あの頃は・・・今と比べて幼かったね。
いつもいつもすれ違ってばかりで。
ほとんど意志が通じることもなかった。少なくとも昔は、通じてたかもしれないけど・・・
いつの間にか別れたんだったね?いや、私の中ではまだ終わってはない・・・つもり。
世間では自然消滅って言うのかな・・・?
あなたの中ではどうなの?やっぱり自然消滅したと思っているの?
でも、そんなの寂しいよ・・・
ゴメンね、わがままばかり言っちゃって。
でもね?仕方ないことなんだって思うの。
好きな人とずっと一緒にいたいって思うのは・・・
人がみんな思ってることなんだから。
あなたはそうじゃなかったの?
私と一緒に・・・いたくなかったのかな?
私より、もっと好きな人がいたの?
もう、会うことはないかもしれないけど・・・
まだあなたは、私の心の中にいるんだよ?
これからも、ずっと・・・ず〜っと私の心の中に居続けるんだよ?
ね?伸吾・・・


Memories Off another stories
------------『I Never Forget Memories, and I will Meet Memories』------------                
 written by daiki


第三話「年上の彼と幼い私」 


出会いも突然。そして・・・別れも突然。
彼に出会ったのは小学校五年生のときだった。
その出会いは偶然そのものだった。そう、偶然。
その一つ一つが起こる可能性は低いけれど、知らぬところで毎日起こっている「偶然」
ほんの六十億分の一の確率の中・・・私たちは、出会った。
でも、それは幻想、空想、想像・・・ただの夢物語。そんな綺麗なことばかりではない。
出会うことは偶然。・・・別れることは必然。
現実とはそうゆうものなんだ。夢とは違うんだ。
――思っていることは全て実現することができる夢の世界。
――思っていることが理想どおりにならない現実の世界。
――少しずつ積み重ねることの難しさ。
――それが崩れることの容易さ。
長い年月をかけて強くしてきた絆・・・切れることは簡単。簡単すぎる。
それが・・・現実。変えることなんて・・・できないんだ。



「ちょっと待ってよぉ〜〜!!」
「ホラ、早くしねえと置いてくぞ!!ヤバッ!!時間無いぞ!!」
彼の名は、岩村伸吾。近所に住んでいる二つ年上のお兄さんだった。
当時、私は高校一年生で、彼は私と同じ高校の三年生。受験勉強で大変な時期。彼は大学進学を希望していた。
それでも毎朝一緒に登校していたし、時間があれば一緒に下校したりした。
私が『大丈夫なの?』と尋ねるほど遊んだりもしていた。
喫茶店で他愛の無い会話をしたり、遊園地にデートへ行ったり、映画を見に行ったり。
特に彼の映画への情熱はすごかった。大学へ行って、それ関係の勉強がしたい。と言っていた。
当然、私はその夢を全面的に応援しているし、その夢を叶えて欲しいと思っていた。
「ハァハァ・・・も、もう、伸吾〜!待ってよっ!!」
そう言って私は彼の腕を掴んだ。彼はバスケ部に入っていただけあって、なかなか腕はがっしりしていた。
「ハァハァ・・・ふぅ。かおるが遅いんだよ!!なんでこう、女ってのは時間がかかるんだ?」
「失礼ね〜!!女の子は身だしなみが大事なの!!み・だ・し・な・み!!」
「それでもせめてオレを待たさない程度にしてほしいな!!」
「う・・・だからゴメンって言ってるじゃない」
「言ったっけ?」
「うぅぅぅ・・・」
毎日繰り広げられる不毛な会話。でも、こんな不毛な会話だからこそ楽しかった。
いつも、一緒だった。変わることはないと思っていた日常・・・
いつも、恐れていた。いつかこんな日々に終わりが訪れるのではないかと・・・
「というかそんなこと言ってる場合じゃねえぞ!!このままいけばマジで遅刻だ!!」
そう言われて時計を見ると、時刻は八時。私たちの通う学校は電車に乗って二十分かかるので、完璧に遅刻ペースだった。
「ホントだ!!走るよ、伸吾!!」
「おう!!」
でも・・・もし、この日常が失われる時が来るとしても、私は「今」を大切に生きていきたい。
そう、思っていた。


「・・・」
「・・・」
目の前に立ちはだかる高い壁。
これを乗り越えた時には希望の光が・・・なんてバカバカしいことを考えてみた。
急いで電車に駆け込み・・・開いた途端に学校へとダッシュ!!・・・するつもりだった。
・・・現実とはそう上手くいかないものだ。
当然、朝の電車というものは満員である。電車から出るのに苦労した上、改札は超満員。
遅刻しかけている私たちにとって、これはかなり都合が悪かった。
そして、鳴り響く非情の鐘・・・私たちの通う学校はチャイムが鳴った途端、校門が閉じられるのだ。
高い壁・・・それはすなわち校門のことだった。そこまで高くはなかった・・・乗り越えられない高さではない。
「はぁ・・・やっぱり間に合わなかったか」
「ゴメン・・・」
「いや、もう遅れてしまったものは仕方が無い。仕方がない。乗り越えるか・・・」
「え!?私、スカートだよ?」
「・・・そんなの、見る人いねえよ」
ドガッ!!
腰の回転を利用し、腕に渾身の力を込めたボクサー顔負けの右ストレートが、彼の腹部に命中した。
・・・女の子に向かって失礼ね・・・
「なにか言った?」
「い、いいえ、別に・・・」
「それでよし」
とにかく、彼の言うとおり乗り越えるしか方法はなさそうだ。
「伸吾・・・先に乗り越えて。私は後からいくから」
「了解・・・」
まだ痛そうなお腹をさすりつつ、彼は軽々と校門を乗り越えた。・・・さすが元バスケ部。
「お〜い、かおる。早く来いよ!!」
「う、うん」
伸吾にそう言われ、なんとか校門を乗り越えた。なんだか彼の視線が痛かったけど・・・
「もしかして・・・見た?」
「・・・何を?」


そんな毎日がいつまでも続けばいいと思っていた。
時が流れるのは早いもので・・・いつの間にか伸吾はこの学校を巣立っていくことになった。
彼の大学受験は、卒業式のあとにあるのだ。
幸せだった日常。ずっと続くと思っていた日々、薄れることはないと思っていた絆。
しかし、流れる時は全てを流しさる。そう、全てを。
それは命であり、記憶であり、あるいはこれまで積み重ねてきた絆だったりする。
「卒業おめでとう!!伸吾」
そう言って彼に笑顔を向ける。でも、どうあがいても心から笑うことはできなかった。
「ありがとな」
そんな私に気付いて、気を遣ってくれたのか・・・あるいは、気付いていないのか。
彼の表情は笑顔だった。私のそれとは正反対の、心からの笑顔。
笑顔というものは、普通ならば「嬉しい」などの正の感情を伝えるものだ。
でも・・・今の私がそれに込めたメッセージは「寂しさ」という負の感情だった。
気付いて欲しい。
このメッセージに気付いて欲しかった。
永遠の別れなんてわけじゃない。でも私の胸に残る小さなしこり。一律の不安。
『もう、彼とはほとんど会えないのかな・・・』
『そうして、彼とは終わってしまうのかな・・・』
そんなことを思ってしまう。どうしても自分に自信を持つことができない。
こんな自分が・・・情けない。


そして月日は流れ・・・今年の四月。
私の恐れていたことが起こってしまった・・・いや、心の奥深くでは覚悟できていたのかもしれない。
彼は無事に、目指していた大学に合格した。
そして、将来の夢である、映画関係の仕事をするための第一歩、映画研究会のサークルに入っていた。
無論、大学の勉強や、サークルで映画を自主制作したりしていて、忙しかった。
そのため、彼と会う機会は減り・・・会ったとしても彼は映画の話ばかりだった。
映画の話をしているときの彼は、私のことなんて眼中にないって感じだった。
それでも、私は彼と話を合わせていた。合わせたいがために、映画の勉強もした。
嫌われたくなかったから。彼が私から離れていくのが怖かったから。
彼は私に、少しだけだったけど演技も教えてくれた。
『かおるを撮りたい』
こんなことを言ってくれた。けど・・・彼が求めているのは何?
役者としての私?・・・私が撮られた画?・・・そんなことばかりが頭によぎる。
いつの間にか、私は少しずつ彼に疑いを持つようになりはじめていた。
ひとたび生まれた亀裂は、直るどころかどんどん広がっていく。
すれ違いの耐えない日々。これが私の求めていた日常?―――違う!!
私が望んでいた日常は、こんなものじゃなかった!!
こんな一人ぼっちで、寂しい日常なんて求めていなかった!!
少なくとも・・・去年までは私は幸せだった!!
いつもと同じように他愛のない会話をして・・・
いつもと同じように彼の隣を歩いて・・・
いつもと同じようにじゃれあったりもして・・・
・・・いつもと同じように?・・・今はその表現は間違っているかもしれない。
だって、このときの「いつも」は、今から見れば「過去」なんだ。
彼は今、どう思ってるのだろう?聞きたいけど、聞けない。
私は恐れているんだ。「かおるなんてどうでもいい」という言葉を聞くことを。
私は彼のことがまだ好きだから。心の中は彼でいっぱいなのだから。
拒絶されたくなんて・・・なかったから・・・


「・・・え?」
「今、話したとおりだ」
お父さんの口から聞かされた事実。それは、すでに追いつめられていた私を突き落とすのには、十分すぎた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、お父さん!急すぎるよ!!」
「・・・かおる・・・落ち着いて」
落ち着いた口調で私をなだめようとするお母さん。でも、そんな言葉は私の耳には入らなかった。
「なんでそんなこと今日になって言うの!?もうちょっと前に言えたんじゃないの!?まだ、伸吾に何も・・・」
「かおる」
私の言葉を遮るようにして、お父さんは・・・とても威圧感のある声で私の名を呼んだ。
「お前は・・・彼のなんなんだ?」
「!!・・・」
私は、その質問に答えなかった。いや、答えることができなかった・・・というのが適切かもしれない。
これが、一年前の私ならはっきり「彼女」だと答えることができただろう。
それなのに。今の私にはそう答えることができない。頭では分かっているのに、口は動かない。
勇気がなかった。自信もなかった。そう答えるための全ての力が私には・・・なかった。
「答えられないのか?それだから、まだお前は子供なんだよ」
「なっ!!」
「自分は彼の彼女だと答えられないんだろう?・・・理由は大体分かっている」
「・・・っ!!お父さんに何が分かるって言うのよ!!私の気持ちなんて分からないくせに!!」
そう言って私は自分の部屋へと駆け込んだ。
「かおるっ!!待ちなさい!!」
バタンッ!!ガチャ。乱暴に部屋の戸を閉め、鍵をかけると、私はそのままベッドへと倒れこんだ。
「かおる?開けてちょうだい・・・」
外からお母さんの声が聞こえたが、私は無視した。
悲しさ、自分の無力さ、そして愚かさが少しずつ心に染み渡っていった。
お父さんの先ほどの言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返されていた。



『明日、この街から出て行く』

『父さんの仕事の都合なんだ・・・仕方ないだろう・・・』

『こうでもしなければ、お前はここに残ると言っただろうからな』



そして次の日。私の抵抗も空しく、次々と荷物が運び出されていく。
彼に別れを告げようと思った。いや・・・心の奥深くでは、彼に引き止めて欲しかった。
しかし・・・今日は大学に行っていて、いなかった。
結局、彼には何も言えないまま・・・この街を去ることになった。
もしかしたら、これでよかったのかもしれない。
なぜなら、私たちの進む先に、分岐点はなかったから。
待っているものは・・・「破滅」の一点だけだったから。
前触れは過去にいくつもあった。それらすべてが破滅へのプレリュード。
そして今。「別れ」という最後のフレーズが唱えられ、それは終了した。
それ以降、彼とは連絡をとっていない。いや、とれないんだ・・・
控えていた電話番号も、引越しのときに間違って捨ててしまったらしい。
もちろん、彼は私の新しい住所や、電話番号は知らない。
だからと言って、会いに行く勇気は無かった。会ったら、今度こそ本当に別れを告げられると思って・・・
でも・・・この気持ちは私の中で一人、ポツンと生き続けるのだと思う。
どこで選択を誤ったのだろうか。いや・・・彼と出会ったこと自体が、間違いだったのかもしれない。





智也は何も言えなかった。
彼女の口から告げられた過去。それは、彼の過去と少なからず共通点があった。
「これで・・・全部だよ」
ふいに、かおるが口を開いた。相変わらず、智也は口を開くことが出来なかったが。
「・・・そうか・・・」
喉の奥からやっと搾り出したのは、たったそれだけだった。
しかし、これで智也は決意することができた。「彼女を手伝ってやろう」と。
自分には何が出来るのか?そんなことは分からないが、愛しき人に会えない寂しさ。
そんな自分と似た苦しみを味わっている人を、智也は見捨てることができなかった。
「分かった。手伝うよ」
智也がそう言ったとき、彼女の時は止まっているかのように思えた。
驚いた表情のまま動かない。「手伝う」という表現は適切ではなかったのだろうか?
(半分強制だから、手伝うとは言わないか・・・)
そんなことを思っていたが、彼女はそう思っていないようだった。
「え・・・本当に?本当にいいの!?」
彼女の口から出てきた言葉の一つ一つに、驚きと感動が半分ずつ混ざっていた。
「あぁ。オレは何すればいい?・・・って、さっき聞いたか」
「うん!」
そのときこぼれた彼女の笑みは、本当に心からの笑顔だった。
「それで・・・音羽さんは会ってどうしたいの?」
「・・・けじめを・・・つけたいの」
本当は、彼女は彼に会いたくなかった。その気持ちに蓋をしておかなければならなかった。
しかし・・・前日、彼を見つけたことによって「このままじゃいけない」と思ったのだ。
彼女の気持ちが、爆発しそうになった・・・それも原因の一つだが。彼女が走り出した理由はそうだろう。
(これ以上、彼を私のせいで縛ることはできない)
それに、智也が一緒にいてくれれば少しは楽になると思ったのだ。確証はなかったが、そう信じたかった。
「え?それってどういう・・・」
「まっ、それは彼に会ってからのお楽しみ〜♪」
「なっ!?」
急に真面目な顔になったと思えば、また子供っぽい笑みを浮かべるかおる。
そんなかおるに智也は呆れきっていたが、悪い気はしなかった。
「もうすぐ授業始まるから、そろそろ教室帰ろうか?」
「あっ、待って三上クン!!忘れ物!!」
「え?ぅわっ!!」
後ろを振り向いた智也に向かって、一つの包みが飛んできた。
それは、智也が捜し求めていた例の少女漫画だった。
「返すよ」
「・・・おぅ。サンキュ」
「じゃぁ、今日からよろしくね」
「あぁ。早く彼が見つかることを祈ってるよ」
「うん。ありがと」
そう言って二人は教室へと向かった。そのすぐ直後、授業開始を告げるチャイムが鳴った。
智也はとても長い間、屋上にいたような気分になっていた。
しかし、実際には二十五分ぐらいしか経っていない。もしかしたら、神が時間を止めてくれたのか?などと思えてくる。
かおるが、最後まで智也に過去を告げさせるために・・・
もしかしたら、この二人の出会いは・・・ある意味、運命だったのかもしれない。

似たような境遇を経て、似たような悲しみを持つ二人。

神がそれを気遣い、お互いに引き合わせてくれたのだろうか・・・?

だが、神はどこまでも・・・残酷だった。準備など・・・必要無いらしい。

この悲しき運命を乗り越え、待っているのは明るい未来か・・・それとも、暗い過去の再来か。





<第四話「let's begin again」へ続く>

あとがき
皆さん、ナマステ〜♪daikiです。
いや〜・・・もうすぐ入試だって言うのに、書き上げちゃいました。
やっぱり、勉強は趣味に負ける。といったところでしょうか。
勉強しなきゃならないんですけどね・・・
ということで、これを書き上げたら、当分(といっても月曜日まで)休業です。
しかし、ちゃ〜んと帰ってくるのでご安心を♪
連載をはじめた以上、完結させるのは作者の義務ですからね。
挫折しない程度に頑張ります。(笑)
それで、作品ですが・・・はじめて一人称に挑みましたが、どうでしょう?
やっぱり三人称のほうがちょっと書きやすいかな・・・とか思います。
急に三人称に戻るので、読みにくいかも・・・
感想いただけると、嬉しいです。
今回は、前回の半分ほどになってます。作者、これで限界です・・・
そして、次回。って、あんまり必要無いですね。バレバレだし。
もっと精進いなければ!!
それでは、次回「let's begin again」でお会いしましょう!!
ナマステ〜♪(知ってました?『ナマステ』はこんにちわと、さようならの両方の意味があるらしいです)



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