月明かりが闇夜を照らす。 夜空に瞬く星達はさながら、自らの命を主張しているようだ。 物音一つしない、静かな夜。 月夜が照らすは、美しくも醜い死の宴。 彼らは戦いの舞踏を踏み鳴らす。 それは・・・ |
紅月夜 〜くれないつきよ〜 |
ツヴァイ |
奴の攻撃が来るよりも速く、俺の爪が駆ける。 長く、大きく伸びた爪 左腕の肘まである、硬い甲殻 それが俺の得物。 俺の内なる「狂気」が生み出した、凶器。 狙うは奴の命・・・ 「くっ!」 だが、俺が首を刈り取るよりも早く、奴の得物が俺の一撃を阻む。 「ふぅっ!」 すかさず、奴のカウンターが俺を襲う。 が、俺はそれを寸でのところでかわす。身体的な能力ではこちらの方が若干上の様だ。 だが、奴の攻撃は物の存在そのものを攻撃対象とする。よって防御は無意味だ。 戦局は俺の方が不利だ。 「不味いな・・・。」 俺ではない何者かが、俺の声で言う。 「力が完全に出し切れておらぬ。だが、我の勝機は揺るがぬ。否、ここで負ける訳にはいかぬのだ。」 俺の姿が消える。 奴にはそう見えただろう。俺は、本来ならば絶対にありえない様な速度で、敵の背後に移動したのだ。 そして、そのまま爪を振り下ろす。 「取った・・・。」 だが、この不意打ちも、失敗に終わった。 「なっ!」 っとすかさず相手は隙を与えぬ反撃を繰り出す。 それを咄嗟にかわす。 が、今度はかわしきれず掠めてしまった。 肉が裂かれる感覚が体全体に伝わる。 その感覚を感じながら、反撃を繰り出すが・・・ 「ぐっ!」 反撃を出そうとすると、膝が崩れた。 体中の力が抜けてしまった様だ。 「掠めただけでこれか・・・。奴の力、侮っていたようだ。」 -----このままでは、不味い だが、体に力が入らない -----何故だ このままでは殺される -----ここで終わるのか まだだ -----まだだ まだ力は残っている -----まだ戦える ゆっくりと、俺は立ち上がった。 「嘘。あの傷で立ち上がれるの?」 狩猟者は動揺していた。 いくら掠めただけとは言え、この鎌に傷つけられたのだ。 相当のダメージを負っている筈。最早、立ち上がる力など残ってはいない。 なのに何故、彼者は立ち上がったのだ。 「!!」 突然、何かが迫りくるのが見えた。 咄嗟にガードする。 それは鎌の柄の部分に当たり跳ね返り、地面に落ちる。 飛んできたのは、そこらに転がっていた石だった。 「劣り!?まずっ・・・」 気付いたときには遅かった。 体に痛みを感じるより前に、体は中を舞っていた。 地面に体を打ちつけながら転がる。 -----何故!? 頭の中で何度も繰り返される。 こんなことは在りえない。 否定しても、起こったことは事実。受け止めなければ。 状況判断を誤れば即、死に繋がる。 「っ!!」 さらに敵の攻撃は続く。 直感のみを頼って、攻撃をかわす。 さっきまでいた場所は、凄まじい攻撃により、小規模のクレータができ、炎が燃えていた。 「力を取り戻したの?そんな筈は・・・」 ないとは言い切れなかった。そもそも、先の攻撃を受けて立ち上がったのだ。 在りえないことではなかった。 「死ね・・・」 っといきなり背後で、背筋が凍るような声が響く。 「えっ?」 直感でガードする。 下からの斬り上げ。 体が重力に反して飛び上がる。 そして、待っていたかの様な蹴りでの叩き落とし。 衝撃と共に、コレでもかと言うくらいに地面に叩きつけられる。 それでは衝撃を吸収しきれないのか、再度飛び上がり、また落ちる。 「かはっ。」 口から自然に血が吐き出され、呼吸が苦しくなる。 予測不可能な攻撃。 それは、人間の能力では到底及ばない、神の領域に達していた。 「そんな。私が予知できない攻撃なんて・・・」 ノルンは運命の三女神。 そのうちの一人である彼女が持つ能力は、運命を見定め因果を視る瞳、「命運の魔眼」。 あらゆることの因果を予知できるこの能力が、運命の三女神たる証なのである。 その力を持ってしても、彼者の攻撃は予測できない。 それは、最早人ではなく、「魔神スルト」そのものであった。 だが、それがどうした。 自分の死は、この世界の死を意味する。 負けられない。 負けてはならない。 それが、己に課せられた運命なのだから。 立ち上がり様に渾身の一薙ぎ。 見事命中。 渾身の力を乗せた一撃は、敵を吹き飛ばす。 「次で仕留める。」 体中が燃えている。 俺にはそう思えてならなかった。 体は異常なくらいに発熱し、力が無限増に沸いてくる。 それなのに、心は凍てつく氷のように冷たかった。 「戻った・・・」 かすかな声で、俺ではない誰かが言う。 おもむろに、足元に転がっていた石を掴む。 そして、まるで流れるようにそれを投げた。 その投石は、人の目では確認できないほど速い。 が、その攻撃を奴は防いだ。 攻撃が防がれるのと同時に、俺の体が地を駆ける。 まるで予測していたように。 時間にして0.1秒。 10mは離れいる距離を、たったそれだけの時間で移動するなど、どうかしていた。 次に気が付いた時には攻撃が終わり、いつの間にか空を翔けていた。 獲物は動かない。 「もらった。」 口元をニヤつかせながら、誰かが喋る、俺の声で。 轟音と共に土が巻き上がる。 炎が舞う。 衝撃を受けた地面は、大きく抉られ何故か火の手が上がっていた。 もうわけがわからない。 一体俺はどうなってしまったのか。 それに答えるものはいない。 「ちっ」 攻撃が外れたためか、俺の体を操っている誰かが舌打ちをする。 そして、すぐさま次の攻撃へ。 「死ね・・・」 下からの斬り上げ。 敵が宙に浮く。 もらったとばかりに、思い切り蹴り落とす。 衝撃に地面が揺らぐ。 血を吐きながら、女は地面に数回叩きつけられる。 その、血を見て今まで見ているだけだった俺は意思を取り戻す。 立ち上がった女、いやよく見ると少女・・・ってそんなこと言ってる場合じゃない! とにかく、少女はよろよろと立ち上がり持っていた大鎌を構えていた。 もうたくさんだ。 何故、こんなことをしている。 何故、殺し合いをしなくてはいけない。 やめてくれ。 これ以上俺の体で人を傷つけないでくれ。 「ぬっ。宿主の意思が目覚めたか。くっ、このような時に。」 俺の体を乗っ取っていた奴も、困惑している。 今なら主導権を取り返せるかもしれない。 「こ・・・のぉ・・・」 -----ぬ、よせ。今貴様が出ても死ぬだけだと分からぬか! そんなこと知ったことか。 「おれ・・・のから・・・だを・・・」 -----ふん。好きにしろ。もう抵抗しても無駄のようだ。私の場合、肉体が滅んでも魂さえ残っていればいくらでも代えはある。無駄死にしたくば、それもよかろう。 「かぇ・・・せえぇぇぇぇ!!」 奴が諦めたのか、体の自由を取り戻す。 だが、ここで浮かれている場合ではなかったことを、俺はこの時気付いていなかった。 「おっと・・・」 まだ、完全にコントロールが利いていないのか、石に足を取られてしまった。 っと、その瞬間、何かが俺の目の前を横切る。 そして改めて目の前を見た時、俺は戦慄を覚えた。 「地面が、裂けている・・・。」 地面が割れていた。地震などで出来る地割れのように、亀裂が入っているのではない。 まるで、鋭利な刃物で切り裂いたように、スッパリと斬れていた。 「嘘・・・。コレでもダメなの!?私の瞳で予知できない攻撃でも、この攻撃の前では関係ない。狙った存在を消し去る為、因果に関係なくその存在を断つ攻撃なのに・・・。この攻撃ですら、スルトを倒せないなんて。そんなことは在りえない筈なのに、何故?」 まただ。この少女は、さっきから俺のことを「スルト」と呼ぶ。 俺は「志藤乙」。れっきとした日本人だ。「スルト」だなんて外人みたいな名前じゃない。 ここは、ガツンと一発言ってやらないとわからない様だ。 「おい!さっきから聞いてりゃ人のことスルトスルトって、俺は「志藤乙」。「スルト」なんて名前じゃねぇ!人違いか何だか知らないが、こんなことで殺されちゃたまんねぇっつうの!」 「・・・・え?」 少女の顔に、驚きと困惑の表情が見て取れる。 どうやら、わかってくれたようだ。 「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」 よほど驚いたのか、大声で叫ぶ。 「じゃあ、さっきの攻撃が外れたのは必然? 確かに、狙った獲物は逃がさない。100%の命中率でも当たらない訳だわ。狙った獲物とは違う存在だものね。」 「はぁ・・・。何かわけわかんないこと言ってるし。」 そんな少女の態度に呆れ果て、大きなため息をつく俺であった。 「なぁるほど。じゃぁ、確かにスルトはここに居たわけだ。にしてもスルトの肉体支配を破るなんて、やっぱり貴方、並みの人間じゃなかったみたいね。」 あれから約20分かけて、現状の説明をしてやった。 何故そんなにかかるのかと言うと、俺が説明している途中でしつこく質問されたからだ。 「やっと疑いが晴れたか。これでわかったろ?俺が「スルト」じゃないってことが。」 俺がこう言うと、少女はまたとんでもないことを口にした。 「いいえ。まだ分からないわ。いくら肉体支配を打ち破ったとしても、また「スルト」が表に出てこないとも限らない。だから・・・・そうね、貴方には私の仕事の手伝いをしてもらうわ。もちろん監視の意味も込めてね。」 彼女の突拍子のない言葉を理解できず、一瞬不覚にも固まってしまった。 「て、手伝うって何をすればいいんだよ?言っとくが、俺はまだ入院中なんだからな。抜け出すにしても、今日みたいに上手くいくとは限らないし・・・・」 っと、俺はここで重要なことに気が付いた。今まで、目の前で起こったことのインパクトが強すぎて忘れていたが、俺はどうやって病院を抜け出したのだろう。何故、俺はこんな所に居るのだろう。 分からない。 覚えていない。 虚ろな意識、覚えているものは異常なまでの渇きと体の火照り。 そして、知らぬ間に目の前にいる少女と殺し合いをしていた。 そうだ、この少女なら俺に何が起こっていたのかを知っているかも知れない。 そう思った俺は、彼女に聞いてみることにした。 「なぁ、さっきまで俺の体では何が起こっていたんだ?体の感覚はあるんだが、動かそうとしても動かなかった。それにとても人間とは思えないスピードで走り回ったり、地面に大穴をあけたり。一体、何なんだよアレは!?」 俺が言うと少女はすまなさそに顔を俯け、口を開いた。 「そうね。あなたには知る必要がある。でもその前に、立ち話もなんだからどこかに腰を休めましょう。」 丁度いいところにベンチがあったので、俺はそこを指定した。 俺がベンチに座ると、彼女も隣に腰をかける。 ふと思ったが、こうして二人きりで女の子の隣に座るのは初めてだ。 俺は顔が赤くなるのを感じ、胸の高鳴りを抑えながら彼女の話を聞いた。 「貴方、自分が事故に遭った時のことを覚えてる?」 いきなりのことだったが、俺は間を置かずに答えた。 「そんなの当たりま・・・・」 いや、待て。 本当に覚えているのか? よく思い出してみろ。 俺は本当に事故に遭ったのか? もっと別の・・・ 何か引っかかる。 「思い出せないでしょ?それは、貴方が自分で記憶を封印したの。だって、一度死んだ人間が生き返る筈なんてないものね。」 「・・・え?」 彼女は今なんと言った? イチドシンダ 記憶がそこだけ抜けているのは確かだ。 だが、本当に覚えていないのだろうか? 「俺は一度、死んだ・・・」 気が付けば、そんな言葉がもれていた。 自分に言い聞かせるように・・・ 「貴方には、いくら謝っても謝りきれない。私が、私がもっと周りに気を配っていれば、あんなことにはなりはしなかった。 私が貴方を見殺しにしたのと同じ。」 彼女は話を進める。 「あなたは結果的には生きている。けどね、あなた個人と言う存在はあの時死んだのよ。 私がスルトの剣をあなたの体に埋め込んだ時から・・・ 私は、貴方を救うことしか頭になかった。自分の性で人が死ぬのは、もう見たくなかったから。だから、私はスルトの剣を使い、貴方の体を蘇生させた。魔神スルトの力を使ってね。」 彼女は自らを締め付けていた。言葉という鎖で自分を・・・ 「こうなることは予測していた。その時は自分で処理しようと思ってた。それが私の勤めだから。 矛盾していると思うかもしれない。 自分で救っておきながら、殺そうとするなんて。 だから、許してもらおうとは思ってない。私のことを憎んでもらっても構わない。私は貴方を利用するだけなのだから。」 彼女の話は、正直言ってあまり聞いてなかった。 俺は、彼女の話しの影響かは知らないが、記憶を取り戻しつつあった。 あの日、自分の身に起こったことを。 ここと同じ、あの夜の公園での出来事を。 その結果、全てを思い出したわけではないが自分になにが起きたのかはハッキリと思い出した。 それを踏まえた上で、俺は口を開く。 「いいよ。」 一言そう言った。 「え?」 彼女はこちらを向き、驚きの表情を浮かべていた。 彼女の方を見ていた俺は、突然向き合ったことが気恥ずかしくなり顔を背けながら言った。 「だからさ、許すって言ってんの。あの日俺が公園で殺されたのは事実だけど、すぐ逃げればよかったのに逃げなかったんだからさ。 俺が死んだのは自分の責任だ。 そんな俺の命を救ってくれたんだ、恨むより礼が言いたいくらいだよ。 君の手伝いにしろ、助けて貰ったお礼ってことでいいだろ?」 ちょっと失礼だったかもしれない。 そう思い。顔を元に戻すと、彼女はまだ驚いた顔のままだった。 関係ないことだが、彼女の驚いた顔がすこしばかり可愛いな、と思ってしまった。 そして、彼女の顔が驚きから微笑みに変わった。 「貴方って、変わった人間ね。」 そう言って、手を差し出して来た。 彼女の笑顔にドキッっとさせられた俺は、状況がわからず彼女の顔を見た。 正面には少女の顔。 その顔がまた微笑みに変わり 「よろしくね。志藤乙くん。」 っと言った。 それで彼女が何を求めているのかが分かり、慌てて彼女の手を握る。 握手だった。 彼女を見ると、心からの笑顔。 満面の微笑み それが、俺と彼女との始めての記憶。 神楽鎌との出会いの記憶だった・・・・ |
[後書き] 皆様、どうも〜m(_ _)m 作者のツヴァイです。 今回は半年振りの更新ですね・・・ その件に関してはホントに申し訳ないです。 っと今更何を言っても言い訳にしか聞こえませんねw これからはPCが壊れるまでは多分大丈夫なので・・・ 今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m |
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