【イギリスのとある恋人たちのバレンタイン】
鏡丸太
  

 恭也はゆっくりと自分の装備を確認する。
 亡き父から受け継いだ長年の愛刀、己が半身ともいえる刀身を除いた鞘、拵え全てが黒塗りの小太刀『八景』と名も無き無銘の小太刀。
 『HIGS――Hongkong International Guard ervice――香港国際警防部隊』専用戦闘服の各部に隠し持った、投擲用小刀20本と飛針50本。両腕の袖に隠した切断用2番鋼糸と、捕縛用7番鋼糸。
 これは今までの経験から生み出した高町恭也だけの古流剣術、『小太刀二刀・御神流――通称、御神流』の装備だ。
 全てを確認し終えた後、身体の緊張をほぐす様に深呼吸を整え、装備したインカムからの合図が入ると同時に、恭也は待機していた小汚い廃墟の小部屋から気配を殺し出る。
 部屋から出ると同時に、周りの気配を探る。自身を中心とした半径約30mの範囲内のほんの僅かな違和感さえもすくい取る御神の業【心】。
 ガラスの無い窓枠から降り注ぐ夕焼けの日を当たらないように動く。影が出来れば、それだけで敵に自身の居場所を教えてしまう。
 ――……発見する、約30m先の広間――おそらくロビーだろう。数は……12、13、14、15人。まだ、向こうは恭也の接近には気づいてない模様。ならば、先手必勝と。
 気配を消しつつ広間に通じるドアの傍の壁に寄りかかる。タイミングを計る。

 ――……ほんの一瞬、全ての敵の意識がドアから外れる。その隙を逃さない。
 ドアを開けた瞬間、一番傍にいる4人の敵に襲い掛かる。膨大な殺気と共に鞘から解き放たれる2振りの刃が敵の急所を的確に斬りつける。1人、2人、3人、4人、合計4人を一瞬の内に倒した業は抜刀からの4連撃、御神流奥義之六【薙旋】。
 恭也の突入に他の数人の敵が気付くが、マシンガンを構えられる前に持ち手に飛針を投げ付ける。痛みに一瞬動きを止めた所に、一足刀の位置にいる敵に回し蹴りから袈裟斬り、その隣に人体の急所の一つ鳩尾に柄打ち後、背負い投げで陣形を組んでいる敵集団に投げ放つ。
 崩れた陣形をチャンスに小太刀二刀、体術、鋼糸、飛針の変則的かつ目にも止まらぬ神業の連撃で次々と沈黙させる。
 15人全ての敵を倒した瞬間、新たに敵の増援が広間に突入してくる。大半の者なら敵を倒しきった瞬間、気が緩みそれが敗因となるだろうが、恭也は戦闘態勢を解かずいた。故に増援の奇襲にスムーズに対応する。
 自身に銃口を向けられた瞬間、恭也は意識を極限まで高める。脳内でスイッチが切り替わりと同時に世界に色が無くなる。
 御神流奥義之歩法【神速】。
 鼓膜が破裂しそうな音が響くと同時に数十発もの銃弾という死が襲い掛かる。だが、モノクロの世界ではそれらは酷くゆっくりと知覚できる。ゼリー状の空気をかき分けるように重い身体を動かし、数十発もの銃弾を難なく避ける。
 そのまま、【神速】を発動した状態で、敵陣に潜り込んだ瞬間、解除。
 敵から見れば、突然恭也が瞬間移動で現れた様に見えただろう。敵はこれでも、れっきとした歴戦の戦士。だが、彼らとて【神速】という人を超えた業に出会った経験は無い。それでも、恭也の殺気に身体は反射的に反応する。
 だが、それは遅すぎた反応。いや、常人と比べれば、目にも止まらぬ速さ。だが、恭也が振るいし2振りの刃はそれ上回る剣速で、眼前の2人の敵は刃の軌跡の煌きしか捉えられなかっただろう。
 2人が地面に倒れると同時に、敵は倒された仲間を心配せず背中を向けた恭也の姿を捉え、躊躇無くマシンガンの引き金を引き、数十発もの銃弾が再び死を運ぶ。
 だが、それすらも再び【神速】という常識外れの移動法で回避され、銃弾は虚しく朽ち果てた壁に埋まりその役目――死を運び損ねた。
 ことごとく銃弾――死を全て躱した恭也の振るう2振りの刃に、敵たちは成す術も無く完膚無きに斬り伏せられる。
 そして残ったのはリーダーただ一人、彼自身も半ば恭也に負けるという結果は見えているが、それでも歴戦の戦士としての意地が身体を突き動かす。
 手に持っていた既に空のマシンガンを地面に投げ捨てると、懐に隠していた軍用ファイティングナイフで恭也に斬りかかる。洗礼された斬撃。だが、あらゆる変則的な攻撃を主とする御神流の前では、呆気ないほどに弾かれ、ナイフは手から地面へ弧を描くように飛翔。
 カランと乾いた音がなると同時にどさっとリーダーは地面に倒れる。カウンターで右脇腹を斬りつけられた。
 薄れる意識の中、敵リーダーは改めて思い知らされた。人伝いで恭也の実力は知っていた。だが話を聞くのと、実際に見て体験するのでは全く違う。俗に日本で言う諺の一つ、『百聞は一見にしかず』だ。
 そして、とある言葉を思い出す。『世界は広い』と。


「痛たたた、流石はクリステラ上議員のボディーガード『シロウ・タカマチ』の息子であり、あの『鴉』を倒したJapanese Boyだ」
「これでも、既に成人は迎えたんですけどね」
 恭也は苦笑しながら、敵リーダーの手を掴み身体を起こしてやる。まだ受けたダメージが残っているか、足元がふらついているが大丈夫の様だ。
「しかし……恐ろしい強さだよ。おかげでこちらは自信喪失だ」
 敵リーダー、いや、英国の特殊部隊『SAS――Special Air Service――イギリス陸軍特殊空挺部隊』の隊長は自分の部隊の惨状を目にして、落ち込んだ様子を見せる。彼らが落ち込む必要は無い……ただ、御神の剣士を相手にしたのが悪かっただけだ。
 恭也は対銃撃戦の訓練を、SASは噂に名高いクリステラのボディーガードの実力を拝見と、互いに利益が一致した事による合同実戦訓練を、街外れの廃ビルを舞台に執り行われた。
 
 それから2人で、次々と恭也1人に成す術も無く倒された隊員たちを起こす。
 SASが使用したマシンガンの銃弾はゴム弾だが、当たり所が悪ければ死に至る凶器。そして対する恭也は小太刀の刃を返した峰打ち、だがそれでもゴム弾と同じく当たり所が悪ければ死に至るもの。隊員たちが打撲や軽い傷だけで済んだのは、ひとえに恭也の力量の高さ。
 だが、隊員たちにしてみれば自分たちの力量がまだまだ甘いと言われている様なもの。
 今回の訓練の件に関しての報告書を出す予定があるが、恭也はこれからどうしても外せない予定があるので、後日提出という形で早めに廃ビルから出る。
 廃ビルの空き地に止めてあるバイクに乗り、エンジンを駆け自身がボディーガードを務めるクリステラ・ソングスクールに戻る。



 途中、信号機で停止していると突然、ポケットにしまった携帯が鳴り出す。
 着信履歴を見ると、相手は同じソングスクールのボディーガードを務めている同僚のエリスからだ。
「もしもし?」
『恭也!! 大変だ!!』
「どうした!?」
 耳に当てた瞬間に鼓膜に響くエリスの大声に、何らかの緊急事態が起きたと仮定し、状況確認を取る。
 そしてエリスの声からもたらされた事態は、恭也の予想を上回る最悪の事態だった。



 アクセルを全開に回す。交通規制などお構い無しにロンドンの街中を突き進む恭也。一刻も早くフィアッセの元へとバイクを更に加速させる。下手をすれば二度とエンジンがかからなくなるほどの回転数と速度。
 フィアッセが逃亡中のテロリスト犯に捕らわれた。しかも今日、フィアッセと会う約束をしていたホテルでだ。
 本来なら1時間かかる道のりを僅か20分に短縮して到着。ホテルの前にバイクを止めると、ホテルの隣のビルからエリスが出迎える。
「エリス、これは一体!?」
 一刻も早くフィアッセを助け出したい。今の恭也はこの想いに支配されていて、何時爆発して1人で行動を起こしてしまうか危険な状態。
 エリスもそれが分かっていて、詳しい経緯を話す為に、そして如何にしてフィアッセを助け出す案を出す為に、ホテルの隣のビルのとある部屋に、無理やり恭也を連行する。
 部屋には、椅子に突っ伏し酷く落ち込んだフィアッセの母ティオレと問題のホテルの図面を広げているエリスの部下であるデニスの姿が。
「ティオレさん」
「恭也……エリスから聞いたでしょうけど、フィアッセが……」
「はい。それで……」
「分かっているのは、相手がフィアッセ氏を人質に部屋の一室に立て篭もっている事くらいです」
 デニスは犯人が立て篭んでる部屋の図面を見せるように、現状を簡単に説明する。

 事は今から1時間ほど前、ちょうど恭也が街外れの廃ビルでSASと合同実戦訓練を始めた頃。
 一足早くホテルに到着したフィアッセは恭也を待つ為に、係員に部屋の鍵を受け取り部屋に入ったらしい。その後、逃亡中の犯人がホテルに入る。ロビーにいた他の客や従業員が騒ぎを起こさなかったのは、犯人の逃亡から2,3時間しか経っておらず犯人逃亡の情報が警察までにしか行き届いてなかったから。
 そして、誰にも怪しまれずホテル内を歩き回る犯人は、恐らく身を隠す場所としてある部屋にノックした。そう、その部屋こそフィアッセが休んでいた部屋。

 恭也の意識は混沌に混ざり合い、冷静さを失いかけていた。本来なら冷静に状況を分析して、この話の中で一番知らなくてはいけない部分に気付かない。
「警察は……まだ騒ぎを大きく出来ないな……」
「恭也さん?」
「あ、すみません……エリス、デニスさん。……こうなったら、俺たち3人の少数精鋭で一気に」
 混乱した中でも素早く現状の戦力から一番適した作戦を算出した恭也に、それしかないと腹を括るエリスとデニス。

 そこから僅か数分で支度を整える3人。ホテルにいる人たちはまだこの事件を知らずにいるので、スーツの裏に隠せる2人とは違いスーツ姿の恭也は小太刀を背負いにして隠し持つ。
 ここのホテルを予約していたのは恭也で、ロビーで係員から部屋の鍵を受け取る。
 問題の部屋のある階に到着すると、各々三手に別れてフィアッセと犯人がいる部屋に物音を立てずに近づく。
 作戦は気配を消した恭也がドアを開けると同時に奇襲を掛け、犯人が慌ててる隙にエリスとデニスが部屋に入り恭也の援護とフィアッセの安全の確保という、大胆且つシンプルな作戦。
 
「ここか……」
 恭也は気配を殺し、フィアッセの部屋の前でドアに鍵を差し込む。……まだ、回さない。
 皮肉なもので今日の為に用意した舞台が、最愛の人を危機に晒している……。務めて冷静にしていたが、心の奥底では犯人に対して尋常でない怒りが今も込み上げていた。
(絶対に、助け出す!!)
 【心】を使い部屋の内部の様子を探る。1人だけ個室にいて他に気配を感じない。おそらく個室に居るのは犯人、フィアッセは【心】が届かない部屋の奥に捕らわれているのだろう。
 どうやら犯人はシャワーを浴びている様子、逃亡中にしてはいい身分である。そして一瞬の内に作戦を打ち出し、犯人がシャワーから出た、もっとも無防備な瞬間を狙う。
 ――……それから数分後、犯人がシャワーから出てきた。恭也はポケットにしまった携帯の空メールで2人の携帯に合図を送る。
 一度精神を落ち着かせる。そして、小太刀と鍵を握る手に力が入る。鍵を回した瞬間素早くドアノブを回し、無駄なく部屋に突入。
 そして人影が見え、素早く足払いで床に倒し乗りかかり背負いの小太刀を抜こうとした瞬間。
 

 ――恭也の動きが止まる。


 ――何故なら押し倒した相手は。


 ――バスタオル一枚だけのフィアッセだからだ。


 時が止まる。フィアッセはいきなり床に転ばされ上に乗られて、痴漢かと思いHGSの能力を開放しようとしたが、それが恭也だと分かると思考が停止してしまった。
 恭也も同じな感じで完全に固まっている。
 
 時の流れが戻ったのは、フィアッセの一言。
「恭也……その、胸。痛いんだけど……」
 恭也はその言葉にやっと意識を取り戻し、改めてフィアッセの姿を見ると……意識を失いそうになった。彼女は湯上りで身体がポカポカと桃色に染まっており、バスタオルは倒れた拍子で結び目が解け身体を隠す意味を無くしている。
 そして何より、豊満な胸。恭也の手の平が押して形を変えていた。手の平から伝わる肌の暖かさと柔らかさが脳に伝わって、初めて恭也は自分がとんでもない事をしたと理解してすぐに手を引き、素早く離れる。
「……ごめん」
 正座し平謝りする恭也に、フィアッセは起き上がるとバスタオルを巻き直し立ち上がり近づく。
 頭を撫で顔を上げた彼に、気にしてないよと笑顔で許す。

 ガチンッ!

 その時、何時の間にか閉まっていたドアの鍵が閉じる音が。
 恭也は不振に思ってドアに手をかけると開かない。何度、押しても引いても開かず、どうやら外から鍵を閉められた模様。つまり、閉じ込められた。
「ねえ、恭也。一体どうしたの?」
「そういえば、フィアッセ。逃亡中のテロリストは!?」
「えっ? 何それ?」
 恭也の必死の問い掛けに、何の事? と疑問顔のフィアッセ。
「いや、ティオレさんから……」
「ママ!?」
 この瞬間、恭也はやっと気付いた。この事件はティオレが用意した悪戯だと。事件の始まりの状況説明の時に抜けていたのは、どうやってフィアッセが犯人に捕らえられたのを知り得たかだ。
 つまりエリスとデニスも共犯者。外から鍵を閉めたのも2人だ。今思えば、2人とも少し態度がおかしかったが、フィアッセが捕らわれた事で意識が混乱していて見抜けなかった。
 一気に緊張が抜けて、怒鳴るよりも呆れてしまう恭也。
 軽く今回の騒動――ティオレの企んだ悪戯を説明すると、流石のフィアッセも呆れた顔をしてしまう。
「あはははは……あっ! 私、着替えてくるね」
 何時までもバスタオル一枚は風邪を引いてしまので、着替えに部屋の奥のほうに向かうフィアッセ。それを見送ると恭也は自身の手の平を閉じたり開いたり。まだ、柔らかな恋人の胸の感触が残っていた。
 

「お待たせ」
「ああ、お帰!!」
 恭也は驚く、本日何度目の驚きだろうか? 

 ――何故なら、フィアッセの衣装が。
 ――バニースーツだからだ。

 全身の姿を見せるようにクルリと回転するフィアッセ。ウサ耳が流れる髪と共に揺れ、ヒップの尻尾も可愛らしく見える。そして、何より谷間が見える胸元。
 見てはいけないと思いつつも見てしまう恭也。悲しい男の性だろうか。
 衣装に関して答えが予想出来ているが、確認の為に聞いてみる。
「フィアッセ……その格好は?」
「うん、ママにゆうひにアイリーンが用意してくれたの♪」
 ――……絶句。
 確かに予想は合っていたが、フィアッセの親友であるゆうひとアイリーンも一枚噛んでいたのだ。
 更に頭を抱えてしまう。いや、嬉しい事は嬉しい事だが。
「もしかして……嫌だった?」
 上目遣いの涙目で恭也を見上げるフィアッセ。恭也は更に顔が赤くなってしまう。フィアッセを見下ろす形なので、クッキリハッキリと胸の谷間が覗けてしまう。
(駄目だ、み、見ちゃ駄目だ)
 違うと言おうとするが……視線は完璧に胸に釘付け。その際、何やらカードが挟まれているのを見つけてしまう。
 フィアッセは恭也の視線に気付いて恥ずかしながら身体を抱きしめると、カードを抜き取り恭也に渡す。そのカードには英語で「From Your Valentine(あなたのバレンタインより)」と。 
 バレンタイン・カードだ。そう、今日はバレンタイン。
 本来のバレンタインは日本の愛の告白と違い、主に恋人達の日だ。そしてチョコの代わりにカードを送る風習が。
 恭也も本日の為にホテルの予約を取り、フィアッセと過ごそうとしていた。
 カードを受け取り、嬉しさが込み上がる。カードの暖かさに同時に欲望も。だが。なんとか自制心を心構え押さえ込む。
 恭也もカードを渡そうとしたが、カードはスクールの自室に置いてあって、本来なら一度スクールに戻ってから身支度してホテルに来る予定だったからだ。
「ごめん、その、俺もカードは用意したが……」
「ん、良いよ。恭也が私のことをどれだけ大切にしてくれているか、さっきので示してくれたし♪ そうだ、実はチョコレートも用意したんだ♪」
 バックから小さな小箱を取り出し開けると、中には一口サイズのとても美味しそうなチョコが。甘さ控え目のビターチョコ。それは喜ぶべき所だが、生憎甘い物全般が駄目な恭也は少しだけ冷や汗が出る。
 フィアッセはおもむろに一つ摘むと、何故か自分で食べてしまう。口内でチョコが溶けるように舌でコロコロと舐めまわす。
 そして、それを不自然に思いながら見ていた恭也にそっと抱き付き、顔を近づける。
「フィ、フィアッセ!?」
 そして口付けから溶けたチョコを纏った舌を恭也の舌に絡め、熱い濃厚な恋人のディープキスを。
 チョコの甘さよりも、舌のざらついた感触に恭也の意識はチョコの様に熱く甘く溶ける。更に柔らかな胸の感触が、意識が溶ける速度を速める。
 時間にしてみればほんの数秒、だけど2人にしてみれば一日とも一週間ともいえる長さを感じ合う。
 ゆっくりとフィアッセから名残惜しむように唇を離す。ほんのりと赤面した頬が最後の決め手だった。
(もう、駄目だ……フィアッセ!!!)
 恭也の理性は完全に溶け切った。力強くフィアッセを抱き上げるとベットに行き、そのままの状態で柔らかな白いシーツに包まれたベットにダイブ。
 恋人の日――セイントバレンタインデーが行われた。




「ふふふふ、これなら早く孫が見れそうね〜〜」
 ホテルの部屋に前もって設置しておいた隠しカメラの映像を隣のビルの一室にある大画面のモニターで見ながら、優雅にティータイムを満喫する今回の事件、いや、悪戯を企んだ首謀者ティオレは満足な笑みを浮かべる。
 ティオレの後ろには、顔を茹蛸の様に真っ赤にしながらも、食い入るように映像を見ているエリスの姿が。恭也とフィアッセが恋仲である事は知っているが、ここまで熱い関係だと知らず、またエリス自身恋愛関係に疎い故に、2人の熱い行為は刺激がいささか強過ぎ。
 なおデニスは、ホテルでフィアッセの部屋の前で1人寂しくドアを閉じている役割。蛇足だが防音は完璧なので彼には中の様子は全く分からないし、分かりたくも無かった。一応、常識人なデニスだった。
 そして、いよいよ大人の世界に突入する時、突然モニターは何も映さなくなる。いきなりの事に驚くエリス。
 今回の出来事がティオレの仕業なら、必ず何処かに隠しカメラで自分たちの様子を盗み見していると恭也は踏み、フィアッセの甘い行為に意識を溶けさせながらも隠しカメラを場所を見つけ出し、袖に隠し持った小刀を天井に設置してあった隠しカメラに投げ放ち破壊したのであった。
「流石は恭也ね……」
 だが、ティオレはまるで悔しがる様子を見せずにいた。




 翌日、スクールで恭也とフィアッセがエリスに話をしようと呼び掛けると、顔を真っ赤に染めながら一目散に逃げさる。その後、何度か見かけても同じ様に逃げられる。
 不思議に思うが、先日の悪戯にはエリスも一枚噛んでいた筈。となれば、首謀者のティオレの元に急ぐ2人。凄く嫌な予感がするからだ。
 そして、勢いよくティオレの部屋を開けると…………先日の恭也とフィアッセのバレンタインの映像を見ているティオレの姿が。
「ティオレさん!!!!」
「ママッ!!!」
「あら、ばれちゃった♪」


 恭也に隠しカメラを破壊された後、ティオレは手にあるリモコンを操作すると再びモニターに映像が映りだす。先ほどとはまた違う別アングルからだ。
 ティオレはこの悪戯を考え付いた時から、最初に使用していた隠しカメラが破壊されるのを予想済み、そして恭也の裏をかいて別の隠しカメラを設置済みであった。しかも念には念を押して、全部で5台も設置していた。
 相手の2手3手先を読む御神流の遣い手である恭也の先を行くティオレ。悪戯で彼女に勝てるものは……ここ、ソングスクールでは誰も居ないだろう。別段、褒められた事でも無いが。
 こんな事に労力を費やすならもう少し生徒の指導に費やして欲しいものだと、呆れてしまう恭也とフィアッセ。
 そして映像は恭也とフィアッセの大人の世界へと突き進む。これこそが、エリスが2人を避けていた原因。幾らなんでもこれは幼馴染としては凄く気まずいだろう。ましてや、エリスは恭也に淡い好意を抱いていたから尚更だ。
「ティオレさん!!!」
 とても未成年には見せられない問題映像が流れた瞬間、恭也は【神速】でモニターの電源を切りDVDデッキを停止させ、バレンタインの出来事が記録されたDVDを取り出し破壊する。それはもう、二度と復元不可能なくらいに。
「あ〜勿体無い〜」
「ママッ!!」
 

 ――この後、ティオレは教頭兼秘書のイリアの説教を丸2時間受け、エリスがまともに恭也とフィアッセに顔を合わせて話を出来たのは、バレンタインから一週間後の事だった。

 ――尚、その後イリアがエリスと同じ様に恭也とフィアッセにまともに顔を合わせられなかったのは、密かにコピーされていたDVDを見ていたという話があったりなかったり。




 丸太です。
 丸太です。


 今回は電波を受信してしまいました……。
 だって、プロジェクトWDの感想でティオレさんの暴走を見たかったという意見があったから……。


 丸太です。
 最初はバニー着せるつもりは無かったとです。けど、イラストでバニーにしたので合わせる様にと神の声が……。
 ですから、イラストと同時にお楽しみください……。
 
 後、警防部隊の英文は殆どこういう感じと思いながら括ったので。

 以上、某芸人風味の鏡丸太でした。
 ではでは。


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