どのくらい、寝ていたのだろうか
怖い、夢を見ていた
・・・こんな歳にもなって・・・
我ながら、情けないと思う
でも、仕方のないことだった
その夢は・・・
希望と僕が離ればなれになる
そして・・・二度と、逢えない
そんな夢だった
そんなこと、あるはずがないのに
なんで、あんな夢を見た?
・・・・・気にするまい
僕はそっと上半身を起こし
隣で微かな寝息を立てている愛しい人の
その頬に何故か流れている涙を
そっと、人差し指で拭った
そっと・・・気取られぬように
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Memories Off 2nd Append Scenario (The end of “Hope”) 『Pandora’s box』 Chapter U “Invisible truth” |
作:NK |
朝が訪れを告げた。
現在、八月一日、AM8時。 頭にこびり付く眠気の残り滓を大きな伸びでふるい落とす。 そして、隣で寝ているはずの希望に目をやった。 ・・・いない・・・ 確か、夜中に起きたときにはいたんだが・・・ そして、あの涙。 あれも夢だったのだろうか? いや、それにしては現実的すぎた。 (もっとも、あの夢もいやに現実的だったけど・・・) 僕は布団から立ち上がり、彼女の痕跡を探すことにした。 ・・・痕跡は、思いの外に早く見つかった。 というより、意図的に残してあった。 机の上に置かれた、一枚の便箋。 そこには、希望の書いた丸字でこう記してあった。 『やっと起きた?ま、健のことだから、今はもう九時ぐらいなんだろうけど。
私は、結構早くに目が覚めちゃったから家に帰るね。 今日、出校日だし・・・ 嬉し恥ずかし朝帰りってやつよね。(>_<) あ、お母さん達には友達の家に泊まるって言っておいたから、大丈夫だよ! いちお、起きたらメールしてね。 PS 朝ご飯、作っておいたから。ちゃんと食べるんだよ?』 隣には、もうすっかり冷えたトーストと目玉焼きが置かれている。
そのトーストを囓りながら、便箋を何度か読み返す。 手紙というものは一方的なものだ。 書いた本人が伝えたい内容しか書かれていない。 つまりは、伝えたくないことは書かずに済ませることができる。 例え、相手がどれだけ知りたいことであっても。 この場合は、まさにそれだ。 僕が希望に対して問いたいのは、この手紙の内容とはまるっきり違う。 (希望・・・昨日の涙は・・・あれは何だったんだ?) 僕は、問いかけたい、しかし実際には問うことのできない疑問を、頭の中で繰り返していた。 朝食を食べ終わり、顔も洗い、ずいぶんと頭がさえてきた。 昨日のこと思い出す。 昨日は・・・そう、希望と二人で出かけたんだった。 ウィンドウショッピングして、露店冷やかして、ファミレスで食事して、映画見て・・・ それから・・・・・ そう、踏切。 僕は踏切で、意識を失った。 ・・・・・待てよ? あの後、目を覚ましたのは夜中。 自分の部屋でだった。 おかしくないか? どうやって、この部屋に戻ってきたんだ? まさか、希望が俺を担いで・・・? いや、バイト先での彼女を見る限り、そんなこと彼女ができるはずがない。 だとしたら・・・ どうやって運んだんだ? いや、それよりも・・・ そもそも、何故、僕は踏切なんかで倒れたんだ? 思い出すと、今でも寒気を覚える、あの痛み。 そして、どこからか聞こえてきた正体不明の声。 あの正体はいったい・・・ さらに、昨日の夜中の希望の涙・・・ 分からない。 僕には・・・何も・・・分からない・・・ 再び、布団の上にごろりと横たわった。 窓の外からはせわしなくセミの鳴き声が聞こえてくる。 僕は、あらゆる雑念を遮り、考え事に集中することにした。 意識を失う直前、頭の中に聞こえた声。 (・・・お前には、思い出さねばならぬことがある・・・) この言葉の通りだとすると・・・ ・・・・・僕は何か、大切なことを忘れているんじゃないだろうか。 とても・・・そう、とても大切な何か。 それが何なのか、皆目見当もつかなかったが、さっきの謎と何か関わりがあるのではないだろうか。 そんな気がした。 そして、もう一つの声。 (・・・パンドラの筺・・・開けてはならぬ・・・決して開けては・・・) パンドラの筺の話は僕も知っている。 ギリシア神話の中の話だ。 プロメテウスは火を盗み人間に与えた。 ゼウスはこれに怒り、プロメテウスに永遠の苦しみを与えた。 さらに、人間に対する報復として技術の神ヘパイストに最初の女性を命じ造らせた。 これがパンドラである。 彼女には、あらゆる神から美点が与えられた。災厄の詰まった箱と共に・・・ ゼウスはヘルメスに命じプロメテウスの兄弟のエピメテウスの女として連れていくよう命じる。 このとき、ヘルメスに触れた為、パンドラの心に好奇心が加えられた。 プロメテウスの前からの忠告を守らず、エピメテウスはパンドラを嫁として受け取ってしまう。 その後・・・ パンドラは神々より与えられた災いを封じた箱を好奇心から開けてしまう。 中より貧困、病気、犯罪、苦労等の災いが逃げだし驚いたパンドラはすぐに箱を閉めるが、時すでに遅く希望を残し全ては広がり去ってしまった。 それ以来人間は希望のみを持ち、あらゆる災難と戦わなくてはならなくなった。 ・・・たしか、そんな話だったと思う。 あの言葉が言いたかったことはそれだけではないはずだ。 開けてはならぬもの・・・ 聞いてはならぬもの・・・ それは・・・希望の、涙なのか・・・? 突如、携帯のコール音が室内に鳴り響いた。 画面で相手を確認する。 「相摩 希望」 思わず、携帯を落としそうになった。 まるで、計ったかのようなこのタイミング。 僕の心は彼女に読まれてるんだろうか? ありもしない想像を納め、僕は一拍置いてその電話に出た。 「はい、もしもし」 『あ、出た』 心底意外そうな声を出す希望。 『てっきり、まだ寝てるのかと思ったよ。朝ご飯食べた?』 「うん。もうすっかり冷えてたけど・・・今、大丈夫なの?」 『うん、今休み時間だから・・・あ。そういえば、起きたらメールしてって書いて置いたよね?』 彼女の声にうっすらと怒りの色が混ざる。 「ごめん、考えごとしてたから・・・つい、忘れちゃったんだ」 大きなため息が聞こえた。 『もう・・・まあいいや。ところで、今日暇?』 今日は、バイトがあるはずだ。 時計を見る。 十時前だった。 今日のバイトは夜からだから・・・ 「午後からなら・・・バイトはいってるから夕方までだけど。」 『分かった・・・二時に、桜峰でいいかな?』 「いいけど・・・なにするの?」 『ちょっとね、会って話したいことがあるから。』 「今じゃダメなんだ?」 『うん。大切な・・・話だから。・・・じゃ、授業始まるからこれで。』 「わかった。あとでね。」 僕はそういって電話を切った。 これが、僕が「彼女」と交わす最後の会話になるとは・・・
このときの僕には、知る由もなかった。 |
後書き:
さてさて、ずいぶん物語が最初に考えていたものとは違うものになってきていますが(爆 パンドラの筺の話についてちょっと語っておきます。 ここで書いた文章も、一般に知られている物語も、パンドラの筺の中に残ったのは、希望である、となっています。 しかし、僕の解釈はやや特殊です。 箱の中に残っていたのは・・・未来を知る力。 ぶっちゃけちまうと予知能力、ではないのかと。 かえることのできない「未来」が見えたら、「希望」なんて持ちようがありませんしね。 閑話休題。 さて、今までにもかなり伏線をはってきてるんですが、今回はかなりえげつなく使ってしまいました。 勘のいい人は・・・もう気付くかも知れないな・・・ 突っ込み・感想・ダメだし等々カムカムエブリバデーです(核爆 それでは。 |
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