Metals  Shot
 pranning and presented 千石 狩耶


Chapter-01. 電戦場 〜Sector-zero〜








 6月20日 午前1時12分 マトリックス内


「……コンタクト。末端神経切断…虚数領域内における知覚変換、オン」
 視覚から現実空間が消え去り、目に飛び込んできたのは、無限に広がる電子の海。
ただ淡い光を放って泳いでいるその世界で。その海を泳ぐミントグリーンのノイズの
粒子達は、やがて一つの文字列に姿を変え、スクロールをしながら自己主張を始め
る。またある所では、羅列する電子の粒子達が、まるで磁石に吸い寄せられるかのよ
うに他の電子に導かれ、一つの集合体となっていくのを知覚する事も出来る。
 私の目に映っている世界は、何処までも蒼く、電子の魚達が泳ぐ世界。腕を伸ばし
てそれに触れれば、電子の中に波紋が走る。
「変わらないものね……電脳世界というのは」
 自己主張をしている文字列の群れを見つめながら、第一声を放つ。
 マトリックスにダイブするのは、これが初経験という訳では無い。基礎的な訓練や
戦略知識を受けているし、ネットワークシステムに関する最先端の教育も頭に入って
いる。あらゆる分野において卓越した知識と身体能力を資本とし、戦場や情報戦で如
何無く実力を発揮する傭兵にとって、その主な任務は荒事や敵の殲滅、破壊工作等と
いうケースが多い。
「お早いお着きですね。優那さん」
 私の名前―――葛葉 優那(かつらば ゆうな)の名―――を告げたのは、私の相棒
といえる少女、海晴 青葉(みはる あおば)である。
 私と青葉は同じ傭兵である。私は物心ついた頃から既に両親は無く、幼くして戦術
及び戦略知識を叩き込まれ、十歳になった時には一人戦場に立って戦うようになっ
た。ある時は、内戦の火が絶えないアフリカを転々とし、またある時は英国に渡って
傭兵派遣組織に所属した事もある。そうしている内に知り合いも出来たのだが、組織
に所属していた頃の同期である青葉の誘いで日本に流れ着いたのは、十七歳の時で
あった。
 あれから今年でもう二年の歳月が流れたんだな、と思う。私は変わっても青葉は全
く変わらない。というのも、私と違って彼女は錬金術を駆使して精巧に作られたアン
ドロイドなのだから。いや…アンドロイドというのはよもや死語だ。この時代は人工
生命体であれ機械仕掛けの人形であれホムンクルスと総称されるようになったのだか
ら。
「青葉……いたならいたでいきなり声を掛けるのはよして」
 十七歳前後の外見らしく感情も豊かなものだと思う。だけど機械人形だけに何処か
冷たい印象も放っているものだ。セミロングの髪と物静かな表情が上手くマッチして
いるからか、その美しさは言葉では形容し難い。
「私はここで貴女を待っていたのですが」
 物憂げな顔で言う私に、青葉は柔らかく微笑んで返してきた。一瞬の沈黙があった
が、待ち合わせをした事を思い出すとつい苦笑いをした。
「そう言えばそうだったわね。今回のビジネスの件で同伴を頼んでたの忘れてた」
 如何せん、私は忘れっぽいのが特徴だ。ただそれは日常生活の範囲内だけであっ
て、仕事の内容等に関してはしっかりと覚えている。
 背中まで伸びたバサバサの髪を右手で軽くかきあげると、馬鹿みたいだなと胸中で
呟く。
 一体何がどう馬鹿みたいなのか、今の私の答えに一番近い言葉は『全て』。例を挙
げるなら、無邪気な顔して日常を満喫している少年少女達。厳しい戒律に縛られ、
色々な物事に堅く、とにかく訳の分からないお嬢様。建前だけを並べ立てて、実際は
無能極まりない政府官僚。
 そういう戦いにはまるで無縁の人間達を見ていると私は非常に腹が立つ。自分を含
めた日常生活の大部分を快く実感できる物として認識できないのは、多分私自身の生
い立ちに問題があるのだろう。両親が亡くなっている事を知ってからこの十数年間、
私はこの銃声と硝煙の蔓延る世界で、誰も頼らず、たった一人で生きてきた。乱暴に
表現するなら、この生き方を送っているからこそ、私という存在が成り立っているだ
ろう。別に、戦力になるのなら傭兵には特にこれといった個性が必要とされる事は無
い。もし必要だとすれば、技量の高さだけだ。私はそれを十分承知している。
 命を失いかねない事に、私は何一つ疑問に思わなかった。感情を失ったのは環境に
適応した代償なのか、それともハイレベルの兵士として英才教育を叩き込まれた結果
なのか。真実は誰にも分からないし、私は知りたいとも思わない。
 同年代の少年少女とは違うのだから、将来に夢を馳せる必要は無い。失恋のショッ
クや虐めとかによって傷つく事も無い。ただ与えられた任務に忠実に動き、見事に完
遂していく……悪く言えば捨て駒に過ぎない傭兵達には、そんなの関係無い。
 人間同士の友情や触れ合いによって、協調性や感受性を育む理由なんか何処にも無
い。そういった邪魔な感情は今後の任務遂行の妨げになるのだから、全て排除してし
まえばそれでいい。必要最低限の感情が備わっていれば、日常生活にはさして問題無
い。
「……考えるのは終わりね。青葉、今日もお願い」
「了解」
 青葉の頭を優しく撫で、私と彼女は意識を集中して、遥か遠い電脳世界の地平に向
かって駆け出した。



 西暦2309年、東京。
 進化した文明の元に忘れ去られた、神話上の伝説の存在が蘇ってからどれ程の年月
が流れたのかは定かでは無い。だが『新世界』を迎えた世界は確実に変わっていった
のは確かだ。次世代の繁栄を願う為に次々と新たな文明を築き上げていった人類だけ
では無く、この事件をきっかけに現実世界へと舞い降りたエルフやドワーフ、精霊等
のマナリアン達も含めて、世界は更なる発展の道を辿ろうとしている。
 そしてこの時代になってから人は海や空、宇宙だけに留まらず、電脳世界をも網羅
しようと動き出した。
 サイバーテクノロジーは躍進的に進歩し、コンピューターネットワークの世界は広
がった。同時に、失われた魔法の理論は復古し、新たな研究対象が誕生した。
 しかし、輝かしい繁栄劇の裏側では、一部の国家がその国力を失い、そのような国
にとって代わって企業や財閥が巨大な権力を手中に収めたりもしている。
 そんな必ずしも平和的とは言えない事実の更なる裏側で、暗躍して生きている者達
がいる。企業や財閥の確執の狭間で、法外な報酬と引き換えに非合法の仕事を引き受
け、影の中で確実に且つ誰にも知られる事無く遂行するスペシャリスト達の事を人は
遂行人(エクゼキューター)と総称する。
 そう、彼等は裏稼業―――バックビジネスを生業とする。



 6月20日 午前1時20分 セキュリティ管理システム前


「転移位置予測……ポイント23.17。誤差修正0.14……各部異常無し」
 目標地点に転移すると、溜息を一つ。本来の転移予想座標から僅かにずれたようだ
が、気になる範囲のものでは無い。
「青葉。目標施設の突入口まではどれ位の距離なの?」
「現状の距離は約12.28。突入予定地点には五、六人程警備兵が待機しているよ
うです。いずれも武装は共通の物で、ジュアリー社製のサブマシンガンを携行してい
ます」
 今の時刻は真夜中。深夜は昼間と比べると人の通り具合が少ないからか、警備が一
層強化される。企業は、現実世界であれマトリックスであれ、自社の敷地の範囲内で
は社員や機密事項等の安全を脅かされた場合には、自衛用として武装を行使する事が
公的に認められている。民間人が使用する護身用の武器がナイフやハンドガンが多い
事とは違って、こういう企業の警備兵の使う装備のレベルは時と場合によっては特殊
警察や軍隊のそれと対等に並ぶ。俗に言う私設軍隊という奴だ。
 彼等の主な仕事は、企業同士の利益争いや自社内で起きた問題を実力行使で抑止す
る。その過激なやり方に、上層部の中では反対意見を持つ者も少数ながらいるという
事は間違い無い。
 彼等が敵として認識しているのは同じ企業の私設軍とは限らない。ましてや、今の
時代企業やその社員で成り立っているのかと言われれば、そうでも無いからだ。丁度
私達のような遂行人は、非合法活動のスペシャリストであるだけに、その使用武装も
また流通ルート不明の非合法な物が多い。それ故に、企業や財閥等から依頼さえ受け
ればそれらを駆使して目的地点に侵入する事はよくある話なのだ。夜は、一般市民と
は違って彼等の活動時間である。
「五人……ね。行けそう?」
「フラッシュ・ディスチャージャーを使う事を提案します」
「OK」
 頭部のヘッドギアから視界確保用のバイザーを引き下げる。私が合図を出すと青葉
は発光弾の安全ピンを解除し、警備兵達に向かって二、三発投擲する。
 ――――刹那。
 蒼白い閃光がその場で炸裂した。私はバイザー越しにその光を見たから余り眩しく
は無かったが、警備兵の方は暫くの間視界が潰されている事だろう。拡散する閃光を
予備知識も無しに直視すれば、人間はおろか、獰猛な大型生物でさえもその視野を殺
す事が出来る。
 低温保存された合成化学発光物質を凝縮したフラッシュ・ディスチャージャーによ
り、彼等の動きは明らかに緩慢している。何せ目をやられているのだ。動作が覚束無
くて当然だ。スモーク・ディスチャージャーを使う手もあるのだがこれだと今のよう
な効果は現れない。その隙を突き、私はサブマシンガンを使って突破し、青葉は後方
からリボルバーによる援護射撃を行う。被弾により絶叫した彼等だが、数秒経てばそ
れは収まってしまう。
 戦闘終了から三十秒近く待った後、私達はセキュリティ管理システム内に突入し
た。



 ――――話は、今から数日前に遡る。
 マトリックスで会った依頼主は、電脳空間に限った話かもしれないが、非常に高貴
な青年だった。ネット上だけに虚飾や不自然な場面も見られるのが普通だが、彼の動
作にはそれらしきものが見当たらない事から、恐らく現実とほぼ変わらない姿で接し
てきたのだろうと私は思っている。
 彼は機密データの眠っている社屋を告げ、そのセキュリティ管理システムのマップ
を渡すと、それを破壊してくれと言った。
 私はそれを一度は断るつもりだった。確かにセキュリティを破る事は簡単に出来
る。しかし依頼主にとってデータの破壊がプラスに繋がるかどうかが分からなかっ
た。目的も不明だ。一体何を考えているのだろうか?と青葉も迷ったが、結局は引き
受けてしまった。大方企業のお偉いさんの一人ならよくありがちな覇権争いに纏わる
事だろうと考えたからだ。
 ところが、その後の彼の身元や依頼の背後関係を洗い出そうにも、手掛かりは何一
つ出なかった。ただ唯一判明したのは、依頼主が大手財閥の頂点に立つ存在、言わば
総帥の座に君臨している事だけだった。
 やはり企業と財閥関係の確執かと思うと、そうでもない。目的不明の依頼を受ける
事に迷いながらも、こうして依頼内容を遂行している自分に疑問を抱いてしまう。
 ――――それでも構わない。私は私のしたい事をするだけだ。



 6月20日 午前1時29分 セキュリテリ管制システム


「相変わらずお見事ですね」
 ライフルで武装した警備員が三人、床に倒れている姿を見て青葉は言った。彼女の
言動には呆れも皮肉も含まれていない。どれも私が硬質合金鋼製のコンバット・ブレ
イドによって屠ったのだ。刃渡りが四十センチ近くある上に使い慣れれば女性でも近
接戦闘に対応出来る。 
「ですがこう、出来る限り流血を回避する方法は無いのでしょうか……?」
 彼女の呟きは何処か暗く、そして哀しかった。その表情には、生きていく為には向
かって来る敵を倒さなければならないという事実に対する怯えが感じられる。現にブ
レイドは構造上、片刃になっている。殺さずに倒すなら峰打ちだって出来る。しかし
私には青葉の空疎な理想論に付き合っている暇は無い。
「やかましい」
 私達が制圧した場所は管制システムである。幾ら警備が強固でも、幾らセキュリテ
リが無駄無く一括管理されていようとも、いざ敵に掌握されてしまえばまさに格好の
撹乱の道具となる。そうなれば、味方の動向すら足枷となってしまい、たちまちパ
ニックに陥る事は言うまでも無い。作戦活動は味方小隊のチームワークこそが大切な
のだ。それが混乱してしまえば、後の始末は容易い。
 私がコンソールを叩くと、各所に設置された監視カメラが映し出している映像が次
から次へとスクリーンに投影されている。時々迎撃に出る小隊がちらほらと見える
が、大して問題にはならない。撹乱の手立ては、ここにあるのだから。
「しかし、果たして本当にその目的の機密データはあるのでしょうか。私は今一つ信
用しかねます」
 青葉の言う事には一理ある。
 実を言うと私達は、データの在処やセキュリティの内部を知っていても、その深い
内部事情までは知らない。依頼主からこの社屋のセキュリティ内にあると告げられ、
マトリックスに潜ったり、知り合いの遂行人から情報を聞こうにも、目立った成果は
無かった。それもそうだ。依頼主に出会ったのはマトリックス上の話であって、現実
世界で会った訳では無い。
 手掛かりも無い。依頼主の正体も不明。
 残った方法はただ一つ。現地に潜入して直接情報を引き出す事だけだ。しかしこれ
だと失敗する事が多い。熟練者なら誰だって知っている。だが、現段階ではこれ以上
確実な方法は手元に無い。こうなる事は起こるべくして起こったのだから、今更欲は
言えない。
「もし罠の可能性が無いのなら、機密情報はこのシステム内の何処かある。依頼主の
話によれば、最深部にそれが保存されているようだから」
「罠……ですか」
 青葉は何か考えを巡らせている。余程重要な情報で無い限り、ここまで大掛かりに
罠を仕掛けたり大人数の兵士を警備に付けるような真似はそうそうしない。
「背後関係が見られないというのが、私は気になりますね」
 ホムンクルスとは言っても、ゴースト程では無いが情報戦は得意な方だ。事前に依
頼の裏事実を調べ上げる事程度だったら可能な範囲だ。一般的には人工物だけに放っ
ておいても学習能力が成長するだけで、ハードウェアは変わらないのだから、出来る
だけ武装を、特に内蔵火器を用いて不測の事態に対応しなければならない。青葉の場
合も例外では無い。思考ルーチンを掌握されたりしない限りは仕事に忠実、且つ慎重
な性格だ。滅多な事では大きな行動はとらず、普段は冷静に状況を判断し、その結果
に従って遂行する様はまさにその性格通りだ。逆を言えば、傭兵出身の割に大胆不敵
なのは私の方だ。
「ここから二手に分かれるわ。私は東棟を片付けるから、青葉は西棟を頼む」
「了解」
 ログアウトした後に着いた場所は、個室だった。迎撃に駆り出されていた事が幸い
か、そこには人っ子一人いなかった。
 マシンガンを構えて、外の状況を伺う。人の通りは無し。後ろで待機している青葉
に告げて、私達は別行動をとった。



 6月20日 午前1時40分 ルスティエラ科学技術研究所第三技研西棟


 このセキュリテリを擁するルスティエラ科学技術研究所は、この千葉県の中でも取
り分け郊外に位置する高地に、大規模な敷地を占めて造られている。従って県民の主
な収入源は企業勤務やこの技研関連の仕事によって占められている。技研の所員は同
じ千葉に出身している者がいれば、地元の支社や都会に位置する本社、中には海外か
ら派遣されてきた者達ばかりで、自宅から出勤している者以外は、敷地とは別に位置
する所員専用の寮に暮らしている。彼等が必要とする研究機材や設備は大抵この技研
施設内で取り扱われているから、見る限りかなり快適且つ安定した空間で生活できる
ものだろうと思った。ここでは不景気問題とかはまるで無縁な話だ。
 敷地が広大であるだけに幾らかの施設によって成り立っているのであるから、私達
の本質的な目的地点はその内の一つに過ぎない。
 それに該当する第三技研は他と比べると構造が余りにも複雑で、主に切り立った崖
の上に建造されており、主要階層は地下にある。言うなれば入口や更衣室等は地上に
あって、研究所や資料室はジオフロントにある。マップによると、ここは地下数メー
トルにも及ぶ故に完全気密構造となっており、最下層にも満足に酸素が供給出来るよ
うになっている。
 西棟は、主要施設の多い東棟とは違い所員達の個室等が多い。だからなのか、狭く
入り組んだ通路が多い。薄暗さの所為か、不気味な静寂さを放つ空気が一帯を支配
し、それが私の心に妙な圧迫感を生んでいる。機械の身体を持っている、私の心
に……。
 一歩、また一歩と進んで行く度に、涼しげな風が私の頬を撫でていくのが感じられ
る。ジオフロントにいるからか、その風は湿っていた。入り組んだ道を曲がろうとす
ると、私の網膜に『WARNING』と赤い文字が表示され、頭の中に警告音が響いた。
 ――――この近くに、敵がいる。
「迎撃小隊が、近くにいるようですね……」
 ついつい私はぽつりと呟く。これはもう、独り言としか考えられない。日宰重工
(にっさいじゅうこう)製リボルバーを構え、装弾数や弾丸の種類を確認する。援護
時に四発使ったから、残りは四発。空いているスロットに銃弾を装填する。
 相手は三人一組。何とかなる相手だ。小隊が一定以上の距離まで近付いて来た事を
確認すると、私は曲がり角から半身を出し、銃弾を叩き込む。
 銃撃が狭い通路に響いた。不意打ちが成功したか、呻き声と共にその場に昏倒した
兵士を見て、残りのメンバーが僅かに混乱したのが確認できた。攻撃の手を緩めずに
尚も発砲を続ける。
 また一人倒れ、兵士がサブマシンガンの銃口を私に向ける。距離は近い。強化敏捷
神経素子を使ってはいるが、攻撃速度は私に分がある。何気に余裕を感じつつ、私は
兵士に肉薄し、顎に鋭い蹴撃を叩き込む。顎の骨を破砕され、彼は口から血を吐きな
がらそのまま仰向けに倒れ伏した。
 小隊は全滅。安堵感に包まれていながら同時に悪寒が走る。
(おかしいですね)
 突入時から薄々気になっていた事がある。それは敵の出方だ。門番の兵士が五人い
たのだから、交替の兵士が近くに控えていてもおかしくは無い。なのに交戦に入った
時にはそれらしき姿は確認されなかった。それ以前に門の真前で発光弾を投擲したの
だから大抵の人間はそれに気が付いて当然の筈だ。ログアウトした後もそう。西棟を
攻略している最中敵とは数人交えたのだが、人数が余りにも少なすぎる。何せここは
科学技術研究所だ。研究機材や設備、その他の実験用の資材等が格納されているのだ
から規模は大きい。しかも第一から第四と施設が各々分断されているのだから、尚更
だ。陽動か、それとも既に侵入した何者かに倒されたのか。戦闘とは別の緊張感を身
体に感じながら、先へと進む。感じていた悪寒の正体を見る事になったのは、次の瞬
間だった。
 通路に数人もの兵士が倒れていたのだ。外傷はどれも同じで、刃渡り九十センチ前
後もの刀剣類によるものだ。ある者は肩から脇腹にかけて深く斬り付けられ、ある者
は胸元を一突き。またある者は下半身を斬り飛ばされた者さえいた。言うまでも無い
が出血はひどく、見る者が見れば一閃という剣の風にさらされた地獄絵図を想起する
に違いない。出血の量と乾き具合から察するに、彼等は私達がダイブする以前から、
何者かによって殺害されたのだろう。吐き気を促すグロテスクな光景から発せられる
血の臭いが私の鼻孔を擽る。機械だから人間の本質的な心こそ持っていないが、凄惨
で悲痛な光景である事を感じる事は出来た。
 だけど私は同時に虚しさを感じる。私は傭兵時代、完全なる殺戮兵器としてその生
を全うしようとした。勿論クリエイターも同僚も、そうあるように期待していただろ
う。その冷徹なる機械の衝動が、たった一人の少女との出会いによって、こうも簡単
に崩壊を始める程脆いものだという事に気が付いたのは、彼女と一緒に日本に渡った
時だ。
 余りにも辛く、そして複雑な現実が襲い掛かり、大きな絶望が心を支配した。命を
奪わずには生き抜く事が出来ないという暗黙の了解が、私を苦しめた。
 向こうから銃声が聞こえる。激しく交わされる怒号と叫び声、そして悲鳴が混じっ
て聞こえてくる。何があったのかが気になり、駆け足で通路を走り出す。深夜の研究
所にいるのは何も警備兵だけでは無い。オペレーターがいれば一般所員もいるだろ
う。相手を選ぶ事無く続く無意味な殺戮に不安を感じ、更に速度を速める。
「………………」
 私はその光景を、ただ呆然と見回す事だけしか出来なかった。
 飛び込んだ気密区画は、先程よりも硝煙と血の臭い、そして流血が充満していた。
やはり私達とは違う何者かが剣か何かの刃物を使って直接斬撃して殲滅したようだ。
私が区画に駆け込んだ時には、まともに意識を保っている者は誰一人としていなかっ
た。何十人もの死体の中には所員の姿も確認されたが、こちらは何らかの方法で気絶
させられているだけで死に至ってはいない。それだけは唯一の杞憂に終わったよう
だ。
「一体誰がこんな……」
「それは、僕の事を言っているのかな…?」
 何者かの声は、真上から聞こえてきた。
(―――――真上!?)
 突然の事態に私は驚愕した。反射的に斜め後に飛び退く。それから0.5秒も経たな
い内に先程まで私が立っていた場所は爆砕した。襲撃者が降って来たのだ。着地地点
を中心に地面は抉れ、亀裂が所々に走っている。
 私はこの時襲撃者の正体を見た。気密区画の薄暗さとよく溶け込んでいる黒い外
套。腰には剣の鞘と思わしき細長い棒が差し込まれており、その手には刃渡り九十セ
ンチ前後の細身の長剣が握られている。だが驚いたのは、その剣の見栄えだった。刀
身は何十人もの兵士を斬ったにも関わらず一切返り血を吸わず、むしろ弾き返すほど
光沢の強い銀色なのだ。中世の紋様が刻まれているのが驚く程マッチしている為、そ
れは人を殺めるのでは無く、闇を絶つというイメージが表現されている。鍔の部分も
同じで、蒼い宝玉が中心に填め込まれいる。しかしそれは、闇夜のようにどす黒い蒼
では無く、海原のように穏やかで鮮明な蒼だった。迫り来る人間達を殺戮の渦に巻き
込んだイメージとはとても想像し難い程高貴な雰囲気に、私は一時的に言葉を失っ
た。
「今までの敵はどれも弱者揃いだったようだが、君だけは少し違うようだ」
「貴方は…何方ですか?何が目的でここに来たのですか?」
 冷静さを取り戻し、襲撃者に問い掛ける。
「さあ……な。人間や君のようなホムンクルスと比べて少し……いや、大分優越した
存在だ。気にするな」
 遠回しに敵意を向けた私に対し、襲撃者は嘲るかのように言った。
(――――この人は……私と、そして優那さんの敵だ!!)
 冷静に思考処理し、目の前にいる男を脅威として認識した私はリボルバーを構え、
彼に向かって射撃する。銃身から九ミリパラペラム弾が吐き出され、直進した。
 三連点射は見事に彼に当たった。当たったのだが、外套を翻しただけで弾を弾き返
した。
「え………!?」
「ふふ……危ない事をするのだな、君は。眼前の気迫に圧倒されて、直ぐに僕を敵だ
と認識する。戦闘能力が豊富な割には武器の扱い方もままならない。正直、随分酷い
ものだと僕は思うよ。海晴 青葉君」
 突然私の名前を出した事に、思わず凍り付いた。
「な……何故私の名前を知っているんです!?」
「知っているというよりは……何せ僕は人間と比べて優越した存在だと言った筈だ。
知性も優越しているのは当然だ。そういう意味では君が思ったよりも情報収集能力は
遥かに上回っているのだよ」
 呆然としている私に向かって、男は余裕の表情で淡々と語る。
「切り札の一つや二つくらい、君にもあるのだろう?君が僕を敵だと思うなら、迷わ
ず使った方が得策だと思うが」
「後悔……しないで下さい……」
 左腕が光に包まれ、グレネード・ランチャーを装備した攻撃用アームに変化する。
自分自身が爆発に巻き込まれない程度に、可能な限りの近距離で発射。さらに畳み掛
けるかのようにリボルバーを全弾叩き込む。
 ――――これならば、致命傷は確実だろう。
 そう思った直後、吹き荒れる爆炎の中から、彼が現れた。それも、全くの無傷だ。
「そ……そんな……」
「君の戦術や知略は悪くないし、戦闘能力も満足のいくものだという事は認めるとし
よう。だが、そんな事があろうが無かろうが、僕等のような『ヴァンパイア』にとっ
てはほぼ無縁な話だが」
 言葉を言い終えるのと一閃の風を繰り出したのは、ほぼ同時だった。その風は空を
切り、私の左腕を上腕部を残して斬り飛ばした。
「あうぅっ……!」
「まあ他の連中と比べて君は良く頑張ったよ。動きには一寸の狂いも無駄も無いのだ
からな」
「ふ……ふざけないで!!」
 斬られた左腕の痛みを無理に堪えながら、右腕に内蔵されているチェーンガンを作
動した。
 素早く照準を敵の頭部に合わせ、連射。
 その弾丸は―――当たる直前で空中で虚しく四散した。まるで不可視の盾にぶつ
かったかのように。火器管制システム等には何一つ異常は無い。自分に問題が無いの
なら、彼の能力がそうしているのだろうか。答えは後者にあるようだ。弾切れになっ
たにも関わらず撃ち続けようとする私を、彼は悠然と見つめていた。
「う、嘘……」
「まあ、先ずは自分自身の実力がその程度だったという事実を受け入れるがいい。未
熟ながら僕と交戦したのが運のツキだと思って諦めてくれ」
 語り終えるか否かの内に、私の意識は闇へと沈んだ。語っている時の彼の顔は、優
しかった。



 6月20日 午前1時40分 ルスティエラ科学技術研究所第三技研東棟


 物陰から素早く飛び出し、至近距離で一閃。離れている敵に対する銃撃も忘れな
い。狼狽する警備兵達に向かって高速で接近。意識を集中すると握り締めた右の拳
に、淡い鮮緑色の光が宿る。私の攻撃意識を精神的な力に翻訳し、無意識の内に起動
させる、念動力を媒介とした攻撃プログラムだ。その必殺の拳を今、銃をこちらに向
けようとした兵士の鳩尾に一発叩き込む。人体共通の急所に拳がクリーンヒットし、
兵士はきりもみしながら吹き飛んだ。
 振り向けば、新たに警備兵が五人も沸いて出て来た。
(全く……しつこい奴は嫌われるというのに……)
 一つ溜息を吐きながら、猛然と駆け出し、敵に突撃する。飛んでくるマシンガンの
弾を冷静に対処し、負けじと銃を脇腹に押し当て、撃ち抜く。コンバット・ナイフを
片手に近接攻撃を仕掛けようとした兵士の側頭部に鮮やかな回し蹴りを喰らわせる。
昏倒した兵士を尻目に、右腕に意識を集中し、後方支援を行う兵士に腕を振るう。そ
の腕から発せられた光は地面を走り、敵を切り裂く。流血は無い。
 残りの三人は私が素人とはレベルがかけ離れている事を悟ったのか、ナイフや銃を
構えてはいるものの、なかなか攻撃行動を起こそうとはしない。それだったら私に
とっては好都合だ。コンマ0.1秒の勢いで素早く懐に飛び込み顔面を軽く小突く。そ
の一撃に怯んだ隙にサマーソルトを見舞わせる。足に意識を集中したから胴には深い
切り傷が残されている。一瞬にして片付けた事に驚いたのか、慌てて銃の照準を私に
合わせる。だが、今頃構えても遅い。今度は銃に意識を注ぎ込み、その引鉄を引く。
銃口から吐き出されたのは弾丸では無く、水晶のように蒼白い光だった。その光は兵
士に銃を構える時間を与えずに、その胸を貫通する。貫通した光はそのまま後ろに
立っていた兵士に突き刺さる。
 私は兵士の一人のポケットから顔を出している物を発見し、それに手を触れた。プ
ラスチックのカードらしい。そのカードをまじまじと見つめると、何らかの数字と刻
印が複雑に羅列している。
『認証コード』
 恐らくそれはある種のロックを解除する為に使われるカードのようだ。何かの役に
は立つだろうと思い、それをポケットに仕舞い込んだ。
 目指すは最深部に位置する技研内部におけるLANの情報や機密情報を一括に纏めて
管理しているネットワーク・セキュリテリだ。
 しかし私は自問する。
 敵と戦った時に感じた安心感は何なのだろうか。何が自分の中に眠る衝動を駆り立
て、覚醒させるのか。実は私自身にも分からない。だけど任務に対する充実感と義務
感では無い事は明らかだ。悪く言えば単なる旺盛な好奇心の一ピースに過ぎない。そ
れでも私は正直、これから自分に立ちはだかる運命を素直に受け入れている事に、何
一つ疑問を浮かべなかった。
 ジオフロントを進み続けるにつれて、幾つものパスワード・システムを荒技で突破
し続け、気が付けば私は二分も経たない内に最下層へと辿り着いた。勿論、僅かな時
間の間にこれ程までに攻略したのは初めてだ。現実世界で感じられる肉体における物
理的な感覚など考えていなかった。短時間で攻略する事への喜びに夢中になったから
か、それはすっかり麻痺していたようだ。
『認証コードを』
 パスワード・システムの指示に応えて、私はついさっき奪った認証コード入りのプ
ラスチックカードを差し込んだ。電子音と共に緑色の電灯が点り、扉のロックが解除
された。
 中に入ると、膨大な大きさのメイン・フレームが広大な部屋の中心に佇んでいた。
「青葉、聞こえる?こちらは目標地点に到達したわ。そっちはどうなっている?」
 青葉に通信を送る。しかし、ノイズが聞こえるだけで彼女には全く繋がらない。
「青葉!何があったの?応答して、青葉!」
 一体青葉の身に何が起きたのか、それは彼女自身にしか分からない事であって、私
自身には分からない。通信機器の故障か、それとも何者かによって倒されたのか…。
その答えは、後者にあった。
「君の仲間なら、助けには来ない」
 残虐さと悪意に満ちた意思が、私に向かって放たれた。危機を感じた私は、咄嗟に
銃に意識を集中し、声のした方向に目掛けて点射する。
 広大な空間に一閃の風と水晶の弾丸がぶつかり合い、激しい火花が巻き起こった。
攻撃同士が互いを相殺したのだと私は瞬時に悟る。それと同時に、何時の間にか襲撃
者は私の前にその姿を現していた。これは戦略用ユーティリティを応用した事によ
り、何らかの方法で他のプログラムをトラッシュしたのだろうと思われる。闇に溶け
るかのような漆黒の外套から顔を覗かせるのは、全てのものを威圧し、まさに切り刻
まんとする切れ味を持つ鋭い目つき。腕に握られているのは、刃渡り九十センチ前後
の、白銀色の長剣。
 この男が青葉を倒した。そして思った以上の強敵だ、と私は直感的に思う。姿こそ
私と歳の変わらない青年なのだが、その気迫が尋常では無かった。彼自身が持つ気配
が元から強烈なのだろうか。恐らくこの男は人間では無くマナリアンなのだろう。そ
れも、エルフや精霊を遥かに優越した、誇り高きヴァンパイア。もう一つ、個人所持
では超高性能のプログラムギミックを用いているのだろう。それも、ある種の改修を
施してメモリーを増設し、強力なプログラムを載せている。私が強化敏捷神経で機動
性や運動性、反射神経を底上げしているとはいえ、真っ向から立ち向かってもこの相
手には太刀打ちできない。
「葛葉 優那か。どれ程の能力を持っているのか、試させて貰う!」
 振り下ろされた剣を、私は両の掌を広げ、斥力を集中する事で受け止める。間髪入
れずに念動力を乗せた蹴撃を掬い上げるかのように繰り出すも相手は後ろに飛び退く
事で回避する。
「侵入方法不明。セキュリテリのアクセス方法も不明。お前の目的は何だ?」
「目的……フッ、君が知るべき事では無い」
「私の仲間を犠牲にしておいて、それがお前の言い訳か!」
 絶え間無く繰り返される攻防戦の最中、私は悟った。ギミックが不自然に発動した
のでは無い。元来の、自然体そのものの力を使って攻めている。しかもその手際は非
常に素早い。だが、それのおかげで能力的にいささか劣る私に、対等に渡り合える力
を与えてくれているように感じた。
 一旦間合いを遠ざけ、アイビス・カスパーの銃口を向ける。
 アイビス・カスパー。
 アイビス社製の最新鋭拳銃で、二十七センチ近い銃身と一.七キロもの重量の為、
生身の人間には取り回しが困難ではあるが、使い方を熟練すれば普通の銃と何ら変わ
らない。弾丸は強化成形パラペラム弾を採用しており、その威力は戦車の重装甲すら
ぶち抜く。最高峰の拳銃と呼ばれ、傭兵や一部の遂行人に愛用される事が多い。
 アイビスにありったけの意識を集中して念動力を注ぎ込む。
「射貫いてみせる……アストラル・ストライク!」
 分厚い装甲をぶち抜く弾丸をイメージして、放つ。水晶の弾丸は、外套に当たった
だけで弾かれた。
(――――そんな馬鹿な!)
 戦車の装甲を貫く最高峰の拳銃が通用しない事に、私は戦慄を覚えた。頬に冷や汗
が流れる。そこから生じた僅かな隙を、敵は見逃さなかった。
「行け……葵襖撰瞑剣・円月陣!」
 私は察した。これこそが、何十人もの警備兵達を一瞬の内に瞬殺した技である事
を。その技は、平安時代の退魔師が都に蔓延る闇の住人達を絶ち切る為に使われたと
されている、退魔の剣技だ。悪霊や精霊すらも一撃で葬り去る剣の冴えは、シールド
プログラム等の防御ギミックではまず防ぎきる事が出来ない。自然界に存在する魔法
力を通じて相手に直接、そして確実にダメージを与えるのだ。
 長い年月が流れて血の持つ力が薄れようとも、退魔の血を引く者ならきっかけさえ
あれば誰でも目覚める事が可能だ。
(それを何故ヴァンパイアであるこの男が使えるんだ!?)
 一閃の嵐が襲い掛かって来るのを、私は避けきる事が出来なかった。陽の気で編み
上げられた不可視の刃で全身をズタズタに斬られる痛みとは別に、私の精神も同じよ
うに傷みを訴える。段々と意識が遠のいていく。
 完全に意識が消失しようとする一歩手前で、青年の姿が露になる。白一色の服と、
鮮明な朱を放つ鮮やかな紋様が刻まれた白銀色の腕輪。ざんばらの短髪から覗く切れ
長の瞳は影のような灰色。まさしくその姿は高貴なる騎士そのものだ。
 剣を手にし、漆黒の外套に身を包んだ騎士の青年に見取られる形で、私は私の体か
ら流れ出た血の海に沈みながら、意識を失った。



 7月9日 午前9時14分 新宿中央病院


「ん……うん……」
 清潔な病院のベッドの上で、私は目を覚ました。傷口に留められているガーゼの肌
触りと消毒液の匂いが、今こうして生きているという事実を私に教えてくれた。
「よかった……気が付いたみたいですね」
 隣を見ると、青葉が安堵の表情を浮かべていた。左腕が無い。恐らく例の襲撃者と
の戦いによって失われたのだろう。主治医の話によれば、私が意識を失っていた間に
内蔵や脳、外傷やプログラムギミックの診察を行った所、傷ついた箇所は多いもの
の、それそのものは余り深くは無く、脳にも大した損害は見られない。青葉の方は明
日になれば左腕の換装修復は終わるらしい。取り敢えず適切な治療を施して、問題点
が見つからなければ三日後には退院できるようだ。
 それから、技研がどうなったのかは新聞を読んで知った。技研の総合メインフレー
ムは跡形も無く破壊され、警備部隊は壊滅的打撃を被ったそうだが、一般所員は軽傷
が多いだけで全員無事だった。他にも武装した遂行人が十数単位で突入していたらし
いが、彼等は駆けつけた特機動自衛隊によって全員射殺された。尤も彼等は第一、第
二技研を中心に暴動を起こしていたようだから第三技研にいた私達はその事を今まで
知らなかったのだが。しかし、一連の事件の中で、私達が戦った襲撃者に纏わる情報
は何一つ記載されていなかった。
 情報が非常に少ない中で、私は天井を見つめて思う。あの時私は死ぬ筈だった。不
可視の一閃を受けて全身を傷つけられ出血多量になったのは覚えている。それが何で
軽傷で済んだのか、今の私には理解出来なかった。
 あの男は私と青葉を試していたのでは無いだろうか。大量の死傷者が出た割には大
変虫のいい話だとは思う。しかし私達はこうして生きている。
 目覚めてから四日経ち、私と青葉は退院した。それからというものの、私は独自に
あの襲撃者に関する情報をくまなく調べ回った。
(奴は……あの男は私が倒す!)
 そんな虚無的な私の心に宿った、復讐という名の奇妙な感情。それを胸に抱えなが
ら、私は生きる目標を手に入れた。今までは傭兵の立場上、自分の死には決して何も
考えなかったのに。それを聞いたとなれば、笑い話だ。
 数日後、調べに調べた情報の中で、私は襲撃者の名を知った。青年の名は、国分
透矢(こくぶん とうや)。某大手財閥に所属している敏腕秘書だという事が判明し
た。大手財閥の秘書が、何故技研のメインフレームを破壊したのか。何故私達を生か
しておいたのだろうか。そんな事はどうでもいい。私は透矢に勝てばそれで満足だ。
 まだまだ寂しげな心の隙間では、複雑な思いが延々と続いているという事が分かっ
た。そしてその思いは私をより一層強くしてくれるのだろうと思いつつ、抜けるよう
に澄み渡った青空を見上げていた。




To be continued from Chapter-02.







後書き

書き直しに書き直しを重ねるというスランプ状態の中で、一ヶ月以上もの時間をかけ
てようやく第一話が完成しました。
サイバーパンク用語はぶっちゃけ、僕はある程度しか知らないので表現技法とかに若
干の不安が残りますが、感想とかを頂けるとウレシイです。
後々のエピソードは大まかな部分は構成済みなので、原稿用紙を用意して鉛筆片手に
がりがり書けば添削もし易いですし。
話の展開が強引だなあと思いつつ、キーボードにこうして文字なり台詞なり打っては
いるんですがね。
ちなみに透矢クンの剣術『葵襖撰瞑剣』は、(きおうせんめいけん)と読みます(捕
捉トリビア)





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