武達は、万魔殿パンデモニウムを上って行く。
天へと近付くたびに、少しずつ不快な威圧感が漂って来ていた。
一際大きな扉を、武がヒノカグツチで抉じ開ける。
そこは、王の間。
しかし――そこに君臨している者は、ルシファーではない。
「――来たね。歓迎するよ」
熾天使セラフミカエルは、優しい顔でそう言った。


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第十三話 ―火聖―




「お前が… 天使長」
「初めまして、倉成武君。私の名はミカエル。君の言葉通り、天使長だよ」
ミカエルが武に微笑みかける。
王座の後ろには、1つの扉があった。
ファラクの元へと繋がっている――次元通路への扉。
「それにしても… まったく、何と罪深いんだろう」
ミカエルは、王座から腰を上げた。
「神の御使いである天使――それも、熾天使をあれほど殺した罪は… あまりにも、重い」
1歩ずつ、武達へ歩み寄ってゆく。
ケルベロスがミカエルに向けて、威嚇するように唸り声を上げた。
「しかし、まだ間に合う。武器を収めるんだ」
「それは、出来ない」
武が、断固とした口調で言う。
ミカエルは穏やかな笑みを浮かべたまま、
「…罪深い、罪深いね。伊邪那美などという魔女の力により生命の法まで犯した挙句、まだ無益な殺し合いを続けるつもりとは。君はまさしく、反救世主アンチ・メシアだよ。致命的な傷を受けても蘇るという、獣の頭そのものだね」
と、ゆっくり呟く。
「――なら、始めようか。最後の審判ジャッジメントを」



「――潰れなさいっ!」
つぐみはミカエルが行動を起こす前に踏み込み、即殺の拳撃を放つ。
だがそれはミカエルではなく、虚空に打ち込まれた。
(――避けた!?)
つぐみは再度攻撃を仕掛けようとしたが、
「<マハラギオン>……!」
それより早く、ミカエルの魔法が放たれた。
「く――っ!?」
炎が、つぐみに襲いかかる。
つぐみは護法徳手の霊気を盾にし、その炎を防ぐ。
しかし魔法の圧力は殺し切れず、まるでボールのように弾き飛ばされた。
「フン、役立たずめ」
ヴァルキリィはつぐみに毒突きながら、ミカエルに神速の剣を振るう。
さらに、
「そこだっ!」
武がミカエルの背後を取り、その背中に向けて突きを放った。
だが――
「遅いね……」
ゆらり――と、ミカエルが動く。
それだけで、ふたりの剣撃は尽く躱された。
「――!? バカな、私の剣速より速いだと……っ!!?」
前、後、左、右、上、下。全方向から迫る刃を、ミカエルは踊るように回避してゆく。
「ヴァルキリィ、離れろ!」
その言葉を聞き、ヴァルキリィは反射的に跳び退いた。
「――はぁ!!」
武はヒノカグツチで、床を斬り付ける。
凄まじい勢いで床に亀裂が走り、ミカエルに向かって行く。
さらに――亀裂から爆炎が噴き出し、ミカエルを包み込んだ。
だが――
熾天使セラフミカエルの名において――狂え、火の元素」
ミカエルは、傷1つ負ってはいなかった。
「主よ、逃げろ!」
武の元に、ケルベロスが駆ける。
「――ッ!!?」
ケルベロスが武の身体を、体当たりで弾き飛ばした。
「――<マハラギダイン>」
次の瞬間、武がいた場所――つまりケルベロスがいる場所に、炎のカーテンが舞い降りた。
「――ケルベロスッッ!!!?」
武が、叫ぶ。
ケルベロスは全身を焼かれ、まともに動く事さえ出来ない。
ヴァルキリィが再び攻撃を仕掛けたが、それよりも早く、
「――<破魔の雷光>!」
ミカエルが放った高密の光が、ヴァルキリィの意識を刈り取った。
さらに、
「…まったく、話にならないね」
ミカエルはケルベロスの身体を持ち上げると、それを向かって来ていたつぐみに投げ付ける。
「な――っ!?」
つぐみはそれを避け切れず、まともに受けてしまう。
骨が砕ける音と共にふたりはその場に倒れ込み、気を失った。
ミカエルは、残っていた武と対峙する。
だが、ミカエルは武から視線を外し――
「――…サリエル。君は闘わないのかい?」
闘いを傍観していたサリエルに、そう言い放った。



「やっぱり君は強いね、ミカエル。さすがはルシファーの兄弟だよ」
「…………」
サリエルはどこか馬鹿にしたような響きを込めて、ミカエルに話す。
「闘わなかった理由は簡単さ。同族――それも、天使長である君とは闘いたくなかった。それだけの事だよ。マスターの許可も取ってあったしね」
「……ほう。君にしては、なかなか殊勝な心がけだね」
「さすがに、ピンチになったら助けに入るつもりだったけど――君が強すぎて、入る隙がなかった」
「それで、どうするつもりなんだい?」
「――闘うよ」
サリエルが、大鎌を構える。
「お、おいサリエル――」
「大丈夫だよ、マスター。ボクの本気を見せてあげる」
サリエルは武に笑いかけると、ミカエルに向かって跳んだ。
「…無駄な事を。君ひとりに、何が出来るというんだ」
「確かにボクは無力だけど、君を殺すくらいなら出来るさ」
まるで、ケーキをナイフで切るような軽やかさで。
サリエルは――ミカエルの腕を、斬り落とした。



「ぐ――ッッ!!!?」
「イヴィル・アイ――全開眼フルオープン。17秒しか持たないから、さっさと死んでもらうよ」
「…何だ、これは……!?」
ミカエルが、サリエルから距離を取る。
しかし――
「――残念。その程度じゃ、ボクの眼からは逃れられない」
サリエルの斬撃が、ミカエルの両足を斬り飛ばした。
「――ぐ、あぁッ!!?」
足を失ったミカエルは翼を使い、空中に飛び上がる。
「何が、起こった……?」
ミカエルは状況を理解出来ず、下のサリエルを見た。
「――ッ!!!?」
サリエルの眼には… 寒気がするほど、暗い光が宿っていた。
ミカエルは、思わず震え上がる。
「四大天使の権威により、シナイの頂、神の幕屋より“契約の箱”よ――来たれ!」
サリエルを消し去らなければならない――この時、ミカエルは本能的にそう感じていた。
「――<聖枢来臨メギド・アーク>!!!!」
核融合にも匹敵する破壊力を持った一筋の光が、天から放たれる。
それは万魔殿パンデモニウムを軽々と貫き、焼き尽くした。



「ふぅ… 今のは、さすがに危なかったね」
サリエルが、半壊した万魔殿パンデモニウムに舞い降りる。
彼は器用に、武とつぐみ、ケルベロスとヴァルキリィの身体を大鎌に引っ掛け、安全な上空へと逃れていたのだ。
まるで――ミカエルの攻撃を、あらかじめ知っていたかのように。
「…なっ、何故……!!?」
ミカエルは畏れの混じった視線を、サリエルに向ける。
サリエルは武達を床に降ろすと、淡々と言った。
「知らない訳じゃないと思うけど、ボクは全てのイヴィル・アイの祖だよ。本気を出せば、『時間』だろうが『死』だろうが――ありとあらゆるものが、ボクの眼には視えるのさ」
大鎌が一閃し、ミカエルの身体を斬り裂く。
「ぐぅあ…!? ま、まだ… まだ、死ねない……! 新たな世界を、全ての者が平穏に暮らせる世界を、創る、までは…ぁ……!」
「……ミカエル。君の運命は、ボクが決定するよ」
「…サ、サリエルゥゥ……ッ!!!!」
「――<裁きの鎌>」
サリエルの大鎌が、ミカエルの身体を斬断した。






「…終わったな」
自身と皆の傷を癒したケルベロスが、そう呟く。
四熾天使の全滅。それは、<リセット>の阻止を意味していた。
しかし――
「残念ながら、そうはいかないみたいよ」
つぐみが次元通路への扉を見ながら、そう言った。
仲魔達も、『ソレ』に気付く。
「――行きましょう」
つぐみ達は、扉に向けて歩き始める。
だが。
「…皆、先に行ってくれ」
「――え?」
つぐみの背に、武の声。
武はその場を動かず、廊下へと続く方の扉を見つめ続けていた。
「ちょっと疲れたから、休むだけだ。すぐに追う」
「……そう。なら、20分以内に来なさい」
「20分か… まぁ、どうにかしてみるよ」
「じゃあ、私達は先に行ってるから」
つぐみは武の言葉の意味がよく分かっていない仲魔達を無理矢理引っ張って、次元通路に入って行った。
王の間に、誰もいなくなる。
武は息を吐くと、現れた気配に言った。
「――よう。遅かったな、イブリース」



つぐみ達は、次元通路の中を走っていた。
平衡感覚が狂い、天地が反転したような――上っているのか下っているのか分からない、不可思議な感覚に包まれる。
しばらく走ると、突然目の前に門が現れた。
「…………」
誰も、何も言わない。
つぐみは扉に触れ――それを、開いた。
扉の中から、黒い闇が噴き出して来る。
つぐみ達は、その中に取り込まれた。



そこは、黒い地面の上だった。
その地面以外には何もなく、ただ宇宙空間のような暗黒が広がってる。
「ここが――世界の深淵」
つぐみが、暗闇を見上げる。
「ファラクの背の上、なのか」
「…ボクも、こうして降り立ったのは初めてだよ」
ケルベロスとサリエルが、呆気に取られながら言う。
「……広いな。聞いてはいたが、とても生物の背の上だとは思えない」
ヴァルキリィの感想は、同時に皆の感想でもあった。
どの方向を見ても、そこには地面と暗黒の地平線があるのみ。
しかし――足元からは、確かに巨大な生命の脈動が感じられた。
つぐみはそれに圧倒され、呟く。
「…小さい存在ね、私達って」
――その時。
「おめでとう。ここが、貴方達の旅の終着点」
聞き覚えのある声が、つぐみの耳に飛び込んできた。
「そして――決戦場ハルマゲドンです」



「…ミカエルミーカールを斃したのか」
イブリースが、重い声を響かせる。
「ああ」
「そうか。なら、どうして汝は先に進まないのだ? 熾天使どもを全滅させても、まだ終わった訳ではない」
「分かってるさ」
武は少しだけ、次元通路の方に振り返る。
その奥からは――不自然なほど綺麗すぎる、不気味な気配が感じられた。
「どうやら、この向こうにいるのはファラクだけじゃないみたいだな」
「――なら」
「それでも」
武が、イブリースを見据える。
「やっぱり俺は、お前と闘わなきゃ――先に、進めない」
「……そうか」
イブリースが、僅かに笑った。
「なら私は、汝を試そう。この先に進み、あの方と闘う資格があるのかどうかを」
「そうしてくれ。――行くぞ、イブリース」
武とイブリースが、同時に駆け出す。
まるで鏡写しのように、ふたりの距離が縮まって行く。
武のヒノカグツチが、炎に包まれる。
イブリースの手が、火を纏う。
「うぉぉおおおおっ!!!!」
ふたりの距離がゼロになり――灼熱が、弾けた。




あとがきだと伝わるもの・13
こんにちは、大根メローンです。
さて、VSミカエル終了。何故か、サリエルが大活躍。本当に何でだろう。
…『<裁きの鎌>はDARK悪魔にしか効かないんじゃ?』というツッコミは御容赦ください(オイ)
ちなみにサリエルが今まで本気モードにならなかったのは、24時間中17秒しか発動出来ないから。
そして何より、『疲れるから』だそうです(えぇっ!!?)
次回は、武VSイブリース。そして、つぐみ&仲魔達VS■■■。ラストバトルに突入です。
あと1,2話で、この連載も終了。外伝はどうしようかなぁ。
ではまた。


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