真夏の夜の肝試し
三月の花



後編


不意に右の茂みが動き、その茂みの音に反応してノエルさ
んが私の前に立ち、そしてくーちゃんは茂みの方を見ながら
も、私を守るようにより強く抱いてくれました。


ガサガサッ!、ガサガサガサッ!!。



音は正確に、確実に、私達に近づいて‥‥‥そして茂みの中
から何かが飛び出してきました。
「おい、さっきからこんな所で何やってんだ? ここは人が来る
場所じゃないぞ」


茂みの中から現れたのは男の人でした。詳しい年は解りませ
んが、若いと言う事は解りました。多分16、17歳辺りだと思い
ます。ただ、着ている服が古い着物で、しかも大きな布に包ま
れた棒のような物を担いでました。その人見た私はフニャリと
尻餅をついてしまいました。
「………なのは、だいじょうぶ?」
「う、うん、大丈夫だよ」
私はくーちゃんの手を借りて、フラつきながらも立ち上がりまし
た。
「あ……悪い、驚かせた見たいだな。大丈夫か?」
「は……はい、なんとか大丈夫です」
「良かった………しかし早くこの森から出た方が良い。ここは
むやみやたらに人が足を踏み入れたらダメな土地だからな」
「そうしたいのですが、道に迷ってしまったらしいのです。実は
………」
ノエルさんが今までの事を説明すると、男の人は手を顎に乗
せて少し考えてるように見えました。
「どうやらあんた達は、森の精の悪戯に嵌まってしまったみた
いだな」
「森の精の……悪戯?」
男の人はにっこり笑うと、ついて来いと手招きをしました。どう
する事も出来ない私達は男の人の後をついて行く事にしまし
た。



「…………ふしぎ」
「え、何がなのくーちゃん?」
「……あのひと、よくわからない。でもいいひと」
でも私には普通の‥‥‥変わった服を着てるけど、普通の人
に見えました。
「さぁ、着いたぜ」

そこには、もう何年も使われてない古いお堂がひっそりたたず
んてました。そしてそのお堂の中から1人の着物を来た女の子
が出てきました。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「どうやら森の精の悪戯に嵌まった人達がいてな、困ってるみ
たいだから連れて来た」
「あ、そうなんだ。大変だったね」
その女の子はやさしく微笑み、フラフラと私の方へ歩いて来ま
した。



「少し触らせてね」
そう言って女の子は私の顔に触れました。でも、その手は冷た
くも温かくもありませんでした。
「優しいくて可愛い顔だね」
「あ、ありがとうございます……」
「あの、もしかすると貴女は……」
「ああ、こいつのは生まれつきでな。だから俺が目の代わりをし
てるんだ」
「そうでしたか、失礼な事を聞いてしまい申し訳ありません」
ノエルさんは深々と男の人と女の子に頭を下げました。
「ううん、謝らなくて良いよ。それに私にはお兄ちゃんがいるか
ら。それとお兄ちゃん、この人達は大丈夫だよ」
女の子は私に触れている手を離して、男の人の方へフラフラ歩
いて行きました。でも大丈夫って?



「……どういうこと?」
「なんでもない、こっちの話だ。それより大丈夫なら帰り道を教
えてやるよ」
「え? ホント!?」
「ああ、俺は嘘はつかないぜ」
くーちゃんの質問は男の人にはぐらかされましたが、帰り道を
教えてくれると聞いて私は嬉しくなりました。
「…なのは、よかったね」
「うん!」
「こっちだ、ついてこいよ」
そう言って男の人は来た道を歩いていきました。私は女の子に
一言挨拶を言おうとお堂の方へ顔を向けましたが、既に女の子
の姿は無く、お堂の中に入ったのだと思いました。私達は男の
人についてい来くと、さっきの道に戻りました。



「後はこの先を真っ直ぐ行けば村に着くからな」
しかしこの道はさっきと同じ道、そして男の人が指をさした方向
は足跡が続く道でした。
「あの、ここって…………あれ?」
私が男の人の方を振り向くと、そこにはもう男の人の姿はあり
ませんでした。
「どうしますか?」
「さっきの人はこっちって言ったけど………」
「……………しずかに」
「へっ、どうしたのくーちゃん?」
「………きこえる」
私とノエルさんは静かにしました。すると――












―――旅立ちに―――願をこめ――


祈り―――思い―――うたいゆくからそっと


―――心に留めて―――Sweet Songs for you―――












男の人が指をさした方向から歌が聞こえました。この歌声はあ
の人だ! 私とノエルさんとくーちゃんは歌が聞こえる方向、男
の人が指をさした方角へ歩いてきました。歩き始め、しばらくす
ると森を抜ける事が出来ました。
「やったー!」
「抜け出せましたね」
「………よかった」
私達から大分離れた所にみんなが集まっていて、その中心に
フィアッセさんが歌を歌っていました。そして、フィアッセさんが
私達に気付くとみんながこっちに集まってくれました。
「なのはー! 遅かったからかーさん凄く心配したのよー!」
お母さんは私を強く抱きしめてくれました。少し苦しかったです。
なのちゃん達が無事でホンマ良かったわー」
「俺達、心配だったもんな」
「肝試しより、なのはが帰ってこなかったのが凄く不安で恐かっ
たよー」
「もし道に迷ってたならフィアッセの歌で居場所を知らせようとし
たのだが成功だな」
「うん」
「お疲れ様ノエル、大丈夫だった?」
「はい、問題ありません。ご心配をおかけした、忍お嬢様」
「久遠、平気?」
「………すこし、つかれた」
「しかし3人共無事でなによりだ。だが何故こんなに遅かったん
だ?」
「あ、それは………」




私は森で起こった事、そして男の人と女の子の事をみんなに話
しました。
「……そこの森やったら一本道で、走ったらすぐに出られたでー」
「私達も、すぐに抜け出せたよ」
「うん、それに男の人や女の子とは出会わなかったよ」
「森の中は他の人の気配が無かった。居たらすぐに解る」
みんなは口々にそう言いました。



「いえ、なのはさんに間違いはありません。私もなのはさんと同
様、この目で確認しました」
「………くぅ〜ん」
「ノエルは嘘をつく訳無いけど………」
ノエルさんと子狐姿に戻ったくーちゃんは同じ体験をしたので私
の味方をしてくれます………そしてもう1人。
「もしかしたら……鬼骸……なのかもしれませんね」
「「「鬼骸?」」」
「はい、人の姿をしていますが人にあらず、しかし人との共存を
望んだ者達の事です。もしかしたら、なのはちゃん達はその鬼
骸に助けてもらったのかもしれませんよ」
「あの人達が……鬼骸……」
「はいはい。みんな無事だったんだからお喋りはそこでにして、
もう本当に遅いし
そろそろ帰りましょう!」
「「「はーい!!」」」




みんな車の方に向かい、私は途中、森の方を見ると―――
「……………あ」
淡い月の明かりでハッキリと見えませんでしたが、森のすぐ近
くでさっきの男の人と女の子がこちらを見ていました。私は小さ
く手を振ると、その2人は答えるかのように手を振ってくれ、そし
て、スーっと消えてました。
「なのはー!」
「あ、はーい!」
私は車に向かい、そしてみんなが乗った事を確認したノエルさ
んは廃村を出発、私達の住んでる海鳴へ走り出しました。車の
中で私は、森の中の2人の事を考えてました。もしかすると、那
美さんの言う通りあの廃村のかつてあそこで住んでた鬼骸だっ
たのかもしれません。しかし真相は今だ不明のまま―――



以上、高町なのはの体験談でした………なの。






後書き
とりあえず季節物を書いてみました。

とは言え内容は恐くありませんが……(汗)

これで楽しんで貰えれば幸です。

ほなまた



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