「――くらえ!」
武が、ヒノカグツチで御中主を斬断する。
しかし――
「く……っ!?」
やはり、手応えがない。
「我が怒りを受けよ――<メギドラオン>!」
空間が、瞬間的に上限なく加熱される。
仲魔達は1ヶ所に集まると結界を張り、御中主より放たれた聖なる光から身を護った。
ファラクが、あまりの熱さに身悶える。
「――主よ」
結界の中で、ケルベロスが武に声をかけた。
「何だ?」
「ヒノカグツチで、御中主を斬れ」
武が、眉をひそめる。
「でも、あいつにはどんな攻撃も通じないんだろ?」
「分かっている。だが、御中主がこうして我等の前に存在している以上、存在している理由――因果律がある。それを、断つのだ」
「…どうやって?」
武の疑問に、ケルベロスは笑みを浮かべ――答えた。
「――自分と剣を信じろ。それだけでいい。他の誰に出来なくとも、主には出来るはずだ」


真・女神転生SEVENTEENU
                              大根メロン



最終話 ―閉幕―




「――『落とせ』」
御中主が、世界そのものに命令した。
「……ッ!!?」
すると、武の身体が上空に浮き上がる。
そして、凄まじいスピードで落下した。
「マスターッ!」
武の身体が地面に叩き付けられる前に、サリエルがそれを受け止める。
だが、
「――『貫け』」
さらに、光の槍がふたりに降り注ぐ。
つぐみがそれを相殺し、武とサリエルを護ったが、
「――『弾け』」
その直後に――武達の身体が、まるで巨大な指にでも弾かれたように吹き飛ばされた。
そして、
「――『潰せ』」
その命令により、景色が歪む。
まるでブラックホールのように、外側から内側へと空間が圧縮される。
「させないわよ……っ!」
つぐみはサリエルを突き飛ばし、つぐみ自身は武を抱えてその場から跳び退く。
次の瞬間――空間が1次元に圧縮され、崩壊した。
「まだ抵抗するか……」
御中主が鏡写しのように、3体に分裂する。
「なっ、増えた……!?」
武は愕然とした。
御中主が3体。それは、嫌でも致命的な戦力差を実感させた。
「…どうやら、どれも本物のようだな」
ヴァルキリィが言う。
「だが、どれも本物という事は――どれを斃してもいいという事だ。主殿は、1体に集中すればいい」
ヴァルキリィは小さく笑うと、
「サリエル! 2体は、私達ふたりだけで相手するぞっ!!」
「えぇっ!? そんな無茶な!!!」
サリエルの抗議の声を無視し、ヴァルキリィは御中主と相対する。
「我等は、無茶だろうが不可能だろうが越える事が出来る。そのための力と想いを、主殿から受け取っている。サリエル、お前は違うのか?」
「……!」
ヴァルキリィは、何の迷いもなく――御中主に突進した。
「……まったく。嫌だなぁ、こういうの」
サリエルはそう言いながらも、別の御中主に向かって行く。
その姿にはヴァルキリィと同様に、何の迷いもない。
「お前達――……」
武はふたりの姿を見ながら、呟く。
「主殿、ケルベロス! ついでに小町つぐみ。後は任せた!!」
「出来る事なら、ボク達がやられる前に決着を付けてね」
ふたりが、2体の御中主とぶつかり合う。
「クッ… 悪魔めッ!」
御中主が、吼える。
攻撃が通じなくとも、力に雲泥の差があっても――ふたりは、退く事なく闘っていた。
「……準備はいいか?」
武の、静かな声。
「ええ、いいわよ」
「ああ」
その言葉に… つぐみとケルベロスは、しっかりと答えた。
「――よし、行くぞ」



「見よ、私はすぐに来る。私は、報いを携えて来て、それぞれの行いに応じて報いる――」

力を持った――あるいは力そのものである御中主の声が、深淵に響く。

「私はアルファであり、オメガである。最初の者にして、最後の者。初めであり、終わりである――」

そしてその声が、武達に向けられた。

「――<ゴッドボイス>!」

あらゆる事を成す御中主の言霊が、頭上から武達に襲いかかる。
「――はぁッ!!」
つぐみは右の拳を振り上げ、圧倒的なその声に叩き込んだ。
ふたつの力が衝突し… 爆ぜる。
「――ッ!!!?」
それにより、御中主の声を相殺したつぐみの右腕が――護法徳手を残し、塩となって崩れ落ちた。
「つぐみっ!!!」
悲鳴にも似た、武の声。
だがつぐみは力強い声で、それに答えた。
「いきなさい! 今は、前だけを見るのよ!!」
「……!」
武はその言葉に頷くと、ケルベロスと共に駆ける。
ケルベロスは雄叫びと共に、自らの頭を三頭に変化させた。
「――<ピュリプレゲトン>!!!!」
ケルベロスが、冥府の炎の河を顕現させる。
しかしそれに呑まれても、御中主には少しのダメージもない。
「どのような攻撃であろうと、我には通じん!」
「馬鹿め。この河は、貴様を攻撃するために用意したのではない」
「――何ッ!?」
御中主が、武に眼を向ける。
その手のヒノカグツチは河の炎を吸収し、さらに激しく輝いていた。
「ケルベロス――邪教の秘術により犬と悪魔から創られた、何よりも忌まわしき魔犬めッ!!!」
「クク、懐かしい話だな」
ケルベロスは御中主の叫びに対して、笑いながら答える。
「うぉぉおおおッ!!!」
武はヒノカグツチを逆手に持ち替えると、その切っ先を御中主に向けて突き出した。
「ク――ッ!」
言いようのない危険を感じ、御中主は障壁を展開する。
ヒノカグツチと障壁がぶつかり合い、紫電を撒き散らす。
障壁に阻まれ、ヒノカグツチの切っ先は御中主に届かない。
「はぁぁあああッッ!!!」
だが、それでも――武は、その手に込めた力を緩めなかった。
そして、黒い影が跳ぶ。
その影――つぐみは一瞬で武と御中主に近付き、渾身の力を込めた左の拳を、ヒノカグツチの柄に叩き込んだ。
つぐみの拳撃により押し込まれたヒノカグツチが、障壁を突き破る。
「トドメよ、武! 私達は小さいけれど、簡単に<リセット>されていいほど無意味な存在じゃないって事を――その造物主に、教えてあげなさい!!」
「――応ッ!!!!」
武が狙いを定める。
それは、御中主という存在の因果律。
そして――
「このいくさ… 俺達の勝ちだっ!!!!」
武は御中主の額を、ヒノカグツチで刺し貫いた。



「よう、テトラ。また会えたな」
「ええ。また会えましたね、武さん」
3体の御中主が消え去り――そこに、テトラが現れる。
「…こんな結末になるとは、さすがに思いませんでしたよ。まさか、造物主である僕が人の子に敗れるなんて。でも――これが、宇宙の大いなる意志の望みなんでしょうね」
テトラは、どこか儚げに語ってゆく。
「貴方達の勝利です。世界は<リセット>されず、何も変わりません」
「無理に変える必要はないさ。変わるべき時に、変わっていけばいい」
「ふふ、言うと思いました」
テトラは透き通った笑顔を、武に向ける。
そして――光の粒子となり、消え去った。



「――で、だ」
武が、一同を見る。
その表情には、困惑が浮かんでいた。
「どうしたの、武?」
ケルベロスに腕を治してもらっているつぐみが、武に訊く。
「俺達は、ここからどうやって帰ればいいんだ?」
「……あ」
そう。
この深淵には、入口はあっても出口はないのだ。
「もしかして… 帰れない?」
「…………」
武の言葉に、皆は無言を返す。
それは、ほとんど肯定に等しかった。
「……マジかよ」
しかし、その時。
「――うおッ!? な、何だ!!?」
大きな音と共に、空間に穴が開いた。






「いやー、助かった助かった」
武達は、トロメアの宿の一室にいた。
その部屋にはルシファーと、何故か伊邪那美の姿。
「あなたの存在、完全に忘れていたわ」
「…………」
笑いと共に放たれたつぐみの言葉に、ルシファーが顔をしかめる。
ルシファーは黄泉への道を開いた時と同じ方法で、世界の深淵から武達を救出したのだ。
「んで、どうして伊邪那美がここにいるんだ?」
「世界の未来を決める戦いが行われている時に、黄泉で呆っとしている訳にもいかないでしょう。故に、ここから貴方達の闘いを視ていたのですよ」
伊邪那美は武にそう答えると、飲みかけの紅茶をテーブルに置く。どうやら、洋風のものは口に合わないらしい。
「――さて、そろそろ君達を送り届けよう」
ルシファーが、椅子から立ち上がる。
そして再び、魔法で空間に穴を開けた。
その向こうは、人間が棲む世界――現世アッシャー界
「…そうだな、そろそろ帰るか」
「ええ」
武とつぐみが、穴に向かう。
武は1度振り返り、
「世話になったな。また何かあったら、助けてくれ」
微笑みと共に、仲魔達にそう言った。
「無論。我が魂は、いつでも主と共に」
「マスター、元気でね」
「主殿… その女が嫌になったら、いつでも私の所に来てくれ」
武は意味不明なヴァルキリィの言葉に首を傾げながらも、とりあえず頷く。
何故か、つぐみに睨まれた。
「――じゃあな、俺の仲魔達」
武はそう言い残し、穴に飛び込んだ。



「――つぐみ」
武に続いて穴に入ろうとしたつぐみを、伊邪那美が呼び止める。
「……何かしら?」
つぐみが訊くと伊邪那美は、
「もう、黄泉に来てはいけませんよ」
静かな声でそう言った。
つぐみは小さく微笑むと、
「――そんな事、言われなくても分かってるわ。さよなら、伊邪那美」
そう答え、穴に入って行った。



「ヴァルキリィ、ふと思ったんだけど」
武とつぐみが去った後、突然サリエルがヴァルキリィに声をかけた。
「――何だ?」
「今のって、捉えようによっては感動的な別れのシーンだよね」
「……まぁ、そうだな」
サリエルが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ヴァルキリィは本能的に、不吉なものを感じた。
「なら… マスターにお別れのキスくらいしても、バチは当たらなかったんじゃないの?」
「……ッ!!!!」
「…………」
「…………」
「……ヴァルキリィ?」
「……は、はは」
ガクリ。
そうとしか表現出来ない動きで、ヴァルキリィが崩れ落ちる。
「……じゃ、ボクはそろそろ行くから」
サリエルは真っ白になったヴァルキリィを引き摺りながら、部屋から出て行った。
「それで、ケルベロス。君はこれからどうするのかね?」
ルシファーが言う。
ケルベロスは少し間を開けた後、
「…人捜しを、続けるさ」
そう答えた。
「吉祥寺で離れ離れになった彼か。この世界では、おそらく平和に暮らしているだろうね。あの友人達と共に」
「だといいがな」
ケルベロスは、ゆっくりとした足取りで去って行った。
「さて、私もそろそろ黄泉に帰るとしましょう。明けの明星、黄泉への道を開いてください」
「……伊邪那美。君は私を、便利な移動手段か何かだと思ってはいないか?」
「思っています」
伊邪那美はそう言うと、さらに言葉を続けた。
「私は忙しいのですよ。許可なく黄泉から18人斬りの魂を連れ出し、よりにもよって陰陽の血筋に転生させた犯人を見付けなくてはならないのですから」
「私だが」
「――貴方ですかッ!」






「…戻ってきたな」
「ええ、そうね」
武とつぐみは、あの光に呑まれた時と同じ場所に立っていた。
何も変わっていない、平和な街の中。
「…………」
武が、目元を擦る。
「…どうしたの?」
「あ、いや、何でもない。ちょっと、帰って来た感動で涙が出ただけだ」
武の頬を、涙の雫が滑り落ちて行く。

――大丈夫だ。涙を流すのは、後でも出来る。

つぐみは、武の言葉を思い出す。
「……武」
「心配するな、大丈夫だ」
武は涙を拭うと、つぐみの手を取り――歩き出した。

「――帰ろう、俺達の家に」




真・女神転生SEVENTEENU――END




あとがきだと伝わるもの・ファイナル
どうも。R11の小説版を読み、ようやく『赤受咸青』の意味が分かった大根メロンです。
ようやく、メガセヴU完結。
これで、このシリーズは終了。何しろ、唯一神を斃しましたし(笑)
まぁ続きがあるとしても、主人公は武じゃないでしょう。
さて。
最後までこの連載に付き合ってくれた皆さん、ありがとうございました。

あと、連載書いてる途中にR11×ペルソナなネタを考えついたので、その嘘予告でも。微妙にR11のネタバレなので、注意。



不思議な、夢を見た。

「ようこそ、意識と無意識の狭間へ。君は、自らの名を名乗る事が出来るかね?」


1つの、噂があった。
夜中、人のいない路地を歩いていると、女の子が尋ねてくる。

「セルフはどこ?」

質問に正しく答えられないと――心臓を、抉り取られてしまう。


冬川こころは同じ大学の優希堂悟を引き連れ、噂の調査に乗り出す。

「友達の知り合いの従兄弟が、例の女の子に会ったんだって! 怪談だよ、悟! か・い・だ・ん!!」
「…怪談じゃない、都市伝説だ。怪談と違い、特定の場所に限定されていない。……それと、友達の知り合いの従兄弟という時点で、信憑性はゼロに近いと思うんだが」
「ああ、もう! とにかく、調べに行くよっ!!」
「…………」

雪山の事件も、スフィアの事件も起きていない。
――ここは、そんな世界。


2人は偶然、街で悟の元恋人――黛鈴と会う。

「…噂の調査? あんた達、バカじゃないの?」


いつもどうり、平和そうな黄泉木・内海夫妻。

「浮気の調査? 2人で?」
「……噂の調査よ、あなた」


調査中に、2人は免許証を拾う。
そこには、涼蔭穂鳥とあった。

「はわわわ… 何処へ行ったの、私の免許証〜!!」


だが――突然、世界が反転する。


現実化する噂。

「久し振り、悟。もっとも、悟は私の事なんて覚えてないだろうけど」

顕現する、殺人鬼の少女。


現れる悪魔。

「――思い出せ、『向こう側』を」

それを操る、サングラスの男。


這い寄る恐怖。
悟達は、与えられた未知の力――ペルソナ能力を発現させる。

『我は汝… 汝は我… 我は汝の心の海より出でし者……』

それは… 普遍的無意識に存在する神や悪魔の人格を、まるで仮面のように操る能力。


そして――

「ゲームをしよう、特異点――楠田ゆに。君達が勝てば、私は全てを開放してやる」
「僕達が敗けたら?」
「『アイツ』を、あの世界と同じように無限ループに幽閉してやろう。観測する者が封じられた時、観測される者達がどうなるかは――説明する必要はないな?」
「…………」
「そう睨むな。同じトリックスター同士、仲良くしようじゃないか」

ネガティヴマインドを象徴する元型アーキタイプ――運命を嘲笑う無貌の神フェイスレス・ゴッドが、蠢く。


真実は、記憶の彼方に存在する。
悟達は、それに辿り着けるのか――?


『Remember11異聞録ペルソナ』執筆開始予定!



…長い予告(汗)
もしかしたら、書くかも知れません。でも、期待はしないでください(誰もしないって)
ではまた。


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