メグルメグル、セカイのフシギ。
その断面を覗く事は不可能なのかもしれない。




少なくとも【常識】に縛られているようではいつまでたっても無限の迷宮からは逃れられはしない。







仮面ライダー武【Re:Changed】
                              終焉の鮪



Scene.2"Re:Action"






「……つまり、そのカードケースに【召還】の機能があると。そういうわけか?」
 あの後、俺達は再び優の研究室に戻ってきた。
 『実証』の次は『説明』と、つまりはそういう事らしい。
「えぇ。私達が偶然手に入れた【未確認生命体】の肉片……それを培養して更に遺伝子操作。それを特殊なカードに封じ込める」
「【時空間転移】っていう理論を応用したんだ。未知数の可能性を秘めた【キュレイ】だからこそ可能なんだがな……」
「それにより、本来ならこの研究所の地下に保管されてる【スラッシュバイザー】を召還者の元へ移送・実体化させるんです」
「スラッシュバイザー……」
「もう一度実証してみましょうか」
 優はそう言って立ち上がり、ベルトを腰に巻きつける。
「このベルトの窪みの部分があるでしょう? そこにコレを装填するだけ」
 白衣のポケットから先程使用した銀色の薄いカードケースを取り出す。
 鳳凰を模した表面の加工部の裏、透けて見える方に何やら鎧を象った絵柄の刻み込まれた一枚のカードが埋め込まれていた。
「これが【召還】の機能を持つカード、私達が創造した最初のカード【ARMAMENTS】」
「スラッシュバイザー程度の質量を瞬間的に移転できる最低レヴェルの大きさがこれなんだよ」
「……なぁ、聞いても良いか? このカードには未確認生命体の肉片が使用されてるんだよな? そんなの一体何所に……」
「カタチそのまま埋め込むようなナンセンスな真似するわけないでしょ? その絵柄を描いている線がそれよ」
「うおっ、マジかよ……」
「ただ単に見た目を配慮しただけじゃないわ。複雑に絡み合う遺伝子情報…… それを正しく機械が分析・発動させるために必要なコウイなわけ」
「ふ〜ん……」
「それじゃ、行くわよ」
 優の手が滑る様に動き、カードケースを窪みにスライドインさせる。
『【ARMAMENTS】』
 まさに一瞬の出来事だ。
 先程まで何も無かった空間に質量を持った金属の兵器 ―― スラッシュバイザーが顕現する。
 それと同時に優の体を淡い光が包みこむ。「生身の体をコーティングするオーラのようなもの」だと涼権からフォローが入る。
「どう? 簡単なものでしょ」
「あまりにすぎて・・・実感湧かない位にね」
「疑うんなら腕相撲でもしてみる? 如何につぐみがパーフェクトキュレイだからってキュレイ×2と互角以上に渡り合えるとは思わないのだけど」
 言いながら意地悪げな笑みを浮かべる優。つぐみの方も本心から発した訳でも無い、単なる揶揄に過ぎないような一言だったからだろう。
「……で? 私達の分のは何処にあるのかしら?」
 プイッとそっぽを向いてそんな風に呟いた。
「お2人のバイザーとカードをお持ちしました。事前に知っていただく事はまだありますからね」
 何時の間にやら、トランクを抱えながら空が背後で微笑んでいた。




 悪意がある/ないの問題ではない。
 今、この現実が真実か/夢幻か。
 それが問題であり、少なくともこの生温かさは今の状況が現実である事を否が応でも認識させる。
 異常事態に陥りながらもなお、頭の片隅でそんな事を冷静に考えている自分に少しだけ感謝した。
 それだけ目の前の状況は異様で、少なくとも自分には到底関係ない出来事だとばかり思い込んで
 男が倒れていた。
 血の海で倒れていた。
 俺の手には血の滴る
 血の滴る
 血の滴る
 血の滴る
 狂える白銀の、兇器。
「――――――――――― っ!!!!!!」
 叫び声は声にならない。


 ふと。
 足元に小さな衝撃。
 考える暇も無い。
 男の懐から転げ落ちたであろう『それ』は――――

 
 瞬間、俺の体を包み込み、意識を刈り取った。


 だが、俺はしかと見た。
 『それ』に刻まれた文字を。
 英語で刻まれたその文字は。




【Original One】




「【ARMAMENTS】に関しては今説明した通りなんだけど」
 優の手がバイザーの外側、手首の辺りに位置する出っ張りを開き上げる。
 扇子の様に、手首の位置から肘へ向けて展開されていく、透明に連なるカードガード。
 そこには数枚のカードがセットされていた。
「それ以外にもカードの種類は存在するわ。遺伝子操作によって秘められた【未確認生命体】のチカラを封じ込めたものが、ね。例えば、これ」
 優がバイザーから引き抜いたカードには【SLAST】の文字と空を裂く人間の豪腕が描かれていた。
「【SLAST】のカード…… 疾速の一撃によって対象を切り裂くチカラを持つ」
 優の左手がバイザーの内側、溝になっている部分にカードを滑らせる。
『【SLAST】』
「こんな風にね」
 空を凪いだ優の手は。
 そのまま対面に位置していた部屋の壁を抉り飛ばした。
「修理の方、後でよろしく御願いしますね」
 凄まじく爽やかな笑顔で、空は涼権に・・・そう告げた。




「…… また、いきなりですね」
 同じ大学の仲間を妙な実験に嵌めた『あの出来事』からまだ数日と経っていない4月の中日。
 私はまたこの人に呼び出された。
「御免なさいね。今の状況じゃ貴女に御願いするしかなかったから」
「…… 講義で居眠りしても単位をくれるようにしてくれるのを」
「却下します」
「あうぅ……」
 うぅ、進級早々4年生への道が危うくなってきた気がする私。
 でも。
「…… 3回までなら、見逃してあげるわ♪」
 その一言に誘われるように、私は彼女について行った。


「よく来てくれたね」
 白衣を着た初老の男性がそういって私を出迎えてくれた。
「私も一応、大学に通う勤勉な学生なんですけどね〜」
「居眠りを見逃してくれるよう頼む学生さんは勤勉とは思えないけどね〜」
「ぅぐっ……」
「はっはっはっ、元気なお嬢さんだ。気に入ったよ。君のような子なら安心して今回の実験依頼を任せられるというものだ」
「実験?」
「そういえば、詳しい話をまだ聞いてなかったわね…… 一体何をするつもりなの、お父さん?」
 この人、まだ何も聞いてなかったんだ……
 軽い頭痛を覚えながらも、私は男性の言葉に気を向ける。
「うむ、実は……『これ』の性能を試してもらいたくてな」
 取り出されたのは、2つのベルトとカードケース。
 昔良く見た特撮ヒーローに登場しそうなアイテムそのものが目の前に鎮座していた。
「これ、は……?」
「見てのとおり、ベルトだ。ただし特撮ではない、本物の破壊力を秘めたシロモノだがな」
「具体的には何をすれば?」
「これを装着して実験室で様々な身体能力実験に協力してもらいたい……なに、簡単な話だ。パンチ力やキック力がどれ程向上するかというのを測定したいのだ」
「どうして私達に頼んだの? お父さんの助手の方々にしてもらえば……」
「奴等を心底信用なぞできんよ。私にしたってそうだが、あそこに所属する連中なぞ皆信用できん。その点、私の娘であるお前と、そのお前が信頼する人なら何も問題はない」
「あははは、ありがとうございます」
 『信頼している』と言われて、私は少し調子にのってしまったのかもしれない。
 ひょいっとベルトを持ち上げると満面の笑顔を浮かべながら男性を振り返る。
「それで、実験室というのは―――」




 これが、光に包まれる前に覚えている、私の記憶の全てだった。




「こちらが、武さんとつぐみさんのベルトとカードケースになります。後、こちらにバイザーと現在装填されているカードもお持ちしました。どうぞ確認してみて下さい」
 最近観念したのか何なのか知らないが、ようやく空は俺達の事を名前で呼ぶようになった。
 つぐみに半殺しにされまくった苦い出来事にとうとう疲れ果てたのかもしれない。
 それはともかく。
 早速俺達は自分の分のベルトと【ARMAMENTS】の入ったカードケースをバッグに詰め込むと、次いでバイザーのカードガードを開きカードを確認する。
「【FLAME】【SWORD】【KICK】……へぇ、結構色々あるんだなぁ」
「【CROW】【SONIC】【FIST】……成程ね、大体の効力は読めたわ」
「実験、してみる?」
「アナコンダは御免だけどな」
 苦笑交じりにそう答えながら、俺とつぐみは空に連れられて先程の地下へと降りていった。


「…… そろそろ、教えてくれないか?」
 研究室に残された2人。
 涼権は春香菜が抉った壁の修復をしながら、そう問いかける。
「どうしてあの2人に頼んだのか。どうしてあの2人でなければならなかったのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…… その理由を」
「信頼しているから、じゃ駄目かしら?」
「…… 武は一般人だ。つぐみは、俺達以上に裏の世界を知っているかも知れないけど、今は幸せを掴む権利がある一般人だ。そんな2人を巻き込むくらいなら何で空を……」
空には頼めない理由があるのよ・・・・・・・・・・・・・・
「何……?」
「そういえばまだアンタには話してなかったわね…… このベルトの性能を……」
 勿体ぶるような前置きを挟んでから、春香菜はその口を開いた。




『【KICK】』
「だっらあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 中身を振りまきながら宙を舞うサンドバッグを眺めながら、俺は驚嘆のため息を吐いた。
「…… っとにまぁ、おっそろしいモンだなオイ……」
 格闘技のイロハも知らぬドシロウトの俺が放ったヤクザキックでも鎖でしっかと繋ぎ止められていたサンドバッグを軽々とぶち壊したのだ。
 なるほどこりゃ確かにそう易々と他の奴等には渡せないというものだろう。
『お2人を信頼しているからこそ、私達も安心してそれを預けられるんですよ』
 スピーカーを通して聞こえる空の声はあくまで和やかだった。
 ふと視線を向ければ、少し離れた位置ではつぐみがクレー発射口1m手前地点での高速回避運動を行っていた。
 カードの効果は使ってないように見える。純粋に【装着】した時の効果を試しているのだろう。
「………… ん?」
 ふと、何か物足りなさを感じて考えること1.7秒。すぐに答えは見つかった。
「…… 足りねぇんだよなぁ……」
 そんな俺の呟きに反応してか、つぐみが発射口から飛びのき俺の近くにやってくる。
「足りないって、何が?」
『もしかしてカードの枚数ですか? それでしたら申し訳ありません、こっちとしても今の段階では限界が……』
「あぁいや、そういうんじゃなくて…… 何か、味気ないなぁって」
「味気、無い?」
「あぁ。こう、何ていうかな…… 折角こういうもん用いるんだから掛け声みたいなもんは必要じゃないか?」
『か、掛け声、ですか……』
 空の『どうしたらいいのやら』といった風の声やつぐみの微妙な視線を余所に、俺はちょいとばかし下らない方面に頭を回してみることにした。
 と、その時。
 スピーカーから伝わる空の声が一変、緊張感を持ったものへと変貌した。
『っ!! 【未確認生命体】の生体反応を補足!! N880m・W1,900m地点に3つです!!』
「武!!」
「あぁ…… 空、俺達も向かって構わないな?」
『えっ…… ですが、まだ慣れきってはいないのでは……』
「近接戦闘だけなら私は何とかできるわ」
「俺は実戦派だからな」
『…… 分かりました。研究所の車庫にお2人の分のバイクをご用意させて頂きました…… 運転、できますよね?』
「安心しろ、免許なら持ってる…… 17年前のだが」
「無免許だけど強奪して乗りなれてるから平気よ」
『…… 手回しはしておきますので、どうか事故だけは起こさないようにして下さいね』
 微妙に疲れきった空の声を背中に。俺達は地下室を後にした。


「涼権!! 優はどうした?」
「先に現場に急行した。俺が先導するから、2人ともついてきてくれ」
 そう言うと涼権はスロットルを回してバイクを温め始める。
「ヘルメットは?」
「緊急事態だから罷免される…… と言いたいけど武が果てしなく不安だからかぶってくれ」
「了解っ」
 適当に一つ掴んで被り、俺もスロットルを全開にする。
 つぐみも長い髪を後ろでまとめあげて準備万端だ。
「行くぞ!!」
 排気量何ccかも想像がつかないような大音量のエキゾーストノイズを響かせ、3つの鉄馬は発進した。


「…… まさにやりたい放題、って感じね……」
 武達に先行する事、時間にして約5分。
 早々に現場に到着した春香菜はその場の状況にため息をついた。
 辺りに充満する、鉄と油のむせ返るような匂い。
 運悪くはち合わせてしまったであろう、3台の乗用車から除く24本の腕に春香菜は下唇をかみ締める。
「…… 出てきなさい、化け物ども」
 春香菜の兆発に応えた ― のはどうかは分からないが ― 3体の異形が姿を現す。
 3体とも外面は微妙に違えどその顔に浮かぶ表情は ―――― まごう事無い、狂気に他ならなかった。
「貴方達は、この私が裁いてあげるわ……」
『【ARMAMENTS】』
「…… 弁護も控訴も通用しない、優美清春香菜裁判でね」




「今日、だったっけ? 彼等の初めて・・・・・・は」
「うん、そうだよ。もうそろそろ、来る筈」
「だよね…… それじゃ今までみたいに易々と彼女に倒されちゃったら困るわけだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうだね。だから、少し願わなくっちゃね」
「楽しみだね。一体彼等はどんな活躍をみせてくれるのかな?」
ワタシたちのお膳立てはもう済んでいるから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さぁ、見せてみてよキミの力を………… クラナリ、タケシ」




「くっ……!?」
 それは春香菜にとっては予想外の事態であった。
 【未確認生命体】の今までの行動は動物的、野生の本能を剥き出しにして飛び掛ってくるものばかりだった。
 ゆえに少し頭を働かせれば撃破・捕獲は容易いものだったのだが……
(小癪にも連携プレイを見せるとはね…… 正直、侮りすぎた……)
 間髪入れずの連続波状攻撃にカードスラッシュもままならない、防戦一方の厳しい状況に追い込まれていた。
「っっっ!!!!」
 強烈な一撃に思わず防御の構えが砕かれる。
 それは一瞬だが、キュレイの超反応にとっては充分過ぎる隙だった。
 春香菜の目線の下、右腕を凶器と化した絶命の一撃が ―――


「だらっしゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 打ち込まれる寸前。
 生物の頭を跳ね飛ばすように、真紅の鉄馬が春香菜の視界に飛び込んできた。
「…… ったく、遅いわね! あんまり人を待たせるもんじゃないわよ!!」
「助けてもらってその言いぐさはないだろがっ! 一人で無茶しくさって、このバカ!!」
「…… 今は言い争ってる場合じゃないだろ優、武」
「さっさと倒して、今日のところは休みたいものね……」
 武が、
 涼権が、
 つぐみが、
 春香菜を中心に周囲に集まってくる。
「…… そうね。さっさと倒して、初勝利の祝杯でも上げましょうか!!」
「そういうこった…… んじゃつぐみ、涼権、行くぞ!!」
「ぇ…… 本気でやるつもりなの?」
「当然だ。正義のヒーローたるもの、これがなくっちゃ礼儀に欠ける」
「…… ま、悪くはないか。気持ちを引き締める意味を込めて、やろうぜ、つぐみ?」
「…… 今回だけにしたいものね」
 ぶつくさ言いながらベルトを腰に巻きつける3人。
 懐からカードケースを取り出し、眼前で構える。
 陽光を浴びて金属のケースが、装着者の勇気を称えるように煌く。
 転高く届けと言わんばかりに腕を振り上げ、滑り込ませるように、装填 ――― 。


『変身!!』


 魔を断つ光が、戦士達を包み込んだ。




 遂に動き始めたオトギバナシ。
 終へと向かって始まるオトギバナシ。
 無数に広がる点と点が結ばれるのは果たして何時か。
 それを考えるよりも今は目の前の出来事に意識を傾けよう。




 少なくとも【常識】に縛られているようでは無限の迷宮に入り込む事は出来ない。




 To be continued……



あとがき

テンションが上がれば一気に書けるのですが、そんな事滅多に無い上に時間が微妙に無かったりするマイ人生。
それでもこうして書き上げられるヨロコビを称えまくりです。
美綾さんの「全想」やりおさんの「エタセブ」並に終わりが見えてきませんが、まったりまったり行くのでヨロシクお願いしますです。
ではでは。


口ずさみソング『リライト(ASIAN KONG-FU GENERATION)』


TOP / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送