メモリーズオフ・REVERSE
ゲバチエル

登場人物

稲穂信:
本編の主人公 智也の背中を押そうと試みるが・・・

三上智也:
信の親友。いまだ過去を振り切れず、彩花と唯笑を選べずにいる

今坂唯笑:
智也と彩花との幼馴染。彩花との再会で過去の傷は癒えつつある。

桧月彩花:
智也の元彼女。三年前の事故が災いしてその関係があいまいになっている。

伊吹みなも:
彩花の従姉妹にあたる。生まれつき体が弱くみんなに心配されがち。

双海詩音:
父の都合で日本に帰ってきた。今ではすっかり心を開き打ち解け始めている。

音羽かおる:
合宿で出会った少女。運命的に信たちと同じクラスになる。

霧島小夜美:
夏休み中、信とはバイトで出会う。購買のおばちゃんが倒れたため臨時で入っている。

「決意と白い傘編」
第四章〜決意〜

・九月一日
ドンドン・・・ドンドン・・・
「彩花か・・・・?うっせえな。三年前とかわんねーじゃねえか」
「もー!!高校生になってもアンタはそうなの?まったく」
「不法侵入じゃないのか?」
「いいのいいの。起きない時は乗り込んで起こしていいって智也のお母さんに言われてるから」
三年前まではあたりまえのようにあったことだが、三年のブランクをへてさらに凶悪化していた。
「しょうがねえな。起きてやるよ」
「おはよう智也」
「・・・・」
「何よ?」
「着替えたいんだけど・・」
「キャ!やだみたくない!早く済ましてよね!」
・・・・・・・・・・・・・
「てわけだ。彩花にも困ったもんだ」
智也は新学期早々の朝を信に語っていた。
「いいなぁ〜〜お前はわかってない!隣に女性がおこしてくれるなんて素晴らしいじゃないか!
 大体お前もともと付き合ってたんだろ?おかしくなんかないじゃねえか」
「でも・・・今は・・・」
智也が、唯笑と彩花の二人の気持ちをしってこそ決断できないのは信も知っていた。
「悪かったよ。あ転入生紹介だぞw俺らの知り合いだけだけどさ(笑)」
信がそう言うと担任の伊東は転入生紹介を進行させていた。
「うちのクラスはとりわけ人数が少ないから、転入生三人がうちのクラスに来ることになった。
 聞いて驚け男子諸君。三人とも女子だぞ!」
伊東のその言葉に男子は教卓へまだかまだかと眼を向けていた。
「じゃあ適当に・・・双海・音羽・桧月の順番で頼む」
そして自己紹介は始まっていた・・・。

銀髪の美しい長い女性がゆっくりと教室へ入ってくる。そして礼儀正しく礼をしていた。
「えーー双海詩音です。好きなことは本を読むこと、書くことなど本に関係することです。」
詩音が前に立つと男子生徒はその美しさにみとれていた。だが当の詩音はそんなのもお構いなしに会話を続けていた
「おい智也。双海さん夏休みでずいぶん変わったな?」
男子のそういう視線に以前なら怒りを表しそうであった詩音だったが、
今はその視線を気にすることもなく会話をしていた。そんな様子を信はすごいと感じていた。
「んなもん、友達ができたら変わるもんだろう?」
智也はさぞ当たり前のように信にそう返していた。
二人がのんきに会話を交わしていると、紹介は終盤に差し掛かっていた
「みなさんこれからよろしくお願いいたします。」
「ヨロシク!!」
男子生徒だけならず、女子生徒も大きな声を張り上げて詩音に挨拶をしていた。
「お前ら少しは静かにしろー!ああーーじゃあ次、音羽」
そう言われてショートカットの女性はシャカシャカと教室へ入ってきていた
「音羽かおるです。えっと趣味は映画鑑賞とか映画に関わるものです!」
かおるが前に立ち喋りだすと、今度は女子生徒のほうが彼女を見ていた。
おそらく楽しそう、付き合いやすそう、な感じがしたからであろうか。
途中、何度か信とかおるは目が合っていた。だが、信はかおるの眼を見ると素直に真っ直ぐ見ていられなかった
「馬鹿、なにやってんだ?信」
智也が前を見据えたり机に伏せたりと目の動きが忙しい信に率直に尋ねていた
「あーーアハハハ」
信はワラって誤魔化すばかりで、智也には何も言わなかった。
誰も女性の目を見てドキッとしただなんて智也にはいったらどうなるかわかっらなかったからだ。
「わかんない事も多いかとおもいますが、これから一緒にお願いします!」
「お願いします!」
智也の信への疑問もよそにかおるの自己紹介はいつもなにやら終結していた。
「まったくお前らはこーいうときばっかり大声だな・・・。まあいい最後桧月」
だが最後の女性が教室へ入ると教室の空気が重くなったように感じられた。
「桧月彩花です。」
彩花が名前をいった途端にクラスの女子が大声を上げた
「彩ちゃん!?彩ちゃんなの!?本当に彩ちゃんなの!?」
その女子、神坂舞(みさかまい)の一声で教室は一瞬にして沈黙の場になった。
「そんな・・・そんなはずないよ!藍が丘第二中学校の人ならみんな知ってるよ・・!?
 三年前の雨の日に交通事故に逢ったって!なのに・・・なのに・・・どうして!?」
舞の机にはポタポタと雫が永続的に落ちていた。
「哀しかった!!つらかった!!いきなり親友をなくしてつらかった!!」
「神坂!」
智也は舞の肩をつかんで制していた。だが舞の言葉は止まらなかった
「やめてよ!三上君!あなたになにが判るって言うのよ!!」
だが舞はこの言葉を言ってはいけないものだと言ってしまってから気づいていた。
なぜなら舞を制している智也の眼もまた潤んでいたからである。
「ゴメン・・・ゴメン・・・彩ちゃん・・・三上君・・・。」
「・・・大丈夫だよ、舞。」
彩花は三年の年月を重くかみ締めながら舞にそう言った。自分に言い聞かせるように。
「三年前・・・私は確かに交通事故に逢いました。確かに私はその時死んでたのかもしれない」
彩花は自分の事を正直に喋り始めていた。
「正確に言えば仮死状態。いつ生き返ってもおかしくはない状態・・・。
 私は三年間そのままだったの。・・・それで三年経った今私はここに居ます・・」
2―5は半数以上が愛が丘第2中学のために、彩花の存在を見て泣き出すものが多く居た。
「・・・三年間時は止まってたけど、これから一緒にお願いします!!」
彩花が精一杯の力を込めてそう言った。涙声に変わりそうなギリギリの。
「おかえり!!」
「おかえりなさい!」
「また、遊べるね!」
「過去の話なんていいって、これからよろしくね!」
「桧月さんは桧月さんよ、これからよろしく!」
彩花の自己紹介が終わると、旧友や初めての人も、彩花に対してあたたかく迎えていた。
「・・・これで全員だな・・・。あーーえーーと席か・・。
 桧月は三上の隣、双海は稲穂の隣 音羽は・・・三上の右。・・じゃあ休み時間」
伊東も目に涙を浮かばせながら、教室から外へ出て行った・・・。
その休み時間は、教卓の前で転入生三人を囲むように人だかりができていた。
「ねえねえ、三人は友達同士?」
「三年間の間どうしてたの?」
「どんな映画が好きなの〜?」
「本ってどんな本を読むの?あ綺麗な髪だね」
三人は質問攻めを受けていた。回避するのが不可能なほどに
ガラガラ
「お前ら!席につけ。」
伊東が戻ってくると生徒は即座に席についていた
「あーー実際今日はプリント配って終わりだ・・・。授業は明日から。
 じゃあーー稲穂、号令かけろ」
「きおつけーー!れい!」
「さようなら!」
信の号令で教室内の人はまばらにそれぞれの目的に散っていった・・・。
「智也!」
「なんだよ信」
突然大きな声を張り上げた信に智也は不審そうな目で見ていた
「なにじゃねえっての。桧月さんとかと帰らないのか?」
「ああ今日は転入初日で忙しいんだと。だから俺は一足先に帰るわ」
「あ、あ・・ああ。お前がそれでいいならいいけどよ。じゃあな」
信は智也に不安を覚えながらも親友の背中を見送っていた。
「ん?お前まさかこのまま帰ろうってわけじゃないだろうな?」
信の背後に伊東がいつのまにか立っていてそう告げていた 
「はい?いま帰るところですけど?」
信はわけがわからず不思議そうな顔で伊東を見た
「おいおい。お前実行委員だろうが!今から実行委員集合!」
「やれやれ・・・」
信はこんな仕事引き受けなきゃ良かったよ、とため息を大きく吐いていた・・・。
・九月二日
その翌日。九月になったということで後期の委員会を先行しているところであった。
「それじゃあ委員を決めたいと思う。それぞれ男女関係なしに一人ずつだ」
伊東が委員会の説明をこれまでかというほどにしている。その説明に耳を傾けるものはほとんど居ない
「じゃーーまずは学級委員から」
委員会を決めるのはなかなか時間がかかっていたが、それでも着実に進んでいた。
「次は図書委員」
伊東が図書委員といい終わるか終わらないかで一人真っ直ぐに手を上げるものがいた
「私が図書委員会に立候補します」
詩音は堂々とした風格で立候補をしていた。
「他に?立候補者はいるか〜?」
だがその風格に威圧されたのか、図書委員は詩音で文句なしと誰もの顔がそう言っていた。
「じゃあ図書委員は双海で決まりだ。」
・・・・そしてやっと長い長い委員会決めは終わりまた一日の終わりは近づいていた。
「あーー明日から授業だ。めんどくせーな」
信は一人言のようにさりげなく大きくそう言った。
「稲穂君?二学期早々そう言うこと言わないの。二学期は一番長いのよ?」
かおるが早くもだらけている信に釘を刺していた。
「二学期は長いとか言わないでくれよ・・・余計気が―」
ふと出口に目をやると今日もまた一人で帰ろうとしている智也の姿が見えていた。
「気が何?」
かおるは途切れた信の言葉を気にとめていた。
「え?あーー余計気が滅入るって事!じゃあーまた明日!」
信はそう言って教室を後にした。実行委員会もなく今日はそのまま帰るつもりだったが。
「あ。稲穂さん」
不意に詩音に呼びかけられて信は少し戸惑ってしまう。
「あ、早速図書委員?整理大変だね」
信は詩音が持っている10冊にのぼりそうな本を見て感心していた。
「え?いえこちらは私が今日中に呼んでしまいます。図書室で借りた本です」
「全部で2000ページは楽に越えそうな本の山を読む・・・」
「一冊20分もかからずに読み終わりますから」
信は詩音の常識とかけはなれた読書量にただただ感心するだけだった。
「じゃあ読書頑張ってね!!それじゃあ!」
信は圧倒されてその場にとどまる事に抵抗を感じていた。その一心でその場を立ち去っていた。
そのままの勢いで信は家へと帰っていた。そのままベッドへ腰をおろす。
「・・・智也の奴、どうするつもりなんだ・・・?このままじゃなんの進展もないぞ・・」
彩花と唯笑から何処か遠ざかろうとする智也を見て不安を隠せずにいた。
そしてこのままでは自分が智也から本当の笑顔を奪った悪魔になるんじゃないかと。
「・・これは!?」
自分の机の前にかけられていた綺麗な真っ白な傘。忘れもしないあのときの傘。
「この傘が止まない雨を防ぐのか・・・あるいは」
信は考えを張り巡らせながらその日は眠りについていた。
・九月三日
「二年五組の文化祭での出し物は喫茶店になりました!!」
信は文化祭のクラスでの内容を隅から隅まで話していた。
この計画に否定意見があるものはなく、質問だけで済んでいた。
早くも成功の兆しを見せている企画で信達は大喜びであった。
文化祭の企画を説明し終わるころに丁度授業終了の鐘が鳴り響く。
丁度ほとんどの生徒が昼を買いに行く時間で廊下からは激しい足音が聞こえていた。
「お、おい智也!!急ぐぞ!!購買売り切れちまう!!」
「判ってるって!!よし行くぞ」
人の波をかき分けて二人が購買へたどり着くと、そこにいたのはいつものおばちゃん・・・ではなかった
「いらっしゃいませーー!あら??」
「あーーーーーあなたはあの時の!!」
信は購買にいる女性を見て何かを思い出すように声を上げる。
「貴方はあの時俺に、遊園地のチケットとかいって新聞を売りに来た人ですね!?」
周りの男子生徒は目の前の綺麗な女性の知り合いである信をじっと見ていた。
「そうよ。ちょっとうちの母さんが倒れちゃって臨時でここで働くことになったのよ〜」
女性がそう言うと生徒はみな猫だましを喰らったような表情に変わっていた。
「嘘だろ?お姉さん・・・おばちゃんの娘なのか!?」
智也はあのおばちゃんからこんなに綺麗な人が生まれるのだろうか!?と疑いの目で見ていた。
「あら?私の名前は霧島小夜美。母の名前は霧島淑子。これなら納得でしょ?」
購買の前に立っていた生徒はようやく納得、という表情を見せていた。
「小夜美さん!!いつものくれってば!」
智也はいつもおばちゃんに取り置きしてもらってる、カレーパンとアンパンの組み合わせを注文した。
「ああ、君が三上君ね?母から聞いてるわよ〜?条件付で取り置きしてもらってる人が居るって」
智也はさすがにそこまで聞かれてるとは思っていなかったので、内面少しガッカリしていた。
「放課後手伝いに着てよね?はいじゃあこれ」
小夜美は引き換え条件にパンを差し出していた。
「わかった。じゃあ放課後・・・」
そういって智也は料金を出し、その場を後にしようとする。
「小夜美さん?お金たんないぞ。100円釣りが少ない」
智也は数少ないお金でやりくりしているだけあってかそれにはすぐ気づいていた
「あら?ゴメンなさいね。はい100円。じゃああとで手伝ってね!」
小夜美がそう言うと智也は信とともにその場を立ち去っていった。
・・・・・・・
「来週もう文化祭だろ?だから今日また集まろうぜ。みなもちゃんには伝えてあるから平気だ。」
「了解した」
智也は早速手伝いをさぼる口実が作れてラッキーとばかりに思っていた。
「あ!・・・智也は先に教室行っててくれ。」
信は唯笑と二人で話したいことがあったのでそう言っていた。
「唯笑ちゃん、ちょっといい?」
「何々?唯笑にどんな用?」
唯笑は自分にどんなことを聞かれるのか期待でいっぱいだった。
「今日放課後、教室で喫茶店の集まりがあるんだ、それで唯笑ちゃんには演劇部に行って
 喫茶店で使えそうな衣装を何個か借りてきて欲しいんだけど、いいかな?」
「もっちろんだよ〜信くん!」
唯笑はそう言って早速演劇部へ行こうとしていたが、信はそれを引き止めた。
「・・・唯笑ちゃん!!それと・・・・智也の事なんだけど」
信は智也のほうから関わろうとしない、彩花や唯笑の気持ちを正直に知っておきたかった。
「・・・唯笑ちゃんはこのままでいいの・・・?」
信の唐突な質問に唯笑は感情を激しく揺らして答えた。
「良くないよ。このままじゃ―」
だが無情にも予鈴が鳴り響いてしまい、会話はそこで途切れてしまった。
信はその後各メンバーに声をかけて、集合できるようにしていた。
そして放課後を告げる鐘が鳴り響き、二年五組は会議室へ変貌していた。
「喫茶店やるなら、衣装が必要。制服じゃダサイ。だから今日は衣装を決めます。
 唯笑ちゃんが衣装を持ってくるはずだけど・・・。」
「ごっめーーん。ちょっと衣装借りてくるのに時間かかっちゃった。」
そう言って唯笑は衣装を並べるように見せていた。
「うーーんこの中じゃこれが一番まともかな?」
みなもはそう言ってメイド服を指差していた。
「えーーーっ!唯笑はこれがいい」
唯笑は猫耳に猫の手といった典型的な服装を指差した。
「唯笑ちゃん!?それじゃあ配ったり出来ないでしょ!!」
かおるは実用性がない、と即否定した。
「やはり、動きやすさや見栄えなどから考えてこれでしょうか?」
詩音もみなもと同じ、メイド服というよりレストランなどで使われている作業着を指差す。
「男はスーツに蝶ネクタイでどうかな?」
彩花は男の服装も格好いいほうがいいだろう、とそう提案した。
「そうだね。じゃあ服装はそれで決定!!」
ガララララ・・・
「三上君はここに居ますか?」
そう言って入ってきたのは、小夜美であった。
「三上君!何してんのよ!放課後の手伝いは〜?」
小夜美は来てくれると思っていただけあって待ちくたびれて探しに着ていたようであった。
「喫茶店の方が重要だし忘れたことにしておいた」
「何よそれ!!・・・あら?これって澄空祭でやる企画よね?」
「そうです。」
「実はあたしもここのOBなのよね〜。懐かしいなあ〜。あたしも手伝っていいかしら?」
そう言って小夜美は澄空祭に加わりたいと遠まわしに言っていた。
「OBの人が手伝ってくれると大助かりです。で、どんなことを手伝ってくれるんですか?」
彩花は素直に助けてくれることに感謝を感じていた。
「うちの購買のパンを出すのはどうかしら?」
「・・・喫茶店の全てが損なわれると思います」
詩音は即答していた。それは詩音が始めてみた購買のメニューには
『うにぱん バナ納豆パン ドリアンパン クサヤパン めろんパン』
という異色な物が残っていたからだ。めろんパンを詩音は頼んだのだが、
キュウリに蜂蜜と塩をかけたという、噂のネタを商品にしていたものだった・・・。
それを身をもって経験していた詩音は購買のパンを否定していたのだ。
「双海さん。それは言いすぎじゃあ・・・」
かおるがフォローにまわるより早く、小夜美は答えていた。
「うにパン・・・バナ納豆パン・・・ドリアンパン・・・確かに変なパンはあるわ。
 でもまともに美味しいパンだってあるのよ!!ねえ三上君?」
突然話題を振られて少し困っていたが、購買のパンを語り始めた。
「アンパンやカレーパン、クロワッサン、ハムメンチとか妙な組み合わせじゃないのは旨いと思います」
智也の説明に小夜美は満足そうな表情を見せていた。
「ほら、購買のパンをおいしいって言う人もいるじゃない。」
「・・・判りました。ただし変なパンは持ち込まないでください」
小夜美と詩音の間で戦いが起こりそうなムードであった。
「判ったわ!来週の土日までにはまともにおいしいパンを作り上げてくるわ!」
そう言って小夜美はその場を後にした。
「・・・ほえ?」
唯笑が状況を飲み込めずに首を傾げていると、かおるがため息を一つついて口を開く。
「ま、まぁ手伝ってくれるって事だよ。じゃあもう時間だし・・そろそろかえろっか」
「そうだね。じゃあもう文化祭まで日付は少ないけどさ、頑張ろう!」
「オーー!!」
気力と気合に満ちている声が教室にこだましていた。
「・・・じゃあ・・・俺帰るから。じゃあな」
どこか暗い智也だったが、そのまま教室から姿を消していた。
「三上クンどうしたんだろ?最近変じゃない?」
かおるの一言で智也の事をみなで話し合うこととなっていた。
「あいつ・・・最近誰とも帰ろうとしないんだよ。俺が誘っても駄目だし」
信は彩花と唯笑の方にその言葉を向けて、解き放っていた。
「・・・最近私が話してもどこか上の空なんだ。智也が智也じゃないみたい」
「智ちゃん最近何処か冷たいの。一人でどこか居たいみたいで。」
彩花と唯笑に冷たい・・・信はやっぱりな、と思っていた。
「三上さん、最近一人で居ることが目立ちます。私が声をかけても、一人にさせてくれって言うことが多いです」
詩音の発言で、信は人から逃げてる・・・と考えていた。
「なるほど。そういう事か・・・。あとは俺に任せとけって」
信は智也の原因がなんとなくだが判っていた。それは恐らく彩花と唯笑も判ってるだろうが・・・。
「稲穂さん、もう原因判ったのですか?」
みなもは信があまりにも理解が早かったために思わず聞いてしまっていた。
「ああ、だから心配ないって。じゃあ今日はこれで解散だ!!」
信はそう言って、立ち上がった。
「じゃあ、稲穂クン。三上クンのこと、任せたわよ!」
「文化祭までには立ち直らせてやるからな・・・」
そう言って、智也を元気付ける作戦が始まったのであった・・・。
・・・・・その夜
「この白い傘・・・やっぱり智也が桧月さんに渡すべきだよな。
 あいつも今必死に悩んでるんだ。選ぶべきもの・・・傷つくこと・・・・
 ・・・智也は桧月さんをきっと選びたいんだと思う。じゃなかったら三年前に桧月さんは選ばなかった。
 ・・・俺が道しるべに・・・これで俺の罪もきっと消えるはずだ・・・」
そうして夜は更けていく。

〜動きだす時〜
・九月五日
そして二日後の金曜日。信は智也を自宅へ誘った。「このままでいいのか?」と。
「・・・智也。最近唯笑ちゃんや桧月さんにえらく冷たいな?」
信は静かに切り出した。
「・・・・・・二人を選ぶなんてできないだろう・・・?」
智也は下を向いたままゆっくりとそう言った。
「この傘。見覚えがあるだろう?お前ならあるはずだ」
「この傘は・・・!!あの時の??」
二人は傘を見据えた。あの時を思い出しながら。
「智也はあの時何を思った?何を願った?俺にはそれは判らない。答えはもう持ってるはずだ」
信はあくまで智也自身で答えを出すために自分からは直接言わなかった。
「二人を避けることで、一番傷つくのは智也だろ?二人の悲しい顔をいつまでも見たいか?」
智也の手は強く握られ、何かを強く考えているようだった。
「・・・あの白い傘は持ち主を待っている。あの傘だけが三年前のあの止まない雨から守ってくれるんだ。」
だが智也は答えをまだ見つけられずに踏みとどまっていた。
「彩花だけを選べっていうのか!?唯笑を一人にしろって俺に言うのか!?」
信もそう言われると胸が痛かった。だがこうなった以上後には引けなかった。
「っ・・違う。桧月さんも唯笑ちゃんも、一番に願うのは大切な人の幸せなんだ。
 唯笑ちゃんは桧月さんの事が嫌いか?桧月さんは唯笑ちゃんを嫌いか?
 ・・・違うだろ?今できることは二人にお前の答えを教えること。それしかできない」
信は静かに智也が答えを見つけるのを待っていた。
「・・・三年前。俺と彩花は一緒に遊園地へいったんだ。二人で。」 
すると静かに智也は三年前の事を話し始めた。
「後になって判ったんだが、唯笑がチケットをくれたらしい。
 それで、帰りに彩花が先に帰って・・・もう帰ってこない気がして必死に探した。
 澄空公園でやっと見つけて、お互いに自分の気持ちを確かめたんだ・・・。
 だけど唯笑はこんな俺たちの様子を嫉妬に近い目で見てた。
 だから今回はもう誰も俺と関わらなきゃと思ってた。でもそれは間違いだったんだ・・・。」
智也は自分が二人にしていたことに気づいていたように見えた。表情が少し前向きになっていたからだ・
「二人とも智也の口から思いを言ってくれる事を待っているはずだ。
 大切な人の、その一言を・・・・。そうすればきっとどんな結末でも受け止めてくれる」
信はそう行って智也に白い傘を差し出した。
「・・・この傘は持ち主を待っている。ほら、もってけよ。お前からこの傘を返すんだ」
智也は白い傘をそっと受け取って、信の眼をまっすぐに見た。そして
「・・・信。ありがとう。じゃあな」
智也の背中はいつもと同じ、優しさが見え隠れしていた。
だがその背中はこちらを振り返った。
「信も一緒に来い。」
智也は信が唯笑に好意を抱いていたことを知ってかしらずかそう言った。
しかし今の信は、恋愛感情は消えていてただ見守りたいという意思だけであった。
「俺に行く理由はないって」
智也がまだ完全に踏み込めてないことを理解した信はそう言った。そしてさらに加えていった。
「自分で言わなきゃ真の気持ちは伝わらないと思うぜ」
そう言って信は智也の背中を押すように言った。
「そうだな・・・最後までありがとな!」
そう言って智也は走り去っていった。
「これで俺のやるべきことは済んだ・・あとは智也を信じるだけ・・だな」
信は智也を信じて、そのまま家へと戻っていった。

智也は家につくなり彩花と唯笑を電話で呼び出していた。
澄空公園集合と指定して。もう日は沈みかけている19時だった。
だが智也のいつもとまったく違う様子を感じ取り二人は承諾してくれていた。
・・・そして智也も澄空公園へ走った。あの白い傘を包んで。
「智也・・?話って何?」
彩花は深刻そうな顔をする智也に自然に聞いていた。
「・・・二人とも、いままでゴメン・・・」
智也はそう言って彩花と唯笑に対して深々と頭を下げた。
「や、やめてよ智ちゃん・・・」
「いやこうさせてくれ・・・・俺は二人を避けるようにしてきたんだから」
智也は迷いを捨てて前向きに全てと向き合っていた。
「・・・智也。そんなにあらたまらないでよ・・・私達―」
「俺たちは今はただの幼馴染。三年前の六月三十日に全ては変わってしまった・・・。
 あの日以来俺は彩花の影ばかり追っていて唯笑の事なんて実際考えてなかったかもしれない。
 ・・・だが実際彩花が帰ってきてから・・・。俺は二人から逃げていた・・・。」
智也は信との会話で見つけ出した答えをゆっくりと言葉に代えていった・
二人は智也に意見することなく静かに智也の次の言葉を待っていた。
「・・・俺は二人とも好きだ・・・・・・。だから選ぶとかっていうのは間違ってるかもしれない。
 だけどはっきりさせたいんだ。俺の気持ちと、彩花と唯笑の気持ちを」
だが智也がそう言うと彩花と唯笑は睨み合いを始めていた。
「唯笑はいくら彩ちゃんだって智ちゃんを取られたくないもん!!ずるいよ三年前だって唯笑をほっぽって
 智ちゃんを取っちゃうし!!唯笑の気持ちなんてわかってないんだ!」
「智也が私のそばから消えるなんて絶対に嫌よ!!!」
「そうやって唯笑からいっつも智ちゃんを盗るじゃない!!」
「私はただ大切な人と一緒に居たいだけなの!それも許されないの!?」
「そうやって唯笑の大切な人をとらないでーーーー!!」
「唯笑ちゃんは?三年間も智也と一緒に居て!どうせ私なんか忘れようと思ったんでしょ!!」
「思った!彩ちゃんさえいなければ私は智ちゃんと一緒になれるのにって思った!」
「なら!どうして!?どうして私と仲良くするの!?」
彩花のこの言葉に唯笑はその場に泣き崩れていた。
「ゴメン・・・ゴメンネ・・・・彩ちゃん・・・・唯笑・・・これで初めて彩ちゃんと真正面から
 喧嘩したね・・・。唯笑もちゃんと自分の思いをぶつけたかったんだ・・・」
彩花は唯笑の言ってることが痛いほど良く判った。
智也もそんな二人を見てか安心して答えを言うことが出来た。
「・・・彩花。・・・一緒にまた俺を支えてくれ・・・・またゼロからだけど・・・付き合おう」
三人の目には涙が伝っていた。それぞれ別の意味を持つ・・・。
「唯笑。これからも、ヨロシク・・・な。俺たちを見守ってくれ・・・」
唯笑は智也のこの言葉でくやし涙が嬉し涙へと変わっていた。
「彩花。お気に入りのこの白い傘。ほら返すよ。また、使ってくれ。
 ・・・・俺は彩花が好き・・・だ」
そう言って智也は彩花に白い傘をゆっくりと渡した。
その智也を彩花はゆっくりと、優しく暖かく抱きしめていた。
傍らで唯笑は妬みなどなく、素直に心からこの二人を祝福していた。
だが物語は終わりではなく始まったばかり・・・・。
運命は大きく回り始めているのだから・・・・。

「決意と白い傘編」終わり
五章へ続く



あとがき

好きな人を他の人に奪われるというのは感情が暴走するほど嫌なことなんです。
もうちょっと智也とくっつくのを遅らして欲しい人もいた、
というか急展開過ぎると思ったかもしれないけど・・・。でも今回は、
この彩花との運命の再開?みたいな感じなので、くっつくことだけは先にしておきたかった。
彩花ファンの人にうまい表現ができなくてごめんなさい!とこの場を借りて言わせて貰います。
・・・さて、いわゆる本当のプロローグも終わり、ゲーム本編の時間軸に流れ始めるわけですが。
智也は答えをだしましたが、そういえば密かに唯笑に思いを寄せていた信はどうするんだろう。
とそれらが次の章から書かれています。はっきりいって自分自身ここまで章ができて驚きです。
それでは第五章をお楽しみください!



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