資金調達大作戦!
                              大根メロン


「――皆さん、お金がないのです」
 報道クラブ部室。
 集まった十二幹部――ぼくと永美は無理矢理連れて来られたんだけど――に、川瀬さんがそう告げた。
「ケネディ宇宙センターへ賠償金を支払ったせいで、金庫がスッカラカンなのですよ。……それ以前に、どうしてうちに請求するんだって感じなのですが」
 ……確かに。アレは、田中研究所が悪いと思う。
「ちなみに、その金額は訊かないでほしいのです。常人ならショック死するほどの額ですから」
 …………。
「それで、どうするのでござるか? アルル殿」
 沙羅が川瀬さんに訊く。
 最近、沙羅はどんどん報道クラブに馴染んできている。いろんな意味でまずい。
「…どうするもこうするも、いつもと同じように非合法的な活動で稼ぐんでしょ?」
 ぼくは、投げやりに言う。
 川瀬さんは問題を解いた生徒を褒める教師のような口調で、
「その通りなのです、ホクトさん。しかも、今回は一味も二味も違うのですよ」
 …いや、別に違わなくていいから。
「…それで、今回はどんな悪事に手を染めるつもりですか?」
 永美は凄く嫌そうに、川瀬さんに問い掛ける。
 ……うん。ぼくには、今の永美の心境がよく分かる。
「数日前――アメリカのスミソニアン博物館から、1つの宝石が盗み出されたのです。アメリカ政府の報道管制により、日本どころかアメリカでも知られてない事なのですが」
「…スミソニアン博物館? まさか、その宝石とは――」
 珍しく、永美が驚いた表情を見せる。
「そのまさかなのです。かの呪われしブルーダイヤモンド――『ホープ』、なのですよ」
 ……ホープ?
「……永美さん。そこで『何、それ?』と言いたそうにしている無知蒙昧なホクトさんに、説明してあげてほしいのです」
「…分かりました」
 酷い言われようだ。……言い返せないけど。
「ホープというのは、9世紀頃にインドで発見された279カラットの青いダイヤモンドです」
 279カラット――約55.8グラムか。それも、青のファンシィカラー。
「なるほど、それは凄いね」
「ええ。……現在は、45.52カラットまで研磨されていますが」
 それでも、凄い事に変わりはない。
「しかし、この宝石は美しいだけではありません。ホープの持ち主やその関係者は――ほとんどが、怪死しているのです」
「え……っ?」
「ですから、ホープは呪われた宝石と言われているのですよ」
 ……『呪われしブルーダイヤモンド』、か。
「そして、最後の持ち主――伝説の宝石商ハリィ・ウィンストンが呪いを恐れ、スミソニアン博物館に寄贈したのです」
「……ホープについては分かったよ」
 けれど――
「けれど、それがお金稼ぎとどう関係があるのでござるか?」
 ぼくが言いたかった事を、沙羅が先に言う。
「スミソニアン協会が、ホープに懸賞金をかけているのですよ。その額、なんと100万ドルなのです」
 100万ドル――約1億円ッ!!?
「ちょ、いくら何でも高すぎない!!?」
 ぼくはそう叫ぶが、
「そうでもないのです。ハリィ・ウィンストンはホープを同じ100万ドルで購入したのですし、ルイ14世は250万フラン――数十億円で買ったという話がありますから」
「…………」
 思わず絶句した。
「MI-5から流れて来た情報によると、ホープは1週間後にブリテンのウェールズで行われるブラックオークションに出展されるらしいのです」
「ブラックオークション?」
 ぼくが聞き返す。
「ええ。薬物や盗品、兵器といったヤバい物を売買するのですよ。主催は、『ホワイトウィンド』という国際地下組織なのです」
 ホワイトウィンド――白い、風?
「その創設者は――」
 ――その時。
「…………」
 永美がもの凄い眼で、川瀬さんを睨んだ。
「……まぁ、ホワイトウィンドの事はどうでもいいのですよ」
 ……?
「ここまで聞けばもう分かってもらえたと思うのですが――我々報道クラブはそのオークション会場を襲撃し、ホープを奪うのです」
「そして、スミソニアン協会から懸賞金を戴く」
「はい、その通りなのですよ」
 川瀬さんはぼくの言葉にニヤリと笑い、
「どうせ、オークションの参加者はマフィアやテロリストみたいなアングラ連中ばかりなのです。本気で暴れても、全然問題ないのですよ」
 ……おいおい。
「では、そういう事で。今日は解散なのです」



 1週間後。
「やっぱり、こうなる訳か……」
 ぼくは輸送機の中で、ふぅと溜息をついた。
 機内には、ぼく以外にも川瀬さん・沙羅・永美の姿がある。
 フランスのシャルル・ド・ゴール空港から輸送機に乗り飛び立ったぼく達は、ドーヴァー海峡を越えウェールズのオークション会場に向かっていた。
「…もう訊くのも面倒くさいけど、どうしてこのメンバーなの?」
「アルルの趣味なのです」
 うわ、本音を出した。
「それより、そろそろ着くのですよ。装備を付けてくださいなのです」
 川瀬さんの言葉を聞き、ぼく達はのそのそとゴーグルを付け、リュックや酸素ボンベ、パラシュートなどを背負う。
 今回は降下作戦である。正面から挑むのは、さすがにリスクが大きいらしい。
 …だからと言って、素人にこんな事をやらせるのはどうかと思うが。
「さて、準備は完了なのです」
 川瀬さんは輸送機の扉を開くと、
「では、GOなのですよッ!」
 酸素マスクを付け、下に飛び降りた。
 その後に、沙羅が続く。
「…………」
 ぼくと永美は一瞬だけ見詰め合った後、同時に溜息を付きながら、輸送機から飛び出した。



 言っておくが、ぼくは降下作戦はもちろん、スカイダイヴィングもやった事はない。……ヴァリアブル・フリィダイヴィングの真似事なら、した事もあるけど。
 …結局何が言いたいのかと言うと、かなり怖いのである。
 さらに言えば、ギリギリまでパラシュートを開く事は出来ない。何故なら――パラシュートを開いて空中をふよふよ漂ってる姿を発見されたら、対空砲火を受けてあの世逝きだからである。
 視界には、目標であるオークション会場の屋上が迫って来ていた。
 いい加減、そろそろパラシュートを開く事にする。
「…………」
 リップコードを引き、パラシュートを開く――はずだったのだが。












「ひ……」












「ひ――」












「ひ、ひ――」












「開かないいぃぃいいいいッッ!!!?」












 ――垂直落下。
 そうとしか、表現出来ない。
 慌てて周りを見ると、どうやら皆が同じ状況のようだ。
 沙羅… 悲しそうに手を伸ばされても、どうする事も出来ないよ。
 あぁ、永美! 十字を切らないでッ!!
 ――さらに。
 下から、ドカンという音がした。川瀬さんが、屋上に落下・激突した音だろう。
 彼女ならそれでも無事だろうが、ぼく達はそうはいかない。
 ……あぁ、お迎えの天使が視えてきた。大鎌を持った、物騒な天使だ――。
 だが。
「――とぅッ!」
 天使に命を刈り取られる前に、川瀬さんがぼく達の身体をキャッチする。
 …コンクリートの屋上に叩き付けられるよりはマシだが、それでもかなりの衝撃を受けた。メチャクチャ、痛い。
「大丈夫なのです。アルルのキャッチングは完璧でしたから、骨1本折れてないのですよ」
 …もう嫌だ……。



 屋上から建物に進入し、中を進んで行くぼく達。
 建物内には、屈強な黒人やら、青龍刀を持った中国人――おそらくはガードの類だろう――が、ウロウロしている。
 だが彼等は、明らかに不審者であるぼく達に見向きもしない。
 それもそのはず――川瀬さんのガスが彼等の脳に作用し、ぼく達の姿を見えなくしているのである。
「ほほほ、チョロイもんなのです」
 先頭を歩く川瀬さんが、そんな事を言う。
 …後ろから殴ってやろうかと思ったが、反撃が怖いので止めておいた。
 ――しかし。
 何事も、そんなに上手くゆくはずはない。
「…川瀬さん、何か視線を感じるんだけど?」
「き、気のせいじゃないのですか?」
 ぼくの言葉に、川瀬さんがかなり動揺しながら答える。
 沙羅と永美が、『えっ?』と短く声を上げた。
「ぼく達、見られてるよね?」
「…そのようなのですね……」
 ようやく川瀬さんは現実を直視し、足を止める。
 周囲のガード達は、変わらずぼく達に気付かない。ガスが効力を失った訳ではないのだ。
 だが――薄暗い廊下の向こうからは、確かに人の視線。
「あー。何か、ヤバい展開のような気がするのです。この気配、アルルは知っているのですよ」
 ――次の瞬間。
 爆音と共に、床や壁が弾け飛んだ。
 川瀬さんは瞬間的に沙羅と永美を小脇に抱え、さらにぼくを背負い、跳ぶ。
 そのまま壁を蹴り、天井を走る。
「掃射……!!?」
 永美が呟く。
 ぼくにも分かった。今の攻撃はマシンガンとか、そういう火器による銃撃だ。
「…………」
 銃撃が止んだ後、川瀬さんが床に下りる。
「…まったく、よりにもよってあなた達がガードとして雇われてるのですか」
 廊下の向こうに、1人の男が立っていた。
 …認めたくないが、その男は人間のようだ。
「…何かと思えば、報道クラブとやらか」
 例え生身の部分が――首から上しかなかったとしても。
「…ねぇ、アルル。あの人って、まさか――」
 沙羅が、川瀬さんに問い掛ける。
「アルバート・ビッグズ。柊文華率いる、第187番部隊のメンバーなのです」



「――アルルちゃんキック!!!!」
 ――って、攻撃早っ!
 まぁ、先手必勝でいきたい気持ちは分かるけど。
 ガァン!!!! という音と共に、川瀬さんの蹴りがアルバートの巨大な鋼鉄の身体に打ち込まれる。
 しかし――アルバートはニヤリと笑うと、川瀬さんを殴り飛ばした。
「――ぐべふッ!!?」
 面白い声を出しながら、吹っ飛んでくる川瀬さん。
「ぐぅ… アルルの蹴りが効かないのです」
「ママのパンチすら、通じなかったような人でござるからな」
 沙羅が、冷静に川瀬さんに言う。
 って言うか… 落ち着いてるね、皆。いや、ぼくもだけど。
 …ギャグSSだからか。
「…ホクトさん、今――とんでもない事を考えませんでしたか?」
「え? いや、別に……」
 鋭いね、永美。
「まぁ、いいのです。倒すまで蹴るだけなのですよ」
 何て不毛な……。
「それに、この場にいるのはあいつだけのようなのです。白い変質者とか、ロリ・ボマーとかがいないのは幸いなのですよ。へタレ退魔師は論外ですし」
 ――駄菓子菓子だがしかし
「ロリって言うな〜ッ!!!!」
「――はぐぅッ!!!?」
 田中先生にも匹敵する完璧なドロップキックが、川瀬さんに突き刺さった。
 派手に吹き飛ぶ、川瀬さん。
「ふっ… 私をロリ呼ばわりした者には、死あるのみです〜」
 …前に家でお父さんがそう言っていたような気がするが、その事実は心の中に封印する。
 とにかく、あれがウワサの柊文華か。
「出たのですね、この変態ッ!!」
 川瀬さんが、闘気を発しながら立ち上がる。
「何ですか、そのあまりにも直接的な表現は〜!!?」
 否定はしないのか。
「とにかく! 3年前の借りを――返してやるのですッ!!!!」
「はは〜。そういえば、ローマでちょっとケンカしましたよね〜」
「そのせいで… アルルは教皇庁ヴァチカンのブラックリストに載っちゃったのですよッ!!」
「私は、元から載ってましたけど〜」
 3年前の借り――あぁ、また変な設定が増えた。
 永美なんか、完全に話が分かってないよ。
「死ぬのです!」
 川瀬さんが文華を蹴ろうとするが、
「アルバートさん〜」
 アルバートの腕から発射された無数の50口径弾が、川瀬さんの動きを遮った。
「くっ――2対1とは卑怯なのですよ!」
「え、4対2じゃないですか〜?」
 …いや、ぼく達は数に入れないで。
「まぁいいのです!! アルルは無敵なのですよッ!!!」
 無敵――本当に、迷惑な話である。
 川瀬さんは奇跡的な動き(?)で掃射を避け、文華との間合いを詰めた。
 そして――
「ハァァッ!」
 蹴りを、叩き込んだ――が。
「弱いです〜」
 文華は、それを片手で受け止めた。
「な……っ!?」
「私は今までに、102回も死んで地獄を巡りました〜。これは、つぐみさんの51回を遥かに上回る数です〜」
 …死んで、地獄を巡った……?
「アルバートさん、次で決めますよ〜」
 文華が後方に跳び、アルバートがそれをキャッチする。
「…了解した」
 アルバートは徐に振り被ると、
「…行くぞ」
 凄まじい勢いで、文華を川瀬さんに投げ付けた。
 川瀬さんはそれを迎え撃つように、
「…ならばアルルも、本気でいくのです」
 その足に、全ての力を込める。
「文華ちゃん――」
「アルルちゃん――」
 そして――2人の頭と足が、激突した。

「スペシャルボンバァ〜ッッ!!!!」

「ミラクルキ――ィィィッック!!!!」

 凄まじい衝撃(何故に?)と共に、ぼくの『第三の眼』すら眩ませるような閃光(何故に?)が辺りを包む。
 数秒間、眼を開ける事すら出来なかった。
「うっ… どうなった、の?」
 沙羅が、ゆっくりと眼を開きながら言う。
 そこには――文華と川瀬さんが、一緒に眼を廻しながら倒れていた。
「……クッ」
 アルバートは文華を回収すると、その身体からは想像出来ない素早さで、廊下の向こうへと消えてゆく。
 …どうやら、退いてくれたらしい。
「…皆さん、川瀬さんを運びましょう」
 永美の言葉で我に返ったぼくと沙羅は、永美と一緒に川瀬さんの死体(注:死んでません)を引き摺りながら、その場を去って行った。



「くっ… 敗けたのです」
 ――いや、勝敗は微妙だよ。
 そう思ったが、これ以上面倒になるのは御免なので、言わなかった。
「足をやられたのです… 『アルルちゃんキック』は、しばらくは使えないのですよ」
 …ぼくとしては、一生使えないままであってほしかったのだが。
「…それで、どうするのです?」
 永美が問い掛ける。
「――とりあえず、ホープを手に入れるのです。オークションはもう始まっているのですよ」



 大広間に侵入すると、川瀬さんの言葉通りオークションが始まっていた。
 どう見てもカタギじゃなさそうな人達が優雅に食事をしながら、商品を競っている。
 ステージの上では、司会っぽい男が喋っていた。
 言語は当然、クィーンズ・イングリッシュだ。何を言っているのかサッパリである。
 ……だが。
 様子を見る限り、女性陣は理解出来ているらしい。
 まぁ、沙羅と永美はそれほど驚くような事でもなさそうだけど。
 川瀬さんが英語ペラペラというのは――意外なのか意外じゃないのか、それさえもよく分からない。
「Having been carried is the cursed blue diamond! It is the thing for which you were waiting eagerly!!」
 司会の男が、何やら叫ぶ。
 それと一緒に、ガラスケースに入った1つの宝石が運ばれてきた。
 間違いない――ホープ、だ。
「――じゃ、行って来るのです」
 ぼくが聞き返す暇もなく、川瀬さんが跳び出す。
 そのまま川瀬さんはステージに上がると、足ではなく拳でガラスケースを破壊し――ホープを手にした。
 確認するが、周りの人々にぼく達の姿は見えていない。つまり、ホープが勝手に逃げ出したように見えるのだ。
 ――完全に怪奇現象である。ホープの歴史に、新たなる1ページが刻まれた。
 パニックの会場。その隙に、逃げ出すぼく達。
「…あの、川瀬さん」
 走りながら、永美が川瀬さんに尋ねる。
「何なのですか?」
「ふと、思ったのですが… 私達の姿は、人の眼には映らないのですよね」
「ええ、そうなのです」
「しかし、カメラ等には写るのでは?」
 ……あ。
 なるほど、確かにそうだ。さすが永美。
 つまり、後でマフィアさんやテロリストさんか映像をチェックすると、バッチリぼく達が写っていて――
「――って、えぇぇええええッ!!!?」
「だ、大丈夫なのです! 裏社会ダークサイドを敵に廻しても、報道クラブが護ってあげるのですよっ!!!」
「何の解決にもなってないよッ!!」
 そんな事を叫びながら、ぼく達は会場から脱出した。



 ぼくは肺いっぱいに、ウェールズの空気を吸い込む。
 沙羅が持参したノートPCからオークション会場のセキュリティシステムにクラックして調べた結果、幸いな事に建物内に監視カメラ等はなかったらしい。監視によって、お客の機嫌を損ねたら大変だからだろう。
 ……まぁ監視カメラがなかったからこそ、ぼく達が建物内をウロウロしても大丈夫だったんだろうけど。
 個人のカメラなどに写ってる可能性もあるが、少なくとも撮られた覚えはない。川瀬さんがホープを獲ったあの瞬間も、人々は唖然としていただけで、撮影はしていなかったはずだ。多分。
「終わったね、お兄ちゃん……」
「そうだね……」
 沙羅の言葉に、答える。
 眼前のオークション会場には、先ほどSASが突入した。どうやら、川瀬さんが手配していたらしい。
 まぁとにかく、今回はこれで終わり――
「はははぁ〜♪」
 ――とはいかないのかなぁ、やっぱり。
 会場の壁が、突然吹き飛ぶ。
 SASの隊員を弾き飛ばしながら、異様なモノが現れた。
 それは――金属で出来た、巨大な獣だった。フォルムは、獅子や豹を思わせる。
 まるで、アニメとかに出て来る獣型メカのようだ。
 問題は、その獣の頭が人間の頭だという事。
 説明するのも嫌だが、アルバート・ビッグズの頭である。
 そして、人頭の獣の背にはバルカン砲と座席が取り付けられており――その座席に、ちょこんと文華が座っていた。
「ぶっ飛べ〜♪」
 文華はしっかりとバルカン砲のグリップを握り、20ミリ弾を撃ちまくる。
「…川瀬さん、どうする?」
「…どうしましょうかねー……」
 微妙に、現実逃避気味のぼく達。
 ――思えば、この時さっさと逃げていればよかったのかも知れない。
「……お?」
 文華が、ぼく達を見て――笑った。
報道クラブターゲット、発見〜♪」
 ――まずいッ!!
 ぼくがそう思った、瞬間。
 無数の20ミリ弾が、ぼく達に向けて放たれた。
 だがそれよりも早く、川瀬さんがぼく達を抱えて逃げ出す。
「アルバートさん、追ってください〜」
「…分かっている」
 獣が、跳躍する。
 そのスピードも、肉食動物そのものだ。
 あっと言う間に、追い付かれそうになる。
 ――その時。
「――あぅッ!?」
 川瀬さんが、転んだ。
 ぼく・沙羅・永美は、慣性により前方に投げ出される。
「くっ、足が… 皆さん、アルルの事は気にせず、逃げてくださいなのですッ!」
 ……いや、君がいなきゃマトモに逃げられないから。
 それと、その自分に酔っているような表情は何?
「あっは〜♪」
 文華が、ぼく達にバルカン砲を向ける。
「ジ・エンドです〜♪」
 ――しかし。
「……へ?」
 突然、獣のバランスが――崩れた。
「ど、どうしたんですか、アルバートさん〜!!?」
「…狙撃だ、足の関節を撃ち抜かれた……!」
 ――狙撃!?
 周りを見廻してみる。だが、それらしい建造物はない。
 なら、どこから――?
「…もしかして、あれでは?」
 永美が指を差す。
 その方向の彼方に、ヘリらしいものが見えた。
「――な、どれだけ離れてるんでござるか!? あの距離から狙撃は無理でござるよッ!!」
 沙羅の言う事はもっともだ。
 だが川瀬さんは、はっとして、
「このアウトレンジ・ショット――まさか、部長ッ!!!?」
 そう――叫んだ。
 その場にいる全員が、息を呑む。
「ア、アルバートさん、撤退です〜ッ!!」
「……ッ」
 文華達は逃げようとしたが、さらに3発の弾丸が放たれ、残されていた獣の足を破壊した。
 そして――
「な、なぁ〜ッ!!?」
 特製のFMJ弾(だと思う)が、獣のエンジンを装甲ごと撃ち抜き――爆発させた。



「どうやら、助かったようなのですね……」
 安心した川瀬さんが、そう呟く。
 目の前では、メラメラと炎が燃えている。
 ――どうやら、ようやく終わったらしい。
「さて。帰りましょう、皆さん」
 川瀬さんが歩き出す。
 ぼく達3人も、それに続いた。
「…今回の事で、私達はホワイトウィンドに眼を付けられたでしょうね」
 永美が歩きながら、小さな声で言う。
「え、どうして? 私達の姿は見られてないはずだし、身元がバレるようなモノも残してないけど?」
「ええ。ですが、ホワイトウィンドに常識は通用しません。何しろ――あの人が作った組織ですから」
 沙羅の問いに、よく分からない答えを返す永美。
「…………」
 ぼくは何気なく、空の向こうを見る。
 ――ヘリは、すでに消えていた。



「ふぅ… 皆さんのおかげで、100万ドルをゲット出来たのですよ」
 帰りの輸送機内で、川瀬さんが言う。
 ホープはすでに、ウェールズでキャッスル(スミソニアン協会本部)からの派遣員に渡している。
 賞金は、スイス銀行にある報道クラブの口座にバッチリ振り込まれたようだ。
 ――だが。
「…川瀬さん、そろそろ訊いていい?」
「はい? どうしたのですか、ホクトさん」
「この輸送機… 日本に向かってないよね?」
 そう――この輸送機は、明らかに日本に向けて飛んではいなかった。
 沙羅と永美が眼を見開く。彼女達もぼくと同じく、日本に帰ると思っていたようだ。
 …何か、もの凄く嫌な予感がする。間違いであってほしい。
 川瀬さんは『(゚Д゚)ハァ?』な表情でぼく達を見ると、
「あれ、言ってませんでしたっけ? アルル達はこれから、パレスティナでPLO過激派と戦うのですよ。そこそこ、いいお金がもらえるのです」
「…………」
 もはや思考すら停止した、ぼく・沙羅・永美。次は、生命活動が停止するかも知れない。
 ぼくは、窓から外を見る。
 大空が――ホープのように青い大空が、綺麗だった。




 あとがきを起源とするもの
 どうも。大根メロンです。
 今回のSSは、メガセヴUの合間に書いていたものです。
 …しかし、このシリーズはどうしてこんな話になっちゃったんだろう。最初は、ホクトのちょっとドタバタな高校生活を書く事が目的だったはずなのに(汗)
 いや、分かってるんですけどね。無闇に話を大きくしたがる、私の性癖が原因だって事は。
 ……ではまた。


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