「…熾天使セラフガブリエルの名において――」
ガブリエルの言葉により、雨が止まる。
無数の水滴が空中で停止している様は、あまりにも異様だった。
「踊れ、水の元素」
さらに――水滴が重力に逆らい、空に昇って行く。
その水滴が集合してゆき、いくつかの巨大な水弾となった。
そして――
「――<マハアクダイン>」
雨とは比べ物にならない破壊力を持って、再び地上に降り注いだ。


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第十二話 ―水聖―




「――くそッ!」
武はヒノカグツチを振り上げ、水弾を蒸発させる。
サリエルとケルベロスが一気に攻撃を仕掛けるが、
「……<疾駆水爪波>」
ガブリエルは水から巨大な爪を造り出し、向かって来たふたりを薙ぎ払った。
「この程度で……っ!」
つぐみは拳撃で水の爪を吹き飛ばすと、瞬間的にガブリエルとの間合いを縮める。
しかし、
「――<アクアダイン>!」
「……っ!?」
つぐみの拳撃より、ガブリエルの水弾の方が――速い。
ガブリエルは間髪入れず、
「神は、我が力なり」
称号を唱えた。
空間に7つの歪みが現れ、その中から7人のトランペッターが現れる。
さらに、トランペッターズと武達を包み込むように景色が変わってゆく。
「…その中が、貴方達の墓場です」
ガブリエルの姿が――景色の向こうに、消えた。



「…呆気ない、ものですね」
ぽつりと、呟く。
ガブリエルは異界化により、武達をトランペッターズごと異界の中に閉じ込めた。
――閉じ込めた、はずだった。
「え……っ!?」
空間が裂け、その向こうから――武が現れる。
「貴方、どうやって――?」
「…どうやらこの剣は、異界も斬れるみたいだな」
「――っ!? 異界を、内側から斬り開いた……!?」
武は、剣をガブリエルに向ける。
「ガブリエル。無駄かも知れないが、1度だけ訊く。どうしても、闘わなきゃならないのか?」
「…地獄に堕ちなさい、反救世主アンチ・メシア
「……そうか」
ガブリエルに向け、武が駆けた。
「なら… お前を手早く斃して、つぐみ達を助けに行かせてもらう!」
「――無理ですね。貴方もつぐみさん達も、皆ここで死す運命です」
「悪いが、俺もつぐみも死ぬのには飽きてるんだよっ!!」
武が、ガブリエルにヒノカグツチを振り下ろす。
その斬撃は、ガブリエルの身体を大きく斬り裂いた。
しかし。
「な、に……?」
ヒノカグツチの熱で、ガブリエルが蒸発する。
「これは――身代わり!?」
「御名答。水より作り出した、スケープ・ゴートですよ」
背後から、ガブリエルの声。
「――ッ!?」
武は振り返る。
そこには――
「…おいおい、マジかよ……?」
武の視界のほとんどを占めるほどの、無数のガブリエルの姿。
ソレはさらに増えてゆき、武を完全に取り囲んだ。
「この中のひとりが、本物って事か――」
ガブリエル達の掌に魔力が集中し、それが武に向けられる。
この時――武はこの身代わり達が本物と変わらぬ能力を持っている事を、直感的に感じていた。
「<マハアクエス>――!!」
「――<アクアダイン>」
「<マハアクダイン>……!」
「<疾駆水爪波>――!!!」
「…<アクアダイン>」
「<フィアトレント>……」
「――<マハアクエス>」
「<マハアクエス>……ッ!」
「<アクアダイン>――!」
「――<疾駆水爪波>」
「…<ダイダルウェイブ>……!!」
「<マハアクダイン>――ッ!」
「<アクアダイン>……」
「――<ベインスプラッシュ>ッッ!!!!」
天を覆うような大量の水が、驚異的な威力で叩き付けられる。
武は抵抗すら出来ずに、その中に沈んでいった。



「何、で……ッ!!?」
ガブリエルは顔を伏せ、苦しそうに言う。
「…何で、貴方は――!!?」
水が退いて行く。
そこには――ずぶ濡れの武が、静かに立っていた。
「悪いな。俺、水泳は得意なんだ。……まぁ、ホクトほどじゃないが――」
「ふざけないでくださいッ!!! あれだけの水撃魔法を受けて、どうして――!!!!」
「……ふぅ。仕方ないな、タネ明かしだ」
武は、ポケットからガラスの小ビンを取り出す。
その中には、古びた木の破片のような物が入っていた。
「サリエルから貰った御守りだよ。アララト山で発見されたノアの方舟の、一部だそうだ」
「――ッッ!!!?」
「水害避けに、これ以上の物はないよな」
武は、ポケットに小ビンを戻す。
「とはいえ、今のは効いたぞ。身体がバラバラになるかと思った。骨も、何本かやられてる」
「なら、もう1度――!」
「ああ、それは無理だ」
武はそう言うと、ヒノカグツチを振る。
「な――ッ!?」
本物以外のガブリエルが、全て蒸発した。
「マグネタイトで出来ている本物と水で出来ている偽物は、やっぱり密度や質量が違う。今の俺は、気配とかでその違いが分かるんだ。地獄巡りの成果かな」
武は素早く、ガブリエルに接近する。
しかし――それでも、ガブリエルは武より速かった。
「これ以上――私を、苛々させないでください!!」
ガブリエルの抉るような蹴りが、武の鳩尾に入る。
「ぐ――ッ!?」
蹴り飛ばされた武はその場に倒れこみ、血を吐いた。
「ぐ、は――…くそっ、今のはキマったな……」
「…肋骨や剣状突起が折れて、内臓に突き刺さっているでしょう」
ガブリエルは武に近付くと、
「ぐ…ぁ……!?」
「無様、ですね――」
武の首を掴み、その身体を持ち上げる。
そのまま、まるでゴミを捨てるかのように、武を門に投げ付けた。
「百合よ、この者を死という名の牢獄に封じたまえ……」
水が、凍ってゆく。
そして――
「――<リリーズジェイル>」
百合の花を模した1本の氷の杭が、武を門に磔にした。
「がぁ、ぐ……!!?」
2本目が、武の身体に突き刺さる。
杭が… 血で、赤く染まってゆく――。
「――終わらせて、差し上げましょう」
最後に3本目の杭が、武の身体を貫いた。



「――…ごめんなさい、武さん」
磔の武に、ガブリエルが言う。
「私は貴方のような善き人を殺した、この世界が赦せないだけだったのに。だから、<リセット>に協力したのに」
武は眼を閉じたまま、動かない。
「なのに、貴方と闘わなければならなくなるなんて… まったく、何という皮肉でしょう。これが――神の御旨に添う事なのでしょうか」
ガブリエルの眼から、涙が溢れる。
「――神よ、御赦しください。私は貴方を御恨みします」
祈りを捧げ、彼女は武に背を向けた。
もう、ここに用はないと言うように。
「…もう、<リセット>を止める事は出来ません。私は武さんの魂が、せめて新たな世界に転生出来る事を願います」
ガブリエルが、顔を伏せる。
「だから――だ、から……っ!」
彼女の声には、嗚咽が混じっていた。
「もう、動かないでください……っ!!!」
「――それは… 無理だ、な」
氷の杭が、砕ける。
武はよろよろと、地面に立った。
「…ったく、遠慮なくドスドス刺しやがって」
「どうして、まだ生きてるんです……!?」
「俺の方が訊きたいくらいだ。杭が3本とも、ギリギリで急所を外れてたみたいだが」
武が、咳と共に血を吐く。
ガブリエルは唇を噛み、
「…私に、迷いがあったのですね」
と、辛そうに呟く。
「もう、止めてください。貴方とは闘いたくありません……」
「ダメだ。俺は… 皆を護りたい」
「…………」
ガブリエルが、片手を空に向ける。
その顔は――
「分かりました。もう、語る事はありません」
――涙と怒りで、濡れていた。
「我は硫黄の火の運び手、背徳の街を焼き滅ぼす者――!」
空が、少しずつ轟き始める。
表現しようのない不気味な空気が――世界に、満ちた。
「落ちよ――<天の火>!!!!」



一瞬にして、雨と雨雲が消滅した。
景色が、紅く染まる。
爆音と共に火が降り注ぎ、あらゆるものを燃やしてゆく。
灰や炭すら、残らない。
火が、世界を喰い尽くした。



「…………」
焼け野原の真ん中に、ガブリエルは立っていた。
残っているものは、ガブリエル自身と外装を焼かれるだけで済んだ万魔殿パンデモニウムのみ。
鈍い音と共に、万魔殿パンデモニウムの扉が開く。
中から現れたのは――武。
「…見事です、武さん。火から逃れるために、万魔殿パンデモニウムに逃げ込むとは。高密の魔力で護られたこの城の中なら、火も届きませんね」
ははは、とガブリエルは力なくワラう。
「でも、私はまだ敗けてはいません……」
「ガブリエル、もう止めろ」
「――無理ですよ」
再び、ガブリエルが手を天に向ける。
「さて、どうします? もう1度あの火が降り注いだら、さすがに万魔殿パンデモニウムの中に逃げ込んでもダメかも知れませんよ?」
「お前……!」
「私は、馬鹿で頑固ですから。私を止めたいのなら――私を、殺してください」
「…………」
武は、強く眼を瞑った。
ヒノカグツチの切っ先を、ガブリエルに向ける。
炎が――ガブリエルの身体を、貫いた。






「これで――最後!」
つぐみの拳撃が、7人目のトランペッターを打ち抜く。
断末魔と共にトランペッターが消滅すると、世界が揺らぎ始めた。
異界から、元の世界に転移する。
「何だ、これは……?」
ケルベロスが、唖然として言う。
周囲は、焼け野原になっていた。
「…分からない。突然、空から火が降ってきたんだ……」
「――ヴァルキリィ!?」
そこには、全身を焼かれたヴァルキリィの姿。
彼女は剣を杖代わりにして、どうにか立っていた。
ケルベロスが、すぐに回復魔法を施す。
火傷が消え、今にも絶えそうだった息が、少しずつ正常に戻っていった。
「武……」
つぐみが、武を見付ける。
武は、万魔殿パンデモニウムの門の前に立っていた。
その足元には、ガブリエルが倒れている。
彼女は――ヒノカグツチによって焼き尽くされ、もはや原形を留めてはいない。
ソレはもう、ただの人の形をした炭でしかなかった。
先ほどまでは眼だった2つの穴が、武を見つめ続けている。
だがそれもすぐに、ただのマグネタイトと化した。
「マスター……」
サリエルが、普段の彼からは考えられない静かな声で、武に声をかける。
武は首を振って『心配するな』、と答えた。
「武……」
つぐみは何も言う事が出来ず、ただそこに立っているしかない。
武はケルベロスの治療を受け、しばらく天を眺めた後、
「…先に進もう、皆」
顔を下ろし、そう言った。
その表情には――悲しみの色は、残っていなかった。

「――大丈夫だ。涙を流すのは、後でも出来る」




あとがきだと伝わるもの・12
皆さんこんにちは、大根メロンです。
そういう訳で、VSガブリエル終了。
…何か、色々と大変な話だったなぁ。
次は、VSミカエル。終わりも近いです。
ではまた。


TOP / BBS / 感想BBS / 








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送