● はじめに
この作品はベルゼーとセフィリアを中心にしたオリジナルのSSです。
当然のことながら、本編の設定とは違う箇所がありますのでご了承下さい。
尚、構成は以下のようになっています。

CP1〜CP4     現在
CP5〜CP6     ベルゼー初任務(ベルゼー5歳頃)
CP7         現在
CP8         ベルゼー初任務(エピローグ)
CP9         現在
CP10〜CP12   初めての出会い(ベルゼー17歳、セフィリア7歳頃)
CP13        別れ
CP14        再会(ベルゼー27歳、セフィリア17歳頃)
CP15        セフィリア初任務
CP16        セフィリア初任務(エピローグ)
CP17        ちょっとしたコメディ
CP18〜CP19   ナイツからナンバーズへ
CP20        現在

と、大まかにするとこのようになっています。
参考までに、『BLACK CAT』の本誌設定では
ベルゼー37歳、セフィリア27歳となっています。
それでは拙いSSですが、楽しんでいただけると幸いです。        





BLACK CAT





CP1
キョウコ・キリサキとの話をつけ、
ベルゼーとセフィリアの二人はレッドウォール大峡谷を後にした。
クロノスへ帰るヘリの中で二人は向かい合って座っていた。

セフィリア「ごめんなさいベルゼー」

ベルゼー「・・・いきなりどうしたのだ?」

突然謝ってきたセフィリアに対して、ベルゼーは不思議に思いながら答えた。

セフィリア「先ほどのキョウコ・キリサキの件についてです。
      星の使徒のメンバーは抹殺するように命令されたのに
      逆に身の安全を保障するような事になってしまって・・・」

ベルゼー「・・・気にする事はない」

ベルゼーは一言だけで返した。
セフィリアはベルゼーの反応に不安そうな表情を浮かべていた。
それに気付いたのか、ベルゼーはもう一言付け加えた。

ベルゼー「あの子は自由奔放で天真爛漫な性格が故に、善にも悪にも染まる要素の
     強い子だったと思う。一度踏み外した道をハートネットとの出会いで
     道を戻すきっかけが出来た。これからはあの子は、先ほどあなたが
     言った通り本当に正しいものは何なのか、自分の力をどのようにするかを
     探し、きっと人生を有意義に生きていく事だろう。
     単に抹殺して命を絶つことよりも何倍も良い事だと私は思っているさ」

ベルゼーはそう言って、セフィリアに軽く笑みかけた。
その表情を見たセフィリアは、ほっと胸をなでおろして微笑を見せた。
それを確認したベルゼーは、窓の外に見える大きくて柔らかい雲を見ていた。

セフィリア「あなたは、本当に優しい人ですね。ベルゼー」

セフィリアは、窓の外に目をやっているベルゼーに対して
満面の笑みを浮かべた。

ベルゼー「何の事だか分からんな・・・」

ベルゼーはセフィリアの方に向き直ったかと思うと
すぐに再び窓の外へと目を向けた。

セフィリア「クスクス・・・。あなたは昔から誉められるとそっぽを向きますよね」

ベルゼー「フン・・・」

一時の静寂が訪れる。やがて、セフィリアが何かを思うように話しを切りだした。

セフィリア「思えば、あなたと出会ってから、もう20年になるのですよね・・・。
      覚えていますか?ベルゼー、私達の初めての出会いを」

セフィリアの問いかけに対し、ベルゼーはしばし考えた。
しかし、いくら考えても当のベルゼーには何も思いつかなかったらしく

ベルゼー「・・・悪いが思い出せん」

申し訳なさそうにセフィリアの方を向きながらそう言った。
セフィリアはベルゼーに対し、怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく
ただ、花の香りのように優しい笑みを浮かべて言った。

セフィリア「覚えていませんか?私が7歳の時、お爺様に呼ばれてクロノスに来た時、
      階段から落ちそうになった私を受け止めてくれだじゃないですか」

ベルゼー「ああ、あの時か・・・」
ベルゼーは、軽く相槌を打った。
途端に、セフィリアの笑みは更に明るくなった。

セフィリア「ふふ、思い出してもらえましたか?あの時、あなたは何も言わずに
      私の頭を軽く撫でてその場を去っていったのですよ。
      激しい訓練のせいだったのか、包帯をぐるぐる巻いた血生臭いその手で」

ベルゼー「す、済まない事をしたな・・・」
ベルゼーは、思わぬ過去の出来事に対して慌ててしまい
セフィリアから目をそらしてしまった。

セフィリア「ウフフ・・・。いいえ、むしろ私にはとても印象深い香りでしたよ」
ベルゼー「それだったらいいが・・・」

ベルゼーは相変わらず、セフィリアから目をそらしている。
そんなベルゼーを見ながら、セフィリアは微笑を浮かべて話を切り出した。

セフィリア「あの後、どうしても私はあなたの事が気になってお爺様に尋ねてみました。
      私を助けてくれた金髪の王子様は誰なのか・・・と」

ベルゼー「・・・その時、シュレイズ様は何と言って下さったのだ」

ベルゼーは、少し照れながらセフィリアの方に顔を向けた。
そんなベルゼーの反応に対して、セフィリアは含み笑いをしながら

セフィリア「それが、お爺さまったら『このクロノス内に金髪の男は何人もいるぞ?』と
      不思議なものを見るような目で答えられてしまいました」
ベルゼー「そうか・・・」

ベルゼーは珍しく動揺していて、視線が定まっていなかった。
セフィリアはそんなベルゼーを優しく見ながら話を続けた。

セフィリア「それからというもの、私はクロノス内を駆け回って
金髪の男性を調べていきました。
当時、私の護衛をして下さった者達には迷惑をかけてしまったものです」

セフィリアは相変わらず、必死で笑いをこらえながら話を続けていた。

セフィリア「私のあまりのおてんばぶりに、ついにお爺様はクロノス内の
金髪男性の方を全員私の前に呼び出してしまいまして・・・」

ベルゼー「あの時の集合はそのような主旨だったのか・・・」

ベルゼーは思わぬ過去の事実に対して、考え込んでしまった。
一方のセフィリアは、少し落ち着きを取り戻して話を続けた。

セフィリア「そして、私は32人目でようやくあなたを見つけたのですよ」

ベルゼー「・・・そんな細かなことまで覚えているのか?」

セフィリア「もちろんです!だって、私にとってあの時は・・・」

そこまで言って、セフィリアの言葉が止まった。
そんなセフィリアの様子を不思議に思い、ベルゼーが問いかける。

ベルゼー「あの時が・・・どうしたのだ?」

ベルゼーの問いに対して、今度はセフィリアが動揺していた。
セフィリアは答えを探すように視線を散らばせながら

セフィリア「あの時は、とても印象強い時でしたから」

と、笑顔で応えた。
しかし、その笑顔は自然に出てくるいつのものそれとは違い
どこか違和感のあるものだった。

ベルゼー「・・・そうか」

ベルゼーは、セフィリアの様子をさほど気にせず、静かに言った。

セフィリア「・・・・・・・・・」

ベルゼー「・・・・・・・・・」

再び、一時の静寂が訪れる。
ベルゼーは、先ほどの過去話のせいか、
窓の外を見ながら過去の事を思っているかのように見えた。
一方のセフィリアは、何故か赤くなって、
うつむきながら何かを考え込んでいるようだった。


CP2
ベルゼー「クロノスに入って、もう35年か・・・」

突然、ベルゼーが独り言のように呟いた。

セフィリア「どうかしたのですか、ベルゼー?」

先ほどまでうつむいていたセフィリアが、ベルゼーの呟きに反応した。

ベルゼー「済まない、聞こえてしまったようだな」

ベルゼーが、気付いたようにセフィリアに目を向けた。

ベルゼー「先ほど、あなたと過去話をしてから、ふと自分の過去の事を思ってな・・・」

そう言うと、ベルゼーは静かに溜息をついた。

セフィリア「どのような事を?」

セフィリアが興味を持ったようにベルゼーに問いかけた。

ベルゼー「大した事ではない」

ベルゼーはそっけなく答えた。
セフィリアはベルゼーのそんな態度に対し、少し困惑した表情を見せたが

セフィリア「よければお話してくれませんか?今思えば、私はあなたの過去の事を
      あまり知らないものですから・・・」

と、セフィリアがねだるような目でベルゼーを見つめた。
こういう目をされると、動揺してしまうのがベルゼーの性分なのだが、
この時は、いつもと違い落ち着いていた。
ベルゼーは、少し考えてから口を開いた。

ベルゼー「セフィリア、あなたは私の出生をご存知か?」

セフィリア「ベルゼーの生まれですか?」

セフィリアは、思わぬベルゼーの問いに目を丸くしてしまった。

セフィリア「それは・・・私のアークス家と同じように、クロノス直属の名家である
      ロシュフォール家に生まれたのでしょう?」

セフィリアは、当然のように答えた。
ベルゼーは、セフィリアの問いに対して静かに答えた。

ベルゼー「なるほど・・・シュレイズ様は話されていなかったか・・・」

ベルゼーは、一人で納得したかのように呟いた。

セフィリア「一体、何の事ですか?」

セフィリアは不思議そうな顔で言った。

ベルゼー「・・・私は正当なロシュフォール家の者ではない。
私は戦火の町でクロノスに拾われた、チャイルドソルジャー養成児の一人だ」

セフィリア「チャイルドソルジャーですって!!!」


CP3
チャイルドゾルジャー、それは文字通り15歳に満たない子供を戦場に繰り出す、
あるいは任務を遂行させるといった、子供の精鋭部隊の総称だった。
敵は子供だと思って油断をするなどのような理由で、クロノスでも積極的に導入していた
時代があった。しかし、ほとんどのチャイルドソルジャーは戦場で活躍する事も
ままならず、任務遂行率も低かったため時が経つにつれ、減少の一途をたどっていた。
ついには、子供の権利を訴える世界情勢に押されてしまい
このチャイルドソルジャーの制度をクロノスの禁止事項とした。
それは32年前・・・セフィリアがまだこの世に生まれておらず
ベルゼーが、5歳の時の事だった・・・。

ベルゼーがチャイルドソルジャーの一人だった・・・
あまりにも突然すぎる真実の発覚にセフィリアは複雑な表情を浮かべる。

ベルゼー「驚いたか・・・」

ベルゼーは、静かに言った。

セフィリア「はい・・・とても・・・」

セフィリアは、どこか悲しそうな表情を見せながら答えた。

ベルゼー「そうか・・・。済まなかった、やはりあなたには耳に毒な話だったな・・・。
     今、私が言ったことは忘れるといい」

ベルゼーはそう言って話を止めようとすると・・・

セフィリア「いいえ!忘れる事など出来ません!!」

セフィリアは、いつに無く真剣な眼差しをベルゼーに向けた。

セフィリア「20年近く私を支えてくれた、あなたの事を無碍にする事など出来ません!
      ベルゼー・・・お願いです。あなたの過去を全て私に話してください!!!」

セフィリアは、目に涙を浮かべながらベルゼーに懇願した。

ベルゼー「分かった・・・」

ベルゼーはそう言うと、セフィリアに1枚のハンカチを差し出した。
ベルゼー「とりあえず・・・まずは落ち着いてくれないか」
セフィリア「はい・・・」

セフィリアは涙声で頷くと、溢れ出てきた涙を拭った。

セフィリア「すみませんでした・・・取り乱してしまって。もう大丈夫です」

そう言ったセフィリアの瞳は、とても澄んでいた。


CP4
ベルゼー「幼少の頃の私は、ただひたすら戦闘訓練を重ねられ、毎日のように
     イレイザーとしての教訓を叩き込まれていた。
     『生き残りたければ強くなれ。強くなりたければ殺せ』
これがチャイルドソルジャーとしての鉄則だった」

セフィリア「バルドルやクランツのようですね・・・」

ベルゼーの言葉に、セフィリアは静かに答えた。

ベルゼー「確かにそうだな。だが、チャイルドソルジャーは彼らのように
     抹殺者としてのエリートを育てるカリキュラムではない。
     あくまでも、少しでも役に立つ駒を養成するといったところだな。
     訓練についていけない者は・・・容赦なく殺された。
     あの頃の私は、ただ生き残るためだけに強さを追い求めていたような気がする」

ベルゼーはそう言うと、静かに瞳を閉じた。

セフィリア「さぞ、辛かったのでしょう・・・」

そういったセフィリアの瞳は、再び涙で濡れていた。

ベルゼー「・・・そうだな。辛くないといえば嘘になるな・・・。
     私と同時期に拾われた子供のほとんどは亡くなってしまったからな。
     互いに励まし合ってきた仲間も、私の目の前で殺された・・・。
     しかし・・・一番辛かったのは・・・」

セフィリア「一番辛かったのは・・・?」

ベルゼーのハンカチで目じりを拭っているセフィリアが問いかけた。

ベルゼー「・・・生まれて初めて殺した相手が、敵ではなく仲間だった事だ・・・」

セフィリア「えっ・・・?!」

ベルゼーの言葉にセフィリアは驚いてしまった。

ベルゼー「私が5歳の時、任務である要人の暗殺を命令された。
     私のパートナーは、先の戦闘で片目と片手を失った男だった。
     その男は私にこう言ってくれた・・・」

CP5
     
No.0043「No.0250、僕はクロノスから捨てられた。君も可哀相な子だね。
       僕なんかのパートナーにさせられるって事は、君も捨てられたみたいだね。        でも、大丈夫。君だけは僕が命を賭けて守ってあげるから」

No.0250「はい・・・」

チャイルドソルジャーはコード番号で呼ばれていた。
No.0250、これがベルゼーの幼い時の呼称だった。
No.0043の言葉に対し、幼いベルゼーは静かに頷いた。
やがて2人は、順調にターゲットに接近する事ができ、ついには
ターゲットを追い詰める事が出来た。

ターゲット「ハッ!私を追い詰めたつもりだろうが、よく見れば子供が2人。
      クロノスのチャイルドソルジャーの名前は耳にするが
      こんな奴らを仕向けるとはクロノスも随分私を見くびってくれるものだ」
ターゲットの男はそう言うと、二人に銃を向けた。

ターゲット「こんな半人前。俺でも十分に返り討ちに出来るわ」

No.0043「そんな事はさせない!!」

そう言ったNo.0043はターゲットに突進した。

ターゲット「クッ!」

そう言ったターゲットは、No.0043に発砲した。
2発の銃弾がNo.0043の体に食い込む・・・しかし、それでも
No.0043は突進するのをやめない。
そして、最後の力を振り絞り、ターゲットの背後に回り込み
ターゲットを抑える事に成功した。
No.0043「さあ、No.0250!ターゲットごと僕を殺すんだ!!
        そうすれば、君は生き残る事ができる。さあ、早く!!」

No.0043は血を吐きながら必死に言った。
幼いベルゼーは震えながら槍を手にした。

No.0043「何を躊躇しているNo.0250!!早く殺すんだ!!
        生き残りたければ殺せ!!」

その言葉に幼いベルゼーは意を決したように、槍を握り締め
ターゲットに向かって全速力で駆け寄った。

No.0250「うぉぉーーー!!!」
幼いベルゼーの気迫のこもった一突きは、見事にターゲットの心臓と
後ろにいたNo.0043を貫いた。

ターゲット「グ・・・ハァッ!!!」

ターゲットは大量の血を吐き、そのまま息尽きた。
それを確認した幼いベルゼーは、槍を抜き取り
No.0043の側へとしゃがみ込んだ。
そんな幼いベルゼーを見て、No.0043は微笑んだ。

No.0043「凄いや・・・No.0250。君は僕の半分の歳にも満たないのに
        もう人を殺す事が出来たんだね・・・。
        僕なんか、毎日の訓練についていくのが精一杯で
全然役に立てなかったからなぁ・・・」

そう言ったNo.0043は軽く笑った。

No.0250「No.0043・・・何か私に出来ませんか・・・?」

そう言った幼いベルゼーはNo.0043に対して問いかけた。

No.0043「ははは・・・そんな事を気にする必要はないよNo.0250」

No.0250「でも・・・あなたは私を助けてくれた。何もしないわけにはいきません・・・」

そんな幼いベルゼーの様子を見て、No.0043は考えてから言った。
No.0043「そうだねぇ・・・。No.0250、君、名前はあるのかい?」

No.0250「いいえ。私は赤ちゃんの時に拾われましたから・・・」

幼いベルゼーは、No.0043の問いに対してきちんと答えた。

No.0043「そうかい。僕はねぇ、拾われる前に
ベルゼーって言う名前があったんだよ。
良かったら、この名前を貰ってくれないかな?
そうすれば、僕の名前だけは君の中で生き続ける事が出来るからさ」

No.0250「はい・・・分かりました」

幼いベルゼーはNo.0043の手をしっかりと握り締めた。

No.0043「ありがとう、ベルゼー・・・。
        ベルゼー・・・君はきっと強くなるよ。
だって君は任務遂行の最年少齢記録者だもの。
ベルゼー、こんな環境だけど頑張って生き残ってくれ・・・」

そう言ったNo.0043は静かに息を引き取った。
幼いベルゼーは、No.0043・・・ベルゼーの亡骸を丁寧に埋葬した。

No.0250「ベルゼーさん・・・見ててください。私は生き残ります。
        どんな苦しい訓練にも耐えて見せます!!!
        あなたに貰ったベルゼーの名前を絶対に守って見せます!!!」

そう言った幼いベルゼーは、誰もいない静かな暗闇の中、
亡きベルゼーの墓前で泣き続けていた・・・。


CP6
翌朝、ベルゼーは携帯していた無線で、クロノスに通信した。

No.0250「No.0250です。どうしたのですか・・・?
        指示された時間に迎えが来なかったようですが・・・」

オペレーター「No.0250だと!!!」

No.0250「はい・・・任務、遂行しました。         迎えをよろしくお願いします・・・・」

オペレーター「分かった・・・至急、迎えをよこす」

No.0250「・・・やっぱりベルゼーさんの言った通りだ。
        クロノスは、最初から私たちが殺されると思っていたのか・・・」

そう言った幼いベルゼーは、槍を手にして無線機を突き壊した。
・・・それが、ベルゼーが、生まれて初めて感じた、怒りという感情だった。
やがて、ほどなくしてクロノスから迎えのヘリがやってきた。

教官「No.0250・・・まずは遅れてすまなかった。    然るに当たって、任務遂行の証を見せてもらおうか」

No.0250「この通りです・・・」

幼いベルゼーは、静かにターゲットの首を教官に差し出した。

教官「No.0250、任務遂行ご苦労だった。
   ところで・・・No.0043はどうした?」

No.0250「No.0043は・・・ターゲットもろとも私が殺しました。
        彼はターゲットを押さえ込み、自分もろとも殺すように
        私に志願しましたから・・・」

教官「なんと・・・!」

No.0250「何を驚いているのですか?教官。任務遂行のためには
        何者をも差し置かなければならない・・・これが
        私が教えていただいた鉄則だったはずですが・・・」

教官「う、うむ・・・その通りだ」

教官は、5歳とは思えぬベルゼーの態度に心なしか冷や汗を流していた。

No.0250「教官・・・任務遂行の褒美代わりに、1つお願いがあるのですが・・・」

教官「言ってみなさい」

No.0250「はい。幼い私には力も無いので、No.0043に対して
        立派な墓標を立てることが出来ませんでした」
そう言って、幼いベルゼーは亡きベルゼーの墓標を指差した。

No.0250「彼のために・・・立派な墓標を立てていただけませんか?」

教官「よかろう。さあ、No.0250、ヘリへと戻るのだ!」

No.0250「はい・・・」

幼いベルゼーは静かに頷くと、指示どおりヘリの中へと戻っていった。
途中、亡きベルゼーの墓標の前で一礼をして・・・。

教官「クロノス史上最年少の任務遂行者にして、おそらく最強の5歳児であろうな・・・」
教官は、ヘリに戻っていく幼いベルゼーの後姿を見ながら、静かに呟いた。
バババババ・・・。幼いベルゼー達を乗せたヘリは、
ベルゼーの眠るリノールシティーを後にした・・・。


CP7
ベルゼー「・・・これが、私の最初の任務だった・・・」

ベルゼーは静かに言った。

セフィリア「そうですか・・・。あなたの名前の由来には・・・そのような背景があったのですね・・・」

セフィリアは、相も変わらずベルゼーのハンカチで涙を拭っていた。

セフィリア「ベルゼー・・・1つ聞いてもよろしいですか?」

ベルゼー「ああ・・・」

セフィリアの問いに対して、ベルゼーは静かに頷いた。

セフィリア「あなたは・・・正直に言って、私のお爺様を含む長老会と
      クロノスを憎んでいるのではないですか・・・?」

心なしか、そう問いかけたセフィリアは震えていた・・・。

ベルゼー「そうだな・・・あの時はそう思っていたのかもしれないな・・・。
     だが、それも済んだ事だ。今となっては憎悪の情は抱いていない・・・」

セフィリア「何故です!!クロノスはあなた達を道具のように捨てて
      私のお爺様たちは、そんな事を平気で行っていたのですよ!!!
      私はお爺様が憎くて仕方がありません!!
      だって・・・私の大切なベルゼーに、そんな仕打ちを行っていたなんて・・・」

セフィリアは悲痛の声でベルゼーに訴えた。ベルゼーは、
そんなセフィリアを見て優しく微笑むと、セフィリアの頭に優しく手を置いた・・・。

ベルゼー「あなたは・・・昔から、不条理な事に対しては強く訴える性格だな・・・。
     しかし、セフィリア・・・シュレイズ様・・・お爺様を憎んではいけない」

セフィリア「何故です・・・?」

セフィリアは頭に手を置かれた状態で、涙の流れる目でベルゼーを見つめた。

ベルゼー「シュレイズ様は、チャイルドソルジャー制度を廃止してくださった
     お方だからだ・・・」

セフィリア「え・・・?」

ベルゼーの言葉に、セフィリアの涙は引いていった。
ベルゼーは、セフィリアに優しく微笑み話しを続けた。

ベルゼー「私の初任務の話には、こんな続きがある・・・」

そう言って、ベルゼーは静かに話を切り出した・・・。


CP8
バババババ・・・幼いベルゼー達を乗せたヘリが、クロノス本部へと到着した。
幼いベルゼー達を出迎えたのは、セフィリアの祖父であり、クロノス最高機関
「長老会」の一角を担うシュレイズだった。

教官「こ、これはシュレイズ様」

そう言った、教官をはじめ幼いベルゼー以外の人間は全て一礼した。
ベルゼーは何のことか理解できなかったが、とりあえず皆を真似て一礼した。

シュレイズ「・・・わずか5歳にして、任務を達成したのはお前の事か?」

シュレイズは幼いベルゼーに対して問いかけた。

No.0250「はい・・・」

幼いベルゼーは静かに答えた。
しかし、その瞳はどこか怒りで満ち溢れていた・・・。
そんな幼いベルゼーの瞳を見て、シュレイズは何かを悟ったかのように言った。

シュレイズ「・・・この幼子と2人で話をしたい。皆、この場から去ってくれ」

教官「し、しかし・・・」

シュレイズ「・・・何か不都合でもあるのか」

教官「うっ・・・!」

言葉遣いは静かでも、シュレイズの目の鋭さに、幼いベルゼーを除く
全ての人間が震えだした。 教官「し、失礼致しました!」

そう言って、幼いベルゼーを残し、皆去っていった。

シュレイズ「さて・・・」

先ほどまでの険しい表情を緩めたシュレイズが、ベルゼーに話を切り出した。

シュレイズ「邪魔者はいなくなった。
      ・・・お前の今思っていることを口にするがいい」

No.0250「何故、クロノスは私とNo.0043を捨てたのですか!」

幼いベルゼーはそう言って、手にした槍をシュレイズに向けた。

シュレイズ「・・・捨てたのではない。いや・・・正確には私は知らないと言うべきか・・・」

そう言ったシュレイズは、幼いベルゼーに対して頭を下げた。

シュレイズ「済まない。君たちを今回の任務に派遣させてしまったのは
      全て、私たちの監督不届きによるものだ。
      憎ければ、その槍で私を攻撃するがいい!!」

シュレイズは両腕をバッと広げた。
幼いベルゼーは、シュレイズの思いがけない行動に戸惑ってしまったが
すぐに槍を握りしめ、シュレイズに詰め寄った。

No.0250「ハァァァーーー!!!」

次の瞬間!
ガキィィィン・・・!!!
辺りに響いた音は、人間の体を貫く鈍い音ではなく、
何らかの金属音だった。よく見ると、シュレイズの周囲に矛先の折れた
槍の破片が空気中に飛び散って、やがて・・・
カランカランカラン・・・その破片が地面へと落ちた。
・・・2人の空間に静寂が訪れる。

シュレイズ「何故・・・私を突かなかった?」

シュレイズは足下にかがみこんでいる、幼いベルゼーに対して問いかけた。

No.0250「私には・・・分からないのです。
        確かに、クロノスは私たちを捨てました。
しかし・・・捨てられた私はクロノスによって命を助けられました。
        あの時・・・クロノスが私を拾って下さらなかったら
        私はきっと生きていなかったでしょう・・・。
        それを思うと・・・怒るに怒れなくて・・・」

シュレイズ「そうか・・・」

シュレイズは静かに言った。
No.0250「シュレイズ様・・・もし、私に対して罪の意識をお持ちなら
        1つだけ・・・私の願いを聞いていただけませんか」

シュレイズ「聞こう」
No.0250「もう、このチャイルドソルジャーの制度は止めてください。
        拾って訓練する分には構いませんが、ついていけなかったら殺すとか
        そういうことはせず、せめて大きくなるまで面倒を見てもらえませんか」

シュレイズ「うむ。私も前々からこの制度には反対しておったのだ。
      だが、なかなか他の長老会メンバーの首を縦に振る事が出来なくてな・・・。
      この一件で決心した。お前の望み、しかとかなえよう。
      只今を持って、このチャイルドソルジャーの制度を廃止する」
No.0250「本当ですか?!」

幼いベルゼーは、初めて笑顔を見せた。

シュレイズ「ああ、私の名にかけて誓おう。
      さて・・・制度廃止にあたってお前に名前をあげないとな。
      何が良いやら・・・」

シュレイズがそう言って、あれこれ考えていると・・・。

No.0250「シュレイズ様、私はもう、ベルゼーという名前をいただきました」

シュレイズ「ほう・・・ベルゼーか!良い名だな。はて・・・お前に名付け親はおったか?」

No.0250「いいえ。このベルゼーという名は、私の命を助けてくれた二人目の方・・・
       先の任務で殉職したNo.0043の本名です・・・」

シュレイズ「そうか・・・。お前が良いと言うならそれでいい。
      では、ベルゼー、お前はこれからどうするつもりだ?」

ベルゼー「はい、クロノスに貢献できる人材になれるよう、これからも
     鍛錬を続けます」

シュレイズ「それでは、クロノスに残ってくれるのだな」

ベルゼー「はい。クロノスは私の命を助けてくださいましたから・・・。
     今度は私が、命をかけてクロノスに貢献する番です」

シュレイズ「うむ、期待しているぞ。ベルゼー」

ベルゼー「はい」

シュレイズ「さて、こうなっては早速皆に公表せねばな。
      また忙しくなるわい。ハッハッハッ!!」

シュレイズは声を上げて笑った。

シュレイズ「さて、ベルゼー。私はもう行くぞ」

ベルゼー「はい」

そう言って、ベルゼーはシュレイズに一礼した。
去っていくシュレイズの影が段々小さくなる。
屋上出口の扉に近づいた時、シュレイズが声をあげて言った。

シュレイズ「槍術を鍛え上げたら、いつでも挑戦を受けてやるぞ!」

そう言ったシュレイズは、ベルゼーに対して手を挙げ、屋上を去った。
ベルゼーは、そんなシュレイズに対し、笑みを浮かべながら見送った。
ヒュ〜〜〜ッ・・・ベルゼーの髪を爽やかな風がかき上げた・・・。


CP9
ベルゼー「と、これが私の初任務での全ての話だ・・・」

セフィリア「そうだったのですか・・・」

二人を乗せたヘリの外の景色は、だんだんと西日が差してきていた。
セフィリアの涙は、いつの間にか乾いてしまっていた。

セフィリア「でも・・・やっぱり私はお爺様のことが少し嫌いになりました・・・」

セフィリアがポツリと呟いた。
ベルゼーは、何も言わずセフィリアの方に顔を向けた。

セフィリア「だって・・・お爺様は私の想いを知っていながら
      ベルゼーに関するこんな大切な事を話してくださらなかったのですから・・・」

ベルゼー「あなたの、想い・・・?」

セフィリアの言葉に対し、ベルゼーが問いかけた。
セフィリアは、そんなベルゼーの言葉に我を取り戻したのか
いきなり顔を真っ赤にして、言葉を取り繕うとしていた。
セフィリア「え、あ・・・その・・・何でもありません!!」

ベルゼー「そう・・・か?やけに顔が赤いが・・・大丈夫か?」

セフィリア「は、はい!!」

セフィリアは裏返った声で返事をした。
ベルゼーは心配しながらセフィリアの方を見ていた。

ベルゼー「本当に大丈夫か?やけに額に汗がにじんでいるようだが・・・」

セフィリア「ほ、本当に大丈夫です」

ベルゼー「そうか」

ベルゼーは、優しい微笑を浮かべて頷いた。
セフィリアはそんなベルゼーの笑みに対して、ますます顔を赤くする。

セフィリア「そ、そういえば、どうしてベルゼーは
      ロ、ロシュフォールの名を名乗るようになったのですか?」

セフィリアは、どこか違和感のある口調で話を変えようとした。
ベルゼーは、セフィリアのそんな口調はあまり気にせず、ふと瞳を閉じた。

ベルゼー「その事か。そうだな・・・その話は私が12歳の時になるな」

セフィリア「そうすると・・・私が2歳の時ですね」

ベルゼー「ああ」

ベルゼーが静かに瞳を開ける。

ベルゼー「その当時、本当のロシュフォール家のご子息である
     ザック様が殉職されてしまった。
     ザック様以外に子供がいなかったロシュフォール家は、クロノスでの
10代の若者の中から跡取りとなる養子を選抜することになった・・・」

セフィリア「それで、ベルゼーが選ばれたわけですね」

セフィリアはどこか笑顔を見せていた。

ベルゼー「ああ」

ベルゼーが静かに頷いた。

ベルゼー「ロシュフォール家の養子となった私は、より一層訓練を重ねて
     15歳の時、『時の騎士達(クロノ・ナイツ)』に任命された」

セフィリア「クロノ・ナイツとは何でしょうか?」

ベルゼー「昔の『時の番人達(クロノ・ナンバーズ)』の呼称だ」

セフィリア「まあ!そうしたら、あなたは弱冠15歳で幹部職に就いたのですか!」

セフィリアが驚きと喜びを含めた声で言った。

ベルゼー「まあ・・・そうなるな。しかし、驚く事ではない。
     ハートネットも私と同じように10代で幹部職に就いたのだからな」

セフィリア「でも、ハートネットは18歳、あなたは15歳ではありませんか!」

セフィリアが胸元に拳を握りながら力強く言った。

ベルゼー「3年くらい、大した差ではないと思うが・・・」

ベルゼーはセフィリアの様子に、少し怯えながら答えた。

セフィリア「いいえ!そんな事はありません!
      あなたの方がハートネットよりも数倍立派です!!」

ベルゼーは、セフィリアの珍しい子供っぽい態度に戸惑いつつも
話しを続けた。
ベルゼーは少し困惑した表情を浮かべながらも話を続けた。

ベルゼー「そして、17歳の時・・・あなたと出会った」

セフィリア「あ・・・」

その言葉を聞いた途端、セフィリアは再び赤くなった。


CP10
今日、私はお爺様に連れられてクロノスの本部にやって来ました。
私の家もかなりの大きさでしたが、ここはそれ以上に大きくて
私は胸を躍らせていました。
赤いじゅうたんの敷き詰められた大きな階段、筋の装飾が施された柱時計、
まるでダイヤモンドのように輝いているシャンデリア・・・そのどれもが
生まれて初めて見る別世界のような気分でした。

シェーラ「セフィリア様!危ないですから階段で走るのはお止めになって下さい!!」

セフィリア「大丈夫よ、シェーラ」

私はついつい調子にのって、建物の中を走り回りました。
普段こんな事をしたらお母様にお叱りを受けるところですが
そのお母様は今日、一緒ではありません。それもあったのでしょう。
幼い私は大きな開放感を感じました。しかし・・・

セフィリア「あっ・・・!」

私は天上のシャンデリアに目をやった瞬間、階段から足を踏み外しました。 幼い私の体は、ふわりと宙に浮きました。

シェーラ「セフィリア様!!」

私の護衛であるシェーラが急いで駆け下りてきます。
しかし間に合うはずがありません。
このまま下まで転がってしまうのかな?などと考える間もなく
私の眼下には赤いじゅうたんが迫ってきました。

セフィリア「!!!」

私は何も考える事が出来ずに目を閉じました。
しかし、次の瞬間に感じたものは痛みではなく、暖かなぬくもりでした。

セフィリア「ん・・・」

私はゆっくりと目を開けました。
すると、そこには優しそうな目をした金髪のお兄さんが私を抱きかかえていました。

ベルゼー「大丈夫ですか?お嬢さん・・・」
そのお兄さんはそう言って、私を優しく降ろしてくれました。
そして私に視線を合わせるようにしゃがむと

ベルゼー「ケガはなかったかい?今回はたまたま私が通りかかってお嬢さんを
     助ける事が出来たけど、次からは階段で走ってはいけないよ」

セフィリア「はい・・・」

私は首を縦に振って頷きました。
そして、そのお兄さんは私の頭に軽く手を置くと、そのまま歩き去ってしまいました。 去り際に、お兄さんとすれ違ったシェーラが一礼していました。

シェーラ「セフィリア様!ご無事ですか!?」
シェーラが慌てて私に駆け寄ると、私の体のあちこちを見ていました。

セフィリア「うん、大丈夫だよ」

シェーラ「あぁ・・・良かった。セフィリア様!
お願いですから私の言うことを聞いて下さい!!セフィリア様に何かあったら
大変では済まないのですよ!!」

セフィリア「ごめんなさい・・・シェーラ」

シェーラのあまりにも険しい見幕に、幼い私でも反省しました。
その私の様子を見たシェーラは、取り繕うようにいつもと同じ優しい口調で言いました。

シェーラ「さ、早くお爺様・・・シュレイズ様に会いに行きましょう」

セフィリア「うん!」

私はシェーラの手を取って歩き出しました。
しかし、私の頭の中には先程のお兄さんの事で一杯でした。

セフィリア「ねえ、シェーラ。私を助けてくれたあのお方を知っていますか?」

シェーラ「先程のお方ですか?そうですねぇ・・・。私もあまりここには来ないので
     はっきりとした事は言えませんが、少なくとも隊員ではなく
     幹部の方だと思いますわ。幹部の証であるコートを羽織っていましたから」

セフィリア「幹部?」
シェーラ「幹部と言うのはそうですねぇ・・・簡単に言いますと偉い人の事です」

セフィリア「それじゃあ、お爺様と同じなの?」

シェーラ「いいえ、シュレイズ様と比べたら下の方です。
     セフィリア様のお爺様は、ここでは一番偉い方なのですから」
シェーラは私の質問に優しく答えてくれました。
しかし、ふいにシェーラは私の手を放し顔を伏せてしまいました。

シェーラ「しかし・・・だからこそセフィリア様は
     
これからたくさんの苦労をなさるのですけれど・・・」

セフィリア「どうしたの?シェーラ?」

途端に表情の暗くなったシェーラに対して、私は問いかけました。

シェーラ「あ、いいえ!何でもありませんわ」

シェーラは再び笑顔を見せると私の手を取り直した。

シェーラ「さあ、もうすぐです」

セフィリア「うん!」

私たち2人は、足早にお爺様のもとへと向かいました・・・。

CP11
シュレイズ「ふう・・・おまえのおてんばぶりには困ったものだ」

お爺様は、私を見るなり呆れたように言いました。
無理もありません。だって、私はあれからあのお兄さん・・・
私にとっては素敵な王子様を探すために
連日のようにクロノスに連れてきてもらっては捜索していたのですから。

シュレイズ「セフィリア、その“王子様”とやらの特徴を他には覚えてはおらぬか?」

セフィリア「はい・・・金髪だという事以外は何も・・・」

シュレイズ「やれやれ・・・仕方ない」

そう言ったお爺様は、机の上にあるマイクを取り次のようなことを言いました。
シュレイズ「シュレイズだ。今から伝令を下す。
この建物にいる金髪の者は大至急全員1階大ホールに集合せよ」

お爺様のメッセージが放送された途端、急にあたりが騒がしくなったような気がしました。

シュレイズ「さあ、行くぞセフィリア。お前の“王子様”を探しにな」

お爺様は私を軽々と持ち上げると、そのまま肩に乗せて部屋を出て行きました。
そうして、1階の大ホールへと到着しました。
そこにはものの見事に金髪の皆さんが集っていました。
お爺様が歩く道を開けるように、皆さんが動いていきます。
セフィリア「お爺様。今すれ違った皆さんの中には居ませんでしたよ」
シュレイズ「そうか?おい!私の後ろに居るものは皆下がっていいぞ」
お爺様が指令を出すと、皆さんすぐに従っていました。
改めて私はお爺様の権威を感じてしまいました。

シュレイズ「さあ、セフィリア。思う存分探しなさい」

お爺様に言われた私は、並んでいる皆さんを一人ずつ見ていきました。

セフィリア「違う、違う、違う、違う・・・」

私に違うと言われた人はどんどん下がっていきました。

セフィリア「違う、違う、違う、違う、ちが・・・あ!」

私の目の前には、再びあのお兄さんが立っていました。
いきなり指を指されて驚いていたのでしょうか?
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていました。

セフィリア「お爺様!見つけました!!」

シュレイズ「そうか。残りの者は去っていいぞ!!」

こうして、広い大ホールに埋め尽くされていた金髪の皆さんは居なくなり この広い部屋には私とお爺様、そしてあのお兄さんの3人となりました。 シュレイズ「何だ、セフィリアの“王子様”はベルゼーの事か」
私のもとに歩み寄ったお爺様はそう言いました。

ベルゼー「あの・・・私が何か無礼な事をしたのでしょうか?」

シュレイズ「いや、そうではない。おっと、まだお前には紹介していなかったな」

そう言ったお爺様は、お爺様の後ろに隠れていた私を軽々と抱き上げて
お兄さんの前に立たせました。

シュレイズ「私の孫娘でな、セフィリアという。ほれ、セフィリア、挨拶をせんか」

セフィリア「は、初めまして。セフィリアです。こ、この間はありがとうございました」

私は思わず緊張してしまいました。 もう!お爺さまったら、少しは私の気持ちも考えて下さい!
私が赤くなってうつむいていると、お兄さんは優しい笑みを浮かべて言いました。
ベルゼー「この間は失礼しました。こちらこそ初めまして。セフィリア様。
     ベルゼーと申します」

そう言ったベルゼーさんは、いきなり私の前に膝まずきました。
ベルゼーさんは、膝まずいても私より大きな身体をしていました。
私は何を言っていいのか分からず・・・いえ、ベルゼーさんを見る事が
なんだか恥ずかしくなってきて、いつものように お爺様の後ろに隠れてしまいました。

ベルゼー「・・・どうやら、嫌われたようですね」

違う!違います!ベルゼーさん。
そう言いたかったのに、私の口は開きませんでした。
お爺様のコートを掴む力加減が増したのか、お爺様は私の方にふっと目をやると

シュレイズ「いや、そうではないぞベルゼー。
      セフィリアは人見知りが強くてな。単に恥ずかしがっているだけだ」

そう言って、お爺様は私に笑みかけました。

ベルゼー「それだったらよろしいですが・・・。」

ベルゼーさんはそう言って黙ってしまいました。
一時の沈黙が訪れました。
やがて、ベルゼーさんは何かを思い立ったかのように口を開きました。

ベルゼー「シュレイズ様。すみませんが任務の時間が迫ってきていますので
     用事がお済みでしたら失礼してもよろしいでしょうか?」

シュレイズ「ああ・・・確かモトリオール共和国での任務だったな。」

ベルゼー「はい」

シュレイズ「セフィリア?もう言っておきたい事はないのか?」

お爺様は私の頭に軽く手を置いて言いました。

セフィリア「え?あ、あの・・・」

またお会いできませんか?
・・・たったそれだけの言葉なのに、私はなかなか言う事が出来ませんでした。

シュレイズ「こればっかりはお前にしか分からないからな・・・。
      自分の意思は、自分で伝えるんだ」

お爺様の言葉に、私は意を決しました。

セフィリア「あの・・・また、その・・・お会いできますか?」

精一杯勇気を振り絞っていったのに、私の声は蚊の泣くような
か細い声でした。
しかし、ベルゼーさんはフッと笑みを浮かべて言いました。

ベルゼー「はい。任務が重なっていなければ喜んでお会いしますよセフィリア様」

ベルゼーさんはそう言うと、お爺様に向かって一礼して

ベルゼー「それでは行ってきます。シュレイズ様」

シュレイズ「ああ。まあ、お前なら心配は要らないが、気を付けていけよ。」

ベルゼー「はい。それでは失礼します。」

シュレイズ「うむ」

ベルゼーさんが大ホールの扉に手をかけようとしたとき
ふとこちらを向いて

ベルゼー「失礼します。セフィリア様」

そう言って、ベルゼーさんは私に向かってお辞儀をしてくれました。
それからというものの、私はクロノスに行く度にベルゼーさんに会いに行きました。
ベルゼーさんはどんな時でも私に会ってくれました。
お仕事の後で疲れている時も、どんなに忙しい時でも私の相手をしてくれました。
私は今までクロノスの中には恐い人しかいないと思っていました。
でも、ベルゼーさんに会ってから私のその思いは砕かれました。
私はベルゼーさん以外の人にも自然に挨拶をするようになりました。
私がお爺様という偉い人の孫娘という理由もあったからかもしれませんが
ほとんどの人が普通に挨拶を返してくれました。そうしているうちに、 いつの間にか私の人見知りも少しずつ自然に解消されていきました。
ベルゼーさんとの出会い・・・それが私のこれからの人生を
変えていきました。よりより素晴らしいものに・・・。
かけがえのない、大切なものへと・・・。


CP12
セフィリア「ベルゼーさん、あそこの湖に白鳥がいっぱい居ますよ」

ベルゼー「そうですね、セフィリア様」

今日も私はいつものように、ベルゼーさんに肩車をしてもらって クロノス近くの公園を散歩していました。
ベルゼーさんには本を読んでもらったり、勉強を教えてもらったりしていますが
このお散歩が私にとっては一番のお気に入り。
途中にあるベンチに座って、ご馳走になるアイスクリームもそうですが
こうしてベルゼーさんに肩車をしてもらえる事が何よりも嬉しかったです。

ベルゼー「セフィリア様、アイスクリームはバニラでよろしいですか?」

セフィリア「はい、お願いします」

ベルゼーさんは私に確認を済ませると、すぐにアイスを買いに行きました。
そして、私の所へ戻ってくると

ベルゼー「どうぞ、セフィリア様」

そう言って、私にアイスクリームを差し出してくれました。

セフィリア「ありがとうございます」

私は喜んで受けとると、すぐに食べ始めました。

セフィリア「アイスクリームって本当に美味しいですね、ベルゼーさん」

ベルゼー「そうですね」

ベルゼーさんは静かに答えてくれました。

セフィリア「ベルゼーさんも私くらいの時は、アイスクリームが好きでしたか?」

ベルゼー「え、ええ・・・」

どうしたのでしょう?ベルゼーさんは少し戸惑っているようでした。
そんな事を考えているうちに、私はアイスクリームを食べ終わってしまいました。

セフィリア「ごちそう様でした。ベルゼーさん」

ベルゼー「いいえ」
そう言うと、ベルゼーさんは私の側にしゃがみ込みました。

ベルゼー「さ、セフィリア様。どうぞ」

セフィリア「はい。失礼します」

こうして、私はベルゼーさんの肩車に乗りながら
いつもの道を通って帰りました。

ベルゼー「シュレイズ様」

私たちがクロノスに着くと、お爺様が表で待っていました。

シュレイズ「すまんな。おまえの少ない休み時間を
      セフィリアの相手に費やさせてしまって」

ベルゼー「いいえ」

ベルゼーさんは答えると、私を降ろしてくれました。
シュレイズ「セフィリア、私と一緒に部屋に来なさい」

セフィリア「はい、お爺様」

私は当然のようにお爺様の後をついていきました。

セフィリア「ベルゼーさん。さようなら」

私はベルゼーさんに向かって大きく手を振りました。

ベルゼー「さようなら、セフィリア様」

一方のベルゼーさんは、小さく手を振ってくれました。
それでも、私はとても嬉しかったです。

部屋につくと、お爺様は私を座らせました。
なんだかいつもの優しい感じと違って、今日のお爺様は少し恐かったです。

シュレイズ「セフィリア、大事な話がある」

セフィリア「はい、何でしょう?お爺様」

シュレイズ「明後日から暫くここに来る事が出来なくなる。
      いや・・・お前にはベルゼーに会えなくなると
伝えた方が早いかもしれんな・・・」

セフィリア「え?!」

お爺様の突然の言葉に、私は目を丸くしました。

セフィリア「どうしてですか?!お爺様?!」
シュレイズ「セフィリアよ。何度も聞いてきたと思うが我らアークス家は
      クロノスにおける正式血統で由緒正しき一族だ。       私が今の立場にたっているように、我ら一族はクロノスの上に立つ
      人物にならなければならない。そのためには実力も伴わなければならん。
      残念だが、最も若いアークスの血を継ぐ者はお前しかおらん。
      よって、お前にはアークスの剣術を授けなければならなくなった。       これからお前はこの地を離れ、私と一緒にジパングへ連れて行く。       そこで、お前にアークスの剣術の全てを叩き込むのだ」

セフィリア「そんな・・・」

その瞬間、私の生まれて最高の幸福が、ガラス細工のようにいとも簡単に
砕かれるような思いがしました・・・。

シュレイズ「すまぬな・・・セフィリア。
      私の息子・・・お前の父であるガレイズが亡き今
      アークスの剣術が使えるのはこの世に私しか居ない。
      しかし、私も老いた身。いつこの命が絶えてしまうか分からん。
      お前には早々に伝授する必要があるのだ」 セフィリア「いいえ・・・。謝らないで下さい。お爺様。
      この事はお母様に重々聞かされていたことですから・・・。
      お爺様・・・?」

シュレイズ「何だ・・・セフィリア」

セフィリア「ベルゼーさんには、どれくらいで会えるでしょうか・・・?」

シュレイズ「・・・お前次第だ。伝授が早めに済めばその分だけ
      こちらに帰ってくるのが早くなる。しかし、どんなに頑張っても5年以上は
      かかってしまうだろうな・・・」

セフィリア「そう・・・ですか」
頑張れば頑張るだけ、早く帰ってくる事が出来る。
でも、その間にベルゼーさんが殉職してしまうかもしれない・・・。
そんな不安が私を襲ってくる・・・。何も考えたくはありませんでした。

シュレイズ「明日、ベルゼーへ任務は全く課してはおらん。
      明日1日、思いっきりベルゼーに甘えてくるといい」

セフィリア「はい・・・」
鬱々たる夜が、新月と共に過ぎていった・・・。


CP13
今日も私はベルゼーさんの肩車に揺られて、いつもの公園へと
散歩に連れて行ってもらいました。
辺りは小鳥のさえずりや、柔らかい風が吹いていてとても長閑でした。
・・・いつもなら私はこの瞬間を思いっきり楽しめるのですが
今日は、この長閑な空間が私の心を締め付けてしまいました。

ベルゼー「セフィリア様・・・どうかなさいましたか?」

私の様子の異変に気付いたのか、ベルゼーさんが問いかけてきました。

ベルゼー「どこか身体の調子でも悪いのですか?」

セフィリア「いえ、そういうわけじゃないんです・・・」

だめ・・・抑えようと思っていた感情がこみ上げてきて
私はついに泣きじゃくってしまいました。

ベルゼー「セフィリア様!一体どうなされたのですか?」

ベルゼーさんが困惑したように私に問いかけます。
ごめんなさいベルゼーさん、あなたを困らせるつもりは微塵もありません。

ベルゼー「とりあえず、まずはベンチにでも座りましょう。

そう言って、ベルゼーさんはベンチに駆け寄り、私を優しく降ろしてくれて
ベンチに座らせてくれました。

ベルゼー「一体どうなさったのです?今日は朝から元気がないようでしたが・・・」

ベルゼーさんが私の事を心配してくれている・・・。
その優しさがますます私を締め付けてしまいます。
私はただただ泣く事しか出来ませんでした・・・。

ベルゼー「セフィリア様・・・」

ベルゼーさんは静かに言って、私の頭を撫でたり背中をさすったりしてくれました。
私が泣き止むまでずっと、ずっと・・・。
・・・どれくらいの時が経ったでしょうか?目の前の池には西日が差し始めてきました。
やっと、私の胸の痛みは少しずつですが治まり始めてきました。
いよいよ・・・ベルゼーさんに伝えなければなりません。
私にとっては、とっても辛いお別れの事を・・・。

セフィリア「ベルゼーさん・・・」

ベルゼー「はい、何ですか?セフィリア様」

ベルゼーさんは、私を撫でていた手を戻して、優しく私に答えてくれました。

セフィリア「明日から・・・ベルゼーさんとお会いできなくなりました」

ベルゼー「と、申しますと・・・?」

セフィリア「明日から・・・お爺様と一緒に剣術の修行のため
      ジパングへと行く事になりました・・・」

ベルゼー「そうですか・・・」

ベルゼーさんには全てが分かっていたのでしょう。
淡々と静かに答えてくれました・・・。
でも・・・その態度が、私の心を再び締め付けてしまいました。
どう答えて欲しかったのか、私自身分からなかった事ですが
それでも・・・それでも「行かないで欲しい」と言って欲しかった・・・。
そして、再び私の目に涙がにじんできました。
再び泣きじゃくろうとしていたその時、ベルゼーさんが口を開きました。

ベルゼー「セフィリア様。短い間でしたが、あなたと過ごした事は
     私にとっても良い思い出となりました。
     正直、ずっとこの時を過ごしていたいとは思いますが、それは無理な話です。
     あなた様も、一応クロノスのメンバーなのですからね。
     しかもセフィリア様はアークスの血を継ぐ者です。
     このような形でお別れすることは薄々気付いてはおりました・・・。」

セフィリア「・・・・・・・・・」

私の目にたまっていた涙は一気に流れ出しました。
しかし、それと同時に黒い大きな影が私を覆いました。
そして次の瞬間・・・ベルゼーさんはコートに優しく包み込んだ私を
そっと抱き寄せて静かに言ってくれました。 ベルゼー「セフィリア様。このような言葉であなた様の胸の痛みが取れるかどうか
     分かりませんが、これだけは言わせて下さい。
     セフィリア様が剣術の修行を終えて、この地に帰ってくるまで
     殉職しない事を誓いましょう」

セフィリア「!!!」

それは、まさに私が最も不安に思っていた事でした。
しかし・・・ベルゼーさんの言葉が一気に解消してくれました。

セフィリア「ほ、本当ですか・・・ベルゼーさん?」
ベルゼー「はい」

ベルゼーさんは静かに頷きました。 セフィリア「ふ・・・ふぇぇぇん!!!」

私はまたしても泣きじゃくってしまいました。
しかし、今回は悲しみの悲痛にくれるものではなくて
こみ上げてくる嬉しさによるものでした。

ベルゼー「セフィリア様・・・」

ベルゼーさんは優しく私の頭を撫でてくれました。
そして、私を軽々と抱き上げるとゆっくりと歩き始めました。
いつの間にか、日はすっかり沈んでしまい
空には星が瞬いていました。
だんだんとクロノスの建物が見えてきます。
そう・・・ベルゼーさんとのお別れも、もうすぐなのです・・・。
シュレイズ「帰ってきたか」

ベルゼー「はい」

シュレイズ「セフィリア?」

セフィリア「スー・・・スー・・・」

ベルゼー「どうやら途中で眠ってしまわれたようです。
・ ・・色々と疲れたのでしょう」

シュレイズ「そうか・・・」

ベルゼーは眠っているセフィリアを、シュレイズに託した。

ベルゼー「察するに、今からお立ちですか?」

シュレイズ「ああ、明日を予定していたが・・・早い方がよかろう」

ベルゼー「そうですね」

ベルゼーはそう言って、眠っているセフィリアの頭を撫でた。
セフィリアの寝顔は、とても微笑ましい天使のように可愛らしかった。

シュレイズ「すまぬなベルゼー・・・。お前にはつくづく迷惑をかけたな。」

ベルゼー「いいえ。セフィリア様の件に関しては迷惑ではございません。
     むしろ感謝しております。幼い子供と触れ合う機会を与えて頂いたのですから」

シュレイズ「うむ」

シュレイズは頷くと、セフィリアを車に乗せた。

シュレイズ「では、行ってくる。じゃが、その前に・・・」

そう言った途端に、シュレイズは腰に差していた剣を抜き出した。
その切っ先をベルゼーに向ける。

シュレイズ「私と・・・1本勝負をしろ」
先ほどまで穏やかだったシュレイズの瞳が、いきなり
抹殺者としての冷たく、鋭い瞳に豹変した。

ベルゼー「・・・はい」

ベルゼーが頷くと、シュレイズが合図をした。
すると、車の中からシェーラが何かを抱えて出てきた。
シェーラ「ベルゼー様、どうぞ」

ベルゼーはシェーラから包みを受けとると、それを開いてみた。
中から出てきたのはオリハルコンで出来た1本の槍だった。
      
シュレイズ「これで武器の材質は5分と5分だ。思いっきりかかって来るといい」

2人は構えの姿勢に入った。 サーッ・・・一陣の風が2人の髪の毛を揺らす。
雲に隠れていた月が、雲間から月光を照らし出したその瞬間!
―――――キンッ!!!――――――
常人では計り知れないスピードで2人が衝突した。
しかし、それ以後の動きがない。何故なら・・・最初の衝突で勝負がついたからだ。
フォンフォンフォンフォン・・・ザクッ!
シュレイズの剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。 一方、ベルゼーの槍の矛先はシュレイズの眉間寸前でピタッと止まっていた。

シュレイズ「見事だ・・・ベルゼー」

ベルゼー「・・・恐れ入ります」

そう言って、ベルゼーは槍をシュレイズの眉間近くから元に戻した。

シュレイズ「お前に槍を向けられるのも・・・これが最後だな」

シュレイズが静かに言った。

ベルゼー「シュレイズ様・・・それは、どういう・・・」

シュレイズ「ベルゼー」

ベルゼーの言葉をシュレイズが遮った。

シュレイズ「皆まで言うな・・・ベルゼーよ。
      お前を分かっているだろう?私も所詮は年寄りなのだよ。
      私の命も長くはない。恐らく・・・この地に二度と帰ってこないであろうな」

ベルゼー「・・・・・・・・・」

シュレイズ「ベルゼー・・・いや、クロノス最強のイレイザーよ。
      私の・・・最後の願いを聞いてはもらえんか?」

ベルゼー「はい、何なりとお申し下さい」

ベルゼーの言葉を聞くと、シュレイズはふっと笑みを浮かべた。

シュレイズ「クロノス・・・いや・・・セフィリアをよろしく頼む」

ベルゼー「分かりました」

ベルゼーがそう言って頭を下げる・・・すると

シュレイズ「感謝する」
なんと、シュレイズがベルゼーに向かって頭を下げた。
突然の出来事にベルゼーは固まってしまった。
シュレイズは頭を上げると、そのまま車の方へと歩いていった。
そして、車に乗り込む寸前にベルゼーのほうを振り向き静かに言った

シュレイズ「ベルゼー・・・お前と出会えて良かった」

その言葉を最後に、セフィリアを乗せた車は去っていった。
空の雲は晴れ、月光が優しく辺りを照らしていた。
ベルゼーは一人、何も言わずにクロノスへと戻っていった・・・。


CP14
セフィリア「やっと・・・戻って来る事が出来ましたね・・・」

私は飛行機から降りるなり、そう呟きました。
あれから10年、私はお爺様と一緒にジパングで剣術の修行に励みました。
ようやく私はアークスの剣術の全てを習得する事ができましたが、
お爺様は私にアークスの剣術を授けると、そのまま帰らぬ人となりました・・・。

シェーラ「お帰りなさいませ。セフィリア様」

セフィリア「ただいま・・・シェーラ」

私は無意識的にシェーラに抱きつきました。
昔はシェーラの膝辺りを両腕で包み込んでいましたが、
今では腰に手を回せるくらいになりました。
しばしの抱擁を終えると、シェーラが車のドアを開けました。

シェーラ「さあ、セフィリア様。最長老・・・ウィルザーク様がお待ちです」

セフィリア「はい・・・分かりました」

私はそう言って、静かに車へと乗り込みました。
車窓から見える景色は、この10年間で色々な所が変わっていました。
しかし・・・クロノスの近くにある公園は、今でもしっかりと残っていました。
あの大きな池も、大きな木も・・・幼い頃の私が見た光景と変わっていませんでした。
少しずつクロノスの建物が見えてきた時、
私は一番気になっている事をシェーラに尋ねました。

セフィリア「シェーラ?」

シェーラ「はい、何でしょう?セフィリア様」

セフィリア「その・・・ベルゼーさんは・・・どうしていますか?」

シェーラ「ベルゼー様ですか?心配ご無用ですよセフィリア様。
     あのお方はとても元気です。ただ、今は任務中で本部にはいらっしゃいません。
     しかし、セフィリア様のご帰還の伝令は伝わっておりますから
     夕方までには帰ってくるかと思いますよ」

セフィリア「そうですか、ご無事でよかった・・・」

ああ!本当は今すぐにでもベルゼーさんに会いたい!!
私の胸の中はその思いでいっぱいでした。
ベルゼーさんは私の事を覚えていらっしゃるでしょうか?
きっと、この10年間でもっと素敵になっているのでしょうねぇ・・・。
そんな事を考えると、不謹慎ですが私の顔は緩んでしまいました。

セフィリア「ウフフフ・・・」

私は思わず含み笑いをしてしまいました。 しかし、いつまでも緩んでいるわけにはいきません。
私も今日からは正式なクロノスの隊員となるわけですから。 まずはお爺様後任の最長老、ウィルザーク様に挨拶をしなければいけません。
それを思うと、私の顔は次第に引き締まっていきました。

シェーラ「セフィリア様、着きましたよ」

そう言ってシェーラは車の扉を開けた。
私が車から降りて見た10年ぶりのクロノスは、相変わらず
荘厳な雰囲気をかもし出している、大きな黒張りの建物でした。
私は何も言わずに中へと入っていきます。
私を乗せたエレベーターは、一気に最上階へと上っていきました。

シェーラ「セフィリア様、ウィルザーク様はこの部屋の中にいらっしゃいます。
     私の案内はここまでです」

セフィリア「ご苦労様でした。シェーラ」

私はシェーラに微笑みかけました。

シェーラ「それでは、失礼します」

そう言って、シェーラはエレベーターで下に降りてしまいました。
いよいよですね・・・私は振るえる手で扉をノックしました。

「入りなさい」
その言葉を聞くと、私は恐る恐る中へと入っていきました。
が、その中は私の想像とは裏腹に、大きなディスプレイがあるだけで
そこにウィルザーク様と思われる方が、ディスプレイに映っているだけの部屋でした。
ウィルザーク「お前が、シュレイズの孫・・・セフィリア・アークスか?」

セフィリア「はい」

ウィルザーク「ふむ・・・。聞いてはおると思うが、わしが最長老のウィルザークだ。
       ゆっくりと話しを聞きたいところではあるが、早速お前を試させてもらう」

セフィリア「え・・・?」 パチン!ウィルザークの合図と共にセフィリアの両脇に大きな塊が落ちてきた。

ウィルザーク「それを、お前の持つアークスの剣技で斬って見せよ」

セフィリア「はい、分かりました」

セフィリアは静かに剣を鞘から引き抜いた。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さでその塊を切り裂いていく。
その場には、剣を動かす風の音がかすかに聞こえるだけで
剣と塊が衝突する音は一切聞こえなかった。
ほどなくして、ただの塊だった物は見事な2体の天使の彫刻となっていた。

ウィルザーク「ウム、超速にして華麗。見事なアークスの剣技だ」

セフィリア「ありがとうございます」
そう言って、セフィリアは一礼した。

ウィルザーク「では、お前にも早速任務に当たってもらおう。        実力は十分だが、経験が足りないのは事実だからな・・・
       お前にはパートナーをつけて任務を遂行してもらう」

セフィリア「はい、仰せの通りに・・・」

ウィルザーク「ウム。では亡きシュレイズの希望どおり、お前のパートナーは
       ベルゼー・ロシュフォールにする。構わぬな?」

セフィリア「はい」

私はこみ上げる嬉しさを抑えて、出来るだけ静かに頷くようにしました。 危うく顔がほころびかけてしまいましたので、私は下を向いてしまいました。

ウィルザーク「どうかしたか?」

いけない、いけない。私は口元に手を塞いで・・・

セフィリア「すみません。あまりの長旅で少しめまいを起こしてしまいまして・・・」

ウィルザーク「そうか。まあ、無理もない。
       ジパングへの長旅にシュレイズの死。色々あったからな」

セフィリア「はい・・・」

ウィルザーク「まあ、ベルゼーとお前には明日から任務を課すことにしておるから
       今日はゆっくりと休むがいい。
内装は10年前とあまり変わりないと思うが、分からない事は
ベルゼーにでも聞くといい」

セフィリア「はい、分かりました」

ウィルザーク「ウム。話は以上だ。もう下がっても良いぞ」

セフィリア「はい、失礼致します」

ブゥン。ディスプレイからウィルザークの顔が消えた。
それと同時に・・・コンコン、扉をノックする音が聞こえてきた。

セフィリア「誰でしょう・・・?」

私は不思議に思いながら扉に歩み寄っていきました。
私がドアノブに手を掛けようとした時、それよりも早くドアノブが回って扉が開きました。

ベルゼー「失礼します」
その瞬間、私の目に映ったのは、幼い日に私が見たものと全く同じの
きれいな金の髪に鋭いながらも優しさを秘めているあの瞳・・・
間違いありません!きっとベルゼーさんです。
私がベルゼーさんに呼びかけようとした時・・・

ベルゼー「し、失礼しました!!」

バタン!ベルゼーさんは勢いよく扉を閉めてしまいました。

セフィリア「え?」
私は思いがけない出来事に思わず声を出してしまいました。
私はすぐに扉を開けて、ベルゼーさんに声をかけました。

セフィリア「あの〜・・・」

どうしたのでしょう?ベルゼーさんは赤くなってうつむいていました。

ベルゼー「すみません。ウィルザーク様に部屋に来るようにと言われたのですが
     間違えて貴方の部屋に来てしまったようで・・・」

もしかして・・・ベルゼーさんは誰か女性の部屋に入ったと勘違いしているのでしょうか?
そう思うと、あまりのおかしさに私は吹き出してしまいました。
セフィリア「プッ・・・クスクスクス・・・」

私の様子に、今度はベルゼーさんが目を丸くしていました。

ベルゼー「あ、あの・・・何か?」

セフィリア「ベ、ベルゼーさん、クスクス・・・この部屋で合っていますよ」

ベルゼー「え、では何故に貴方がこの部屋に?
そもそも、何故、私の名を知っているのですか?」

セフィリア「私もウィルザーク様に呼ばれたからですよ。
      ベルゼーさんの名前は、ここに居る皆様がご存知ではないのですか?」

ベルゼー「それはそうですが・・・。 その、失礼ですが私は貴方とは初対面だと思いまして・・・」
え!もしかしてベルゼーさんは私の事を覚えていない!!
突然、そんな不安を私が襲い、私は思わず声を上げてしまいました。
セフィリア「私ですよ、ベルゼーさん!セフィリアです!!」

ベルゼー「セフィリア・・・」

ベルゼーさんは何か考えているようでした。
そんな・・・ベルゼーさんは私の事を忘れてしまったのですか!?
だんだんとその不安は大きくなり、私は泣き出そうとしたその時・・・

ベルゼー「まさか・・・セフィリア様。セフィリア様ですか?!」

セフィリア「はい・・・!」

次の瞬間、私は我慢できずベルゼーさんに抱きつきました。

セフィリア「ベルゼーさん・・・ずっと、ずっと貴方に会いたかったです!」

ベルゼー「お久しぶりです・・・セフィリア様」

そう言って、ベルゼーさんは静かに私を抱き返してくれました。
ベルゼーさんの温もりは、昔と何一つ変わっていませんでした。
一時の抱擁を終えると、私は思わず呟いてしまいました。

セフィリア「酷いです・・・ベルゼーさん」

ベルゼー「え?」

セフィリア「私は貴方のことを一時も忘れた事がないのに
      ベルゼーさんは私の事をすっかり忘れていたのですね」

ベルゼー「いえ、決して忘れていたわけでは・・・」
ベルゼーさんは口ごもり、フッと私から目をそらして言いました。

ベルゼー「幼い頃のセフィリア様に比べると、見違えるように、その・・・
     大人びていたので分からなかったのです・・・」

セフィリア「まあ!」

私はベルゼーさんの言葉に、一気に表情を輝かせてしまいました。
思えば、ベルゼーさんのこんな反応は初めて見ましたので
思わず笑いがこみ上げてきてしまいました。
セフィリア「プッ、クスクスクス・・・」

ベルゼー「・・・・・・・・・」
私が含み笑いしている様子を、ベルゼーさんは
ばつが悪そうに目を背けていました。

ベルゼー「・・・セフィリア様」

ベルゼーさんが話を変えようと咳払いをして、私の名を呼びました。

セフィリア「はい、何ですか?ベルゼーさん」

ベルゼー「これからはセフィリア様も正式なクロノス隊員となるわけですから
     これからの事を話しながら、本部の案内をしますがよろしいですか」

セフィリア「はい、よろしくお願いします」

私は意気揚々とベルゼーさんの後をついていきました。

ベルゼー「セフィリア様、ひとつだけ言伝えたい事があります」

前を歩いていたベルゼーさんが、突然、私の方に向きなおして言いました。

セフィリア「はい、何でしょう?」

私が反応を示すと、ベルゼーさんは話し始めました。

ベルゼー「そのですね・・・一応、セフィリア様は私より身分は上なのですから
     私の事はベルゼーとお呼びください」
セフィリア「え?!」

私は突然のベルゼーさんの申し出に、戸惑ってしまいましたが
ベルゼーさんがいいというのならと思い、思い切って言いました。

セフィリア「そ、それでは・・・その・・・ベルゼー・・・」

ベルゼー「はい、何でしょうかセフィリア様?」

ベルゼーは何事も無いように言いました。
私にとっては男性の名を呼び捨てで生まれて初めて呼んだものですから
思いっきり顔が熱くなってしまいました。
そうだ!私だけでなくベルゼーにも恥ずかしい思いをさせてみよう。
私はそんなよこしまな事を思い、ベルゼーに問いかけました。

セフィリア「それでは、ベルゼーも私の事をセフィリアと呼んで下さい」

ベルゼー「そ、それは?!」
クスクス・・・期待通りの反応ですね。
私はうろたえるベルゼーさんの姿を見て楽しんでしまいました。

ベルゼー「本当に・・・よろしいのですか?」

セフィリア「はい。ベルゼーも今日から私のパートナーになるんですから♪
      パートナーの事は様付けて呼ばないでしょう?」

私はベルゼーに笑みかけるように言いました。
ベルゼー「そ、それでは・・・その・・・セ、セフィリア」

セフィリア「はい、何ですか?ベルゼー」

クスクス・・・きっとベルゼーは物凄く気恥ずかしい思いをしているのでしょうね。
あんなに動揺しているベルゼーは初めて見ました。

ベルゼー「う、上の階から案内するからつ、着いてきてくれ・・・」

セフィリア「はい、分かりました。ベルゼー」

私はすっかりベルゼーと呼ぶ事に慣れてしまいました。
一方のベルゼーは、まだ私の事を呼び捨てにすることに慣れていないようですね。
でも、ベルゼー。遠慮なく私の事をセフィリアと呼んでいいのですよ。
もうこの世には、私の事を呼び捨てにしてくれる親しい男性は
貴方しかいないのですから・・・。
私はそんな事を思いながら、気恥ずかしそうに落ち着かないベルゼーを見ていました。
ベルゼーとの日々が、再び幕を上げたのです。
もう幕の降りる事のないことを、私は切に願いました・・・。


CP15
ナイザー「どうかしたかい?ベルゼーさんよぉ」

ベルゼー「いや、別にどうということはないが・・・どうしてだ?」

ナイザー「どうもないならそれでいいんですがね、今日のベルゼーさんの動きが
     いつもよりキレが悪いから本気で打てないんですわ」

ナイザーはそう言って、手に持っているトンファーを肩に置いた。

ベルゼー「ああ、すまない。少し考え事をしていてな」

ナイザー「へぇ・・・あなたほどの強者でも考える事があるんですかい?」

ベルゼー「一応な」

ベルゼーは苦笑して答えた。

ベルゼー「・・・実は、今日はセフィリアが初めての単独任務を遂行していてな・・・」

ナイザー「相方の嬢さんがですかい?」

ベルゼー「ああ」

ベルゼーは静かに頷いた。

ナイザー「そんなに心配する事は無いんじゃないですかい?
     オイラも、あの嬢さんと一手交えた事があるけど
     かなりの剣術の腕前でしたからね。
     深手を負うような事は無いと思うんですがねぇ」

ベルゼー「ああ、肉体的には・・・な」

ベルゼーの言葉を聞いた瞬間、ナイザーは何かを悟ったように言った。

ナイザー「成る程・・・任務遂行にあたって、初めて経験する壁にぶつかるんスね」

ベルゼー「ああ」

ナイザー「そうですかい」

ナイザーはそう言って踵を返した。
ナイザー「訓練の相手のお願いは、日を改めますわ」

ベルゼー「ああ、すまないな・・・」

ナイザーは軽く手を挙げると、そのまま去っていった。
ベルゼーは壁に掛かっている時計を見て

ベルゼー「そろそろ・・・か」

ベルゼーは静かに呟いた。
ベルゼーは懐から無線機を取り出して静かに言った。

ベルゼー「車の用意を頼む」

その一言を告げると、ベルゼーは槍を片手に車へと乗り込んだ。
車内でベルゼーは、ふと自分の掌を見つめた。
ベルゼー「思えば・・・私のこの手には数多の血が染み込んでいるのだな」

ベルゼーはそんな事を思っていた。
5歳の時に初めて人を殺してから既に20余年・・・。
ベルゼーの任務遂行の際に殺してきた人間の数は計り知れなかった。
しかし、ベルゼーの活躍によって現在の平和が生み出されてきたのも事実。
クロノスが世界を牛耳る事により、今の均衡が保たれている。
クロノスを脅かす不安因子を排除するために人を殺す事はやむを得ない事だ。

ベルゼー「仕方の無い事・・・か」

ベルゼーは一人呟いた。

CP16 何なのでしょう・・・?この感覚は・・・。
何なのでしょう・・・?私に降りかかる生暖かいこの赤い滴は・・・。
何なのでしょう・・・?次々と私の前で倒れていくこの塊は・・・。

セフィリア「嫌ぁぁぁぁあああ!」

私は無意識のうちに叫んでいました。
私の周りには赤い血を流して倒れている人の塊がありました。
私の手袋は真っ赤な血で赤く染まっていました。

セフィリア「これが・・・これが人を殺す感覚なのですかぁ・・・!」

私は今までの修行で数多くの物を斬ってきました。
しかし・・・人を斬ったのは今日が初めてでした。
その感触は非常に気持ちが悪いものでした。

セフィリア「ウォエッ!」

私はあまりの気持ち悪さに、こみ上げて来るものを吐き出してしまいました。
身体中が震え私は身動きを取る事が出来ませんでした。と、その時
ガサガサガサ・・・あたりの茂みが揺れて中から何人もの人達が現われました。

ラーク「オイ、こんな所にクロノスの生き残りがいたぜ」

リーク「へぇ・・・ずいぶんとウチの連中を殺ってくれたもんだ」

ルーク「こんなにキレイな顔して、やる事は恐いってか」

マーク「あんたも不運だったな。バカな隊長の下に就いてよ」

セフィリア「え・・・どういう意味ですか・・・?」

私は思わず聞き返してしまいました。

リーク「だってよ部下を1ヵ所に集中させておくんだもんな」

マーク「ああ、よっぽど腕に自信があったか知らねェが単騎攻めでいくなんてよ。
    今時オレらのようなチンピラでも考えない事だぜ」

ラーク「まったくだ。まあ、おかげで楽できたんだけどよ」

ルーク「ああ、アレは傑作だったな。
    部下の奴らがたまっている所にボン!で一掃だからな」

セフィリア「!!!」

そんな・・・私はただ・・・皆さんに傷ついて欲しくないから
私の護衛を断り、拠点に集中させるように指示をしたはずなのに・・・。
その指示のせいで私は皆さんを殺してしまったのですか・・・?

セフィリア「そんな・・・そんな・・・」

私の身体の震えはますます激しくなりました。

マーク「ん?そういや何で嬢ちゃんはここに居るの?」

ラーク「そういやそうだ。部下の連中は一掃しちまったからな」

リーク「もしかして・・・バカ隊長は嬢ちゃんのことかい?」

ルーク「んな事ねェだろ。人殺して泣いているような甘ちゃんだぜ」

セフィリア「・・・・・・・・・」

私は震えているだけで何も言うことが出来ませんでした。

ルーク「ま、こうやって会っちまった以上、生かしておくわけにはいかねぇな」

ラーク「ああ、ちっとばかり惜しい気もするがしゃあねぇわな」

男達は一斉に銃を私に向けました。

セフィリア「・・・・・・・・・」

ごめんなさいベルゼー・・・私はここまでのようです。
私が覚悟を決めたその時・・・

「何をしている」

男たちの背後から誰かの声が聞こえてきました。
ラーク「何ってクロノスの生き残りがいたんで始末するとこさ」
「そうか・・・では、私も敵の生き残りを見つけたので始末する事にしよう」

その声が聞こえた瞬間!
ザン・・・私の目の前にいた男達の身体が真っ二つになっていました。

セフィリア「〜〜〜〜っっ!!!」

私は声にならない悲鳴をあげていました。
私はあまりの恐怖に必死に後ずさりをしようとしました。
ザッ、ザッ、ザッ・・・。
段々、足音が私の方に近づいてきました。
私は顔を伏せて震えていました。すると・・・
ベルゼー「セフィリア様・・・私です。ベルゼーです」

セフィリア「え・・・?」

私は顔を上げて目を開けました。
すると、そこには優しく微笑んでいるベルゼーが立っていました。

セフィリア「ベルゼー・・・ベルゼーェェェッ!!」

私は震える身体を引きずってベルゼーに駆け寄りました。
途中、体制の崩れた私の身体をベルゼーは優しく受け取ってくれました。

セフィリア「ベルゼー・・・わたし・・・私・・・生まれて初めて       人を殺してしまいました」

ベルゼー「・・・・・・・・・」

ベルゼーは何も言わず私の身体を支えていてくれました。

セフィリア「それだけではありません!私は・・・私は・・・
      私のせいで部下の皆さんの命も奪ってしまいました・・・」

ベルゼー「・・・・・・・・・」

セフィリア「ベルゼー・・・私は、私は一体どうすればいいのでしょうか・・・。
クロノスの人間になった時から人を殺す事は覚悟はしていました。
      でも・・・人を殺す事がこんなに苦しくて
心が痛い事だとは思いもしませんでした!!!
ベルゼー・・・どうして殺さなくてはいけないのですか?!!
殺さずに世界を安定させる事は出来ないのですかぁ・・・」

私はベルゼーの胸の中でひたすら泣き続けていました。
ベルゼーは、私を支えていた手を私の頭にそっと乗せて言ってくれました。

ベルゼー「セフィリア様・・・私たちの周りが戦争、紛争が少なく
     均衡されているのはクロノスの絶対的な力のおかげなのですよ。
     力を使わずに・・・殺さずに問題を解決できる事など数が知れています」
セフィリア「分かっています!分かっています!!だけど・・・だけど
      いくら敵だとはいえ・・・平和を脅かすものといえども・・・
      クロノスという絶対的権力の下だとしても、人の命を奪う権利なんて
      あるわけないじゃないですか!!!」

ベルゼー「確かに・・・セフィリア様の仰る通りです。
     しかしセフィリア様・・・平和を脅かそうとする者の影響を一番受けるのは
     ごく普通に暮らしている民衆なのですよ。
     そういう輩を野ざらしにしておくことで、何の罪も無い民衆たちが
     わけもなく理不尽に不幸な思いをするのです」

セフィリア「民衆・・・ですか」

ベルゼー「ええ、そうです。セフィリア様も昔私と見たでしょう。
     公園で遊んでいる子供、親子で仲良く買い物をしている姿・・・。
     その平和を一瞬の出来事で崩したくない。
     だからこそ、我々は力を振るい平和な民衆の生活を守っているのですよ。
     我々は力のある強者。民衆は力の無い弱者。強者は弱者を守る者です。
     平和のためには・・・多少の犠牲は止むを得ない事なのですよ・・・」

セフィリア「・・・・・・・・・」

私はいつの間にか泣き止んで、ベルゼーの話に耳を傾けていました。

セフィリア「ベルゼー・・・質問してもいいですか?」

私は無意識のうちに言ってしまいました。

ベルゼー「何でしょう?」

ベルゼーは優しく応えてくれました。

セフィリア「ベルゼーは、何を思い、誰のためにその槍を振るっているのですか?」

ベルゼー「平和を思い・・・そして仲間、民衆を守るためにこの槍を振るっています」

セフィリア「そうですか・・・」

私はベルゼーの胸から離れ、落ちていた剣を拾い、鞘から刀身を引き抜きました。

セフィリア「それでは、私は・・・争いを根絶するために
      そしてクロノスの方々、弱者を守るためにこの剣を引き抜きます」

ベルゼー「はい」

ベルゼーは、私に微かな笑みを浮かべてくれました。

セフィリア「でも・・・やっぱりこの剣で命を奪いたくは無いですね・・・」

そう・・・敵であれ味方であれ人の死は嫌なものだとつくづく思い知らされました。
だからこそ、私は先程の決意を胸に刻み、これから頑張らなければと思いました。

ベルゼー「セフィリア様・・・」

ベルゼーは複雑な表情を見せていました。 ごめんなさい・・・あなたを困らせるつもりで言ったのではないのです。
・・・あなただって本心は私と同じことを考えているのでしょうね。
訓練の時に己を鍛えようと必死で槍を振るっているのに対して
任務の時に槍を振るうあなたの表情は、とても悲しそうですから・・・。
だけど、あなたはそんな思いを表に全く出しませんね、ベルゼー。
ご立派です・・・。私は少々甘えすぎたのかもしれませんね・・・。

ベルゼー「セ、セフィリア様?!」
ごめなさい、ベルゼー。今日まではあなたに甘えさせてください。

セフィリア「もう少しだけ・・・あなたの胸に寄りかからせてください」

ベルゼー「は、はい・・・」

・・・あなたの胸は何年経っても温かいままですね

セフィリア「ありがとうございます、ベルゼー。
      ベルゼーのおかげで、お爺様に言われた言葉を思い出しました・・・」

ベルゼー「武器を持つ物は自分自身を見失わないために      何を思い、誰のためにその武器を使うのか考えて使え・・・でしたね」

セフィリア「は、はい・・・その通りです」

ベルゼー「私も幼い時に、シュレイズ様によく言われていましたよ。
     先ほどセフィリア様にした話も、ほとんどがシュレイズ様に言われた事でした」

セフィリア「まあ、そうだったのですか」

私は驚いてしまいました。
お爺様・・・ベルゼーにも私と同じような事を教えていたのですね。

ベルゼー「やっと、笑みが戻りましたね。セフィリア様」

私は顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまいました。
セフィリア「そ、その・・・すみません。取り乱してしまって・・・」
ベルゼー「いいえ、気にしないで下さいセフィリア様。誰でもぶつかる壁の一つですから」

ベルゼーは優しく言ってくれました。

セフィリア「あ、あの・・・ベルゼー」

ベルゼー「はい、何でしょうか?セフィリア様」

セフィリア「ベルゼーは、まだ私に“様”を付けるのですか・・・?」

ベルゼー「し、失礼しました。どうも昔の癖が残っているようで・・・」

セフィリア「もう・・・早く慣れてくださいね、ベルゼー」

ベルゼー「す、すみません・・・」

セフィリア「そこ!」

ベルゼー「え?」

セフィリア「“すみません”なんてかしこまった言葉遣いもしなくていいのですよ!
       そういう言葉遣いをするから“様”付けが取れないんですよ。
       普段ベルゼーが部下に接しているような態度で私に接すればいいんです」

ベルゼー「は、はい・・・」

セフィリア「ほらぁ、また!」

ベルゼー「う・・・」

セフィリア「普段ベルゼーは部下に対して“はい”なんて言いますか?」

ベルゼー「いや・・・」

セフィリア「それです!そういう風に自然体で言ってください」

ベルゼー「あなたに対しては、これが自然体なのですが・・・」
セフィリア「何か言いました?ベルゼー?」

セフィリアは不自然な声で優しく言った。
セフィリアは顔こそ笑顔を浮かべているが、眉がぴくぴく動いていて
どこか顔が引きつっていた。ベルゼーはただならぬ気配を感じて・・・

ベルゼー「いや、何も・・・」
ベルゼーは力なく答えた。

セフィリア「よし!」

一方のセフィリアは満足げな笑みを浮かべて歩き始めた。

セフィリア「何をしているのですか?ベルゼー?早く帰りましょう」

ベルゼー「ああ」
ベルゼーは静かに言うと、セフィリアの後を歩き始めたのだった。


CP17
ナイザー「せりゃあ!」

ジェノス「ラァァァ!」

ナイザーとジェノスが同時にベルゼーに攻撃を仕掛けてきた。
ベルゼーはジェノスの糸の軌道を見切ると一振り目でナイザーのトンファーを弾き
二振り目でジェノスを崩し、三振り目でナイザーを倒した。
ジェノス「これもダメかぁ」

ナイザー「あなたには敵わねぇな・・・やっぱ」

ベルゼー「そう悲観する事もない。なかなかの連携攻撃だったぞ」

ジェノス「マジっすか、ダンナ」

ベルゼー「ああ、お前の攻撃を緻密なものにすれば隙はなくなるぞ。
     一振りで30の傷を付けれるようになればな」

ジェノス「だはは・・・厳しいッスねぇ、ダンナ」

ナイザー「バカヤロウ!お前がしっかりしてくんねぇとオイラが困るんだよ」

ジェノス「へいへい。わぁってるよ」

ベルゼー「フッ・・・」
ベルゼーは二人の様子を見て苦笑した。

ベルゼー「訓練はこのくらいにして食事にでも行くか」

ジェノス「待ってました!」

ナイザー「今日は何を食おうかね」

3人は食堂に行くと各々注文を済ませ、料理の出来上がりを待っていた。

ナイザー「そういや、ベルゼーさん」

ベルゼー「何だ。ナイザー」

ナイザー「嬢さんは壁を越えられましたかい?」

ベルゼー「乗り越えていなかったら、最近の戦果はどう説明がつく?」

ナイザー「なるほど。確かにここ最近の戦果は大したもんですからね。
     普段の優しさを任務では心を鬼にして徹するようになったから一人前だな」

ジェノス「そうそう、任務遂行時は普段の優しさが全然感じられないんですよねぇ・・・怒らせると恐そうだ」

セフィリア「誰を怒らせると恐いのですか?」

ジェノス「そりゃあ、セ・・・」

バン!ナイザーがいきなりジェノスの頭を叩いた。

ジェノス「痛てぇ!何すんだよナイザー!」

ナイザー「バカ!嬢さんだよ」

ナイザーが小声で言った。
ナイザーの指した方をジェノスが向くと、そこにはセフィリアが立っていた。
ジェノス「どわぁぁぁ!セフィ姐!!」

セフィリア「どうしたのです?そんなに驚いて」

セフィリアは小首をかしげるように見つめた。

ジェノス「い、いえ。いきなりだったんで驚いただけッス」

セフィリア「あら、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのですが・・・。
      そこの空席よろしいですか?」

スーッ・・・ベルゼーが何も言わず隣の椅子をテーブルの下から引き出した。

セフィリア「まあ!」

セフィリアは喜びの声を上げて、ベルゼーの隣に腰掛けた。

セフィリア「ありがとうございます♪ベルゼー」

セフィリアはそう言って、ベルゼーに微笑みかけた。

ベルゼー「・・・・・・・・・」

ベルゼーは何も言わず、紅茶をすすった。
セフィリアはそんなベルゼーの様子を微笑ましく見つめていた。

ベルゼー「どうした、ジェノス?私の顔に何かついているのか?」

ジェノス「いや・・・ダンナも隅に置けないなと思いましてね」

ベルゼー「・・・言うな」

ベルゼーは視線を外に向けた。
隣に居るセフィリアはクスクスと含み笑いをしている。

セフィリア「ところでさっきの話ですが、一体誰を怒らせると恐いのですか?ジェノス」

ジェノス「え?!ああ、その話は忘れてください」
セフィリア「あら、私には言えないような話なのですか?」

セフィリアがフッと冷たい視線を向ける。
ジェノス「い、いや、そういうわけじゃないんですけど・・・」

セフィリア「ではどうして?」

ジェノス「あ〜・・・えっと、その・・・」

ナイザー「料理長の事ですよ嬢さん」

ナイザーがジェノスを取り繕うかのように切り出した。

セフィリア「料理長?」
ナイザー「いや、怒らせると調味料の細工やなんかで
報復を受けそうで恐いなってことでしてね」

セフィリア「そうですね・・・確かにそうかもしれませんね」

セフィリアは再びにこやかな表情を見せて言った。 3人はどうにかセフィリアをごまかす事が出来てホッと溜息をついた。
食事を済ませたベルゼー、ナイザー、ジェノスの3人は
セフィリアの食事が終わるのを待っていた。

ベルゼー「あなたの好物を後から食べる食べ方は昔と変わらないな」
ベルゼーが、ふとセフィリアに話し掛けた。

ナイザー「ほう・・・嬢さんの好物はエビフライですかい」

ジェノス「可愛いッスね、セフィ姐」

セフィリアはその言葉を聞くと顔を赤くして言った。

セフィリア「そ、そんなに見ないで下さい、恥ずかしいじゃないですか・・・」
ベルゼー「済まない。昔の事をふと思い出して、つい・・・な」

そう言ってベルゼーは微笑した。
セフィリアは気恥ずかしそうに大好物のエビフライに手を伸ばす事をためらっていた。

ナイザー「食べないんですかい?嬢さん」 ジェノス「早くしないと、どんどん冷めちゃいますよ」

ベルゼー「時間もあまりないしな」

セフィリア「そんなに見つめられると食べにくいじゃないですか!
      皆さん私の方を見ないで下さい!!」

ベルゼー「済まないな、セフィリア。少々からかいすぎた。      誰もお前の方を見ないから、ゆっくり味わうといい」

ナイザー「悪かったな嬢さん」

ジェノス「すんません」
そう言って3人はセフィリアから視線を外した。
その様子を見たセフィリアが気を取り直してエビフライに手を伸ばそうとしたその時
サッと何かが通り過ぎ、皿の上のエビフライが消えていた。

セフィリア「え・・・?」

セフィリアがナイフとフォークを持ったままの姿勢で固まっていた。
葉巻を吹かしてくつろいでいたナイザーが言った。

ナイザー「おや、ノラネコとは珍しいねぇ」

ベルゼー「ほう、クロノス内に侵入出来るとは大した猫だな」

ジェノス「ナハハ・・・そりゃあ言えてるッスね、ダンナ。
     ん?どうかしましたかセフィ姐。震えてるッスよ」

ジェノスの言葉に、残りの2人もセフィリアの方を見た。

ナイザー「どうしたい?嬢さん」

セフィリア「・・・取られました。・・・の猫に・・・」

ベルゼー「・・・ん」

セフィリア「さっきの猫に私のエビフライを取られてしまいましたぁ!!!」

ドン!セフィリアはナイフとフォークを持った両手をテーブルに叩きつけた。
そのあまりの見幕に3人は目を丸くしていた。

ジェノス「そ、そりゃ災難だったッスね・・・」

ナイザー「ま、まあ夕食のときにでももう一回頼めば、いいんじゃないですかい」

2人は初めて見るセフィリアの表情に困惑しながらたどたどしく言った。
キッ!セフィリアがナイザーを睨む。

セフィリア「ナイザー・・・」

ナイザー「な、何ですかい。嬢さん・・・」

ナイザーは先ほどまで加えていた葉巻を床に落としていた。
それほどまでにセフィリアの表情はナイザーを威圧していた。

セフィリア「さっきの猫・・・どちらの方に行きましたか?」

ナイザー「さ、さて・・・。オイラが見たときは出口の方に走っていましたがねぇ・・・」

セフィリア「そうですか・・・」

そう言うと、セフィリアは静かに立ち上がり歩き始めた。
セフィリア「すみませんが、私には急ぐ任務がありますのでこれで失礼しますね」

それだけ告げると、セフィリアは食堂を後にした。
3人はそんなセフィリアの様子を呆然と見つめていた。

ジェノス「どうかしたんですかね、セフィ姐。何だか凄い剣幕していましたけど・・・」

ナイザー「ああ、ありゃあ殺気に満ちた目だったぜ。
次の任務はそれほどランクが高いのかねぇ」
ベルゼー「いや、今日は書類整理だと聞いていたが・・・」

3人は顔を見合わせた。

ジェノス「まさか、さっきのエビフライの事で・・・?」

ナイザー「いや、嬢さんも子供じゃねぇんだから好物を猫に取られたくらいで
     あんなに殺気に満ちた目をする事は無いんじゃねえかい?」

ジェノス「だよなぁ」

ベルゼー「いや、そうかも知れん・・・」

ベルゼーのその言葉に、一気に2人はベルゼーの方を見た。

ジェノス「マジすか、ダンナ?」

ベルゼー「本当かどうかは分からんが、あの方は昔
大好きなアイスクリームを持って歩いていた時、
石につまづいてこけてしまった事があった。 当然、アイスクリームは地面に落ちてどうしようもなくなったわけだが
その直後、あの方は泣くかと思いきや、先程のような表情を見せて
自分をつまづかせた石を掘り起こして、池に放り投げた事があった・・・」

ナイザー「へ、へぇ〜・・・顔に似合わず過激な嬢さんだねぇ」

ジェノス「なんか俺、セフィ姐のイメージが変わってきちまいました」

3人は考え込むように座っていた。
ボーン・・・壁の時計が1時を知らせた。

ベルゼー「まあ、考えても仕方の無いことだな」

ベルゼーがそう言って席を立った。
ジェノス「そうッスね、ダンナ」

ナイザー「ああ」

ベルゼーの後に続いて二人も立ち上がる。

ジェノス「さ〜て、次の任務が俺達を呼んでるぜ」
ナイザー「だな」

そう言って、ナイザーが葉巻をくわえた。

ジェノス「じゃ、ダンナ。いっちょ行ってきます」

ベルゼー「ああ、気を付けてな」

ベルゼーは二人を軽く見送ると、再び歩き始めた。

ベルゼー「さて、私も任務に取り掛かるか・・・」

ベルゼーは一人呟いた。
・・・ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン
時は過ぎ、時計は6時を知らせた。

ジェノス「ベルゼーのダンナ!」

廊下の向こうからジェノスがベルゼーに駆け寄ってきた。

ベルゼー「ジェノスか。その様子だと任務は無事に遂行したようだな」

ベルゼーがフッと笑う。

ジェノス「そりゃあもう完璧ッスよ。俺のこの絶妙の糸使いでパパパッとね」

ナイザー「その糸で切った石柱に頭ぶつけたのはどこの野郎かねぇ?」
ナイザーが遅れてやってきた。

ジェノス「うるせぇぞ、ナイザー!」

ナイザー「そうカッカしなさんな。お前がいるおかげでオイラは退屈しないですむからな」

ジェノス「ちくしょう!」

ジェノスが拗ねた表情を見せた。
ベルゼーは苦笑しながら二人のやり取りを見ていた。
ナイザー「ところでベルゼーさんよ」

ベルゼー「何だ?」

ナイザー「嬢さんはあのまんまかい?」

ベルゼー「・・・分からん。午後はあれ以来、顔を合わせていないからな」

ジェノス「あのまんまだったら、おっかないッスねぇ・・・」

セフィリア「誰がおっかないのですか?ジェノス」

ジェノス「そりゃあ、セフィ・・・」

ゴン!ナイザーが手にしたトンファーで、ジェノスの後頭部を叩いた。

ジェノス「ってぇな!ナイザー!!今日2回目の不意打ちだぞ、この野郎!!!」

ナイザー「そしたら、お前さんも同じ事を2回もすんじゃねぇ!」

ナイザーが小声でジェノスに言った。

ジェノス「ま、ま、まさか・・・」

ジェノスはナイザーが指差す方を恐る恐る振り返ると・・・

セフィリア「?」
小首をかしげたセフィリアがジェノスの背後に立っていた。

ジェノス「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!!セ、セ、セフィ姐!!!」

ジェノスは思いっきり飛び退いた。
その様子にセフィリアは少し顔をしかめる。
セフィリア「何です。2回も人の顔を見るたびにそのような態度をして・・・」

セフィリアは少し頬を膨らませながら言った。

ジェノス「すみません、セフィ姐。悪気は無いんス。
     ただ、いきなり背後に立たれるとつい驚いてしまって・・・」

セフィリア「まあ、いくらクロノス内だからとは言え、背後に気を許してはいけませんよ。
     常に自分の身辺と物事に気を引き締めていなければ」
ジェノス「すみません」
ジェノスは軽く頭を下げた。そんなジェノスの様子を見て

セフィリア「ふう。今度からは気をつけるのですよ、ジェノス」

そう言って、セフィリアは微笑んだ。
その表情を見て、ジェノスはホッと胸をなでおろす。

ベルゼー「ん?セフィリア」

ベルゼーが何かに気付いて、セフィリアに話し掛けた。

セフィリア「は、はい。何ですか?ベルゼー」

いきなり話し掛けられたせいか、セフィリアは少し驚いたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべて応えた。
ベルゼー「もう夕食を済ませたのか?」
セフィリア「え!そ、そうですけど・・・どうしてです?」

セフィリアが急にオロオロし始めた。

ベルゼー「口の横にエビフライの衣が付いているぞ」

ベルゼーがフッと微笑んで言った。

セフィリア「ええっ!!」

セフィリアが慌てるように反対側を向き、手鏡を開いた。

セフィリア「きゃあぁぁぁっ!!」

セフィリアはハンカチを取り出して口を拭うと、
下を向きながら、ベルゼー達の方に向き直した。

セフィリア「あなたは気を引き締めすぎです・・・ベルゼー」

セフィリアが小声で言った。 ベルゼーはセフィリアのそんな様子に少し首を傾げ、
ジェノスとナイザーの二人は微笑を浮かべていた。

セフィリア「そ、それでは失礼します」

セフィリアはそれだけを言うと、小走りにその場を去っていった。
ベルゼーは、セフィリアの走り去った方を暫く見つめていた。

ベルゼー「一体どうしたのだ?セフィリアは・・・」

ジェノス「何か急ぎの用事でもあったんじゃないんスか」

ベルゼー「そう・・・か」

ベルゼーは静かに言った。 ナイザーはフーッと溜息をつくと
ナイザー「んじゃ、オイラ達も夕食に行きましょうや、ベルゼーさん」

ベルゼー「ああ、そうだな」

3人は再び廊下を歩き始めた。
暫く歩いていると、目の前から隊員の一人が歩いてきた。

ラック「あ、これは皆様。こんばんは」

隊員はベルゼー達に頭を下げた。

ベルゼー「ああ、こんばんは」

ベルゼーはフッと応えた。
ジェノスとナイザーもそれに似たような仕草をした。

ラック「あ!ベルゼー様」

ベルゼー「何だ?」
ラック「失礼ですが、食堂へお向かいですか?」

ベルゼー「ああ、そうだが何かあったのか?」

ラック「いえ、大した事ではないのですが中庭はお通りにならない方が
    よろしいかと思われます」

ベルゼー「何故だ?」

ラック「あ、いえ、その・・・あの・・・ですね」

ナイザー「何だい?はっきりしねぇなぁ。伝令があるならハッキリ言いな」

ラック「は、はい・・・。しかし、食事前には好ましくないものでして・・・」

その言葉に3人は顔を見合わせる。

ベルゼー「構わん。言ってみろ」
ラック「そ、それでは申し伝えますが・・・先程、中庭に猫の斬殺死体が見つかりまして
    恐らく、まだその処理が終わっていないかと思われたので中庭を迂回するように
    お薦めしました・・・」

ベルゼー「斬殺死体・・・猫のか?」

ラック「は、はい・・・」

3人の様子を見て、隊員は更に小さくなってしまった。

ジェノス「その猫って、もしかして全身真っ白の猫じゃなかったか?」

ラック「お、仰る通り真っ白の猫でしたが・・・」

その言葉を聞くと、ベルゼーは隊員の手を取った。
隊員はビクッと震え上がる。

ベルゼー「情報提供感謝する」

そう言ってベルゼーは中庭に駆け出した。

ナイザー「手柄ものだぜ、お前さん」

ジェノス「ありがとさん」

二人もベルゼーに続いて駆け出した。

ラック「は、はい・・・。どうも・・・」

隊員は呆然と立ち尽くしていた。
中庭に到着した3人は、すぐに件の物を発見した。

ナイザー「おいおい・・・よくもまあこんなに斬り刻めたもんだねぇ」

ジェノス「素人の技じゃねぇな、こりゃ・・・」

ナイザー「確かにな。素人じゃこんなにきれいに斬れはしねぇわな」

ヒュゥゥゥゥゥッ・・・一陣の風が3人を通り過ぎていく。

ジェノス「ま、まさか・・・。エビフライを取られたくらいで殺しはしないっしょ」

ナイザー「そうだな。第一、嬢さんは剣を抜く事を嫌っているからな」

ジェノス「ね、ダンナ。セフィ姐の仕業じゃないッスよね?」

ベルゼー「あ、ああ。・・・そうだな」

ジェノス「そうッスよねぇ」

ジェノスがかんらかんらと笑う。
ベルゼーは複雑な表情を見せて二人に話し掛けた。
ベルゼー「すまないが、食事はお前達だけで行ってくれ。私は少し用事がある」

ジェノス「どうし・・・フガッ!」

ナイザーがジェノスの口を手でふさいだ。

ナイザー「そうですかい。それじゃあ俺達だけで行ってきます」

ナイザーはそう言うと、ジェノスを連れて中庭を過ぎていった。

ベルゼー「・・・ふう」

ベルゼーは軽く溜息をついて、件の物を見た。

ベルゼー「首と両手足の切断・・・間違いなくセフィリアの仕業だな」

一人呟いたベルゼーの脳裏には、セフィリアが初めての単独任務の時に見せた
あの麗しい表情と共に発した「この剣で命を奪いたくない」の言葉が浮かんだ。

ベルゼー「セフィリア・・・あなたがあの時に見せた涙とあの言葉は一体・・・」

ベルゼーはそんな事を思いながら、件の物を手厚く葬った。
一方、食堂の方では・・・

ナイザー「なあ、ジェノスよぉ」

ジェノス「あんだよ、ナイザー」

さっきの事のせいか、ジェノスが不機嫌そうに答えた。
ナイザーは拗ねているジェノスを見て苦笑し、葉巻に火をつけて言った。

ナイザー「あの嬢さんはマジに怒らせない方がいいぜぇ」

フーッとナイザーが煙を吐き出した。 ジェノスはその言葉を聞くと苦笑して

ジェノス「ごもっとも」

ジェノスはコーヒカップを片手に答えた。
こうして、クロノスでは稀に見る平和な夜が更けていったのだった・・・。


CP18
ベルゼー「剣の振りが甘くなっているぞ、セフィリア」

セフィリア「はい・・・!」

二人は激しく武器を打ち合っていた。
セフィリアは必死になって剣を振るっているが、ベルゼーには
全ての剣筋が見えているかのようにセフィリアの超速の剣を軽々と受けている。
激しい打ち合いは暫く続いたが、ベルゼーが軽く槍に力を込めると

セフィリア「あ・・・っ!」

セフィリアの体制が崩れると同時に
セフィリア「きゃあっ!」

セフィリアは仰向けに倒れてしまった。
セフィリアは後頭部を撫でながら起き上がった。

セフィリア「ふぅ・・・やっぱりあなたには敵いませんね、ベルゼー・・・」

ベルゼー「いや・・・着実にあなたの剣は私を苦しめている・・・」

セフィリア「ハァハァ・・・ほ、本当ですか・・・?」

ベルゼー「ああ。私も汗をかくようになってきたからな」

セフィリア「え・・・?」

ベルゼーの言葉を聞いたセフィリアはベルゼーの方をまじまじと見た。
確かにベルゼーの言う通り、ベルゼーの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

ベルゼー「強くなったな・・・セフィリア」

そう言ってベルゼーがセフィリアに手を差し伸べた。

セフィリア「ハァハァハァ・・・ありがとうございます・・・」

セフィリアがベルゼーの手を取って立ち上がった。

セフィリア「あっ・・・!」

しかし立ち上がった時、セフィリアの足がふらついてしまい
そのままベルゼーの胸に倒れこんでしまった。

ベルゼー「大丈夫か?」

セフィリア「は、はい・・・。少し足がふらついて・・・」

ベルゼー「仕方ないな・・・」

ベルゼーはそう言ってセフィリアを抱え上げた。

セフィリア「えっ!えっ!あ、あの・・・ベルゼー?」

セフィリアは突然のベルゼーの行動に突拍子な声を上げてしまった。

ベルゼー「歩けないのならこうして連れ帰るほか方法が無いからな・・・」

セフィリア「それはそうですけど・・・」

ベルゼー「迷惑か?」
セフィリア「い、いえ!迷惑ではありません!!
      ただ・・・あまりに突然だったので驚いてしまって・・・。
      すみません、ご迷惑をおかけして・・・」

ベルゼー「そう思うのだったら、少しでも体力を鍛えるんだな」

セフィリア「はい・・・反省してます・・・」

セフィリアは顔を赤くしてベルゼーの腕の中でうつむいた。
ベルゼーは俗に言う「お姫様だっこ」をしたまま歩き続けている。
やがて訓練場の出口にさしかかろうとした時、ベルゼーが言った。

ベルゼー「セフィリア・・・そろそろ降ろしてもいいか?」

セフィリア「・・・え?あっ!は、はい!」

ベルゼーの腕の中で浸っていたセフィリアは、現実に戻され慌てて反応した。
ベルゼーはその言葉を聞くと、セフィリアを優しく降ろした。

ベルゼー「後でしっかりストレッチをするんだぞ。軽い足の疲労だからな」

セフィリア「はい。朝からお騒がせしました・・・」

セフィリアは軽く頭を下げた。
ベルゼーはそんなセフィリアを見て、軽い笑みを見せた。と、その時
ピピピピピ!ベルゼーの通信機が受信音を知らせた。

ベルゼー「何だ」

「ベルゼー様。ウィルザーク様がお呼びです。至急、最上階のお部屋へ」

ベルゼー「分かった」

その一言でベルゼーは通信機を切った。
セフィリア「仕事ですか」

ベルゼー「いや、私指名でウィルザーク様からのお呼び出しだ」

セフィリア「そうですか・・・」

セフィリアはどこか不安気な表情を見せた。ウィルザーク自らが呼び出す用事といえば、
ハイリスクの任務を任命される事が多いからだ。

ベルゼー「では、行ってくる」

セフィリア「はい・・・」

ベルゼーは不安な表情を見せるセフィリアを背に、最上階へと向かって行った。
コン!コン!ベルゼーは大きな黒塗りの扉をノックした。

ウィルザーク「入れ」

その言葉を聞くと、ベルゼーは扉を開けて中へと入っていった。

ベルゼー「失礼します」

ベルゼーが一礼をする。
それからウィルザークの映っているディスプレイの正面に膝まずいた。

ウィルザーク「ベルゼーよ、お前に来てもらったのは他でもない話があってな・・・。
       お前は最近のクロノ・ナイツをどう思う?」

ベルゼー「・・・権威、威厳こそ誇っていますが、
戦力は昔の半分以下となっているような気が致します・・・」

ウィルザーク「うむ、その通りだベルゼーよ。最近はクロノ・ナイツのメンバーよりも
       メンバーの弟子である隊員の方が戦績が良いからな。
       但し、お前を除いてだがな・・・ベルゼーよ。
       お前の戦績は16の時から首位のままだ・・・
シュレイズが気に入るのも納得できる」

ベルゼー「お褒めの言葉。ありがとうございます」

ウィルザーク「さて・・・ベルゼーよ。既に他のクロノ・ナイツのメンバーだった者に
       話はつけているのだが、クロノ・ナイツを解散して新たな幹部組織を結成しようと思っておる。メンバー候補はお前の前にあるその紙に示しておる。
       異存は無いか見てみるが良い」

ベルゼー「拝見致します」

ベルゼーがリストに目を通していく。

ウィルザーク「どうだ?」

ベルゼー「恐れ入りますが・・・なぜ古株の私が新組織に?」

ウィルザーク「お前が最強であるからだ。実力のあるものを幹部組織に入れるのは
定石だ。まあ、おまえの言いたい事は分かる。
若き実力者の者どもに任せてみたいのであろう?」

ベルゼー「仰せの通りです。今の若者にはナイザー、バルドルのように
     実力のある隊員が大勢・・・」

ウィルザーク「しかし若い者には絶対的に経験が足りん。
       実力と経験を兼ね備えたお前が必要なのだよ。
       だからこそ、お前を補佐的立場の副隊長No.2に置いたのだ」

ベルゼー「・・・分かりました。慎んでお受け致します」

ベルゼーが頭を下げた。

ウィルザーク「うむ。さて・・・ベルゼー。もう一つお前に用事がある。
       気付いてはおると思うが、そこにある封筒を開けてみろ」

ベルゼー「仰せの通りに・・・」
ベルゼーが封筒を開くと、中には何枚かの資料が入っていた。

ウィルザーク「最近、目立つようになってきた小国でな・・・。
       数年前までは気にとめるほどではなかったが、ここ数年の武器弾薬の
密輸入や徹底した軍国主義で新たな帝国を築くとまで言い出しておる。
出る杭は早めに潰しておかないと後々面倒になるからな・・・。
おまけに最近はこのようにクロノスの存在を軽視して軍事戦争を仕掛ける
愚者どもの数が増えてきておるという・・・この程度の兵力、3部隊度
派遣すれば簡単に潰せるのだが、今回は改めて
各国に我がクロノスの脅威を示そうと思う。そこで、ベルゼー・・・
この愚小国の殲滅任務、お前一人に任せる。この意味が分かるな」

ベルゼー「それは目標のオール・イレイズ(完全抹殺)です」

ウィルザーク「その通りだ。この愚国全ての人間を抹殺しろ。いいな、全てだぞ」

ベルゼー「・・・分かりました」

そう言ったベルゼーの目は、普段とは比べものにならないほど険しくなっていた。

ベルゼー「それでは行ってきます。戦果はご期待下さい」

ウィルザーク「うむ」

ベルゼーは一礼すると、そのまま屋上のヘリポートに行き、任務地へと向かって行った。
それから数分後、今度はウィルザークの部屋にリストに載っていた残りの隊員が集った。
そこには、セフィリア、ジェノス、ナイザーをはじめ多々の若年隊が集っていた。

ウィルザーク「一同、面をあげよ」

全員「ハッ!!」

ウィルザーク「今日ここにいるお前たち全員を、先代のクロノ・ナイツのメンバーによる推薦、そして実績を考慮し新幹部組織『クロノ・ナンバーズ』に任命する。
       No.1、No.2がそれぞれ隊長、副隊長の者だ。異存はあるか?」

バルドル「質問してよろしいですか?」

ウィルザーク「言いなさい」

バルドル「このナンバーは実力順ですか?」

ウィルザーク「いや、違う。No.2以下は
先代のナイツメンバーのナンバーによるものだ。
バルドル、お前は8番隊長リックスの弟子だったからNo.8という訳だ」

バルドル「分かりました。それなら異存ありません。しかし・・・」

そう言ったバルドルはセフィリアの方を睨んだ。

バルドル「いかにウィルザーク様のご命令でも、実力が疑わしい隊長の下になんて
     就く事は出来ませんねぇ!!」

クランツ「私も同じです、ウィルザーク様。いかにアークス家の者とは言えど、
     暗闇の中でも私にはそれほど重厚な重圧感を感じません」

ジェノス「なあ、ナイザー?あの二人・・・一体誰なんだ?」

ジェノスが小声でナイザーに話し掛けた。

ナイザー「髭の生えているほうがバルドル、ゴーグルしてる奴がクランツ。
     二人ともかなりの戦闘狂で過激な連中だ。
     前の任務じゃ街一つ平気で壊していったからな」

ジェノス「うへぇ・・・そんな連中が同業者になんのかよ!」

ナイザー「ま、度が過ぎるトコはあるが実力は文句無しだし
     クロノスに対する忠誠心は並のもんじゃねぇからな」

ジェノス「(俺、あいつらとは組みたくねぇな)」

ナイザー「任務に私情を挟むなよ、ジェノス」

ジェノス「ゲ!何で俺の考えていた事が分かったんだよ!」
ナイザー「顔がモロに言ってるんだよ、お前さんは」
ジェノスとナイザーが小声でそんなやり取りをしていると・・・

ウィルザーク「うむ・・・では、どうすればお前達は納得できる?」

しばらく黙っていたウィルザークが口を開いた。

バルドル「俺を楽しませる事が出来れば納得します」

クランツ「同じく・・・」

ウィルザーク「さすがリックスが戦闘狂と言うだけの事はあるな。よかろう。
       但し、私がやめと言ったら即刻手を止めよ。
       セフィリア、用意はいいか」
セフィリア「はい、いつでも」

バルドル「先行っていいか?クランツ」

クランツ「ああ、好きにしろ」

バルドル「んじゃ、お言葉に甘えますかねぇ!」

そう言って、バルドルは鎖のついた鉄球を取り出した。

セフィリア「なかなか古い型の武器ですね」

バルドル「でも、威力は抜群だぜぇ」

セフィリア「そうでしょうね。ここに抜擢されるほどの使い手・・・
      当たったら怪我どころでは済まないでしょうね」

バルドル「まあな」

ジャラッ!バルドルが手に持っていた鉄球を放した。
そして戦闘の構えに入る。

バルドル「せいぜい・・・死なねぇように気を付けろよ!!!」

その言葉と同時にバルドルは物凄いスピードで鉄球を投げた。 セフィリアはその弾道を読みとると、簡単にかわしバルドルに向かっていく。

セフィリア「あなたも・・・せいぜい大怪我しないように気を付けて下さいね」

セフィリアはそう言って刀身をバルドルに向かって払っていく。
ガキン!刀身はバルドルの鎖によって受け止められた。

セフィリア「(この人・・・出来る!)」

バルドル「ご忠告ありがとうよ、お姫さん。だがよ・・・その程度じゃ
     この俺は倒せねぇよ!!」

バルドルは鎖を引っ張り鉄球の弾道を変えた。
セフィリアの後方にあった鉄球は勢いよくセフィリアに向かっていく。

セフィリア「くっ・・・!」

セフィリアはバルドルの側を離れようとしたが、バルドルの鎖が体に巻き付いており
身動きが取れない状態にあった。

バルドル「ハッ!アークスの姫さんもあっけねぇもんだな」

セフィリア「・・・っ!!」

セフィリアは鎖の隙間から動ける範囲で鞘を持ち、それを指先で投げ上げた。 すると、鞘が鉄球に当たり鉄球はセフィリアの頭上をかすめてバルドルの正面に
向かって行った。

バルドル「何ッ!!」

バルドルはとっさの反応で鉄球を受け止めた。
その時に緩んだ鎖をほどいてセフィリアは切っ先をバルドルの首に止めた。

セフィリア「勝負あり・・・ですね」

バルドル「チッ・・・!!」

バルドルは舌打ちすると鉄球を直した。
それを見たセフィリアは剣を鞘に収めた。
バルドルは不機嫌そうにセフィリアに一礼して、元の位置に戻った。

クランツ「縛りを甘くしたのが敗因だな」

バルドル「クッ・・・!」

そう言ってバルドルは頭をぐしゃぐしゃと掻いた。

セフィリア「クランツ・・・と言いましたね。あなたはどうしますか?」

クランツ「先ほどのバルドルとの手合わせで十分に堪能できた。
     私はあえてあなたに挑まない。私の武器とあなたの武器との相性は悪いし、
     何より私はこんな目だからな」

そう言ってクランツはゴーグルを上げた。

セフィリア「そうですか・・・分かりました」

セフィリアは少し、悲しそうな表情を浮かべた。

ウィルザーク「さて、納得してもらえたところで話を進める。
       お前達はこれから幹部として、より働いてもらう事になる。
       近々、幹部の証としてオリハルコン製の武器を授けよう。
       だが、隊長セフィリア・アークスにだけ先にそれを授けよう。
       そして、せめてもの特別の証としてお前達の前に姿を現そう」

セフィリア「え?!」

全員が一斉に騒ぎ出した。
それもそのはず、最長老ウィルザークが姿を見せる事など滅多にない事だからだ。
ガチャ・・・背後の扉が開きウィルザークらしき人物が姿を現した。

ウィルザーク「私がクロノス最長老ウィルザークだ。
       私もこうしてお前達を直に見るのは初めてだな。
       さて、セフィリア・アークス、前に出なさい」

セフィリア「はい」

ウィルザーク「お前にこれを授けよう。オリハルコン製の剣『クライスト』だ」

セフィリア「ありがたく頂戴致します」

その剣は漆黒の刃で、どことなく冷たく重かった。

ウィルザーク「他の者の武器は3日後の任命式のときに渡せるようにしておく。
       それから任命式の日まで全員、組織のメンバーである証
『時の刻印(クロノ・タトゥー)』を彫っておくようにしておけ。
見える位置ならばどこでも構わん」

全員「は!」

ウィルザーク「うむ。それでは全員、屋上のヘリに乗り込め。
       そうしたら、お前達はクロノスが最強たる所以を見る事ができる」

それだけ言うと、ウィルザークは部屋を出て行った。
その後を追うように全員部屋を出たが、ウィルザークの姿はどこにも無かった。

セフィリア「とりあえず指示通り、全員屋上へ行きましょう」

そう言って、全員は屋上へと向かって行った。
屋上にはヘリが三機用意してあり、11人の隊員はそれぞれ分かれて乗り込んだ。

セフィリア「一体、これから何があるのですか?」

パイロット「申し訳ありませんが、私からはこの封筒をあなた方に渡し、
      ソミレス国へ向かう事しか出来ません」

そう言ったパイロットは封筒をセフィリア達に差し出した。
セフィリアは封筒の中から1枚のメッセージカードを取り出した。
そこにはこう書かれていた。
「ベルゼー・ロシュフォールに現在ソミレス国殲滅単独任務を課しておる。
 しかし、奴は造作なく任務を遂行するであろう。
 その最強の所以たる姿をしかと目に焼き付け、これからに役立てていけ」

セフィリア「えぇっ!!?」

セフィリアはカードのメッセージを読むと驚きの声を上げた。
その様子を気にしつつも、セフィリアの両隣にいるナイザーとジェノスもカードを見た。

ナイザー「おいおいおい・・・最長老様は一体何を考えているんだ?!」

ジェノス「ソミレス国を殲滅するとなると、どう考えても2部隊以上は必要だろ!」

セフィリア「急いでください!急いで!!ベルゼーが、ベルゼーが死んでしまいます!!」

セフィリアはパイロットに掴みかかるように声を荒げた。

ジェノス「落ち着いてください、セフィ姐!」

ナイザー「落ち着くんだ、嬢さん」

ジェノスとナイザーは二人掛りでセフィリアを抑えた。

ジェノス「大丈夫ッスよ、セフィ姐!ダンナに限って死ぬ事は無いッスから」

ナイザー「そうだぜ、嬢さん。なーに、向こうに着いたら
すぐに援護すればいいだけの話さ」

セフィリア「そうですね・・・。すみません、取り乱してしまって・・・。
      仮にもあなた達をまとめる隊長の身でありながら・・・」

ジェノス「いいッスよ、セフィ姐。そんな事気にしなくて」

ナイザー「そうそう、そんな気にする事じゃ・・・お!見えてきたぞ」

ジェノス「お、ホントだ!」

ナイザーが葉巻をくわえ、懐からトンファーを取り出した。

ナイザー「さあて、戦闘準備と行きますか」

ジェノス「そうだな」

ギュッ!ギュッ!ジェノスが手袋を装着する。

セフィリア「まさか、授かった当日から使う事になるとは・・・」
セフィリアも布に包んでいたクライストを取り出した。

セフィリア「全員、降下したらスリーマンセルの基本に従って行動して下さい」

ジェノス「了解!」

ナイザー「オーケー!」

ヘリが着地すると同時に、3人が勢いよく飛び出した。

ジェノス「よっしゃあ!って、アレ?」

ナイザー「何だか静か過ぎないかい?」

セフィリア「ええ、まるで何も無いかのような静けさですね・・・」

3人は辺りを見回した。しかし、いくら見回しても敵の気配など全然感じられなかった。
ジェノス「お!右手前方の丘に仲間発見」

ナイザー「ありゃあ、バルドルとクランツの二人だな」

ジェノス「うげっ!最初に見つけたのが奴らかよ・・・」

ナイザー「んな事言ってる場合か!行くぞ」

三人は二人に向かって走り出した。

ナイザー「おい、バルドル!」

バルドル「ん?なんだ、ナイザーか。遅かったな」

ナイザー「何だじゃないだろう!
お前さん達ベルゼーさんの状況を知らないわけじゃないだろ!」

バルドル「ああ」

ジェノス「だったら何でそんなトコでくつろいでんだよ!」
バルドル「あぁ?アレのどこに何をしろって」

バルドルはそう言って丘の下を指差す。
3人はバルドルの指差した方を見てみた。
ジェノス「げ!」

ナイザー「おいおい・・・こりゃあ一体・・・」

セフィリア「こ、こんな事が・・・」

眼下には何本もの亀裂が地面を走っていた。
そして、その亀裂の周りには大量の死体と、それに伴う流血が河となり
亀裂の間に流れ込んでいた。

バルドル「ここにいる仏さん、ざっと二百はある。
     しかも、ほとんど同時に殺されてるときたもんだ。 こんな芸当、ベルゼーさん以外には出来ねぇわな。
ったく!寒気がするくらいの強さだぜ」

クランツ「まったくだ」

セフィリア「これが、ベルゼーの力なのですね・・・」

ジェノス「でもよ!何でお前らはダンナを助けに行かないんだ?!」

バルドル「さっきから、うるせぇ奴だなぁ・・・!あそこを見てみろよ」

ジェノス「んん!」

ジェノスが見た方向には何秒かおきに砂ぼこりが舞い上がっていた。
そして、よく見るとそれはベルゼーが槍を振り下ろした際に発生する
衝撃波によるものだった。
バルドル「ベルゼーさんの援護に行こうにも、あんなのに巻き込まれたら
     こいつらと同じように体のどこかを切断されて出血死しちまう。
     それでもいいんなら、勝手に援護にでも何でも行きやがれ」

ジェノス「うぅ・・・」

ジェノスは何も言えなくなった。
ナイザーは葉巻に火をつけ、一吸いしてから言った。

ナイザー「ふぅ・・・どいやらオイラ達の助けはいらねぇみたいだな、こりゃ」

セフィリア「そのようですね・・・」

ベルゼーを除く全てのナンバーズ隊員はその場に立っているだけだった。
しばらくしないうちに、砂ぼこりは起こらなくなった。 辺りは相も変わらず静寂に包まれている。

クランツ「隊長、そろそろベルゼーさんが戻ってくるぞ」

セフィリア「えっ、どの辺りです」

クランツの言葉にセフィリア以外の隊員もクランツに注目した。
クランツが指を指す方向には、確かに少しずつ人影が見えてきた。

ベルゼー「ん!」
ベルゼーも丘の上に誰かがいる気配を感じたのだろう。

ベルゼー「あれは・・・クロノスの者達のようだな」

そう呟いたベルゼーは、一気に加速してセフィリア達のもとへと向かっていく。

ジェノス「あれ?!ベルゼーのダンナが消えたぜ!」

ベルゼー「・・・消えてはいないぞ、ジェノス」

ジェノス「だよなぁ、俺の見間違い・・・ってぇぇぇええ!!!」

なんとベルゼーは、ほんの数秒でジェノスの背後まで来ていたのだった。

ジェノス「ダンナ!えっ、えぇ?ついさっきまであそこにいたのに・・・」

ベルゼー「フッ、この移動速度が私の強さの一つとでも言っておくかな」

ベルゼーは苦笑してジェノスに言った。

ジェノス「なはは・・・さ、さすがッスね」

ジェノスはうっすらと汗を浮かべながら、苦し紛れの笑みを浮かべた。

セフィリア「ベルゼー!怪我はありませんか?!」
ベルゼー「ああ、問題ない」

セフィリア「でも身体のあちこちに血痕が付いているじゃないですか!」

ベルゼー「ああ、これの事か。・・・心配せずとも私のものではない」

セフィリア「・・・・・・・・・」

セフィリアは言葉を呑んだ。
ベルゼーは少し間をおいて、皆に言った。

ベルゼー「任務完了だ。戻るぞ」

ベルゼーの言葉を筆頭に全員ヘリコプターへと乗り込み
ソミレスの地を後にした。


CP19
ベルゼー「クロノ・ナンバーズ・・・か」

ベルゼーは左手の甲に刻み込んだ「U」の刻印を見て呟いた。

ベルゼー「クロノスの新しい幕開けだな」

ベルゼーはそう言って立ち上がり部屋を後にした。
視界に入る海は今日も青く、眼前に広がる木々は緑が眩しかった。

ベルゼー「いい日和だ・・・」

ベルゼーは窓から入ってくるそよ風を浴びながら静かに言った。

ジェノス「はようッス、ダンナ!」

ベルゼー「ジェノスか。朝から元気だな」

ジェノス「そりゃあ元気なのは俺の専売特許みたいなものッスから」

ベルゼー「そうだな」

ベルゼーは軽い笑みを浮かべて答えた。

ジェノス「おっ!ダンナは左手の甲に彫ったんッスね」

ベルゼー「ああ。お前はもう済ませたのか?」

ジェノス「はい、この通りバッチリ済ませましたよ!」

ベルゼー「そうか。お前も立派になったな」

ジェノス「ダンナ・・・。俺ダンナみたいに強くないですけど
     おれの出来る限りの力でこれから頑張ります」

ベルゼー「ああ、期待しているぞジェノス」

ジェノス「あ、ありがとうございます!
     じゃダンナ、明日の任命式で!!」

ベルゼー「ああ」

ジェノスは大きく手を振りながらベルゼーのもとを去った。
それからベルゼーは朝食を済ませ書類整理を始めた。
ボーン・・・壁時計が午後の1時を知らせた。

ベルゼー「もう、こんな時間か」

ベルゼーは昼食を済ませようと食堂へ向かった。
一通り食べ終わりくつろいでいるところに、一人の家政婦が現われた。

アンジェ「お休みのところ申し訳ありません、ベルゼー様」

ベルゼー「何だ?」

アンジェ「あの、セフィリア様の事なのですが・・・」

ベルゼー「セフィリアがどうかしたのか?」

アンジェ「はい、昨日の昼間から部屋にこもりっきりなのです。
     食事を持っていっても欲しくないと部屋の扉すら開けてもらえない
     状態なのです・・・」

ベルゼー「そういえば、昨日からセフィリアの姿を見ていないな」

アンジェ「申し訳ありませんが、セフィリア様の部屋に食事を届けてもらえませんか?
     ベルゼー様ならセフィリア様も何らかの反応を示すと思いますので・・・」

ベルゼー「分かった。今からにでも行ってこよう」

アンジェ「ありがとうございます!それではこれがお食事になります」

アンジェはベルゼーにセフィリアの食事を渡すと、一礼して厨房に戻った。
ベルゼーは渡された食事を持ってセフィリアの部屋の前へとやって来た。
コンコン!・・・・・・ノックしても何の反応も無かった。
コンコンコン!・・・・・・やはり何の反応も無い。

ベルゼー「セフィリア、私だ。食事を持ってきたぞ」

セフィリア「・・・・・・・・・ベルゼーですか?」

しばらくしてから部屋の中からセフィリアの声が聞こえてきた。

ベルゼー「ああ、私だ」

セフィリア「・・・あなた一人ですか?」

ベルゼー「ああ、そうだが?」

セフィリア「・・・少し、待っていただけますか」

ベルゼーはセフィリアに言われた通り、部屋の前で待っていた。
やがて・・・カチャ!部屋の扉の鍵を開ける音が聞こえた。

セフィリア「どうぞ」

ベルゼーはセフィリアの言葉を聞くと部屋の扉を開けた。
その中はカーテンも締め切っていて昼間だと言うのに
夜のように暗かった。照明は卓上にある小さなキャンドルだけだった。 セフィリアはテーブルの前にある椅子に腰掛けていた。
ここに座れとでも言っているかのように
セフィリアの相席に当たる位置に椅子が用意されていた。
ベルゼーは何も言わずその椅子に座った。
ベルゼーが座ってもセフィリアは下を向いているばかりで
ベルゼーの方に瞳を向けようとしないでいた。

ベルゼー「どうしたセフィリア?なぜ食事もとらず
     部屋から出てこない。おまけにこんなに暗くして・・・」

ベルゼーは優しい口調でセフィリアに話し掛けた。

セフィリア「・・・ごめんなさい、ご心配をおかけして。       部屋を出なかったのは誰かに会うのが恐かったからなのです」

ベルゼー「何故だ?」

ベルゼーの言葉を聞くと、セフィリアは静かに顔を上げた。
その額には額を覆い隠すかのように包帯が巻かれていた。
おまけにずっと泣いていたのだろう、目は赤みを帯びていて鼻の頭も
少し赤くなっていた。現に今でもその瞳は潤んでいる。

ベルゼー「その額の包帯は・・・怪我でもしたのか?」

フルフル・・・セフィリアは黙って首を横に振った。

ベルゼー「では一体・・・」

ベルゼーの言葉を遮るかのように、セフィリアが額の包帯をほどき始めた。
よほど巻き付けていたのだろう、包帯の長さは床にとぐろを巻くほどになった。
やがて全ての包帯をほどき終わった時、ベルゼーは少しだけ目を丸くした。

ベルゼー「何故、そんな場所に・・・」

セフィリアの眉間には「T」の刻印が彫られていたのだ。

セフィリア「・・・ベルゼー、唐突な話ですがクロノスに入った以上、
求めてはいけないものはご存知ですか・・・?」

セフィリアは悲しそうな表情を浮かべて問いかけた。

ベルゼー「自由である事と普通の生活・・・と言ったところだろうか」

ベルゼーは静かに答えた。

セフィリア「・・・ベルゼー、私には幼少の頃から憧れているものがありました。
      それはお父様とお母様の結婚式の写真に写っていた
      お母様が着ていたような綺麗なウエディングドレスを着る事でした」

ベルゼー「・・・・・・・・・」

セフィリア「でも・・・クロノスに入った以上、ましてや最高幹部になる私には
      当然、結婚して家庭を築く事など許されない事なのです・・・。
      だから私は・・・私は・・・!」
そう言ったセフィリアは大粒の涙をこぼし始めた。

セフィリア「女である事を捨て
私の憧れを絶つために自らの顔を、この通り傷付けたのです!
でも・・・でも!とっても痛くて痛くて、苦しくて苦しくて仕方ないんです!」

セフィリアは泣き崩れてしまった。
ベルゼーはそんなセフィリアの両頬に優しく手を添えてから言った。

ベルゼー「セフィリア・・・確かにあなたの言う通りイレイザーとなった女性は
     家庭など築いてはいけないものかもしれない。
     だがな、お爺様シュレイズ様はよく私にこう言っていた。
     セフィリアの花嫁姿を見るまでは死ねないな、と」

セフィリア「え・・・?お爺様がそのような事を」

ベルゼーは何も言わずに頷いた。

ベルゼー「それにクロノスといえど、そこまで束縛されるようなものではない。
     もし結婚したら、あなたは最高幹部なのだから命令する方にだけ
     回ればいいだけの話だ。必要な任務は私達隊員が遂行する。
     だからあなたは好きな時に自由に結婚するがいい。
     そのくらいのわがままは最長老もお許しになるだろう」
セフィリア「そう・・・です・・・か?」

ベルゼー「ああ」

そう言ってベルゼーはセフィリアの目元にある涙を優しく指で拭った。

ベルゼー「済まなかったな。もう少し早く話していれば
     こんな事にならずに済んだものを・・・」

セフィリア「いいえ、あなたの責任ではありませんベルゼー。
      額にクロノ・タトゥーを彫ることは
気持ちを引き締めるために最初から決めていた事ですから」

ベルゼー「それならいいが・・・」

セフィリア「何か言いたそうな目をしていますね、ベルゼー?」
セフィリアが何かを探るような視線でベルゼーを見る。

ベルゼー「そんな事はない」

ベルゼーはセフィリアと合っていた視線を外した。

セフィリア「嘘をついてもダメですよ、ベルゼー。
      さあ、その言いかけている言葉を口にしなさい」

ベルゼー「本当に何も・・・無い」

ベルゼーはしどろもどろである。

セフィリア「ベルゼー・・・!」

顔は笑っているもののセフィリアからは物凄い重圧感が漂っていた。
観念したのか、今度はベルゼーが下を向いて言った。
ベルゼー「・・・何もその綺麗な顔に傷を付けなくとも良かったと思うのだが」

セフィリア「まあ♪」

ベルゼーの言葉を聞くと、セフィリアは頬を赤らめてベルゼーを見つめた。
一方のベルゼーは考え込むようにうつむいていた。

セフィリア「うふふふ♪私の顔を綺麗だと言ってくれるのですね、ベルゼー」

コクン、ベルゼーは黙って頷いた。

セフィリア「嬉しいです。強くなった以外で初めて女性としての面で
      あなたに誉められましたね、ベルゼー♪」

ベルゼー「そう・・・か?あなたが小さい頃は可愛いと言った記憶が無いでもないが・・・」

セフィリア「それはそうですけど、でも・・・うふふふふ」

セフィリアはイヤンイヤンと照れるように首を左右に振り続けている。
ベルゼーは照れ隠しに咳払いをしてから言った。

ベルゼー「まあ、それはともかくセフィリア」

セフィリア「はい、何でしょうか?ベルゼー」

ベルゼー「あなたのタトゥーに秘められた思いと決意は確かに受け取った。
     他の隊員もしっかりとあなたの隊長としての決意は受け取るだろう。
     だから私もナンバーズ副隊長としてあなたをしっかりと補佐します」

セフィリア「あ、ありがとうございますベルゼー」

セフィリアは再び涙を流した。

ベルゼー「それからもう一つ、あなたは女性である事を捨てると言ったな。
     その言葉通り、ナンバーズ隊長としてのあなたを私は女性として見ない・・・」

セフィリア「はい・・・」

ベルゼー「だが、しかし・・・」

セフィリア「・・・?」

ベルゼーは目を閉じて少し間をおいた。

ベルゼー「こうして私と二人でいる時だけは、あなたをセフィリア・アークスという
     一人の女性として見る事にしよう」

セフィリア「え・・・」

最初は突然の言葉に驚いてか反応を示さなかったセフィリアだったが
やがて言葉の意味を理解したのか、満面の笑みをベルゼーに見せた。

セフィリア「本当ですか・・・本当ですかベルゼー?!」

ベルゼー「ああ」

セフィリア「嬉しいです、とてもとても嬉しいです・・・」

セフィリアは歓喜の涙を流し続けていた。
ベルゼーは何も言わず、そんなセフィリアを見続けていた。
セフィリアは流れ出た涙を拭って、ベルゼーに笑顔を見せてから言った。

セフィリア「では、ベルゼー。早速ですが女としてのワガママを言いますね」

ベルゼー「あ、ああ」

ベルゼーは心なしか少し引いていた。
一方のセフィリアは瞳を潤ませてベルゼーの事を上目遣いに見ていた。

セフィリア「それでは・・・その・・・私を抱きしめて下さい」

ベルゼー「わ、分かった・・・」

ベルゼーは静かにセフィリアを抱き寄せた。
セフィリアは嬉しそうにベルゼーの胸の中に顔を擦り付ける。

セフィリア「ベルゼー・・・立っていると疲れますからベッドに横になりましょう」

ベルゼー「い、いや、それは・・・」

セフィリア「いいですから」

そう言って二人は横になった。
それからしばらく、二人は静かに抱き合っていた。

セフィリア「ベルゼー・・・あなたは本当に優しい男(ひと)ですね。
      この前のあなたが別人のように思えます・・・」

ベルゼー「・・・恐かったか?」

セフィリア「はい、とても・・・」

ベルゼー「済まない・・・私の全力をもっと早くあなたに見せる事も出来たのだがな」
セフィリア「いいえ、仕方がありません。あれほど強大な力なのですから。
      私たちのことを思い普段は制御しているのでしょう?」

ベルゼー「ああ・・・と、言いたいところだが本音はそうではない」

セフィリア「え・・・?」

ベルゼー「もちろん仲間を傷付けかねない力だが、仲間を巻き込ませないように
     力を制御できるようにあなたと再び出会うまでに既に極めていた。
     だからその気になればいつでも全力を出せたのだ」

セフィリア「では、どうして・・・?」

ベルゼー「・・・あなたの前で化け物になるのが恐かった。
     これが・・・私が今まで全力を出さなかった最大の理由だ。
     あなたは初任務の時、そして今でも人が傷つく事、死ぬ事に対して涙を見せる
     幼い時から優しいお方だ。そしてあなたは私を心の支えだと言ってくれた。
     ・・・そのようなあなたに大量の人を傷付ける私の姿を見せたくは無かった」

セフィリア「ベルゼー・・・!」

セフィリアは更に強くベルゼーを抱きしめた。

セフィリア「大丈夫ですよ、ベルゼー・・・。
      あなたの事を人が何と言おうが、私にとってあなたは最高の男(ひと)です」

ベルゼー「セフィリア・・・」

ベルゼーはうずくまりセフィリアの脳天にベルゼーのあごが当たるような形になった。
セフィリアはその心地よい重みに、ただただ陶酔していた・・・。
ベルゼーとセフィリアは束の間の幸せ・・・自由という名のものを共有したのだった。
翌日、ナンバーズ任命式が行われた。

セフィリア「ナンバー・セブン。ジェノス・ハザード」

ジェノス「ハイ!」

セフィリア「あなたには、この『エクセリオン』を授けます。
      これからはクロノスと世界平和のために共に戦いましょう」

ジェノスは一礼してエクセリオンを受けとった。
その後も次々と隊員が各々のオリハルコン製の武器を受け取っていった。
そしていよいよ最後の授与を迎えた・・・。

セフィリア「ナンバー・ツー。ベルゼー・ロシュフォール」

ベルゼー「はい」

セフィリア「あなたには、この『グングニル』を授けます。
      クロノス最強のイレイザーとしての活躍を期待しています。
      私達と共に世界をよりよきものへとしていきましょう」

ベルゼー「仰せの通りに」

そう言ったベルゼーはセフィリアに一礼した。
そして小声でセフィリアだけに聞こえるように言った。

ベルゼー「この槍をあなたのために捧げます」
それを告げるとベルゼーは静かに元の位置へと戻った。
クロノ・ナンバーズ結成後、ナンバーズの成果は
ウィルザークの思惑通り非常に優秀なものとなり今日のクロノスを支えている。


CP20
セフィリア「思えば、あなたと出会ってからの20年間色々ありましたね・・・あら?」

ベルゼーはいつの間にか眠っていた。

セフィリア「・・・そうですよね。思えばこの件に関しても私だけで行けば良かったのに
      任務の空いていたあなたを無理矢理つき合わせたのですからね・・・。
      ここ連日、クリードの件の他にも色々仕事があって疲れていたのに・・・。
      それでもあなたは嫌な顔一つ見せずに付き合ってくれましたね」

セフィリアはそう言って寝ているベルゼーをそっと倒し
膝枕をするような形に持っていった。

セフィリア「うふふ・・・可愛い寝顔ですね、ベルゼー♪」

そう言ってセフィリアはベルゼーの頭を優しく撫で、頬へとその手を撫で下ろしていった。

セフィリア「ベルゼー・・・愛しています。
      私は幼少の頃からずっとあなたの事が大好きです。
      何回も告白のチャンスは巡ってきたのに私はこの言葉を
      あなたに言う事が出来ず何年も経ってしまいました。
      なぜだか分かりますか、ベルゼー?私に勇気が足りないのも一つですが
      優しいあなたの事ですから、きっとこの言葉を聞くと
思い悩むと思ったからです。
でも・・・私の我慢も限界に来てしまったみたいです。
最近もクリードの件を早急に片付けてしまおうと、
道使いの能力も半解のままケルベロスを赴かせて犠牲を被ってしまいました。
あの時、ハートネットに頼らず私達も襲撃すれば、少なくとも
ベルーガの死は回避できたはずです。
ただ・・・あなたの事を愛しく思うあまり、
あなたを任務に赴かせたくないのです。
あなたを失いたくない・・・死ぬ時は一緒だと思い、こうさせてしまうのです。
ベルゼー・・・ナンバーズは私情を挟まず任務を遂行するものですが あなたの事を愛しく想うが故に前線に出さないようにする
女としての私のワガママで隊長の権限を濫用している私を許して下さい・・・」

セフィリアはそう言って、ベルゼーの唇に自分の唇を重ねた。
セフィリア「ベルゼー、この一件が片付いた時
      私は幸せを得るために・・・幼い頃からの憧れを叶えるために
      あなたに最高のワガママ・・・結婚を申し付けます。
      あなたは私に槍を捧げてくれました。
      だから私はあなたに私の全てを捧げます。
      愛しています・・・ベルゼー」

そう言ってセフィリアはコートを脱ぎベルゼーの隣に横になり
脱いだコートをベルゼーと一緒に羽織った。

セフィリア「一時の幸せを一緒に分かち合いましょう・・・。
      この幸せが永遠になる事、それが私の望む
      たった一つの生きる希望です。愛していますベルゼー、そして・・・

『I'm forever with you(私はあなたと永遠に一緒です)』

               〜END〜 


●おわりに
 まずは、全部読んでくださってありがとうございました。
 この作品はベルゼーとセフィリアはこういう設定だったらいいなぁ・・・などと思う
 作者の独断と偏見が思いっきり含まれている作品です。
 二人の過去話の部分には結構頭を悩ませましたが、こんな感じになりました。
 過去の回想が半分以上を占めるというSSです。
 以前に書いた『infinity』のSSも好きなキャラクターをふんだんに使い
 思いっきり甘い雰囲気をバシバシ書き出すというパターンは変わっていません。
 まあ、何とも平和的なSSばかり書いていますね。
 重なりますが最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。



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