真夏の夜の肝試し
三月の花



前編


今日は私、高町なのはの体験談をお話したいと思います。それはある夏の日の夜、
一家団欒で食事をしていた時の事です。私の母である高町桃子の一言から全て始
まりました。
「夏と言えばビールに枝豆、祭に花火、そして肝試し! と言う訳で肝試しに行こ
うー!」


と言うお母さんの良く解らない夏の第5理論の1つである肝試しをする事になったの
です。肝試しの場所は2日前、お母さんが私達の住んでいる海鳴にある女子寮『
さざなみ寮』の住人、神咲那美さんを無理矢理引き込み、肝試しポイントを決め
ていたらしいのです。そこは海鳴から離れたS県A市の山中にある廃村でした。那
美さん言わくその村は―――



「この村はかつて〔鬼骸(きがい)〕と呼ばれる人ならざる者達が住んでいた村と伝
わっていましたが、霊魂の気配も無いので大丈夫でしょう」
と言われたらしいので、明日の夜にでも肝試しをする事がトントン拍子のように決定
したのです。そして次の日、肝試し参加者が高町家前に集まりました。











〈高町家前〉











「へへっ、丁度暑さを凌ぐには持ってこいのイベントだな」
「恐くて逃げ出さんようになー」
「そっちこそ、腰抜かして動けなくなるなよ」
「うぅ〜、やっぱり私パスで……」
「御神の剣士たる者、こんな事で逃げ腰になるとは何事か」
「大丈夫だよ、那美もなにもいないって言ってたよ」
「でもでも、やっぱり恐いんだもんー」
「いざとなったら逃げ出せば良い事だって」
「忍さんまで……」
「レンや晶の言葉を借りるが、腰を抜かすな」
「大丈夫ですよ、本当に霊魂や祟りの気配は多分無い……と」
「くぅ〜ん?」
「……って自信無さそうに聞こえるんですがー」
「実は前に薫ちゃんから聞いた事があるだけで私は行った事が無いんです」
「なんやうち……ちょっとだけ心配になってもうたわ」
「大丈夫よ。もし何かあったら頼むわね、那美ちゃん」
「……は……はい」
「皆様、車の準備が出来ましたのでお乗り下さい」










「「「「「は〜い」」」」」










こうして、ノエルさんの車で肝試しスポットに行く事になり、鳴海から車で約2時間
位走ると肝試しスポットに到着しました。そこは、もう何百年も住んでいない様に荒
れ果てていて、村に数件ある廃屋はすぐにでも全壊しそうな様子でした。













<S県A市、山中の廃村>













「おぉー、雰囲気出てるなー」
「なんや、ホンマに出そうなところやわー」
「レ、レン……そんな事言わないでよ〜」
「でも、ホントに出るかもよー」
「うぅ〜、みんなが虐める〜」
「こんな事だから、何時までたっても1人前になれんのだ」
「それとこれとは話が別だよ、苦手なものは苦手なんだよー」
「大丈夫だよ美由希、頑張ろ」
「何を……頑張れば良いのか」
「………………………………」
「那美さん、どうかなされましたか?」
「いえ……こんな所だったんだな〜っと…………大丈夫です、霊の気配はありません」
「それじゃ、2人1グループで行動開始ね。ルートは那美ちゃんが用意した地図に書
いてあるから」
「む、随分用意が良いな、高町母よ。それに那美さん、地図と言うのは……」
「薫ちゃんが書いてくれた地図ですよ」
「それじゃあ、クジでグループ決めるわよ」



お母さんは、いつの間にか準備したクジの箱を取り出し、一人ずつに引かせました。
そして組合せは以下の通りです。








お兄ちゃん&お母さん


お姉ちゃん&忍さん


フィアッセさん&那美さん


晶ちゃん&レンちゃん


ノエルさん&なのは(くーちゃん付き)








「恭也、頼むわね」
「……心得た」

「美由希ちゃん、頑張ろ」
「は、はい。出来るかぎりは………」

「よろしくお願いします、フィアッセさん」
「こちらこそよろしくね」

「なんでうちがお猿とやねん!」
「それはこっちの台詞だ、この亀!」

「なのはさん、久遠さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ〜」
「くぅーん」




こうして肝試しが始まりました。最初はお兄ちゃんとお母さんペア、次にお姉ちゃ
んと忍さんペア、フィアッセさんと那美さんペア、レンちゃんと晶ちゃんペア。最後に
私、なのはとノエルさん、くーちゃんペアの順となりました。最初のペアが出発して
から15分後に次のペアが出発するという事になり、お兄ちゃんとお母さんのペア
が出発してから時間になると次々とペアが出発、そして私達の番となりました。
「準備はよろしいですか?」
「地図に懐中電灯………バッチリです」
「では参りましょう」
「はい」
「くぅん」



そうして私達は出発し、私は地図を懐中電灯で照らして道順を確認していきまし
た。
「ルートはどのようになっているのですか?」
「最初はここを真っ直ぐ歩いて……三つ子槍を右に……池の渡り橋を渡って、お墓
を通って……森を抜けて一周する……と書いてありますね」
私はルートを確認すると懐中電灯の光を真っ暗な闇へと向け歩きました。しばらく
歩いていると懐中電灯が道の先に生えている3本の竹を照らしました。
「3本の竹……これが……」
「これが三つ子槍のようですね、この先は右でよろしいですか?」
「はい、地図によるとその先に池がありますから、その池にかかってる橋を渡る見た
いですね」
そして私達は3本の竹を右に曲がって歩き、真っ暗な道をしばらく歩くと水の流れる
音がしてきました。
「水の音……池ですよね?」
「確証はありませんが、おそらく山の湧き水が池へと流れているのでしょう」
水の音がする方向へ歩いて行くと、真ん中に小さい橋のかかった大きな池に到着しま
した。



「この橋を渡り、次はお墓でしたね」
「えっと……」
私は地図に懐中電灯を照らして再び確認しました。
「はい、そうです」
「では行きましょう。橋は老朽化しているようなので気をつけてください」
「はい、解りました」
私はくーちゃんを抱いて慎重に橋を渡り終え、そして続いてノエルさんがゆっくり渡
り終えました。
「無事に通れましたね」
「はい……あ、歩く時に足元が滑りやすくなっていますのでお気をつけ下さい」
「え、はわわわ!!」








ステーン !。







「あいたたた………」
「大丈夫ですか?」
「くうぅ〜ん」
「は、はい……」



私はノエルさんの手を借りて立ち上がり、地図にあるお墓へ歩き始めました。
「なのはさん、今更なのですが肝試しは恐くないのですか?」
「恐くないですよ。だってノエルさんやくーちゃんと一緒ですから」
「くぅ〜ん」
「そうですか」
ノエルさんは微笑み、私もつられて微笑みました。少し歩いたら地図に書いてあった
お墓……基、墓地が見えてきました。
「このお墓を通過したら、先にある森を抜けてゴールです。頑張りましょう!」
「はい」
「くぅん」
お墓の中を歩き始めると、少しずつ寒気がしてきました。墓地の中は無骨で、大き
くて、少し長い岩が無数に立っていて少し恐くなってきました。
「………………………くぅん」









ボン!!










私に抱かれていたくーちゃんがいきなり変身、そして少女の姿になっちゃいまし
た。
「だれか……いる」
「え?」
「くおんたちとは……べつの……あしおと……した」
ノエルさんとくーちゃんが辺りを見回しました。私も見回しましたが暗くて誰も、そ
して何もありません。
「くーちゃん、気のせいじゃない?」
「辺りは私達以外はいないようです。なのはさんのおっしゃられた通り気のせいで
しょう」
「…そうなのかな?」
「きっとそうだよ」
「なのはやノエルが言うなら………」
「では先を急ぎましょう。忍お嬢様や恭也さん達がお待ちです」
「はい!」
「……うん」
再び歩き出して墓地を抜けると、すぐに森の入口に到着しました。
「………ここが……さいご」
「この森を抜ければ肝試しも終わりです」
「それじゃ、レッツゴー!」
「おー……」
「はい」


森の中は月の光や星の光も届かない真っ暗闇でした。右を向いても左を向いても同じ
景色、この時私は心細くなってしまい、くーちゃん、そしてノエルさんと手を繋いで歩きま
した。
「「「……………」」」













私達は何も話さず無言で歩きました。そしてくーちゃんがいきなりある一言を――














「……ここ……さっきあるいたよ……」
「「え?」」
私とノエルさんは懐中電灯で辺りを照らして見回しましたが、同じ景色ばかりなので
本当にさっき通った道なのか解りませんでした。
「本当ですか?」
「うん……あしあと………」
ノエルさんは懐中電灯を下に照らすと3つの足跡がうっすらですが残っていました。
「お兄ちゃん達の足跡じゃ……」
私が恐る恐る言うと、くーちゃんは少し先にあるはっきり残ってる足跡の隣に自分の
足跡をつけました。そして私達はその足跡を比べると‥‥



「同じ……足跡……」
「おかしいですね、確か脇道など無く真っ直ぐ歩いたはずです」
「……うん」
「………………………」
私はこの時、くーちゃんに抱き付いていました。少しでも心の内にある不安を取り除
きたかったから―――




「……なのは、だいじょうぶ。なみたちが……きっとさがしにきてくれる……」
そのくーちゃんの言葉と私の手を握ってくれている温かさに、少しだけ安堵しまし
た。










































ガサガサッ!。










































「「「!!!!」」」





































――――後編へ続く






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