中学生日記 

第3話

「大城!もっとよくボールを見ろ!」
先輩の声が響く。
「こら!もっと相手の位置を把握してからパスを出せ!」
「はい!」
大城は熱血な先輩の指導を受けていた。
俺はボールの整理をしながら大城の様子を見ていた。
大城・・・もうやめたらどうだ。
苦しむのはお前だけじゃない。
見てる俺も苦しいんだ。
だから・・・もうやめてくれ。
「今日はこのぐらいで終わろう。明日はもっと厳しいぞ。」
「はい!」
大城がこっちに向かって歩いてくる。
大城は俺の存在に気付かずそのまま部室へと歩いていった。
俺も部室に入った。
大城は水を飲んでいた。
俺も水を飲んだ。
練習の後の水はやっぱり美味い。
俺は自分の荷物を片付けた。
大城はまだ水を飲んでいる。
あっ、キャップ落とした。
大城は転がっていくキャップを拾おうとした。
しかし、全然違うところに手が伸びている。
俺はキャップを拾ってやった。
「サンキュ。」
大城は俺にそう言うと、とっとと帰ってしまった。
もうこれ以上耐えられない。
明日、きちっと大城に言おう。

次の日は朝練があった。
大城はまた、熱血な先輩の指導を受けていた。
「何度言ったら解るんだ!ボールをよく見ろ!」
先輩が叱る。
「はい!すいません。」
大城は謝る。
俺はそんな様子をロッカーの中を片付けながら見ていた。
また先輩の叱る声が聞こえてくる。
俺は我慢できなくなり先輩のほうへ走っていった。
俺は先輩に声を掛けようとした。
すると大城が俺の肩を強く引っ張ってこう言った。
「構わないでくれ。」
俺はすぐに反論しようとしたができなかった。
大城の左眼を見ると何も言えなかった。
「もうすぐ朝礼が始まるからもう終わるぞ。」
キャプテンの声が聞こえた。
ちなみに今のキャプテンは2年生。
俺は鞄をしょって教室へ戻った。

教室に戻ると女子達はある話で盛り上がっていた。
「何の話してんだ?」
俺は広川に訊いてみた。
「幸せの青い鳥の話。今日、私見たんだよ。」
広川は自慢気に言う。
俺は話の内容をちょっと訊くと自分の椅子に座った。
幸せの青い鳥・・・か。
広川は青い鳥=幸せを運ぶ鳥だと思っているんだろうな。
でも俺は違う。
俺は自分の頭の辞書を引っ張り出した。
青い鳥 意味:不幸を運ぶ鳥

「島崎、今日もサッカーする?」
大城が俺に聞いてきた。
「もちろん!」
「じゃあ、いつもの場所で待ってるな。」
大城はそれだけ言うと走って帰っていった。
俺も走って帰ろう。
家に着くとすぐにランドセルを降ろした。
全速力で走ったためにランドセルの側面に付いている『5年2組 島崎雄一』と書かれた名札が外れかけていた。
ちょっと直すと俺はすぐに公園に出かけた。
大城はすでに来ていた。
「おそいぞ島崎。もう5分も待ったぞ。」
大城は少し怒った口調で言った。
俺達は早速サッカーを始めた。
しばらくすると汗が吹き出てきた。

「なあ島崎、ちょっと休憩しようぜ。」
「そうだな。俺もヘトヘトだ。」
俺達は休憩することにした。
近くにある水呑場でいつも大量に水を飲んでいた。
大城が飲み終わった後、俺が飲んだ。
俺も飲み終わると大城が急に叫んだ。
「おい、島崎!あれ見ろ。青い鳥だ!」
「何!」
俺はすぐに大城が指差す方を見た。
確かにいる。
間違いなく青い鳥だ!
大城はすぐに追いかけていった。
俺もすぐに後を追った。
「絶対捕まえるぞ!」
大城は捕まえる気満々だ。
俺は追いかけながら『サッカー選手になれますように』と心の中で言い続けた。
たぶん大城も同じだろう。
道が分かれてる。
右に行くか左に行くか。
大城は右に行った。
だから俺は左に行った。
いつのまにか鳥の姿が見えなくなってしまった。
俺は仕方なく分かれ道まで戻った。
大城は何処に行ったのだろう?
俺は大城を探しに右へ進んだ。
しばらく行くと大城の姿を見つけた。
大城はゆっくり歩きながら何かを見つづけている。
多分青い鳥が近くにいるのだろう。
あっ!石に躓きやがった。
大城はそのまま倒れた。
全く、おっちょこちょいな奴だな。
俺は大城のすぐそばまで行った。
「大城、大丈夫か?」
大城の顔を覗き込みながら俺は言った。
その瞬間、俺は吐きそうになった。
テレビで気持ち悪い死体を見た警官が吐きそうになるシーンがある。
俺はいつもオーバーリアクションだなと思っていた。
だが俺は初めてオーバーじゃないと気付いた。
大城の左眼に錆びた釘が突き刺さっていた。
目からは血の涙が滴り落ちている。
「おい、大城。大丈夫か?」
俺はもう一度大城に声を掛けた。
今にも逃げ出したいくらいだったが頑張ってこらえた。
しばらくすると大城はゆっくり起き上がり俺の顔を見ると少し笑って
「あともうちょっとだったのにな。」
と言った。
「何か左眼が痛いな。」
大城は自分の左眼を押さえようとした。
俺はすぐにそれを阻止した。
「打っただけだけどあんまり触らないほうがいい。ちょっと病院行こう。」
俺は大城を驚かせないようわざと嘘をついた。
「そうか。じゃあ行くか。すぐ近くに総合病院があるし。」
大城はまだ気付いていない。
今のうちに病院に行けば・・・。
俺と大城は病院へと歩いていった。

先生もできるだけ大城を驚かせないようにしてくれた。
検査だと嘘をついて手術をしてくれた。
手術は上手くいったが失明という障害を取り除くことはできなかった。
大城の左眼は完全に見えなくなった。
俺はベッドで横になっている大城の顔を見ていた。
大城の左眼の眼球は少し形が変わっている。
俺はそれを見るとまた吐きそうになった。
大城はずっと窓の外を見ていた。
「島崎・・・ありがとう。」
大城は突然俺に礼を言った。
「お前は嘘をついてくれてたんだろ?」
大城は知っていた。
知っていながら俺の嘘を聞き入れてくれたのだ。
「知ってたのか・・・。」
俺は呟いた。
しばらくすると大城の母さんが病室に入ってきた。
俺は2人に明日にでも退院できることを告げると、病室を後にした。

大城は片目を失った。
そのせいで大城は遠近感をうまく掴めなくなってしまった。
物を立体的に見れる理由は目が2つあるからである。
しかし大城は目が1つしか無いため立体的に物をとらえられない。
だから大城はしばらくの間は階段すら上り下りできなかったという。
しかも片目でサッカーをやり続けたため視力が0.7まで下がってしまった。
片目だけで情報を把握するには無理がある。
その負担が視力低下となって現れたのだ。
今も大城の視力は少しずつ下がっているという。
だから俺は大城にサッカー部をやめろと言ったのだが大城は
「絶対やめねーぞ!俺はサッカーを続ける!」
の一点張りだ。
本当は解っているはずだ。
自分の限界がすぐそこにあることを。
これ以上続ければどんどん目が悪くなることを。
よし!
もう一度言おう。
大城のためだ。
俺は大城の机へと向かった。
大城の肩をたたこうとした瞬間、急に誰かに腕を引っ張られた。
「そっとしておいてあげようよ。」
広川だった。
広川は出身校が俺と同じだったため大城の事をよく知っていた。
「大城君はきっと悩んでるんだよ。そういう時はそっとしておくのが一番だよ。」
広川は席についた。
そうだな。
俺みたいなのをおせっかいと言うのかもしれない。
そっとしておこう。

大城は昨日から部活に来ていない。
昨日、俺は大城に声を掛けようと思ったが広川に止められてしまった。
やっぱり言っておけばよかったかな。
そんなことを考えていると顧問がやってきた。
最近顧問は3年生の進路相談などでほとんど部活に来ていなかった。
「みんなに大事な話がある。」
顧問は重い口調で言った。
何だ?
いつもの顧問はこんなんじゃないぞ。
俺はいつもよりも真剣に聞く事にした。
「大城がサッカーを止めることになった。」
ザワッ!
一瞬だけ騒がしくなった。
だがすぐに静かになった。
大城がこっちにやってきたのだ。
みんなの目は大城を見ていた。
もちろん俺も。
「みなさん、色々ありがとうございました。」
大城はそう言って頭を下げた。
顧問が大城の頭を上げさせた。
大城は続けて喋った。
「サッカー部員はやめますがサッカー部はやめません。」
意味が解らなかった。
みんなは口々に意味を訊き始めた。
もちろん俺も。
大城は意味を話してくれた。

大城は昨日、顧問にマネージャーにしてくれないかと頼んだそうだ。
顧問は大城の左眼の事を知っていたのですぐにOKしてくれたらしい。
「これからも宜しくお願いします。」
大城はまた頭を下げた。
みんなは拍手した。

「大城、お前すごいな。」
俺は大城のファイトにちょっとだけ感動した。
「お前に誉められると体中が痒くなるよ。」
大城は笑いながら答える。
俺は嬉しかった。
何故なら大城が自分で自分の道を選択してくれたからだ。
大城・・・これからもがんばれよ!

日曜日の朝。
俺はとてつもない叫び声で目覚めた。
ミュートがしつこく俺を起こそうとしていた。
「さっさと起きろ!この寝ぼすけ野郎め!」
ミュートは俺の腕をきつく締めた。
俺はその痛みで飛び起きた。
「てめー何しやがる!一体どうした?」
ミュートがこんなに叫ぶのはこれが初めてだ。
俺はきっと何かあると思った。
予想的中。
「お前と同じ能力を持った奴がすぐ近くにいる!」
ミュートは俺の腕を引っ張った。
「何する気だ!」
何となく予想はできていた。
たぶん・・・。
「探すぞ!」
やっぱり・・・。
せっかくの日曜日が・・・。

ミュートはとてつもない力で俺を引っ張る。
「なあミュート。俺、ずいぶん前から思ってたんだけど不思議な力って一体どんな力なんだ?」
実はこれをじいちゃんに訊いたことがある。
じいちゃんはニコニコしながらこう答えた。
「ミュートに訊きなさい。そのほうが速いわい。」
いいかげんなじいさんだぜ、全く。
ミュートは引っ張るのを止めるとこう言った。
「世間様では念力って言うのかな。」
なるほど。
念力ね。
ミュートはまた俺を引っ張り出した。
こいつの力は計り知れない。
とてつもなく強い。
途中で何回も倒れそうになった。
「見つけた!」
ミュートが叫ぶ。
俺は少し緊張した。
前方にいたのは可愛い女の子だった。
「おいミュート。お前の勘違いじゃないか?」
ミュートはずっと女の子を見続けている。
たぶん相手の力を調べているのだろう。
「間違いない!あの女だ!」
ミュートが間違いないというのだからたぶん間違いないのだろう。
でも、何であんなところで突っ立ってるんだ?
あ!誰か来た。
あれ・・・絡まれてるのか?
「おい雄一!様子を見に行くぞ。」
普通は「助けに行くぞ」だろ。

女の子は中学生10人に囲まれていた。
しかも西中の奴らだ。
西中の噂は東中生の俺にも入ってくる。
噂によると西中の生徒はかなりワルらしい。
男子は60%以上が不良だという。
そんな奴らに、しかも10人に囲まれるなんて。
不運だな・・・。
俺は影からその様子を見ていた。
あ!女の子が連れられていく。
「ミュート、どうしたらいいんだ?」
俺は囁き声でミュートに問い掛けた。
「行くぞ。」

女の子は狭い空き地にいた。
10人は女の子を円の形に囲んでいる。
何故何も抵抗しないんだ?
「おい雄一。今から俺が言うことをよく聞くんだ。」
ミュートがいつもとは違う真剣な態度で言った。
これにはかなり緊張した。
「まず俺がはまってる方の掌を奴らに向けろ。次に全神経を掌だけに集中しろ。あとは俺がする。」
俺は言われた通りにやった。
できるだけ全神経を掌に集中した。
額から汗が滴り落ちる。
「もっと集中しろ!」
そんな事いわれてもなあ、なかなかできねえんだよ。
俺は集中し続けた。
こんなに集中したのは産まれて初めてかもしれない。
「よし。いい感じだ。いくぞ!」
ミュートは何かをしたらしい。
俺の体から一瞬にして力が抜けた。
俺はバタッと倒れてしまった。
立っていることができないほど力が抜けたのだ。
俺は体をゆっくり起こして奴らの方を見た。
その瞬間、俺は笑いそうになった。
何と奴らが浮いているのである。
しかもわずか20センチメートルぐらい。
それでも奴らはかなりビビッテいた。
無理も無い。
いきなり体が浮き出したら誰でもビビルよな。
そして奴らは10メートルぐらい吹っ飛んでいった。
これでもう帰ってこないだろう。
「雄一、大丈夫か?」
ミュートはぶっ倒れた俺を心配してくれていたらしい。
「ああ大丈夫だ。ただ力が抜けただけだから。」
ミュートは少しだけ笑った。
「あの女のところに行くぞ。あいつ何が起こったかさっぱりだろうからな。」
ミュートはまた俺の腕を引っ張った。
もう止めてくれないかなあ?
引っ張るの・・・。

女の子はずーっと立ったままだった。
何が起こったか理解しようとしているのだろうか?
俺は女の子に少しずつ近づいた(強制的にミュートに引っ張られて)
「あなたは誰?」
女の子は俺に気付いたようだ。
ほとんど放心状態だな。
「君、怪我は無い?」
俺は女の子の顔を見ながら言った。
結構タイプだ。
「はい。あの・・・あなたは誰?」
女の子はもう一度訪ねた。
「俺は島崎雄一。君は?」
「私は邑橋真理(おおはしまり)。今日ここに引っ越してきたの。」
引っ越してきた・・・か。
どうりで見かけない顔な訳だ。
「君はどうしてあんなところで突っ立ってたんだ?」
俺はずっと訊きたかった事を訊いてみた。
女の子は少し照れながらこう言った。
「道に迷っちゃったんだ。」
なるほど。
引っ越してきたばかりだから道が解らなかったんだな。
「よかったら俺ん家来ないか?」
この発言・・・まずかったかな?
もっと慎重にやるべきだった。
俺は少し後悔した。
だが女の子の反応は結構以外だった。
女の子はただ一言
「ありがとう。」
と言った。
セーフ!

俺ん家には10分ぐらいで着いた。
母さんの鋭い視線を感じた。
母さんは俺に近づいてきた。
「とうとう彼女GETしたわね。やるじゃない。」
俺の耳元で囁いた。
「そんなわけねーだろ!」
俺はすぐにその場を離れた。
女の子にはとりあえず俺の部屋に上がってもらった。
「悪いな、いろいろ散らかってて。」
あまり人の部屋を見られたくは無いものだ。
特に汚いときは・・・。
俺はベッドに座り女の子には椅子に座ってもらった。
「君の家の住所教えてくれないか?住所がわかればそこまで送るよ。」
女の子はうつむいたまま何も言わない。
しばらくするとポツリとこう言った。
「ごめんなさい。引っ越してきたっていうのは嘘なの。」
女の子は申し訳なさそうに言った。
「気が付いたら・・・あそこにいたの。」
意味が解らなかった。
「どういうことだよ。」
女の子は説明してくれた。

覚えているのは自分の名前だけらしい。
自分が何処からきたのか何処へ行こうとしていたのか全く覚えていないという。
つまり・・・記憶喪失だ。
俺が助けたときは混乱していてデタラメに発言したそうだ。
「ねぇ。」
突然声を掛けられて一瞬だけ飛び跳ねた。
「名前、何ていうんだったっけ?」
ど忘れしたのか?
「島崎雄一だ。俺の事はどう呼んでくれてもいい。」
女の子は黙り込んだ。
どう呼んだらいいのか考えているのかもしれない。
「じゃあ呼び捨てでもいい?」
なんと、いきなり呼び捨てか?
「別に構わないよ。」
言ってしまった。
「私のことは『真理』って呼んで。」
お互いが名前を呼び捨てって・・・おい!
別にいいか。
「真理。これからどうするつもりだ?」
これは訊いておかなければならない。
真理はうーんと唸っていた。
「どうしよう?」
俺に訊くな。
そのとき俺の頭上で豆電球が光った。
とてもいい案を思いついたのだ。
だがかなり危険だ。
俺は思いついた案をありのまま真理に話した。
その内容はこれ。
母さんに真理のことを全て告げる。
そしてしばらくの間、真理を泊めてくれないか相談する。
上手くいけばいいが・・・。

「なぁ母さん。」
俺は台所にいた母さんに声を掛けた。
「何?」
母さんはコーヒーを飲みながらニヤニヤしている。
「実はあの子をしばらくここに泊めてほしいんだ。」
「ゴホッ。ええ?」
むせたらしい。
「雄一。あんた熱でもあるの?」
母さんは俺の額に手を当てながら言った。
「最後まで人の話を聞いてくれ。」
俺は母さんに言った。
母さんはなんとか落ち着いたようだ。
俺は全てを話した。
当然、念力のことは伏せておいた。
「じゃあ、あの子記憶喪失なの?」
母さんはまだ話の内容を理解できていない。
昔からちょっと天然だったからな。
「そうなんだ。自分の家が何処かも知らないんだ。」
「可哀相ねぇ。」
母さんは同情しているようだ。
実は母さんはかなり人がいい。
俺はがんばって説得を続けた。

「ねぇ雄一。父さんが死んでから何年経った?」
母さんは突然こういう事を訊く。
「俺が小5の時だから・・・2年かな?」
俺の父さんは昔から心臓が弱く心筋梗塞で倒れそのまま帰らぬ人となってしまった。
心臓が弱かったのはたぶんじいちゃんの遺伝だと思う。
母さんはしばらく黙っていたがやがて口を開けた。
「ちょっとあの子をここに連れてきてちょうだい。話したいことがあるから。」
「解った。」
俺はすぐに自分の部屋に行った。
真理はずっと椅子に座っていたらしい。
「どうだった?」
俺の顔を見るとすぐに訊いてきた。
「解らない。母さんが真理と話しがしたいらしい。いこう。」
俺は真理を連れて再び台所へ向かった。

「邑橋真理です。」
真理は丁寧に挨拶をする。
母さんはそんな仕草をずっと眺めていた。
「あなたは両親のこと覚えてる?」
母さん・・・その子は記憶喪失なんだけど・・・。
「覚えてません。全く・・・。」
真理の声はだんだん小さくなっていく。
「そっか。じゃあこれからは私のことをお母さんだと思ってね。」
母さんは真理に優しく言った。
「え?・・・いいんですか?」
「いいわよ。」
真理は目に涙を一杯浮かべていた。
母さんは真理を抱きしめた。
真理は母さんに抱かれずっと泣いていた。
俺はそっと姿を消した。
ありがとう・・・母さん。

俺は部屋に戻った。
しばらくすると真理も戻ってきた。
「雄一。お母さんを説得してくれてありがとう。」
もうお母さんなんて言ってる。
慣れるのが早いな。
「よかったな。反対されなくて。」
俺はこれから先どうしたらいいかをずっと考えていた。
ふと、じいちゃんに会いたくなった。
俺はベッドの下から鞄を取り出した。
「真理。ちょっとだけ待っててくれ。」
真理はきょとんとしている。
「解った。」
真理がそう言うと俺は鞄を開けじいちゃんの顔を思い浮かべた。
真理は俺をじっと見つめている。
しばらくすると鞄が勢いよく俺を吸い込み始めた。
業務用掃除機より強力だ。
すると何故か真理も吸い込まれたのである。
「え?何で?」
俺と真理は深い闇へと落ちていった。

じいちゃんは今日の朝刊を読もうとしていた。
「雄一、その子を連れてきなさい。」
俺は言われた通り真理を連れてきた。
「かわいいお嬢さんじゃないか。名前は?」
じいちゃんは遠近両用メガネを掛けながら言った。
「邑橋真理です。」
真理は少し緊張しているらしい。
じいちゃんは俺がはめているのと同じ腕輪を取り出した。
「これをはめなさい。きっと役に立つから。」
じいちゃんはそう言って真理に腕輪を渡した。
「真理、俺みたいにスッとはめるだけでいい。そうすれば自然に腕にフィットするから。」
俺の言葉を聞いて安心したのか真理は抵抗せずにはめてくれた。
俺の時と同じように腕輪は収縮した。
「雄一、あとはちゃんと説明してやるのだぞ。わしはちょっと忙しいんでな。時間を無駄にできんのじゃ。」
死人のくせに何故忙しいんだ?
「解った。ちゃんと説明しとくよ。」
俺と真理は出口へと向かった。
目を開けるのが辛いくらい眩しい光が俺と真理を包んだ。
気が付くと俺達は部屋にいた。
「説明してよ。」
真理が俺に迫ってくる。
「説明してやるから椅子に座ってくれ。」
俺はまたベッドに座ると全て話してやった。
真理が驚くのも無理は無い。
俺もじいちゃんから聞いた時は顎が外れそうになったぐらいだ。
真理・・・お前固まってるぞ。
大丈夫か?
真理は一点をずっと見つめていた。
しばらくするとポツリと呟いた。
「じゃあ私は超能力者なの?」
真理も自分が念力を持っていたことを知らなかったようだ。
「悪魔で俺の予想だけどそう思うよ。」
真理はまた固まってしまった。
頑張って理解してくれ。

私・・・これからどうしたらいいんだろう。
学校とかいかなきゃいけないのかな?
この腕輪・・・ちょっときついよ。
「真理、これからよろしくね。」
えーーーーーーーーーーーーー!
腕輪が喋った。
え!何で何で!
「ねぇどうして喋れるの?」
私は思わず訊いてしまった。
「どうしてって言われても・・・簡単に説明すると私は真理と同じように生きてるの。だから喋れるって訳。」
うーんよく解らないよ。
ってことは雄一の腕輪も喋るのかな?
あとで訊こう。
「あなたの名前は何ていうの?」
私は喋れる腕輪に訊いた。
「私の名前は『ミラー』。(以後、真理の腕輪はミラー)よろしくね。」
「こちらこそよろしく。」
何か・・・変な気分。

俺は1人で外に出た。
俺は考え事をする時はよく外に出る。
「おお寒!」
やっぱり夜は冷え込むな。
もうすぐ冬だもんな。
俺が考えていた事はもちろん真理の事だ。
しばらく考えていると母さんがやってきた。
「もうすぐご飯できるよ。」
「解った。」
俺は家に入った。
今日は久しぶりに3人で夕飯を食べた。
こうやって夕飯を食べるのは父さんが死んで以来だ。
なんかこうしてると真理が妹のように見える。
俺は何か嬉しくなった。

自分の部屋に戻ると俺は宿題を済ました。
真理が入ってきた。
「私、明日から学校に行くことにした。」
はぁ?
「どうやって行くんだよ?」
母さんが入ってきてこう言った。
「私に任せなさい!」
母さんに任せるほうが心配だよ。

今年の冬は厄介な冬になりそうだ。
続く



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