汝、真実を知るものよ
時は来たれり
求める者に真実を告げるがよい
それによって彷徨える友を救うがよい
汝の友を、地獄の業火から解き放て
求める者を、偽りの幸福から叩き起こせ
真実の「痛み」を味あわせよ
・・・人は苦しまねば己の幸せを感じることはできぬ
不幸のうちに初めて人は、己が何者であるのかを知る
彼の者に真実を告げよ
暗く深い海の底を覗かせよ
されど・・・・・
多すぎる不幸は人を醜悪な者にしてしまう
海の底を照らすのだ
彼の者の行く末を「希望」という名の大いなる輝きで満たせ
その悲しみが、「絶望」に変わる前に・・・
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Memories Off 2nd Append Scenario (The end of “Hope”) 『Pandora’s box』 Chapter V “Zachariah” |
作:NK |
今、病院から帰ってきた。
今日はルサックのバイトも入っていない。 俺は玄関を開けて部屋の中に入り、そのまま、床にごろりと横になった。 ・・・疲れた・・・ いや、肉体的にはバイトもないことだし、全く疲労していないのだが・・・ 精神的にかなり辛いものがある。 イナケンの病院から帰ってくると、いつも決まってこうなる。 ・・・でも、俺はほぼ毎週通い続けている。 それが、親友としてあるべき姿だと、俺は思うからだ。 突然、ノックの音がした。 俺は、その音に反応して飛び起きる。 「・・・どなたですか?」 我ながら、凄まじく不機嫌な声が出た。 (ちょっと失礼だったかな?) そう思いつつ、玄関のドアを開ける。 「よお」 良く見知った顔が、そこにあった。 「智也!お前、どうして此処に?」 「ご挨拶だな。ちょっと用事があって近くに来たから、顔出しただけだよ」 智也がむっとした表情で答える。 「すまんすまん。まあ、上がってくれ。むさ苦しいとこだが。」 「・・・本当に、むさ苦しいな、ここ・・・」 智也は苦笑しつつ部屋に上がった。 「ちょうど良かったよ。お前に聞いて欲しいことがあったしな・・・」 途端に訝しげな顔になる智也。 「・・・激しく悪寒が走ったぞ、今・・・」 「・・・そこまで露骨に嫌がることはないだろうが・・・」 「ジョークだ。気にするな。」 どこまで本気なんだか、こいつは・・・ 「・・・で、話というのはだな・・・」 「健のことか?」 俺より先んじて智也が口火を切った。 な、何故に分かる!? こいつ、前々からただ者じゃないとは思っていたが・・・よもや・・・ 「何、心外そうな面してやがる。お前が俺に話しそうな悩み事は他に無いだろうが。」 む・・・それもそうか・・・ 「で、健のことがどうかしたのか?」 「ああ、そのことなんだが・・・」 俺は以前伝えたことからこっちを智也に語って聞かせた。 「・・・結局、何が言いたい・・・」 憮然とした表情で智也が言った。 「だから俺は・・・」 しかし、もう一度説明しようとする俺を智也の言葉が遮った。 「・・・『呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする』・・・って夏目漱石は書いてるが、お前の心の奥底からは悲嘆の音しか聞こえてこないよ。もっとも、お前は『呑気』というよりも、『道化』という方がずっとふさわしいがな」 「なんだと・・・」 俺が、何故道化だ!? 「『健は意識が戻りそうにない。でも、苦しんでる。だから、助ける方法はないか』って、なんだよ、それは」 「違う!そんなことを言いたかったんじゃない!!俺は・・・」 唯、イナケンのために・・・ 「同じことだ。お前は、いつも誰かを助けよう、誰かの役に立とうとしてる。それはお前の長所なんだろうし、あのことじゃ俺もお前には本当に感謝してるよ。けどな・・・」 「・・・・・」 「それが本人にとって、どういうものなのか少しでも考えたことはあるのか?」 「それは・・・!」 無いわけがないだろうが! 「・・・あるって言いたそうな顔してるな。でも、お前の考えた事と相手が考えてることには天と地ほどの差があるんだよ。分かるか?」 「・・・それは・・・」 「例えば、だ。俺がイナケンだとしよう。俺は今、夢を見ている。とても満ち足りた夢だ。愛する人が隣にいて、毎日毎日が凄く楽しい。そんなときに無理矢理たたき起こされたら、俺なら怒るし、嫌になるね。お前でもそうだと思うぞ?」 「・・・なにが、いいたい・・・」 激情に似た感情が、鎌首をもたげてくる。 「健がそういう状態だったら、お前はどう責任をとるつもりだ?・・・お前のそれは自己満足だよ、信。『俺がこれだけ尽くしてるんだ。感謝しろよ』なんて、心の中で自己陶酔してんだろ?結局、自分の自己満足の為であって、本当は他人のことなんか少しも慮っちゃいないだろうが!」 頭の中で、理性が音を立てて引きちぎれた。 「お前に、俺の何が分かるってんだよ!ああん!?分かったような口叩きやがって!!!」 怒鳴りながら、智也の襟元を両手で力一杯引き掴み、そのまま壁へと智也を叩きつけた。 しかし、当の智也は全く動じる様子を見せない。 それどころか、ますます冷ややかな視線を俺に浴びせる。 そして、冷静きわまりない口調で、こう、告げた。 「・・・分かんねえよ。でも、お前自身は分かってるんだろうが。お前自身が、俺の言ったとおりだと思ったんだろう?じゃなきゃ、どうして此処まで激昂する必要がある?」 高ぶり、沸々と煮えたぎっていた感情が急激に冷めていくのを感じる。 「・・・だから道化(ピエロ)だってんだよ。自分自身を偽って、人にまで見せつけて・・・よもや、自分の「優しさ」を自慢するために、俺に話したんじゃないだろうな?」 「それは・・・ちがう・・・!」 智也の襟元を掴んでいた手を放す。 襟元を正しつつ、苦虫を噛み潰したような顔をする智也。 「すまん・・・言い過ぎたな・・・お前がそんな風に他人のために尽くすようになった原因の一つを作ったのは、他ならぬ俺なのにな・・・」 「智也・・・それも違う・・・」 「違わないな・・・ついさっき散々言ったけどな、お前の「優しさ」はやっぱり美点だよ・・・少なくとも、俺には絶対できることじゃない。」 そう言って、ふっと微笑を浮かべる。 「もしも仮に俺が・・・お前の言うとおり、自分の自己満足の為にやっていたことだとしてもか?」 「そうだ・・・お前には、他人を幸せにする「力」がある。例え、自己満足だとしても、相手が幸せになればそれで結果オーライだろう。そして、お前にはそれができる。 ・・・でもな・・・お前自身は、いったい何時になったら幸せになれるんだ?何時になったらその背中に背負った「罪の意識」を降ろすことができるんだ?・・・そう、何時かお前に貰った言葉、今、お前に返すよ。・・・『雨は、いつ上がる?』・・・なあ、お前の雨はいったい何時になったら上がるんだ?」 「それは・・・」 「お前が幸せにならなくちゃ、幸せになった側も、窮屈だろうが・・・」 智也は、慈愛に満ちた目で、俺の瞳をじっと見据えている。 俺は、その瞳から目を逸らさずに、答えた。 「相手を幸せにすること。・・・それこそが、今の俺にとって最上の幸せなんだよ、智也。結局、自己満足かも知れないけどな・・・」 「否、そんなことはないぞ。そうか・・・幸せか・・・」 どこか、ホッとしたような顔をして、智也は再び微笑んだ。 「それがお前の幸せなら、俺は何も言うことはない。出過ぎた真似して、悪かったな」 「いや、お前が心配してくれてるのが分かって、嬉しかったよ。」 「ところで、だ。そんなお前に、頼み事がある。」 「なんだ?改まって・・・」 なんだか、嫌な予感がするのだが・・・ 「健のこと、お前に任せていいな?」 「えっ?任せるも何も・・・見舞いに行くのは俺くらいしかいないし・・・」 「いやいや、そういう事じゃないんだよ・・・こういう言い方じゃ語弊があるな」 苦笑を浮かべる智也。 「じゃあ、もっと端的に言うな。健は多分、近いうちに目を覚ます。おそらく、あいつには何かしらの混乱があるだろう。その時、お前があいつの支えになってやって欲しいんだ。」 「・・・ちょっと、待て。なんでそんなことが分かる?」 「勘だよ、勘。まあ、信じる、信じないはお前の自由だ。」 なんで、急にこんな事を言い出すんだ? 「あいつが一番求めているもの・・・それを、与えてやってくれ。」 「イナケンが・・・求めているもの・・・」 「そうだ・・・お前なら、できる」 そう言って、俺の肩をポン、と軽く叩く。 「じゃあ、任せたからな?」 「任せたって・・・お前は?」 「俺は忙しい」 きっぱりと言いやがった。 「じゃあ、よろしくな!」 そう言うなり、智也は玄関から外へ出ていった。 後の取り残された俺は、呆然と立ちすくんだ。 ・・・なんだか、はめられた気がする・・・ それから数日後。
俺は智也の言葉の本当の意味を知ることになる。 |
後書き:
第三章、如何だったでしょうか。 題名の“Zachariah”は「ザカリヤ」と読みます。 意味は・・・書きません(爆 ただ、言えるのは、智也≒題名 そういうニュアンスで使っています。 今回は、会話がほとんどを占めています。 しかも、話の展開には関係してこないことばかり・・・ 理由としては、「信を救うため」なんですが・・・ この会話から、信と智也のいろいろな感情なんかを感じていただければ幸いです。 ご意見、ご感想等々お待ちしています! それでは。 草々 |
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