。
そういえば・・・
・・・・・僕の元彼女の名前はなんていったっけ?・・・・・
・・・・・・・・・・
ダメだ。どうしても思い出せない。
まあ、気にすることはないだろう。
僕はもう、希望と共に新たな生活を始めてるんだ。
いや、もう新しくはないな・・・
なんだかんだいっても、もう一年近く経っている。
もうこれが「日常」なんだ。
僕と、希望にとっての。
僕には希望が必要で、希望にも僕が必要。
それ以上、何を望むというのだ?
 

そんな ことを考えていると、いつの間にか駅前まで来ていた。
目の前には、踏切がある。
僕たち二人が渡ろうとした、その時。
警報音を鳴らしながら、遮断機が閉じる。
・・・・・・・・・・
・・・・・この音、不快だ・・・・・
何故か、心臓が締め付けられるようにキリキリと痛む。
何だというんだ?
一体、何だってこんなに苦しいんだ?
(・・・お前には、思い出さねばならぬことがある・・・)
誰かの、そんな声が聞こえた気がした。
何のことだ?元彼女の名前か?
(・・・パンドラの筺・・・開けてはならぬ・・・決して開けては・・・)
先程とは違う声が聞こえる。
パンドラの筺?
何のことだ。
しかし、僕の思考はそれ以上続かなかった。
薄れゆく意識の中、僕は傍らで僕の名前を叫び続ける希望の声だけを聞いていた。





あとがきちっくなもの:
駄文に長々とおつきあいいただきまことに恐縮至極。
NKでございます。
この作品が僕の二つ目の作品にして初の長編・連載ものになります。
希望EDその後・・・です。
実を申しますと、この作品にはプロットが存在しません。
この先どうなるか、僕にも分かりません。
もやもやとしたものは出来上がっておりますが。
こっそりしたためているオリジナルの作品と同時並行になるので、遅めの連載になると思いますが、長い目で見てやって下さい(お
皆さんの忌憚無きご意見・ご感想・苦情等々その他ございましたら、是非感想掲示板に御一筆くださいますよう。
それでは。      
頓首再拝



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