Peer tree
N・O






私はどうやら男子クラスメートに鉄の女呼ばわりされているらしい。

失礼な話だ。

近付いたって噛み付いたりしないのにね、

と彼に言うと、

君は美人だし、他の男子の目に映らないくらいで良い。
だそうだ。

彼はこういう時少し狡い。

そんな事を言われると私はどうしようもない事を知っているからだ。






彼女の家の裏に其処はある。

色々な木の植えられた林。

その真中にあるささやかな広場のような場所。

手を入れられているらしく、そこにだけ芝生が植えられている。
そこはまるで小島のようで、美しい。

ここは曾爺さんが作った事。
今も近くの家の人が管理してくれている事。
両親もよくここに来ていたらしい事。
そんな事をぽつぽつと話してくれた。

「全部父さんに聞いただけなんだけどね」

そう付け加える彼女の顔が眩しい。
今日も何だかよく分からないうちに連れて来られてしまった。
曰く今日はいい天気なんだから外に行こう。
反論の余地は無かった、する気も無かったが。

風が頬を優しく撫でる。

寒くはない。

春先だというのにぽかぽかと暖かい。
芝生も柔らかく、心地良い。

けぶるような日光に眠くなる。
横では彼女がすやすやと眠っている。
先程まで話をしていたが、

「眠くなったから寝る、傍にいて」

と言ったきり丸くなってしまった。
スカートのままでだ。
このままでは風邪をひくだろうか?
もう少しこのまま傍にいたい気もする。
彼女の家に行ってタオルケットの一つも借りてこよう。
少々の葛藤があったが、そうすることにした。



何かの離れる気配に少し目が覚める。
僅かに伸ばした手は宙を泳ぐ。

それに驚いて、

体を起こす。

「…吉野君?」

さくさくと芝生を踏む音。
寝ぼけ眼であちこち見回すと、背中が見えた。

「あ、起こしちゃった?」
こっちを見て僅かに微笑む。
「鹿島さん?このままだと風邪ひくから、何か借りてくるよ?」

まったく回らない頭で考える。

「…私も…行く」

そんな私を見て、彼は苦笑していた。

「眠そうだから、もっと寝てて良いよ」
よく覚えていないが、私はどうもそれで納得したらしい。

「……有難う」

学ランを私にかけていった彼。
彼がちゃんといる事に安心して。
芝生を踏む音と共に、穏やかで暖かな眠りについた。
が、
暫くして目が覚めてしまった。
そんなに時間はたっていない。
彼の学ランを抱きしめて、反対向きに転がる。
今、彼はいない。
少し寂しい。

でも思っていたより早く彼は帰ってきた。
そして真っ白で大きなタオルケットを私にかけてくれた。
眠っていると思ったのか、そっと。
優しく。

一つだけ難があるとすれば,
少しだけ離れた所に、腰を下ろした事。
それが寂しくて。

「……ねえ」

彼は少しだけ驚いていた。

「え?」

それが少し楽しくて。

「……もっと近くにいて」

からかいに近い、本音。

「ええ!?」

案の定、驚いてくれた。

「ど……どうしたの?」

でも次には私を優しい目で見る彼。

そんな彼を見ると、私は時に素直になるらしい。

「……だって、目が覚めた時に隣にいなくって」
一呼吸おいて。
「……寂しかったんだもの」

あの後彼は非常に複雑な表情をしていたが、何故なんだろうか?






あれからどのくらい時間が経っただろう?
ざあっという風の音で眠りが覚める。
私はうっすらと目を開ける。
同じタオルケットで眠っている彼。

彼の顔をじっと見る。

彫像のように動かない。

それが不安で堪らない、

口元に手をかざす。

吸う、吐く。
吸う、吐く。
規則正しく、繰り返される。

息をしていることに、心底ほっとする。

彼は別に病気を持っているわけでもないのに、とても不安になった。
彼の腕を取り、枕のように頭に当てる。

同じように規則正しい心臓の鼓動に、

私は思わず彼の腕をぐっと掴んでいた。
そして彼の顔を見る。
呼び捨てで良いと言ってるのに結局苗字で呼んでいる彼。

このまま、二人仲良くいられたらいい。
ただ、そう思う。

少しだけ大胆に、額にキス。

「これからも、よろしくね?」

「ん…ん……よろしく…?」
無垢な微笑みと共におきる彼。

気付かれた!?
私は傍から見たら哀れなほどに焦っていただろう。
慌てて身を起こす。

「ああああ、ええと、ごごごめんね、起こしちゃった?」

「う…ん?吉野さんだー」
ぎゅっと抱きしめてくる、寝ぼけているのだろうか?
まるで子供のように抱きしめてくる、いつもより輪をかけて子供っぽい。
……って。
「どこ弄ってるのよ!」

思わず引っぱたいていた。



俺はしたたかに顔を打たれてきっちりと目が覚めた。

「OK、ごめん、寝ぼけてた」

嘆息する彼女、当然だ。
ころりと向こうを向いてしまった。

「タオル、かけとくよ?」
起こっているのかまた寝てしまったのか、返事は無い。
「そういえばさ、さっきよろしくって言ってなかった?あれって何?」
結局返事はもらえなかった。
それでもいいのだ。
愛という感情は自分にとって、限りなく感覚に近い場所にあるようだから。
感じるのは頭ではないし、もしかしたら心でもなく、嗅覚や触覚なのかもしれないと思う。
もちろんそう簡単には、匂いも出来なければさわれもしない。
けれど彼女を前にして、生きているという証を真っ先に求めている。

鹿島四季という名の人がいる。

生きている。

心臓が動いて、血がかよっている。

だから彼女はきっとあったかい。

彼女の肌はきっとやわらかい。

きれいな髪はきっといい匂い。

それを感じたい。

きっと気持ちいい。
「気持ち良い」
それは、俺という生命にとって「生きるよろこび」そのものだから。

彼女に触れるという事が。

「まぁ、いいか。何だかよく分からないけど、これからもよろしく、鹿島さん」

彼女の長い髪を撫でると少し身じろぎしたが、すぐ大人しくなった。
こうすると少し嬉しそうにするのだ。
どうしてか理由は知らない、何故だろうか?






家に帰って、
俺は携帯電話のメールをチェックする。
どうやら誰からも着てないようだ。

「う…ん」

伸びをしてベッドに倒れこむ。

「…ん?」

ふと白いシャツに引っかかる一本の黒い糸が目に止まる。

髪の毛。

彼女の髪の毛だ。

このまま夢に見るだろう、

次に彼女と会うのを夢に見る。

彼女の言葉、

鼻にかかった声、

低めの体温、

仕草、

そんな物を思い出す。

夢を見る。

いつか聞きたい彼女の言葉を、

彼女の笑顔を、

夢を見る、

夢が走り出す、止まらない。

膨らんで、

いつか弾けて現実に帰る物。

いつか見たい君、

いつか見る夢の欠片、

きっと僕は、

目の前の彼女の中に、

夢を見ている。


あとがき

読了有難うございます。
かゆ、うま。
な状況に追い込まれかけたN・Oです。
一応前作の後日談みたいな話です。
相変わらず同じ作風ですね。
時に皆様、蜂蜜はお好きですか?
よく蜂蜜に例えられ手おりますものですが、私は和三本とか上品な甘味が好きです。

ぶっちゃけた話。駄々甘な話、苦手です。(先生!嘘吐きがいます!!)

話がそうなりそうになりましたが何とか話として読めるんじゃなかろうかと。
このままの作風で書こうかなと思ってるのもいくつか在りまして困った物です。

時に、皆様にはくどくない甘さだったでしょうか?

では、また。

BGM:SIAM SHADE「MOON」



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