真・女神転生SEVENTEENU 大根メロン |
「テトラ……」 「こんにちは、つぐみさん」 虚空から現れたテトラが、ファラクの背の上に降り立つ。 「…やっぱりね。そんな事だろうと思っていたわ」 「あれ? 気付いてたんですか?」 テトラは本気で驚いている顔で、つぐみを見る。 つぐみは1つ、溜息をついた。 「『4』なんていう分かりやすい名を名乗っておいて、何を言ってるの。唯一神――『四文字の神』」 つぐみのその言葉に――仲魔達が、息を呑む。 「……はは、バレバレだったんですか。これじゃあ、ルシファーや這い寄る混沌と同レヴェルですね」 「そうね。あなたのネーミングセンスは死んでるわ」 テトラは苦笑しながら、頬を掻いた。 「でも、今の僕の名は御中主ですよ」 「御中主――天御中主大神? それが、あなたの『本当の名』なの?」 「いえ、それは僕の名の1つにすぎません。時代や民族によって、僕は様々な名で呼ばれます。最近ではゴッドやアッラーと呼ばれる事が多いですし、大昔はエルと呼ばれた事もありました。僕の『本当の名』は――僕自身とルシファーくらいしか知らないでしょうね。御中主と名乗ったのは、つぐみさん達が日本人だからですよ。それだけの理由です」 「……なるほどね。なら――ヴェルギリウスを気取って私を助け、さらにウソをついた理由は?」 テトラは、はははと困ったように笑うと、 「神の気紛れですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」 「…………」 つぐみが、テトラを睨む。それは――敵に向ける眼差しだった。 しかしテトラはそれを気にせず、楽しそうに話し続ける。 「それにしても、ミカエル達には困ったものです。僕の許可なく、この世界を消そうとするなんて。まったく、僕がどれだけ苦労してこの世界を創ったか、分かっているんでしょうかね? 7日もかかったんですよ、7日も」 「…<リセット>はあなたの意志じゃないの?」 「ええ、勿論。あれは、天使達が勝手に計画した事ですよ」 テトラは少し間を開けると、 「でもまぁ、いい機会ですし… 天使ではなく、僕自身の手で世界を<リセット>しようと思います。人も、悪魔も――天使も。全てを消し、新たな世界を創造します」 にこやかに笑いながら、そう言った。 「…でも、ルシファーを殺さなければならないんでしょう?」 「いえ、その必要はなくなりました。代わりのマグネタイトが手に入りましたから」 「代わりの……?」 つぐみはそこで、気付いた。 「…ま、さか……!!?」 「そう、貴方達が斃した四熾天使のマグネタイトです。彼等は、僕の被造物の中でも最高クラスのものですから。それが、4人分。ルシファー以上のマグネタイトが手に入りましたよ」 テトラは、笑顔で語る。 だが、その顔からは――感情が感じられなかった。 「チェックメイトですよ、つぐみさん。どうします?」 「…………」 つぐみは、答えない。 「出来れば、僕は貴方とは闘いたくありません。そうですね、僕の邪魔をしないと約束してもらえるのなら――武さんと貴方を、新たな世界の父神と母神にしてあげましょう。どうです? 悪くない話だと思いませんか?」 つぐみはそれにも答えず… 地を蹴る。 「…私は、意味のない質問には――」 そして――思い切り、テトラを殴った。 「――答えない事にしているの」 テトラが、吹き飛ぶ。 彼は地面を数回バウンドした後、止まった。 「…そう、ですか」 ゆっくりと、テトラが立ち上がる。 つぐみは仲魔達を見ると、 「あなた達、しっかりしなさい。圧倒されてる場合じゃないわよ」 鋭い声で、そう言った。 その言葉を聞き、彼等は正気に戻ったように構える。 しかしサリエルは、 「えっと… ボクはどうすればいいのかな?」 と、呟く。 天使である彼は、唯一神とは闘えない。 だが―― 「大丈夫ですよ、サリエル。今は、主より主を尊重してください」 テトラがサリエルに、諭すように言う。 「……なら、遠慮なく」 サリエルは、大鎌を握り締めた。 「じゃあ、闘いましょうか。世界を賭けて」 テトラが、にこりと笑う。 ――瞬間。テトラの身体が、霧散した。 その霧は上へと昇り、空中で渦を巻く。 そして――渦の中心に、1つの顔が浮かび上がった。 「…凄いわね……」 つぐみは、地面が僅かに震えるのを感じた。 何よりも巨大なこのファラクが、目の前の存在に怯えている――……。 「我が名は御中主。原初の世界に降り立つ、造化三神の筆頭。我が現れし時、それは天地創造の時と知れ……!」 人間は土人形以上の存在に成れるのか、見せてみろ!」 「言われなくても――そのつもりだっ!!」 武とイブリースが、激突する。 ふたりがぶつかる度に熱の波が伝播し、周囲を融解させてゆく。 「――<アギダイン>!」 「効くかッ!!」 武は放たれた火球を踏み込みと共に斬り払い、返す刃でイブリースに斬り込む。 だがイブリースは即座に身を退き、それを躱した。 武はさらに踏み込み、突きを放つ。 それも、イブリースは僅かな動きだけで回避する。 しかし―― 「…この剣身一体の技――ルシファーの言葉はやはり真か」 剣風でイブリースの皮膚が裂け、火を噴く。 「……何?」 「ルシファーによると、汝の前世は18人斬りの剣豪らしい。とは言え… 前世の事など、今の汝にはどうでも良かろう」 「ああ、そうだな」 「――行くぞ」 空気中の酸素が、急速に集まってゆく。 「神よ、我に我を創りし火を貸し与えたまえ――<マハラギダイン>!!!」 爆音と共に、イブリースの周りに4本の火の柱が立つ。 そして、それ等は一斉に武へと放たれた。 「く――っ!?」 火の柱は、所狭しと部屋の中を駆け巡る。 武は何とか身を躱しながら、火の柱をヒノカグツチで斬り捨てた。 だが、残りの3本が背後から武に迫る。 武は振り返り、その勢いで2本を斬断した。 だが、 「焼き尽くせ、偉大なる火よ――」 その隙に、イブリースが武との距離を詰める。 武は残った火の柱とイブリースに挟まれ――動けない。 「――<プロミネンス>」 巨大な火が、武に叩き込まれた。 「くっ… 何なのよ、こいつはっ!!?」 つぐみが、もう何発目になるか分からない拳撃を、御中主に打ち込む。 だが――まるで空気を打ったように、手応えがない。 「護法徳手は、霊体でも砕けるはずなのに……?」 「我には実体や霊体などといった、小賢しい概念自体が存在しない」 御中主がそう言った途端、強大な圧力がつぐみ達を地面に叩き付けた。 「我が名は御中主、宇宙の中心であるもの。汝等は我を滅ぼすつもりのようだが… 生と死の中心であるために生死という概念が存在しない我を、殺す事など出来ん」 御中主は、表情を変えずに言う。 「…くっ、まさか手も足も出ないとは……」 「うぅ……っ」 ケルベロスとヴァルキリィが、苦しげに立ち上がる。 「…何しろ、彼は造物主だからね……」 サリエルはケルベロスに答え、 「もしかしたら――ボク達は、ルシファー以上に愚かな事をしているのかも知れない」 虚空に、そう言った。 「…今更何を言ってるの。私達が愚者なのは、初めから分かってた事じゃない」 だがつぐみは、望みを失っていない声で――笑う。 「とにかく、諦めるのはまだ早いわ。それに――」 つぐみが、腕時計を見る。 「――あと10分もすれば、武が来るわよ」 「――うぉらあ!」 「……ッ!?」 武はヒノカグツチの炎を盾にし、火の柱とイブリースの魔法から身を護る。 さらに武は魔法を突き破り、イブリースに向かって突進した。 そして――ヒノカグツチを振り被る。 「火より創られた私を… 炎で断てると思うか!」 「――断つッ!!!」 ――斬ッ! 振り下ろされたヒノカグツチが、イブリースを斬り裂く。 「ぐぅ――ッ!!?」 イブリースは後方に跳躍し、武との間合いを開いた。 「その炎は、火すら灼く事が出来るのか……!」 傷口から火から噴き出し、イブリースを包む。 だが、斃れる様子はなかった。 「…浅かったか」 「ああ。だが、悪くはない一撃だった。ここまで私を追い詰めたのは――汝が2人目だ」 「2人目?」 「…1人目は、汝の先祖である吸血鬼の退魔師だ。もっとも――」 イブリースは、微妙に顔を歪めた。 「彼は、柊文華とかいう小娘に滅ぼされたと聞いているがな」 「……っ!?」 聞き覚えのある名前に、一瞬だけ武の思考が止まる。 その隙に―― 「――止まったな。それが命取りだ」 火を纏ったイブリースの拳が、武に向けて放たれた。 「ぐ――っ!!!?」 武はそれをヒノカグツチでガードしたが、衝撃を殺せず弾き飛ばされる。 「来たれ――火の戦場、火の聖戦。我、神の敵を屠り尽くさん……!」 イブリースから、火が立ち昇った。 「――<ヒートジハード>!」 そして――火と熱の激流が、武に放たれた。 「…終わったか」 燃え続ける火を見ながら、イブリースが呟く。 その中には、武がいるはずだった。 「――眠れ。勇ましき戦士よ」 イブリースはそう言うと、背を向ける。 「ぐ……っ!!!?」 ――その背を、ヒノカグツチが貫いた。 「……悪いな。後ろからなんて、卑怯な手を使って」 「いや… これは汝に背を向けた、私の油断だ」 イブリースの背後には、武の姿。 「しかし、どうやってあれを防いだ?」 「簡単さ。火っていうのは酸化現象だろ? つまり、酸素がないと火は燃えない。だから――お前の火が届く前に、俺の周囲の酸素をヒノカグツチの炎で使い尽くした。んで、その後はずっと息を止めながら反撃のチャンスを待ってた訳だ」 「……なるほど。まったく、無茶な作戦だ… その中で呼吸をしていたなら、空気の酸素濃度不足で死んでいたぞ」 イブリースが、笑う。 「――汝の勝ちだ、行け」 「ああ」 武は、イブリースに背を向ける。 そして… 次元通路に向け、走り出した。 「――…まだ立つか」 御中主が、つぐみ達に言う。 彼等は、もう立っているのが不思議なほど傷付いていた。 「…足音が、聞こえたからな」 ヴァルキリィが、笑う。 「もうすぐ、我等が主が来る」 「だから、寝てる訳にはいかないんだよね」 ケルベロスとサリエルも、同じように笑顔を浮かべた。 「…愚かな。次元通路は封鎖した。倉成武は、ここには来れぬ」 だが―― 「――17分51秒。遅からず早からず、といった所かしら」 つぐみの言葉と同時に。 頭上で、爆発音がした。 それは… 閉じられていた空間に、穴が開いた音。 「な、んだと…!!? こんな、バカな事が起こるはず……ッ!!!?」 「教えてあげるわ。バカはバカな事を起こすから、バカなのよ」 落下してくる、ひとつの人影。 つぐみはその人影を、しっかりと抱き留めた。 「…こーゆーのって、普通は逆だよな」 「たまにはいいんじゃない? お姫様が王子様を抱き留めるのも」 人影――武は苦笑すると、地面に立つ。 そして、御中主と対峙した。 「詳しい説明は省かせてもらうけど… あれが、最後の敵よ」 「そうか」 武はヒノカグツチを構え、その瞳を御中主に向けた。 「倉成武――参るッ!」 |
あとがきだと伝わるもの・14 こんにちは、大根メロンです。 この話も、次が最終話。 武達は、<リセット>を阻止する事が出来るのでしょうか。 ではまた。 |
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