貴方の視覚が今、感じている物・・・
貴方の聴覚が今、感じている音・・・
貴方の味覚が今、感じている味・・・
貴方の嗅覚が今、感じている香り・・・
貴方の触覚が今、感じている風・・・
すべての、貴方が感じている感覚たち
その感覚が、全てマボロシだと言われたら?
全てが、偽りに満ちた世界だと言われたら?
貴方は平常心を保てるだろうか?
・・・保てはしまい・・・
自分のアイデンティーを根本から否定されて、平常心でいられる方がどうかしている
否、恐らく、そのようなことは認めようとはしないだろう
例えそれが真実だとしても
・・・「真実でさえ、時と方法を選ばずに用いられて良いということはない」・・・
モンテーニュの言葉である
貴方にとって、これは用いられるべき真実ではないだろう
それは先刻承知の上だ
それでも我々は、貴方に真実を告げねばならぬ
それが我々の「使命」なのだから・・・・・
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Memories Off 2nd Append Scenario (The end of “Hope”) 『Pandora’s box』 Chapter W “Twins” |
作:NK |
正午ちょうど。
昼飯としてカップヌードル醤油豚骨味を食べ終えた僕は、ごろりと横になった。 満腹感の上に、今日はあまり暑くなく、快い風が吹いている。 このままだと、うとうとと微睡んでしまいそうだ。 希望との待ち合わせ時間までは、まだ二時間の余裕がある。 しかし、この間寝過ごしちゃった前科もあるしな・・・ やっぱり、起きとくか・・・ むくりと、上半身だけ起きあがる。 ・・・頭が、ぼーっとしてる。 急に起きあがった所為だろう。 所謂「脳貧血」の状態になっているようだ。 ・・・何だか眠くなってきたよ・・・ ・・・はっ。 いかんいかん、この間の二の轍を踏むわけにはいかんのだ。 僕は顔を振って眠気を飛ばし、何をすべきか考える。 ・・・このまま部屋にいても眠ちゃうだけだろうし・・・ それならいっそのこと、外で暇つぶすか・・・ 頭の中で結論を出すと、さっさと準備に取りかかった。 いくらいつもより涼しいとはいえ、外に出て直射日光を浴びると、搾り取られるように汗がしみ出してくる。 どこか涼むとこみつけないとな・・・ 涼めて、しかも暇つぶしができるところ・・・ あそこぐらいしか、ないだろうな・・・ 目的地に着いた。 目の前にそびえる、大きな書店。 桜峰でも、有数の大きさを誇る此処には、ちょくちょく通っている。 ・・・一時期は、暇さえ有れば此処に通っていた時期もあった。 そう、来なければならなかったんだ。 大切な・・・とても、大切な何かを、調べるために。 でも・・・思い出すことができない。 なぜだろう・・・ なぜ、こんなに大事なことばかりを忘れているんだ? 分からない・・・ 「・・・知りたいですか?・・・その・・・理由を・・・」 「えっ!?」 不意に声を掛けられたうえに、しかも心の中を見透かされたようなセリフ。 思わず僕は声のした方向をじっと見つめた。 そこには、良く見知った顔があった。 幼さを残した顔立ち。 ショートレイヤーに切りそろえられた髪。 あどけなさを助長するタレ気味な目。 ・・・いつもより、幾分憂いを含んでいるようにも見えるが・・・ しかし、彼女であることに間違いはないだろう。 僕は、迷わず声を掛けた。 「希望!学校終わるの早かったんだね?どうしたの?」 「・・・違います」 「えっ?」 予期せぬ答に、思わずたじろいでしまう。 「・・・違うって・・・」 「私は確かにノゾミですが、貴方が言っている希望とは違うノゾミです」 「違う・・・ノゾミ・・・?」 「はい」 何なんだ?いったい? 彼女は、何が言いたいんだ? 「・・・無理もありませんね。貴方は私たちのことですら、完全に忘れてしまったようですから・・・」 そういって、寂しげな顔をする彼女。 なんだか、とても申し訳ない気分でいっぱいになる。 「・・・ごめん・・・」 思わず、謝罪の言葉が出た。 「そんな・・・謝らないでください・・・貴方が悪いわけじゃ、ないんですから・・・」 「でも・・・」 彼女は、ゆっくりと首を左右に振る。 「いえ、私の言い方が悪かったですね。私たちですら、ではなく、私たちだからこそ、貴方は忘れてしまったんです。忘れねばならなかったんです」 忘れねばならなかった? 「私たちという存在は確かに、「希望」という個人で此処に存在しています。しかし、それは現実の私、いや、私たちではないのです」 「ちょっと待って。それは、いったい、どういう・・・」 「こういうことです」 僕の言葉を遮ってそう言うと、後ろをすっ、と指さす。 その指先を目で追っていくと、その先には、もう一人の彼女がいた。 「あれは・・・」 今度こそ希望だろう、と言おうとして、再び彼女に遮られる。 「断っておきますが、彼女もまた『希望』ではありません」 ・・・・・ なんだって? 「じゃあ、彼女は誰だって言うんだよ?」 知らず、不機嫌な声が出てしまう。 「彼女は、メグミです」 「・・・メグミ・・・?」 「はい。希望の希と書いてめぐみと読みます」 「希望の・・・希・・・」 「ちなみに、私の字は希望の望と書きます」 「希望の・・・望・・・」 まさか・・・ そんな、馬鹿なことが・・・ 「君たちは・・・希望の・・・何なんだ?」 思わず、問いただしていた。 聞いてはいけないことかもしれないのに。 否・・・聞かずにはいられなかったんだ・・・ 「そうですね・・・オリジナル、とでも言っておきましょうか」 「オリジナル・・・」 「それについては、私が説明しましょう」 不意に、後ろから声を掛けられた。 振り向くと、先程の女性が、間近にまで迫ってきていた。 この娘も、やはり希望によく似ている・・・ 先程の娘と対照的なのは、その瞳にどこか勝ち気な印象を受けるところだろう。 彼女は、僕を一瞥すると、やはり希望とよく似た声で、僕に話し出した。 「・・・オリジナル・・・日本語で言うところの、雛形、ですね。もっと分かりやすく言うと、元になったもの、です」 「元になったもの・・・?」 「ええ。貴方の言う女性・・・希望は、私たちから生まれたものなんです」 ・・・なんだって!? 僕は、頭を強く殴られたような衝撃を覚えた。 しかし、そんな衝撃を受けながらも冷静でいられたのは・・・ ・・・その言葉が出ることを、どこかで分かっていたからかもしれない・・・ 「どういうことなんだ・・・」 「分かりませんか?・・・そう、そうですよね。いきなりそんなことを言われても、理解できないですよね」 「・・・悪い冗談なら、やめてくれよ・・・」 「・・・冗談なら、いいんです。私たちも、此処に来る必要なんてなかった。でも・・・貴方だけが真実を知らないままでいるのは・・・見ていられなかったんです・・・」 そう言うと、彼女は伏し目がちに押し黙った。 ・・・・・ 僕だけが、真実を知らない・・・ その言葉は、僕の両肩にずしりと重くのしかかった。 彼女たちの真剣な表情を見ると、僕をからかっているようにはとても思えなかった。 それに、彼女たちが希望にあまりにも似通っていることは偶然とはとてもじゃないが思えない。 僕だけが知らない事実・・・ 「知りたいですか?本当の事実を・・・」 彼女たちは、異口同音に再び僕に問いかける。 「知りたいよ」 そう、答えていた。 「その事実が・・・貴方の望むものでは無かったとしても?」 「・・・ああ、知りたい」 不思議と、迷いはなかった。 それよりも、周りが・・・特に、希望が僕に何かを隠しているということが、妙に悲しく思えた。 そんなに安っぽい信頼関係だったなんて・・・信じたくなかったんだ。 だからこそ、僕も真実を知る必要がある。 そう、思った。 「そうですか・・・本当に良いんですね?」 改めて、二人は僕に問いかけた。 今思えば、このときに気付くべきだったのかも知れない。 でも、このときの僕はただの確認だと思い、深く考えることはなかった。 「うん・・・早く、教えてくれないかな?」 「そうですか・・・」 二人は顔を見合わせ、頷き合う。 そして、指をパチリ、とならした。 その次の瞬間・・・ 僕の目の前は、真っ白に染まった。 気が付くと、僕らは今までいた場所とは違う場所に来ていた。 そこは・・・ あの、踏切の前だった。 いつの間にか日もとっぷりと傾き、辺りは赤々と染められている。 「ここは・・・」 再び、内蔵がせり上がってくるような不快感に襲われる。 「そう・・・貴方が原因不明の不快感に襲われる場所です」 二人は、まるでシンクロしたように異口同音に同じことを述べる。 「その不快感の原因・・・それは・・・私たち・・・」 「どういう・・・ことだよ・・・」 こみ上げる不快感に脂汗を流しつつ、僕は尋ねた。 「こういうことです・・・」 いつの間にか、踏切の中に二人が入っていた。 遮断機が、喧しい音を立てながら閉まりつつあるというのに・・・ 「・・・・・!!!」 叫んだはずの声は、言葉にならなかった。 僕は・・・また、彼女たちを失うのか・・・ また・・・? 今、僕は「また」と思ったのか? 電車が轟音を発しながら通り過ぎる。 次の刹那・・・ そこには、何事とも無かったような光景が広がっていた。 彼女たちの姿は・・・どこにもなかった・・・ まるで、空中に四散したかのように・・・ まるで、最初から彼女たちなど存在しなかったかのように・・・ しかし、僕には以前の記憶がフラッシュ・バックのように蘇ってきた・・・ 蘇ってきた記憶は、此処と全く同じ光景・・・ 唯一違うのは・・・ 記憶の中の光景は、今のそれよりももっと赤々と染められていて・・・ そして・・・その赤い海の中心には・・・ 二つの・・・かつてはあの彼女たちであった・・・声なき骸が・・・ その片方の亡骸は・・・首や手足が・・・あり得ない方向にねじ曲がっており・・・ もう片方の亡骸は・・・綺麗に左半身全てが・・・消し飛ばされていた・・・ 「・・・・・!!!」 再び、叫ぼうとしたが、またもや声にならなかった。 体中ががたがたと震え、夏だというのに、悪寒のためか、鳥肌が総毛立つようになっている。 全身が「ここから逃げ出したい」と悲鳴を上げている。 しかし、足に力が・・・入らない・・・ 僕は、力無くその場にへたり込むと、自分自身を羽交い締めするかのように、きつくきつく抱きしめた。 震えは収まるどころか、更に激しくなり・・・ 両手の指の爪は、力の余り、真っ白になっていた。 否、真っ白になっているのは爪だけじゃない・・・僕の全身だ・・・ 顎ががたがたと震え、歯がぶつかり合ってがちがちと音を立てる。 ああ、間違いなく僕は・・・彼女たちを見殺しにした!!! なんでこんな大事なことを・・・忘れていた? 否・・・忘れようとしていたんだ!! 本当は、覚えているというのに・・・!! あの不快感は・・・この記憶によるものなのか・・・ 「ああ・・・・・あ・・・・・あ・・・」 やっとの思いで出した言葉は、意味をなさなかった。 そんな僕の耳に、誰かの言葉が聞こえてきた。 『・・・思い出して・・・』 あり得ない。 僕はそう思った。 何故なら、その声は・・・先程の二人の声だったから・・・! 僕はその声が聞こえぬように、手で耳を塞いだ。 しかし、その声は僕の意思など無視するかのように強く強く頭の中に響いた。 『・・・さあ、現実に、還ろう・・・』 『・・・殻に閉じこもるのは、もう、やめにしよう・・・』 この声は僕の幻聴なのか? 否、違う・・・これは、彼女たちの声だ。 間違いなく、彼女たちの心の声なのだ。 声は、やむことなく、僕を呵み続ける・・・ ああ・・・頭が・・・頭が・・・痛い!!! 僕は、頭痛と声とにうなされながら、再び此処で意識を失った。 |
後書き
本当は受験後に書き上げる予定だった第四章、如何でしたか? 本人的には、まあまあどうにか及第点、といったところでしょうか。 相変わらず展開を急ぎすぎる癖がある・・・(苦笑) 「まあ、息抜きに」と自己正当化しつつ書いたので、 その影響があるのかな?(はい、唯の言い訳ですね。スイマセン。) だいぶん構成もまとまりつつあり、EDも固まったので、 これからはもう少しスムーズに書ける・・・予定です(爆) 期待しないで待っていてください(おい) 再拝。 |
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