B−T−B
HELLCHILD



FINAL MUTATION



 
 5月6日 PM5:00
 
「信号は送れているか?」
「ええ。後は彼らの応答を待つだけです。」
 一台のノートパソコンを前に、スタッフと優春とトールが並んでいた。3人とも神妙な顔つきでモニターを見ている。
 これから優春は自らの原罪と対面するのだ。17年間犯し続けてきた罪と、これから向き合わなければならない。
 そこで何を見るのかは解らない。“拒絶”という裁きを受けるのか、それとも・・・・・・
 
ブンッ。
 
 モニターに一つの顔が現れた。それは・・・・・・
『・・・・・・お母さん』
 モニターに映った顔は、紛れもない17年前の優春だった。
 田中優美清春香菜・・・・・・その娘であり、双子の妹であり、そして優春の分身でもある少女。それが目の前にいる少女、田中優美清秋香菜だった。
『・・・・・・ううん、あなたはお母さんなんかじゃない!』
 怒りを露わにして優春を睨み付ける優秋。その様子から真実を全て知っていることを、優春は見抜いた。
『17年間、あなたは私のお母さんのフリをしてたんでしょ・・・・・・田中ゆきえの真似をしてたんでしょう!?』
「そう・・・・・・確かに私は、あなたの母親じゃないのかもしれない。もうあなたの母を名乗る資格はないのかもしれない・・・・・・でも・・・・・・」
 言葉を詰まらせる優春を押しのけて、トールが優秋と向き合う。
「悪いけど、時間がないから手短かに説明するぞ。これから巨大送風機を稼働させて、海水を除去する。その隙に脱出しろ。ただしタイムリミットは2,3時間弱だ。ソッコーで仲間を連れてきて脱出するんだ。解ったな?」
『え、ええ・・・・・・』
「よっしゃ、それと・・・・・・」
 横目で優春を見ると、トールは言った。
「お前のお母さんは、誰よりもお前を愛している。ずっとお前を騙し続けてた自分を悔やんでいる。
説明しなきゃならないことは山ほどあるが、今ここじゃ説明してる場合じゃないんだ。モニター越しに説明するようなことじゃないしな。早く上がってこい。じゃあな。」
 そうしてトールは電源を切った。
 
 
 
 
5月7日 PM2:43
 
「一体何処へ連れて行くつもり?」
「まあ焦らないでよ、もう少しだからさ。」
 ここはインゼル・ヌルに建っている病院だった。怪我をしたスタッフはここで治療を受けていた。
 怪訝な顔をするつぐみを先導して歩いているのは、桜井敦だった。つぐみの歩調に会わせて、ゆっくりと廊下を歩んでいる。
「人をあんな猿芝居に立ち会わせて・・・・・・一体どういうつもりなの?」
「まあ気持ちは分かるけどさ、そんな気持ちもブッ飛ぶようなスペシャルなプレゼントがあるんだ。黙ってついて来なよ。」
 つぐみの糾弾を軽く受け流すアツシ。彼には確信があった。“アレ”を見せればつぐみも理解を示してくれるはずだと。
 
「救出早々悪いがな、話がある。」
「え・・・・・・って、あんた誰?」
 点滴を受けている武に、星野秀彦が歩み寄る。同じ病院内で、武は治療を受けていた。
 色々と気取ってはいるが、水深119mからの水圧を受けながら泳いで上がったことや、ティーフブラウウイルスによるダメージなどで、武の身体はボロボロだった。ここで応急治療を受け、本土の病院で治療してもらう予定だ。
「いいから来い。合わせなきゃならない人間がいるんだ。」
「うわっ! お、おい!?」
 点滴の管を引っこ抜き、武の右手を掴むヒデ。有無を言わさない態度に、武は戸惑うばかりだった。

「誰に会わせようって言うの?」
「へへっ、それは会ってからのお楽しみ♪」
 ある一室に案内されたつぐみ。一個だけソファーがあり、そこに座って待つことになっていた。
「オレは邪魔しないから、好きなよ〜にやってていいよ。」
 そう言い残して、アツシは去っていった。
 つぐみにアツシの真意は解りかねたが、ここまで来た以上は何があっても驚かない。
 もう何でも来やがれ、そんな心意気で待ち構えていた。
 やがてドアがノックされた。その音に反応して、つぐみは振り返った。
「ここから先は、お前一人で入れ。」
「え? 中に誰かいるのか?」
「いいから入れ。会えば解る。」
 そんな会話が聞こえた後、誰かが入ってきた。
 そしてその誰かを見て、つぐみは仰天した。
「う・・・嘘・・・・・・」
 否、仰天なんてものじゃない。この世の全てがひっくり返ったような、そんな表情。
 ずっと会いたくて会えなかった人。もう会えないと思っていた人。
 相手もつぐみを見てびっくりしているようだった。彼にとってつぐみは、最愛の女。生きて帰ると約束した人、命と引き替えに救った人だった。
「武・・・・・・」
「・・・・・・つぐみ?」
 次の瞬間、つぐみは駆け出していた。愛する人の元へ、その胸へ飛び込んでいった。
「武・・・・・・嘘じゃないよね・・・・・・本当だよね・・・・・・?」
 何度も夢で見た。だけど夢から覚めるたび、現実の悲しみに打ちのめされていった。
 今この現実を確かめようと、必死で武の温もりを感じた。もう絶対に話さないと、しっかりと腕を掴んだ。
「い、痛い・・・・・・ちょっと痛いんですが・・・・・・」
「イヤッ、絶対離さない! 絶対離れないもん!」
 首を横に振るつぐみに、武はほんの少し頭を掻いた。
 
 
「わ〜いわ〜い! 久しぶりだねぇ、まいまい〜!」
「・・・・・・」
 まいまい・・・・・・そう、今井尚のアダ名である。
 帰ってくるなり、ここはヒサシに“17年間の秘伝のコメッチョ”を何発も聞かせ、更に奇妙なダンスを踊りながら、ヒサシの顔面をいじくり始めた。
「ぶぅ〜、相変わらずブアイソなんだからぁ。ほらほら、笑ってよぉ〜!」
「・・・・・・・・・」
 唇の端をひっ掴み、V字型にする。ここまでされてもヒサシの表情は動かない。ずっとあぐらを掻いて座ったままだ。
 そして30mほど離れた場所では、ユータが必死で笑いを堪えていた。
(め・・・・・・眼を開けたまんま眠っているぅ〜!!!)
 
 
 人目に付かない場所で、八神亨はPDAに向かって話をしていた。
「なるほど、現物は回収できたわけだな。」
『はい。社長の推測通り、穂樽日で発見されました。しかし問題が一つ・・・・・・』
「何かあったのか?」
『ええ。データを記録したテラバイドディスクをドイツへ、時空間転移装置を日本に送ろうとしたのですが、ディスクを輸送する途中で、何者かにディスクを強奪されました。』
「んだと? 邪魔しやがったヤローが居るってのか。」
『ええ。全員に連絡が通じないことから、殺害されたものかと。』
「ちっ・・・・・・装置は大丈夫か?」
『それは心配要りません。もうラボの地下に輸送が完了したところです。』
「よし、それならいい。危険が少ない内に引き上げな。」
『了解。では、また・・・・・・』
 その言葉を最後に、通信が切れた。
 
 
 
 その場所は半分朽ち果て、壁の穴からは幾筋もの光が射し込んでいた。そんな古い神社の中、彼は佇んでいた。
「これが鈴か・・・・・・これともう一つ、“杜紀司”さえ揃えば・・・・・・・」
 その掌にある鈴を見つめながら、彼は呟いた。親指の爪ほどの小さな鈴。それは壁から射し込む光を鈍く反射していた。
「俺はサウルとなり、ダビデを突き刺すのだ・・・・・・あの“ロンギヌス”でな。」
 

「それが本当なら・・・・・・俺達の立場も危うくなってくるね。」
 第187番部隊の4人は、既に合流して本土にいた。全員が体力を大幅に消耗しているため、回復を待ってから国外に逃亡することとなった。
「あの4人が遂に腰を上げやがったか・・・・・・もはや俺っち達ですら介入できないレベルにまで、事は進んじまってるのかもな。」
「当たり前だろう。俺達4人ですら比べ物にならない力を持つ連中だ。そんな奴等が本気になってみろ、もはや神ですら止めることは不可能だ。」
 神に牙を向けることすら厭わない4人の鬼神。生けとし生けるもの全てを破壊し、その破滅を新たなる誕生へと導く。そんな力と手段を持つ者達だ。
 そして新たなる世界の玉座へと座るのは、ヤツだ。3人を統括し、従者として従える男。過去・現在・未来を超越した者、全ての始まりにして終わり、アルファにしてオメガ、形容する言葉は様々だ。
「生き残れるかどうかは、私たち次第と言うことですかね〜。」
 選ばれし者のみが形作る、穢れ無き世界。罪も罰も死も存在しない、永遠の理想郷。完璧なまでに美しい桃源郷。そこに住むことが出来る者は、新たなる進化を迎えねばならない。それに選ばれない者は・・・・・・
「どっちにせよ、俺達は生きていくしかないのさ。いずれ来る終わりの時までね。」
 そう、いつ破滅の時が来ようと、彼らは生きるしかないのだ。どんな形で終わりが来ようと、その時まで・・・・・・
 
 
 
 本土へと向かう船の中。彼ら5人は武達一行より少し遅れての帰還となった。
「あ〜あ、これから何やろっかな〜。」
「サーフィンなんかどうだ? これからの時期的にピッタリじゃん。」
 ユータとアツシは、これからの予定について話し合っている。子供のように笑いあいながら、様々なアイディアを出し合っている。
「ったく、これからが本当に忙しくなるってのに・・・・・・」
「お気楽な連中だな。まあ、しばらくはオレらも仕事を忘れたくはあるけどな。」
 ヒデとトールは頭を抱えている。特にトールは経営を担当しているので、仕事が山積みなのだ。ヒデもヒサシの代わりに研究所の事務的なことをこなしているため、仕事の量は結構多い。
「んで、しばらくはそっちに預けるから、丁重に扱っとけ。」
『はい。今井博士はどうするつもりですか?』
「寝る。」
『はい?』
「しばらく寝まくる。後は仕事。」
『そ・・・・・・そうですか・・・・・・』
 そのヒサシは、優春とPDAで会話していた。彼にとっては、寝る事と研究が遊びより楽しいのだ。
 これから彼らは、それぞれの道を歩み始める。失った時間を取り戻すことに成功したのは、つぐみや優春や桑古木だけでなく、彼らも一緒だったのだ。
 これからどんな道のりが待っているのかは解らない。どんな終わりが待っているのかも解らない。
 それでも彼らは思う。きっと彼らは、自らの進む道を信じて突き進んでいく。なぜなら彼らの歩む道は、彼ら自身が勝ち取った『自由』そのものだからである。
「――――――――あ、あいつ!!」
「え? あいつ? まだこっちにいたのか?」
 トールとヒデが天を仰ぐ。その視線の先に『彼』がいた。
「お、あいつか。どれ、どんなモンだ?」
「彼、か・・・・・・」
 アツシとユータが興味深げに駆け寄る。
「あいつかよ・・・・・・」
 最後にヒサシが、彼らの横に立った。
 船の甲板に凛々しく立つ5人。その姿は勇ましく、そして誰よりも輝いて見えた――――――――
 
 
 
 
 
 
 
 





あとがき

 本当に、本当に、本当に・・・・・・・・・・マジで終わったぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!
 マジで長かった、いや本当。2本平行連載やってりゃ当たり前なのに、生来の遅筆も手伝って、もうダレダレでしたな。
 終わり方を見て貰えれば判ると思いますが、続編は作る予定です。まあまだ具体的な案とかは練ってないんですけど。
 これも判ると思いますが、多分R11の考察とかも織り交ぜてみるかもです。ていうか、E17のSSとして書くのかどうかすらも現時点では定かではありません。
 E17SSとして書くのか、R11SSとして書くのか、完全にオリジナルの作品となるのか・・・・・・俺にすら見当がつきません。
 でも、やるんだったらスケールの大きい物をと考えています。出来るだけ期待を良い意味で裏切りたいんですけどね。
 最後になりましたが、最後までご愛読してくれた読者様、本当にありがとうです〜♪ これからもよろしくです!

BGM『鼓動』BUCK−TICK


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