メモリーズオフLostMemory
ゲバチエル

エピローグ


11月のある一日

「よっおはようさん」
「あ、三上君と彩花。おはよ」
教室に入るとすぐに席が隣であるかおるに挨拶を交わす。
十一月を過ぎて、彩花は勉強の末に澄空へ転入してきた。
過去のいきさつを考慮したのかどうか、俺たちと一緒のクラスだった。
うーむ、担任の伊東はやっぱり良い奴なんじゃないか?なんて思えてくる。
しかしこれでほぼ一ヶ月に一人ペースでうちのクラスに転入生なんだよなぁ。
「三上君、さっき双海さんが探してたよ?」
「えー俺を?一体何のようだろ」
「智也このあいだ詩音さんにハンカチ貸したでしょ。詩音さんが怪我しちゃった時に。
 その事なんじゃないの?」
そういえばそんな事があった気がするなぁ・・・。よく覚えてないけど。
「彩花も大変だねぇ。三上君いっつもこんな調子だからさぁ」
「ううん、もう慣れちゃった。かおるも隣で大変だと思うよ」
「お互い様、だね?」
本人の前でそうやって言うなっての。まぁ気にしてないけど。
「音羽さん、彩花さん・・・あと智也。おはよ!」
「オイコラ!俺をおまけみたいに呼ぶな!」
ったく、随分前にこんな事があった気がするし。
「冗談だろ、まぁそう怒るなって」
「三上君と稲穂君も相変わらずだよね」
まぁ特に目を見張るようは変化があるのも怖い気がするけどな。
「あ、もう教室にいらっしゃいましたか」
「あぁ双海さん。おはよう」
「おはようございます。この間お借りしたハンカチですが洗ってきたのでお返ししますね」
そう言って俺は確かにハンカチを受け取った。
「別に良かったのに」
「いえ、洗って返すのが礼儀って物ですから」
「詩音さん、智也は理屈っぽいから気にしないで。すなおにありがとうって言えないだけだから」
「ふふふ・・・彩花さんは本当に三上さんの事を判ってらっしゃるのですね」
「え、えーと、そんな事ないよ?もう、やだなぁ詩音さん」
彩花は顔を真っ赤にしながら否定する。恋人同士なんだから何を今更・・・って気もするが。
「おっはよー!」
「おはようございます」
今度は唯笑とみなもの登場だ。ってなんでみなもがここに!?
「みなもちゃん、どうしてここに?」
「あの、もう十一月だし今のうちに年賀状の住所聞いておこうと思って・・・」
行動早いなぁ・・・。そういえばもうそんな季節か。
俺たちはみなもの言葉をきっかけに、全員が全員住所を教えあっていた。
はたからみると結構変な状態かも・・・。
やがてみなもが自分の学年へと戻る。
ちなみに手術は成功したらしく、あれからは入退院を繰り返すような事はしていない。
ほんと、身近な所にドナーがいてくれて良かった。それを快く受け入れる彩花も、か。
「ほーら、智也。なぁにぼーっとしてるの?HR始まるよ!」
「だぁぁ!いいだろ別に。判ったよもう」
「はいはい。彩花と三上君の夫婦喧嘩はご馳走様だよ」
「ちょっとかおる!夫婦なんかじゃないよ。ほら智也もなんかいって!」
別にいいじゃん・・・なんていったら彩花にどつかれそうなので言わない事にした。
「彩花がそうやっていちいち反応するからそう言われるんだろ?」
「うっ・・・」
キーンコーンカーンコーン
このまま続きそうな果てしなく、そしてくだらない口論はチャイムによって唐突に終わりを告げた。
ふぅ助かった、と俺は少しだけ安心した。
チャイムにあわせて席につくと、隣のかおるが声をかけてくる。
「一ヶ月前じゃ考えられなかったよね?」
「そうだなぁ。なんだかんだで彩花も一緒のクラスだし」
かおるの言うとおり、一ヶ月前は悩むに悩んでいた。
「そうだね、何っていうか運命的だよね?」
「そーかっこいいもんでもないだろ。俺と彩花と唯笑なんか腐れ縁みたいなもんだぞ」
「あはは、確かに三上君たちの関係だとそっちのほうが合ってるかも」
「だろ?」
なんていつも他愛も無い会話をする俺たち。結局HRはロクに聞いてないので、
後で彩花あたりに教えてもらってたりする。まぁそれはそれでいいのかな。
キーンコーンカーンコーン
そして昼飯の訪れを告げるチャイムが鳴り響いた。
最近は彩花が弁当作ってくれるので購買に行く手間が省けている。
教室を見渡しても彩花は見当たらなかった。他の友達と食べるのかな?
なんて思いながら俺は何処で食べるか考える。信もいないし・・・。
まぁいいか、たまには一人で食べるのもいいだろ。そう思って俺は屋上へ出た。
俺と同じ目的の奴等が何人かいるかと思ったが、11月という寒さの中でそれも少なかった。
なのでのんびり一人で昼食を取る事が可能なわけだ。
たまにはこんなのもありかな。なんて思いつつ彩花の作ってきてくれた弁当を開ける。
「サンドイッチか・・・」
「あ、それあーちゃんの作ってきてくれた奴ね?」
「まぁな・・・ん?」
あれ、誰だ?急に声をかけてきて・・・
「はおっ。」
「なんだ、ととか。」
「俺もいるぞ?」
翔とととが一緒だったどうやらここで昼飯を食べるらしい。
「なんだ、今日はお前一人かよ」
「教室見回しても彩花とかいなかったからさ」
「そうなんだ。じゃあトミー私たちと食べる?」
ちなみにこの二人は仲がいいけど以前付き合うとかには至らないようだった。
「ああ。」
俺たちは屋上で昼飯を食べる。そういえばととや翔とこうやって一緒にあんまりいない気がする。
彩花といる時間が長いからそう感じるだけなのだろうか?
「にしても、トミーとあーちゃんが付き合ってるのを見るとあの時と同じだぁなんて思うんだよね」
「色々あったから余計じゃないか?」
「そうかもね。トミーはどう?」
突然俺にふられても・・・そうだなぁ・・・。
「これが日常なんだって当たり前にしか思ってないよ。
 だって三年前はありえなかったって考えても今は変わらないし」
「智也も変わったぜ?そんな事前の智也からじゃ想像もつかない。
 ま、あんな事があったんだし前はしょうがないっちゃしょうがないけど」
みんな変わったとか言うけど、そう目に見えて変わるもんかね。
「まぁ人は常に変わるって訳で。それより飯食おうぜ?」
「トミーがそう言うならそれでいいんじゃない?」
やはり俺がこうして彩花と普通に付き合っていることは周り、
特に俺や彩花を知っている人にとってはかなりの変化のようだった。
張本人の俺は、日常としか思ってなくて変化といわれてもぴんとこないのだけれど。
何度もそんな事を聞かれる日常にもまた、俺は慣れていた。
別に俺と彩花の事だ。悪い気分じゃないからな。
だけど・・・みんなはただひとつだけ、記憶が完全に戻らないと言う事は知らない。
でもま、知らなきゃいいって事もあるし、戻らなくたってやっていけるさ。
キーンコーンカーンコーン・・・
「お、もうこんな時間か」
一緒に食べているうちに大分時間がたっていたらしい。相変わらず早い。
もう少し昼休みを伸ばしてくれてもいいじゃねえか。
「それじゃあね、トミー。あんまりあーちゃんを放っておいちゃ駄目だからね」
「だいじょーぶだっての」
「あはは、余計なお世話だったかな?それじゃあ翔、行くよ!」
こうして俺たちはそれぞれの授業へ出撃・・・大げさか。することになった。
「智也!私を置いて何処いってたの?」
教室に戻るなり彩花に怒鳴られた。いや、その台詞そっくりそのまま返せるんだけど。
「お前がいないから屋上で昼飯食ってた。サンドイッチ美味かった」
「もぉーそうじゃなくて。でも私がいなかったなら・・・しょうがないね。」
「そーいう事。ほら、授業始まるぞ?」
そして、俺の言葉を待っていたかのようにチャイムが鳴り響く。
「あ、それじゃまた後でね」
ふぅ、やれやれ・・・。
俺はまたしばらく授業の時間に入ることになった。
以前なら眠っていたものだが、彩花とかおるが一致団結したのか、
眠っているととなりのかおるが起こしてくるようになってかえって疲れるのだ。
まぁ、受けてみれば授業もそんなに難しくなかった事が判明したが。
こんな勉強出来ても大して意味が無い気がするけど・・・出来ないよりはましか。
キーんコーンカーンコーン
そして、ようやく解放の鐘が鳴り響く。
よし!帰れる。解放の鐘により俺のテンションは加速していた。
「三上君、相変わらず放課後になると元気いいよね」
「解放された気分だからなっ!」
「解放の鐘って奴・・・?」
「やめとけ、音羽さん。虚言壁は大分直ったみたいけど、馬鹿は治ってないんだ」
こら、一人は呆れて一人は馬鹿って言ってる。少しはこらえろ!
「なるほどね、稲穂君の言うとおりだわ。それじゃぁ私はこのへんで。それじゃーねっ♪」
音羽さんは笑顔で。以前のように陰りある表情を見せること無く帰っていった。
この間屋上で会った時に、「過去とお別れしてきた」って言ってたから、多分あの事を解決したのだろう。
「ほーら、智也。彩花さん待ってるんじゃねえの?」
「言われなくても判ってるよ。じゃあな、信」
「おう」
そういえば信と唯笑は結局どうなったんだろ?まぁ俺が関わる事でもないか。
あいつらはあいつらで何とかするだろう。相談はあっても、だ。
「おーい彩花!帰るぞ!」
「うん、帰ろっ」
朝は彩花と一緒に登校する。たまに唯笑やみなもと一緒に登校することもあるけど、
あの二人が二人の方がいいでしょとか余計な気を使わせてしょっちゅう二人きりだ。
帰りも帰りで二人だ。唯笑は一人で帰ってんのかな?それとも信と・・・?
「なぁ彩花、唯笑最近誰と帰ってるんだ?」
「え?信君だよ、知らなかったの?まだ付き合ってるとかそういうのじゃないけど。」
あの二人はあの二人で仲良くやってるのか。良かった良かった。
「あ!智也君と彩花ちゃん!」
俺たちが丁度購買に差し掛かったときだ。購買のほうから聞きなれた声がした。
「あ、小夜美さんじゃないですか」
「こんにちわ。大学の出席日数大丈夫ですか?」
どうも小夜美さんはここで働く事が楽しいらしく、時折こうして購買へ顔を出す。
けど聞いた話じゃ大学の出席日数が危ないとか何とか・・・。
「うーん、やばいかも。それより最近智也君うちでパン買わなくなったのよね」
「私がお弁当作ってあげてるから―」
「ええ!?彩花ちゃんお弁当作ってあげてるの?」
小夜美さん、そんなに驚かなくても。って突っ込みは置いておく。
「だって、幼馴染で恋人だからそれくらい当たり前かなって」
「智也君にはもったいないくらいの良い子ねぇ。」
「小夜美さん、言いすぎですって」
ほんと言い過ぎ。彩花もフォロー入れてくれよ。
「まぁいいわ、にしてもビックリしたわ。智也君にもう一人幼馴染がいたとは」
「私たち色々あったから・・・それで」
「前に聞いたけど、ほんと奇跡みたいな話よね。でもまぁ智也君が元気になってくれてよかったわ」
「最初からそういえばいいのに・・・」
俺は心の中でそう突っ込んでおく事も忘れない。
「ちょっと、何か言った?」
「いや、別に・・・」
思わず言葉に出していたらしい。無意識って怖いなぁ。
「それじゃぁ小夜美さん、また今度!彩花、帰ろう」
「あ、待ってよ!小夜美さんまた!」」
「ふふ、頑張りなさい少年少女!」
何を頑張るんだ?まぁいいけど。
俺たちはいつものように帰り道を歩いた。
他愛も無い会話をいつものように繰り広げる。
いつものように笑い、いつものように怒ったり。
実に色んな事を繰り返して。俺たちはこの道を歩く。
そして、日常の中で何かを見つけていく。
俺はこんなありきたりな日常も何もかもが貴重な時間だと思う。
たとえ記憶を失っても、失ったなら取り戻せば良い、作れば良い。
ただ、それだけの事だ。だから俺は彩花の記憶が完全に戻らないと知っていても絶望しない。
無いなら新しく作る。それだけで、充分だろ?
誰かを好きになったりするのに理屈は無いから。
こうして俺は、時間を積み重ねていく。そして変わっていくのだろう・・・
「ねぇ智也?来週一緒に遊園地行かない?」
「遊園地?チケットは?」
チケット代って結構かかるから、思わず聞いてしまう。
これでも一人暮らし当然でやりくり大変だからなぁ。
「新聞屋がくれたからタダだよ。ほら、行こうよ」
「遊園地高いからな、助かるよ。それじゃぁ詳しい話は近くなったらでな!」
「良かった、断られたらどうしようかと思ったよ。あ、電車来たよ?」
遊園地。これからもこうやって誘われたり誘ったりして遊びに出かけると思う。
無くした記憶は戻らない。それはとても哀しい事だ。
だからといっていつまでも無くなったものを嘆いていても仕方が無いから。
「ほら、彩花。写真ちゃんと用意して来いよ?フイルムも忘れない事」


彼等の物語は、続く・・・




あとがき

メモリーズオフLostMemory、永きに渡りましたが堂々完結いたしました。
最後に続く、と言ってますが、コレは本当に完結編です。
というのも、書き手の手を離れて智也達の物語は続くという解釈から最後の言葉は来ています。
最後の智也の台詞には様々な想いが込められています。
ここまで書いてきた色々な想いがあの一言に集約されているつもりです。
それがどう言う事か。読んでくれれば感じ取ってもらえたと思うので言いません。
キーワードは写真とフイルムとだけ言っておきましょうか(笑)
LostMemoryの名の示すとおり記憶の物語でしたが、何だかあんまり暗くなりませんでした。
終章はなんだか幸せに満ちててちょっと陳腐な・・・気が自分でもしたりしなかったり。
恋愛モノでもよく考えるのですが、大変なのは関係を確立してからじゃないかなと思うのです。
よくゲーム等をやると確立するまでの過程を描かれますが、
確かに大変です。でもその後に過程をふまえて付き合っていくのですから。
終章やエピローグの最後で語られている智也の言葉はその想いを少なからず込めました。
原作の軸で、でも彩花エンディングがあったらいいなぁ。そんな風に考えたのがきっかけで。
気がつけばこの作品を書き始め、そして今に至る。
一つ書き終えてみると寂しい気持ちもありますが、書き終えられた事に非常に満足しています。
河の終わりは海の始まり。関係確立の終わりは二人の始まり。
そして、作品の終わりは次の作品の始まりであり次へのステップです。
河の行き着く先に広がる物。それが何なのかはまだ判りませんが、必ず次の作品が待っているでしょう。
最後に、この作品に関わってくれた人達、読者の皆さんに
『ありがとうございました』の言葉を送らせてもらいます。
04,8/28 ゲバチエル



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