メモリーズオフLostMemory
ゲバチエル

第二章〜追憶の彼方に〜

9/27(木)
『White Umbrella & Blue Rain』

目覚ましの音が鳴り響く。なんだろうなんか酷く嫌な夢を見た気がする。
けれど今日はどういうわけかそれを明確どころか断片ですら思いだすことは出来なかった。
しかし心の中にはしっかりと恐怖感が刻まれていた。なにか小さい時の記憶だろうか・・・?
子供が小さい時に見た嫌な事を記憶から封印するという話は聞いた事があるからだ。俺は、ただ悪夢を見ただけという認識しかしなかった。
俺がそんな封印するほどの物を抱えているわけなんてないからだ。俺は幼い時から唯笑と彩花の三人でいつも一緒に育ってきた。
だから何も心配する必要はない、俺は自分にそう言い聞かせた。何故だか最近の朝は気分が、悪い。
彩花が起こしてくれる事が今更ながらに懐かしいな、なんて俺は思った。きっと何年もそれがないせいで朝の感覚がおかしくなっているんだろう。
俺は制服に身を包み、特に急いだりもせずに家を出た。
「智ちゃんおっはよー」
「おはようございます」
今日は唯笑の奴もいるな。さすがにあれだけいわれれば徹夜しないか。
「おはよう」
俺は軽く挨拶を返す。当たり前になってるけど俺が最後に来るのが大体だ。
「もうすぐテストですね。智也さんは勉強してますか?」
そういえば唯笑をからかうばっかで俺の話してないっけ。いいだろう心を入れ替えた俺を教えてやろう。
「珍しく一週間以上前からやってるよ。なんていうか自主勉のが頭に入る」
珍しくって、みなもちゃんの前で何言ってるんだ。これじゃあ俺がいつも勉強してないって言ったようなもんじゃないか。
「ふふふ。テスト勉なんてやらなくても頭にはいればいいのに。でも自主勉のほうが頭に入るって事は智也さん実は得意なんじゃないですか?」
「違うよぉ〜」
みなもちゃんが褒めてくれるのにお前は何を言ってる。違わない!
「智ちゃんはね、そういって唯笑達を油断させようとしてるんだよー」
「おまえなぁ。俺がそんな人間だと思ったか。この間なんか、ととと一緒に勉強したんだぞ!」
まったく。もう少し俺を信用してくれってんだ。まあととが証人になってくれるしいいだろう。
「えー?ととちゃんと?ぶー唯笑も智ちゃんと一緒に勉強したいよー」
お前と勉強したら変な駄々に付き合わされて勉強じゃなくなりそうだ。ということは絶対に本人の前では言わない。
「俺のやりたいようにやらせてくれ。いやむしろ俺と一緒じゃ俺と同じ点数になるぞ?」
「えーやだよぉ。智ちゃんには負けないもん」
まぁ、唯笑と一緒に勉強したくないだけなんですけど。
「もー唯笑ちゃんもすぐにそうすねないの。あ、電車来たよ」
みなもちゃんが不機嫌そうにしている唯笑をなだめながら電車を確認する。
俺たちは学校までの間にテストの事を話した。テストに対する不安などを・・・。
きーんこーんかーんこ〜ん
四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いていた。次は昼休み!
この空腹を満たすためにも急がなくては!俺は購買へ全速力で駆け抜けた。
「あれ!?」
俺は思わず声をあげてしまった。
購買に小夜美さんの姿が無い。そのせいか人もほとんどいない。
臨時休業!?そんな俺の貴重な昼食を奪う事は許せん!しかしどうしたものか
「小夜美さーーーーーーーーーーーーーーん」
空腹のあまり俺はその名前を叫んでいた。何事かという目で見られたが腹減った。気にしている余裕は無い。
「そんな大声出さなくても聞こえているわよ」
声の先を見ると、走ってくる小夜美さんの姿が見えた。
「購買今日は休みかと思っちゃいましたよ」
「ごめんね・・・大学のレポート今日までで、どうしてもやらなくちゃならなくて・・・それで遅れちゃったのよ」
小夜美さんでもそういうことがあるのか。なんだか意外な一面を目にした気分で俺は思わず笑ってしまった。
「あー三上君失礼ね。そう笑わなくてもいいじゃない。」
って!笑ってる場合じゃない。なんか胃がくっつきそうな錯覚に陥ってきた。
「いつもの!」
俺はストレス交じりにいつものを求めた。もう限界です、早くしてください。
「はいは。逃げないからあわてないの。二百五十・・・」
言うより早く俺は丁度のお金を出し、パンを持って屋上へ走った。
「あー三上君!?だからそんなに慌てなくてもいいじゃないっ!」
小夜美さんには今の俺の気持ちが判らないだろう。この極限空腹状態が。
屋上で至福の時を得るためには一秒でもエネルギーを残さなくてはならない。
俺は今にも食べたい衝動を抑えながらに、屋上へ駆け抜け・・・そしてそのドアを・・・開いた!
ドアを開くと感じるあの屋上の開放感が身を包む。なんとも心地よい。
そして俺はいつもの定位置へ腰掛けると、それをかぶりついた。
美味い!あーなんていうか美味いの一言で片付けるのが陳腐なくらい素晴らしいぞ!
なんて思っているうちに俺はあっという間に平らげてしまった。
いつも持ってきているペットボトルのお茶を飲み干し、屋上でのんびりする。
「ふぅ・・・」
ん?これは俺のため息じゃない。なんか聞き覚えのある声だった気がするけど。
俺はあたりを見回してみる。と、そこには音羽さんの姿があった。
「音羽さんか。ため息なんてついてどうした?」
「あ・・・三上君」
いつもの音羽さんとは思えない表情。なんつーか浮かない顔だ。何か思い出してたみたいな・・・。
「もしかして転校する前の事でも思い出してた?音羽さん友達いっぱいいそうだからそれで寂しいなとか思ってたんじゃない?」
明るく聞いてみる。音羽さんに限らず浮かない顔とかされるのはなんか苦手だし。
「うん・・・まあね」
「にしても浮かない顔してるよ。もっと・・・元気だせよ。音羽さんが暗い表情だと似合わない」
もうちょっといい台詞はないもんか。こうありきたりな事しか言えない俺がちょっと悲しい。
「ほら、俺たちの相談も聞くけど自分も相談するからって言ったろ?良かったら話してくれよ」
うーん。双海さんに続き音羽さんまでなんかこう気になってる。なんでだろうか・・・・
「ううん。大丈夫だから。けど本当に・・・いろんなことがあったから」
そういう音羽さんの顔は酷く寂しかった。けどこう言われると逆に聞く気になんてなれない。
「そっか。まぁあれだ。あんま無理すんなよ」
「三上クン・・・ありがと。」
やっぱどこか浮かない顔・・・。音羽さんの事がどうもほっとけない。
俺は昼休み中屋上で音羽さんと他愛も無い会話をしていた。
向こうでの想い出とか。俺の高校生活とか。半分は想い出話になってたけど。
でも話していくうちに音羽さんもいつもの明るさを取り戻したみたいだった。
やっぱ明るいほうが音羽さんらしい。なんて俺は思いながらも話を続けた。
きーんこーんかーんこーん
気づけば五時間目の予鈴だ。大分話に夢中になっていたらしい。
「もう行かなきゃね。授業遅れるし」
サボってここで寝てたい気もするけど・・・音羽さんがいるから無理か。
「そうだな。よっと。行くか」
俺たちは屋上を後にして、授業へと向かった。授業ってめんどくさいな。
そのまま俺は結局は眠れずに放課後までのつまらない時間をすごしていた・・・
きーんこーんかーんこーん
「んっんーーーーーー」
ついに放課後到来だ。なんっつーか嬉しいぞ。
「また儀式?」
「智也・・・お前まだそのただの伸びを儀式と名づけていたのか!?」
音羽さんだけじゃなくてなんか信の奴までいるし。
「誰がなんと言おうと一生これは儀式だ!」
「言ってろ」
何故この伸びの開放感が判らない。皆さんまだまだですな。
「それより音羽さん。やっぱ図書室でいいだろ?」
「そうね、やっぱり帰ってからだとやる気下がっちゃうし」
ん?俺は今日の放課後は音羽さんと一緒に勉強するはずだったような・・・なんで信が。
「それじゃ図書室で勉強会よ。三上クン、稲穂クン、先行ってるね」
そういうことね。てっきり俺と二人だと思ってたのに。信も一緒だったのか。
「智也俺たちも行くぞ!」
言われなくたって。俺たちは荷物をまとめると図書室へ急いだ。
ガラガラガラ
うっ。開けてから反省した。勢いよくやりすぎた・・・
「ドアの開閉は静かにお願いします。」
やっぱり言われたか。双海さんに注意されてしまった。
「はっはっは。智也、怒られてやんの」
くそ。お前に馬鹿にされるとちょっと頭に来る。
「図書室では静かにお願いします・・・」
ナイス双海さん!そう言われた信もなんだがしょげてしまっていた。
確かに双海さんの一撃は破壊力がありすぎるからな・・・。
俺たちは音羽さんの姿を確認すると、その席へ向かった。勉強用具一式を並べて準備は万全だ!
はじめた教科は現国だ。自主勉ならばこの教科は任せろって感じだ。
ととと一緒に勉強したおかげで俺はかなりのレベルアップをしているからだ。
「雨・・・か」
不意に信がこんな事をつぶやいた。なんだ?なんか難しいのか?なんか浮かない顔してるし。
「ん?どうした信。まさかお前それ判らないんじゃねえのか!?」
「馬鹿。そんなわけあるか。ただ・・・」
「ただ・・・なんだよ?」
信の言葉の先が非常に気になった俺は聞かずにはいられなかった。どういうわけかかなり気になる。
「いやな・・・あの時の事想い出しちまって・・・」
あの時・・・?そういえばこの雨を用いた文章をやっていたとき、とともそんな事言ってたな。俺には関係ないとも。
「あの時?お前雨になにか因縁でもあるのかよ」
「智也・・・お前・・・。いやなんでもない、独り言だと思ってくれ」
何故俺に言えない?かなり気になる・・・。まぁ信の事だしそのうちはなしてくれるだろう。
「稲穂クン、なんでそんな妙に悲しげな顔をしてるのよ」
信が悲しげな顔・・!?俺の位置からはよく信の表情が見えなかった。しかしそんな顔をしているとは。
やはり信の奴、雨の日になにかあったな。もしかしたら・・・ととに聞いてみれば判るかもしれないな。
「何があったか知らないけど。勉強勉強〜」
音羽さんがそういうと信もどうやらいつもの信に戻ったようだ。
「ねえ、ここ判る?」
音羽さんが文章を指差して俺たちに見せる。そこには・・・
『突然傘を無くしてしまった。もう俺は雨を防ぐ事は出来ない。だったら雨を忘れてしまおう。大好きな雨も・・・なにもかも』
俺は無意識のうちに静かに読み上げてしまった。この物語残酷じゃないか?傘を差して歩いていこうって言ったのに彼女はいなくなるなんて。
とても高校の授業なんかに出して欲しくないんですが、バッドエンドものは。俺自身どうも嫌だ。理由は・・・何故だ?
「くっ・・・!そういうことかよ・・・。だから、だからか・・・っ!」
信がこの文章を見るなり、何かを理解したように声をあげる。図書室だというのも忘れてかなり大きい声だった。
だが、信の奴声が涙ぐんでる!?やっぱり雨の日には何かある・・・。こういうのが触れないほうがいいだろう。
「図書室では静かにしてもらえますか?・・・あっ・・・」
さすがに大声を上げてしまったためか、双海さんに注意されてしまった。
しかし信の様子を察したのか、申し訳なさそうな顔をこちらに見せている。
「すいません・・・。稲穂さん・・・でしたよね?事情がおありのようでしたので・・・」
「・・・いや、俺こそ悪いな。図書室だってのすっかり忘れてたよ」
信の理由も気になるけど・・・双海さんこの間より変わったか・・・?事情があって・・・なんて言い出しそうも無かったぞ。
「いえ・・・判っていただけたならいいのですが。事情があるのは判りましたから、極力静かにお願いします」
そう言って双海さんはカウンターへ戻っていった。今の・・・気遣いだよな?泣きたい時は泣けばいいって言ってる・・・そんな気がした。
ありがとう双海さん。俺は心の中で礼を言いながら、信のほうを見た。
「ちょっとどうしたのよ、稲穂クン。私何かとんでもないことでも言った?」
「そうじゃない・・・。いや、その文章がさ・・・」
その文章。それは音羽さんが教えてと俺たちに差し出した一文だ。
バッドエンド的なメッセージが書かれた文に信は何かを思い、感情をあらわにしている。まるで信じゃない。
そんな信の様子を、図書室にいるほかの連中も何事かという感じで見ている。お前ら人のそういうのを見てたいのかよ・・・。
「はおっ・・・。稲穂クンどうしたの・・・?」
今までの出来事を見ていたのか、ととが俺に静かに声をかけてきた。場の空気のせいかもしれないが明るさが感じられない。
「いや、この文章・・・。」
俺はそういって信が何かを感じた文章をととに見せた。
「っ!これって・・・まるで・・・。だから、なのね・・・」
やっぱり・・・。ととも何かを感じるんじゃないかって思った。一つ判る事は信とととの間に共通の雨に関する何かがあることだ。
「どういうことなんだ!?とと、信。黙ってちゃ何も言えないだろう」
「そうよ。ととも稲穂クンもこれじゃ判らないわ」
音羽さんいつの間にととと知り合ってたんだ?いや今はそんな疑問を考えている場合じゃない。
「こればっかりは言えないよ・・・それにトミーには・・・」
俺には・・・?くっそう、いったい何だっていうんだ。
「飛世さんはどうして?」
信がととに理由を尋ねている。どうして俺と同じ雨の日の事でっていいたいのだと俺にはすぐに判った。
「それは稲穂君にも聞きたいよ。でもごめん・・・やっぱりみんなにはまだ話せないよ」
「だよな・・・。すまん、俺もこの事だけは話せない」
それきり二人は喋らなくなった。ずっと、先ほどの文章を見つめている。
「三上クン・・・何か思い当たる事ってある?」
音羽さんが不安そうに俺に聞いてきた。むしろ俺も不安でしょうがないが。
ととは中学からの友達だが雨の日になっても特に変わった様子は無かったと思うんだけどな。
信の場合、雨の日はというと少し沈んだ気分になっていた。でも雨で気分が憂鬱になるのは人間誰しものことだ。
そう考えると・・・やはり思い当たる物なんてない。それに何故二人とも俺に絶対言わないのか。
「教科変えないか?」
「え?」
「国語はやめよう。二人にとって何かあるみたいだから」
俺はせめて別の教科をやれば・・・そう思った。こんな状況で勉強を続けようとする俺は間違っているかもしれないが。
「でも・・・こんなままじゃ勉強なんてする気なんてなれないよ・・・」
だよな・・・。二人の様子からするに俺が何か忘れてるんだ。それさえ判ればこんな辛い空気ともオサラバできる!
「三上クン・・・本当に思い当たる事ないの?」
やっぱり音羽さんも二人の会話から察するに俺が何か知ってるんじゃないかって思ってるらしい。
思い出せ・・・。雨・・・傘・・・雨・・・傘・・・。雨・・・?
「彩花・・・」
俺は不意にその名を口にしていた。今は遠く引っ越したけど俺にとっては大切な存在。
雨が大好きで、一緒の傘で帰った事。なんだか懐かしいな。そんな雨の日を俺も好きで・・・。
「そうそう、雨で思い出したよ」
俺は三人に彩花と雨の事を話した。半分ノロケ話になってしまうが、この沈黙を打開するためにも明るくいかないと。
「俺の幼馴染に彩花っていたんだけど、ってととは知ってるか。
 雨が大好きでさ。いつもしきりに雨降らないかなとか言ってたんだ。雨が降って俺が傘が無くて困ってたら、一緒にかえろって言ってくれて。
 それからかな・・・?俺も雨が好きになったのは。それからよく一緒に雨の日は同じ傘で帰ったもんだ」
なんて俺が話をしても信とととは未だ硬い表情のまんまだった。
「それで、その彩花ちゃんはどうしてるのよ」
音羽さんが雑談のように聞いてきた。音羽さんは少しは俺の話で紛れたみたいだった。
「それがさ、親の事情で引っ越しちゃったんだよ。中二の時に。」
「トミー・・・!?」
「智也・・・」
俺が彩花のいきさつを語ると、何故か二人は酷く悲しそうな顔をした。
そうか、判ったぞ。あんなに雨が大好きだった俺たちが事情で離れ離れにならなきゃならない事
それでも思い出してたんだろう。・・・じゃあ信はなんで?うーむやっぱ判らん。だいたいおめでたいだろこの考え。
「そっか、三上クンも色々あるんだね・・・」
なんか最近彩花の事思い出しすぎ。やっぱ引越しなんてして欲しくなかったな。
けど結局今の問題の解決になってないし。二人ともいつもの明るさを取り戻してくれ!やりづらいぞ!
「まぁな。まぁ彩花の事はいいんだよ。二人ともそんな顔するなって」
気のせいだろうか。俺が彩花の名を告げるごとに二人がどこか寂しそうな顔を見せるのは。
「まぁ・・・智也がそれなら・・・俺は大丈夫だ。」
「そうね・・・。これ以上は私たちが言うことじゃないね」
だからなんで俺が!?まぁいいか。二人とも少しは元気になったことだしな。
「さーてと。続きをやるか!えーとここは・・・こうで・・・えっと・・・」
いきなり難問が!俺が先行して勉強を再開したってのにかっこわるい!
「トミーそこはね・・・こうだって。」
ととが助けてくれた。よし、なんだかぎこちないのは解消されたっぽいぞ。
「なにぃ!智也・・・そんなのも判らんのか!」
お前だって判らないくせに。人が悩んでると調子にのるんだから信の奴。
「ふふふ。まぁこれで解決ね?三上クン」
「あ、ああ」
なんか歯切れの悪い返事しか返せなかった。なんかさっぱりしないんだよな・・・。
雨・・・傘・・・か。唯笑の奴特に雨が好きなわけでも無いし今は好きじゃなくなってるかもな・・俺自身。
ん!?今何か一瞬思い出したような気がする・・・。でもなんだ?
真っ白い傘が見えたような気がするんだけど・・・まぁいっか。何はともあれ俺たちは気をとりなしてテスト勉強を再開したのだった・・・。
・・・・・・・・・・
気づけばもう下校しなくてはならない時間だ。図書室にはほとんど人がいなかったからだ。
「ふぅ・・・これでテストも少しは自信が出たぞ。智也には負けん!」
俺にはですか。お前ごときに今回の俺を倒せると思ったか!来週のテストが楽しみだ。
むしろ楽しみなのはテスト返しってところか。普段嫌いな俺がこんな事言うのも変な話だ。
「ありがとう。おかげで今回の範囲とかよーく判ったわ。ととも途中から一緒にやってもらってごめんね」
「どうせ一人で勉強してもつまんないからお互い様」
テスト勉強を終えた達成感からなんとも心地よい。音羽さんも安心してるみたいだし。
「さてと。帰るか」
俺は荷物をかばんにつめこみ、達成感を胸に席を立ち上がった。
そのまま図書室を後にしようとしたのだが・・・。
「双海さん、その荷物大丈夫?」
ととがそう言った。その先を見ると・・・なんだかとてつもない量の本を整理していた。
きっと図書委員の仕事なんだろうが・・・彼女一人があんな量をやらせなくても・・・ってほどの量だ。
どう考えても一人じゃ下校時刻に間に合わなさそうだ。
「ええ、大丈・・・夫ですから。・・・ふぅ。これくらい、一人でなんとかなりますから」
そういいつつ結構重そうにしてたり疲れてるんだけど。その顔は大変だって物語っているし。
「ほら。無理すんなよ。毎日そんな一人でやってたら大変だろう?手伝うよ」
気づけば俺は、こんなことを言っていた。どうしてこうも双海さんにかかわろうとしているんだ?俺は。
そのまま返事もまたずに本の一部を持ち上げる。うちの図書室は休日も解放され、規模でいうと小さな図書館くらいはある。
そのためか専門書的な分厚い本もあるのだが・・・。数冊もっただけで結構重い。これをあの双海さんがもってたのか・・・・
結構力持ち?なんて関心するも、黙って持ってたせいでこの本どこにしまうか判らん。
「そちらの本は、そこの工業のところです。・・・お気遣い感謝します」
なんだかんだいって双海さんは手伝ってもらえる事に感謝してくれたみたいだ。やっぱ無理してたんだな。
「俺も手伝うぜ。さっきうるさくしちまったしな。借りは返さないとな」
「そうよね・・・。一人であれだけの整理なんて無茶よね」
その通りだ!人が困っている時に手伝わないのは性に合わない。困ってる時はお互い様だ!
なんて想いを抱えながら、俺たちは双海さんの仕事を手伝う事になった。
一人じゃ大変そうだった本の山も、五人がかりでやればものの十分とかからないものだ。
「・・・みなさん、ありがとうございました。そこまでしていただかなくてもいいですのに・・・」
「あんな荷物の山、気にしないでって言う方が無理。素直に甘えちゃっていいんだから」
ととが任せなさいとばかりにポーズをとってそう言っている。どうして双海さんはそう一人で全部やろうとするんだろう。
「そうだぜ。他の連中はともかく、俺たちは手伝うからさ。まぁ、双海さんも無理しないことだ」
なんか信が照れながら喋ってますけど。双海さん確かに綺麗だからな・・・あれ?唯笑が好きなんだったか。
「今日は図書室でうるさくしちゃったし。それを許してくれたみたいだったしお礼っていうのもあるわね」
「いえ・・・あれは・・・。今日は本当にありがとうございました。それではごきげんよう」
そういって双海さんは図書室から出て行ってしまった。途中まで一緒に帰ってもいいのに。
「うーん双海さん、印象少し変わった?」
ととが俺たちに疑問を投げかけてきた。それは少なからず俺も抱いていた印象だったが。
「私は転校してきてすぐだからよく判らないけど・・・」
「隣の俺ですら滅多に喋るもんじゃないぜ。むしろ『私には関わらないで』って感じでさ」
そう、双海さんのちょっと前までの印象はそうだった。他者を隔てる心の壁が実体化して見えそうなほどだったから。
「でも・・・今日の双海さんはそうでもなかったな。いつもなら絶対俺らの手なんて借りないぜ?」
こいつ時折的を射るような発言をするよな・・・。いつもあほばっかやらかしてるのはなんなんだと言いたいほどだ。
「まぁ、いいんじゃないか?俺らも認められたって事で。」
なんとなくそんな気がしてこんな事を言った。認められた・・・?自分自身でも何言ってるんだろうって感じだ
「あはは。そうかもね、トミー。」
ととはというと、なんだか俺の言葉を理解していたようで笑っている。俺より言葉の意味判っちゃったんじゃ。
「だろ?ってかそろそろ帰ろうぜ。なんだかんだで図書室でだべりそうだろ」
危ない危ない。このまま双海さんトークがこの場で続くところだった。なんかもう疲れたし。
「そうよね。それじゃ帰りましょ」
音羽さんがそういうと、俺たちは図書室を後にして帰路についた。
結局俺たちは別れるまでに双海さんトークが炸裂していたのは言うまでもない。
話の中で俺たちの中での印象が、鉄壁の双海さんから、物静かで丁寧な双海さんと認識が変わった・・・
「ふぅ・・・」
俺は制服のまま鞄を投げ出しベッドに腰を降ろした。家に帰ると安堵感からか疲れがどっと出る。
疲れてる時はシャワーに入って疲れを流してしまおう。そう思った俺はすかさずシャワーを浴びた。
シャワーでさっぱりしたままに夕食を作り、そのまま机に向かった。
五感までもがさっぱりしたせいか頭の回転効率が随分良い気がする。
そんなこんなで俺はしばらくテスト勉強と向き合っていたのだが・・・ふと風で机の写真立ての上になんか布が乗っかった。
写真見えなきゃ意味無いじゃん・・・と俺はその布をとっぱらう。取っ払った先の写真はあの時の物だ。
俺ってまったく勉強しないで机が荷物置きと半分なってたからすっかり見てなかったな、これ。
写真は中学の入学式の日付が刻まれている。俺を真ん中に彩花と唯笑の三人で肩を組んでいる。
今の俺からは想像できない。いくら彩花や唯笑でも恥ずかしくて今じゃ肩なんて平然と組めないぞ。
その写真を見たせいなのか、俺は不意に中学時代の事を思い出していた・・・。
入学早々、俺たちはととと知り合いすぐに打ち解けて。クラスも一緒だったせいかよく四人でいたっけな。
それから文化祭での出し物とかの話で白河とも仲良くなって・・・。なんかこう考えると男の親しい奴っていなかったんだな。
まぁいいか。中一のときからずーっと五人はよく一緒だったな。こんな仲いいのになんで飛世さんって呼んでたんだろう・・・。
それで中一の最後のほうで翔と親しくなって・・・それからは六人だったっけ。ほんと男の親しいの少ない。量より質ともいうか。
俺たちはずっと一緒だったな。お互いよく迷惑をかけあったり先生にくだらねえ事で起こられたり。一体感を感じてた。
なんかひっかかるな・・・ずーっと一緒・・・?いや彩花は中二の時引越したから・・・。
・・・?
中二と中三の時の事を想い出せない。むしろまったく覚えてない。真っ白でモザイクすらかかってない。判らない。
俺ド忘れ激しいのかな?ぽっかり記憶が抜け落ちるなんてよくある話しだしさ。よくあっちゃ困るか。
判らない事を考えるのはやめよう。なんだか虚しい。
勉強もこんなもんでいいだろう。三上智也は勉学が3上がった!なんてメッセージが出そうなくらい快調。
このまま勉強を続けていれば、そこそこな点数は取れるだろう。
俺はそのまま体をベッドに放り出した。夢の世界へ行くのはそう時間はかからなかった。

真っ白い傘と激しい雨の音。けれの目の前に広がる暗闇。
広がる消失感。絶望。不安。悲しみ。負の感情達。
ジグソーパズルが崩れたような感覚。けれど静かにそのピースの破片を拾い集め崩れてないかのようにしている感覚。
でもどうしてもピースが足りなくて。その部分には新しいピースを収めた。
違和感は何も無い。なぜなら新しい物も古いものも同じピースなのだから。
けれどそれは本当に同じなのだろうか・・・

9/28(金)『足りない欠片』

なんだか嫌な夢を見たような気がするけど・・・。ありがたい事に悪夢に限って思い出せない。
最近嫌な感覚に陥らずにはいられないのは何故だ?ちょっと誰かに相談してみるか・・・。
こうも目覚めが悪いのが続くとやりきれない。かといって唯笑にまじな相談なんかしたくないな。
信やととも何か俺に言えない事あるみたいだし、とはいえ音羽さんはまだ入ってきたばっかで聞くのも気が引ける。
彩花がいればいいんだけどいないし。・・・あいつがいるか。翔の奴なら相談に乗ってくれるはずだ。
今日学校で会った時にでもちょっと捕まえてみるか。
ガラガラ・・・
俺はカーテンを開けた。外では雨が降っていた。結構激しいな。
そういえば夢で雨が降ってたようなきもするが・・・って判らん事考えても無駄だな。
俺は適当に傘立てから一本引っこ抜くと、待ち合わせの藍ヶ丘駅へ向かった。
俺の家から十分ほど歩くが最寄り駅なんだけど・・・毎回十分歩くのは正直めんどくさい。
駅が俺の家ならいいなとかくだらない事を歩きながら思うことがしょっちゅうだな。
なんだかんだ考えながらいると十分なんてすぐだ。俺は駅につくなり二人の姿を探した。
「はおっ」
俺はなんとなくととが日ごろ愛用している挨拶を使ってみた。
「おはようございます。どうしたんですか智也さん?急にそんな挨拶・・・」
「智ちゃんはお〜。ととちゃんの挨拶だよね?」
なんだか思ってたより反応薄いな・・・って俺は何を期待してたんだ?
「そうだぞ。あんな珍しい挨拶使わないほうが馬鹿ってもんだ」
「えー!?智ちゃんしらないの?」
ん?なにがだ?
「ととちゃんのあの挨拶、うちの学年で密かなブームになりかけてるんだよ?」
なにぃ!あだ名大魔神だけならず挨拶まで・・・恐るべし飛世巴!
「ととちゃんって、飛世先輩だよね?」
「うん。何回か会ったことあるよね?」
何回か会ったことあるって、なんか俺の知らない所でみんなつながってるんですけど。なんか怖え。
「飛世先輩すごい良い人だよね。唯笑ちゃん達が中学の時から友達でうらやましいなぁ・・・」
なんかみなもちゃんがととにこうやって憧れるのも判る気がするな。
あの明るくて気さくでちょっとうるさいところもあるけど全然迷惑に感じないって所がととの良さなんだろう。
「みなもちゃんも友達だって言ってたよ〜」
「まだ何回かしか会ってないのにそんな・・・」
「関係ないんじゃないか?特にととは。すぐに打ち解けてしまうような奴だしな」
俺たちは他愛も無い会話をしながら電車に乗り込んだ。それはいつもの日常だった。
けれどこの日常が長く続かないと知ったのはすぐの事だった。
「あの・・・唯笑ちゃん、智也さん・・・」
みなもちゃんが俺たちに話題を振ってきた。いつも聞き手が多いだけにちょっと珍しい。
「どうした?なんか面白い話題でも・・・」
言いかけてやめた。みなもちゃんの表情は決して明るいものではない。むしろどこか辛そうにしている。
その様子からするになにか相談かなにかを持ちかけようといった感じだ。
俺自身漠然としないものを抱えているし今はそういうことがよく判る。
「私ね・・・」
そう言い出すも口ごもってしまう。何かとても深刻な様子が見て取れるんだが・・・
「無理して言わなくてもいいぞ?言いたくないのに無理して切り出したって辛いだけだろ」
明るく振舞ってみる。けれど唯笑はというとじっとみなもちゃんの顔を見たまま何も言わずにいる。
最近どうも重苦しい空気が多くて嫌だな。一体なんだっていうんだ・・・しかも俺ばっかり関わってないか・・・?
「私・・・。来週からしばらく一緒に登校できないんです・・・」
「それってどういう・・・」
思わず声にだしてしまったが、・・・俺はあえて静かに見守る事にした。
「来週から・・・検査入院しなきゃいけないんです。それでもし悪いようならしばらく・・・」
入院・・・だって!?まだみなもちゃんと一緒に学校行くようになってからそんな経ってない。
一学期のころから何度か会っていてが、登校が一緒になったのは二学期からだ。
まさか入院なんて・・・。嘘だって言ってくれよみなもちゃん!
「みなもちゃん・・・唯笑、唯笑はぁ・・・」
「ううん・・・大・・・丈夫だよ。でもこれでしばらくお別れです・・・」
「お別れなんて馬鹿な事言うんじゃない!」
俺は思わず声に出していた。嫌だった、こんなネガティヴなみなもちゃんを見るのが!
「約束するんだ・・・俺たちに」
「約束・・・ですか?」
「ああそうだ。検査の結果だって良かったらすぐ帰ってこれるんだろう!?
 だったら悪かったらなんて考えんなよ。それにお別れじゃねえ。お見舞いだって行けるだろ!?
 ほら、だからその日まで俺たちも待ってるからさ。また一緒に学校行くって約束するってな!」
俺の大声に何事かと見られている。まったくそれくらいでなんでしょっちゅうお前らは見てくるんだ。
熱くなる俺が馬鹿みたいだろうが・・・。貴様らには血も涙もないのかぁ!
「そうですよね・・・えへへ、智也さんありがとうございます。なんか少し勇気もらえましたから・・・」
俺なんかが役立ったみたいで良かったぜ。おっと大事な事を聞いておかないといかん。
「みなもちゃん、授業終わったらでもお見舞い行くからさ。病院どこだ?」
「智ちゃん・・・。みなもちゃん・・・・・・・・」
唯笑がみなもちゃんに何かを意味する目で見ているが、俺にはまったく理解ができなかった。
「私・・・えっと・・・」
唯笑とみなもちゃんが互いに目を見合わせている。何か言いにくい事でもあるのだろうか。
ややあって二人は何かを納得したようにうなずき、みなもちゃんが口を開いた。
「・・・私の弱いところとか見られたくないから・・・。みんなと一緒にいる時は元気な自分がいいんですだから・・・」
そういう理由でお見舞いに来て欲しくなかったんだ・・・。なんかみなもちゃん、強くもあって弱くもあるな・・・。
「そっか・・・でも一人でずっといるのは寂しいんじゃないか?」
やっぱり放っておけない。みなもちゃんの寂しさなんて俺の想像の限界を超えてるに違いないんだ。
「で、でも・・・」
みなもちゃんはまたも唯笑のほうをチラッと見て。
「智也さんにはいつも助けてばっかりだし・・・迷惑かけたくないし・・・智也さんにだけは見られたく無いから・・・ね、唯笑ちゃん」
俺だけには見られたく無い・・・か。みなもちゃん・・・だったら余計悲しすぎるだろ・・・。
「う、うん・・・智ちゃんにはそんなみなもちゃん見せたくない」
んまてよ、って事は唯笑はみなもちゃんのいる病院を知ってるってことか。なんだか最近俺に秘密が多くないか?
ドックン・・・ドックン・・・
妙に嫌な感じが体にまとわりつく。俺に秘密が多いという事。その秘密の正体が何なのだろうか?信もとともみなもちゃんも唯笑も。
共通の秘密を俺に持ってて。俺に言えない何かがあって。何か俺の知らない所で何か・・・何か・・・。
「智也さん!?大丈夫ですか・・・?顔真っ青ですよ・・・」
みなもちゃんの言葉でなんとか平静を保つ。心臓の鼓動の規則正しいリズムは恐怖そのものに聞こえたままだが・・・。
「あ、あぁなんとか・・・。それより、唯笑。お前みなもちゃんの事・・・知ってたのか?」
「うん・・・。今回の事は知らなかったけどみなもちゃん体弱いから・・・」
普段元気そうにしてるのも、俺たちに心配をかけないためだった!?だとすれば俺は何も考えてやれなかった・・・・
「そっか・・・。でも大丈夫だ!信じてれば絶対治るってな。自分に負け無い限り絶対に!だからみなもちゃん」
俺はみなもちゃんに近づいて・・・。そっと、みなもちゃんを抱きしめた。それは俺自身の恐怖感を打ち消すためでもあった。
「と、智也さん!?」
「俺たちがいるから・・・。絶対、絶対元気になって帰ってくるって約束してくれよ・・・。」
俺自身、しばらく会えないみなもちゃんが離れていかないようにみなもちゃんをしっかりと離さない。
「唯笑も・・・お前も。絶対帰ってくるって信じてやれよ。三人の約束だ」
「智ちゃん・・・。うん、唯笑も絶対約束するよ!」
俺はそっとみなもちゃんから離れた。今度は唯笑がみなもちゃんを大丈夫、と包んでいた。
それほどまでに今のみなもちゃんは酷く悲しく切ない表情だった。
そして、三人で。俺たちは静かに約束を交わした・・・。

―ずっと待ってるぜ―

あれから授業の時間も通り過ぎ、昼休みの時間がやってきた。
けれど授業なんて身に入らなかった。みなもちゃんの事が頭から離れない。
やはり自分で思っている以上にショックが大きかったんだな、と今更思う。
朝を思い返してみると・・・これまでかというほど俺らしくない気がする。
っつーかクラスメイトとかが通る場所でかなり恥ずかしい事をしてしまった。恋人でも無いのに俺は何をしてるんだ・・・。
本当に寂しかったのは俺じゃ無かったか?
「・・・クン?」
失う事が怖すぎて。消えてしまう事が怖くて。そんな思いは絶対にしたくないから。
「・・・也!?おい・・・!?」
何で・・・だろ?こんなに怖がってる俺がいる。朝から不安は続くままだ・・・くそっ・・・
「おい!智也・・・!」
「・・・!?ああ、信か・・・それに音羽さん」
「間抜けな声出してんじゃねえよ。お前・・・酷く遠くを見るような目でずーっとそうやって考え事してたぜ?」
周りが見えないほど・・・か。相当へこんでるな俺。購買でパン買ってこなきゃな・・・
「んじゃパン買ってくるわ・・・」
「ほらよ」
!?信の手には黄金コンビが・・・。これを俺に?
「助かる。っつかお前たまには気が利くな」
「もぅ、三上クンがあまりに深刻そうな顔してたからじゃないの。」
普段馬鹿言ってるけど本当に困ってる時こそ一番頼りになる奴だな・・まったく信は。
「何かあったのか・・・?話なら聞くぜ・・・」
ガラガラガラ・・・
「こんにちわ・・・」
扉の先にはみなもちゃんが立っていた。この教室に来るって事は・・・唯笑か?
「稲穂さん・・・音羽さん・・・あの、ちょっと話が・・・」
「どうしたのよ、そんな真剣な顔しちゃって・・・」
そういう音羽さんもみなもちゃんの様子に気づいたか表情が硬くなっていた。
「悪いな、智也・・・ちょっと待ってろ。」
そういうと三人は教室を後にした。俺にはみなもちゃんが二人に告げようとしている事が判る。
学年が違うしおまけに朝の登校も一緒じゃないからこうでもして伝えておきたいんだろうな。律儀だな・・・。
俺は目の前のパンを食べる気分にもなれずただその場で考えつくしていた。
それから何分経っただろうか。じっと何かを考えたまま時間だけが過ぎている。
ガラガラ・・・
「智也。屋上に来い」
信はそういうなりすぐ出て行ってしまった。いつもなら脅迫メッセージじゃないんだからと突っ込むところだが、
あいつのマジな顔・・・話の内容も大体判る。それに理由が理由なだけあって行かない訳にはいかない。
俺は何故か鞄にパンを放り込み、鞄を持ったままに屋上へ向かった・・・。
屋上のぼろっちい扉を開く。そこにはすがすがしい空気が感じられる。今の俺にはそれが逆に辛かった。
鞄を降ろす。屋上で待ってたのは信と音羽さんだった。みなもちゃんとかかわりがある者・・・。
唯笑は朝以来特に問題も無いみたいだった。約束を守れてないの俺じゃないか・・・
「智也・・・そういう事か・・・」
「ああ、二人ともついさっき聞いたんだろ?」
二人は俺の質問に無言で静かに『ああ』とうなずいた。
「そっか・・・それで智也、お見舞いは行くんだろ?」
「いや。みなもちゃんが俺には見られたく無いって・・・弱いところは見られたく無いって言うから。
 だから病院の場所は教えてもらえなかった。でもみなもちゃんが望むならそれで・・・」
「ほんとなの?三上クン・・・」
こんな所で嘘をつく勇気なんて俺には持ち合わされていないって。
「嘘つけるかよ、こんな時に」
「ごめん・・・」
「智也だけか・・・。俺たちにはお見舞い来てくださいねって言ってたんだよ、みなもちゃん」
!!
「私なんて夏休み以来で再会できてすぐだったのに・・・いきなりこんな事なるなんて思ってもなかった」
俺だって一学期からこんな事あるなんて思ってなかったよ。
「待てよ、てことは信たちは・・・場所知ってるのか?」
「三上クンが知らないなんて・・・思わなかったわ・・・」
何でだ・・・?弱いところを見られたく無かったんじゃないのか!?俺だけ・・・俺だけってどういう意味だよ!
「なんでっ・・・なんでっ・・・!?答えろよ!信・・・俺だけどうしただよ!なぁ!答えろよっ!」
俺は信につかみかかるようにゆすった。こんな事してもどうにもならない、信が知ってるわけないのに何かのせいにせずにはいられなかった。
「おい、気持ちはわかるが・・・落ち着け!智也!」
「三上クン・・・!そんな事したってどうにもならないよ」
「判ってる・・・判ってるがな!・・・畜生!」
俺は屋上のフェンスを勢いよくけりつけた。その音が激しくあたりに響いた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「落ち着いたか?」
信は乱れた制服を直そうともせずに、俺を真剣な目で見ている。
「ああ・・・悪かった。頭に血がのぼってた」
「気にするな・・・お前はそういう奴だからな。それより智也に言わないってどういう事だ?お前思い当たる節あるか?」
俺はみなもちゃんと唯笑が顔を見合わせるようにしていた事を二人に告げた。
「ってことは、今坂さんが何か知ってるかもしれないのね?」
「けど俺らが聞いたところで唯笑ちゃんが話してくれるとも思えないな」
まったくその通りだ。あいつはああみえてかなり口が堅い。特殊なパスワードでも・・・あほな事言ってる場合じゃない。とにかく硬い。
「それで、今日はずっとその調子だったってわけだな」
「ああ・・・。俺は何もみなもちゃんの力になれない・・・んだな」
あたりに沈黙が流れる。俺たちは何を口にすればいいか判らなかった。半端な事を言ってもどうにもならないからだ・・・。
「みなもちゃんがどうしてもって言ってるんだから、俺も信や音羽さんに場所聞かないほうがいいよな?」
「・・・お前がそれでいいならな。」
お見舞いの件に関しては理由は不明だがみなもちゃんにも考えがあるだろう。俺はみなもちゃんを信じたかった。
「みなもちゃんを・・・信じるよ」
「そっか・・・。でも三上クン。無理しちゃ駄目よ?いつでも・・・教えてあげるから」
二人の気遣いが嬉しかった。だがみなもちゃんが帰ってくるまで俺は聞く事は無いだろうと自分に言い聞かせた。
しかし・・・悩みの種はみなもちゃんの事だけじゃない。夢の事もある・・・。
バタン
ん、誰かが屋上へ入ってきた。ったくこんな時に誰だよ
「おう、翔か。遅かったな」
翔か・・・その分からするに信が呼んだのか?翔もみなもちゃんと関わりがあるからな。
「悪りぃな。って何処まで話は進んでるんだ?」
俺たちは翔に、今までの話のいきさつを簡単に説明した。しかし朝の事を思い出したと思ったら翔が来るなんてタイミング良すぎ。
「水無月クンは・・・お見舞いの話は?」
「俺は・・・聞いてるが。ん、当たり前だろそんなん」
「それがな・・・智也の奴は知らないんだ、みなもちゃんの・・・」
やっぱり俺だけか。翔は知らないだろうって少し期待した俺は最悪だ・・・。
「まじか・・・。けど悪いな、こういう話なら巴のほうが得意だろ?
 巴を連れて来ようとしたんだがどうしても見つけ出せ無くてな・・・智也、悪いな」
お前が来ただけで内心かなり助かってるよ・・・。謝るなよ。
「智也、お前みなもちゃんの事だけじゃねえだろ?他にも何か抱えてるな。その顔見てればなんとなく判るさ」
まったくコイツはどこまで鋭いんだ・・・。でも俺がふんぎりつかなかった分はなしやすくて助かるな。
「この際、溜め込まないで吐き出しちゃったほうがいいわよ?」
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終了の予鈴が鳴り響く。授業か・・・行かなくては
「授業だぜ・・・行かないと」
しかしそういった俺の腕を信はつかんでいた。
「あのなぁ、そんなものは後回しだ!」
へ!?
「友達を放って授業受けるなんて気、私は起こらないわよ」
「授業なんて忘れてしまえ。テスト前だからなんだ。少しは頼れって」
馬鹿げてる・・・絶対馬鹿げてる・・・。そろいもそろって授業無視かよ。
けど・・・その馬鹿さが・・・最高だ。もう何ていっていいか判らない。
「ははは・・。ありがとな」
俺たちはチャイムを無視して、屋上で話を続けた。俺もたまに屋上で寝てサボる事こそあるが・・・
今はこの三人の心遣いがいやと言うほどうれしかった。
「それで・・・智也。他の悩みって何だ?」
他の悩み・・・漠然としていて俺自身もよくわからないもの・・・
「最近・・・朝起きると嫌な感覚があるんだよ。」
「嫌な・・・感覚?」
「ああ。酷くなんか恐怖感が根付いてて。悪夢でも見たんだろうけどな。何かを失ったみたいな・・・覚えてるのはそれが決まって雨の音がする」
俺自身判ってる事はこれだけだった。相談出来るような内容にすらなってない。
「雨の音・・・」
信がどこか遠くを見るような目をしていた。ほんとこいつは雨に対して何かあるとしか思えないな・・・。
「智也・・・彩花は今どうしてるんだっけか」
翔が静かに聞いてきた。なんでここで彩花の事が出てくるのか判らないが・・・俺は質問に答えた
「引越ししたよ。そのうち戻ってくるからってあいつ住所教えてくれなかったんだ・・・酷い話だぜ」
「智也・・・お前・・・そうか・・・まだ・・・」
「?水無月クン、何か判ったの?」
「大体は・・・見当がついた。けど・・・正直そうであって欲しくない」
どういう意味だ・・・?彩花の事を言っただけで何か判ったのか?信の奴もなんか俺の事ずっと見てるし。
「智也・・・彩花は雨が好きだったろ?だからお前は彩花の事を思いだしてるんだ。会えないことが嫌な気持ちに変わってるんだと思うぜ」
確かに言われてみればそうかも・・・。でもそれにしてはあの消失感はなんなんだ・・・?
「まぁネガティヴにならねえように気をつけろよ。翔の言ってるとおりそう嫌な事じゃないはずだぜ・・・」
そういう信の表情は曇ったままだった。・・・いつか信から本当のこと聞いてやらないと。
「これは三上クン次第ね・・・。でもみなもちゃんの事は・・・?」
今直面した問題・・・。どうして俺はお見舞いに呼ばれなかったのか・・・。・・・何か忘れてる気がする・・・?
「みなもちゃんの通ってる病院って・・・まさか藍ヶ丘総合病院・・・か?」
俺はふとその場所を口にした。何故だろう・・・何故出てきたんだろう・・・。何か・・・何か。
「・・・どうして判るんだ?俺たちは何も言ってないぜ・・・?」
信がそういうと音羽さんも翔も軽くうなずいた。そしてどうやら場所もあっているらしい・・・。
「判らない・・・判らないが・・・この病院を何かで知ってる・・・何か・・・で。一体何なんだ・・・」
「お前ただみなもちゃんが言ったの聞いてなかっただけじゃ・・・・!?翔・・・どうした」
信がいいかけると翔は恐ろしく真剣な表情を見せていた。その雰囲気がこちらにまで伝わってくる・・・。
「・・・そうか・・・信は知らないんだな・・・」
「水無月クン・・・?稲穂クン?どういうこと・・・?」
「・・・いや・・・言えない。言ったら信や智也・・・もしかしたら音羽まで傷つけるかもしれないんだ・・・」
「なっ!それでも教えろよ」
「信・・・。お前はいいかも知れないんだ・・・。けど・・・智也がどういう状態か判ってるだろう?」
「翔・・・・・」
俺がどういう状態か判ってる・・・?頭が混乱しそうだ・・・謎が多すぎて。
「だからな・・・まだ言う時じゃない。判ってくれ」
「そういうことなら・・・仕方ねえな・・・」
よく判らないまま二人の会話が終了した。まぁ言う時がくるだろうな・・・そのうち。
「三上クン・・・みなもちゃんのお見舞い・・・どうするの?」
そうだな・・・場所も判ってしまった今行く事はたやすいはずだ。だからって行っていいのか悪いのか・・・。
「みんなのおかげで大分考えとかまとまった。あとは俺自身が答えをださないと」
けれど答えを出す事が・・・真実を呼び寄せるなんてこの時は思っても見なかったんだ・・・。
「それじゃあ暗い話は終わりだな。授業途中で戻ってもしょうがないし・・・」
翔はそんな事を言い出した。俺たちはこの時間の授業が終わるまで他愛も無い話をしていた。もっともみなもちゃんの話題ばかりだったが・・・。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ってる。今日金曜日だから・・・このままHRやって終わりだな。
「それじゃあ俺はHR出てくるかっと。聞けるような奴巴しかいないからちょっと大変なんだよ」
よく考えれば・・・翔の奴女子に結構嫌われてるのにとととは昔っからかなり仲良いんだよな。
「んじゃ俺たちも戻るか。智也もいつまでも座ってねえで」
「三上クン置いてくよ?」
こうして俺たちのサボり相談会は幕を閉じるのだった・・・。けどおかげで大分荷が軽い。
「あー三人とも。どこいってたの?」
HRを済ませると・・・唯笑が俺たちのほうに話かけてきた。
「ん・・・?唯笑ちゃん。いや、智也がなんか深刻そうだったんでお悩みを聞いてあげましたってわけ」
「ふーん。智ちゃんがぁ?」
「何だ!その『俺には悩みなど無い』みたいな疑いの目は。ったく・・・」
俺にはお前のほうが悩みなんて無い人間に見えるぞ・・・。まぁ悩みの無い奴なんて実際いないんだけど。
「昔の事・・・想い出せないんだって。すっかり忘れてる事があるみたいなの・・・三上クンって一種の記憶喪失だったりして」
音羽さんはそんなこといってたが、今度は唯笑の表情が・・・。なんなんだ一体!
「そっか・・・昔を・・・。ううんなんでもない。それよりちょっと先生に呼ばれてたんだ。」
そういって唯笑は、逃げるようにしてここから立ち去っていってしまった。
「ふぅ・・・唯笑の奴なんだったんだか・・・。」
「さぁな。それより俺も帰るわ。夕方からバイトなんだ」
「私も。三上クン・・・あんまり悩みすぎないでよ?それじゃあね」
そういい残して信も音羽さんも帰ってしまった。なにかぽつんと一人取り残された感覚だけを感じる。
こんな時は家に帰ると余計寂しさが増してしまう・・・。
こういうときこそ勉強だ!勉強して余計な事など考えないですごすぞ!そうすれば忘れる!
そう考えながら俺は図書室へ向かった・・・。
・・・・・
勉強の内容が全然入ってない。どうしてもみなもちゃんの事やひっかかることが多すぎてならない。
金曜日ってこともあってか図書室で勉強している生徒もほとんどいない。土日休みなので金から家でやるつもりなんだろう。
「はおっ。どうしたの?浮かない顔してるけど」
「はおって・・・ととか。誰かと思った」
「やっぱなかなかすぐは解消されないよな。さっきよりましだが・・・智也やっぱりどこか暗いぞ」
翔とととが揃って図書室に来ていた。俺を探してたみたいだった。
「・・・翔からある程度聞いたけど・・・そりゃ落ち込みもするわね。それより私昼休みいけなくてごめんね」
そう言われると困るんだけどな。謝る理由なんてもともとないんだし。
「いや・・・大丈夫。気持ちだけでも助かる。」
「でも・・・どうしてだろう。トミーにだけ教えなかったっていうの」
「巴。みなもちゃんの行くって言う病院の名前・・・」
「藍ヶ丘・・・総合病院でしょ?それがどうかした?」
「忘れて・・・ないだろ?」
「忘れて・・・。!!・・・みなもちゃん・・・そういう事だったの・・・」
ん?二人は俺にだけ教えなかった事を理解してるのか?藍ヶ丘総合病院・・・何か・・・何かあるのか?
「二人とも・・・どうしたんだ?」
「いや・・・なんでもない・・・忘れてくれ」
「そっか・・・ん」
知りたいのはやまやまだが仕方ない・・・そう思ってるとまた双海さんが無茶な荷物を・・・
「双海、大変だろ手伝うよ」
「双海さん、俺手伝うよ」
みごとに翔と一緒のタイミングで声をかけていた。
「ありがとうございます。何やら大事なお話をしてたみたいでしたので・・・頼もうか迷ったのですが・・・」
双海さんは微笑むと、俺たちに仕事の説明などを簡単に済ませていった。
「それにしても双海さん・・・最近ちょっと変わったよね」
「私が・・・ですか?」
「ああ。前より明るい気がする。前は俺らとこうして作業する事も考えられなかった」
確かにそうだな・・・今普通に会話してるけど・・・ほんの数日前までありえなかったことだな。
荷物の山を片付け終えると、双海さんは静かに語り始めた。
「お話した事はあると思いますが・・・私は日本人が嫌いでした・・・」
「聞いちゃ悪いかも知れないが・・・どうして日本人を嫌うようになったんだ・・・?」
「私父の仕事の都合で転校を繰り返してるんです。それも海外を・・・。
 それで過去に一度日本に来たときの事です。私はその時日本人が嫌いになってしまったんです」
よっぽど・・・何か・・・あったんだな・・・。俺たちにあんな冷たい態度を取るなんて。
「目の色・・・髪の色・・・それらが違うだけで私を異分子扱いしました。あろう事か教師達まで・・・」
「いじめ・・・られたのか・・・」
「・・・日本人なんてそういう事ばかりする人間なんだって・・・私はそう思ってしまったんです。
 それで・・・今回日本に来たときは、関わるのをやめようって思ったんです」
「関わると自分が傷ついちゃうから・・・。私許せないよ・・・そんなちょっと違うからって・・・」
「でも・・・みなさんはそれでも私に関わろうとして・・・気づけば今みたいに・・・」
過去のトラウマ・・・か。嫌な事があったから・・・自分を封印してまで・・・。
ふわり・・・
ふと双海さんの髪の香り・・・柑橘系の香りが鼻をつく。これは忘れもしない・・・。
香りが頭を刺激する。翔や信、ととに唯笑と俺に言えないこと・・・ひっかかること。
朝の嫌な感じ・・・何か思い出せそうで思い出せない事。それらすべてを刺激しているようだった。
今なら・・・。ぽっかりあいた記憶が思い出せるかも・・・しれない。
「三上さん・・・?どうなされましたか?」
「ん・・・?ああ双海さん・・・。いや・・・その髪の香りが酷く懐かしくてさ」
「智也・・・」
「母から譲り受けたものですから・・・私も誇りに思ってますよ」
その髪が馬鹿にされたんだ・・・そりゃ・・・日本人嫌いにだってなりえる。
「三上さん・・・今日だけじゃありません。隣にいる稲穂さんも・・・ですけど、最近どこか思いつめた感じですね?」
信も・・・?それはちょっと意外だな。あいつあんまり表に出さないタイプなんだが。
「まぁな・・・。色々あってな・・・。双海さんの話を聞いたんだ・・・俺の話も聞いてくれるか?」
「ええ、もちろんですよ」
俺は昼休みに話した事をもう一度喋る事にした。あの時とともいなかったから俺の口から聞くのは初めてか。
俺自身少しは解消されたのか、自分でも少し同じ話でも明るくなってる気がした。
今は何故だろう、話して楽になりたいと強く思っていた。俺は自分がよくわかってない・・・。
「それで・・・水無月さんと飛世さんは心当たりがあるのでしょうか?」
双海さんは俺の話を聞き終えると、翔とととに尋ねていた。
「私は、みなもちゃんの事とトミーの朝の嫌な感じの事・・・どこか共通点があるんじゃないかなって思うよ」
共通点?一体どこがどういけば繋がるんだ・・・?
「巴・・・まぁそうだな。ようはみなもちゃんは何か理由があって智也に言わないんだが、
 その理由が智也のその悩みってか・・・嫌な感じに繋がるんだ。みなもちゃん智也の悩み見抜いてたのかもな」
それとこれとは話が別すぎないか?けど二人ともそう思うくらいだ・・・間違ってるとも思えないし。
「つまり、病院の存在または伊吹さん自身の事が三上さんに何か良くない理由があるって事ですね」
双海さんの言うとおり・・・って。そうだよ。なんで教えてくれないんだって事ばっか思ってたけど。
俺に病院の場所を教えなかったのは理由があってだ。だったらもっとその理由について深く考えるべきだった。
結局俺はどうしたらいいんだ、とかしか相談してなくて・・・真実を知ろうとするのを後回しにしてた。
そうだな・・・じゃなかったらこんないつまでもどうしたらいいんだろう・・・どうして俺だけって考えてないだろうな。
俺だけに教えてくれなかったのは何故だ。確かに知ろうとはしていたけど、それより俺がどうすりゃいいか理由も知らずに悩んでた。
「双海の言うとおりだ。けどその何か・・は俺たちが持ってる答えじゃない。智也自身が持ってるはずだ」
その判らない部分を俺が持ってる・・・?無茶言うなよ、翔。確かに答えは自分が出すって言うけど・・・判らない物はだせないぞ。
「つっても・・・二つがどう繋がってるかなんて俺にはさっぱり判らないぜ?」
「三上さん・・・答えを出す事が全てではありませんよ」
「え!?」
いかん。思わず間抜けな声をあげてしまった。ここまで今の俺に丁度いい言葉が来るとは思わなかったし。
「真実を求めるのも大切ですが・・・その過程も大事ですから。焦ったら何も見えてきませんよ」
そうだな・・・俺はこのごろどうも落ち着いてないんだな。大切な事見失ってた気がする・・・
「双海の言うとおりだな・・・。まぁ困ったら俺たちでよければ聞いてやるから。」
すでに困ってるっての。頼りすぎも良くないのは確かだから・・・少し落ち着いて考えてみるか。
「焦りは禁物、だからね?」
俺はなんだか肩の荷が降りたような・・・そんな感覚だった。朝とは違って大分楽だな・・・っと
「それより双海さん・・・」
ととが双海さんに・・・目を輝かせて話しかけているっ!これはまさか・・・
「なんでしょう?飛世さん」
「その、飛世さん!って言うのやめてほしいの。」
この瞬間俺と翔は顔を見合わせてしまった。多分考えてる事は同じだろう。
ととの・・・あれが目覚めたのだから。
「私にはとと、っていうちゃんとしたあだ名があるんだからね?」
双海さん・・・もう俺たちには手に負えない・・・ごめん・・・頑張ってくれ。
「翔・・・ととのあれって・・・一種の才能だよな・・・?」
俺たちは戦線離脱をしてひそひそと会話を始めていた。こうなったらととも双海さんのあだ名が決まるまでゆずらないだろうし。
「才能っというかなんというか・・・。まぁいわゆる『コミニケーション』だろ。巴なりの。あだ名・・・形から入るのも手段の一つだろうし」
まぁ・・・別に嫌なわけでもないし・・・むしろ慣れると親しみがあっていいわけだしな。む?ここで俺は一つの疑問を発見した。
「そういえば翔。なんでお前だけ・・・翔って呼ばれて、巴って呼んでるんだ?お互いあだ名じゃないな?」
「別にいいだろ・・・。なんつーか・・・名前で呼ぶのもコミニケーションだろ?ってな。俺はあいつと小さいころから一緒だからな」
翔ってとととそんな付き合い長いのか。中学の時、白河やととに知り合った後に仲良くなったからてっきり違うと思ってたし。
これは俺が人の事知ろうとしないからなのかな・・・。
「だからお互い名前で呼ぶのに慣れちゃってる。それに・・・」
「それに?気になるだろ」
大体見当はつくが・・・。その話なら中学のころから何度も聞いているし。今更隠す必要も無いような気がするんですけど。
頭はいいんだけど、こういう所は苦手なんだな・・・。俺も得意じゃないけどさ。
「知ってるのの言わせるなよ。でも智也なら判るだろ・・・?こんな気持ちをさ」
翔が巴に好意を寄せてる感じ・・・。判らないはずがない。何せ彩花と付き合っていたんだから。
幼馴染にもなると逆に当たり前すぎてその気持ちに気づかないくらいなだけだ。異性ならなおさらだ。
そんだけ親密でいながら意識をまったくしないのもおかしな話って俺は思ってる。
あの仲の良さからすると、とともなんらかの好意は抱いてるだろうしな。
「いつも言ってるように俺には応援と話を聞くくらいしかできないぜ。相談なんか乗ってやれるほどじゃないし」
「いや・・・それで充分なんだが。むしろ大助かりだ。こういうの勝手がつかめない」
「ととの事なら・・・白河に聞いてみたらどうだ?あいつなら翔の知らない所も知ってるだろうし」
白河・・・か。ここ数ヶ月連絡してないな・・・。高校違うとどうもこうなってしまう。
「それもそうだな・・・。明日か明後日あたり・・・聞いてみるかな」
うわ、行動早!まぁ丁度土日で休みだしな・・・でも白河もテスト勉じゃないのか?
「それじゃ改めてよろしくね、しおにゃん」
なんかととが双海さんのあだ名らしきものを宣言するのが聞こえてきた。
「智也・・・どうやら決まったみたいだな」
「みたいだな・・・しかししおにゃんって・・・猫か?そんなイメージは何処にも・・・」
「何?それより二人で何喋ってたの?」
さすがにととの事・・・とはいえないので俺たちは適当に誤魔化しておいた。
「ん・・・いや、テストの話をだな・・・」
時期も時期だし、俺だって元々はここで勉強してたし、疑わないだろう。
「あ、そろそろ下校時刻ですね。そろそろ荷物をまとめませんと」
お、もうそんな時間が来ていたのか。そういや空腹を感じてきてるわ。
「おし、帰るか」
「双海さんも一緒に帰らないか?」
俺は双海さんにそう尋ねた。ここまで話が盛り上がったんだし、せっかくだから一緒に帰ろうかなと。
「そうですね・・・ご一緒させてもらえますか?」
そんなご丁寧にならなくてもいいと思うが。ま、双海さんらしいっちゃらしいかな?
俺たちは四人で帰る事になった。双海さんは他の人と帰るのは今日が始めてみたいだった。
でもそんな事も今日で終わりだ。双海さんは過去を話してくれたし・・・ゆっくり心を開いてるみたいだから。
澄空駅までの間、他愛も無い話題を話しながら・・・こんな事も双海さんは初めてなんだなっと思ってた。
喋りながらの会話は目的地までがあっという間に感じるほどだ。もう着いちゃったし。
「それじゃしおにゃん、またねっ」
俺たち三人は家が全員藍ヶ丘に近いため一緒なのだが、双海さんは中目町なのでここでお別れだった、
「それじゃあまたな、双海」
「また月曜」
「それではごきげんよう」
双海さんはそう微笑んだ。自然な笑顔だな・・・やっぱりああいう表情のがいいな。
いいな・・・って言っても別に恋したとかそんなんじゃないけどな。
「なぁ巴」
「翔?どうしたのよ」
静かな電車内に翔の声がよくとおる。うるさいって訳じゃないんだが、がらんと空いている電車内では大きく聞こえた。
「ほたるの奴にちょっと用事があってな。かといって俺からあいつの家に電話するのも恥ずかしいし」
別に親友の間柄なんだし気にしなくていいと思うが・・・馬鹿正直というかなんというか・・・。
この歳にもなれば異性の家の電話は自分じゃなくて向こうに気つかうか。彼氏なんて思われかねない。
とは考えてみるも俺たちの事白河の両親も静流さんだって知ってるんだし・・・大丈夫じゃないか?
「あれ・・・?ほわちゃん、翔に教えてなかったんだ。携帯買ったんだよ、ほわちゃん」
白河が携帯電話・・・うーむなんだか似合わないような気がする。ああいうのって縛られる感じするし嫌だな
「知らなかった。なら俺の携帯も教えておかないとな」
ちなみに翔も縛られるようで嫌なのだが、色々持ってないと不便が多すぎるらしく所持する事になったようだ。
「うーん・・・トミーも聞いてないでしょ?」
「ん?ああ知らないな」
「じゃあちょっとうちよってってくれる?ほわちゃんに電話するから変わってもらうからさ」
ひょんなきっかけから白河と喋る機会が訪れた。なんともびっくりだ。
「巴のうちか。ちょっと久しぶりの気もするな」
「そう?まぁ今は私しかいないから。今更大丈夫だと思うけど・・・ついてきてね?」
俺たちはととの家に向かう事になった。唯笑の家だってあんまいかないのに。女の子の家か・・・。
「なあ、巴・・・ここの通り結構暗いんじゃないか?」
街頭もぽつんぽつんと並んでいるだけで、明かりはあんまりない。住宅地もやや遠いため、
人気も感じられないといった場所だ。あまり一人じゃ通りたくない気もするな。
「そりゃちょっと暗いけど。それがどうかした?」
「いや・・・巴危ないんじゃないかって思ってな。暗い道何かあったら不安だし」
「翔・・・。ありがとう、心配してくれて。でもほら今までなんともなかったんだし大丈夫だよ」
「今までっても・・・。これからない保証もないだろ・・・?」
「それは・・・そうだけど・・・」
確かにこんな場所、女の子一人で歩く場所じゃない。ととはそんなか弱いってキャラじゃないけど・・・それでも不安になる。
「危ないって。俺でよければ送ってくけど。ほら、俺ら家近いしそれくらいなんともないだろ?」
翔の言いたいことが判った。不安な気持ちともう一つ、ととと一緒に帰りたい気持ちもあったからか。
「翔、でも・・・悪いよ」
ととは何か困ったようにしている。いっつもそうだ。自分がそうやって人に迷惑かけてるんじゃないかって気にかけてる。
それで彩花やほたるがいつも遠慮しないでってなんて言ってたんだっけ。変わってないな・・・
「俺と一緒に帰るの嫌ならいいけどさ」
「そんなんじゃない。」
「ほら、とと。俺だってお前が変なのにからまれたらとか思うと嫌だぜ。翔に送ってってもらえよ。中学の時は一緒に帰ってたろ?」
最近あんまり一緒に帰ってないってのが正直ちょっとびっくりなんだけどな。
「うん・・・それじゃオッケーね。翔が変な事したらただじゃおかないからね?」
「するかよ。」
「あははは、冗談だって。それよりもうすぐつくよ」
気づけばもう住宅地だった。会話してるとあっというまだな・・・いつもいつも。
一人だと無駄に長く感じるのに、こうしてるともっとゆっくりつけばなと思う。
「ふぅ、到着。それじゃ二人ともあがってよ。着替えたらほわちゃんに電話するからそれまでくつろいでて」
俺たちはととの案内のもとリビングでくつろぐ事にした。さすがに何度か来て慣れているのでそわそわしたりはしないが・・・
それでもちょっと妙な気分だ。翔とちょっと雑談していると、すぐに私服のととがやってきた。
「それじゃ・・・めんどくさいから、みんなに聞こえるようにするから。そのまま喋れば聞こえるよ」
そういってととは、電話番号を押すとテーブルの上に置いた。
「あ、ととちゃん?」
白河はすぐ出た。電話とはいえこの声聞くのは久しぶりだな・・・。
「ううん、私だけじゃないよ。トミーと翔も一緒」
「よ、久しぶりだな。白河」
「久しぶり、ほたる」
「ほんと久しぶりだねぇ、二人とも」
そういやなんで電話してるんだっけ・・・少なくとも俺は理由はない。
「ほわちゃん、二人に携帯の番号とか教えてないでしょ?」
「あ・・・忘れてた。ごめんね、今教えるからメモ大丈夫?」
翔が書いてくれるからいいか。これならもうととに聞けば安心だ。
白河のメールアドレスと携帯番号を聞きおえる。他に用あったっけ?
「あ、ほたる」
「どうしたの?」
「いや、明日か明後日空いてるかなって思ってな」
ああ、翔が白河に電話したい用があって今こうなってるんだった。
「んー明後日なら空いてるよ?どうしたの?」
「ほたるに相談したい事があるんだ。ほたるじゃなきゃ駄目なんだよ」
「ほたるに・・・?うん、いいよ。それじゃあまた後で翔君に連絡するね」
翔は白河に連絡先を既に教えているので、教えなくて大丈夫だろう。
俺らに連絡するの忘れてたくらいだ。大丈夫っていいきれないかも・・・しれないが。
「ほわちゃんに相談したいことあったんだ」
「ま、まぁな」
「それより、夕飯食べていかない?」
え!?
「巴・・・外食か?」
「違うわよ。うちで食べていかないかって聞いたの。お父さんもお母さんも仕事でいないし、お婆ちゃんも地域の交流会かなんかでいないし。
 一人で食べるのも寂しいから・・・」
「巴・・・いいぞ、俺は」
「俺も丁度腹減ったしな」
というか断る理由がない。ととの料理は美味いし、丁度腹が減ってるし。グッドタイミングって奴だ。
最近親がいない生活になれたせいか、一人で食事を取ることが多いな・・・。
「それじゃとと。俺たちもなんか手伝うぞ。食うだけってのも気が引けるんだ」
俺はなんだか最近むやみに何かしてないといられない。いい加減な事言ってなんもしないことが多かった気がするが・・・
とはいえ、別に悪い事じゃないんだし・・・変わることは良いことだろう?
だが結局あんまり手伝う事もなかった。ある程度最初からできていたようだったし。少しでもととの負担を減らせりゃいいか。
今日は魚料理を作るらしく、魚が見える。これは俺の出番だな!魚を卸すのは俺の得意技なんだぜ!
そういえば・・・大分昔にこんな事したっけな。ありゃかなり小さいころだったと思う。何歳だっけ?
確か四歳の時だな。俺と彩花と唯笑のメンバーで、魚を三枚に卸してたんだ。
お医者さんごっことか勝手に言って・・・四歳の少年が包丁片手に・・・・。さすがに四歳の少女に包丁もたせるの危ないから俺がやってたんだ。
両親が帰ってきた時こっぴどく怒られた気がする。けどなんかうまく卸せてたところはほめられて・・・。
それ以来俺も妙に料理する事自体に興味を持ち始めたんだった。なんか大分懐かしいな・・・。こうしてととや翔と料理してるとその時のようなきさえする。
でも違うのは・・・彩花がいない事・・・。・・・?なんだ今の感じ。妙に寂しい気分だった。
・・・彩花いないって言ったら唯笑もいないのに・・・なんで?
気を取り直して・・・俺は魚を卸し始めた。一心不乱に。ただ目的である魚と戦った。何も言わず。ひたすら・・・。
「おい、智也。どうしたんだよ?なんか変だぞ・・・?」
「魚料理で彩花と唯笑の事思い出したらなんか変な気分になってだな。忘れようとしたってわけだ」
「トミー・・・。ねえ翔、今のトミーってさ」
「・・・巴の言いたいことは・・・大体判る。些細な事でも・・・彩花の事思いだすっていいたいんだな?」
な・・・?何が言いたいんだ・・・?けど・・・そうだな。俺は彩花の事を思い出す頻度が多くなってるのは事実だし。
けど・・・それは単純に恋しいとか寂しいとか・・・我ながら情けないな・・・けどそんなんだと思うんだが。
「なぁ・・・二人とも・・・俺に隠し事多すぎないか?二人だけで納得しないでくれよ!俺だって・・・知りたい事くらいあるんだよ」
「智也・・・判ってくれ・・・お前には今は話せないんだ・・・今のお前には話せない・・・けどいつか必ず話すから」
「いつかじゃなくてだな。今聞きたい・・・そうやって意味ありげに俺の目の前で喋るのはもうたくさんだ」
「駄目・・・今のトミーが耐えられる保障なんて・・・無いよ」
耐えられる・・・保障が・・・無い・・・?翔やととが知ってる事は俺を傷つける事になるって・・・わけなのか?
だとしたら翔やとと、信・・・それに唯笑にみなもちゃんが俺に言わない事があるのは・・・そういうことだったのか!?
そうだとしたら俺は。無理にでも知る事は、みんなの俺に対する想いまで踏みにじる事になるんじゃないか・・・?
「そっか。判った。無理には聞かない。っとなんかやな空気にしちまったな。ほら、飯作らないと。腹減ってるんだって」
「あははっ。そうだよね・・・それじゃはやくご飯にしよっか」
きっと知らなければいいこともあるから・・・俺はそう言い聞かせた。やはりなにか解消されないものもあるけど。
けどこんな気持ちいつまでも抱えてもしょうがない。俺たちは夕飯を作る事に専念していた。
「ふぅ・・・やっと出来たな」
翔が最後の料理を運んできた。これでやっと食べる事ができる・・・って人の家で言うもんじゃないか。
「ありがとね、二人とも。それじゃ、いただきまーす」
ととのいただきますに合わせて俺たち二人も続く。こうしてみんなで食べるの、昼飯くらいしかないからな・・・。
なんだか新鮮なような懐かしいような不思議さを覚えてた・・・。
「ねえ、智也。それ食べないの?」
智也・・・智也・・・?あれ?ととがそんな風に俺を呼ぶっけっか・・・?
「ん・・・それって・・・このサケ?」
「それ以外何があるのよぉ。サケだけ残して食べないつもりなんでしょ?」
なんかととじゃないような・・・むしろ・・・やっぱり彩花・・・?どっちだろうとここは俺の主張をしないと。
「あのなぁ、判らないのか?俺はサケが好物なんだ。だから最後まで残してサケだけで美味しくいただくのだ!」
「まったく智也は変わり者なんだから・・・」
「いいだろ彩花。俺の食べ方ってのがあるんだから」
まったく。好物はあとにとっておくものって相場が決まっているんだから。
「彩花・・・?ちょっとトミーどうしたのよ」
目の前では彩花じゃなくて、ととが不思議そうにこっちを見てた。はて、どういうことだ?
「なんでサケをご飯とかといっしょに食べないのか聞いたのにあーちゃんの名前が出てくるのよ」
サケ食べないのって聞いたのは彩花じゃなくて、ととで・・・。としたらさっきのは・・・?
「ま、いいけど。トミーってそういう食べ方にこだわる方だと思わなかったな」
俺はまた目の前に彩花が一瞬見えたような気がした。どうも俺はなんでかしらんがととを彩花とだぶらせてしまっているらしい。
「なぁ。とと・・・だよな?」
「どうした智也。今日のお前ほんっと調子狂うな」
俺も自分が良くわかんないっての。わからないだらけでパニックにおちいりそうだし。
「いやさ、なんだか目の前に彩花がいたような・・・気がしたんだよ。悪いなとと。なんか彩花とだぶらせてた・・・」
仕草が似てるとかそういうんじゃない・・・感覚的に彩花を見たんだ。なにか妙な感じがまたちらつきはじめてるし。
「はぁ・・・こりゃ重症ね・・・翔」
「そうだな・・・きっかけは判らないが・・・大分きてるぞ」
確かに彩花の事をだぶらせたり考えたり思い出したり・・・。重症かも。
「でもまぁ、気にしないでいいから。トミーはトミーで大変なんだろうし。それより夕飯冷めちゃうよ?」
その後も何度かととを彩花とだぶらせながらも夕食の時間は過ぎていった。何度翔につっこまれたことやら。
「本当に食器とか洗わなくていいのか?」
「平気。普段一人で食べる事が多いだけに逆に楽しかったし。それより暗いから気をつけてね?」
夕飯を食べ終え少しゆっくりしていたが長居も悪いだろうという事で、俺たちは帰ることにした。
食器を洗おうかと提案したのだが、それくらいは一人でやってしまうらしい。まぁ難しい事じゃないけど。
「大丈夫だって。それよりとと、今日はほんと悪かった。」
「だから、気にしないでいいって。それだけあーちゃんがトミーの大切な人だってことでしょ?」
ドクン・・・まただ。どうにも変な気分
「はは、そうかも。それじゃ俺たちは帰るから。食器洗いがんばれよ!なんてな」
「食器洗いはがんばれっていうもんじゃねえだろうが」
「あはは。それじゃまたね!」
こうして俺たちはととの家を後にして帰路につくことにした。
その帰り道・・・
「智也・・・お前本当に大丈夫か?彩花の事変に思い出しすぎると辛いんじゃないか?」
「辛い・・・?なんで辛いんだよ。そりゃ離れ離れは寂しいけど良い思い出じゃないか」
「・・・そうか。ならいいんだけどな・・・。」
最近の俺は周りから見ると大分心配な状態らしい。翔も心配でしょうがないって感じ丸出しなくらいだ。
けど・・・俺が彩花のことをはなすとみんなどうも沈むのは何でだろう。
「それじゃ智也、俺はこっちだから。」
「あ、待てよ。最後にいいか?」
何だか解消されない気持ちは残ったままだった俺は、一つだけ聞いてみることにした。
「俺に話せるのはいつなんだ?本当の事を・・・俺の知らない事を話せるのは。それだけ、教えてくれ」
「・・・智也が真実を受け入れた時・・・だ。忘れてるものを、思い出した時。」
真実を受け入れた時か・・・。真実ねえ・・・。この時すでに真実に近づいてたなんて、俺自身思ってもいなかったんだ・・・。
翔のその言葉が気になったまま、誰もいない自宅へ帰る。そのまま鞄をそのへんに投げ、パジャマに着替える。
特に眠気は起きなかった。時間は・・・まだ21時ちょい過ぎだ。歯でも磨いたりしながらロードショーでも見るか・・・。
途中シャワーも浴びた。映画の内容が飛ぶのはこのさい仕方ない。
気づけば、ちょうど盛り上がってきた所だった。なんだか主人公の過去がよみがえった所らしい。
『俺は守れなかったんだ・・・あいつを・・・。守れなかったから・・・忘れていたんだ。都合のいいように!』
物語はSFで、主人公の幼馴染が何年か前に誘拐されてしまう。主人公は幼馴染を守れなかったショックで・・・。
『何故今頃・・・。俺は・・・俺はっ!・・・せめて・・・せめて無謀でもなんでもあいつを助けにいくことしかでない・・・』
う・・・頭が痛い。心拍数がかなり加速している。都合のいいように・・・都合のいいように・・・。
まさか・・・俺が想い出せない事の多数は・・・何かの拍子に封印しているからなんじゃないのか・・・?
『俺に出来る事・・・二度とこの事を忘れないでいる事・・・あいつを助けても・・・あいつを守る資格なんてないから』
『お前は正真正銘のあほだ。資格なんていらねえよ。出来る事をする、それだけだろ?』
・・・俺と信。不思議とそんな気がした。何か不安にも似たものが近くに迫ってきている気がする。
『怖いんだ・・・拒絶される事が。それに・・・また忘れたりしないか・・・もっと忘れてることがあるんじゃないか・・・って』
『馬鹿だな。あいつはきっと今でもお前の助けを待ってる。俺も手伝うからな、嫌とは言わせないぜ?』
ぽちっ
俺は、テレビのスイッチを切った。これ以上続きを見ていられる気がしなかったからだ。
あのキャラクターに俺の心を代弁されたような・・・見透かされたような気持ちになったからだ。
トゥルルルルル・・・トゥルルルルル・・・
誰だ?こんな時間に。『イナホ シン』子機のディスプレイにそう表示されていた。
普段なら、適当に出るか寝たふりをするか程度なんだが・・・。さっきの映画が俺と信に見えただけあって何か期待して電話をとっていた。
「もしもし?こんな夜中になんだ」
「智也、今の見てたか?」
今の。恐らくさっきの映画の事だろうか?
「今のって・・・?」
「何だ見てないのか?ほら、テレビつけろよ。四チャンネル押せばいいからな」
やはりそうだ・・・さっきの番組だ。言われたとおりにテレビをつけるとさっきの番組が映っている。
『・・・嫌とは言わせないんじゃない・・・。これは俺自身の問題でもあるんだ!あの時すぐそこにいながら・・・何もしなかった』
今度は主人公の仲間のシーンだ。どうやら主人公の知らない所でその幼馴染と関わりがあるようだ。
「智也・・・俺はお前に言わなきゃならない事があるんだ・・・。けどそれはお前を傷つける。だから俺・・・いや俺たちは言わないでいた」
また・・・こういう話・・・
「判ってるよ。俺は知ろうとはしない。それはお前らが俺を想ってやってることなんだろ?」
「まぁな・・・だけどな、今の映画あまりにも俺たちに似すぎてるんだ・・・だから」
似すぎている。やはりそうだ・・・俺が感じたものは気のせいなんかではなかったんだ。
「俺は・・・まだ真実を知らないんだよ。翔の受け売りだがな。ととも言ってた。今の俺に話をしたら耐えられるか判らないって」
「だが言わなきゃならん・・・智也が罪を負う必要なんて何も無いんだからな」
それでも信は喋ろうとした。正直俺は、聞くのが怖かった。翔のいう事もそうだがそれ以前にただ聞きたくなかったという想いが強かった。
「信・・・すまん。今はお前の話は聞けない!」
俺は、電話を切った。
また信から電話がかかって来るんじゃないかと思ったが、意外なことにそれ以降電子音が聞こえる事はなかった。
テレビの台詞が妙に頭に響く。さっきまたつけたんだっけ・・・。テレビの電源を切ると、理由もなく無力に布団の上に体を投げ出した。
ふと、机のほうを見る。勉強なんてあまりしないから、テレビが置いてあって・・・まるでパソコンがある環境になっている。
その横に、まるで釣り合わない物がある事に気が付いた。
透明なビニールに封印されたかのようにつつまれた、真っ白い傘が。そこにはあったんだ。
神聖さを感じられるくらいまぶしい真っ白な傘。俺はそれが彩花の物だとすぐに理解できた。
けど、傘なんてここにあったか?まったく記憶に・・・無い。こんな判りやすい場所・・・テレビの横にたてかけられてるのに。
毎日テレビはぼんやりつけるから、気づかないはずなんてない。けれど俺はここにあることをまるで初めて知ったかのようだった。
ビニールがかかってるのは、ほこりがかぶらないようにだろう。きっと彩花の忘れ物をいつ返してもいいようにああしているだけだ。
けれど・・・何故かその白い傘は寂しさや悲しみといったものを表してるように思えた。何故だか酷く悲しい。
持ち主を失って嘆き悲しむ傘・・・まるでそんな感じだ。一体、何故俺はこんなこと!?
白い傘から目が離れない。思考は思考を呼び、わけがわからなくなってくる。そして判るのは渦巻く不安と焦りのようなもの。
この白い傘は・・・全ての運命の始まりにして終わりだったんだ・・・
薄れていく意識の中俺は何故かそんな事を考えていた・・・。不安を抱えたままに俺は眠りについた・・・



あとがき
どうも、ゲバチエルです。第二章はここまでです。
続いて第三章となるわけですが。授業さぼって相談は、実際にやった事です(笑)
あの時は自分が相談してもらってた方ですが、ほんと感動したので・・・ここに使おうと思いました。
ほんと自分で構成する世界って、自分の体験とか生きてくるなって実感しました。
それではいよいよ真実に近づいてきましたが、第三章もお楽しみください!



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