世界は一つではない事をお見せしよう。







仮面ライダー武【Re:Changed】
                              終焉の鮪



Scene1"Re:Changed"






『……昨夜未明、東京都某区にて頻発している【未確認生命体】による殺人事件が発生しました。これによる事件の被害者は累計34人にも及び、政府・警察の不手際・対応の遅延に都民、ひいては日本国民全体の憤りが……』
 夕食後の和やかな時間を打ち砕く暗いニュース。
 倉成武は咥えていた爪楊枝を気だるそうにへし折り、苦々しい表情を浮かべた。
「ったくまたかよ……ライプリヒがぶっ潰れて一安心かと思ってたのによ……」


 田中優美清春香菜によるライプリヒ製薬リークより2ヶ月後。
 日本の支社に続きドイツの本社にも断罪のメスが入り、裏社会の大物・ライプリヒ製薬は消滅した。
 重役はそろって死刑もしくは無期懲役に課せられ、その他『裏』の仕事に関わっていた社員全員が社会的制裁を受けることになった。
 無論、田中優美清春香菜及び桑古木涼権の二名にも断罪は行われたが――
 日本陸軍総司令官・鳥野鷺輔の取りなしにより、今では平常の暮らしを行えるようになっていた。
 全てが平穏に向かおうとしていた、その時分だ。
 【未確認生命体】と呼ばれる存在による、死傷事件が発生し始めたのは。


「殺害方法は人間の力ではまず不可能な方法。体を縦に引き裂いたり、外傷が無いのに臓物器官が破裂していたり……」
「……夕食終わったばかりでそんな会話はよそうよ、沙羅……」
「それだけじゃないな……犯行の瞬間を目撃した奴は未だにいない。ただ……その犯行現場の近くで目撃されたのが」
「『ヒト』ではない異形の存在だった……でしょ? あんまり気持ちの良い話題じゃないわね」
 食器を洗い終えたつぐみが話の輪に入ってくる。
「らしいな……実際見たことなんてないから良くは知らんが」
「むむ、まさしく『みすてりぃ』でござるなぁ」
「……あまり危険な事に首を突っ込まないで頂戴。貴方達にもし何かあったら私は……」
「大丈夫だよお母さん。僕達はそんな事しないから。ね、沙羅?」
「そうそう♪」
「なら良いのだけど……」
「ま、こんな暗い話は止めにして。そろそろ風呂が沸いた頃じゃないか?」
「そうだね……それじゃ誰から入る?」
「拙者とお兄ちゃんから♪」
「却下」


 暖かい風景。
 この風景を守りたくて。
 この風景にずっと溶け込んでいたくて。
 皆の笑顔を、見守りたくて。


「未確認生命体を討ち滅ぼすのよ」
 だからこそ翌日優から聞いた話は俺の心を大きくかしいだ。


「…………は?」
「倉成とつぐみも知っているでしょう? 最近発生している未確認生命体による事件を」
「それは、ね。でもそれと私達に何の関係が」
「ライプリヒが関与してる」
「…………!!」
 あぁ、何と愚かしい事か。
 アイツらは消えて今なお、俺達の平穏に陰を差すのか。
「私は『強要』しているわけじゃないの。できるなら『協力』してほしいって事で」
「嫌よ」
 即答。
「私は、私の周りが平穏無事ならそれで良いの。どこの誰かも分からないような人達の為に頑張れないわ」
「つぐみ……」
「武、貴方には出来るの? 見方によってはこれは『ライプリヒの尻拭いをしろ』って言われてるのと同義なのよ?」
 そう言われると何も言い返せなかった。
「そうね……言葉を取り繕うつもりはないわ。だからこそ、はっきりと言う……奴等による犠牲者を、これ以上増やしても良いの?」
「……っ」
 動揺が顔に浮かぶ。全く、ストレートな表現をするようになったな、コイツも。
「……でも。私は神様じゃ無い。倒すっていっても限度が……」
「分かっているわ。だから、遠出の場所は私達が戦う。倉成とつぐみは可能な範囲で良いわ。それこそ、自分達の平穏を守れる範囲で」
「……武」
「俺は構わないぜ」
 即答。
「確かに俺達は神様じゃない。全ての人間を救うなんて無理だ……でも、手の届く範囲で、大切なモノを守れるんなら、俺は構わない。むしろ、やらせてくれ」
「……倉成はそう言うと思ってたわ。桑古木、空」
 隣の部屋の扉が開き、涼権と空が顔を出した。
 涼権の手には黒いトランク。
「そこに武器が?」
「えぇ」
 はてさて【未確認生命体】を相手にするのだからどれだけ物々しいものかと思えば。
 トランクを見るに重火器の類が入っているようには思えない。涼権も軽そうに持ってるし、一体何が
「これが、私達の武器よ」
 優がトランクを開く。
 そこには。
「……………………」
 踵を返したつぐみの肩を掴んで何とか留まらせる。
 かくいう俺の表情も、困惑と怒りの入り混じった表情になっているのだろう、多分。
「……どういうつもりだ、優?」
 優が俺達に見せたもの、それは。
 ベルト。
 物々しい鋼鉄の代物でありながらしかし、殺傷能力は皆無に等しい物体だった。
 ただ普通と違うのは中心部、下腹の部分を覆うように変わった形状の窪みがついている程度で。
 やはりそれは単なる【ベルト】であった。
「こんな詰まらない玩具披露のための召集なんだったら、幾ら貴女相手でも本気で怒るわよ?」
 そういうつぐみの語調には一切の冗談っ気が無い。
 殺戮の宴が始まる、と俺が一瞬身構えた刹那。
「まぁ、論より証拠、百聞は一見に如かずってね。見せてあげるわ、この【玩具】の力をね」
 ベルトの一つを軽く持ち上げ、優はニタリと微笑わらった。




 毎日が空虚。
 あの日、彼女が逝ってしまった時から。
 俺はハイリスクを伴う行為に自ら首を突っ込んでいた。
 彼女と同じ場所に逝けるとは思っていない。
 ただ別に、この世界に留まる気もなかった。


 毎日が空虚。
 そんな俺を僅かばかりに満たしていた【仕事】も今回で最後になる。
 最後の理由。
 無関係な同居人が相手の魔手にかけられた。
 否。
 同居人ではなく【拾い犬】であったか。
 感情の起伏が少ない、従順な少女であった。
 露店はしばらくソイツに任せきりにしていた時期もあった。
 別に信頼してたわけじゃない。だがあの気弱な少女が自分を裏切るとは思わなか
 止めだ。
 これ以上、ここにいない人間について考えるだけ無駄だ。
 『ならば何故、君はあの子の事を未だ忘れられないんだ?』
 黙れ。
 『君は強がっているだけさ。本当の君は物凄く弱く、小さい』
 黙れ。
 『無力なんだよ、君は。だから足を失った。だから同居人も失った。そして彼女も』
 黙れ。
 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ
「うるっせぇんだよ、テメェッ!!」
 瞬間。
 俺の【仕事】のブツが光を放って―――




「……何故にこういった施設を保有しているのかは、あえて聞かないことにする」
 ありがとう、と微笑む優ははたして本当に笑っていたのだろうか。
 それはともかくとして。
 俺達が案内されたのは優の研究所―― の地下に設けられただだっ広い空間だった。
 見事に何も無い。
 首を回して見回すのも億劫なくらいに広い空間だ。
 目につくものと言えば、俺達の位置とは反対の方向に設けられた
「……ドア?」
 ……だと思う。遠目には良く分からない。
「さて、それじゃ始めましょうか……空」
『はい』
 拡張器を通して部屋中に響き渡る空の声。
 そしてそれに合わせるかのようにドア?が開いて……
「……おいおいおいおいおいおいおいおい!?」
 思わず叫びだした。
「……アナコンダッ! 優、貴女何を考えているの!?」
 そう、俺達の目の前に姿を現したもの。それは一匹の巨大な蛇― アナコンダ ― だった。
 しかも通常の倍はあろうかという超長の体の持ち主である。
 長い間狭い空間に捕らわれていたからだろうか。その瞳に宿る光には憤怒の激情しか感じ取れなかった。
「…… 今、世間を賑やかせている【未確認生命体】だけどね」
「優っ!?」
 アナコンダの殺意に満ちた視線を浴びながら、優はそっと語り出す。
「人間の兵器が通用しないのよねぇ。いえ、正確には効いているのだけど、すぐに再生してしまうの」
 ゆったりとした動作でベルトを腰に捲く。金属のはまる硬質的な音が空間に響き渡る。
「優っ!!」
「でも、私達はとある偶然から、彼等の一部を入手する事に成功した。そして研究を続けるうちに面白い事が分かったのよ」
「優っ!!!!!」
 俺の叫び声を合図にしたかのように、アナコンダがその巨体を躍らせる。外見からは予測もつかない程の機敏さでこちらに迫ってくる。
「―― 彼等の遺伝子には、キュレイが組み込まれていた」
「―― !!!」
 驚愕は一瞬だ。
 その次にはもうアナコンダがその殺意の轡を解放して――
「【ARMAMENTS】」


 衝撃は永遠に感じなかった。




 ―― この季節には、いつまで経ってもなかなか慣れない。
「…………」
 羽織ったコートの襟首を巻き込むように押さえつけ家路を急ぐ。義姉さんの頼み事とはいえなかなかハードな仕事で思わぬ時間を食ってしまった。
 早く昼食の準備をしないとアイツが怒――
「こんにちわ、先輩」
 あまりに突然の出来事に足が止まった。
 間違いない。間違えるはずがどうしてあろうか。
「……まさか、お前の方からやってくるとはな」
 この機会を逃すつもりはない。俺は奴との距離を静かに、だが確実に縮めて
「今日は『お願い』があって来たんですよ」
 微笑。
 氷の如き、微笑。
 それに俺は縛られ、身動きがとれなくなる。
 感じるのは絶対なる支配の力。抗えない、恐怖。
「……お前は……」
「何も言わず、受け取って下さい」
 俺の返答も待たぬまま、奴は俺に『それ』を持たせた。
「……これは……」
「それが……」
 突如として、光が輝く。
「……―― っ!!!!!!」
 その瞬間、怖気と吐き気が同時に俺を支配する。
 俺は……この光を知っている?
「いえ、先輩の知っているものとは異なります」
 そう言った奴の表情は、どこまでも穏やかで。
「ですがこの光の辿り着く先にこそ、先輩の知りたかったモノがありますよ」
 だからこそ、何処までもおぞましかった。
「……きっとね」
 そうして俺の意識は途絶えた。




「……一体……?」
 恐る恐る目を開くける。隣には、つぐみの顔。
 驚愕に目を見開いたつぐみの顔があった。
「―― !!?」
 次いで、鼻を突く異臭に俺は顔をしかめた。生臭い、この香り……
「―― これが」
 優が振り向く。その体には
「このベルトの【力】」
 紅の断末魔が張り付いていた。




 気がつけば『私』は血に濡れていた。
「ぁ……あぁ?」
 恐怖で声が出なくなるというのは知っていたが、まさかその逆があろうとは思ってもいなかった。
 『私』の手には光る鈍色の狂気。
 『私』の意識を刈り取って、『私』の体で悪事を働いた、狂気。
「ああ゙あぁぁ゙っあぁ゙ぁぁっあぁぁああ゙あ゙ぁぁっあぁああぁ゙っ!!!!?!?!?!」
 恐怖で壊れてしまいそうだった。
 あるいは、もうすでに壊れていたか。
 ―― ああ。
 狂気の求める【モノ】は実にシンプルな手段で手に入るモノだったのだ。
 分かれば、もう恐れる必要はない。
 だから、手にしよう?
 その大いなるヤミノチカラヲ――


 狂える内なる声に逆らえぬまま。
 『私』は血だまりに浮かぶ【モノ】を手にした。




「……優……」
 俺は目の前の光景がにわかには信じられなかった。
 LeMUでの凄絶なる経験をした俺でもっても、だ。
 それほどまでに眼前の状況は常軌を逸していた。
「何で貴女…………素手であの巨体を?」
 つぐみは直視していたのだろう。
 優が素手で大蛇を屠る様を・・・・・・・・・・・・
「素手じゃないわよ。それに、私自身の力じゃない」
 鮮血に―― アナコンダの返り血に濡れた白衣を脱ぎ捨てて、優は優雅に振り返る。
 その右腕には見慣れぬ手甲。
 手甲上部に扇状に広がる札。
 そしてベルトの窪みを埋めるかのように存在する、金属のカードケース。
「それは……」
「だから、言ってるでしょう? これが、このベルトの【力】」








 さぁさぁ、物語を始めよう。
 ここから始まるオトギバナシ。
 終焉に訪れしははてさて、希望か絶望か。
 陳腐な妄想を語るのは止めよう。




 世界は決して一つではないのだから。




 To be continued……



後書き

書きためてませんがそろそろ発表しないと夜道で後ろからグサーッて刺されそうなのであはははは。



嘘です。


書きためてないのは本当ですが、あんまり一本が長いと読む方も書く方もダレますのでω
次回も導入的な展開になりますです。だって肝心の主役がまだ何も知らない状況ですし(ぉ)
長くなる上に不定期投稿になりますが、根気強くお付き合い願えれば感激の極みです。



ではでは。

口ずさみソング『リプレイマシン(水樹奈々)』


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