Lilac
N・O



Appetite for destruction







朝、普段なら気持ちのいい朝、今日は良くない朝。
「吉野君?」
「どうしたんだ、具合でも悪いのか?」
男女一組のクラスメート。
声をかけらたことにいまさら気づきながら。
俺は何でも無い様に返す。
「ああ、うん、そう……少し考え事をね」
背中を追いかけられなくて。
(何が壊された、だ、格好つけてさ)
悔しかった。
机にうつ伏せになり、目をつぶる。
(俺は…)
あの時何て言うつもりだったんだろう。
何て言えるつもりだった?
鹿島は何故関わるなと言い出した?
そして業を煮やした二人から発せられる言葉に耳を傾けながら生返事。
「調子狂うなぁ、明るいのが吉野君の取り柄なのに」
「なぁ…変な噂が流れてるからって気にすんなよ?」
噂?
「そうそう、落ち込むだけ損、明るく行こ」
何だろう?
「噂って何さ?」
少しだけ身を起こして、
「ああ、何でも吉野と鹿島が付き合ってるって」
ああ、もう本当に、
今日は気分が悪い。




「よりによってあの鹿島とだなんてな」
なんとなくだ。
「あんな根暗なのと付き合うわけないって、ねぇ?」
多分この二人は噂の真贋を問うている。
「何考えてるかわかったもんじゃないしな、あいつ……」
聞いていられなくなって、
「あいつは……」
押し出されてくる言葉。
「鹿島は……」
それは正しいんだろうか?
「鹿島はそんなに悪い奴じゃないと思うよ」
周りの空気が変化するのにはっとしたが、言葉にした物は取り消せない。
失言だ。
たとえそれが本当の事でも。
ひそひそと話し声が聞こえて、
もうどうでもよくなって、
以降、話し掛けてくる人間はいなかった。
皆に避けられている。
男子はどこかニヤニヤとしていて、
女子は眉を顰めて、
挨拶しても、
無視される。
こうして俺のごく当たり前の日常は、たったの一言で壊れたのだ。

(…二度と私に関わらない方が良いわ、碌な目にあわないから)

彼女に言われた言葉の意味を、
ようやく理解した。
やはり俺はどうしようもなく愚かだったのだ。
俺は知らなかったのだ。
いや、本当は知っていたのかもしれない
俺が本当は一人ぼっちだった事に。
……。
俺は、
彼女と同じだ。




私はまた学校を休んだ。
先日一部のクラスメートに絡まれたせいもある、まぁ返り討ちにしてやったが。
実際には頭痛が大方の原因だ。
身体が自分の物ではないような感覚、
意識が朦朧とする。
朝方飲んだ痛み止めのせいかもしれない。
でも頭痛は未だに治まっていない、鈍く脈拍に合わせて痛む。
ソファにもたれ掛かって眠ろうとしたが眠れない。
回らない頭でぽつぽつと少しづつ考える。
(何でだ!?俺は、俺は鹿島が…)
理解と不理解が入り混じった表情をした彼。
「…………」
駄目だ、理由も無く思考がループして、上滑りしていく。
考えるのは後にしよう。
ごろんと横になって眠ろうとした所で呼び鈴に叩き起こされる。
無視しようかとも思ったが思い直して玄関に行く事にする。
のろのろと向かううちにもう一度呼び鈴の音。
わかってる、
意識せず壁を叩いていた。
すぐ行くから、
静かにしてて。
階段を下りて、廊下を歩いていく。
頭痛は相変わらず。
大きく息をついて、
いつも以上に重いドアを身体で押して開ける。
そこにはまぁ何と言うか、あまりに予想通りに彼がいたのだ。
少し乱れた服装に、荒い息。
青春してるな、と。
思わず笑ってしまった。




最初、扉を開けた彼女は少しぼうっとしていて、
そしていきなり笑い出した。
後で聞いた話だが、薬を飲んでいてどうも歯止めが利かない状態だったらしい。
覚束無い手付きで色々準備しているのを見るのは少々スリルがあった。
熱い湯が入った薬缶を持ってふらふらしていたのには心底参った。
それでも何とか無事にお茶が俺の目の前に置かれた。
何を言おうか思案していると、どこか間延びした調子で先に話しかけて来る。
「……クラスの子達も偉く違うのね、私に関わる関わらないので」
そこで一口カップに口をつけた後に続けてくる。
「申し訳ない、とは思うんだけど、私にはどうしようもできないわよ?」
少し、考えた。
「いや、そんな話をしに来たんじゃないから」
「え?じゃあ…」
聞き返してくる彼女を無視して続ける。
「多分、多分最初は誰でも良かったのかもしれない」
ただ話したかった。
「でも一人でいる鹿島から目が離せなくてさ、新しい鹿島を知るたびに心惹かれていってね、俺の中でどんどん存在が大きくなったんだ」
まるで愛の告白のようで、そしてまるで他人の事のように。
「いつも一人でいるのは人が怖いからかとか思って、なんか放って置けなくて、助けよう、守ろうって。」
「俺、鹿島が好きだから、だから何とかしてやりたいってそう思ってたんだ」
「でもわかったんだ、結局俺も一人だって」
「鹿島が受け入れないのと反対だったんだ、誰も彼も受け入れて、誤魔化して」
「ただ俺は会話がある分普通でいられて、安穏とした世界だったから、だから寂しそうな鹿島に同情したのかもしれない」
「こんな俺が好きとか守るだとか言って、可笑しい話だよな……」
一方的に言うだけ言って、立ち上がる。
「吉野君?……」
呆然としている彼女、理解できているのだろうか。
「…………、じゃあな」
俺は立ち去る。

次の日も、学校で考える。
意味も無く絡まれる事が多くなったが気にしない。
振られて、寂しかった。
失う事ではなく、見捨てられる事が。
友人達とのつきあいの中でも疎外されるのを恐れて、何も言わずに曖昧にして。
そんな時に俺を助けてくれたのは彼女。
(それでも寂しいのなら、…私で良ければまた慰めてあげる)
彼女もまた本当は弱い人で、俺は彼女を支えられる程強くなりたい。
心から願っている。
あるクラスメートは言った。
「あいつは話し掛けても返事しないんだよ、嫌な奴だよ、もう放っとこうぜ」
ただ怖いだけだ、怖かっただけ、それだけで嫌われて、それだけで……。

唐突に、
どすんと突き飛ばされて、転んでしまった。
俺は突き飛ばした三人のクラスメート達を睨みつける。
「何だよ、その目、どうせ鹿島と宜しくやってるんだろ?」
カッと来た。
次の瞬間には何かべらべら喋っていたソイツを殴り倒していて、
ガラガラと机や椅子の倒れる音と、悲鳴が起こる。
「勝手な事言うな!何でそんなに意味も無く人を悪く言えるんだよ!?」
そして殴り倒した奴が起き上がってくる。
「いって……、こっの野郎!」
殴りかかってくるが、避けられずに頬に当たる。
血の味、女子の悲鳴。
「ちょっと何してるのよ!」
「先生呼んで、先生!誰か……」

誰もいない夕暮れの土手を一人歩く。
最後にクラスメートの言っていた言葉が胸に痛かった。
(何だよ!?お前だって鹿島の事良く思って無かった癖にっ!)
違う。
(今更イイ子ぶる気かよ!)
俺は弱虫で言いたい事が言えなかっただけだ。
強くなりたい、
強くなろう、
俺は強くなる。
言いたいことを言って、心開ける自分になるんだ。
土手の日当たりのいい所を選んで腰を降ろす、ほんの少しだけ気分が晴れた。
無視されたりするのが辛くない訳じゃない。
でも、だからこそ強くありたいと本当に思えるようになった。
俺は感謝しないといけないくらいだ。




声をかけるタイミングを計れずにいたが、腰を降ろしたようなのでそろそろと近づく事にした。
結構な距離があったが、草を踏む音で気付かれるかもしれない。
3m、2m。
私は用意していた言葉をぶつけた。
「……私でよければ慰めてあげましょうか?」
こちらを驚いたように見る彼、返事は無い。
「何か勇ましい事したらしいね?」
大体の事は知っていたが、彼の口から聞きたかった。
少し顔色を赤くしていて、言い訳する子供みたいだった。
「あ……、うん……、急にカッとなってね。言いたい事言って、ぶん殴ってやったんだ、詳しく覚えてないけど」
額に張っている湿布を掻き掻き、どもってしまった。
そんな彼が羨ましくて、嬉しかった。
「ふぅん、言いたい事を?」
「……ん」
「良かったじゃない、私も言いたい事言えないと駄目なのかしら……」
「……?」
「今日のあなたは格好良いわ、そう、見直したというか、見習いたい」
率直にそう思った。
一々細かい事を考えていた事が、ひどく卑小に感じられて仕方が無い。
そんな私に対し、彼はひどく衝撃を受けた風だった。
呆然とこちらを見ている。
何か間違ったかな、まあ良い事にしよう。
もっと格好悪くても良いのだ。
もっと好きに生きるんだ、がんばれ私。




驚いた、前を上機嫌で歩いていく彼女はまるで別人に見える。
という事より、俺でも彼女にとっての見習いたい対象になれる、その事に。
これは一層の努力がいるなぁ。
そう悲喜交々に考えていると何か思いついたようで、くるりと振り向いた。
少し悪戯っぽく笑って言う事には、
「私の事、守ってくれるんでしょう?……だったら私はあなたを慰めてあげる、……それでおあいこね」
と、異存は無い、望む所ではある。
しかし甚だ自信が無い、困ったものだ。
「ああ、うん、そうだね」
そんな内心を読まれているのかも知れない。
でもそんな事も、彼女の笑顔を見ているとどうでも良くなった。
明日は多分学校に楽しく行ける、そう信じられる。


あとがき

読了に感謝します。
三作目です、N・Oは元気です。三作とも傾向違いますけど。
初の長編っぽいです、他にも同じ世界観で話が幾つかあります。
これは一応ここで完結しています、尻切れ蜻蛉に見えなくも無いですね。
今回の内容ですが。
1、「人の名前殆ど出てこない」2、「ほぼ全部一人称」3、「4本連作」
という暴挙で成り立っています。
あと二人の足を地につけたかったんですが、設定上浮きまくっている時点で負けてます。
2については書きたい内容のせいでどうしようもなかったんですが、1は純粋にポリシィです。
いかにもな説明文及び名前呼びは出来得る限り入れたくない、余り成功していませんが。
我侭と笑ってください。
ある意味実験です。
3はその卒論の手慰みに書いた物をクリンアップして出したという論外な都合に拠ります。
こうしてこの読みにくい作品ができています、卒論やれよ俺。
私の作風に関して。
今更気付きましたけど私は漫画をそのまま文にしたような感じなんですね、基礎がなってないせいもあります。
そこは精進しますです。
でも痛快&愉快な物語は書けませんし青春の匂いのする物も不可能です。
まぁ書けはしても気に入らない物になりそうです。
だから以降も格好悪い物語を書くことにします、今回は主人公二人とも鬱系ですしね。
加えて欲望にそった内容で話を書くと楽しいんですが、お見せできないというか18禁のレートがつきそうになります。
見返してみるとキチガイじみているというか、キチガイそのものでして。
うわ、書いたの見ていて自己嫌悪、恥ずかしいですよ?
我ながら人格を疑いそうになるので、却下。
たまにやるなら良いんですけどね。
いつも考えてる事とかと何ら変わらない内容な気がしますが意図的に目を逸らしておきます。

最後にギャグ無しシリアスをきっちり書ききってる人は尊敬に値します、私の蚤の心臓では下らないギャグを随所に入れたくなりました。
それではこれにて長文失礼します。
bgm:インヴェンションとシンフォニア1〜8、 松本梨香:Alive a life



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