黒子魔道士 |
ミストフェンリル |
晴れの日。 太陽の光が草花に、土に、そして人々に照らされたそんな日に、一隻の船から1人の男が降り立った。 彼の名はミル、気ままな旅人。 気ままに歩き、集落を見つけては滞在し、時が満ちた時すぐにまた次の旅に出てしまうような、そんな生活に生き甲斐を見出す男である。 そんな彼は今、久しぶりに故郷の地に足を踏み入れた。 「変わらないな、この村は。」 村は彼が以前住んでいた時と同様、とても心地よい雰囲気を醸し出していた。 例えるならその村は綺麗な水だ。 その水は村という囲いで他の地域の水を塞いでいる。 だがその水から一滴を取り出し、他の場所に移してしまえば、その一滴の水はすぐに濁ってしまうだろう。 その村‐ビニアス‐はまさにそのような村であった。 それを思い出したミルは微笑を浮かべ、それから宿に向かう。 「宿屋なら目をつぶってでも行けるな。」 ミルはそう言ったものの、懐かしの故郷をもっとよく見るために結局、それはしなかった。 途中の道はほとんど以前住んでいた時と変わっていなかった。 勿論、外見などは変わっているところは所々ではあるがある。 しかし、そういうものではなく、もっと心に来るイメージのようなものはむしろ以前よりも心地よく感じてしまう。 「いつまでも変わらない故郷・・・か。」 それはミルのような旅人のとってはとても嬉しいものであった。 ひとまず宿に着いた彼はドアを開け、店主を探す。 店主は以前と変わらない中年ほどの男だった。 「やあ、いらっしゃ・・ん?お前、ミルか?」 彼もミルのことを覚えていたようで、ついさっきまで無気力そうだった顔に徐々に生気が満ち溢れていったかのように思える変わり具合だった。 「ええ、お久しぶりですね。」 「なんだよ、帰ってきたのか?村の皆はもう知ってるのか?」 「いえ、ここまで来るのに知人には会いませんでしたから。」 「そうか、それじゃあ知らせておくか?」 「そうですねぇ。」 少し悩むそぶりを見せてから彼は首を縦に振った。 「分かった、今すぐにでも知らせておいてやるよ。」 そう言って本当にドアを開けてすぐに出て行きそうな店主をミルは慌てて止めた。 「え?あ、あの・・・僕の部屋は?」 「好きな部屋使え!」 店主はそれだけ言うともう後ろを向かずに外に飛び出していった。 「まったく、僕は客なんだけどなぁ。売上を盗む可能性だって考えないのかな、無用心だな。」 とは言いつつも、彼はそれはこの村ではいらぬ心配であることを知っていた。 この村は綺麗な水。 にごった水はこの村にやって来たりはしないのだ。 部屋に荷物を置いた彼は、しばらく店主が帰ってくるのを待っていたが、それもあきてしまったので外に出てみることにした。 「さてと、どこに行こうかな?」 ミルは以前の村のマップを頭の中で思い起こした。 そして時間を潰せそうなところを詮索する。 と、そこで彼はまず行かなければならない場所を思い出した。 「そうか、そういえばあそこに行ってなかったな。」 思い立ったが吉日。 彼は多少の準備を済ませるとすぐにその場所に向かった。 その場所は墓地だった。 そこで彼はとある墓を見つけると、その場所まで行き墓標を見つめた。 そこにはこう書いてあった。 「ダニア=フライア、ミレーヌ=フライア両名ここに眠る。」と。 彼らはミルの両親だった。 2人はある日、殺されてしまったのである。 それが原因でミルはこの村を出て行くこととなったわけだが、彼がこの村にやってきたのはそれ以来では始めてのことである。 「父さん、母さん・・・僕は、今でもちゃんと生きてるよ。だから、心配しないでね。」 そう言ってその場から立ち去ろうとした時、彼の目に1人の女性が映り出された。 「君は・・・・・」 「ミル、ミルなの?」 彼女のその問いにゆっくりと頷くミル。 それを見た彼女は突然彼に掴みかかってきた。 「どうして、どうしていなくなっちゃったの!どうしてあの時1人で抱え込んで生きていこうとしたのよ!」 当時はいつまでも平和が続いており、平和は一生続くものなのだと皆が思っていた。 だが、そういったものはいつのまにか音を立てて脆くも崩れ去ってしまうもの。 それは今回においても例外ではなかった。 平和に暮らしていた人々に反旗を翻した種族、魔族。 彼らが一斉に反乱を起こしたのだ。 それはこの村にも現れた。 そして、その時の出来事の犠牲になってしまったのがミルの両親だった。 ミルは幼かったその日から旅に出た。 家に残されていた資金と食料を出来るだけ持ち、村を出たのだ。 全てを捨て、何もかもをなくした上で生きていくために。 ミルに彼女にかけてあげられる言葉はなかった。 そのため、ただ黙っていると、 「ねえ、何か言ってよ。どうして・・・黙ってるのよ。」 ミルは彼女が泣いているような感じを受けた。 別に目が赤いとか、そういう理由ではない。 ただ彼女の放つオーラのようなものが悲しみに満たされているような、そんな感じを受けたのだった。 だからミルは唯一残された手段を使った。 「ごめん、ごめんよ。サリア。」 それを言った瞬間彼女の顔に驚きの表情が浮かんだ。 「覚えてたんだ、あたしの名前。」 「もちろんだよ、君は僕の大切な幼なじみじゃないか。でも僕にとってはよく僕のことを覚えていたなあ、っていうのが正直な感想だけどね。」 「へ?あ、あぁ。それは、その・・・なんとなくよ。」 どことなく弱り果てた様子でいう彼女が何故かとても可愛らしく見えた。 「なんとなく?」 「うん、て・・・なんてこと言わせるのよ!そんなことはどうでもいいの!」 「じゃ、じゃあ何を言えばいいの?」 「う〜ん、そうねぇ。それじゃあさ、旅の話でも聞かせてよ。」 「え?」 予想外の展開に戸惑いを隠せないミル。 一体どういう思考回路を使えば前の会話からいきなり旅の話にすりかえられるのだろうか? 「いいじゃない、教えてくれたって。」 「僕のこと見てもなんとも思わないの?」 「どうして?」 「だって僕は全てを捨てた人間なんだよ。誰も頼らないで生きることを望んだんだ。」 ミルのその言葉にサリアの表情が一瞬曇る。 無論、そんなことをミルが気づくはずはなかったが。 「でも、それでもまた戻ってきてくれたじゃない。さっき言ったことは忘れて。パパにミルが帰ってきたことを聞いた時、つい気が動転しちゃったみたいなの。」 パパ、それは先ほどの宿の店主のことだ。 元々ミルとサリアの家族は仲が良かった。 ミルが宿の位置を誤差もなく覚えていたのも、もう何年も前にいなくなった男を店主が覚えていたのもそのせいである。 「そっか、分かったよ。それで旅の話だっけ?」 「うん、まずはお金のことを教えてよ。仕事は何をやってたの?」 彼女のそんな質問にミルは多少困った表情を浮かべた。 「う〜ん、普通に働いてたよ。」 「ふ〜ん、じゃあさ、定住してたの?」 ミルは彼女の妙にいきいきとした様子に疑問を浮かべた。 なぜ他人の話でそこまで楽しくなれるのだろうか? そこまで考えてミルは以前の自分のことを思い出した。 (もしかしたら、彼女も旅に出たがっているのかもしれないな。) そう考えた彼はしばらく質問には答えずサリアの顔を見つめた。 サリアは彼が村を出て行く時と比べて髪が短くなっていた。 その緑の髪とショートカットは昔よりも活発な女性である、ということを予感させる。 「ねえ、ちょっと聞いてるの?」 「ん?ああ、聞いてるよ。一応定住ではないよ。転々と場所を変えてたからね。」 そこまで言って彼はそれが失言であることに気がついた。 「それでどうやって普通に働けるのよ?」 そう、彼女は昔から勘というものが優れていたのだ。 「えっと、まあ・・・いろいろだよ。」 「はぁ、まあいいわよ。言いたくないのを無理矢理聞こうとはしないわ。」 「そう?ありがとう。」 「ええ、どう致しまして。と、そろそろ家に戻らない?ここにずっといるのも気が引けるわ。」 「そうだね。」 そして2人は再び宿に戻ることにしたのだった。 墓地から宿に戻る途中、2人は外がやけに騒がしくなっているのに気づいた。 それは通常ではありえない雰囲気。 何かが起きている。 そう感じさせるものであった。 「なんだろう?」 「・・・・・・・」 「ん?どうしたの、サリア?」 「・・・・・・・」 ミルの言葉はサリアに届かなかった。 サリアの体が小刻みに揺れるのがミルにも分かった。 「サリア?ねえ、どうしちゃったのさ!」 ミルはサリアの両肩を掴んで、落ち着かせようとした。 サリアは一瞬びくっとしたがそれからは落ち着いたのか、震えは少しずつ収まってきた。 「・・・・ごめんなさい。」 「ううん、いいんだよ。それよりも教えてくれ。一体なにが・・・・」 ミルが現在の状況を聞く前に急に男の悲鳴が響いた。 「な、なんだ?」 「来たのよ。魔族が。あたしたちを殺しにね。」 彼女の言葉にミルは衝撃を受けた。 「な、なんだって?」 ミルは悲鳴が聞こえた方向を向いてみた。 すると1人の男が倒れているのが見えた。 その奥を見ると2人の男がそれぞれ向かい合って立っていた。 1人は魔族、恐らく彼が男を斬ったのであろう。彼の剣には血がついていた。そしてもう1人は、 「人間?」 「許さない、許さないぞヴィンデル!」 「ふん、人間の小僧が。この私に勝てるとでも思っているのか?」 「黙れ!俺は勝つ!お前を倒すんだ!」 「ならば、勇者と呼ばれたお前の実力を見せてみろ。」 「あぁ!勇者様が!!」 「勇者、あの人が?」 「そうよ、あのお方が魔王を倒すと言われているお方よ。」 「ふ〜ん。」 ミルとサリアがそのような会話をしている時、2人は同時に剣を取った。 そして微妙な間合いを作り、それぞれが動かなくなる。 少しの時間、時が止まった。 「・・・・・・・」 「ミル?あたし達、どうなるの?」 サリアは恐怖の表情を浮かべ、ミルを見つめた。 ミルはそんな彼女に笑顔でこう答えた。 「どちらが勝ったって関係ない。僕はこの村の人を守るよ。絶対にね。」 その刹那、勇者が動いた。 「うおおおおぉぉ!!」 それは凄まじい斬撃だった。 恐らく並の兵士ならそれだけでやられてしまうのだろう。 だが、ヴィンデルと呼ばれた魔族はそれを見事に防御した。 「ふん、腕は上がったようだな。だが!」 彼はその剣を弾き、なお斬り付けようとした。 だが、勇者はそれをさらに防いだ。 「負けられるか!」 戦いは一進一退の攻防だった。 その場で居合わせた人なら誰でもその勝負は互角と読むのだろう。 ミルと実際に戦っている彼ら以外の人間なら。 「魔族が勝つな。」 ミルはそう呟いた。 「え?どうして、どう見たって互角じゃない?」 サリアはさも当たり前のようにそう言った。 「それは素人の見解だよ。確かに剣の勝負は互角かもしれない。でも体格や、魔力などを入れて考えればどう考えても実力は魔族の彼の方が上だね。」 「そんな、それじゃああたし達は殺されちゃうの。」 彼女は失意の顔でそう嘆いた。 「・・・・サリア、君はどちらの味方だ?」 「え?」 「どちらが勝てば君は、いやこの村の人は喜ぶんだ?」 「そんなの勇者様に決まってるじゃないの。魔族の勝利を望む奴なんてどこにいるのよ。」 「ふ〜ん。それじゃあ君は魔族は全て敵だと思うんだね。人間に非はないと?」 ミルの意外な質問に目をキョトンとさせるサリア。 「そうは思わないわよ。今の戦争ならどっちもどっちって感じがするわ。けど今この村で起こっていることなら襲い掛かってきた彼に非があるわ。」 サリアはあまり他の人には聞かれないようにこっそりとそう答えた。 それは無理もないことだ。 人間でありながら魔族を庇護したことがばれてしまうといろいろと面倒なことがあるのだ。 それでもミルにそう打ち明けてくれた彼女に、彼は「ほぉ。」と呟いた。 それはサリアには気づかれなかったのだが。 「向こうも仕事だからしょうがないと思うけどなぁ。」 彼は第3者の視点での見解を言ってみた。 「ミル、何が言いたいの?あたし達に死ねといってるの?」 その言葉にミルは誰にも気づかれないほどの小さな笑みを浮かべた。 それはとても、とても冷たい笑みだった。 「大丈夫だよ。君も、村の人も誰も死なない。」 「どうしてそう言えるの?」 「その前に1つ確認したい。君の考えでは今回のケースでは魔族に非があるというんだね?」 「・・・そうね。そもそも彼らが責めてこなければ今ここで起きていることは起きなかった。」 「分かった。大丈夫。皆死なないよ。」 「だからどうして?」 「まあ、見てなって。」 その時勇者の手から剣が離れた。 ヴィンデルが何ならかの魔法を使ったのだろう。 勇者は多少怯んだ形になった。 「ふ、とどめだ。」 ヴィンデルは剣を振り上げた。 その時、ミルは意識を集中させる。 ミルはヴィンデルの利き足に念を込めた。 その念は突風となり、ヴィンデルの足に襲いかかる。 「なんだと!」 彼は驚愕の表情を浮かべ倒れこんだ。 勇者はその隙を突き、剣を取りヴィンデルに向けそのまま振り下ろした。 「がはっ!」 血が勇者の服についた。 その血は人間と変わらない、赤色をしていた。 「どういうこと?確かにミルの言うとおり勇者がやられるはずだったのに。」 他の村人の大歓声の中サリアはそう呟いた。 「ま、どうでもいいじゃない。それよりも宿に戻ろうよ。はやくご飯食べたいし。」 「え、ええそうね。」 「それじゃあ、行こうよ。」 ミルは宿に向かって歩き出した。 サリアはそのあとに付いて行く。 「さっき起きた奇跡のような出来事。」 あの屈強な魔族が突然転んだ。 そしてその前になんとかなると笑顔で言っていたミル。 もしかしたら、 「・・・・フフ、まさかね。」 サリアは笑みを浮かべる。 「どうしたのサリア?はやく行こうよ。」 「うん!」 向こうでは勇者に対する大歓声が発生していた。 それを無視するかのようにミル達は自分達の帰るべき場所に戻っていった。 |
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あとがき どうも、ミストです。 初めての投稿ですが、連載系でいってみることにしました。 実際ファンタジーと現代系のSSのどちらを書くかは迷ったのですが、あまりこういう魔法の世界でのファンタジーがなかったのでこれでいいかなと(割と適当w) これを読んだ方にはそもそも何故黒子なんだと言いたい方いらっしゃいますね。 いや、黒子って何だ?っていう方もいるかもしれません。 黒子って言うのはメモオフコンサートで言うパパイアみたいなもんです(一部ネタ) 簡単に言えば劇などでスタッフが走る時に黒い服で全身を隠して行きますよね? あれです。 つまり役者をサポートする人達のことです。 次回もいつになるかは分かりませんが必ず書きます。 これ以降もわたくしミストフェンリルをよろしくお願い致します。 それでは♪ |
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