【ほんの僅かな同じ時間】
鏡丸太

  


「はあぁ〜」
「高町君、溜息なんかついてどうしたの〜?」
「え、月村。溜息、ついてたか?」
「ええ、そりゃ、もう〜、溜息の例えとして教科書に載るほどに見事な溜息だったよ」
 翠屋でいつもの様にウェイターの仕事をしている青年――高町恭也は思わず溜息をついてしまう。それを同じウエイトレスの仕事をしている友人の月村忍が見かけ、話しかける。
 あの恭也が溜息をつき、あまつさえ上の空というのは、短い付き合いだが知り合ってからよく顔を会わせていた忍には大変珍しい事だ。
 しかし当の本人は溜息をついた事を自覚していなく、忍は「高町君でも、上の空になるんだね♪」とからかった後、軽く注意を呼びかけてすぐさま別のテーブルへと向かう。
 忍が去った後、また溜息をついてしまう恭也。気を引き締めないといけないと思っても、またもついてしまう。このままでは、過去に鍛練で寝不足だった時の美由希のように大ポカ―食器の大破―をやらかしてしまう事を恐れる。他のバイトには悪いと思いながら、早めに切り上げる事を厨房の奥でディナータイムの下ごしらえをしている翠屋の店長である母の桃子に告げ許可を貰うと、翠屋のエプロンを外し店から出る。
 
 外に出た後、何の当てもなく散歩をしていると何時の間にか八束神社に足を運んでいた。
「あ、恭ちゃん♪」
「恭也さん、こんにちは」
 既に先客で、妹の高町美由希と彼女の親友の神咲那美が社の前で談笑をしていて、恭也の姿を見ると2人して立ち上がり手を振る。
 恭也は2人の元に歩むと、那美は社務所に向かう。
「那美さん?」
「あ、恭也さんの分のお茶菓子を用意しますから。少し待ってて下さい」
 自分の分は構わないと断ろうとするが、那美は既に社務所に入ってしまい、彼女の折角の好意をむげにするのも何なのでそのまま見送り、既に社に腰を下ろした美由希の隣に座る。
 再び、那美の姿を見てみると、案の定、社務所の玄関のところで転んでいた。思わず笑みが出るが、すぐにまた上の空になってしまう。
「恭ちゃん、もうすぐだね」
 上の空の状態で話しかけられ、何の事だかさっぱり分からずの恭也。
 そんな兄の物珍しい態度に、笑いを堪えながら話の主題を教える美由希。
「フィアッセの誕生日」
「……ん、ああ、……そう、だな……」
 もうすぐ、チャリティーコンサートで海外に渡ったフィアッセ・クリステラの誕生日。
「……もしかして、寂しい? フィアッセがいなくて」
「!!!」
 恭也の歯切れの悪い返事に、美由希は前々から感じていた事をぶつける。すると案の定、ぎくりと反応を示す。
 だが、それを茶化さず、美由希は淡々と自分の気持を告げる。
「私も寂しいよ……恭ちゃんと同じで」
「美由希……。そうだな、寂しいな……フィアッセがいなくて」
「うん。でも、頑張って、歌ってるんだよね……フィアッセ。遠い、海の向こう側で」
 山の上にある神社から、遠い遠い海の果ての地平線の先を見続ける2人。その瞳の先には、同じ歌うたいの魂を持った友人たちと共に世界中の人たちに優しさを想いを込めた歌を歌う、大切な姉のような幼馴染の姿が浮かぶ。
 感傷に浸っていると、那美がお茶菓子を携えて戻ってきた。
 そんな2人を見て何の事か分からず、ただ疑問しか浮かばない那美に、思わず笑いがこぼれる兄と妹。
 

 翌日、高町家の面々、そして友人である忍と那美と勇吾はフィアッセの誕生日プレゼントを用意し、アメリカでチャリティーコンサートの最中であるフィアッセの元に送り届ける事にした。
 当然、この事はフィアッセには秘密。
 そして、恭也が代表としてそれらのプレゼントを郵便局の航空便で送り届けるように注文した。
 実はプレゼントの中身は全員秘密にしており、フィアッセの元に届き彼女からの感想で誰が何をプレゼントしたか分かるという寸法。
 恭也はみんながどんなプレゼントを用意したか気になったが、持ち前の硬い精神で誘惑に打ち勝ち、ちょうどプレゼントがフィアッセの誕生日に届くのを楽しみにしながら、帰路へと赴く。


 そして1月24日。フィアッセの誕生日当日。
 フィアッセたちクリステラ・ソングスクールが訪れているアメリカ、ロサンゼルスでは時差の所為で、まだ彼女からプレゼントが届いた連絡は来ない。
 桃子は電話の前でフィアッセから電話が来るまで待とうしたが、怒り心頭の松尾女史に連行され翠屋へ。美由希、なのは、晶、レンは平日なので学校へ。むろん、那美と忍と勇吾もだ。
 それ故に誰もいないはずの午後の高町家から、何故か1人の男性が出てくる。
 それは恭也。3年の受験生故に早めに学校が終わったり、帰宅したのだった。実の所、無事大学に受かるかは危険な綱渡り状態だが。
「さて、ここまでは計画は順調だな」
 恭也が企んだ計画。それは密かに単身でアメリカに赴き、直接フィアッセの誕生日を祝おうとしたもの。
 これはフィアッセがチャリティーコンサートで日本を離れてから数日後に思いつき、それからこの日の為に綿密な計画を立てていた。
 既に、秘密裏にパスポートを更新し直し、誕生日に着く予定のチケットを用意し、現地での会話の為の英語の勉強―これは受験の為という事でばれなかった―、家族や友人達への言い訳も親友の勇吾に頼んである。
 後は空港に行き、指定のアメリカ行きの便に乗ればいい事。

 タクシーに乗り込み空港へ目指す恭也だが、とある建物が目に入りタクシーを止めてもらう。
 そこは海鳴市の隣にある遠見市のとあるマンション。タクシーから降りると、マンションに入り階段を上りよく知った、何度も行き来した部屋の前に立つ。
 そこは、フィアッセと彼女の親友のアイリーン・ノアが住んでいた部屋。だが2人はチャリティーコンサートでいないので、この部屋は今は使われてはいない。
 これからフィアッセに会いに行くのに、恭也の心は何故か寂しさを感じる。インターホンを鳴らす。軽快な音が鳴るがドアが開く気配は無い。
 分かっているはずだが……それでも……。
「あれ? 恭也、何の用?」
 いきなり背後からよく知った彼女の声を掛けられる。だが今、彼女はここにいない筈。きっと幻聴だろうと淡い想いを消し去り振り返る。
 いた。
 ずっと、会いたかった彼女が立っていた。
 これは夢かと頬をつねるが、痛いと感じる。
 つまり。
「フィアッセ……だよな」
「そうだよ、恭也」
 これは現実。恭也の目の前にいるのはフィアッセ。本来なら嬉しさが沸き立つが、流石に今は脱力感が出てくる。
 それは半年近く掛けての綿密に組み立てた計画があっさりと失敗に終わった事。
 思わず力が抜けてその場に座り込んでしまう恭也に、フィアッセは慌てて駆け寄る。
 脱力する意識の中、一つの結論が出る。
(用意したチケット……無駄になったな……)


 何とか調子を取り戻し恭也は立ち上がるが、目の前にフィアッセがいる事で、いつも以上に気が緩んでしまう。
 兎も角として、何故フィアッセがここにいるか問い詰めると、意外な答えが。
「誕生日には……一番好きな人と過ごしたいからかな」
「それは……」
 恭也もそうしたかったからこそ、計画を立てた。フィアッセも今回の為に、前々から綿密にスケジュールを組み立てていたらしいく、前日の23日にアメリカでのコンサートが終了し終えた直後に夜の便で日本へ。時差で今日の午後に着いたばかり。
 つまり、お互い同じ事を考えていたのだ。
「ははは……出鼻を見事にくじかれたよ」
「それって……」
「こういう事」
 上着のコートのポケットにしまっていたアメリカ行きのチケットを見せて、呆れた表情を見せる。それを見て、フィアッセも恭也がこれからしようとした事を一瞬で理解して、苦笑がこぼれてしまう。
 少し笑いあった後、すぐさまマンションを降りタクシーに乗り込むと、空港行きをキャンセルして藤見台に行ってもらう事にした。
 念の為にフィアッセは正体がばれないように少々変装を。おかげで正体がばれずに済んだが、恭也は運転手にフィアッセとの関係を色々と根掘り葉掘り質問されて一杯一杯。
 おそらく運転手は、恭也がフィアッセを迎えに空港に向かおうとしたが、先にフィアッセが帰ってきたから空港行きをキャンセルしたと踏んだ。それはある意味正解。
 

 藤見台に着くと2人はタクシーから降り、恭也が会計を済ませると運転手から「頑張れよ」と。一瞬、何を頑張るかと考えてすぐに答えが出て、恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
 そんな恭也で楽しむと運転手はタクシーを回し、藤見台から去っていく。
 恭也は赤面しながらも、先に進んだフィアッセの後を追う。そのまま進むと、視界が開き夕焼けで赤く染まった何処までも広がる空と、丘に並ぶ墓地が見えた。
「綺麗だね」
 丘の中心で立ち止まると、フィアッセは夕焼けを見る。
「ああ、綺麗だ」
 半年以上振りの再会故か、恭也には夕焼けを背景に佇むフィアッセの姿がいつも以上に美しく見えてしまい、つい本音がこぼれてしまう。
 そんな言葉聞いたフィアッセは、「私と夕焼け、どっちが綺麗かな?」と悪戯を企んだ笑みで問いかける。
 恭也は悩んだ。これでフィアッセと選んだら、彼女のテンションが上がり更に翻弄されるのが予想される。だが夕焼けと選べば選んだで、逆に落ち込んだフリをしてからかかわれる可能性が高い。
 つまり、どちらを選んでも恭也に勝ち目がない。だから素直に言う。
「夕焼けの中に居るフィアッセが綺麗、だ」
 しかし、流石にこれは恥ずかし過ぎて恭也は顔を逸らす。
 フィアッセの顔が見えないので、どんな反応をしているか分からず。全然返答が無いので、仕方無しに彼女の方を見てみると。
「恭也がこんな気の利いた事が言えるなんて……」
 フィアッセは驚いていた。あの堅物で朴念仁の恭也が、女心を御する事を言えた事が。
「むっ」
 そんなフィアッセの反応に恭也は思わず仏頂面に。慌ててフィアッセは「ごめんね」と、ちろっと舌を出して謝る。
 そして、渋々ながらも仕方ないと肩を落として、表情を緩める恭也。
 これが何時もの2人のやり取り。
 半年以上会えなくても、変わらない2人。
 けど、幼い頃からの関係は一つだけ変わった。
 ゆっくりと、優しく、フィアッセを抱きしめる恭也。
「お帰り……」
「うん」
「……誕生日、おめでとう……そして……生まれてきてくれて、ありがとう」
「……うん」
 それはかつて幼き子供の頃、恭也と美由希の誕生日を祝福したフィアッセと同じ祝福の言葉。
「俺はフィアッセと出会えたから今がある。だから……生まれて、出会えて、ありがとう」
「……うん、私もだよ……恭也、ありがとう」
 体温は寒いけれど、恭也の温かな言葉にフィアッセの心は温まる。
 そして、ほんの一瞬だけ触れ合う2人の唇。
 
「ところで、まだコンサートは終わってないだろう?」
 それから2人でこれまでの事を話し合う。恭也は高町家、那美や忍や勇吾、学校での日々の生活を。フィアッセは母や親友たちスクールの生徒たち、コンサートでの日々の生活を。
 そして、不意に恭也はフィアッセがまだ世界中を回るチャリティーコンサートを終えてないことを思い出す。
「実は、アメリカのコンサートが昨日終えてね。それで私の誕生日祝いも含めて一休みという事でお休みになったんだ♪」
「そうか……って、早く帰らないと、スクールのみんなを待たせてしまうじゃないか!?」
「恭也、日本とアメリカの間にあるものは?」
「え……あ! 日付変更線」
「Yes、正解♪ だから今日の夜、日本を経てば明日の昼頃にアメリカに到着、私は無事、誕生日パーティーに出れる、だよ♪ それに、ママとイリアには書置きを残してあるから、NO Problem♪」
 日付変更線と時差による日本とアメリカの時間のズレ。これがあったからこそ、フィアッセはこのような強行手段をとれた訳である。
 さしもの恭也もこれには脱帽。ある意味、母親譲りの行動力だ。
 ふと、フィアッセの母親でありクリステラ・ソングスクールの校長である世紀の歌姫ティオレ・クリステラが娘の書置きを見て楽しそうにしてるのが目に浮かぶ。
 そして隣では、教頭兼秘書のイリア・ライソンがこめかみをピクピクさせながら、頭を痛めているのも浮かんでしまう。心の片隅で恭也はアメリカに居るイリアを応援をした。
 ふと、視線を横に向けるとフィアッセが何か期待に満ちた眼差しで恭也を見上げる。
「……言っておくが、誕生日プレゼントは無いぞ。もう、みんなの分と一緒にアメリカに送ったから」
「そうなんだ……じゃあ、中身は何か教えて」
「それは俺も知らない」
「じゃあ、恭也の」
「それは……見てからのお楽しみだ」
「む〜〜」
 子供のように頬を膨らませるフィアッセに、少しだけ意地悪な笑みを見せる恭也。
 だが、自信満々な態度にフィアッセはどんな物か心ときめかせる。
 あの恭也が自信を持って用意したものだから。
 
 既に日は落ち、周りは暗闇に覆われた夜。
「クシュン」
 流石に冷え込んできて、フィアッセはくしゃみを。そんなフィアッセに恭也は自分の着ていたコートを羽織る。
 フィアッセが「大丈夫?」と聞かれる前に、恭也は「鍛えてるから」と言う。
「でも、前に風邪、引いたよね」
「うっ……」
 去年の春に風邪を引いた事を切り出され、強く言えない恭也。
 苦し紛れに腕時計を見ると時間は既に午後6時を回っていた。今から空港に向かわないと、フィアッセの帰りの便の時間に間に合わない。
 一瞬、寂しさに支配されてこのままフィアッセを引きとめようという考えが込み上げてくる。でも、それは違う。本来ならフィアッセは今ここには、日本には居ない筈。
 今、フィアッセは自分の夢を叶えている最中だ。それに、ここが、海鳴が、高町家がフィアッセの帰る場所。コンサートが終われば、また会える。だから、今は我慢の時。
(ともかく、早くタクシーを探して空港に)
 フィアッセを抱き上げ藤見台から大通りに出る恭也。
「ちょ、きょ、恭也!?」
 あたふたと慌てるフィアッセ。人並み外れた身体力の持ち主である恭也の全力疾走だから、それは並みの速さではない。だがそれだけでなく、実はお姫様抱っこで抱えられているフィアッセ。
 内心嬉しい事は嬉しいが、ハイスピードの体感と他の人に見られている恥ずかしさで、素直に喜べない。

 それから何とかタクシーを呼び止め、空港に無事到着した2人。
 何故か運良く、否、運悪く、藤見台で別れたはずの同じ運転手で、またも恭也は根掘り葉掘り質問されてしまった。何とか質問から開放されると、先に行ったフィアッセの後を追い空港のロビーに入り、フィアッセの元へ。
 出発時刻を見るとまだ少し余裕があるらしく、ふと近くにある売店を見るとある考えが浮かぶ。
「少し喉が乾いたろう?」
「あ、うん、少し」
「じゃあ、買ってくる」
 恭也は売店に入ると、ホット缶コーヒーを2つ、それにとある物も購入。
 缶コーヒーを手渡すと、フィアッセはそれを頬につけて温める。
 
『○○便、アメリカ、ロサンゼルス行き……』
 フィアッセが乗る便のアナウンスが流れ2人の間に沈黙が流れる。聞こえてくるのは、周囲の雑音のみ。
 フィアッセは立ち上がると羽織っていたコートを脱ごうとするが恭也はそれを手で制する。
「でも」
「後、これ」
 ズボンのポケットから、先ほど売店で購入したある物を差し出す。
「これは……」
「まあ、これは、先行プレゼントな物だ」
「……うん、ありがとう」
 

 ロビーからフィアッセを乗せた旅客機を見送る恭也。 
 旅客機の窓から恭也が居る空港を見るフィアッセ。
 2人はまた必ず会える日を夢見て、今は暫しの別れを感じる。





『Happy〜Birthday〜Fiasse!!』
 1月24日、アメリカ・ロサンゼルスでスクールのみんなが滞在に使用しているホテルにてフィアッセの誕生日パーティーが開かれた。フィアッセは無事、パーティーに間に合った。
 アメリカ全土でのコンサートを終えた事と同時に祝福が行われた。
「おめでとうや、フィー!」
「おめでとう、フィアッセ」
「ありがとう、ゆうひ、アイリーン」
 各々からの祝福の言葉とプレゼントを受け取るフィアッセ。
 後ろから、ティオレと大きなダンボールを持ったイリアが現れた。
「ふふふ、フィアッセ、あなたに素敵なプレゼントが届いているわよ。イリア」
「はい」
 手に持ったダンボールをテーブルに下ろし中を空けると、綺麗に包装された様々な大きさの箱が幾つも出てきた。それは空輸で送られてきたた友人を含めた高町家一同からの誕生日プレゼント。
 それぞれ、高町家の面々に友人の那美、忍、勇吾等の名前が分かりやすく記されていた。
 歓喜の声を響き渡らすフィアッセ。前もって恭也にこの事を聞いていたが、やはり実物を見せられる驚きを隠せず、嬉しく感じでしまう。
 次々とプレゼントを開けてその中身に喜びを出しながらも、とあるプレゼントを探し出そうとする。それは恭也からの秘密と言われたプレゼント。
 だが、恭也からのプレゼントは見つからず、ダンボールは底を見せる。
 もしかして、あれは嘘だったかと。
 そんな考えが一瞬巡った時、会場の部屋の外からノックがして配達員が入ってくる。
「えっと、フィアッセ・クリステラ様は居ますか?」
「あ、はい」
 少し落ち込んだ状態で配達員の前に出るフィアッセ。だが、その状態はすぐに打ち消された。
「日本からの配達です」
 送られて来た荷物の表記は……「高町恭也」だ。急いで配達のサインをし、荷物を受け取ると中身を開ける。
 密かに恭也は、みんなの用意したプレゼントと自分の用意したプレゼントを別々に送ったのだ。それは恭也のちょっとした悪戯心。
 中身は小さな木で出来た質素な小箱。子箱を開けてみると、不意にメロディーが鳴り出す。
「これ……もしかして」
 恭也が用意したのはオルゴール。だけど、ただのオルゴールじゃない。きっとこれは恭也手製のこの世に一つしかないオルゴール。
 何故ならオルゴールから流れる音楽は、かつて幼い頃フィアッセが恭也と美由希に歌った歌。フィアッセ自身が生み出した、歌詞が無く子供じみているけど、温かく優しく包み込むメロディー。
 だからこのメロディーを知っているのは、メロディーを作り歌った本人のフィアッセとそれを聴いた恭也と美由希だけ。
 フィアッセの推測通り、このオルゴールは恭也の手製の品。実はこれも、計画と同時進行で作っていた物。
 何故ここまで手の込んだ物にしたかというと、今年の誕生日は2人が結ばれて始めて迎える誕生日だから。だからこそ、恭也は力を入れて手製のオルゴールに挑んだ。
 楽譜も無く子供の頃の記憶を頼りに、手探りに一つ一つ丁寧に組み立てたので、所々音が外れていてしまっている。不器用だけど、力強く、そして優しさが辺りを包み込むメロディーにフィアッセだけでなく、ティオレやイリア、ゆうひ、アイリーンといった音楽に精通した面々もオルゴールのメロディーに心奪われる。
 不意にオルゴールの蓋の裏に、メッセージカードが張られてあるのを見つける。それには一言『誕生日、おめでとう。そして、生まれきてくれて、ありがとう。俺が世界で一番大切で愛しいフィアッセへ。恭也より』と。
「えへへへへ……ありがとう、恭也」




「あ、フィアッセ? うん、うん」
 翌日、フィアッセから電話でプレゼントの報告を嬉しそうに聞く桃子。
 そして、次々とみんなのプレゼントが判明するが、恭也のだけは教えられなくて拗ねてしまう。
 そんな母の姿を溜息をつきながら恭也の姿を探す美由希。
「あ、恭ちゃん。電話、誰?」
「赤星だ。大学の話を少々な」
「そうなんだ……あれ? どうしたの、そのストラップ?」
 美由希は恭也の携帯にストラップが付いてる事に少し驚いてしまう。恭也の物にしては可愛らし過ぎる物だから。
「ああ、これは買い物のおまけでな。もったいないから付けてるだけだ」



「ん? フィアッセ、そのストラップ、どうしたの?」
 日本に電話をしているフィアッセの携帯に付いているストラップに疑問を持ったアイリーンは、それは何かと問い掛ける。
「ん、じゃあね」
 通話を切り、ストラップを手の平に置くフィアッセ。
「これはね……昨日のお休みの時に買った物だよ」
 嬉しそうに見せられるが、アイリーンは少しおかしく感じる。



 恭也のストラップは、可愛らしい白ウサギの人形。

 フィアッセのストラップは、無愛想な黒ウサギの人形。




「でも、恭ちゃんには少し合わないんじゃないかな?」

「でも、フィアッセには少し合わないんじゃないかな?」


 それは……2人だけの秘密。
「これ」
 恭也が見せたのは、可愛らしい白ウサギと無愛想な黒ウサギの人形。
 それを見たフィアッセはある事を思い付き、黒ウサギを受け取ると自分の携帯に付け、白ウサギを取ると。
「恭也も携帯」
「ああ」
 言われたとおり恭也は携帯を取り出すと、フィアッセは白ウサギを恭也の携帯に付ける。
 フィアッセの黒ウサギは恭也を。恭也の白ウサギはフィアッセを。それぞれ例えている。
「これで、寂しくないよ」
「……そうだな……」
 



「これでいいんだ」

「いいんだよ、これで♪」

 嬉しそうに微笑む。大切な愛しい人の分身を見せながら。




 これは2人だけの秘密のバースデープレゼント。
  




 ……後書きのようなもの

 ……怪伝で遊んでてギリギリ当日に書き上げた鏡丸太です。
 いや、でも、これ書き始めて一週間以内に完成しましたので、個人的には新記録です! 普段は一月以上かけるので。
 ともかく、今回はなんとなく時差ネタで思いつきました。
 まあ、内容は薄っぺらいですけど。
 
 改めて、フィアッセ誕生日、おめでとう♪


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