真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



第十四話 ―至炎―




「テトラ……」
「こんにちは、つぐみさん」
虚空から現れたテトラが、ファラクの背の上に降り立つ。
「…やっぱりね。そんな事だろうと思っていたわ」
「あれ? 気付いてたんですか?」
テトラは本気で驚いている顔で、つぐみを見る。
つぐみは1つ、溜息をついた。
「『4テトラ』なんていう分かりやすい名を名乗っておいて、何を言ってるの。唯一神――『四文字の神テトラグラマトン』」
つぐみのその言葉に――仲魔達が、息を呑む。
「……はは、バレバレだったんですか。これじゃあ、ルシファーや這い寄る混沌クロウリング・ケイオスと同レヴェルですね」
「そうね。あなたのネーミングセンスは死んでるわ」
テトラは苦笑しながら、頬を掻いた。
「でも、今の僕の名は御中主ですよ」
「御中主――天御中主大神? それが、あなたの『本当の名』なの?」
「いえ、それは僕の名の1つにすぎません。時代や民族によって、僕は様々な名で呼ばれます。最近ではゴッドやアッラーと呼ばれる事が多いですし、大昔はエルと呼ばれた事もありました。僕の『本当の名』は――僕自身とルシファーくらいしか知らないでしょうね。御中主と名乗ったのは、つぐみさん達が日本人だからですよ。それだけの理由です」
「……なるほどね。なら――ヴェルギリウスを気取って私を助け、さらにウソをついた理由は?」
テトラは、はははと困ったように笑うと、
「神の気紛れですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
「…………」
つぐみが、テトラを睨む。それは――敵に向ける眼差しだった。
しかしテトラはそれを気にせず、楽しそうに話し続ける。
「それにしても、ミカエル達には困ったものです。僕の許可なく、この世界を消そうとするなんて。まったく、僕がどれだけ苦労してこの世界を創ったか、分かっているんでしょうかね? 7日もかかったんですよ、7日も」
「…<リセット>はあなたの意志じゃないの?」
「ええ、勿論。あれは、天使達エンジェルズが勝手に計画した事ですよ」
テトラは少し間を開けると、
「でもまぁ、いい機会ですし… 天使ではなく、僕自身の手で世界を<リセット>しようと思います。人も、悪魔も――天使も。全てを消し、新たな世界を創造します」
にこやかに笑いながら、そう言った。
「…でも、ルシファーを殺さなければならないんでしょう?」
「いえ、その必要はなくなりました。代わりのマグネタイトが手に入りましたから」
「代わりの……?」
つぐみはそこで、気付いた。
「…ま、さか……!!?」
「そう、貴方達が斃した四熾天使のマグネタイトです。彼等は、僕の被造物の中でも最高クラスのものですから。それが、4人分。ルシファー以上のマグネタイトが手に入りましたよ」
テトラは、笑顔で語る。
だが、その顔からは――感情が感じられなかった。
「チェックメイトですよ、つぐみさん。どうします?」
「…………」
つぐみは、答えない。
「出来れば、僕は貴方とは闘いたくありません。そうですね、僕の邪魔をしないと約束してもらえるのなら――武さんと貴方を、新たな世界の父神イザナギ母神イザナミにしてあげましょう。どうです? 悪くない話だと思いませんか?」
つぐみはそれにも答えず… 地を蹴る。
「…私は、意味のない質問には――」
そして――思い切り、テトラを殴った。
「――答えない事にしているの」
テトラが、吹き飛ぶ。
彼は地面を数回バウンドした後、止まった。
「…そう、ですか」
ゆっくりと、テトラが立ち上がる。
つぐみは仲魔達を見ると、
「あなた達、しっかりしなさい。圧倒されてる場合じゃないわよ」
鋭い声で、そう言った。
その言葉を聞き、彼等は正気に戻ったように構える。
しかしサリエルは、
「えっと… ボクはどうすればいいのかな?」
と、呟く。
天使である彼は、唯一神とは闘えない。
だが――
「大丈夫ですよ、サリエル。今は、アドナイよりマスターを尊重してください」
テトラがサリエルに、諭すように言う。
「……なら、遠慮なく」
サリエルは、大鎌を握り締めた。
「じゃあ、闘いましょうか。世界を賭けて」
テトラが、にこりと笑う。
――瞬間。テトラの身体が、霧散した。
その霧は上へと昇り、空中で渦を巻く。
そして――渦の中心に、1つの顔が浮かび上がった。
「…凄いわね……」
つぐみは、地面が僅かに震えるのを感じた。
何よりも巨大なこのファラクが、目の前の存在に怯えている――……。
「我が名は御中主。原初の世界に降り立つ、造化三神の筆頭。我が現れし時、それは天地創造の時と知れ……!」






人間ヒト土人形ヒト以上の存在に成れるのか、見せてみろ!」
「言われなくても――そのつもりだっ!!」
武とイブリースが、激突する。
ふたりがぶつかる度に熱の波が伝播し、周囲を融解させてゆく。
「――<アギダイン>!」
「効くかッ!!」
武は放たれた火球を踏み込みと共に斬り払い、返す刃でイブリースに斬り込む。
だがイブリースは即座に身を退き、それを躱した。
武はさらに踏み込み、突きを放つ。
それも、イブリースは僅かな動きだけで回避する。
しかし――
「…この剣身一体の技――ルシファーの言葉はやはりまことか」
剣風でイブリースの皮膚が裂け、火を噴く。
「……何?」
「ルシファーによると、汝の前世は18人斬りの剣豪らしい。とは言え… 前世むかしの事など、今の汝にはどうでも良かろう」
「ああ、そうだな」
「――行くぞ」
空気中の酸素が、急速に集まってゆく。
アッラーよ、我に我を創りし火を貸し与えたまえ――<マハラギダイン>!!!」
爆音と共に、イブリースの周りに4本の火の柱が立つ。
そして、それ等は一斉に武へと放たれた。
「く――っ!?」
火の柱は、所狭しと部屋の中を駆け巡る。
武は何とか身を躱しながら、火の柱をヒノカグツチで斬り捨てた。
だが、残りの3本が背後から武に迫る。
武は振り返り、その勢いで2本を斬断した。
だが、
「焼き尽くせ、偉大なる火よ――」
その隙に、イブリースが武との距離を詰める。
武は残った火の柱とイブリースに挟まれ――動けない。
「――<プロミネンス>」
巨大な火が、武に叩き込まれた。






「くっ… 何なのよ、こいつはっ!!?」
つぐみが、もう何発目になるか分からない拳撃を、御中主に打ち込む。
だが――まるで空気を打ったように、手応えがない。
「護法徳手は、霊体でも砕けるはずなのに……?」
「我には実体や霊体などといった、小賢しい概念自体が存在しない」
御中主がそう言った途端、強大な圧力がつぐみ達を地面に叩き付けた。
「我が名は御中主、宇宙の中心であるもの。汝等は我を滅ぼすつもりのようだが… 生と死の中心であるために生死という概念が存在しない我を、殺す事など出来ん」
御中主は、表情を変えずに言う。
「…くっ、まさか手も足も出ないとは……」
「うぅ……っ」
ケルベロスとヴァルキリィが、苦しげに立ち上がる。
「…何しろ、彼は造物主だからね……」
サリエルはケルベロスに答え、
「もしかしたら――ボク達は、ルシファー以上に愚かな事をしているのかも知れない」
虚空に、そう言った。
「…今更何を言ってるの。私達が愚者バカなのは、初めから分かってた事じゃない」
だがつぐみは、望みを失っていない声で――笑う。
「とにかく、諦めるのはまだ早いわ。それに――」
つぐみが、腕時計を見る。
「――あと10分もすれば、武が来るわよ」






「――うぉらあ!」
「……ッ!?」
武はヒノカグツチの炎を盾にし、火の柱とイブリースの魔法から身を護る。
さらに武は魔法を突き破り、イブリースに向かって突進した。
そして――ヒノカグツチを振り被る。
「火より創られた私を… 炎で断てると思うか!」
「――断つッ!!!」
――斬ッ!
振り下ろされたヒノカグツチが、イブリースを斬り裂く。
「ぐぅ――ッ!!?」
イブリースは後方に跳躍し、武との間合いを開いた。
「その炎は、火すらく事が出来るのか……!」
傷口から火から噴き出し、イブリースを包む。
だが、斃れる様子はなかった。
「…浅かったか」
「ああ。だが、悪くはない一撃だった。ここまで私を追い詰めたのは――汝が2人目だ」
「2人目?」
「…1人目は、汝の先祖である吸血鬼の退魔師だ。もっとも――」
イブリースは、微妙に顔を歪めた。
「彼は、柊文華とかいう小娘に滅ぼされたと聞いているがな」
「……っ!?」
聞き覚えのある名前に、一瞬だけ武の思考が止まる。
その隙に――
「――止まったな。それが命取りだ」
火を纏ったイブリースの拳が、武に向けて放たれた。
「ぐ――っ!!!?」
武はそれをヒノカグツチでガードしたが、衝撃を殺せず弾き飛ばされる。
「来たれ――火の戦場、火の聖戦。我、アッラーの敵を屠り尽くさん……!」
イブリースから、火が立ち昇った。
「――<ヒートジハード>!」
そして――火と熱の激流が、武に放たれた。



「…終わったか」
燃え続ける火を見ながら、イブリースが呟く。
その中には、武がいるはずだった。
「――眠れ。勇ましき戦士よ」
イブリースはそう言うと、背を向ける。
「ぐ……っ!!!?」
――その背を、ヒノカグツチが貫いた。
「……悪いな。後ろからなんて、卑怯な手を使って」
「いや… これは汝に背を向けた、私の油断だ」
イブリースの背後には、武の姿。
「しかし、どうやってあれを防いだ?」
「簡単さ。火っていうのは酸化現象だろ? つまり、酸素がないと火は燃えない。だから――お前の火が届く前に、俺の周囲の酸素をヒノカグツチの炎で使い尽くした。んで、その後はずっと息を止めながら反撃のチャンスを待ってた訳だ」
「……なるほど。まったく、無茶な作戦だ… その中で呼吸をしていたなら、空気の酸素濃度不足で死んでいたぞ」
イブリースが、笑う。
「――汝の勝ちだ、行け」
「ああ」
武は、イブリースに背を向ける。
そして… 次元通路に向け、走り出した。






「――…まだ立つか」
御中主が、つぐみ達に言う。
彼等は、もう立っているのが不思議なほど傷付いていた。
「…足音が、聞こえたからな」
ヴァルキリィが、笑う。
「もうすぐ、我等が主が来る」
「だから、寝てる訳にはいかないんだよね」
ケルベロスとサリエルも、同じように笑顔を浮かべた。
「…愚かな。次元通路は封鎖した。倉成武は、ここには来れぬ」
だが――
「――17分51秒。遅からず早からず、といった所かしら」
つぐみの言葉と同時に。
頭上で、爆発音がした。
それは… 閉じられていた空間に、穴が開いた音。
「な、んだと…!!? こんな、バカな事が起こるはず……ッ!!!?」
「教えてあげるわ。バカはバカな事を起こすから、バカなのよ」
落下してくる、ひとつの人影。
つぐみはその人影を、しっかりと抱き留めた。
「…こーゆーのって、普通は逆だよな」
「たまにはいいんじゃない? お姫様が王子様を抱き留めるのも」
人影――武は苦笑すると、地面に立つ。
そして、御中主と対峙した。
「詳しい説明は省かせてもらうけど… あれが、最後の敵よ」
「そうか」
武はヒノカグツチを構え、そのを御中主に向けた。

「倉成武――参るッ!」




あとがきだと伝わるもの・14
こんにちは、大根メロンです。
この話も、次が最終話。
武達は、<リセット>を阻止する事が出来るのでしょうか。
ではまた。


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