メモリーズオフ・REVERSE
ゲバチエル

登場人物

稲穂信:
本編の主人公 自分の想いを振り切ってまで智也達へ罪滅ぼしを試みるが・・・

三上智也:
ある雨の日に彩花を失ってしまう。信とは親友の間柄で彼の意思を理解している

今坂唯笑:
智也と幼馴染。今は亡き彩花から智也を奪ってしまうんじゃないかと思いを打ち明けられずにいる

桧月彩花:
不幸な事故でこの世を去ってしまった。悲しみを越えた願いは果たして・・・

第2章・奇跡

奇跡と償いと

信が切り出した言葉は冷たく聞こえた。
「俺、用事あるからさ、さき帰っててくれ!いいから帰ってくれよ。いらぬ検索は無用だ。
 いいから!俺は誰にも知られたくないんだよ!早く行ってくれ!頼むよ二人とも」
二人は少し不機嫌そうに顔を変えた。口を開いたのは智也だった。
「そうか信。俺たちと帰りたくないんだな?本当は俺たちとは行きたくないけど
 誘える相手が俺等だけだから誘ったんだな?お前はそういう奴だったんだな。
 ほら帰るぞ唯笑」
「う・・うん」
しかしきついセリフとは裏腹に智也の顔にはうっすらと笑顔が出来ているようでもあった。
どうやら信の心遣いに少しは気づいているようだ。親友として。
智也は判ったんだ。そう信は自己完結していた。
「じゃあな俺急ぐから」
そうして信は二人からとうざけるようにして走っていった・・・。

信は3年前の交差点に向かっていた。本人も知らずのうちに。
さっき二人と別れてから彼はずっとそこにいた。
何故か昔の事を思い出してここにこないではいられなかったのだ。
だが当の本人はそんな事も知らずに歩みを進めていた。
いつのまにか雨が降ってきていた。いつかのような強い雨が。
ここをまっすぐ行けばあの事故現場がある。
そう思っていたとき信はさっきの二人を目撃する。
しかし信は二人に接近していった。
二人は横断歩道の前にいた。
信号は青。真っ白い傘を差している少女。
信は嫌な予感がした。
そう。
あのトラックが今また迫ってきていた。
だが信以外雨の水で誰も見えていなかった。無論その二人も。
(あのままじゃ間に合わないくそどうしたらいいんだ)
あの時とは違い、信は走り出していた。
(あんな運命二度と二度と!誰一人あんな事があってはいけないんだ!!!!)
トラックは二人もわかる距離に迫っていた。だが気づいた時には遅く、回避できる距離になかった。
キキ―――
全てが遅すぎた音が鳴り響く。
しかし一人の少年は勇敢にも飛び出して―
「智也!!!唯笑ちゃん!!!!」
信は頭の中が真っ白だった。今からの頭の中では二人を救う事・・・
3年前の二の舞にならないことを祈って自分の命すらも考えず飛び出していた。
「し・・・しーーーーーーーーーーん!」

ドン

何かが当たった音がした。二人は無事だった。怪我一つなく。
だが一人だけ横たわっている少年がいた。
倒れている少年はうっすら笑顔を浮かべていた。
「馬鹿!!何してんだ信!おまえわざわざ死にに来る事はないだろう!」
智也は倒れているその少年に言い放つ。
「今救急車を呼ぶ。唯笑信を頼む!俺が今呼んでくる」
信は手を前にだして言った。
「いいんだ・・・これで3年前の償いができた・・・二人を助ける事が出来た。
 3年前の交通事故で智也の大切な人を奪った罪を・・・な」
唯笑がビックリにもにた声と泣きの混じった声でいた。
「彩・・・ちゃん?信くんまさか・・・その時の・・・・」
「俺はその人を助けられ・・なかった。唯一の目撃者なのにな。
 仮死状態で土葬したのにいまだに仮死のままだ。俺が殺したんだよ」
智也が怒鳴りつけた。
「馬鹿!お前が死んだら悲しむ人のみのもなれ!お前は馬鹿だ馬鹿だ!正真正銘の馬鹿だ!
 過去の事がどうであれ信は信なんだ!お前がなんと言おうと俺は救急車を呼ぶ!」
智也はそう言いきると電話ボックスに入っていた。
「信くん。信くん。死んだら駄目。唯笑もう彩・・ちゃん(ヒッグ)みたいに大切な友達を無くしたくないよ」
信は微笑んでいる。
「俺は罪を償えた・・・それだけで幸せだ・・・・二人ともありが―」
最後の言葉はそこで消えてしまった。
「信くん!信くん!信くーーーーーーーーーーーーーーーん!」

それから2分後すぐ近くに病院があるので救急車がきていた。
物言わぬ信の止血を智也が出来る限り施していた。
唯笑はショックのあまりに泣き叫ぶ事しか出来なかった。
信はタンカーに乗せられていた。
だがその信の表情はとても穏やかだった。智也と唯笑は一緒に救急車へ乗り込んだ。
信の顔を見てなのかどこからか声がした。
「稲穂君・・・・。もうこれ以上二人の大切な物を失わせたくないよ。
 覚めるなら!覚めて!私はやく覚めて!」
しかしその声を聴いた人はいなかった。
−−−−−−−−−−−−−−切り取り線−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
信が気づくと、一面は白銀の宇宙だった。
何もなく何も感じない空間・・・そこに信はいた。
「ああ俺は死んだんだな・・」
信はその「無の空間」とも呼べる場所で死を痛感していた。
信は二人の命を救えたので罪滅ぼしは済んだ。
死んだって彼らはやっていける。そう思っていた。
無の空間が少し開けて・・・現実の光景が写る。
「信!死ぬな!」
そこには自分の死を見て泣いている親友の姿があった。
「帰って来いよ!まだいろんなことが始まるのに」
死んでもいい・・・だが智也は、罪滅ぼしとか関係なくして、
一人の親友として信の帰りを待ち望んでいた。
(くそ・・・だがこれは俺に与えられた罰・・・・・死ぬことでしか・・・
 だがこれ以上何も奪わせたくは・・・智也だけには絶対に!!)
「ふふ・・・これが現実だよ。」
不意に目の前には悪意の塊がたたずんでいた。
「またお前かよ・・・いい加減にしろよな」
「ふ・君のした事判ってるつもり?」
彼は不敵に微笑んで語り始めた
「智也の彼女を殺して、そして唯笑と智也の関係をかえって不自然にした。
 おまけに最後は彼らから大切な大切なお友達を消してしまったんだよ」
闇はそこまで言い切るとさらに不気味に笑い始めていた。
「君のように人を傷つけるような人間は要らない・・・
 君はこれ以上あの二人に迷惑をかけないためにもね・・・。
 つらい事。悩んだ事全部忘れたいだろう?さあ俺と一緒に行こうよ。
 あっちにさ」
闇がさすあっちには完全な別世界が広まっていた。
本心は生きたいはずだが、彼の言葉の魔力だろうか・・・・
信の心はいやな事に対する逃避的な感情でいっぱいだった。
「やめなさい」
突然光が差し込んだ。天使が舞い降りるように。
しかし光が強まるとなぜが信はこのとき何も見えていなかった。
強烈な信の悪意が活性化したためである。
「お前は・・・あの時の!!?」
闇はうろたえた表情を作った。
「貴方は罪のない稲穂君になにをすると言うの?
 あれは事故よ・・・?人の弱みに付け入ってそういう事するの?」
だが闇は怒りをあらわにしていた。
「お前に俺の悲しみが判るか?判るはずはない。
 お前が死ななければ俺は今まで通り普通に暮らせたんだぞ?
 ふざけんなよ・・・。人殺しの感情なんてさあ!」
だが少女は続けた。
「私は貴方を責めていないよ?でもどうしてなの?
 貴方はなにを逃げたかったの?
 過酷な現実?自分がつらい物から逃げるために今まで頑張ってたじゃない・・・
 私は貴方を恨んでないよ!それに罪?そんなの時間をかけてゆっくり償えばいいのよ」
闇は、姿形を半壊させながら喋りだした
「ふん・・・そうだ。俺は憎しみの塊だ。稲穂信という人間の憎しみの一つに過ぎないよ。
 だが彼は目の前の死から逃げたいと強く思っていたんだ・・・。
 その現実逃避したいストレスから俺は普通の人の憎しみの何倍も大きくなったんだ。
 そしてときおり俺が邪魔をしたんだ。ストレスでその逃げたい心をね。
 だけど憎しみから解放された今は俺は・・・いらないんだ」

次の瞬間闇は光の粒となって消えた。

信はそれが終わると同時にずっといたかのようにそこに戻った。
目の前の少女は優しく微笑みかけてきた。
信のすべてを見抜いていたように。
「・・・・稲穂信くんだね?始めまして」
少女は三年前あの時引かれていた人であった。忘れもしない、見殺しにしたあの・・・。
「あ・・あの・・・貴方を殺しといて・・・ははは。あわせる顔ないです」
目の前の少女は腹を立てた顔を見せていた。
「あれはねえ信君は悪くないよ?本当に恨んでない・・・。
 今回は二人を救えたんだしチャラってやつかな?」
少女の顔を見ると、うそとまったく思わせない不思議な力があった。
「でも・・・俺もいなくなったら・・・あの二人すごく悲しみます・・・。
 これ以上何も奪いたくはないんです」
「俺はどうなってもいいけど・・・。何か、何か・・・」
彼の願いに呼応したように少女の体は光となり消えていきかけていた。
「・・・信君の想いが私を目覚めさせてくれるみたい。
 漫画でもこんな展開ないよね?ふふふ・・・。
 でも信君。貴方の帰りを待つ人のことは忘れな―」
彼女は光の塵となって消えた。現実へ戻っていったのだ・・・。
「・・俺には見届ける義務がある。まだ死ねない理由があるな」
信の体も、光のチリとなっていった・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−切り取り線−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
事故の翌日。それは信と入れ替わるかのように奇跡は起こる。
ピンポーン
智也の家のチャイムが不意に鳴った。
夏休みの朝9時だと言うのにもかかわらず。
だが智也は昨日の事件で外に出る気がなくなっていた。
昨日信は対応が早く命は取り留めたものの、目覚める見込みが低い・・・と医師が言っていたからだ。
だがチャイムはいたずらのように何度もこだました。
「はい?三上ですけど」
「桧月ですけど・・・」
「!何かの冗談だろ?その人が今いるはずはないんだ」
「私・・・・彩花だってばあ」
その声を聞いた瞬間智也は走り出していた。間違いようのないあの声は彩花だった。
何が起こったかは判らないが今はあの声が真実を語っていった。
「あ・・・彩花!?どうして・・・いいから俺の家入れよ」
「うん・・・ありが・・・と」
しかし彩花はそれだけいうと智也のほうへ倒れこんでしまった。
智也は彩花に熱があるのを感じ取っていた。
智也は急いで彩花を寝かせた。そして氷マクラを必死に作った。
なれないことをするから、それは失敗の連続だった。しかし智也は必死に作業を進めた。
こんな大雨の中に傘も差さずにいたから熱が出ても当たり前だった。
智也はなれない料理を始めていた。
(信・・・お前は人殺しなんかじゃないぞ・・・むしろ―)
そこで智也は病院にいるはずの信のことを思っていた。
「3年前の交通事故で智也の大切な人を奪った罪」
信がいったセリフが智也をよぎる。
今こうして彩花が目の前にいて、昨日は命を救われたのに、そんな信が・・・
しかし智也はそれ以上考える事が出来なかった。信の昨日の事を思い出すのがつらかったからだ。
「う・・・。智也・・・ありがとう。」
智也はすでに泣き出した顔で答えた。
「お礼なんか・・・いらない・・・。それよりどうしてここに今いるんだ?
 生きてるなら、もっと早く・・・・」
彩花は体を起こしゆっくり話しはじめた。
「私の体は仮死状態で、完全に死んだ体じゃなかった。その中で智也は私を土葬するように主張したでしょう?
 だから私は棺の中でずっと眠っていたの。魂は体に戻れないし、かといってあっちの世界のもいけなかった。
 だから私はずっと智也たちのこと見守ってたんだよ。
 そんなとき昨日稲穂君が智也たちをかばったでしょ?」
智也は正直信じられなかった。仮死状態で自分が土葬を主張した事によっていま彼女が目の前にいることを。
「私はこれいじょう智也たちから大切な人を奪われて欲しくなかった。私みたいに消えてしまって欲しくなかった!
 だから私は願ったの。「覚めるなら早く覚めて!」って。そうしたらどういう訳か
 突然仮死状態がとけて、私は目が覚めた。私は真っ先に智也に会いたかった・・・。
 だから、智也の家に来たのよ。ゴメン・・・ね。今までつらい思い出させて・・・さ」
智也は泣き叫ぶように彩花に言った。
「彩花が今ここにいる。それだけで俺はうれしい。だから過去にとらわれる心配もないんだ・・・。
 もう一度新しく始めよう」
彩花は喜ぶ顔を隠しきれずにいた。
「うん。もう一度始めから・・・・ね!」
彩花は智也の作った料理に口を通した。
「・・・智也にしては上手なんじゃない」
「すまん。料理へたでさ」
「そんな事ないよ。そういえば稲穂くん大丈夫かな」
しかし直後部屋には沈黙が訪れていた。

稲穂信

二人の頭の中は彼のことでいっぱいになろうとしていた。
「稲穂くん・・・早く直るといいね」
「ああ・・・彩花も寝てろよ。熱あるんだから。それと今から唯笑呼ぶよ」
「うん。じゃあ唯笑ちゃんきたら起こしてねおやすみ・・・」
智也は彩花が寝るのを見届けると唯笑に電話をかけた。
「もしもし・・?唯笑か?ちょっと用事があるんだけどさ」
電話の向こうからは暗い声が聞こえる。
「智ちゃん・・・。何・・?」
「信のお見舞いとかの日程たてようと思ってさ。俺の家今から来てくれ」
智也は素直に彩花が来たといっても信じるはずがないので、
嘘ではないのだが、口実を作った。
「うん判った。今行く・・」

ピンポーン
智也は彩花を起こして唯笑がきたと知らせると
ドアまで駆け出していった。
外にいるのが唯笑だと判るとすぐドアを開けた。
「唯笑。俺の部屋に行くぞ。」
唯笑は智也に言われるまま智也についていった。
智也がドアを開いた。
「唯笑ちゃん。久し振りだね」
唯笑はしばらく何もいえないでいた。そこにいた少女の姿に。
恐らくは智也と考えた事は似たようなものなのだろう。
「本当に彩ちゃん?うわあああん彩ちゃーん」
唯笑はすかさず彩花を抱きしめていた。
「彩ちゃん・・・会いたかったよう。」
彩花は唯笑にも自分がいまこうして生きてる理由を説明した。
「ほえ・・?でも彩ちゃんは彩ちゃんだもん。生きてるだけで唯笑幸せだよ。でも・・・」
三人の表情が暗くなる。
「信くんが・・・信くんが・・・」
「彩花。唯笑。信のお見舞い明日にでも行こうぜ・・?彩花がいることで信も喜ぶだろうしな」
「うん。唯笑ちゃんも行くよね?」
「もちろんだよ!」
その夜もともと隣に住んでいたはずの彩花の家族は事件を機に引っ越してしまったので、
彩花は智也の家で寝ることになった。
今現在隣の家は誰も住んでいない。
「私さ、澄空高校の試験を受けようと思うんだ。前から志望校だったし。
 でも親のはんこうとか貰わないといけないし・・・」
彩花が自分の家族のことに触れ始めた。
「それなら今から彩花の両親に電話しろよ。引越し先の番号ぐらい知ってるしな。
 彩花が言わないと相手も信用しないだろう?」
智也は彩花がいることにすっかり自分(?)を取り戻していた。
そして智也は自分の両親に電話をかけた。
「あ母さん?ちょっと大事な用事があるんだ。今彩花とかわるからちょっと待ってて」
智也はそういうと自分の親への電話を彩花に渡した。
彩花と智也の母は5分ほど話していた。無理もない3年も時間が凍っていたのだから。
「あ母さん?智也にかわったけどさ。だから、しばらく彩花を俺の家に泊めてもいいだろう?
 まだ隣に帰ってこれるはずないからさ」
「変なことしでかすんじゃないよ?二人で仲良くするんだよ?じゃあね」
電話の音が切れる。
「しばらく俺の家で泊まれるってさ。だから寝るところは心配ない」
「智也ありがとう。じゃあ電話貸してよ。うちに電話するからさ。」
智也は子機電話と今の彩花の両親の電話番号のメモを渡した。
しかし電話をかけるとすぐに彩花はすぐに受話器を置いた。
電話の声が全体に聞こえるようにボタンを押して。
「これなら二人一緒に喋れるでしょう?」
二人は彩花の両親と20分ほど電話を続けた。
「智也君彩花をよろしくお願いします。」
「いえそんな改めなくても」
「引越しとかの準備は進めておきますから。じゃあ彩花?智也君に迷惑かけないようにね」
彩花の父はすでに泣いてしまっているようだ。
「彩花・・・。智也君と仲良くな」

ブツ
プ〜プ〜・・・
電話が終わる。電子音が鳴り響く。

「良かったな彩花。また隣同士になれそうだな。」
彩花と智也は嬉しそうに少し顔を赤くしている。
「うん。じゃあ今日は寝るねお休み。智也」
「ああじゃあお休み。」
智也はそう告げて自分の部屋に戻る。
しかし智也はなかなか寝付けなかった。
信の事と彩花の事が同時に頭の中で交差して・・・・
智也が目を覚ましたのは少女の声だった。

〜全ての目覚め〜

「もう。三年も過ぎてるのにこれは変わらないのね。しょうがないなあ智也は」
智也はまた夢か・・と思った。しかしそれは違った。
「智也!」
智也は彩花に強引に起こされた。いつもの夢が重なって現実との区別がつかなかった。
「ったく。もっとましな起こし方はないのかよ」
智也の周りには2つほど輪ゴムが散らばっていた。
「智也が起きないのが悪いんでしょう・・?早くしないと約束の時間過ぎちゃうよ」
時計をふと見ると、お見舞いの予定時間が刻一刻と迫っていた。
「う・・なんで起こしてくれなかったんだ」
「もー1時間も起きなかったのよ!夜中何してたのよ」
そんなこんなで智也たちは急いで病院の前に向かった。

「遅いよ二人とも〜」
唯笑が笑って二人を待っていた。
だが遅いという唯笑も少し息を切らしている。
「お前も同じぐらいにきたろ・・?いき切れてるぞ」
「なんで判ったの〜。」
「それはお前が単純だからだ」
「ちょっと智也!唯笑ちゃんも!くだらない事でもめないの」
いつもと違って彩花がいることによって歯止めがかかる。
無駄な話が果てしなく続く事は当分なさそうに思える。
「病院では静かにしないといけないんだからね。それぐらい判ってよね」
唯笑と智也は久し振りに彩花の突っ込みが入ったのに違和感を感じたが
三年前と何も変わらないリズムを取り戻していった。
三人は病院の廊下を歩いていた。
どこもかしくも白で白さが不気味に感じた。
だがその不気味さに似合わない少女が一人廊下を歩いていた。
「みなもちゃん・・?」
唯笑が名前を呼ぶ。
「あ〜唯笑ちゃん。久し振りだね。」
どうやら唯笑はこの少女と知り合いらしい。
「あ。こっちは・・って彩ちゃんの事は知ってるよね?それでこっちは―」
しかし予想通り唯笑の言葉は遮断された。
「彩花・・・ちゃん?本当に・・・?死んじゃったって聞いてたのに。三年間連絡ないなんて酷いよ」
みなもは彩花に会えた事で涙ぐんでいる。
彩花はこれまでの事情をみなもに話し、みなもを納得させた。
「そうなんだ。それでこっちの男の人は?」
「ああ。俺は三上智也だ。よろしくなみなもちゃん」
みなもはキョトキョト唯笑と彩花のほうに顔をあわせている。
「あ。そういえば智ちゃんと会うの初めてだっけ。名前は教えてたけど」
彩花とみなもは従姉妹関係で昔から仲がよく、彩花と唯笑は幼馴染だったので、
三人は友達同士だった。智也だけは、部活の助っ人とかでお見舞いに行けなかったのだが。
「彩花ちゃんたちはどうして病院に?」
智也が真っ先に口を開いた。
「親友が入院してるんだ。事故でまだ目を覚まさないんだ。そのお見舞いだよ」
「みなもちゃんには言ったよね?信君の事。信君が昨日事故に遭っちゃってね・・・」
「そうなの。じゃあそろそろ稲穂くんのお見舞いに行かないと・・・またねみなもちゃん」
「うん。あえて嬉しいよ彩花ちゃん。また会おうねみんな」
三人はみなもと別れを済ませて信の病室へ急いだ。
「信・・・」
智也が一人嘆くようにその名を呼ぶ。
三人は信を囲むようにして腰をかがめた。
彩花が信の腕の近くに座りその手を握る。
「稲穂君の手・・・。あったかい。生きてるんだよね」
唯笑が泣きそうな声で言う。
「でもでも!信くん目を覚ます確立は低いって言ってたよ」
智也が間違いを正すように言った。
「唯笑。そんな風に考えてたら信だって起きてくれないだろう?俺たちは起きる事を信じるんだ。
 そうだろう?信の信は信じるの信!なんだからな」
彩花の亜麻色の長い髪が信の顔にのっかる。
「智也〜なかなかうまいこと言うね。信君の信は信じるの信、か。呪文みたいだね」
誰も気づいていないが、信の手がかすかに動いた。
「智ちゃんもたまにはいいこというんだね」

・・・信は亜空間に一人立っていた。
目の前には一本の川が流れていた・・・だが。
現実での彼らの会話が一つ一つと心にしみていた・・・。
彼らは信の帰りを待ち望んでいた。
そして・・・知らないはずの声―彩花の声がなぜかなつかしく聞こえた。
「俺は・・・俺は・・・これ以上っ。智也を悲しませるわけにはいかないんだ」
しかしそうはいっても川の対岸まで歩もうと体が勝手に動いていた。
向こうまで言ってしまったら二度と現実に帰ることは出来ない・・・
何故か信は、そう確信していた。
しかしなおも彼らは信の無事を祈っていた
「俺はもう悲しませたくない!生きるんだ!止まれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1」
だがいくら叫んだ所で足は速さを増していくだけだ。死へ勇み行くように。

ふわっ。

不意に優しい香りが漂ってきた。あの時の彩花の髪の香り。そして信の―。
信の足は香りに引き止められていた。
あの香りが信の全てを繋いでいるようでもあった。
そして・・・体全体が軽くなり対岸の世界が消えていった・・・。
まるで香りが包み込み運んでくれたように。
そしてあたりは亜麻色に包まれていった・・・・。

「う・・・このにおいはまさか・・?」
「信!きがついたか」
「智也!唯笑ちゃん!それとこの人は幻覚・・?」
「違うよ稲穂君。私は本物よ。桧月彩花ですよろしくね」
「俺は・・・あの日一人の少女・・・そう桧月さんを助けられなかったんだ」
智也は違うといって言葉を遮ろうとする。しかし先に喋ったのは彩花だった。
「私は智也も稲穂君も恨んでいないよ。あれは不幸の事故だったの。ただそれだけ。
 事故を目の当たりにして動けなかった事実を責めることはできないもん。
 そうでしょ?信くん。それに智也が傘頼んだから私がひかれたわけでもないもの。
 事件はどうあれ私はここにいる。
 それに信くんは昨日智也たちを助けたじゃない?だから罪とか償いとかそんな物はないわ
 だからみんな。今を生きよう?ね?」
彩花がこうだけ言うと信は感動のあまり大粒の液体が目から滑り落ちていた。
「桧月さん・・・。ごめんな・・・そしてありがとう・・・。」
病室を照らす太陽が四人を明るく包んでいた。

その夜・・・
信は最後に奴との決別の時を迎えていた。
「ふふ・・・どんな気分?この世にみんなそろって。」
闇はそう疑問を投げかけていた。
「ああ幸せだよ。でも罪が償えないまま俺終わりそうでさ」
闇は笑い出した。
「はっはっは・いっそやめたら?罪とか言ってるの・・・。
 せっかく生き返ったんだしやりたいこと好きにやれば?」
闇は彼らのことを無視していけばと聞いていた。
罪滅ぼしとかの呪縛から抜ければ楽だった・・・。
「いや。それじゃダメだ。俺たちは互いに助け合ってるんだ。
 それに俺たちは友達なんだ。
 確かにそういう事いってるのはつらいけれど、
 俺はこの手であいつらの全てを見届けてやりたいんだ」
そういうと闇はもう消え去ってしまっていた。
「また会うかもな・・・お前に憎しみがある限りな」
最後にそう言い残して闇はその姿を消していた・
その後信は奇跡ともいえる回復を遂げていた。
運命が彼を必要としている・・・まるでそのように。
そして何よりも信は望んでいた。
この先の未来・・・自分の犯した罪に対する償い・・・・
すべてを生きる事によって―彼らと過ごす事。
信は生きる事を誰よりも願っていた。

事故から一週間。

信は自分の病室に別れを告げていた。
病院と決別することによって、自分の過去とも別れを告げるつもりでいた。
「想い出は忘れる事は出来ない。でも。だけど!
 想い出があるから進んでいける事を俺は学んだ。
 俺は想い出を・・・かけがえのないこの想い出を胸に・・・未来を生きる!」
信は自分の過去にすべての別れそして決意を表した・・・。
病院の前では親友達が待っていた。
「よ!信。病室で変な事考えてたんじゃねえか?」
だが智也の顔は友を迎えていた。
「ちょっと・・・いきなり信君に何言ってるのよ!」
彩花が速攻でつっこむ。信はこの光景を嬉しく思っていた。
「さぁさぁ智ちゃん!信君!行くよ?」
唯笑がそう言い出すと皆の足取りは軽くなっていた。
「お・おい?どこ行くんだよ!答えろ智也!」
信はそうは良いながらこの状況・・・にとても満足していた。
「行くんだよ!彩花の家に。信の復活パーティーだ」
(そうだ。ここが俺の居場所なんだ・・・。
 これからもこの俺の居場所をなくしたりしないためにもこれから・・・)
「それじゃーレッツゴー」
唯笑はそういって駆け出しで進んでいく。
「あーこら唯笑ちゃん!待ってくれよ〜俺病み上がりなんだよ。」
(これからは・・・いや今度こそ三人・・いや四人の?
 未来をつなぐ架け橋となってやるぜ!!!)
信はすべてを胸に思い、前に進んでいった・・・。
そして、智也も彩花も唯笑もみな思いを秘めて進んでいた。
心も足も前に―。

そう。みんなそれぞれの、かけがえのない想いを胸に・・・・

「復活と奇跡編」終わり
そして三章へ物語りは続く・・・



あとがき

はおっ!ゲバチエルです。
メモリーズオフREVERSE「復活と奇跡編」楽しんでいただけたでしょうか?
彩花をこんなかたちで復活させてしまったことは賛否両論かと想われますが・・・。
本作のREVERSEには、彩花が生きている、という大きな意味を持っています。
彩花が復活しても物語は終わりません。信はどうするのか、智也は結局どうなるのか・・・。
そのへんが第三章以降で書かれていると想います。
それでは三章をお楽しみください!それではごきげんよう!




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