・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 目を開けるとそこには何もなかった 闇 深い闇こそがここの住人 一筋の光もない どこまで続くのか 果てはあるのか 上も下もない空間 そこには何もありはしない ただ闇があるだけだ その闇すら本当は無いのかもしれない ここは余りにも寂しすぎる この闇は存在を否定する 何も無い空間のたった一つの例外 この俺の存在を・・・ |
紅月夜 〜くれないつきよ〜 |
ツヴァイ |
目を開けると、眩い光が目の中へ侵入する。 壁に掛けてある時計が秒針を刻むごとに、俺の意識はだんだんと覚醒してゆく。 「ここは・・・?」 立ち上がるときガタンと音を立てて何かが足に当たる。 瞬間、世界が開けた。 整理され、キチンと並んだ机 文字がビッシリ書かれた黒板 一斉に俺に注目する生徒達 呆れた顔でため息を漏らす教師 そう、ここは学生なら知らぬ者など居ない。 一日の半数以上を過ごす、教育という鎖で学生を縛り付ける牢獄と言っても過言ではない施設。 「学校・・・」 クラス中が注目する中、俺は今の状況を必死に整理する。 ここは学校で、どうやら授業中に居眠りをしていたらしい。 「志藤。どうした?」 教師が俺に言葉をぶつける。 「い、いえ。その・・・トイレにいきたくなって。」 そう言い残して俺、志藤乙(しどうきのと)は教室から飛び出した。 その場の言い訳でトイレに来た俺は、仕方なく用を足す。 出すものを出し終えた俺は、そのままトイレの壁に背を預け、物思いに耽る。 さっきの夢、あれは何なのか・・・ 真っ暗な世界。上も下もわからない。 何か、漂うような感覚。 そこは一筋の光さえ許されず、闇のみが存在していた。 その何もない空間に俺と言う異物が存在している。 夢と言うのは普通、自分の見た景色や人物が描かれることが多い。 しかし、何もない夢などはたして夢と呼べるのか。 地面に突き刺さる様にして立っている高層ビルの群れも、まるで時間に責め立てられる様に忙しく行きかう人ごみも、地面を這うように走る車の列も、何もない。あるのは闇と不安と浮遊感だけ・・・。 それはあまりに不条理で、そして狂気そのものだった・・・。 暫く悩んでいた俺は、時間が過ぎるのも忘れていた。 その後、慌てて教室に戻った俺がたっぷりと説教されたのは言うまでもないことだ。 甲高いチャイムが全ての授業の終りを告げる。 途端に教室が騒がしくなり、続いて入ってきた担任に静められる。 「さて、ホームルームを始めるとしようか。」 我らがクラス2年1組の担任、月村 流(つきむら ながれ)が、いつものようにホームルームを開始する。 月村・・・先生は今年入ったばかりの新米教師で、年輩層が多いうちの学校の中での、数少ない若者だ。 温厚な性格で頭も良く、運動神経も良い。 止めに大学では医学を専攻していたそうだ。 それが何故、うちの学校に就職したのかが最大の謎である。 まあ、それらが全てがいわゆるモテる要素と言うやつで・・・ とにかくこの男はモテる。 言うならば男の敵だ。 案の定、クラスと言わず学園中の女子の憧れの的だ。 と、まあうちの担任はとんでもなく常識はずれな奴なんだが、実際悪い奴ではない。 普通こういうタイプは多くの場合、根は自分に酔いしれるナルシストなんだが、っと言うと偏見かもしれないが・・・とにかく、こいつは違う。 実は案外付き合いやすい奴なのだ。 冗談も言えば、人の悩みを真剣に聞いたりする面倒見の良さも兼ね備えている。 そして何より俺はこいつとかなり親しい。 どれだけ親しいのかと言うと・・・ 「やあ、ホームルームはとっくに終わってるぞ?外なんて見て呆けちゃって。悩みでもあるのかい?それなら今度の休みにでも聞かせてもらおうか。生徒の悩みは教師の悩み、ってね。」 っとまあ、生徒に向ってタメ口を利く、しょうもない奴なのだ。 まあ、そんな所が気に入ったんだが・・・ こいつと話していると、年齢の差を感じない。 まるで兄弟とでも話しているかの様なのだ。 「いや、悩んでなどいないぞ。ちと意識が飛んでただけだ。」 「そうか、ならいいんだ。ところで、今度の休みはどうするんだ?家に来るか。それともどっかでかけるか?」 こいつと親しくなってからというもの、休みはほとんどこいつと共に過ごしている。 遡れば、小さい頃からの付き合いだ。 こいつの家に道場があるという事から俺は、親の知り合いであるこいつの家に通うようになった。 家柄に厳しいうちの家系は文武両道がモットーらしいが、俺は勉強の方は破滅的にダメだ。 だからせめて武道の方は、と言う理由でこいつの家に休みになると武術(俺の場合は剣術)を習いに行くようになったのだ。 人当たりの良い性格は昔も変わらず、人見知りをし易い俺に話しかけてくれたのも、流だった。 それ以来、俺達は一緒に過ごす時が多くなり、打解けていった。 今となっては一緒に町へ出て買い物をしたり、ゲーセンに寄ったりと、普通の友人同士の休日をすごす仲である。 「じゃあ、いつも通りおまえの家の道場の世話になる。」 「うむ、ならいつもの時間に待ってるからな。遅れるなよ?」 流は約束事の前には、必ずこう言う。 別に俺を信頼していないわけではないのだが・・・本人は確認のつもりらしい。 「俺が約束破ったことあるかよ。」 俺がそう言い返すと、流は笑みを浮かべておどけてみせる。 「いや、これは失礼。じゃあ暗くならないうちに帰れよ。最近は物騒だからな。」 奴は「じゃっ。」と言って教室を出て行った。 そして残された俺は、潔く言うことに従い帰宅するのだった。 学園から家までの距離は遠い。 遠いのだがそれは俺が徒歩通学だからであって、自転車通学の者なら然程遠いとは思わないだろう。 ちなみに俺は電車もバスも使わないので、通学だけで片道40分もの時間を要する。 何故徒歩なのかと言うと・・・ 他人に言えば確実に笑われるので言ってはいないが、俺はのんびり歩くのが好きなのである。 爺くさいとは自分で思うが、好きなものは好きだからしょうがない。 これだけ説明すればおのずとわかると思うが、学園から家まで40分。 学園を出た時間が4時半。 今は冬なので日が短い。現時刻が5時。 周りはすっかり闇の中である。 最近は物騒になり暗くなってからは危険である。 しかし、俺は危機感が薄れていた。 今のご時世、戦争や紛争は現にあるがそれはまるで別世界だ。 確かに治安も悪くはなってきている。 無差別な殺人も近年増加している。 だが所詮は人。 本気になれば勝てない相手ではない。 自分は大丈夫。 そう、思っていた。 アレと出会うまでは・・・ それは人気のない公園を横切ろうとしていた時、起こった。 突然暗闇に光が生まれた。 そして・・・ 雷が落ちたときのような、凄まじい轟音が鳴り響く。 「な、なんだぁ!?」 ここで止めておけばいいものを、野次馬本能が俺を突き動かした。 爆発が起きた場所に駆ける。 そして俺はそこで、この世に有るまじきモノを見た。 高速でぶつかり合う何かと何か。 始めそれが何なのかわからなかった。 徐々に暗闇に目が慣れて行くと共に、信じられない光景が浮かび上がってきた。 [それは奪い合い] 人と人が、武器と武器が、飛び交っていた。 [それは生と死の儀式] その光景はあまりに幻想的で、現実離れしていた。 [それは戦いという名の舞踏] 「逃げなければ殺される。」本能がそう呼びかける。 殺し合いをしていると見てわかるのだ。 奴らは人の身でありながら人でなくなった者・・・何故か、俺の頭がそう理解した。 見付かれば必ず殺される・・・ 奴らから見れば俺は地べたを這いずり回る虫けら同然なのだから。 それなのに、それなのに俺は、二人の何者かの戦いが美しいと思った。 自分も剣術家の端くれだ。 確かに恐怖はある。 だがそれを上回る洗礼さが、そこにはあった。 金属同士がぶつかり合う音と共に、二人は別々の方向に飛び退いた。 次の瞬間、二人の殺気が寄り純粋に、より濃厚になる。 ここで決めるつもりだ。 刹那、一方が仕掛ける。 とても人間とは思えないスピード。 そして、その得物が相手の咽下に迫る・・・ 鈍い音と共に仕掛けた方が後方に吹っ飛ぶ。 その隙を逃す筈がない。 仕掛けられた方が獲物を上段に構える。 そして、衝撃が奔る。 純粋な破壊の塊が駆ける。 敵に向って。 この時、気が付けば間に合ったのかもしれない。 得物を構えた奴が、何を見ていたのかを。 その瞳は、真直ぐと俺を見ていた・・・ 気付くのが遅すぎた。 破壊の風が、仕掛けた奴を素通りし、真直ぐ俺に向ってくる。 状況がわからない為か、俺の体はピクリとも動かない。 このままでは死んでしまうと言うのに。 ---それは一瞬だった ぞぶりという鈍い音がする。 それで俺の体は死を迎えた。 地面がどんどん近づいてくる。 どっ、と言う音と共に俺の上半身は地面に落ちた。 痛みはない。 急激に血が失われて行くのがわかる。 それと共に意識が薄れていく・・・ ふと見上げると月が出ていた。 真っ赤な血の色をした月が・・・ 俺の意識が消える瞬間、誰かが側にいる様な気がした。 そんなことはどうでもいい。 俺は死ぬのだから。 紅に染まる月夜 そこで俺の意識は途絶える こうして、志藤乙と言う少年は死んだ・・・ |
[後書き] どうも、皆様、ご無沙汰しておりますツヴァイですm(_ _)m かなり久しぶりの登場ということで、前回の物を見直して、修正してみました。 変な表現や、説明不足なところ等を付け足しました。 また読んでいただければ幸いです。 今度はPCが壊れぬ限り更新が途絶えることはないので・・・ 明さん、半年も放置してすいませんでしたm(_ _)m それでも、スペースを残しておいてくれたことに感謝です。 |
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