メモリーズオフ・REVERSE
ゲバチエル

登場人物

稲穂信:
本編の主人公 三年の時間をへて、智也達を改めて見守ろうと決心する。

三上智也:
信の親友。想いは彩花との再会を果たし、少しづつ自分を取り戻しつつある

今坂唯笑:
智也と彩花との幼馴染。彩花との再会で過去の傷は癒えつつある。

桧月彩花:
ある雨に日にこの世を去るが、奇跡をへて帰ってくる。澄空へいくべく猛勉強中

伊吹みなも:
彩花の従姉妹にあたる。体が弱く入退院をくりかえす。信とは院内で何度か顔を合わせた仲

双海詩音:
父の仕事の都合で日本に帰ってきた帰国子女。とある過去から日本人に対して冷たい印象を持つ

「運命の絆編」
第3章・始まり

夏休みも八月に入り、暑さはより増してくるころ。
信は、夏休み前にあったことを思い出していた。
「はぁ・・・そういえば俺実行委員だったけ」
一学期のあいだに信は、澄空祭の実行委員に立候補していた。
だが入院やらの関係で忙しくて忘れていたのだ。
信は資料に目を通す。
「うーん学祭が9月だから夏休み中に
 出し物とレイアウトとか考えねえとな」
だがいくら考えていても一人ではいい案は浮かばなかった。
「あいつら呼ぶか」
そう考えるとすぐに信はすでに実行していた。
「お・・・智也か?お前学祭の事忘れてるだろ」
「あ・・・忘れてた」
「んなことだろうと思ってたぜ。
 学祭準備できるの帰宅部の連中だけだから、
 どうーしてもお前の手を借りたいんだ。
 何せ失敗したらクラス全員で赤字の分払わないと」
「赤字はいやだな・・。しょうがないやってやるぞ」
「んーいやまだあるんだ。唯笑ちゃんと彩花さんも呼んでくれない?」
「判った・・でいつ連絡する」
信は何の考えもなしに電話していたのでしばし悩んでいた。
「うーん。二人に回したらよろしく。そのあと集まる日程とか教えるからさ」
「おう・・じゃあな」
それから連絡が決まり集まったのは三日後である。

その一方で彩花は、一応死んでたという肩書きもあって
役所などあちことに顔出ししなければならなかった。
たくさんの資料、証明する物をたくさん持って。
まるで買い物する主婦のように書類を籠に入れている。
彩花は面倒くさそうに歩いていると・・・。

ドカッ

「いったー」
不意に曲がり角から誰かとぶつかってしまった。
ぶつかった周囲には相手の物と思われる本が散乱していた。
「あ・・ごめんなさい」
「いえ。こちらこそすいません。見えなかった物で」
みため・・16ぐらい・・・の銀髪の日本人離れした少女はしっかりとそういった
「それじゃ本拾うね」
彩花がさぞ当たり前のように救いの手を差し伸べると、
「いえ。それぐらい自分でできます」
動作の一つ一つが美しく見えた。銀髪をなびかせるそぶりは
見る人を圧倒する・・・まるで絵になる少女・・・。
彩花はふと彼女に見とれていた。と同時に過去の記憶を思い出していた。
だが気を取り直すと本を拾い始めた。
「もー人が困ってるのに誰も拾ってくれない!」
あたりをみればみちゆくひとはかなりいた。
しかしこちらを見ると、まるで奇妙なものでも見物するような目で
振り返った後に何事もなかったように通り過ぎてしまう。
「日本人なんてこんなものですよ・・」
少女は顔をわずかに怒らせながらそういった。
過去にこの日本で何かあったのだろうか・・・
「そんな・・でも貴方も日本人じゃない?」
彼女は一瞬動きを止めた。だがすぐに次の言葉を探す。
「私はハーフです・・・」
「ふうーん。でもその髪。私の同じシャンプーでしょ?
 綺麗な髪ね・・。目も綺麗だし・・」
彩花は確実に彼女の美しさを褒めていた・・・だがそれがいけなかった。
「・・・やはり貴方も日本人の一人なんですね・・・。
 人を外見・・・でしか見てない。人の外見を羨み妬み嫉妬して・・・。
 自分と違うからって人をいじめて!そんなのと変わっていないわ」
だが彼女の力説にひるむことなく彩花は反撃に出ていた。
「確かにね。でも貴方は自分でその瞳と髪どう思ってるつもり?
 嫌ってるの?」
彼女は否定的な顔でそう言った。
「いえ・・母から譲り受けたものですから、誇りに思っています」
「ならさあ。そうやって褒められたときに怒るってことは
 自分を否定することになるでしょ・・・?」
彼女は何かに気づき驚きの顔を隠せないでいた。
「そうですね・・少し私の被害妄想があったみたいですね。
 貴方の忠告にめいじて以後気をつけることにします」
その一言で、子供のような笑顔を思わずアヤカは作っていた。
笑顔を見て少女も安心したのか、優しげな口調で会話を切り出した。
「何かの縁です。お互い名前ぐらいは。私は双海詩音と申します」
彩花は安心と喜びで顔がほころんでいた
「うん・・・私桧月彩花。よろしく!あなた中学校の時藍ヶ丘にいたでしょ?」
「!!何故それを・・・」
詩音は焦りの表情を見せた。
「藍ヶ丘第二中学校。中学一年の時いたよね?私も同じクラスだったんだよ?」
「なら・・・なんで!?どうして!?何故助けてくれなかったのよ」
詩音は日本人嫌いの元となった中学時代、そこで怒りを表す。
「・・・ううん。助けなかったわけじゃないわ。むしろそうしようとしたわ。
 でもね、私一人が止めても何も変わらなかった。
 だってイジメに見えないわよ。周りから見たら。」
「でもそれでも・・・」
「何度かあなたに声をかけたわ。大丈夫・・・って。でもあなたは答えなかった」
彩花は悲しそうな表情を自然にみせていた。
「それは・・・・」
「あなたはまわりに何か言われることによって現実から逃げてしまったの・・・違う?」
「たった三人だけいました・・・あの時私に普通に話してくれた人が。
 でも、何か言われるんじゃないかって私から心を閉ざしていました・・・。」
詩音は自分の非に気づきゆっくりと心を開いていた。
「そう。これで判ったでしょ!?日本人だから悪いんじゃなくて
 人それぞれ違うってことが。」
彩花は明るい顔つきに戻っていた。
「そうですね・・・ありがとうございます・・・」
詩音も冷たい表情から明るい表情を見せ始めていた。
「ううん?いきなりこんなこと言ってごめん。」
彩花は自分が説教みたいなことをしてたことに謝罪をする。
「いえ。私のほうが勉強になりました。そんな謝らないでください」
詩音は率直に礼を言った。いままでの生き方がどんなに悪いか知ったからだ。
「うん。あ時間。そろそろ行かなきゃ」
時間は過ぎ去っていく。残酷なままに。
「それじゃまたどこか出会えるといいですね」
「うんじゃあね双海さん」
次に会える保障はないというのに。
だが、これが運命の始まりの一つとは誰もが気づかずにいた。

翌日・・・・
彩花は堅苦しい物とおさらばして本屋に向かっている途中だった。
「双海さん」
後姿をみかけて思わず名前を呼んだ。
だが女特有の素早さで80Mほどハシってやっと追いついた。
「桧月さんですね?」
「そう!あのー昨日は忘れててさ」
「何がですか?」
「澄空にきたの初めてなんでしょ・・・?
 なら私が案内してあげるよ?
 紹介したい人たちもいるし・・・」
ここは詩音にとっては未知の世界に等しい場所だった。だが目の前の彩花は自然と案内を買って出ている。
日本で友達を作らないと思っていた詩音であったが、ここではその心も消えていた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えてよろしくお願いしますね」
そういって詩音は携帯電話を取り出した。彩花もその意味を理解した。
「あ、私の番号ね?えっと・・・」
なれたてつきで携帯を操作する彩花。これは三年前と何も変わっていない。
彩花は彩花のままであった。と自分でもこうしているうちに気づいていた。
「あの・・どうかしましたか?」
しばし硬直していた彩花に詩音は心配の目をかける。このときの彩花はどこかが抜けて見えていたからだ。
「あ・ううん。なんでもないの。ごめん・・・すぐ終わるから」
そう言って携帯電話の番号を教えて、登録をすみやかに終わらせてしまう。
マメな彩花はメモ帳を取り出して何かを書き始めた。そしてそれが終わるとすぐに
「うん、じゃあ明日連絡するね。私の友達も紹介して・・・いいかな?」
彩花はすこし遠慮っぽくたずねていた。昨日の口ぶりから日本人を好きでないことを肌で感じ取っていたからだ。
それだけではない。智也のこともだった。詩音が綺麗で自分も見とれてしまったほどだったので
智也もそうなってしまうのではないか、と。
「彩花さんのお友達でしたら、きっといい人なんでしょうね。楽しみに待っています」
そういって彼女は笑顔で彩花の下を離れていった。つい先日までは誰も信じられない・・・そんな笑顔を見せて。
そんな様子を知ってかしらずか、彩花の前に信が声をかけていた。
「やぁ。桧月さんじゃないか。さっきの人友達なの?」
信は気さくに声をかけてみた。信がさっき見たのは影っていた彩花の表情だったからだ。
「うんそうよ。昨日知り合ったばっかりでね、澄空初めてって言うから色々と」
信はこういうところにめざといというのか、彩花の声のトーンが少し下がっていることに気づいてしまった。
しかし、信はなるべく触れないように会話を勤めた。そうしないと自分の過去に触れる気がして・・・。
「ふ〜んそうなんだ〜そうだ。結構可愛かったよな〜なんて(笑)」
信はとにかくいつもの自分をだすために振舞った。
「明日の打ち合わせ会の時にみんなに改めて紹介するから、そのときよろしくね。じゃあね信君」
彩花はその場から逃げるように早足で立ち去ってしまう。
その場に残ったのは、生暖かい妙な風だった・・・。

八月四日

「ふぅ〜」
待ち合わせを喫茶店に指定していた信は、約束よりいち早くその場にたどり着いていた。
「今年は色々あったなあ・でもまだこれからだよなぁ〜」
一人で席につくや否や、ため息と独り言を吐き散らしていた。
それは後悔か。それは安堵か。信もわかっていなかったが。
「やっほ〜信君」
一人黄昏て(?)いると、さっそく唯笑が姿を見せていた。
だがよく見ると後ろにもう一人つれていた。見覚えがあった。
「えーっとこっちが私の友達のみなもちゃん。みんなに会いたいって言うから連れてきちゃった(笑)」
イタズラに笑う唯笑を見て、信は素直に可愛いと思っていた。
「えっと、始めましてじゃないよね?病院で何度かお会いしましたし」
やはりそうだった。信が入院期間中に何度か会話を交わした少女であった。
「病院で何度かあってるよ。みなもちゃんも元気そうでよかったよ」
「エヘヘ。なんかそう言ってもらうと嬉しいです!」
ふと見ると唯笑と一緒にあいつがいないことに気づき信は疑問に思っていた。
彩花は前もって人を連れてくるから遅れているといっていたから、一緒に来ると思っていたからだ。
「あれ?智也はどうしたんだ?一緒じゃないの?」
話題を振られた唯笑は、あきれた顔で答えた。
「聞いてよ信くん〜起こしに言ったんだけどぜんっぜん起きないの。インターホン十回ぐらい鳴らして起きないし、
 大声で叫んでも起きないんだよ?だからね〜唯笑置いてきちゃった」
信は無理もないかも・・・と思いつつも彼女の話に相槌を打っていた。
とは言え、約束の時間にはまだ10分ほど時間があった。
(やれやれ。あいつが変わらなきゃ何も変わらないってのにな)
三人で雑談を交わしているとようやく寝坊やろう(仮)が姿を現した。
「おそいぞ!なにやってんだよ智也!」
遅刻のクセにのほほんとしている智也に信は詰め寄った。
「それは、犬に追っかけられて、来るにこれなかったんだよ。信じてくれよ」
だが智也の虚言癖はもはや全校レベルで有名だったので信じるはずもなかった。
「あっそ。もう判ったよ。それよりそろそろ来るはずなんだけどな。桧月さん」
智也の言うことは果てしなく続く気がしたので信は話題を戻していた。
「あ。稲穂さん。彩花ちゃん来ましたよ」
みなもが指差す方向には、彩花ともう一人、昨日の女性がいた。
「ごめんね〜ちょっと遅れちゃった。じゃあ早速紹介するね・・・詩音さん。よろしく」
そういってもう一人の少女をみなに紹介した。
「あの双海詩音です。よろしくお願いしますね」
「よろしく!」
だが唯笑はこう思っていた
(あの人・・・どこかで)
みんながお互いにこうして挨拶を交わす中一人だけ違う世界の人がいた。
「おい。智也。何寝てんだお前。双海さんに失礼だろうが。こら起きろ!」
さっき来たと思いきや夢の世界にはいりかけている智也を現実に呼び戻す。
「ふふふ・・・三上さんって面白い人なんですね。」
だが寝てた行為を別に気にしている様子はなかった。
そんなこんなで話が盛り上がってくるとやはりあのことを言ってしまうのである。
「双海さんって綺麗ですね!」
とっみなもは率直に自分の思うことを口にする。
彩花は「マズ」と思ったが意外なことに詩音は怒っていなかった。
「そうですか?でも母から受け継いだこの髪は自分でも気に入っています」
詩音は、みなもがただ純粋に綺麗だと思ったことを理解していたのだ。
この間の彩花によって自分の被害妄想にも少し気づいたのだ。
「じゃ〜そろそろ本題だ」
信はそう切り出した。肝心な話題にまったく手をつけていなかったからだ。
「文化祭の俺たちの出し物だけどさ・・・何がいいと思う?
 そもそもこの企画、赤字になると自腹だからさ、・・・成功させたいんだ」
そう言って信はみんなの目に働きかけた。
「ねぇねぇ。お化けやしきぃなんてどーかな?」
唯笑は楽しそうな表情で提案を持ちかける。
だがそれは駄目だ・・・という雰囲気がなんとなくあたりを包んでいた。そんな中詩音が口を開く。
「高校生にもなってお化け屋敷はリアリティに欠けますね。もう少しリアリティのあるものはどうでしょう」
唯笑以外の誰もが思っていたことを詩音は口にする。この一言に唯笑は大打撃を受けたようだった。
「ぶ〜なんで駄目なの〜・・・いいもん」
しかし唯笑がすねると同時に意外な人物が口を開いていた。
「喫茶店というのはどうだ?これなら時期的に結構来ると思うぞ」
「私もそれ賛成です〜智也さんと同じです。やっぱり学校入ってすぐだし和めていいかなあって」
信も智也の意見に賛成だった。なにより儲けられそうだったし、雰囲気もいい。
と思っていると彩花はなにやら嬉しそうな様子で口を開く。
「詩音さんの紅茶おいしんだ。さっき飲んだんだけどね。いいでしょ?詩音さん。」
「もちろんです。みなさんのお役に立てるのならば嬉しいです。それじゃみなさん一杯どうぞ」
そういってポットを取り出しなれたてつきで紅茶を注いでいた。
そしてみなのカップにそれぞれ注いでいく。
透明に透き通ったその茶色とオレンジが混ざったかのような色は、
宝石の輝きのように綺麗であった。それが味を語っていたかのように。
みなは、お互い顔を見あわせると一緒にそれを口に運ぶ。
「・・・・・・・・・・・」
数秒の間沈黙が周りを走っていた。しかし彼らの顔には喜びの表情が見え隠れしていた。
「うまい!うまいよ!とにかくうまいって」
全員揃っておいしいと口々に言い出す。
「これどんな紅茶使ってるの?!」
唯笑は自分も作りたいような思いで聞いてみる。
「母から教えてもらったものですが・・・企業秘密です」
誰もがこうは言うと思うものの、思わず聞いてみたくなったのだ。
「でもさぁ〜双海さん、クラス違ったらどうすんだよ?」
信は率直に思ったことを述べる。クラスが同じ確立などそう高くはないからだ。
「入ってすぐに学校の方達と親しくなるのは無理でしょうし、
 いきなり文化祭と言われても出来ないでしょう。でしたら稲穂さん達知ってる方の手伝いのほうが楽しいです」
親切とだけでは言い切れない詩音の態度にだれもが感謝を感じていた。
「双海・・・本当にいいのか?それで」
智也は彼女が本当にそう思ってるのか聞いてみた。もう異性が岐津ついたりするのを見たくなかったからだ。
「はい。学校のことも早く知りたいですし」
そう言われて智也は安心した表情を見せていた。そんな智也の様子に彩花は不審を感じていた。
「じゃあ喫茶店って決まったのはいいけど、それ以外はどうする?」
信はそんな様子に気づいてか、話しを次へ持っていく。
「信君?今日はこんなところでいいんじゃない?喫茶店って決まっただけでもありがたいほうよ」
彩花はそう言って見せた。だがもう集まりを始めてから一時間近く経過していたのだ。
長時間話しをしていただけあってか、信を含め異論を唱える人はいなかった。
「そうだな〜じゃ今日はそろそろ終わりにするか」
信がそう告げると周りの皆も納得している様子を見せる。
「じゃあ稲穂さん。次の集まる予定とかも最後にきめちゃいましょう」
このまま解散しては次に集まるのは新学期・・・そんな気がしたみなもは提案をした。
その一言ですぐにちょうど一週間後と決まり、無事解散した。
出だしの滑り出しは順調だった・・・。

消せない記憶

トゥルル・・・トゥルル・・・
信の家に電話が鳴り響いていた。すかさず音源へ足を運ぶ・
「ハイ・・・稲穂ですけど・・・なんだ智也か」
「信。明日暇か?遊園地でも行こうと思うのだが」
信は遊園地という言葉に反応していた。
「おいまさか男同士で行くとかいうオチじゃねえだろうな〜」
「オマエはそういうことばっかしか頭にねえのか?
 たくよく聞け。今のところな、俺・みなもちゃん・彩花・唯笑だ。詩音さんは用事で無理だそうだ。
 で、最後にオマエを誘ったわけだ。こういうのは多いほうがいい」
信はメンバーを聞いて声が裏返っていた。
「行く。智也だけにいい思いしてられねえからな。絶対行ってやる」
「変な声だすな馬鹿。じゃあ伝えておく。じゃあな」
そういい智也の声は途切れ電話の電子音が鳴っていた。
「ふぅ〜そういやああれ以来だな・・・智也たちとどこか行くの」
遊園地という言葉であの事件を思い出していた。
あの日を境に起きた出来事・・・信の思惑。計画。
全ては智也に対する償いだった。
「これで三角関係か、智也のやつ・・・でも全部俺が・・・」
そんなことを嘆いている自分の言葉にふと何かを思い出していた。
「私は智也も稲穂君も恨んでいないよ。あれは不幸の事故だったの。ただそれだけ。
 事故を目の当たりにして動けなかった事実を責めることはできないもん。
 そうでしょ?信くん。それに智也が傘頼んだから私がひかれたわけでもないもの。
 事件はどうあれ私はここにいる。
 それに信くんは昨日智也たちを助けたじゃない?だから罪とか償いとかそんな物はないわ
 だからみんな。今を生きよう?ね?」
彩花は信に罪はないと言った。心からそう言っていた。だが本人は納得しきれていなかった。
あの時あの場には自分しかいなかった。助けられる人間は自分だけ・・・。
それなにに三年もの年月を彩花から奪ったことへ未だ未練があった。
「これも運命なのか?」
信はそう口に出していた。智也そして唯笑に会ったことそして彩花との出会い。
そして次にいく遊園地も・・・。
信はその日頭の中がゴチャゴチャだった。自分の罪の意識と明日の予定が重なって。
しかし、罪から逃げるように眠りへと誘われていた・・・。

八月六日

「やっほ〜!!」
信は自分が最後だったことに気づきなるべく明るいそぶりで搭乗した。
「信。オマエが最後だぞ。ちっとぁ気を配れ」
自分が遅れてないと自慢げに智也は信につっかかっていた。
「智也さん稲穂さん。喧嘩は駄目ですよ〜」
また始まりそうだった二人のやりとりにみなもが終止符をうつ。
「ほら!じゃあ智也も信君も。行くよ!?」
彩花が満面の喜びを浮かべて駅へと向かっていた。
「桧月さん・・・」
信は彩花のそんな様子に動揺している自分に気づいた。
「どうしたんですか?ほら私達もいかないと置いていかれちゃいます」
信がそんなことを思っていると、心配そうにみなもが声をかける。
「あ〜ゴメンゴメン今行くよ」
信は慌ててその後を追った。そして気づけば遊園地の前だった。
ここは澄空郊外に位置するレジャー施設で前回信が二人を誘った場所でもある。
「あ・・・・」
彩花は思わず声をあげていた。誰もわからないような小さな。
信は判っていた。前回の智也のあの静寂・・・。
きっと彩花と智也二人の思い出の場所なんだろう、と。
「みんな〜いくよ?唯笑先行っちゃうよ?」
唯笑は立ち尽くすみなを置いて先へと行こうとしていた。
「ああ〜待ってよ唯笑ちゃん〜」
みなもも後を追う。それを見た信達もすかさず走っていた。
「お〜い最初なに乗る?」
信は始めに乗るアトラクションをみなに聞いた。
「始めはゆっくりしたもの乗ろうぜ。コーヒーカップあたりでも乗ろうぜ」
珍しく乗り気な智也の提案に、一同はうなずいた。
だがこの智也の一言が地獄を招き寄せていた。
人も並んでいなかったので各自コーヒーカップへと乗り込む。
「ほへ?・・・超壮絶大回転コーヒーカップα??」
唯笑疑問はだれもが同じだった・たかがコーヒーカップと鷹をくくっていたのだ。
しかし・・・。
「きゃぁあああああぁあ」
「うおおおおおおお」
超壮絶大回転・・・そのなのとおり激しい速度で回転するもはやコーヒーカップとは呼べない代物だった・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
信は呼吸を整えていた。
「だ・・・大丈夫?信君?」
彩花は信を案じるものの、自分も相当参っていた。
「大丈夫?みなもちゃん」
智也が身体の弱いみなもを気遣って声をかける。
「平気です。最近は調子もいいですし、バッチリです」
みなもは胸の前でVサインを突き出して大丈夫、と言い張っていた。
「よぉーしじゃあ次はこれ!」
ただ一人、唯笑は元気にピンピンしている。
だが遊園地に来てまで乗らないわけには行かないのでみなも唯笑に続いた。
しかし、唯笑の選択した乗り物はすさまじいものであった。
アトラクション前の看板には「超急降下ハイパーG」と書かれていた。
だが、並んでまで逃げるわけにも行かずあきらめたと言った感じで各自乗り込んでいた。
信は、あまりにもすさまじい乗り物を前に考えなど吹き飛んでいた。
「ずいぶん上がるんだね」
彩花が中間まで上ったあたりでそう言う。
「ど、どこまで上がるの!?」
信は恐怖心を隠せ切れなかった。
隣のみなもは高所恐怖症なのか、言葉を失っていた。
「ダイジョブ?みなもちゃ・・・」
智也がみなもを心配していると、ふと動きが止まった。
と思えば一瞬重力を感じなかった。
「!!!!!!!」
誰もが声すら出せない恐怖感に襲われていた。異常な速度で降下を始めていたのだ。
・・・誰もが蒼白な顔をして地面へと降り立った。
たった一人を除いては。
「さぁ〜次は?」
唯笑はかなりはりきっていた、
「おい唯笑。みなもちゃんなんか身体が少し弱いんだから考えて乗れよ」
だがその智也の声に彩花は不満な表情を見せたのを信は見逃さなかった。
しかしその表情もすぐにいつもの明るいものへと変わっていた。
「よっしじゃあ〜次に乗ろうね!」
そう言ってアトラクションを次々とクリアしていった。
唯笑を先頭にしてみなが先導されるように・・・。

「あの・・・少し、休憩にしませんか?」
ハイテンションで飛ばしていたみなに、みなもは遠慮がちに提案する。
だがもう時刻は昼間でお昼時であった。
「え〜唯笑もっと乗りたいよぉ」
唯笑はまだまだいけるぞ!という表情を見せながらそう言った・
「唯笑ちゃん、そろそろご飯にしようよ。別に帰るんじゃないんだし?」
彩花は唯笑を説得にかかった。
だがアトラクションでみんなが疲れていることを感じ取った唯笑はしかたなく了承していた。
「じゃ〜あっち。あそこで食べよう!」
信がテーブルとイスを指差すとみな駆け足でそこまで進んでいた。
こんな様子に信は昨日の迷いも吹き飛びそうだった。
「今日はね〜私とみなもちゃんでお弁当を作ってきました〜」
そう言って彩花は弁当箱を取り出していた。
「あぁ〜作るなら唯笑にも手伝わせてくれればよかったのに」
唯笑はいいなぁ〜とばかりな表情で二人を見ていた。
「唯笑の作ったものなんて喰えるもんじゃねえな。きっとよ」
智也は面白半分で唯笑をからかっていた。
「あ〜智也!唯笑ちゃんに何てこと言うんだ」
他愛のない会話もいいなぁ・・・信はそう感じながらそう言った。
「サンドイッチ作ってきたんです。はいこれ」
そう言ってみなもは一人一箱ずつ配っていた。
「うん。これうまいよ。おいしい!」
信は手を使って表現しながらそのおいしさを語っていた。
信のひとことでみながそれに手を伸ばす。
「ずっ、ずるいよ〜私のも食べてよね!」
みんながみなものものばかりに手をつけているので彩花は少し怒りながら
みんなに弁当箱を渡す。
「桧月さんのもうまいよ!最高だ!」
信はまたも大げさにほめていた。
「オマエその手振りやめろよ」
その場には大きな笑いがこみ上げていた。これも信の力だ、と彩花は感じていた。
ワイワイやっているうちに、弁当はみななくなっていた。
「じゃあいこ〜」
唯笑はまた皆を先導していた・・・・。
午後もまた乗り物をかたっぱそから制覇していった。その勢いは誰に求められないほどに
そして空が少し赤みをさしてきた頃に・・・
「信君大丈夫?」
彩花はかなり苦しそうな顔を見せる信にそう質問した
「うーーなんかハラが・・・ちょっとトイレ」
信は先にのった回転系で身体を壊したのかそう皆に告げる。
「じゃあ〜唯笑たち観覧車乗ってるね!待っててよ!?」
「まあ一周するころには元気になんだろ。」
智也と唯笑がそう言う。
「・・・判った。じゃあ」
信は快く了解すると、駆け込んでいった。
だが後に信は自分の過ちに気づくのだった。

「ふぅ・・・・なんとか」
信は気分が悪いのも治りすっかり元気を取り戻していた。
「えーーっとみんなは観覧車・・・???」
信は観覧車である事実に気づいた。
「智也の野郎・・・俺がいないところでいい思いしやがって・・・くぅ〜〜ずるいよな」
智也だけが女性陣とのれていることに激しく苛立ちを募らせながら信はその場へ向かった。
「あ。信くん元気になったんだねぇ〜?」
予想通り智也は三人と一緒に乗っていた。そんな智也を恨みながらも、
「ああ大丈夫、だいぶ元気だよ」
とへいぜんを装い答えていた。
「それじゃあ最後にお土産買っていきましょう」
みなもがそう言うと午前とはだいぶ弱った足取りで土産売り場へ赴いていた。
そして夕日も沈みかけた頃。
「はぁ〜〜〜〜今日も遊んだな〜〜」
結局土産を買った後も物足りない唯笑がアトラクションを提案していた。
午前から全開だったのか、唯笑も含めだいぶ疲れた表情を見せていた。
「ウン♪じゃそろそろ帰ろうか!」
信は彩花の不満げな顔を思い出しながらも、そんな彼女にすごいと感じていた。
「おい、どうした信?」
智也の呼びかけに信はふと我に帰る。
「いやぁ〜今日は楽しかったな!って思っただけだよ」
信はばれないように取り繕いながら、そう智也に言っていた。
帰り道もにぎやかに歩きながらに電車へと歩んでいた。
あたりもすっかり日が落ちて夜になっていた。
「もう夜だ・・・」
信は何故かしみじみとそう口にしていた。
だが疲れている皆は、すでに話にのる気力があまりなかった。
「あ、じゃあ私次で」
みなもは次の駅で降りる、とみんなに知らせた。
「夜女の子の一人出歩きは危ないよ?俺が送っていくよ」
信はみなもにそう言った。本当はみなもに智也たちのことを聞きたかったのだが。
「いいんですか・・・でも」
「いいの。定期もあるし、お弁当ご馳走してもらったし。じゃあ俺も次で降りるわ」
「信君が一緒なら安心だね〜よかったねみなもちゃん」
彩花も正直一人で帰るのは危ないと思っていただけに、内心ほっとしていた。
話をしていると、電車は停止していた。
「それじゃあみなさんさようならぁ〜」
みなもはみんなに手を振っていた。
負けじと信も大きく手を振った。
「じゃあね〜」
智也たちはそう別れを告げるとドアは閉まっていた。
電車をしっかりと見送ると信とみなもは歩き出していた。
信は確かめずにいられないことをみなもに聞いた。
「みなもちゃん、智也のことさあどう思ってるの?」
あまりに唐突な質問にみなもは足をとめていた。
「え?わたし・・・ですか?」
信は、みなもが落ち着いて答えを言うのを待っていた。
「それは智也さんのことを素敵な方だと思っていますし好きです。
 でもでも。稲穂さんも唯笑ちゃんも彩花ちゃんもみんな好きですよ」
「やっぱりなあ〜唯笑ちゃんも桧月さんも智也のこと好きなんだよな〜どうして智也だけ」
信は思わず嘆きの言葉を口にする・
「なんででしょう・・・でも稲穂さんのこと嫌いなわけじゃないです。なんていえばいいのかな・・・友達。ですよ」
信は、みなもに言わせたことを少し後悔していた。それと同時に満足もしていた。
「ごめんごめん。無理に聞いちゃって。あ、家ここだよね?」
「そんなことないですよ。送ってくれてありがとうございます。それじゃあおやすみなさい」
みなもは送ってくれた信に対してきちんと礼を述べていた
「ははは。そんなすごいことしてないって。じゃあおやすみ〜」
信はみなもが家へ入るのを確認すると、自分の家へと向かっていた。
(だよな・・・あとは智也次第・・・か。
 だからあの時桧月さんはあんな顔をしたのか・・・。あの野郎ばっかり・・・)
信は智也を取り巻く環境を考えながら家へ帰り、そして布団へもぐっていた。




三章・出会いあとがき

彩花が生きてるだけでやっぱ雰囲気変わるな・・・
智也の虚言壁もあんまし書かなくて済むようにもなります。
彩花が生きてるって事はみなもの病気も近い将来治りますね。
にしても詩音と彩花同級生だった〜なんて自分でも意外だ(笑)
でもまだかおるが出てきていませんね。最後の最後は信はどうなるんだろう?
智也は?彩花は?唯笑は?そしてSECONDのキャラは?
まだ夏休みが終わらないことには始まりませんね。
夏休み編2は音羽かおるとの出会いです。
無論小説版メモオフをモチーフ(?)してるので似てるところ多し
すでに多し。でも小説だと信は遊園地行かないんだっけか。
それでは続きをお楽しみください!



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