「…熾天使ガブリエルの名において――」 ガブリエルの言葉により、雨が止まる。 無数の水滴が空中で停止している様は、あまりにも異様だった。 「踊れ、水の元素」 さらに――水滴が重力に逆らい、空に昇って行く。 その水滴が集合してゆき、いくつかの巨大な水弾となった。 そして―― 「――<マハアクダイン>」 雨とは比べ物にならない破壊力を持って、再び地上に降り注いだ。 |
真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「――くそッ!」 武はヒノカグツチを振り上げ、水弾を蒸発させる。 サリエルとケルベロスが一気に攻撃を仕掛けるが、 「……<疾駆水爪波>」 ガブリエルは水から巨大な爪を造り出し、向かって来たふたりを薙ぎ払った。 「この程度で……っ!」 つぐみは拳撃で水の爪を吹き飛ばすと、瞬間的にガブリエルとの間合いを縮める。 しかし、 「――<アクアダイン>!」 「……っ!?」 つぐみの拳撃より、ガブリエルの水弾の方が――速い。 ガブリエルは間髪入れず、 「神は、我が力なり」 称号を唱えた。 空間に7つの歪みが現れ、その中から7人のトランペッターが現れる。 さらに、トランペッターズと武達を包み込むように景色が変わってゆく。 「…その中が、貴方達の墓場です」 ガブリエルの姿が――景色の向こうに、消えた。 「…呆気ない、ものですね」 ぽつりと、呟く。 ガブリエルは異界化により、武達をトランペッターズごと異界の中に閉じ込めた。 ――閉じ込めた、はずだった。 「え……っ!?」 空間が裂け、その向こうから――武が現れる。 「貴方、どうやって――?」 「…どうやらこの剣は、異界も斬れるみたいだな」 「――っ!? 異界を、内側から斬り開いた……!?」 武は、剣をガブリエルに向ける。 「ガブリエル。無駄かも知れないが、1度だけ訊く。どうしても、闘わなきゃならないのか?」 「…地獄に堕ちなさい、反救世主」 「……そうか」 ガブリエルに向け、武が駆けた。 「なら… お前を手早く斃して、つぐみ達を助けに行かせてもらう!」 「――無理ですね。貴方もつぐみさん達も、皆ここで死す運命です」 「悪いが、俺もつぐみも死ぬのには飽きてるんだよっ!!」 武が、ガブリエルにヒノカグツチを振り下ろす。 その斬撃は、ガブリエルの身体を大きく斬り裂いた。 しかし。 「な、に……?」 ヒノカグツチの熱で、ガブリエルが蒸発する。 「これは――身代わり!?」 「御名答。水より作り出した、スケープ・ゴートですよ」 背後から、ガブリエルの声。 「――ッ!?」 武は振り返る。 そこには―― 「…おいおい、マジかよ……?」 武の視界のほとんどを占めるほどの、無数のガブリエルの姿。 ソレはさらに増えてゆき、武を完全に取り囲んだ。 「この中のひとりが、本物って事か――」 ガブリエル達の掌に魔力が集中し、それが武に向けられる。 この時――武はこの身代わり達が本物と変わらぬ能力を持っている事を、直感的に感じていた。 「<マハアクエス>――!!」 「――<アクアダイン>」 「<マハアクダイン>……!」 「<疾駆水爪波>――!!!」 「…<アクアダイン>」 「<フィアトレント>……」 「――<マハアクエス>」 「<マハアクエス>……ッ!」 「<アクアダイン>――!」 「――<疾駆水爪波>」 「…<ダイダルウェイブ>……!!」 「<マハアクダイン>――ッ!」 「<アクアダイン>……」 「――<ベインスプラッシュ>ッッ!!!!」 天を覆うような大量の水が、驚異的な威力で叩き付けられる。 武は抵抗すら出来ずに、その中に沈んでいった。 「何、で……ッ!!?」 ガブリエルは顔を伏せ、苦しそうに言う。 「…何で、貴方は――!!?」 水が退いて行く。 そこには――ずぶ濡れの武が、静かに立っていた。 「悪いな。俺、水泳は得意なんだ。……まぁ、ホクトほどじゃないが――」 「ふざけないでくださいッ!!! あれだけの水撃魔法を受けて、どうして――!!!!」 「……ふぅ。仕方ないな、タネ明かしだ」 武は、ポケットからガラスの小ビンを取り出す。 その中には、古びた木の破片のような物が入っていた。 「サリエルから貰った御守りだよ。アララト山で発見されたノアの方舟の、一部だそうだ」 「――ッッ!!!?」 「水害避けに、これ以上の物はないよな」 武は、ポケットに小ビンを戻す。 「とはいえ、今のは効いたぞ。身体がバラバラになるかと思った。骨も、何本かやられてる」 「なら、もう1度――!」 「ああ、それは無理だ」 武はそう言うと、ヒノカグツチを振る。 「な――ッ!?」 本物以外のガブリエルが、全て蒸発した。 「マグネタイトで出来ている本物と水で出来ている偽物は、やっぱり密度や質量が違う。今の俺は、気配とかでその違いが分かるんだ。地獄巡りの成果かな」 武は素早く、ガブリエルに接近する。 しかし――それでも、ガブリエルは武より速かった。 「これ以上――私を、苛々させないでください!!」 ガブリエルの抉るような蹴りが、武の鳩尾に入る。 「ぐ――ッ!?」 蹴り飛ばされた武はその場に倒れこみ、血を吐いた。 「ぐ、は――…くそっ、今のはキマったな……」 「…肋骨や剣状突起が折れて、内臓に突き刺さっているでしょう」 ガブリエルは武に近付くと、 「ぐ…ぁ……!?」 「無様、ですね――」 武の首を掴み、その身体を持ち上げる。 そのまま、まるでゴミを捨てるかのように、武を門に投げ付けた。 「百合よ、この者を死という名の牢獄に封じたまえ……」 水が、凍ってゆく。 そして―― 「――<リリーズジェイル>」 百合の花を模した1本の氷の杭が、武を門に磔にした。 「がぁ、ぐ……!!?」 2本目が、武の身体に突き刺さる。 杭が… 血で、赤く染まってゆく――。 「――終わらせて、差し上げましょう」 最後に3本目の杭が、武の身体を貫いた。 「――…ごめんなさい、武さん」 磔の武に、ガブリエルが言う。 「私は貴方のような善き人を殺した、この世界が赦せないだけだったのに。だから、<リセット>に協力したのに」 武は眼を閉じたまま、動かない。 「なのに、貴方と闘わなければならなくなるなんて… まったく、何という皮肉でしょう。これが――神の御旨に添う事なのでしょうか」 ガブリエルの眼から、涙が溢れる。 「――神よ、御赦しください。私は貴方を御恨みします」 祈りを捧げ、彼女は武に背を向けた。 もう、ここに用はないと言うように。 「…もう、<リセット>を止める事は出来ません。私は武さんの魂が、せめて新たな世界に転生出来る事を願います」 ガブリエルが、顔を伏せる。 「だから――だ、から……っ!」 彼女の声には、嗚咽が混じっていた。 「もう、動かないでください……っ!!!」 「――それは… 無理だ、な」 氷の杭が、砕ける。 武はよろよろと、地面に立った。 「…ったく、遠慮なくドスドス刺しやがって」 「どうして、まだ生きてるんです……!?」 「俺の方が訊きたいくらいだ。杭が3本とも、ギリギリで急所を外れてたみたいだが」 武が、咳と共に血を吐く。 ガブリエルは唇を噛み、 「…私に、迷いがあったのですね」 と、辛そうに呟く。 「もう、止めてください。貴方とは闘いたくありません……」 「ダメだ。俺は… 皆を護りたい」 「…………」 ガブリエルが、片手を空に向ける。 その顔は―― 「分かりました。もう、語る事はありません」 ――涙と怒りで、濡れていた。 「我は硫黄の火の運び手、背徳の街を焼き滅ぼす者――!」 空が、少しずつ轟き始める。 表現しようのない不気味な空気が――世界に、満ちた。 「落ちよ――<天の火>!!!!」 一瞬にして、雨と雨雲が消滅した。 景色が、紅く染まる。 爆音と共に火が降り注ぎ、あらゆるものを燃やしてゆく。 灰や炭すら、残らない。 火が、世界を喰い尽くした。 「…………」 焼け野原の真ん中に、ガブリエルは立っていた。 残っているものは、ガブリエル自身と外装を焼かれるだけで済んだ万魔殿のみ。 鈍い音と共に、万魔殿の扉が開く。 中から現れたのは――武。 「…見事です、武さん。火から逃れるために、万魔殿に逃げ込むとは。高密の魔力で護られたこの城の中なら、火も届きませんね」 ははは、とガブリエルは力なくワラう。 「でも、私はまだ敗けてはいません……」 「ガブリエル、もう止めろ」 「――無理ですよ」 再び、ガブリエルが手を天に向ける。 「さて、どうします? もう1度あの火が降り注いだら、さすがに万魔殿の中に逃げ込んでもダメかも知れませんよ?」 「お前……!」 「私は、馬鹿で頑固ですから。私を止めたいのなら――私を、殺してください」 「…………」 武は、強く眼を瞑った。 ヒノカグツチの切っ先を、ガブリエルに向ける。 炎が――ガブリエルの身体を、貫いた。 「これで――最後!」 つぐみの拳撃が、7人目のトランペッターを打ち抜く。 断末魔と共にトランペッターが消滅すると、世界が揺らぎ始めた。 異界から、元の世界に転移する。 「何だ、これは……?」 ケルベロスが、唖然として言う。 周囲は、焼け野原になっていた。 「…分からない。突然、空から火が降ってきたんだ……」 「――ヴァルキリィ!?」 そこには、全身を焼かれたヴァルキリィの姿。 彼女は剣を杖代わりにして、どうにか立っていた。 ケルベロスが、すぐに回復魔法を施す。 火傷が消え、今にも絶えそうだった息が、少しずつ正常に戻っていった。 「武……」 つぐみが、武を見付ける。 武は、万魔殿の門の前に立っていた。 その足元には、ガブリエルが倒れている。 彼女は――ヒノカグツチによって焼き尽くされ、もはや原形を留めてはいない。 ソレはもう、ただの人の形をした炭でしかなかった。 先ほどまでは眼だった2つの穴が、武を見つめ続けている。 だがそれもすぐに、ただのマグネタイトと化した。 「マスター……」 サリエルが、普段の彼からは考えられない静かな声で、武に声をかける。 武は首を振って『心配するな』、と答えた。 「武……」 つぐみは何も言う事が出来ず、ただそこに立っているしかない。 武はケルベロスの治療を受け、しばらく天を眺めた後、 「…先に進もう、皆」 顔を下ろし、そう言った。 その表情には――悲しみの色は、残っていなかった。 「――大丈夫だ。涙を流すのは、後でも出来る」 |
あとがきだと伝わるもの・12 皆さんこんにちは、大根メロンです。 そういう訳で、VSガブリエル終了。 …何か、色々と大変な話だったなぁ。 次は、VSミカエル。終わりも近いです。 ではまた。 |
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